66話 大鼠の駆除と大衆浴場
本日2回目です
少し時間は早いけどクオン達の家に到着し、ノックをすると既に準備を済ませていたのか、すぐに家の中に通される。ワクワクした目でこっちを見ているクオンとリマにジェネラルの肉を渡すと歓声があがった。
「ジェネラルの肉って俺も食べた事ないけど、そんなに手に入らないのか?」
2人の反応から入手困難な事は分かったがどれくらい困難なのか聞いてみると、基本的に貴族が買い占めて、平民に回る事は滅多になく、たまに売られても一般人では到底手が出せない値段で、豪商とかが口にできるぐらいらしい。
「だから、買取カウンターで見る度に1度でいいから食べてみたいって思ってたの。でもそんなお願いできる人なんていないって所にギンが持ってきた訳よ・・・でもお礼はホントにいらないの?」
さっきからしつこい位確認してくるが、別にお礼はいらないとはいっていない。色々教えて貰ったし、今後も分からない所を教えてくれるだけで十分だと言っている。それでも納得してくれないので、
「お前らの手料理で十分だ、これだけで他の冒険者が金貨を出してでも食いたいって言いそうだからな」
冗談っぽく言ったがゴドルなら本気で出しそうだ。俺がそう言うとクオンは赤くなって押し黙る。っていうかこいつずっとここにいてリマしか料理してないけど、赤くなったのはもしかして料理出来ないから恥ずかしいって所か。
「リマにばっかり料理させてて手伝わなくていいのか?」
俺の予想が正しいかどうか質問すると、赤かった顔が更に赤くなる。
「・・・リマから料理禁止って言われてる」
やっぱりそうか。
「で、でも最近は本とか読んで勉強してるのよ」
言い訳してくるが、本を読むだけじゃなくて実際作ってみないと上達はしないのだが、俺もあんまり人の事言えないから何も言わないでおこう。そうして何気ない会話をしていると、
「出来たよ~」
見た目がまんまステーキに見える肉をリマが持ってきたので食べてみると、味付けは塩だけだったけどすげえ美味かった。国産の霜降りステーキってこんな感じだろう。ジェネラルになるとこんなに肉が上手くなるのか、これならキングとかってどんだけ美味いんだろ。肉の美味しさに3人とも無言でモグモグ食べているが、半分程食べた所で、我に返る。
「飲むか?」
カバンからワインを取り出すと、二人の目がキラキラ輝き出し、すぐにクオンがグラスを持ってきたので、乾杯してから酒と肉を堪能する。
「う~ん。食った食った、美味かった~」
「いや~美味しかったね~。ジェネラルってあんなに美味しんだ」
食事を満喫したリマが俺の感想に相槌をうちながらワインをチビチビ飲んでいる。クオンは食器を洗っている。二人の間ではこういう役割分担になっているようだ。
「まあ、また狩ったら食べさせてやるよ。今度はバーベキューとかどうだ?って言ってもここアパートか。どこか火起こししても怒られない場所ってあるか?」
リマに聞くが心当たりがないそうだ。師匠の家でやったように庭なら文句は言われないから誰か庭付きの家とか借りてないかな。とか次のBBQについて考えていると、
「ギンが、『首渡し』なの?」
・・・・ドキリとした。あれから少し経って大分噂も落ち着いた所だ。いきなりこんな所で前振りもなく聞かれるとは思っていなかった。
「な、な、何言ってんだ?」
なるべく動揺を隠して返事をしたつもりだったが、
「もういい、その反応で分かったよ」
うぐ。師匠から腹芸は覚えろって言われても真面目に練習してこなかったから自業自得だな。でも腹芸の練習ってどうやりゃいいんだ?
「い、いや、何言ってんだよ、俺な訳ないだろ。だって俺まだEランクだぞ、そんな事したら殺されてるって」
ヤバいと思いつつも誤魔化す。頼む俺の『偽装』スキル仕事してくれええ。
「だって『首渡し』が出始めたのギンが都に来てからだよ」
「いや、偶々だろ」
「最初の依頼の後、ダルクって人から呼び出されたのも偶々なの?知ってると思うけどあの人『首渡し』から宝石買ってるって噂だよ」
ヤバいな、嫌な汗が出てくる。そして俺の『偽装』スキル言う事聞かないぞ。反抗期かな。
「それに『首渡し』が野盗を壊滅させた話が出る前に必ずギンはそっちの方角の依頼受けてるよね?最初は南、次が東、最後が北であってるよね?」
な、何でだ。別に悪い事してる訳じゃないのにごめんなさいしたくなってきた。だけどまだだ、まだ誤魔化せるはずだ。
「いや、ホントに偶々だって。いやあ偶然って怖いですねえ。・・・大体俺Eランク、弱いから、野盗団とか大人数相手できないから、殺されるから」
これはかなり説得力あるぞ。このまま弱さアピールしていけば押し切れる!
「今日、訓練場でBランクのドミルさんに圧勝したんでしょ?クオンが忘れ物取りにギルドに行ったらドミルさんが笑いながら話してたの聞いたって。Bランクに圧勝っておかしいよね?しかも『首渡し』もギンと同じで一人で行動してるよね。」
ドミルうううう。何で負けた事言い触らすんだよ、Bランクのプライドは?くっそおお、口止めしとけばよかった。
「ど、動機「動機は『カークスの底』かな?ギンは大分懐いてたもんね」
あかん、これはもう駄目だ。
「・・・はい」
もう誤魔化しは無理そうだと判断して正直に話す。しっかし俺の『偽装』スキル仕事しないな。
「リマ、どうだった?」
洗い物を終えたクオンが手を拭きながらこっちにきながらリマに尋ねる。
「真っ黒」
これはもうクオンも知ってるって事か。そうすると後はどれだけ広まってるかってのと、口止めしておかないといけないな。
「分かった。正直に話すからそっちもこれから話す事は内緒にしててくれ。想像通り俺が『首渡し』だ。言っとくけど俺が名乗った訳じゃないからな。勝手にそう呼ばれてるだけだぞ。動機はリマの言った通り師匠達が殺された事に対する八つ当たりだ」
何故か床に正座して椅子に座るリマとクオンに説明している。何でだ?俺別に悪い事してないよな?
「名乗り出なかった理由は何?」
「目立ちたくなかったんだよ。特に都だと貴族も多いから目をつけられやすいだろ。師匠からも貴族と関わるのだけはやめておけって言われたからだよ。それよりもこっちからも質問だ、この事他に知ってる奴はいるか?」
ホントは目立ってクソムカつく国に俺が生きている事がバレるのを防ぐ為だけど。まあ貴族も少しは理由にあるから嘘じゃないな。
「いないよ。今ギンに聞くまで想像でしかなかったし、ギルド職員がデマを流す訳にもいかないしさ」
そうか、それなら知ってるのはこの二人か。
「なら、この事は黙っていてくれ。頼む!」
「別に言い触らすつもりはないよ。私達ギンには返しきれない恩があるんだから。ただ、一応言っておくと、私達でさえギンに辿り着いたから、近いうちにプロの情報屋なら辿り着くんじゃないかな」
リマからそう言われて少し考える・・・確かに俺の存在は非常に怪しいけど、証拠が何もないからな。今回はいきなり聞かれて動揺してシラを切り通せなかったけど、次からは大丈夫なはず。
「まあ、証拠がないから、お前らとダルクさんが黙ってくれてればバレる事はないよ。ダルクさんへは誰にも見つからずに接触する方法もあるからな」
「ギンは今後も野盗を潰して回るの?危ないよ?」
2人から心配されるが、俺はやめるつもりはない。
「ああ、いるって分かれば潰しにいくぞ。危ないとは思うけど、俺のスキルで何とかなるさ」
そうして明日受ける依頼について相談したり、下水の大鼠退治なんかの話を聞いたりした後、俺は宿に戻った。
翌日の依頼も特に問題なく終わらせて、約束の大鼠掃除の日を迎えた。約束の時間少し前に東門に着くと既に『ウェイブ』と『戦乙女』は集まっていた。
「悪い、俺が最後か」
待たせた事を謝るが、別に二組とも怒ったようではなく、ゴドルも、
「まだ時間じゃないから気にしてねえよ、でもまあ揃った事だし、行くか」
そう言ってくれたので、それ以上は気にせず下水に向かう事にする。すぐに下水の入り口に着くと早速鼻を厳重にガードしたり木の棒と盾セットを取り出したりして準備を始めるが、俺が準備完了すると、俺の装備を見たみんなから笑われる。
「ハハハハハ、その装備なんだよ、ギン。いくら盾持ってないって言ってもそんな木の板はないわー」
ゴドルのデカい声で周囲にいる他の冒険者からも注目されて俺の装備を笑われる。
あれ?おかしいな?師匠と大鼠討伐に行った時はこの装備だったんだけどな?もしかして都の大鼠ってドアールより強いのか?
と思いゴドル達に聞いてみるが、別段強い訳でもなさそうだ。不思議に思いながらも『ウェイブ』と『戦乙女』の装備を見てみると、普段より少しボロいのを装備している。周囲の冒険者も普通の装備で挑むようで、俺と同じ装備をしている奴はいなかった。
「まあ、笑いたけりゃ、笑ってろ。取り合えず俺から先に行かせてもらうぞ」
ゴドル達だけじゃなく周りの冒険者にも笑われながら俺は下水を進んでいく。やっぱり大掃除が始まってから3日目ともなると入り口近くに大鼠の姿はない。しばらく進むとようやく反応があったのでそちらに向かっていくと大鼠を見つけた。懐かしいとか思いながら『光』を大鼠に向かって投げるとこちらに気付いて向かってくる。俺は盾を構えて待つと、懐かしい衝撃が手に響く。衝撃が来た後、盾から覗くと大鼠が失神しているので、木の棒で殴りつけて終わりだ。死んだのを確認してから尻尾を切って下水に蹴り・・・遠いな。下水の形は同じだけどドアールより広さが5倍ぐらいある。鼠の死体を蹴り転がして下水に落として1匹目は終了。ふと気づくとさっきまで笑っていたゴドル達が静かになっている。
「おい、ギン、何だその倒し方!簡単すぎだろ。しかもだ、もしかしてその装備ってこれ終わったら・・・」
「持ち歩いて変な病気になったら嫌だから捨てるぞ。セットで銅貨1枚だから捨てても気にならないし」
そう言うと、何故か予備が有ったら売ってくれと頼まれたので各パーティ3セットずつ売り払うとさっそく装備し始める。
「お前ら、いつもどうやって倒しているんだ?」
笑われたから師匠に教えて貰った方法が一般的じゃない事は分かるが、普段どうやって大鼠とか討伐していたのか気になった。
「大鼠を全員で囲ってどんどん追い立てて疲れて動きが止まった所を古い装備で殺してたんだけどよ・・・まさかこんな簡単に倒せるとは思わなかったぜ」
教えて貰った方法はかなり効率が悪かった。ただ今回こんなにたくさんでゾロゾロ行動してる理由は大鼠を追い立てる為だと分かって納得だ。そして何で手持ちの盾を使わないか聞いたら、変な病気になる可能性があるから極力使いたくないと教えてもらった。
そうして、ここからは一緒に行動する必要もなくなったのでパーティ毎に分かれて、ゴドル達からすればかなり効率的に、鼠を狩っていった。途中何度も大鼠を大人数で追い立ててる集団を見たが、思った通り効率が悪そうだった。そして、俺が簡単に大鼠を狩っているのを見た奴等が間抜け面でこっちを見ていたのが面白かった。そうして、効率的に狩りながら下水を進んでいくと、
「・・・あるのかよ」
ドアールの街と同じように、マップで隠し部屋を見つけた。しかもドアールより少し広い空間が広がっている。どうするか・・・さすがに期間中はやめておくか。終わった直後ぐらいなら誰も入ってこないだろ。落し物したとか言ってくればいいか。隠し部屋について考えながら残りの大鼠を始末し終え東門に戻ってきた。戻ってきたが、『ウェイブ』も『戦乙女』の連中もまだ戻ってきていない、手伝いに行こうかとも考えたが、あの臭いのきつい下水に後日もう一度入って行く事に決めているので、今の時点では戻りたくない。だいたい1時間程待っていると、まずは『ウェイブ』連中が戻ってきて、そこから30分ぐらいで『戦乙女』連中が戻ってきた。
「ありゃ、ウチらが最後かい。悪いね待たせて。これでもギンのおかげでかなり早いと思ってたんだけどね」
ゴドルも俺も別に文句はないので手を挙げて返事を返す。
「いやあ、トアの言う通りだぜ、今日は1日下水にいる覚悟はしてたけどよ。まだ昼前だぜ。信じられねえ。しかも俺らの装備見て笑ってた奴等、俺らが簡単に大鼠倒してんの見た時の間抜け面、腹抱えて笑ったぜ」
ゴドルの言葉に釣られて笑う俺以外の奴等に俺は冷たい視線を送ってやる。こいつらも最初は俺の事笑ってたよな。
「そんな顔しなさんな。最初は笑って悪かったよ。みんなギンの事、感謝してるよ。それよりあの戦い方ってギンが考えたのかい?」
俺の冷たい視線も気にすることなく背中をバンバン叩いてきながら、ジェミーが質問してくる。
「いや、俺は師匠から教えてもらったぞ。ドアールだとみんな・・・・あれ?みんな使ってたか?師匠達しか使ってんの見た事ねえな」
そういえばウィート達とは木の棒盾セット使うようなクエスト行ってないな。新人クエストで師匠とギースさんが使ってるのしか見てない。・・・でも大鼠掃除の時使うから大半は持ってるって聞いたような。
「へえ~。やっぱりギンの師匠ってすごいのね。」
普段は滅多に話さない『戦乙女』斥候役のリズが師匠を褒めるので、俺も鼻が高くなってくる。このリズは背は俺より小さいが『戦乙女』所属なだけあってなかなか素晴らしい筋肉を持っている。そして『戦乙女』にはあと、セシルとティナっていう無口な二人がいる。リズはたまに話を振ると返事を返してくれるが、この二人は頷くか首を振るだけでしか意思表示をしてこないので声を聞いた事が無い、更にいつもフルフェイスの兜を被ってるから顔も見た事がない。トアからはあんまり気にしないでと言われてるので、気にはしていないが、流石に今日もフルフェイスは臭いがきつかったんじゃないかと心配になってしまう。
「おう、当たり前だろ、俺の師匠だからな。木の棒盾のセットは常に持っとけって教えてくれたのも・・・そう言えば木の棒盾セットを売ってる店知らないか?今日使った奴は捨てたから新しいの買わないといけない」
師匠からは常に持ってろと言われていた事を思い出したので、みんなに聞いてみるが心当たりがないようだ。仕方ないからギルドに尻尾の納品行った後に武器屋探してみるかと考えてゾロゾロとギルドに向かっていると、途中の露店の武器屋に普通に売ってたので、予備含めて2セット購入する。すると、何故か全員俺の真似をして買おうとしたが、武器屋もまさかこんな物が日にそう何個も売れると思っていなかったみたいで、他3人が1セットずつ買った所で売り切れとなった。買えなかった奴等は明日また買いに来る事を伝えて店を離れた。その後、俺達の大鼠掃除を見た奴等がその日の内に都の武器屋から木の棒盾セットを求めて探し回っていたと聞いたのは翌日だった。
「よし、これで終わりだな。いやあ、何度も言うけどギンのおかげでかなり早く終わったぜ。俺達今から風呂に行ってくるけど、お前らどうする?」
「・・・風呂!!ゴドル!お前今『風呂』って言ったよな?あるのか?」
エレナは確か貴族ぐらいしか入れないって言ってたはずなので、聞き間違いかと思いながらもゴドルに確認してみる。
「ああ、少し高いが、平民でも入れる風呂があるぞ。何だ、ドアールには無かったのか?興味あるなら一緒に行くか?」
そりゃあ、日本人なら行く一択だ。ゴドルの提案に当然一緒に行くと答える。普段は『自室』に戻ってもシャワーしか浴びてないからかなり楽しみ、テンションが上がってきたああ。
「ギンの楽しそうな顔見てたらウチも行きたくなってきたねえ。あんたらどうする?」
トアが自分のパーティメンバーに確認すると、残りのメンバーも頷いたので結局全員で行く事になった。途中トア達に聞いたが、都でも普段は桶に張った水でタオルを濡らして体を拭くだけでドアールとそう変わらないそうだ。ただ、『水都』は水が豊富な事もあり、平民用の大衆浴場みたいな施設があり、普通は月に1回、多い人だと週に1回程利用するらしい。
「は~。天国~」
全員で訪れた大衆浴場の湯舟に浸かると、誰に話しかけるでもなく自然と言葉が出てくる。これで1回銅貨5枚、日本円で5千円ぐらいか。金はあるけど、さすがに毎日来るのは贅沢だな~。浴場の入湯料を考えながらどれぐらいの頻度でここに来ようかなとか考えている。至福だ。
「おい、何だこれ、髪サラッサラッになるぞ」、「こっちなんて見ろよ、何でこんな泡立つんだよ」、「馬鹿!泡流してみろサッパリ感がヤベえぞ」
「おい!お前ら五月蠅いぞ。静かにしろ!」
俺の至福の時間なのに、さっきから騒いで五月蠅い『ウェイブ』の連中に文句を言う。
「いや、だってよ・・・何かすげえよ、お前の持ってきた奴」
俺の隣で湯舟に浸かるトルティが俺の持ち込んだシャンプーとボディソープを語彙力の低い言葉で褒める。トルティの言う通り、俺の持ち込んだシャンプーとボディソープはこの店の石鹸っぽい奴よりは、はるかにマシだった。最初店の石鹸っぽい奴を使って体を洗ったが全然泡立たないし、洗い終わった後も汚れが落ちた感じがしないので、シャンプーとボディソープを持って来て再度体を洗っていたら、最初トルティが、その後残りが使ってみたいと言って来たので使わせてやったらこの騒ぎである。風呂は静かに入ってほしいもんだ。
「待たせて悪いねえ」
銭湯の受付前で湯船で温まった体を冷ましながら『戦乙女』が出てくるのを長い事待っていると、ようやく出てきた。異世界でも女の風呂は長いのは変わらないみたいだ。しかし湯上りだと『戦乙女』の印象が大分変るな。
「おお、なんか湯上りだと、お前らでも女に見えるな」
ゴドルが失礼な感想を言ってトア達から蹴られているが、俺も全く同じ事を考えていた。口にはしないけど。
普段は三つ編みにしたり、髪をガチガチに縛って戦闘の邪魔にならないようにしている奴等が、風呂上りはみんな髪を下ろしているので、全く印象が違う。トアなんて普通の服を着ているからいつものビキニアーマーより露出が少ないというおかしな事になっている。ただ、
「お前ら何で風呂上りでも兜被ってんだ?その格好はおかしいぞ」
ヤーツの言う通り、セシルとティナは風呂上りでも兜を被って顔が見えない。しかも兜しか被ってないから余計におかしい。
「この二人の事は気にしなさんな。それよりあんた達、何か髪が・・・ちょっと失礼・・・!!な、何だいこの髪!サラッサラッじゃないか!何使ったらこんなになるんだよ!」
ジェミーが驚くと、今いる面子の中で一番髪の長いリコルが、肩まである髪を『戦乙女』からもみくちゃにされている。そしてリコルの髪を触った奴等がその感触に驚いている。結果俺が持って来たシャンプーを使った事がバレると、『戦乙女』全員から詰め寄られた。五人中二人は兜を被っているから少し怖い。隠す理由もないので、さっさとシャンプーとボディソープを渡して説明すると、『戦乙女』全員また体を洗いに行ってしまった。金さえ払えば当日中は何回でも風呂に入っていいらしい。
そこからかなり待たされてようやく出てきたと思ったら、セシルとティナがまだ出てこないがトアから男達だけ集合させられる。
「いい!あんた達だから信用するからね!今からセシルとティナが兜無しで出てくるけどこの事は誰にも言わない事!」
よく分からん約束をさせられる。まあ信用してくれるんだったらそれを裏切るつもりはない。それよりもセシルとティナがどんな素顔なのか好奇心が湧いてくる。あれだけ顔を見せないって事は、ものすごい美人か、顔に酷いケガをしているかのどっちかだと予想する。
男全員が約束した所で、リズが女湯の奥からセシルとティナを連れて出てくる。・・・美人の方だったか・・・髪の色は違うけど顔はよく似ているので姉妹なのか?
「へえ~。こんな顔してたのか。そりゃあいつも兜で顔隠してないとナンパで大変な事になるな。顔似てるな姉妹か?」
「で、どっちがどっちだ?」
俺とゴドルが質問すると、セシルとティナは少し驚いた顔をしながらも自己紹介してくれた。
「私がセシル、盾持ってる方、こっちがティナ、片手剣持ちの方よ。ゴドルの想像通り姉妹で私が姉よ」
腰まである長いピンク髪の美人が答えてくれる。こっちがセシルで、緑髪のショートカット美人がティナか。二人とも姉妹だけあって顔もスレンダーな体系もよく似ている。
「やっぱりウチの予想通り、ゴドルとギンは興味無しか。残ったあんたらには言っとくけど、二人とも男嫌いでナンパされるのを避ける為にずっと兜被ってたんだからね。くれぐれも二人に変な事考えないように」
2人の美人を前に目が飢えた狼のように変わった4人には、トア達から事前に注意される。注意された4人はすぐに視線を逸らしたので、守ってくれるかは微妙な所だろう。
「なあ、それより腹減ったぞ。ここで何か食ってこうぜ」
日本の健康ランドによく似ているこの大衆浴場は食事処もついているので、ここで昼飯を食べようと誘うとゴドルは大きく頷いて賛成の態度を示すが、それ以外が呆れたような驚いた顔をして俺をみてくる。
「あんた、セシルとティナの顔見て、これで終わりって・・・聞きたい事とかないのかい?」
「そう言われても腹が減って、今はそれしか考えられねえ」
「だな、腹減ったから飯食いながらでも話はできるだろ。行こうぜ」
ゴドルも俺の提案に賛成してくれたので、ここで昼飯となった。
「そういや、どっちか家借りてないか?」
リマとクオンにBBQする約束して場所を探さないといけないと思いつつ全く探していない事を思い出して、ゴドルとトアに聞いてみたが、
「俺らは宿で暮らしてるな。まあ、ぼちぼち借りるかなんて話も出てきた所だな」
「ウチらはボロ家だけど借りてるよ。女パーティだから宿に泊まっても安心できないしね。家ならセシルとティナも気兼ねなく兜外して動けるからね」
ゴドル達は駄目で、トア達が借りている事が分かったので、お願いしてみる事にする。
「それなら、トア達のメンバー全員のOKが貰えたら庭でBBQやらせてくれないか?」
「BBQ?何だいそれ?」
やっぱりこっちではBBQってやらないみたいだと分かり、トアにBBQについて説明する。
「へえ~。変わった料理の仕方だねえ。外で食べるだけで、美味しさが変わるとは思えないんだけどねえ。・・それでウチを使わせるとタダで食事にありつけるって訳だね」
BBQについて説明するとその美味しさについては半信半疑のトアだが、タダ飯は興味を持ったようだ。
「この間、リマとクオンとジェネラル肉食った時に今度はBBQしようって約束してな、都の中で火起こししても怒られない場所を探してたんだよ」
「・・・ジ・ジェネラル肉!!何で・・ギンがそんな高い肉・・・そう言えばこの間倒したって言ってたわね・・・ま、まさか売らなかったの?」
「ああ、ジェネラルの肉は全部引き取った。さすがに3人だと全然食べ切らなかったからまだ余ってるぞ」
「・・・え?って事はBBQって奴でジェネラル肉食べるの?・・・いや、さすがにその頃には腐ってるよね」
「心配しなくても保存の魔道具に入れてるから腐らないぞ」
この前ジェネラル肉を食べ終わってもまだ肉が余ってると知ってるリマとクオンが保存の魔道具買わないと、とか騒いでいたので、俺がその魔道具を持ってる事にして安心させたので、トアにも同じ噓をついて安心させる。
「ホント!それならあとどれくらい残ってるの?ウチ達も食べさせて貰えるならみんなOKしてくれると思うよ!」
「ちょっと待て!ギン、俺らも当然肉食べさせてくれるよな?」
トアとの交渉がまとまりそうだったが、ゴドルが口を挟んでくる。
「俺は肉、トア達は場所、お前らは何を提供してくれるんだ?」
「・・・・酒・・・そう酒だ!樽でビール持って来るでどうだ?」
トアを見ると頷いてくれたので交渉成立だな。これで『ウェイブ』も参加する事が決まった。決まったけどリマとクオンには一応確認してみるか。日程についてはリマとクオンの都合のいい日に開催する事となった。
「はい、受付完了。頑張ってね」
リマからギルドカードを渡され、俺は席を立つ。離れる前に俺はもう一度念をおしておく。
「じやあ、クオンにも言っておいてくれよ。で、俺が戻ってきたらどうするか教えてくれ。それじゃあな」
リマにBBQの日程と参加メンバーを伝えたがやっぱり『ウェイブ』達が来る事が少し不安みたいで、二つ返事で頷いて貰えなかった。それなら俺がこの依頼を終わって戻ってくるまでにクオンと相談して返事を聞かせてくれと頼んでおいた。
「よお、『採取野郎』!今度は何の採取に行くんだ?」、「おい!あの格好いい木の棒と盾のセットどうしたんだ?」、「今日は装備してかねえのか?ブハハハッ」
俺が外に行こうとすると、遠くから俺に向かって野次が飛んでくる。・・・・『採取野郎』・・・・ここで俺に付けられた渾名だ。まあ採取依頼しか受けてないから本当の事なので別に怒りはしない。あと木の棒盾セットについても昨日の事なのにもう知っているみたいだ。さっき受付でリマから聞いたけど、木の棒盾セットが大鼠掃除に有効なのは、知っている奴は知っているみたいで、既に昨日から動いている奴もいるらしい。ただ俺に野次を飛ばしてくる奴等はその事までは知らないみたいで、知っている奴等から冷たい目で見られているが気付いてないようだ。
そんな奴等の野次は気にせず、今回の目的地に向かって行き、3日後にはサクッっと依頼を終わらせて帰ってきた。
「どうするか決めたか?」
「うん、少し怖いけど参加するよ。いつまでもこのままって訳にはいかないもんね。普通に話せるギンがいる今なら少しずつ克服できるかもしれないから頑張るよ」
「よし、じゃあ、参加決定だな。日時は明後日お前らが休みの日の11の鐘に『戦乙女』の家に集合な。あと鉄板と金網借りる手配は任せた。明日俺が取りに来るからそれまでに手続きしておいてくれ」
リマが依頼達成の手続きをしているうちに打ち合わせを済ませてリマの受付を離れる。今回は特に魔物を倒していないので買取カウンターに用はない。そのままギルドから外に出ようとすると、また野次飛んでくる。
「『採取野郎』!今回も魔物倒さなかったのか?」、「採取だけでDランクに上がるなんてある意味初めてなんじゃねえか」、「ソロで勝てないってんなら俺らのパーティいれてやろうか?荷物持ちだけどよ」
チラリとギルド内に目をやると、野次を飛ばしている奴等以外もニヤニヤしながら俺を見ている奴等が大勢いる。大方あいつらの野次を鵜呑みにでもしてんだろうな。まあ、どうでもいいと思い出口に向かうと、俺の目の前に大男が立ち塞がった。身長はギースさんよりでけえな、顔も傷跡だらけで中々の極悪人顔だな、魔物との闘いで鍛え上げられた無駄のない筋肉、そして軽鎧を装備しているが、その鎧の光沢から明らかに高性能だと伺える、背中にはホントに振れるのかと疑いたくなるような大剣を背負っている。
「お前、あれだけ言われて悔しくないのか?それともホントにあいつらの言う通り臆病者か?」
「別に採取依頼ばっかりしてるのはホントの事だからな。言わせたい奴には言わせておけばいいんだよ。それで自分達がどれだけ俺の情報持ってるかバラしてるんだからな。逆に言えばここで俺の事を笑ってない奴等の方が注意だな」
誰だか分からん奴に何故か正直に自分の考えを話してしまった。
「それは誰かに教えて貰ったか?」
答える義理はないが、何故かこいつに聞かれると正直に話をしたくなる不思議な感覚になる。何かスキル使ってんのかな。
「ああ、そうだ。『笑いたい奴には笑わせてろ。そこで笑ってない奴が要注意だ。できればそういう奴等こそ仲良くなっておけ』って師匠に教えてもらった」
採取依頼ばっかりしていると絶対馬鹿にされる事になるからって予め師匠から教えて貰った事を目の前の大男に伝える。すると、しばらく眉間に皺を寄せて険しい顔をしていた大男がいきなり笑い出した。
「ガハハハッ、あの野郎、相変わらず油断出来ねえな。しかもそう言う事を弟子に教えて逝くんじゃねえよ。」
大声で豪快に笑う姿は何となく師匠やギースさんを思い出させるから、さっきから俺は正直に話してるんだろうか。それよりも、
「あんた、師匠を知ってんのか?」
「昔何度か臨時のパーティー組んだ事がある。おっと、忘れてた、俺の名前はギワンだ」
ギワンって名乗る大男が手を差し出してきたので、俺も手を出して握手をして、名前を名乗る。
「ギンだ、ドアールから来てまだ日が浅い。知ってると思うが『カークスの底』ガフの弟子だ」
「知ってるぞ、しかし、『カークスの底』か久しぶりに聞いたぜ。お前の腕もドミルから話を聞いた。今日はちょっと用事があるが、今度暇な時腕前を見せてくれよ。ガフ並みに色々隠し玉を持って攻撃してくるって聞いてるからな、楽しみにしてるぜ」
「ドミルの奴何て話してんだ、俺じゃまだまだ師匠の足元にも辿り着いてないから、あんまり期待されても困るぞ」
「お前、あいつの弟子ならそこは高笑いしながら自慢する所だろ」
ホントに師匠の事に詳しいみたいだ。こいつの言う通り師匠なら多分そうするだろう。
「俺は謙虚なんだよ。調子乗ると師匠達からどつかれるからな」
そう答えると、ギワンは俺に手を挙げて、大声で楽しそうに笑いながらギルドの受付に向かっていった。俺もドミル以外に師匠達を知っている奴に会えて嬉しくなりながらギルドを後にして銭湯に向かった。




