6.5話
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第3者視点って難しい
その日、学級委員長『田中瞳』はいつものように真面目に授業を受けているといきなり目の前が光輝き目の前が真っ白になったと気付いた瞬間意識を失った。
次に目を覚ました時には全く身に覚えのない石畳の上で寝ていた状態だった。周りには見た事もない大人たち、取り分け全身鎧を着て槍や剣を持っている異様な格好をしている人たちが自分を取り囲んでいる事に気付くと、再び意識を失いそうになった。そして意識を失いかける寸前に視界の端に見覚えのある人物が見えた為、意識を失わずに段々と頭が目覚めてきた。
隣で寝てるのは浅野さん?あとは大久保さんもいる。なんで?どうなってるの?ここはどこ?あの人達は誰なの?
頭に疑問が思い浮かぶ中、周りの見た事のない大人たちは自分たちがこっちの世界に召喚された事等訳の分からない説明を始めるが、ゲームやラノベの知識が全くない瞳には何を言っているのか全く理解できなかった。
「ここどこだよ!」
説明が終わると同時にクラスメイトの不良グループが一番偉そうな人に近づくが、すぐに鎧を着た兵士から武器を向けられて引き下がる。
ああ。金子君達もいるのか。俊介もいるけど今の俊介は一緒にいても安心できないなあ。
瞳は不良グループの一人『川崎俊介』と幼馴染だが、金子達と遊ぶようになって素行の悪くなった俊介に注意ばかりしているので、二人の仲はあまり良い状況ではない。更に瞳は委員長としてグループによく注意をしているので、金子達からもウザがられている。そんな孤立した状況に絶望しそうになったが一人の人物に気付くと気持ちが晴れやかになる。
あ!土屋君もいるんだ。よかった。でもこれだけ?麗ちゃんも、歩ちゃんも、安奈ちゃんもいないし、他のクラスメイトは?
自分が好意を寄せている『土屋銀次』がいる事で安心し気持ちが晴れるが、すぐに親友のクラスメイトが居ない事に不安が襲ってくる。不安に思っているが事は関係なく話は進み『スキル確認』の儀式というものが行われた。最初は不安がっていた召喚された面々だったが、最初に『スキル確認』を行った藤原が異世界人に絶賛されると、そこから『スキル確認』を楽しみだす金子達。
金子君達なんか楽しんでる?変な所に連れてこられたばっかりだよ?家に帰してもらえるかも分からないのに、俊介まで何で楽しそうにしてるの。土屋君は・・・何か警戒しているっぽい、私と同じだ。
◇◇◇
「ほら、委員長。最初行きなよ」
「あーしらもあとでやるし~」
金子達の『スキル確認』が終わると金子達と仲の良い女子「大久保美紀」と「浅野香織」が瞳を『スキル確認』に促す。
「え?・・でも?・・・」
銀次の『スキル確認』が終わっていない事が分かっている瞳は『スキル確認』を躊躇っていると、銀次からジェスチャーで「お先にどうぞ」とされたので、いいのかな?と思いながらも『スキル確認』を行う。周囲の反応から結果はあまり良くなかったと感じたので謝ってはみたが、それよりも無事に帰して貰えるかどうかが心配だった。
そうして最後に土屋の『スキル確認』が終わると異世界人は焦り出す。どうも『影』と出た事があまり良くないらしい事は周囲の反応から分かったが、すぐに異世界の人たちが落ち着いたのであまり気にしなかったというより召喚されてからずっと無事に家に帰して貰えるかだけを考えていた。その後すぐに各自に専用のメイドと執事が付けられた。
「セロと申します。何なりとお申し付けください。」
瞳の前に進み出てお辞儀して挨拶をする人物の顔はかなりのイケメンだが、銀次に好意を寄せている瞳にはイケメンかどうかはどうでもよかった。
「あ、どうも、田中瞳です。よろしくお願いします。」
丁寧に挨拶をされたので、瞳も反射的に名前を名乗って挨拶を返す。
「それではヒトミ様、お部屋にご案内させて頂きます。」
「あの・・・様はいらないです。セロさん。」
様で呼ばれた事もなく、呼ばれる立場でもないので丁重にお断りするが、
「いえ、さすがにそれは・・・ヒトミ様のご命令でも勘弁ください。それと、私には「さん」は不要です。『セロ』とお呼びください。」
セロから返されて困ってしまうがこれ以上言っても今は無理そうだと判断して、周囲の様子を確認する。
大久保さんと浅野さん早速自分に付いた執事の人と楽しそうに会話している・・・俊介は可愛い子にデレデレしてる、情けない。他の男子も似たようなものだなあ。・・・・土屋君も・・・・うえ?何で?土屋君だけ鎧着た人が付いてるの?土屋君も困惑した顔してるし、何で?まだ壁の脇にメイドさん何人かいるのにどういうこと?
瞳は疑問に思うが、クラスメイトは続々部屋から出ていき、瞳もセロに促されて部屋を出る、すぐに女子3人は男子と別れる事になるが、召喚された部屋から自分たちの部屋は近くにあったのかすぐに部屋に案内される。幸い女子3人隣同士なので少し安心して部屋に入る。
「それではヒトミ様、すぐに歓迎の宴が始まりますので、それまでにご用意よろしくお願い致します。ああ、ヒトミ様は何もご心配なさらず中にいるメイドに任せておけば問題ありません。私は扉の外で待たせて頂きますので、何かあればお呼び下さい。」
部屋に入るとセロから一気に話され、何を言われているか理解できないまま、セロは外に出ていってしまった。瞳は混乱しながらも部屋に入っていくと、中には大勢のメイドが待ち構えていて、大勢のメイドに圧倒されている間に、風呂に入れられ、化粧や着替えを念入りに行われて、気付くとそこそこお腹が空いてきている時間になっていた。
「それでは準備も出来たようなので、会場にご案内いたします。」
全てが終わったタイミングでセロから声を掛けられて、またよく分からないままセロの後をついて部屋から外に出ると、会場に向かう大久保と浅野に出くわした。
「あ~。委員長じゃん。雰囲気全然違うんだけど~ヤバくね~。」
「ホントじゃん!いつもの真面目の格好よりこっちの方が全然いいじゃん!」
「ありがとう、二人とも。そっちも普段と全然ちがうね。なんかお姫様っぽい。」
瞳の格好を褒める二人だが、その二人も普段のギャルメイクからナチュラルな化粧に変わっており、何となく高貴なイメージを感じた瞳はそのままの感想を伝える。
「アハハ!あ~しらが?お姫様って、委員長面白い~。」
浅野が照れながら瞳の意見を否定するが、その顔は満更でもない感じだ。そうして3人で話をしながら執事の後をついていくとすぐに会場に到着した。
会場に着くと既に瞳たち3人以外は出席者は揃っていたみたいですぐに歓迎の宴は始まる。
男子もみんなピシッと正装してるけど、お付のメイドさんやキレイな女の人達に囲まれてだらしない顔してるから台無しだよ。そうだ!土屋君の正装した格好をしっかり目に焼き付けておかなくちゃ。
瞳はすぐに会場を見渡すが銀次の姿が見当たらなくて少し心配になってくる。
「セロさん。あの・・・土屋君が見当たらないんですけど、どうしたのか分かりますか?」
瞳以外のクラスメイトは貴族風の人たちから熱心に話しかけられているので、話しに割って入る事を躊躇ってしまい、取り合えず近くにいるセロに尋ねてみる。実際の所一重詠唱者の瞳よりも二重以上の詠唱者と近づきたい貴族ばかりなので瞳の価値はここでは低く、話をするのも後回しにされている。
「土屋様は体調が優れないとの事で自室でお休みになっているそうです。」
しばらくして戻ってきたセロからそう伝えられ、瞳は心配になりお見舞いに行こうとするが、
「異世界に召喚されたばかりで、かなりお疲れの様子で既にお休みになっていると聞いておりますので、お見舞いは明日の朝の方が宜しいかと。」
セロからそう注意されて、今日のお見舞いは諦める事にしたが、現在の銀次は暗殺を逃れて既に森に逃げ込んで『自室』で寝ている所である。銀次の現在の状況は一部の人間しか知らない事で当然セロも知らないし、セロが銀次の事について尋ねた上司も体調不良で部屋で休んでいるとしか聞かされていない。
その後、瞳はパーティ中に元の世界に帰る方法は分からない事と今後勇者はしばらく訓練を行い鍛える事が発表されると、瞳はパーティを楽しむ気力も無くなり、途中ではあったが部屋に戻って休んだ。
そうして次の日の朝、朝食を食べる為に集められた瞳を含むクラスメイト達に土屋銀次が昨夜城から抜け出して行方不明となっている事が伝えられた。
「あいつ、何やってんだよ。馬鹿じゃねえのか」
「もういいよ、このまま野垂れ死んでくれれば」
「うわー。スタンドプレーとかチョー引くんですけど」
その事を聞いた瞳以外のクラスメイトは銀次を非難するだけで心配をする者はいなかった。
なんで土屋君は誰にも相談せず一人で出ていったの?金子君達と仲が悪い事は知っていたけどせめて私にでも相談してくれれば・・・いや今はそれよりも土屋君を探しにいかないと。
銀次が一人で出ていった事にショックを受けながらも次に自分がすべき行動を思いつくとクラスメイト達に声を掛ける。
「みんな!今から土屋君を手分けて探そう!多分いきなりこんな所に連れてこられて混乱してるだけだと思う、見つけた後しっかり話をすれば多分大丈夫だから!」
「いや、何で俺らが行かなきゃなんねえんだよ。俺は行かねえ」
「あ~しも、自己中の人の面倒見たくないからパス」
「そうだよな、なんであいつの為に俺らが動かなきゃならないんだよ」
瞳の提案に誰一人賛成する事なく否定する声だけが聞こえる。
「何でみんなそんな事言うの?土屋君が金子君達と仲悪いの知ってるけど、それでもクラスメイトだよ!仲間なんだよ!心配じゃないの?」
瞳は大声を出して説得しようとするが、皆の反応は全く変わらない。むしろ逆効果になっている。どうしたもんかと困っているクラスメイトの視線が一人の男子に集中する。その男子は『川崎俊介』で瞳の幼馴染である彼に集まるその視線はお前が対応しろと言っている。
「はぁ~。あのな瞳。何か勘違いしてるから教えてやるけど、あいつは仲間じゃねえよ。むしろ前から俺らの敵だな。」
そういう川崎の後ろで全員が頷いている。瞳は川崎の言葉とみんなの態度に衝撃を受けた。
「・・・え?・・・俊介・・何言ってるの?」
「だから土屋は俺らからすれば敵なんだよ。そんな奴の心配する訳ないだろ?だから探しに行くわけないし、むしろさっさと俺らに見つからないように死んでほしいぐらいだって。」
「俊介、それは酷いぞ。俺はせめてあいつの死体ぐらいは拝んでやってもいいぞ。多分見たら大爆笑するけど、ガハハハッ」
「どっちも酷ええ、あははははは」
その反応を見て瞳はもうこの人達は当てにできないと判断し、すぐに自分の部屋に戻って荷物をまとめて探しに行こうとすると、セロが慌てて追いかけてきた。
「ヒトミ様。お待ちください。どこに行かれるのですか?」
「決まってます!土屋君を探しに行きます!」
瞳の行く手を遮るように立つセロに吐き捨てるように言ってその脇を抜けようとするが、セロが再び行く手を遮る。
「邪魔しないで下さい。何でも言う事聞いてくれんですよね。だったら道を開けて下さい。」
「落ち着いて下さい、ヒトミ様。土屋様の捜索は現在第1騎士団の中隊が行っておりますので、すぐに見つかると思います。それよりもヒトミ様が探しにいかれると、そちらにも護衛等で人員を割かなければいけませんので、土屋様を見つける可能性が低くなってしまいます。」
セロにそう言われて少し勢いが止まる。そこで更にセロから、
「ヒトミ様は土屋様がどこに向かったか心当たりでもあるのでしょうか?まだこちらに来て2日目のヒトミ様はこの国の地理や常識に明るくないはずです。更に街の外には魔物もいます!いくら魔法のスキルがあると言ってもまだ使い方も理解していない内から外に出るのは危険すぎます。どうか、お考え直し下さい。」
その言葉に瞳は完全に勢いを失いそのまま床にへたりこんでしまう。
「じゃあ、私はどうすればいいんですか?」
瞳はセロを見る事もなく床に座り込み俯いたままポツリと呟く。
「まずは、落ち着いて、本日はゆっくりお部屋でお休みください。本日の予定は全てキャンセル致しますし、食事も部屋までお運び致します。土屋様の捜索は第1騎士団に任せてヒトミ様はまず魔法が使えるようになって頂けないと、いつまでも城の外に出られる事はないと思います。」
そう諭すように答えたセロを瞳は見上げると、その目にはしっかりとした意思が感じられる。
「分かりました。だったら今すぐにこの世界の常識や魔法の使い方を教えてください。すぐに覚えて土屋君を探しに行きます。」
◇◇◇
「セロさん、まだ土屋君は見つかりませんか?」
あれから約1ヶ月経ったが、銀次の捜索はまだ続いている。瞳はあの日以来非常に熱心に勉強しており、この世界の常識とこの国の地理については大体は覚える事ができた。しかし、魔法については、日本でもゲームにあまり触れた事がない瞳はイメージが沸かず、未だに初級魔法の練習をしている。
「騎士団も凄腕のハンターを雇って捜索してはいますが、いまだ行方が掴めていません。近日中に捜索人員を増やすと聞いていますが、それよりもヒトミ様・・・」
「分かっています。けど、どうしてもイメージが沸かないんです。俊介達みたいにあまり向こうでゲームとかで遊んだことがないので魔法の発動が上手くいかないんです。詠唱は完璧に暗記していますが、それだけでは駄目で魔力の流れや発動後の魔法をイメージしろと言われても具体的にどうすればいいかよくわからないんです。」
いまだに初級魔法が完璧ではない瞳は銀次の捜索に参加する事は認められていない。せめて中級魔法の『火槍』が使えるようになれば参加できる事になっている。そのため連日遅くまで魔法の練習をしているがあまり上手くいっていないので、日に日に焦りが強くなり集中力を欠いて魔法の発動が上手くいかないと負の連鎖に入ってしまっている。
「申し上げにくいですが、昨日カオリ様が初級魔法を全て習得したと認められ、中級魔法の練習に入られました。」
そんな中、セロから更に衝撃の事実が告げられる。
「・・・そんな・・・浅野さんまで・・・」
それを聞いた瞳は更に落ち込む事になる。昨日までは瞳と『浅野香織』二人だけが初級魔法の練習をしていて、その他のメンバーはすでに中級魔法の練習に入っていた。浅野は4属性なので、他の人より初級魔法の習得に時間が掛かるのは明白だが、瞳は火属性のみでこれなので最近では周囲からの期待は無くなり、待遇も明らかに悪くなってきている。特に明白なのは食事なのだが、瞳はあれ以来自室で食事をしながら勉強をしているので、食事の質が他のクラスメイトと違っている事に気付いていない。
瞳だけが初級魔法の練習に頑張っているある日、練習を始める前に訓練場の入り口にクラスメイト全員が集められる。
「ちっ。朝からなんだよ、もう少しで中級完璧に発動できそうなのに時間とらせんなよ。」
集まってすぐに悪態をつく金子達だったがお付のメイドから宥められてすぐに機嫌が良くなる。良く見れば瞳以外各自2人以上のメイドや執事が側にいるが全員距離が近くぴったりくっついている状態で両手を腰に回してたり、過剰なスキンシップを受けてご満悦な者までいる。瞳以外は明らかに執事やメイド以上の関係になっている。その光景を冷ややかに見ている瞳の後ろではセロが同僚から『お前はまだそういう関係まで行ってないのか』と冷ややかな視線を向けられている。最初から銀次以外の召喚者達に付けられたメイドや執事はそれが目的の一つにもなっていたので、いまだに瞳とそう言った関係になっていないセロは上司や同僚からは無能と見なされ、近いうちに担当を外される事になっている。
そうしてしばらく待つと、大臣と鎧に身を包んだこの国の騎士の3名が訓練場に現れた。今まで大臣が訓練場まで来た事は無かったので、何事だろうと全員が考え大臣が話始めるのを静かに待つ。
「勇者様方、えっと・・大変言いにくいのですが・・・ようやく『ツチヤ・ギンジ』様を発見致しました。」
その言葉を聞いた瞬間、瞳の心は舞上がり、一気にテンションが高くなったが、
「え?まだあいつの事探してたの?」
「ああ?あいつが?そんなん見つけなくてもいいよ」
「そうだな、別にいらないからそのまま放置で!」
「今更戻ってきても邪魔じゃない?」
酷い言葉が銀次に対して投げられるが、その言い方に腹を立てる前に瞳はある事に気付いた。
見つけたなら何で土屋君ここにいないんだろ?・・・・そういえば大臣さん『言いにくい』って・・・。
最悪の可能性が脳裏に浮かび、動悸が速くなる。
大丈夫、大丈夫だから。ちょっとケガして今手当てしているだけ、それか今頃お城から逃げた事を怒られているだけだから、大丈夫。
そう思う瞳に大臣から無情な現実が突き付けられる。
「城から抜け出した後、ギンジ様は森の中を進んで国境を目指したみたいで、こちらで雇ったハンターと第1騎士団で捜索を行っていました。それで先日なのですが森の中で戦闘があった痕跡が見つかりまして、そこにこれが落ちておりました」
そういって横の騎士が包んである布を広げるとそこには瞳達が通っていた学校の制服だと思われる物が目に入った。断定できなかったのは制服はかなりボロボロになって、色合いぐらいからしか学校のブレザーと判断できなかったからだ。
・・・・・・・
しばらく沈黙が続くが、不意に大きな笑い声が訓練場に響き渡る。
「あはははは!馬鹿だ!土屋のやつ馬鹿だろ、あはははは!」
「ほんと何やってんの?勝手に脱走して勝手に死ぬなんてギャハハハハ」
「ハハハハハ!はあ~駄目だ!腹痛い!まさか最後の最後で土屋が体を張ったギャグするとは、悔しいけど面白いじゃねえか」
「ホント、ムカつく奴だったけど、最後に笑わてくれるとは」
瞳以外に銀次の死を誰も悲しむ者もおらず不快な言葉だけが訓練場に響き渡る。そんなクラスメイトの嘲笑さえ気付かずに瞳はゆっくりと騎士のもつブレザーを手にとる。
「・・・違いますよ。・・・これは土屋君の物の訳ないじゃないですか。・・・金子君達の誰かのブレザーですよ。土屋君は今ケガして治療してるだけですよね?そうですよね?」
銀次をあざ笑っていた金子達だが様子の可笑しい委員長に気付くと静かになり、ある事に思い至る。
「なあ、俊介。もしかして委員長って?」
「あ~しも!それ今思ったんだけど」
「え?まじで?それ本当なら委員長趣味悪くね?」
クラスメイトのそんな声も全く耳に入らず瞳は大臣に詰め寄っていくが、
「その服の中からはこちらが見つかりましたので、ギンジ様の物と断定致しました。」
そういって大臣が渡してきたのは学生証だった。そこには『土屋銀次』の文字とその顔写真が貼られている。
「・・・うそ、・・・うそです。・・・だったら遺体は?ありますよね?ないならまだ生きているはずです。土屋君が死ぬ訳ありません!」
学生証を見てもまだ現実を受け入れたくない瞳は更に証拠を出すように大臣に詰め寄る。
「それが戦闘の痕跡から相手はオーガ率いる魔物の群れだと判明しています。オーガは人をすぐには殺さず巣に持ち帰ってから食べる習性があるので、恐らくギンジ様のご遺体を見つける事は困難だと思います。」
「・・・うそよ!・・・いや!・・・・・いやああああああああああ!」
大臣のその答えに瞳は絶叫しながらブレザーと学生証を握り締めたまま泣き崩れる。そんな中でも金子達は銀次の最後の様子を聞いて更に大爆笑していた。
瞳は気付くと銀次のブレザーと学生証を手に持って自室のベッドで横になっていた。どうやって部屋まで戻ってきたか全く覚えていない。辺りはすでに暗くなっており、さっきまで自分が寝ていたのか起きていたのかさえ良く分かっていない。手に握っている物を見つめると途端に涙が溢れてくる。翌日もそのまた次の日も瞳はベッドから起き上がる事ができなかった。今までの約1ヶ月銀次の為にひたすら頑張ってきていた気持ちが途切れ何もやる気が起きずに部屋からも出る事が無くなってしまった。
◇◇◇
光の教国のとある会議室では属性の名を冠する国の大使による話し合いが行われていた。
「だから!何故火の国が9人で、風の国に4人も勇者様がいるのだ!他の国は1人ずつなのは何故だ!」
水の国の大使が各国で召喚された勇者の数を聞くや否や怒鳴りだす。
「そうです、予言では各国と里最低でも2人づつ以上になると言われているのに変ですな。もしや『装置』に何らかの細工をしたのではありませんか?」
闇の国の大使が水の国の味方をして火と風の国の大使に確認するが、
「何を馬鹿な事を。あの装置は建国王様達が作ったものではないか。詳しい事は何一つ伝わっていないのに細工など出来るはずがない」
疑惑を否定する火の大使の隣で風の国の大使も頷く。
「それに各国と里に2人以上という言い伝えこそ間違っているのでは?」
「『各国2人以上』は女神様が残した言葉なのは初代教皇様の記録にもあるので言い伝えではなく確定事項ですよ。貴国は我が女神様の言葉が間違っていたとでも言いたいのですか?」
風の国の言い分に光の教国が意見する。
「女神様や建国王様達も元々帝国に所属していて、帝国の侵略に手を貸していたのですから女神様達が間違う事があっても不思議ではないでしょう。勘違いしないで頂きたいのは我々は女神様もその教えも否定している訳ではありません。そう言えば女神様の教えを忠実に守っている貴国の勇者様はあの女神様と同じように『蘇生魔法』が使えると噂ではないですか。それも貴国だからこそ召喚されたと私は思っていますよ。」
風の国の言葉に光の教国の大使は心の中で動揺しながらも、顔には出さずに勇者の情報を流した裏切り者にアタリをつけ、対応に考えを巡らす。
「同じといえば、火の国の勇者様は建国王様と建国王妃様と全く同じ魔法が使える者が召喚されたらしいではないですか?更になにやら四重詠唱者の存在についても噂で聞きましたが?」
「さて?噂だからな。私は召喚された勇者様達の人数しか聞いてないから、どんな魔法を使えるかまでは知らん。」
闇の国の言葉に火の国の大使も光の教国と同様に顔にはださずに心の中で動揺しているが、銀次の存在までは知られていない事に少し安堵する。
「それでこれからどうするのだ?勇者様の数が多い所から少ない所に派遣するのか?」
「何も馬鹿な事を、何故そのような事をしなければならんのだ。」
「我が国に召喚された勇者様達ですから当然、我々で面倒みますよ。」
今まで黙っていた砂の国の提案に火と風の国は即座に反対してくる。
「まあ、その事は後に考えるとして、もう一つの問題は数が合ってない事。予言では20
人のはずが報告では19人しか召喚されていません。・・・・まさかとは思いますが、どこか数を誤魔化していないですよねえ。」
「それなら獣か長耳の奴等が数を誤魔化しているんだろう。特に獣たちが怪しい。最近森を閉ざして我々との交流を断ちおったからな。」
「それは、どこかの馬鹿な奴隷商人達が冒険者を使って奴らの里を襲ったからではないですか。」
「ふん!それも勇者様召喚が近かったこのタイミングで起こった事自体怪しいではないか。自作自演ではないかと我は考えているが?」
「火の国の大使殿よ、落ちつくのだ。その件については、我が国でもう一度エルフ達を通して確認して見るので、くれぐれもおかしな話を言いふらさないようにお願いしたい。」
現在、人族と交流を閉ざしている獣人の里と交流出来るのはエルフ達だけである。そのエルフ達も砂の国以外の人族とは交流をしない事がエルフの里の掟となっている。しかも砂の国はエルフの里のある大森林入り口で交流を持つだけである。この為、エルフの里、獣人の里に召喚された勇者の情報はかなり少なく現在はその人数だけが伝えられていて性別もどんな魔法が使えるかも知られていない。各国からも密偵が送られているが、エルフ、獣人にとって自分たちの庭でもある大森林で人族の潜入が上手くいく訳もなく、悉く失敗している。
「人数の件は我が国でもう一度確認してみるとして、人数のバラツキはどうするのだ?均等に振り分ける事を我が国では提案したいが」
砂の国の提案に1人しか勇者召喚がされなかった各国が賛成していくが、火と風はその意見には反対の態度を貫き結局話し合いは平行線のまま、会議は終了した。