74話 オークの巣
「あれ?今回のリーダーってドミルなのか?」
あれから1度依頼をこなしてから、討伐隊の集合場所に向かうとドミルがいた。
「ああ、そうじゃ、Eランクが案内役って聞いてBランクは誰も受けたがらなかったが、案内役がギンなら信用できるからな、パーティメンバーの反対を押し切ってやったわい。ガハハハッ」
メンバー反対してるのに大丈夫なのかな?豪快に笑うドミルにそんな疑問が浮かんだ。
「ちょっと、まだ出発できないの?早くしてよ!」
言われてそちらを振りむくと、かなりモテるだろう見た目の美女が文句を言っている。ギワンから「あれは『紅の水』ってCランクパーティで、『大海龍』所属じゃ」と教えられた。あのハーレムクランのメンバーか、みんな可愛いけどこっちを何か見下したような目で見ているのが気になる。
「ハハハハハ、私達が最後か?待たせて申し訳ない。『姫』の機嫌を直すのに時間がかかってしまった」
俺より後に現れた、全員サラサラした髪のイケメン軍団。言い訳でカラミティの所の奴等だと分かる。後から聞いたが『水龍姫・守護5』と言うらしい。5っていうくらいだから1~4もあるんだろう、ホントあいつ姫プレイしてんな。チラリとドミルを見ると、何も言うなって顔をしてから、集まったメンバーに声を掛けて出発した。
「ギン、この依頼少なくないかい?普通は後2つぐらいDランクパーティがいると思うんだけど」
隣を歩くトアが聞いてくる。・・・そう、今回この依頼『戦乙女』も参加している。一度オーク討伐依頼を失敗したからか、オークを積極的に狩っているようで、今では『オーク殺しの戦乙女』なんて渾名がつけられている。その渾名も俺が教えた師匠の裏技使ってオークを安全に狩れているからだと感謝された。まあ裏技って言っても若い女の尿をかけた布を木に吊るしておくだけだ。そうすると臭いに釣られたオークがおびき出されてそれに夢中になるので、その間に倒すだけだ。簡単に真似は出来る、出来るけどやるかどうかはトア達女だけのパーティならともかく男女混成パーティでは意見が分かれるだろう。師匠達はやっていたらしいけど。
「まあ、ドミルもいるから大丈夫だろ!」
不安そうなトアに気楽に答えるが、結局Dランク3つも各クランから集まったから移動中の空気は最悪だ。正直移動だけで精神がゴリゴリ削られている。今回討伐隊のリーダーのドミルも場を良くしようと各クランに声をかけているが、塩対応であしらわれている。
「どうすんだよ!このままじゃ誰かやられるぞ!」
村についてからも親交を深める為に食事をするわけでもなく、明日7の鐘集合とした、ドミルに飯を食べながら文句を言う。
「まあ、分かっていた事じゃ。明日は各派閥で行動させる。これが一番被害が少ないじゃろう」
俺の抗議に疲れた顔で答えるドミル。こいつも色々気を使っていたのに問い詰める事をして悪かった。そう思いそれ以上は何も言わなかった。
「よし、今日はこのままオークの巣を潰す。ギンの話だとここから鐘4つ程歩いた所だそうだ。最初の攻撃は息を合わせる。今回は恐らくキングがおるから危険を感じたらすぐに下がる事!」
朝方集まった討伐隊を前にリーダーのドミルが作戦と言えるか良く分からない言葉を言ってから出発する。
「止まれ!大声を出すなよ」
これ以上近づくと臭いでバレると考えられる場所で一度全員を止めてドミルが最終確認をする。
「よし、これから儂の合図で巣まで走って近づいて周囲のオークにナイフを投げる。まずは外にいる奴等と出てきた奴等を各自で叩く。ある程度倒した後、儂が合図したら巣の中に入っていく。そこからは各パーティに任せるが、ジェネラルとキングがいるって事は頭にいれておくのじゃぞ」
ドミルが全員に注意しているが、実際は他のクランメンバーにだろう。今回リーダーが『ガーデン』なのでキング討伐の手柄は『水龍姫』か『大海龍』に譲らないといけないらしい。今回は派閥関係なく募集したはずなのに何となくいつものように各派閥が参加してきた。それでも手柄を色々考えないといけないとはやっぱり派閥って面倒くさいな。『尾無し』の時は全員派閥とか関係なく向かっていったけど、こんな調子で大丈夫か不安になってくる。
そうしてドミルが腕を振り下ろした所で作戦が始まった。まずは全員で巣の所まで走っていく。物音なんか気にせず全員ガンガン進んでいくから草ズレの音が響く
「ブオオオオ!」
向こうに聞こえるのは当然予想通り、見張りのオークが警戒の声をあげるのを構わず突き進み、オークの巣を取り囲むようにしてナイフを投げつける。見張りのオークに中々良い所に当たったナイフもあったが、絶命させる程ではなく攻撃を受けた見張りが更に騒ぎ出す。
そうしてCランクパーティとその派閥パーティが見張りを斬りながら何故か洞窟に飛び込んで行った。
・・・・作戦が違う!
作戦通り外に残ったのはドミルの『大戦槌』パーティと『戦乙女』しかいない。作戦が最初から違うのでトア達は不安そうな顔でドミルを見ている。そのドミルも苦々しい顔をして、「だから、他のクランと組むのは嫌なんじゃ」等ブツブツ文句を言っている。だが、外にいる敵が叫び声を聞いたのかどんどん戻って来るので文句を言っている場合じゃない。
「トア、左から2匹戻って来る!ドミル正面5匹だ!その後右に2匹くるから注意!」
流石にこの状況で案内だけで終わりって訳にもいかないので、『探索』で戻って来るオークの数と方向を伝えていく。Bランクのドミル達は俺の指示にサクサク討伐していく、『戦乙女』達も手慣れた様子でオークを討伐していく。俺は指示するだけなのでかなり楽だ。
指示を出しながら戻って来るオークをある程度一掃して全員で一息入れた所で、ふと、巣に入っていった連中を確認する。
・・・・・12?
「おい!ドミル!中に入っていったのは何人だ!」
座って水を口にして寛いでいるドミルに慌てて尋ねる。正確な数は覚えていないが明らかに生き残っている数が少ない。
「なんじゃ?Cがどちらも5人組、Dが6人だったはずじゃが?」
疲れたのか面倒くさそうに答えてくるドミルだが、『探索』ではかなりヤバい事が分かる。中に入った連中が凄い勢いでこっちに戻ってきている。
「おい!全員立て!中の奴等がやられてる!戦闘準備!今すぐだ!死ぬぞ!」
俺の声に誰も疑問に思わず持っていた水筒や食べ物を放り投げてみんな武器を構える。すぐに洞窟の奥から悲鳴や怒声、魔物の叫び声が聞こえてくる。
「全員!投げナイフ!仲間に当てるな!投げたら各自の判断で攻撃!トア!『戦乙女』の半分は逃げてきた奴等を戦闘に戻すようにフォローじゃ!ギン!悪いがお主も参加してくれ!」
ドミルが指示を出す。一瞬でここまで指示できるのは正直すごいなと感心してしまう。
戦闘には参加するつもりは無かったがドミルのお願いなら仕方ない。仲の良い『戦乙女』もいるからな。
ヒュン!ヒュ!・・・ドシュ!ドシュ!
「ブルルルル!ブオオオオオオオ!」
「ブオオオオ!」
逃げて来た奴等の後に続いて洞窟から飛び出してきたオークにナイフが突き刺さる。致命傷にはならず怒り出して叫び出すオーク達。ただその入り口に留まるのは格好の的だ。
ボシュ!バシュ!
俺は刺激袋を叫んでいるオークに投げつけ当たった事を確認すると、そいつらは無視して次は洞窟の中に向かって手持ちの刺激袋全て投げつける。嗅覚の鋭いオークならこれはきついだろう。姿は見えないが、洞窟の中からも苦しそうなオークの声が聞こえてくる。更に手持ちの油も洞窟の中に投げつけてから、ドミルの仲間の弓使いにお願いして火を放ってもらいオークを焼いていく。その間に逃げてきた奴等が態勢を立て直す時間を稼ぐ。
「えげつねえ」
「これ、オーク可哀そうじゃね」
俺の攻撃に非難の声が聞こえるが気にしない。魔物や野盗相手には手段を選んではいけない。如何に自分が怪我せず討伐出来るかの方が大事だ。こういう道具を使った戦法は師匠達から色々教えてもらったし、一人で野盗を何人も相手する時によく使うから今では俺の得意戦法の一つだ。
煙や刺激袋を吸って苦しそうに洞窟から出てきたオークをトア達がどんどん倒していく。みんな若干咳き込んだりしているが、嗅覚の敏感なオーク程ではないので、特に問題はない。問題は、
「じゃからどうした?何でここまでやられた!」
ドミルが逃げてきた奴等に状況を聞いているが一向に要領を得ないのでイラついている。が、何かに気付いた様で洞窟の入口に目を向けると、
「全員入り口から離れろ!命令じゃ!こっちに集まれ!」
いきなり慌てて大声を出すドミルにみんな驚きながらもすぐにドミルの所に集まってくる。俺は刺激袋と油を投げてからはドミルの近くにいたので特に問題は無い。『探索』ではこっちに向かってきているのがあと6匹で奥に10匹って所だ。
「チィ!」
ガギン!
隣に立つドミルが舌打ちしたと思ったら、かなり先の方で金属が打ち合う音がした。見るとかなり体格のいい筋肉ムキムキの青い色のオークが振り下ろした剣をドミルが自分のハンマーで受け止めていた。
「・・・あれが・・・キングなのか」
怯える口調でトアが口にする。他の面子もパッと見、震えているのでとんでもないのが出てきたってのは分かった。分かったがキング以外にも青い体のデカい胸を晒しているオーク、恐らくクイーンが1匹。他は全て斑模様のジェネラルだ。逃げてきた奴等がすぐに立て直さないとヤバい気がする。
「ドミル!こいつは俺が引き付けるからお前は他の奴等への指示とフォローをしろ!」
ドミルが相手している所に割り込み、仲間の立て直しをお願いする。取り合えずキングを俺が抑えればドミルがフリーになり各パーティへの指示出しとフォローしてくれるから何とかなるだろう。キングと対峙すると『尾無し』みたいなヤバさは感じないから何とかなりそうな気がする。
まずは先手を取って剣を横薙ぎに振るが受け止められた。ただそれは想定していたので片手剣の先から火を放つが、身を捻って難なく躱された。初見でこんなに簡単に躱すとは流石キング。
「グハッ!」
躱したキングからのカウンターで腹を殴られて吹き飛ばされる。
痛え。『身体強化』発動してなければヤバかった。こいつマジで強い。Aとは言わないがBランクの強さは余裕である。
吹き飛ばされて転がるが、起き上がりつつナイフを投げる。追撃しようとしてきたキングの腹に見事に突き刺さるがあんまり効いていない。師匠から教えて貰ったやり方なんだけどな。当たったから対人には有効だろうから今度野盗で試してみよう。
ヒュン!キン!
俺の何度目になるか分からない攻撃を手にした剣で難なく受け止めるオークキング。受け止められる度に『火炎放射』を使っているがこれも当たらない。当たらないが『身体強化』と『生活魔法』を使えばなんとかやり合えるから、こいつ単体の強さはBって所だろう。
キングと斬り結びながら頻繁に『火炎放射』を出して警戒させているが、仕込みはもう十分だろう。キングに斬りかかりながら今度は『闇』を無詠唱で複数放つと、初めて見る攻撃方法に慌てて避けるキング。だが、態勢が崩れて隙だらけだ。
ザシュッ!
崩れた所に剣を振り、キングの腕を切り捨てる。左腕の肘から先が無くなったオークキングが大声で悲鳴を上げる。
「ドミル、あとは任せる」
こっちもここまで崩れれば手柄がどうとか言う奴もいないと思うが、万が一を考えてトドメはリーダーのドミルに譲り俺はケガをした奴等の治療に向かう。クイーンやジェネラルは全て倒し終わったようだ。本当はガーネットかエレクの所がキングのトドメを刺す予定だったけど、作戦無視したし、何よりあの憔悴した様子だとキングの相手は不安すぎる。
「はあ、何とか終わったぞ。今から巣の探索にいくからお主もついてこい」
ケガをしている奴を治療していると背後からドミルが声を掛けてきた。振り返ると足がおかしな方向に曲がって頭が潰れたキングが見える。ドミルは疲れた様子だけどケガはないようで良かった。
そして呼ばれたのでドミルについて巣に入っていくが、お通夜みたいな空気になっている。
「・・・・」
「・・・・」
無言で落ち込んだ顔をしているのは『紅の水』のリーダー、ガーネット。ハーレムクランの『大海龍』に所属しているだけあって美人でスタイルもいい。そしてもう一人『水龍姫・守護5』のリーダー、エレク。サラサラの金髪のイケメンだ。
こいつらのパーティは一人づつやられているし、一緒に入ったDランクなんて『姫』派閥は全滅、『大海龍』派閥は2人はやられている。だからこれからこいつらがやらないといけない事を考えると落ち込む気持ちは分かる。
「ふむ。結構深いな」
中でやられた奴等の装備回収等を行いながら巣に潜っていくと特に問題なく最深部までたどり着きドミルが疲れた様子で感想を漏らす。ガーネットもエレクもやられた仲間の首を落としてからは更に表情が暗くなっていた。そして、みんなは奥に隠れた10匹に気付いているのだろうか。ここまで俺達が来ても襲ってこない所を見ると、嫌な想像をしてしまう。
「ドミル」
声を掛け壁の一角に置かれた板を指差す。それだけでドミルは理解したようで各自に戦闘準備のハンドサインをする。準備完了した所で、ドミルから合図があったので板を蹴り飛ばしてから少し距離を取る。中からは甲高いオークの悲鳴が聞こえた。
「まあ、いるよな」
「そうじゃな。気は進まんが残していくと成長したら必ず復讐にくるからな」
オークの子供10匹を前に気乗りしない会話をする。子供だろうが魔物は魔物倒さないといけない、気乗りはしないが。
「どいて!やらないなら私がやる!」
俺とドミルが話しているといきなりガーネットが俺達を押しのけて隠し部屋の前に立つ。
「火よ!すべてを焼き払え!『火矢』」
ガーネットが何か唱えると目の前に炎の矢が複数現れた。おお!魔法だ!と思った瞬間、
「ば、馬鹿もん!」
ドミルが俺の頭を押さえつけて地面に叩きつける。痛え。ドミルに文句を言おうとした瞬間。衝撃と熱風が俺の頭の上を通り過ぎていった。・・・あのまま突っ立てたら火傷してたな。しばらく地面に伏せていたが、ドミルが立ち上がると、ガーネットを怒鳴りつける。
「貴様は馬鹿か!何故声も掛けずに『火矢』なんか使った!伏せるの間に合わなかったらこっちが火傷しておったぞ!」
「ご、ごめんなさい。」
ドミルが怒るって事は危ない事したんだな。でもまあ、悪いと思っているみたいだし火傷もしなかったからいいか。
「そもそも!こうなったのもお主たちが最初から作戦を守らないからじゃろう!何故最初から巣に飛び込んだんじゃ!」
「ご、ごめん・・・グスッ」
謝るガーネットが涙を流したので、ドミルは何も言えなくなった、俺からも何も言えない。作戦無視したのはキング討伐の手柄の為だとドミルも分かっているし、仲間を失い落ち込んでいるのでこれ以上は追及はしないようだ。ただいつまでもここにいるつもりはないので泣いているガーネットを呆然と見ているドミルの背中を強めに叩く。
「おい、リーダー。この後何すればいいんだ?」
「お、おお、そうじゃな、ギンはこいつらに襲われた奴等の持ち物がまとめてどこかに置かれているはずじゃからその場所を探してくれ。エレクは子供のオークの魔石を回収してくれ」
ドミルの指示に従って探すと、すぐに破れた服や財布等がまとめて置かれている場所を見つけた。通常だとこういった持ち物は俺たちの物になるが、特別依頼なので遺品は遺族に返還する為、全て持ち帰ってギルドに提出するらしい。ちなみにオークの持っていた武器や防具も元々遺品なのでギルド提出になる。俺達は倒したオークだけは好きにしていいそうだ。今回はドミル達がキング、ガーネットの所がジェネラル2匹、エレクの所がクイーン、Dランクがジェネラル1匹ずつで、残りは全て売ってその金を分けるって事で話はついた。俺は道案内だけの依頼なので報酬貰う権利はないらしい。ただ、ドミルとトアからキングとジェネラルの肉一塊は譲って貰えるので文句はない。
こうして、討伐を終えた俺達は都まで戻ると、俺と各パーティリーダーはギルマスに報告に向かう。
「何じゃ、1パーティが全滅で、他数名の犠牲ってどうしたんじゃ?」
ドミルからの報告を受けた後、婆さんが今回の結果で気になる点を聞いてくる。正面のドミルに聞いているが、チラチラ俺を見るのはやめてくれ。
「どうもしません。巣は潰しましたが、これだけの被害が出てしまいました」
今回討伐隊リーダーのドミルは何も言い訳をしない。潔くていいが、この報告だと多分駄目だろう。
「ギン!本当の所はどうだったんだい?依頼だから報告は正確にな」
ドミルの報告に納得していないギルマスが俺に話を振ってくる。
「作戦無視だ。『姫』の所と『大海龍』の所が作戦無視して巣に突入した。だからこれだけの被害になった」
「ギン!!」
ドミルが俺に怒鳴るが、正確な報告は義務なので仕方ない。そして今回これだけの被害が出たのはやっぱり各派閥によるだろう。今回ドミルがリーダーだったから『ガーデン』派閥はキングを譲るつもりだった。だけど『姫』と『大海龍』どちらに譲るか最初に決めていなかった。ドミルとしては戦闘の時の状況を見てから決めるつもりだったらしいが、その前に作戦無視して巣に入っていった結果、キング達にやられた。
「・・・ふう~。派閥もどうにかしないとねえ。・・・まあ巣は潰したんだから依頼は達成だね。ドミル、死んだ奴等はあんたの作戦無視したんだから自業自得だからね。ギルドとしてもあんたに責任取らせるつもりはないって事だけは言っとくよ。それじゃあ、ご苦労さん」
俺の詳細な報告を聞いたギルマスは言いたい事だけ言うと部屋から出て行った。俺達もすぐに部屋を出るとこのまま素材を売りに行くようで、関係ない俺はここで別れて受付に向かった。
「終わったぞ。これで依頼達成って事でいいんだよな?」
受付でリマにギルドカードを渡しながら確認する。
「うん、終わりだね。って事でおめでとう!20ポイント溜まったので今日からDランクだね」
今回の依頼達成で無事Dランクにあがった。これで師匠達と同じだ、ホントならこれで『カークスの底』に入れたんだけどな。
「ギン?どうしたの?」
少し気分が落ち込んだ俺に覗き込むようにリマが聞いてくる。
「いや、何でもない。取り合えず手続きを頼む」
慌てて顔をあげて、手続きをお願いする。そう、落ち込んでいる場合じゃない、ここからは採取依頼はほとんどなくなる討伐系ばっかりだから集中しないとすぐに死んでしまう。
「はい、これでギンは今日からDランクだよ。・・・さてDランクからCランクに上がるのは今までと少しやり方が違うので説明させて頂きます」
ギルドカードを俺に渡すと、リマはいきなり事務的な話し方に変わる。別にD止めするつもりだからあんまり聞く意味はないが、興味はあるので、黙って説明を聞く。
「Dランクでも通常通り依頼を達成して20ポイント溜めてもらいます。20ポイント溜まると、Cランクの依頼を一つ受ける事が出来ます。そこで依頼を達成すると晴れてCランクになるので、頑張って下さい」
めっちゃ説明口調で説明してくるリマ。いつもと違う様子に思わず笑ってしまう。いや、普段の俺以外の奴等にはこの対応なのか?
「笑わないでよ。この説明はマニュアル通り言わないといけないから、仕方ないんだよ。・・・それで今の説明で分からない所や質問はある?」
「D止めってどうすればいいんだ?」
「D止めは20ポイント溜まった時にCの依頼受けるか聞かれるからその都度断ってればずっとDランクだね。断ったからと言ってポイントが0になる事はないけど、どれだけ依頼を達成しても20ポイント以上にはならないからそこは注意かな。ただD止めしてても優秀だと強制的にランクをあげる『点付き』ってのがあるらしいから気をつけてね」
「『点付き』?」
「そう、私も聞いた事しかないけど、ギルドとしては優秀な冒険者には依頼料的にランクの高い依頼を受けて欲しいんだよ。ただD止めしているとC以上の依頼受けられないでしょ。大体D止めしてる理由は貴族待遇で発生する義務が嫌ってだけだからそれを免除するのが『点付き』って制度、ギルドカードのランクの上に「´」がつく事からそう言われてるね。それだと義務もないけど代わりに国からの給金もでないけどね、この国にもいるけど『水都』には所属してないよ」
へえ~。義務が発生しないならいいけど、優秀だと判断されないと無理なんだ。師匠達や『赤盾』もD止めで有名って言ってたけどそれでもなってないって事は何か条件でもあるのかな?まあ、俺にはあんまり関係ないだろう。
「それでさ、ギンはこの後暇?私これで上がりだからご飯とかどう?クオンを待つからギルドで食べる事になるけど、どうかな?」
別にこの後予定はないので特に断る理由はない。ただ銭湯には行きたかったが、我慢しよう。




