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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
4章 水都のEランク冒険者
77/163

75話 貴族からの追及

本日2回目です

「「お疲れ」」


ビールのジョッキで乾杯して飲み始める。リマもクオンもあれからは普通に飲むようになったみたいだ。ただ家以外は俺か『戦乙女』がいる時だけらしい。


「いやあ、ギルマスからだったけどギンにお願いして良かったよ」


今回の依頼についてお礼を言ってくるリマだが、こっちも少し聞きたい。


「今回の依頼はギルマスが達成って言ってたけど、リマにもポイント入るんだよな?」

「うん、今回1ポイント入ったね。これが溜まるとどんどん給金が増えていくよ。大体1年普通に仕事してて1~2ポイントだから、こういう依頼はみんな担当になりたがるよ。今回はギルマス経由でギンと仲の良い私が担当になったからギン様に足を向けて寝られないよ」


ビールを飲みながら冗談を言ってくる。・・・・冗談だよな?


「ちなみに1ポイントでどれぐらい給増えるんだ?」

「う~ん。まだ貰ってないけど、5ポイントで今の給金の倍になるとは教えられたよ」


・・・おお、結構でかいな。そりゃあ取り合いになるわ。





「リマとか言う職員を出せ!」


リマと2人でポイントについて話していると、ギルド内に怒鳴り声が響いた。聞こえたリマは体が跳ねる。声がした方に目をやると、例の伯爵家のボンボンだった。かなりマズい感じがするのでまだ酒やつまみが残っているが、席を立ちリマと出口に向かう。


「いえ、リマは本日の業務は終了して帰宅しましたが」

「だったらそいつの家を教えろ!今すぐだ!」


貴族の怒鳴り声が聞こえたリマがビクリとなり立ち止まる。家まで来られる可能性があると流石に恐怖を感じるんだろう。俺もこんな奴に家まで来られたら嫌だ。


「ミネラル様がお探しのリマという職員はあちらにいますが」

「おお、カラミティか、よく教えてくれた!それで・・・あの娘か」


デブ貴族の近くにいたカラミティが余計な事を言うからリマに注目が集まったじゃねえか。注目されたリマは戸惑ってキョロキョロしている。デブ貴族はこちらにずんずん歩いてくる。


ドン!


デブ貴族が近づいてくるとリマの隣に立つ俺に視線を送る事もせずに押し退けてリマの前に立つ。かなりムカつく。が、お付の兵士からごめんなさいのジェスチャーをされるから、許してやろう。


「私はアクアフォース伯爵家嫡男、ミネラル・アクアフォース。確認だが、お前の名は?」

「リマと申します」


リマは膝をつき頭を下げて震える声で答える。この震えが貴族によるのか男によるのか分からない。リマの答えを聞いたデブ貴族はいやらしい笑顔を浮かべる。


「リマと言ったな。お前『首渡し』の正体が誰か知っているな?・・・おっと、嘘は言わない方が身のためだぞ。この書き損じた報告書を見ろ!この報告書には我が家の宝剣をギルドが購入した事が書かれている。そしてこれの正式な報告書はババアが書いた物のはずなんだが、何故こっちの書き損じた方は作成者にお前の名前が書いてある?ババアが報告書を書くなんて下っ端の仕事をしている時点でおかしいと思っていたのだ!お前の名前が隠されていると言う事は、お前『首渡し』が売りに来た時にその場にいたな!」


デブ貴族に怒鳴りつけられて、リマは下を向いて体を震わせている。


「顔をあげろ。そして正直に『首渡し』が誰かを教えろ」


震えていたリマだったが大きく深呼吸をして顔を上げる。少し涙目になっているが、


「申し訳ございません。ギルド職員の契約で例え貴族様のご命令でも機密事項に該当する事はお答えする事は出来ません」


きっぱりと言い放った。・・・俺の存在って機密事項なのか?いや、多分そう言う事じゃないんだろう。


「・・・な!・・・何だと!馬鹿にしおって!・・・うん?貴様中々良いじゃないか」


リマがきっぱり断ると怒りで暴れ出しそうなデブ貴族だが、リマの顔をマジマジと見ると再びいやらしい笑顔を浮かべ、リマのかなり強調している一部を舐めまわす様に眺める。それを見たリマは恐怖を感じたんだろう、俯いて体を震わせる。


「ハハハハハ、そうか、そうか、私に話はしたくないか、それなら今日ベッドで話したくなるようにしてやろう。最近はカラミティばっかりでな。あいつもなかなかいいんじゃが胸がもの足りなくてな。お前なら十分満足させてくれそうだ」


その言葉に更に体の震えが大きくなるリマ。カラミティを見ると怒りなのか顔を真っ赤にしている。っていうかカラミティの奴このデブとヤッてるのかよ。趣味悪いな。いや、姫プレイしているあいつがこのデブに素直に抱かれる理由はないだろうから色々悪だくみでも考えているんだろう。


「よし、よし。後はベッドの上で聞く事にしよう」


そう言って、笑顔で腕を伸ばすデブ貴族。


ガシッ!


だが、残念。さすがにこんな状態のリマに触らせる訳にはいかない。リマに伸びたデブ貴族の手を摑まえる。


「はあ?何だ、お前は?」


デブ貴族はいやらしい笑顔から一転、俺が腕を掴むと不機嫌そうな顔で文句を言ってくる。俺もお前なんか本当は触りたくねえよ。なんか汗ばんでて気持ち悪いんだけどこいつ。


「俺の方が何の用だ?って聞きたいんだけど?」

「お前に用はない。私は今からこの女に色々聞かなきゃならん、邪魔するな」

「だから俺に用があるんだろ?」

「・・・お前何を言っている?頭おかしいのか?お前に用なんぞないわ」

「お前がさっきから『首渡し』教えろって言ってるじゃねえか。俺がその『首渡し』だよ」



・・・・・・・



「・・・ホントか?」


デブ貴族はリマに視線を送るがリマは何も反応しない。


「リマ!いいぞ!」


困っているリマに後押ししてやるが、


「・・・で、でも・・・」


それでも躊躇ってる。


「いいから、どうせほぼバレかけてるから気にすんな。本人が言って良いって言ってんだから契約も何もないだろ」


そう、ほぼバレかけているから、もうここでバレた所で気にしない。これで俺の事が火の国にバレたら都から離れないといけなくなるけど、その時はその時だ。それよりも今はリマがこのデブ貴族に無理やり連れて行かれるのを止める方が大事だ。リマを見てしっかりと頷く。


「・・・・・はい、彼が『首渡し』です」


リマは納得したのか大きく息を吸った後、そう答えた。


「そうか、お前が『首渡し』か。ククク、ようやく見つけたぞ」


俺からバラしたのに何故か自分の手柄のように笑い汚い笑顔を見せ、俺に向きなおる。まあ、こいつが何を言いたいか大体想像できる。取り合えずデブ貴族の興味が無くなったリマに手を振ってこの場から立ち去らせる。すぐにクオンが近づいてきたので、二人に手を振って家に帰れと合図しておいた。


「貴様が壊滅させた野盗の宝の中に我が家から盗まれた宝剣があった。あれは我が家の宝だ。早く返せ!」


・・・思った通りだな。でも俺に言われても困るんだよな


「そりゃ無理だ、あれはもうギルドに売ったから俺の物じゃなくてギルドのもんだ。もう俺にはどうこうできない」

「それならすぐにでも買い戻せ!」

「何でだよ。俺は別に欲しくねえから、欲しけりゃ自分で買えよ」

「元々我が伯爵家の物に金を払うのはおかしいだろ!貴様がギルドに売らずに私の所に持ってくれば私がこんなに苦労する事もなかったのだ!」


何で俺がわざわざそんな事しなくちゃならないんだよ、面倒くさい。やっぱり、こいつはどうしても自分で金を出したくないみたいだ。だけど、俺も出すつもりはない、全部こいつの言いがかりだ。


「そんな事言われても知らねえよ。大体盗まれたんなら、自分で取り返せば良かったじゃねえか。いや、そもそも宝剣を盗まれなきゃこの話自体無いよな?」

「む、ぐ・・・うるさい!大体一人で取り戻してきたという話自体がおかしい!さては貴様野盗の仲間だな!野盗を壊滅させたとか噓をついて、自分の物にしてから売った後、その金を山分けって所だろ!お前たちこいつを捕まえろ!」


デブ貴族は俺が野盗の仲間と決めつけて命令するが、取り巻きの兵士達が面倒くさそうに武器を構える。あんまりこいつへの忠誠心はないみたいだ。ただ、武器を構えたからには容赦はしない。


俺は無言で武器を抜いて、取り巻きの兵士の様子を伺う。何人か腰が引けてるしあんまり強くはなさそうだ。これなら何とかなるだろう。


「き、貴様!貴族に刃を向けるか!」


俺が武器を構えると、デブ貴族がまたまた騒ぎ出す。・・・うん?向けちゃ駄目なのか?そっちが先に武器を抜いたんだよな?


「待ちな!何の騒ぎだい!」


武器を構えて一触即発の俺らに向かって怒鳴り声が響く。声で婆さんだと分かるが、目の前の兵士からは視線を外さない。


「また、あんたかい。今度は何だい?何でギンとこんな状況になっているんだい?」


デブ貴族は、俺が野盗の仲間だと決めつけ婆さんに話をしているが結局はタダで剣を返せって事だ。


「はあ~。呆れたねえ~。それでギンを捕まえようとしてたのかい。出来るならやってみればいいさ。もうバレてるみたいだから、一応言っとくけど、ギンは『首渡し』なだけあって強いからね。あんた殺されるよ」


そこまで強いとは思ってないが、多分こいつとやる気のない取り巻きの兵士ならDランクなら誰でも一人で相手できるだろう。


「ハハハハハ、平民が貴族に手を出せる訳ないだろう」

「あんた自分の爺さんの事忘れたのかい?」

「う、ぐ・・・あれは」


なんだ?このデブ貴族の爺さん平民に殺されたのか?何か言い辛そうに苦々しい顔をしているから、多分殺されたかケガさせられたかって所だろう。


「はあ、こう毎日来られて嫌がらせもいい加減うんざりしてきたからね。特別に大金貨8枚にまけてあげるよ。ただし、この件はこれでおしまい、以後誰にも迷惑かけない事を約束してもらうけどね。今日中に決めな。あんたの家の敵対派閥がこの剣に興味があるみたいでね。明日まで売れ残ったら売っちまうからね」

「ぐぬぬ、分かった!大金貨8枚で買う。それでいいな」

「毎度、あとはこの契約書にサインを!」


既に契約書を書いていてサインを要求している事から、元々婆さんはこういう落とし所にするつもりだったんだろう。なんか俺は正体バラして損したか?いや、リマが助けられたから良しとしよう。





「はあ~。ホントあの家は先代が死んでから駄目になっちまったねえ。それよりもギン!あんた、本気でやるつもりだったろ?」


貴族がギルドから出ていくとギルマスは大きなため息を吐き、俺に質問してきた。


「ん?ああ?リマを怖がらせたり、向こうが先に武器抜いたからな。デブ貴族の腕の1本はもらうつもりだったけど。心配しなくても取り巻きの兵士はやる気なさそうだったから負ける事はなかったと思うぞ」


俺が正直に答えると驚いた顔をした後に呆れた様子で首を振る。駄目なのか?


「あんた、そんな事したら賞金首になってたよ。あの馬鹿はすぐに忘れたけどね、貴族に平民が武器を向けただけでも重罪なんだよ。ドアールだと貴族があんまりいないから知らないのも仕方ないけど、今度から気をつけな」


そうすると俺はあの時一方的にやられないといけなくなるじゃん。そんな馬鹿な話があるか、今度同じ状況になっても戦ってやろう。


「そっちはもう大丈夫だろうけど、こっちはどうするんだい?リマを庇ってくれたから何とかしたいが、私でももう黙らせる事は無理だねえ」


さっきからずっと静まり返っているギルド内には俺と婆さんの会話しか聞こえない。みんな黙って俺に注目している。


「これでリマがあの貴族に狙われなくなったんなら構わないさ。ただ一応リマを気にしておいてくれよ」

「分かっているさ。クオンとシフトは同じにして、早い時間に帰れるようにしとくよ。それじゃあ、私はやる事が出来たからここで席を外させてもらうよ。リマを助けてくれたから困った事があれば何でも相談においで」


そう言って婆さんはどこかに行ってしまった。


・・・さて、この静まり返った空気をどうしよう。リマ達も心配しているだろうから話をしにいかないといけないし、ダルクさんにもバレた事を報告しに行かなくちゃならないからここは放置でいいか。


「アニキ、今の話本当なんですか?アニキが『首渡し』って・・・」


そう思ってもこのまま放置して行かせてもらえる訳も無くトマス達が近づいてきて話しかけてくる。


「ああ、そうだ。目立ちたくないから黙っていたけどな」

「目立ちたくないって・・・お前、前から目立ちまくってるじゃねえか」


ゴドル達も近寄ってきて話に加わる。目立たないようにしてたつもりだから、言うほど目立っては無いはずだけどな。


「いや、いや、そんな分かってないような顔しても目立ってたからね」


トア達も近寄ってきて、ゴドルと同じ事を言う。どうやら俺は目立っていたらしい。自覚はあんまりない。


「いや、そんな事より『首渡し』だよ。ギルマスもああ言うって事はホントにギンが『首渡し』なんだろう。ただ、ギンが『首渡し』じゃないかなんて噂もあったみたいだから、結局はバレるのも時間の問題だったかもな」


やっぱり、時間の問題だったか・・・そう思うと、ここでバラしたのはいいタイミングだったのかもしれない。


「私は『首渡し』は勇者様説を押していたんだけどね」


ジェミーが残念そうに言うが、その説は俺も一応勇者なので、ある意味合っているとも言える。しかし勇者か・・・この国にもいるはずだから一度会いに行こうと思ったが、誰が勇者か分かんないから『探索』で見つけられない。そんな中、でかい城を探し回って見つけるのは難しいだろう。仮に勇者を見つけたとして、知らない奴だと困るなと考えて結局会いに行った事はなかった。


皆、俺が『首渡し』だと知っても普段と変わらない感じで話しかけてくるので少しホッとしている。特にトマス達は怖がって話かけてくれなくなったらどうしようとか思っていたが杞憂だったようで良かった。そうして他の冒険者が遠くから様子を伺っている中、みんなから色々聞かれていると、


「すまない。少し通してくれないか」


そんな声が聞こえてきたと思ったら、美人な冒険者の腰に腕を回してこちらにやってくるイケメン集団。少し通せって言うならその両手に抱えた美女から手を離せと言いたい。


「すまない。話を聞かせてもらったが、キミが噂の『首渡し』なのかい?ああ、僕たちはクラン『大海龍』のリーダー『深海』で、僕が『深海』パーティリーダーのチャーチと言う」


爽やかな笑顔で聞いてくるが、その目は笑ってなく、俺の装備なんかをジロジロ見て値踏みしているように感じた。


「ああ、何故か『首渡し』なんて変な渾名を付けられている、Dランクのギンだ。ソロで動いてたまに臨時のパーティーで依頼を受けたりしている」


女二人の腰に手を回しながらもきちんと名乗られたので、こちらもしっかり名乗っておく。


「そうかい。君が本当に『首渡し』だってんなら特別に僕たちのクランに入れてあげるよ。僕たちが男をスカウトする事は滅多にないから光栄に思いたまえ」


・・・こいつ何様なんだろう。何で上から目線なんだ?


「本来なら男は簡単に入れないからね。ウチのクランへ入るのに特別に白金貨3枚にまけてあげるよ」


・・・ホント何言ってんだこいつ。入会金に白金貨3枚って普通誰も入らないぞ。まあ、チャーチって奴は笑顔でいい演技しているが、取り巻きの女達がニヤニヤしているから俺から金を巻き上げようとしている事がバレバレだ。


「白金貨3枚は高すぎだろ。」

「何言ってるんだい、本当は白金貨5枚の所を特別に3枚にしてあげてるんだよ。さあ、早く出したまえ」

「いや、俺はソロで気ままにやっていくからクランに入るつもりはない」


まだ、少ししか話していないが、こいつと話すのが嫌になってきたので、明確に俺の考えを伝えクランへの加入を断る。そもそもCにならないと入れないはずだよな?


「クランに入ると、クラン戦に参加できるから大型の魔物の素材が手に入って稼ぎがかなりよくなるんだ。僕らのクランに入れば当然参加できるから、考え直した方がいい。あと、僕らのクランは結構可愛い子が多いからね。モテなさそうな君でも僕らのクランに入ると、この子達と仲良くなれるよ」


モテなさそうってのは余計だ。クソ。そう言えばこいつらのクランって確かクランメンバーに手を出すの禁止ってルールがあるんじゃなかったか?でもリーダーパーティのこいつらは手を出しまくっているハーレムクランだったよな。しかも俺から金を巻き上げようとしている所から、クラン戦に参加しても良い所の素材は全部持っていかれそうだ。


「いや、クラン戦に参加しなくても金には困ってないからな。さっきも言ったけどクランに入るつもりはない」

「・・・む・・・い、いいのかい?あとで加入させてくれって言ってきても次は白金貨5枚でも入れないよ?」

「誰がそんな金払って入るか、逆に白金貨5枚貰っても入りたくねえわ」

「な!・・・フン!折角こっちから誘ってやったのに、まあ金は持っててもキミに集まってくるのはその程度の女だけみたいだから、後から僕らの誘いを断った事を後悔する事になるさ」


トア達を見ながら失礼な事を言い出す。こいつ殴ってやろうか?でもそうするとトア達がその程度の女って認めてるような気がするから我慢する。あとこいつらのクランに入れなくて、後悔する事は絶対にないだろう。


「チャーチ、話終わった?こんなのもうどうだっていいでしょ。今日は私の番だから早く家に帰りましょ」

「そうそう、こんな奴いれなくても私達が稼いでくるから心配しないで」

「こんな冴えないのがウチのクランに入ってこなくて逆に良かった」


取り巻きの女達がヒドイ。俺も自分の容姿がチャーチより数段劣っている事は分かっているけど、こうやって面と向かって言われると流石に凹むぞ。あと、このクランは思った通り、クランリーダーの『深海』に色々貢いでいるみたいだ。


ギュッ!


取り巻きの言葉に少し凹んでいると、誰かが腕を組んできた。組まれたが柔らかい感触はなく固い感触しか伝わってこないのは、組んできた相手が鎧を装備しているから当たり前だ。相手は全身を鎧で覆っているが兜だけは装備してなく、きれいなピンクの髪が腰の辺りまで伸びている。反対を向くと緑髪のショートカット美人に腕を組まれている。


「セシル、ティナ。お前ら兜・・・」


普段は絶対兜を脱がない姉妹に驚きつつも注意をするが、こっちを見上げてニヤけながら、


「ギン、話は終わった?じゃあ、そろそろ行きましょうか」


2人が兜を脱いでいるのに驚いている俺は、どこに?とは答えられずにいると、セシルとティナが俺の手を引いて出口に向かうが、チャーチから声を掛けられる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!君たちは一体・・・ああ、新しく移籍してきたのかな。それなら僕たちが色々教えてあげるよ」


チャーチ含む『深海』メンバーがセシルとティナ二人を舐めるように見ている。この目つきはさっきのデブ貴族と一緒で何を考えているかバレバレだ。


「私達は『その程度の女』なんでしょ?結構よ!ギン、行きましょ。こいつの話はもう聞きたくないわ。」


セシルがそう言い捨てるとまだ何か話しているチャーチを無視して俺は姉妹に引っ張られていった。



◇◇◇

「ギン、ごめんね。私のせいでバレちゃった」


リマが申し訳なさそうに謝ってくる。あの後、『戦乙女』に連れられて外に出た後、リマが心配してるだろうから家に行くと言うと何故か『戦乙女』は全員ついてきた。ゴドルやトマスも行きたがっていたが、トア達に何やら呟かれるとおとなしく引き下がって帰っていった。


「まあ、ほぼバレかけてたみたいだから、気にするな」


気にしないように言うが、リマの表情は暗いままだ。トアに助けを求めて顔を向けるが首を振られたので、手詰まりになった。考えてもリマが元気になるいい方法が思い浮かばない。


「ほら、何暗い顔してるの?お肉焼けたよ」


困っているとクオンが料理を手に持ってきた。何か自分で料理をしたような言い方だが、ジェミーとリズが作った物を運んできただけだ。セシルとティナは体を洗いに行っている。一日中鎧を着ていると今みたいな寒い時期はいいが、暑い時期は色々気持ち悪い為、家に帰るとすぐに汗を流す習慣になっているらしい。って事で今日二人はここに泊まるつもりのようだ。




「う~ん。美味しい!やっぱりジェネラル肉は美味しい!でもいいの?リマもギンも食べなくて?」

「ああ、俺らはギルドで食ったからな。俺は酒と軽いつまみでいい」

「そうなの?わざわざジェネラル肉提供してもらったのに悪いね。あと『ガフの秘蔵酒』まで出してくれるなんて、どうしたの?」


ジェネラル肉とワインを堪能してご機嫌なクオンが聞いてくる。色々考えたが美味しいもの食って酒飲めば落ち込んだ気分も吹き飛ぶだろうと思い、肉と酒を提供したのだが、当の本人が肉は遠慮したので、俺が肉を提供した意味がなかった。まあ、酒はチビチビ飲んでるからいいだろう。


「ほら、リマが勝手に落ち込んでるからな、美味い物食って酒飲めば気分も晴れるだろうと思ってな」

「もう、何よその言い方。私これでも責任を感じてるんだから」


俺の言い方が気に入らないのか不貞腐れた顔でリマが文句を言ってくる。


「だから気にすんなって。いいから飲め飲め」


師匠達がよくやってくれたように、俺も笑いながらリマの背中をバシバシ叩くが酒が零れてすごい迷惑そうな顔をしてる。おかしいな、背中を叩く力加減間違えたか?


「分かったよ、もう気にしないよ。本人が何も気にしてないのに私だけ悩んでいるのも馬鹿みたいだしね」


そう言ってグラスに入ったワインを一口で飲み干す。


「それで何で『大海龍』にまで絡まれてるの?セシルとティナがギルドで兜脱いだってのも本当なの?」


飲み干すと、その後の出来事について質問してくる。リマとクオンは俺が『首渡し』ってバラした後は家に帰ったからチャーチ達とのやり取りについては知らないから、俺とトアでその後の出来事についてリマとクオンに説明する。


「そっか~。『深海』は最近依頼も受けずに貴族へ顔を売ってばっかりだから、資金がカツカツになってきたのかな~」


説明すると、クオンが面白い事を教えてくれた。だからあの時俺に白金貨3枚要求してきたんだな。あのままクランに加入してたら有り金全部取られて、馬車馬の如く働かされた可能性が高いな。


「何で貴族に顔売ってるんだ?顔が知られると良い事でもあるのか?」


貴族には関わるなってのが平民共通の認識だと思ったけど・・・


「そりゃあ、『姫』に先を越されたくないからだろ。『姫』は今日来た貴族の派閥に近づいて今の子爵から伯爵待遇にあげて貰えるように動いているからね。そうなると子爵待遇の『深海』は同じランクだけど、『姫』に一歩リードされる事になるから対抗してるんだろうさ。確か『深海』は今日来た貴族の敵対派閥に近づいてるらしいよ」


トアが詳しい実情について教えてくれたが想像以上に面倒くさい内容だった。


うわあ、面倒くせえ。俺はあいつらの訳の分からん意地の張り合いに巻き込まれそうになったのか。よし、今後はなるべくあいつらに関わらないようにしておこう。


「セシルとティナも良かったの?顔出したから明日から騒がしくなるよ?」

「ああ、明日からはまた兜を外さないから1週間もしたら何も言われなくなるでしょ。それよりもウチのパーティとギンの事馬鹿にしたあいつらの顔二人にも見せてあげたかったわ。あの慌てて声を掛けてきた時の顔。傑作だったわ、アハハハ」


セシルってもしかして性格悪いのか。あの時のチャーチ達の慌てた顔でも思い出したのかケラケラ笑うセシルを見て、そう思ったが、


「おねえは、性格が悪い」


ボソリとティナが呟いたのを聞き逃さなかった。っていうかティナの声初めて聞いたぞ。この姉妹基本兜を被っている時は声を出さないし、兜を外すと姉のセシルがティナの分まで答えてくれるので、ティナが言葉を発するのはかなりレアだ。




ティナの声を聞くというレア体験をしたがあんまり遅くなると、この後のダルクさんへの報告が出来なくなるので、俺だけ先に帰らせてもらいダルクさんに報告に行ったが、ダルクさんは気にした様子はなかった。逆に「これでどこから仕入れたか堂々と話す事が出来ますよ」と言って笑っていた。仕入先については聞かれても答えないのが普通だが、商品をあまりにも安く売っていたので、色々探られて大変だったらしい。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公、魅力的だけど考え方とか行動とか……中途半端なんだよなぁ。どんどん整合性取れなくなってる所を作者マジックで無理やり調整している感が否めない。
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