65話 『水龍姫』のテスト
「よお、ギン。また採取依頼か」
掲示板を眺めていると後ろからゴドル達が話しかけてくる。この街に来てから1ヶ月程経つがなんだかんだこいつらとは一緒に酒を飲むぐらい仲良くなった。
「ああ、師匠の命令だからな。Dランクにあがるまで討伐依頼は受けれないんだよ」
「でも、もうその人達いないんでしょ?それなら律儀に守る必要なくない?」
いつの間にか隣に来て話に割って入ってきたのは、『戦乙女』のリーダーのトアだ。誰かを思い出させるような赤い髪をしているが、似ているのはそこだけで、女だけど背は俺よりも高く筋肉粒々で防具として役に立ってるのか良く分からないビキニアーマーを装備している変態だ。『ウェイブ』と臨時のパーティ組んでた時にオークに襲われていたのを助けたのがきっかけで仲良くなった。一応こいつらもDランクパーティだが『ウェイブ』達より弱かった。そしてパーティメンバーが全員女で構成されている中々珍しいパーティだ。
「いなくても師匠の命令は絶対だ。俺の事を考えてそう命令してくれたから、守るって決めてんだよ」
「相変わらず、ギンは師匠の事盲目的に信じてんな。でも採取ばっかりだと、戦闘の勘が鈍るんじゃないか?」
事情について知っているゴドルが呆れたように聞いてくる。
「別に戦闘禁止されてる訳じゃないぞ。勝てそうなら戦ってもいいって言われてるから、たまに戦ってるぞ」
「それならいいんだけどよ。それより今日は何受けるんだ?」
「水紋蝶の採取、お前らは?」
「俺らはトア達とオーク狩りだ。この間のリベンジしたいからって付き合わされた。帰ってきたら酒奢ってもらうからいいんだけどよ」
そうしてギルドで軽くゴドルとトアと話をしてから目的地に向かった。トア達には対オーク用の師匠直伝の裏技を教えておいたけど、その裏技はゴドル達がいたら使わないだろう。まあ、使わなくてもゴドル達がいるから大丈夫だろう。
「何で、こっちにいるかなあ。ゴドル達の方に行けよ」
俺は今隠れて様子を伺いながら文句を言っている。俺の視線の先にはオークが3匹。但し1匹は斑模様があるからジェネラルだ。スキルのおかげだと思うが隠れていても匂いで俺の居場所がバレる事はなかったので少し驚いている。ウィート達と戦った時はあいつらの匂いでバレたんだろう。そうしてしばらく様子を伺っているが、その場から離れる様子はなさそうだ。近くの村まで戻るにはこいつらが邪魔だ、別に大回りすれば帰れるが、少し村に近すぎるから倒しておいた方がいいだろう。そう考えて後ろに回り込み短剣を背後からジェネラルの首に突き刺す、これで残り2匹。残った2匹は叫び声をあげてすぐに武器を構えるが、反応が遅い。すでに二匹の顔に刺激袋を投げ終わっているので、威嚇で動きの止まった二匹に直撃する。当然嗅覚の優れたオーク二匹は顔を抑えて悶えているので、隙だらけの所を首を刺して戦闘は終了した。
しかし、オーク相手に短剣だと首とか関節ぐらいしか攻撃が通らなさそうだから獲物を変えた方がいいかな。一応野盗から奪った装備で良さげなのは残してあるけど、今度から片手剣使ってみるか。そんな事を考え、今使っている短剣を太ももの予備武器用に移動して、片手剣を腰に下げてみる。いつも使っている短剣より刀身は2倍ぐらいだがあんまり違和感を感じないのでしばらくこのスタイルで行こうと決めた。あとは帰ったら『ウェイブ』の連中を誘って片手剣の練習だ。
「水紋蝶採取依頼の報酬、銀貨2枚だよ」
リマから報酬を受け取りながら、この依頼は3日掛ったので少し効率が悪いから次はないなとか考えていると、
「また採取かよ」、「何であいつ採取依頼しか受けてねえんだ」、「採取ばっかりなのは弱いからだろ。弱いからパーティにも入れて貰えない、だから採取しか出来ないってとこだろ」
リマとクオンと良く話をしているのが妬みの理由なのか都での俺の周囲の評判はあんまり良くはない。しかも採取依頼しか受けてない俺はそう言う奴等からは弱いと思われているようだ。実際は買取カウンターに倒した魔物の素材を売ったりしてるし、訓練場で『ウェイブ』の連中と訓練している姿を見ればそこまで弱くないと思うんだけど、こういう奴等に限って、そう言う所を確認もせずに決めつけて変な噂を流すから性質が悪い。1年でドアールに帰る俺は言いたい奴には好き勝手言わせて噂を否定しないのもいけないのかもしれないけど。
そんな事を考えつつ次は買取カウンターに足を運ぶ。
「あっ、ギン、何?買取?またオーク?灰狼?」
俺に気付いたクオンがカウンターの向こうから話しかけてくる。一応こいつはリマと違い他の冒険者の世間話には軽く付き合うらしいが、それでも軽くだ。俺とだけは普通に話してくれるからこれも妬まれている理由だとはわかっている。
「今日はオーク2匹とジェネラル1匹だ。どうする広い所行くか?」
俺の答えにクオンが固まる。
「・・・えっ?ジェネラルってDランクだよね。しかも必ず群れでいるから複数のオーク相手にしたって事?」
「ああ、だからオーク2匹もいるって言っただろ?」
何をそんなに驚いているのか、オークなんてこっちに来てから2回ぐらい買い取ってもらったはずだけどな。
「ど、ど、どういう事?誰かに助けてもらったの?あっ、『ウェイブ』ね。あいつらとまた臨時のパーティー組んだんでしょ?」
「いや、あいつらは今『戦乙女』とオーク狩りに行ってるぞ。さっきから何慌ててんだよ、落ち着け。3匹とも俺が倒した奴だ、それより早く買い取りしてくれよ」
何でここで『ウェイブ』が出てくるのか分からないけど、あいつらは今ごろトア達『戦乙女』と仲良くやってるだろう。
「な、な、何で?どうやってソロでジェネラルの群れとか倒せるのよ。ギンはまだEランクでしょ。ホントはソロでオーク倒すのも驚かれるレベルなのよ」
「そうなのか?でもドアールだとEランクの奴等でもジェネラル倒していたぞ?」
『鉄扇』も最初はビビってたけど慣れたら結構楽勝って感じで倒していたけどな。そもそも俺は後ろから奇襲で仕留めているから厳密にはジェネラルと戦ったとは言えないと思うんだけどな。
「ええっ?ドアールってそんなに冒険者のレベル高いの・・・そっか・・私達弱かったんだ」
ああ、クオンの奴、冒険者だった時の事を思い出して落ち込んでる。
「どうした、トラブルか?」
落ち込んでいるクオンを何と言って励まそうかオロオロしていると、その様子に気付いた別の職員が近づいてきた。
「いえ、クオンの奴が勝手に驚いて落ち込んでるだけです」
「先輩!ギンの奴ジェネラルとオーク2匹倒したって言うんですよ!ソロのEランクが!そりゃあ、驚きますよね!」
俺の言葉に怒ったのか先輩に詰め寄り大声で確認する。別に大したことはないと思うんだけど。
「・・・・そりゃあ、すげえな。でもホントか?物がないみたいだけど」
先輩も驚くが、そんなに凄い事なのかなと思いつつ、死体を取り出すと、周りの職員も目を見開く。・・・何か嫌な予感がするな。
「・・・マジか。ほ、ホントに一人でやったのか?」
「しかもですよ!ドアールの街のEランク冒険者だとこんなん普通とか言うんですよ!」
普通とは言ってないぞ。倒した奴等もいるって言ったんだけど、流石にそこは訂正させてもらった。
「いや、それでもEランクでジェネラル倒せる奴等がいるってのには変わりないだろ。あの街のレベルどうなってんだ?」
訂正はしたが、それでも驚かれる。まあ、ウィート達の評価が都で高くなってもあんまり関係ないか。
「それよりも、これよ!これ!ホントに倒してるじゃない。しかも全部首を一撃ってどうやったのよ?」
別に隠す訳でもないので、その時の状況を簡単に説明する。
「理解はできるけど、初手から不可能でしょ。オークに奇襲って匂いどうやって対策したのよ」
更にクオンが質問してくるが、いい加減買取を済まして欲しいなと思いつつスキルのおかげだと言うと納得してくれたみたいでようやく査定に入ってくれた。
「えっと。首しか傷がないけど、ジェネラルは少し小さいから金貨5枚かな、オークは1匹金貨1枚になるわ。どうする?」
「じゃあ、それでいいぞ。解体費用は引いといてくれ」
そう言うと、何故かクオンはモジモジし始める。気持ち悪いな。
「えっと、ギン、ジェネラルのお肉って自分で引き取らないの?」
クオンが猫なで声で聞いてくるので、何を考えているか分かった。そう言えばガジ達にも食わせてやりたいから確保しとくか。まあその前にこいつに食わせる事になりそうだ。
「やっぱりジェネラルの肉はこっちで引き取る。そうするといくらだ?」
「全部で金貨4枚になるわよ。これでも結構色付けてるから、色!」
クオンが恩着せがましく言うが、色々情報教えて貰ったお礼だと思えば別に構わないし、こいつの食べる量もたかが知れてるだろ。
「分かってるよ。今度食わせてやるよ。いつがいい?」
「明日!リマも休みだからどう?」
はええな。でも明日依頼受けなければ問題ないか。クオンに了解と伝えてから俺は宿に戻った。
翌日は依頼を受けるつもりはないが、どんな依頼があるか確認する為にギルドに足を運んだ。今日は夕方にリマとクオンの家でジェネラルの肉を食べさせる約束をしているだけなので時間はたっぷりある。先に買取カウンターで肉を受け取った後、のんびり掲示板を眺めて、明日はどの依頼を受けようか考えていると、いきなり肩を組まれた。『ウェイブ』の誰かだろうかと思って横を向くと、全く知らない奴だった。しかもかなりのイケメンだ。もしかして誰かと間違えてる?と思ったが。
「お前がギンだな。少し付き合え。姫が腕を見たいそうだ」
一方的に言われ状況が良く理解できず混乱している俺は訓練場までそいつに引っ張られて連れていかれた。そうして訓練場まで来るとイケメンは武器を物色し始める。
「なあ、あんた誰だ?面識はないはずだよな?」
俺が聞いても無視して返事が返ってこない。何だこいつ、ムカつくな。と思っていると、イケメンは俺に片手剣の長さの棒を投げてくるがムカついた俺はそれを受け取らない。地面にコロコロ転がる棒をイケメンはただ黙ってみている。
「質問に答えろよ。俺と訓練したいみたいだけど何が目的だ?」
「姫が腕を見たいと言っただろう。Bランクの俺がEランクの相手をしてやるんだ。つべこべ言わずにかかってこい」
Bランク!今こいつBランクって言ったな。最近強い奴と訓練してなかったから丁度いい。こいつが誰とかどうでもいいや。しかもBランクってカイル達より上、ドアールのギルマスより下って所かな。まあいい、訓練してもらおう。
という訳でこいつが誰かは置いておいて地面転がった棒を拾ってイケメンに攻撃を始めるが、さすがBランク強ええ。俺の攻撃が全然当たらない。しかも結構余裕そうだ。それなら『生活魔法』でも使ってみるかと思っていると、イケメンがチラリと俺の背後に視線を送った。次の瞬間今まで守ってばっかりだったイケメンが攻撃を開始した。攻撃も一撃が鋭い、躱すのもギリギリだったが、俺の動きに慣れたのかついにイケメンの攻撃が俺を捉える。
ガッ!
何とか手に持つ棒でイケメンの攻撃を受け止めたが、思った通り一撃が重い。耐えきれず棒を取りこぼしてしまう。
「参った。降参だ」
武器を落とした俺は素直に負けを認めた。そしてもう一回イケメンに挑もうとしたが、イケメンは俺の背後にまた視線を送ると、俺に興味を無くしたのか、そのまま立ち去ってしまった。イケメンの視線が気になったので後ろを振り返ると、周りをイケメンに囲まれた青い髪の女の後ろ姿が去っていく所が見えた。
そして、一人放置される俺。・・・何だったんだ・・アレ。これで終わり?かなり消化不良なんだけど。このやりきれない気持ちはどうすればいい。とか思っていると、
「ガハハハッ。姫のお眼鏡には敵わなかったみたいだな」
呆然とする俺の背中を笑いながらバシバシ叩く髭面の中年の男。
「あんた、誰?っていうか今の何だったのか分かるのか?」
「ワシは、ドミルBランクじゃ。『大戦槌』ってパーティーのリーダーをやっとる」
「ギンだ、ソロで動いてる」
よく分からないが名乗ってくれたので、こちらも名乗り返すと、
「知ってるぞ、Eランクなのにジェネラルをソロで倒したって昨日から一部で話題になっとったからな」
昨日のクオンとのやり取りが噂になっているみたいだ。そう言えば今日掲示板眺めてる時にいつも聞こえてくる陰口が今日は聞こえてこなかったような。
「それでさっきのじゃが、お主『水龍姫』に興味を持たれたみたいじゃな。結果は失格だったようじゃがの、ガハハハッ」
いや、笑われても何がおかしいのかが分かんないんだけど。
「クラン『水龍姫』のカラミティがお前の強さに興味を持ったんじゃよ。それでさっきのイケメンに相手をさせて実際どのくらいの強さか確認した所じゃ。姫のお眼鏡に敵えばそのままスカウトされるんじゃが、何も言わずに立ち去ったからお主の腕は不合格じゃったみたいだな」
・・・えっ?なに?俺の知らない所で勝手にテストされてたの?『水龍姫』の事についてはクオン達の話に聞いてたけどムカつくクランだな。逆に勧誘されても困るけど・・失格だったって事は今後絡まれる事はないだろ。ただ、この不完全燃焼の体をどうにかしたいな。
「なあ、ドミルって言ったか。暇なら訓練の相手してくれないか?」
「ガハハハッ、EランクがBランクに頼んでくるか。面白い、ワシも丁度暇しておった所じゃ、特別に相手をしてやるわい」
相手をしてくれるそうなのでドミルにお礼を言ってから訓練を開始する。
「かあ~やっぱりBランクは強いな~」
やっぱりBランクは強すぎて全く俺の攻撃が当たらないし、向こうの攻撃は鋭くて重い。
「ガハハハッ、お主もEランクにしてはかなり強いがまだまだじゃな。しっかし弟子だけあって動きが似てるな」
ピクッ
ドミルの一言に反応する。今俺に何て言った?弟子って言ったよな。
「あんた、師匠の事知ってるのか?」
疲れて倒れていた俺は師匠の話題で元気を取り戻し、起き上がりドミルに詰め寄る。
「ああ、あいつら『カークスの底』とはワシ等がDランクの時に何度か臨時のパーティ組んだりした事があったぞ。半年程しかいなかったが、あいつらの印象は強烈だったからな。イケメンに美女2人に極悪人顔2人の良く分からん組み合わせのパーティもだが、男達は腕も確かで気前も良かったからクランの派閥とか関係なく色んな奴等から好かれておった」
おお、師匠達、都にもいた事があるのか。確かにカークスからならドアールに来るまでに『水都』通るから、しばらくここに滞在していても不思議じゃないな。
「昨日お主の噂を聞いて少し調べさせて貰った。Eランクじゃし、最初は声を掛けるつもりはなかったが、まさかガフの弟子じゃったとはな。懐かしくてつい声を掛けてしまったわい。まあ、ガフの弟子なら少しは期待しておったんじゃがな」
・・・うん、今聞き捨てならない事を言ったな。・・・師匠に恥をかかせる訳にはいかない。
「おい、ドミル。もう一度だ、次は少し本気だす」
「ガハハハッ、さっきまではBランクのワシに手を抜いておったのか、でかい口叩くのはいいが、自分の実力を分かってないとすぐに死ぬぞ・・・・・・・いいじゃろう。かかってこい」
俺の言葉が冗談だと思ったのか笑い飛ばすが、俺の顔を見て本気だと信じてくれたのか真面目な顔になり武器を構える。
ザッ!
武器を構えてドミルとしばらく対峙するが、攻撃する為に懐に飛び込んでいく。当然馬鹿正直に突っ込まず回り込みながら、フェイントを入れながら攻撃していくがさっきと変わらず、攻撃を受け止められる。
「何じゃ、あんまり変わらんのう」
俺の攻撃を受けながら呆れたようにいうドミルだが、こっからだ。『火炎放射』!
ドミルが俺の攻撃を受けた瞬間俺の持つ棒の先から火柱があがる。
「なんと!」
驚きながらも体を逸らしてドミルは火柱を躱す。さすがにあの距離から躱されるとは思ってなかったので俺も驚きながら、ドミルから距離をとるが、既にドミルの頭上には『水』を置いている。
「なんじゃ?・・・チィッ!」
距離を取った俺から注意を外さないドミルだったが、何かしらの気配で頭上に配置して落下してくる『水』に気付くと舌打ちしながらこれも転がり躱すが、
「闇」
「光」
今度は口にして魔法を唱えると相殺されるが、ここからはいつものパターンだ。
「闇」
「光」
攻撃を仕掛けながら「闇」を使って視界を奪おうとするがすぐに対処してくる。だが、これが狙いだ。そうしてしばらくしてから『闇水』を使うが詠唱はの言葉は、
「闇」
いつものようにブラフの詠唱を使いドミルの魔法の相殺を誘う。
「光・・・・なっ!」
ドミルは当然のように相殺するが、中から水が出てきた事に驚いて隙を作る。隙が出来る事が分かっている俺は魔法を放つと同時にドミルに詰め寄っている。これで水を被って大きく隙が出来た所を後ろに回り込んで首に棒を当てれば俺の勝ちだ。・・・・と考えていたのだが、水に驚いたドミルは向かってくるのが唯の水と判断したのか視線を俺に向ける。
・・・このパターンはマズい!カイルと同じだ!
バシャッ!
ドミルが水を被った瞬間俺は大きく横に飛ぶ。と同時にドミルが剣を盾にして正面にタックルしてきやがった。
・・・あっぶね~。あのまま行けば、タックル食らっていたかもしれない、躱して後ろに回りこんだ所で、そこにはドミルは既にいない。どっちにしろ俺の得意パターンは失敗かよ。でも初見で対処してくるなんて流石Bランクだな。
「ガハハハッ、中々面白い攻撃してくるのう。かなり焦ったわい。しかしお主魔法も使えるのか?」
顔に被った水を払いつつ俺に世間話感覚で質問してくるドミルだが、全く隙が無い。さっきより本気になったみたいだ。
「唯の『生活魔法』だよ。少し変わった使い方が出来るけどな」
言いながら右手で『火』、左手で『風』を作る。そこから両手を体の正面で合わせて『火炎放射』にする。隙だらけだけど多分ドミルはここでは攻撃してこないだろう。
「ほお、こりゃあ、すごい。無詠唱は見た事があるが、2つ同時に使う奴は初めてみたわい。しかもそれを合成する事ができるとは・・・」
「たかが『生活魔法』だ、別に凄くないぞ。それにこの合成も2人でやれば誰でも簡単に再現できるからな」
驚くドミルにいつものように説明すると、納得してくれたみたいだ。
「それが本当かは今度試してみるわい。ただ、一人で無詠唱の『合成生活魔法』を使えるってのは、相手の意表をつくのに適しておるな。・・・・さて、解説はここまでにして、どうするんじゃ?続きをやるか?」
Bランクが相手、まして師匠を知ってる奴だから当然やるに決まってる。
「もちろんだ。次はとっておきを使わせてもらうからな」
とっておきは『身体強化』と『影魔法』の二つ残っている。当然『影魔法』は人前じゃ使えないので次は『身体強化』を試すつもりだ。
「ガハハハッ、まだ何か隠しておるのか。そういう所も師匠に似たのか」
・・・どういう所だろ。これはこの後少し話を聞かせてもらおう。そう考えながら『身体強化』を発動させ、訓練を始めた。
「参った。ワシの負けじゃ」
棒を突き付けるとドミルが負けを認めた。・・・『身体強化』やっぱり強いな。ドミル相手でもまだ余裕があった、ギルマスが言うようにこれは切り札として使う方がいいな。
負けを認めたドミルから突き付けた棒を下ろして、さっき俺が弾き飛ばしたドミルの使っていた棒を拾い渡す。
「ギン、お主のそれは『身体強化』か?・・・いや、言わんでもいい、久しぶりに気持ちいいぐらい圧倒されたわい、ガハハハッ」
「まあ、これは反則技みたいなもんだ。俺の実力はまだまだEランクだよ」
地面に座っているドミルの手を引いて起き上がらせながら答える。これは『身体強化』を覚えた時にギルマスからそう注意されたので、俺も『身体強化』を使ってない時が俺の本当の実力だと思っている。
「何じゃ、こんなすごいスキル持っておるのに謙虚な奴だな。ガフなら大声で自慢しておるぞ」
・・・確かに師匠なら笑いながら言ってそうだ。でもまあ、俺は俺だ。
「訓練付き合ってくれてありがとな。飯でもおごるよ、どうだ?」
「ガハハハッ、そういう所もガフに良く似ておる。あいつも訓練に付き合うと飯を奢ってくれたからな」
少し嬉しくなる事を聞きながら、俺とドミルはギルドに向かった。
ギルドに移動してきて飯を食べながらドミルから師匠達の話を聞いている。
「あいつらは半年しか都にいなかったが、中々強烈じゃった。ここに来た時は極悪人の顔した奴等が美人を連れてきたと騒がれておった」
その騒ぎは何となく想像できるな。俺もその場にいたらかなり驚いただろうな。
「あいつらがここに来た時にはDランクだったが、その頃には既にガフ達男共は同じDランクの中でも強さが頭一つ飛び出していたな。特にガフの奴は奥の手を何個も持っておってな、お前みたいな奴だった。ただ、連れの女2人がランクが低くて、それを庇いながら依頼をこなしてるもんだからよく失敗しておった」
へえ~。師匠達、都に来た時点でDランクだったんだ。エステラさんとターニャはまだ加入してからそんなに時間が経ってなかったのかな。
「ギンなら言わんでもわかるじゃろうが、あいつらあんな顔しても根は良い奴等でな。すぐに色んな奴等と仲良くなって臨時のパーティー組んだりしておった。それからしばらくしたら、仲間の女の色気のある方が馬鹿貴族に気に入られてな。元々クランの派閥に嫌気が差していたあいつらはすぐに都を離れていったって所じゃ」
色気のある方ってどう考えてもエステラさんだな。馬鹿貴族に気に入られたって大丈夫だったんだろうか・・・ドアールでケインさんと幸せそうにしてたから大丈夫だったんだろ。しかし師匠達も派閥が嫌だったのか。俺も話を聞いたけどあんまり好きになれないんだよな。特にカラミティって奴の所!
「そういや、ドミルってBランクって言ってたな。どこかのクランに所属してんのか?」
「ワシみたいなのは『ガーデン』に決まっておるじゃろ、数は多くてクラン戦に参加できる回数は少ないが、クラン戦以外は特に決まり事も無くて自由じゃからな気楽でいいぞ。そうじゃ、ギン!お前もCランクに上がったら『ガーデン』に入らんか?お前ならワシが推薦してもいいぞ」
「気が早ええよ。俺まだEランクだぞ。Dにあがるのでさえあと15ポイント稼がないといけないのに。それに悪いな、俺は『D止め』するつもりだ」
「お前の『反則技』使えばソロでもCランクに上がれるのにもったいない。まあ気が代わったらいつでも声を掛けてくれ。お前ならいつでも推薦してやる」
「『D止め』する予定だから縛られるの嫌いだってわかるだろ。ただ今の話から、もし俺がクランに入るなら『ガーデン』しかないなとは思ってる。実際の所、他のクランって決まりとかどうなんだ?」
「噂でしかないが、『姫』の所は、『姫』の命令に絶対服従の一つだけだと言われておる」
うへえ、マジでカラミティって奴、姫プレイしてんのかよ。絶対こいつの所には入りたくねえ。
「『大海龍』の所は、クランメンバーの女に手を出すのは禁止となっているが、実際はリーダーの『深海』メンバーが手を出しまくっておるな。その癖『深海』以外の男が手を出したら即除名じゃ」
こっちはハーレムか、これって『深海』以外の男メンバーって凄い肩身の狭い思いしてるんじゃ。
「まあ、どっちもクラン戦に参加できる回数は『ガーデン』より多いから、稼ぎはいいぞ」
稼ぎは良くても居心地悪いのは嫌だな。それに野盗潰して金ならあるからな。色々ドミルから話を聞かせて貰っていると、このあと少し用事があると言って席を立つドミルにお礼を言ってから別れた。別れた所でまだ、昼時、約束の時間までどうしようか悩みだすと、すぐに声がかけられた。
「ぎ、ギン、今お前と話してたのドミルだよな?知り合いだったのか?」
声を掛けて来たのは依頼を終えて戻ってきたゴドル達だったが、何か驚いた顔で聞いてくる。
「いや、今朝知り合った。訓練付き合ってくれたから飯奢ってた」
「何でBランクがお前の訓練に付き合うんだよ。お前どんな誘い方したんだ?」
時間もあるので、今朝の事を詳しく説明してやると、またまた全員驚いた表情になる。
「ちょ、ちょっと待て。最初からおかしいって。ジェネラルとオークをソロでって」
説明が終わるとヤーツが慌てて質問してくる。クオンと同じ反応だな、ここも詳しく説明しとくか。そう思って説明してやると、全員納得してくれた。やっぱりスキル使ったっていうとみんな納得してくれるな。
「それで『姫』に興味持たれて、勝手に試験された後、ドミルが話しかけてきたから訓練に付き合って貰って、飯を食ったと・・・・流れは分かったが、Bランクを訓練に誘うか?普通は相手にされないか、手加減無しでボコボコにされるだけだぞ」
「そうなのか?ドミルの奴結構、丁寧に相手してくれたぞ。それにドアールだとランク関係なく相手してくれるぞ」
リコルが呆れたように言ってくるが、ドアールだと誰彼構わず暇そうな奴に訓練の相手お願いしてた事を思い出しながらそう答える。そう言えばドアールだと今じゃランク関係なく暇な奴に相手してもらうのが普通みたいになってるけど、最初はウィート達にも驚かれていたな。まだ離れてからそんなに日が経っていないドアールの事を懐かしんでいると、
「そりゃあ、ドミルが優しかっただけだろ。今度は気をつけろよ、ところでギン、明後日から始まる下水掃除一緒に回ろうぜ。『戦乙女』の連中も一緒にやるってよ」
リコルが話題を変えて下水の大鼠掃除を誘ってくる。どうやら話しかけてきたのはこっちが本題だったらしいが、ドミルがいた為近づけなかったそうだ。そうしてリコルに言われて明後日から1週間大鼠掃除が始まる事を思い出した。今回初参加だからよく分かってないんだよな、何か準備するものとかあるのかな。
「ああ、いいぞ。今回初参加だから色々教えてくれ。取り合えず必要なものとかってあるのか?」
「特にねえけど、大鼠を殺せなきゃ意味無いからな武器はもってこいよ」
そう言えば銅貨1枚の木の棒と盾のセット何個あったかな・・・確か元々2セットあって師匠達の貰ったから7セットはあるな。これなら足りるだろ。
「それで1週間のうちに一人10匹討伐してくればいいんだっけ?もし討伐できなかったら?」
「罰金の金貨1枚か、1週間ギルドとか教会なんかのトイレ掃除だ。それもしないと降格だから、サボるなよ。まあ初日は人が多すぎて下水に入るのも時間がかかるからな、始まってから3~4日後が狙い目だ。って事で5日後の7の鐘に東門に集合な」
5日後なら1回依頼は受けられるな。そんな事を考えながら、ゴドル達と約束してから何となくギルドを出て広場に向かった。広場に来た所で何も用事が無い事に気付いたが、その辺の店を冷かしながら時間を潰していると、ダルクさんが馬車に乗って向かってくるのが見えた。ここで声を掛けるべきかどうしようか悩んでいると、ダルクさんのほうから話しかけてきた。
「どうも、ギンさん」
馬車を止めて俺に話しかけてきたが、いいんだろうか。何人かから注目されているような気がするが、まあ、ダルクさんから話かけてきたって事は大丈夫なんだろ。
「どうも、どこか行くんですか?結構な荷物ですね?」
ダルクさんは馬車を2台引き連れていて、周りには護衛と思われる奴等が15人程周囲を警戒している。
「ドアールの街ですよ。また領主様から呼び出しを受けましてね。宝石とかを売りに行くんですよ」
そう言ってから俺に頭を近づけ俺にだけ聞こえるように、
「私が最近格安で宝石とか売ってるって聞いたみたいで、呼び出されちゃいました」
そう言ってダルクさんは笑い出す。まあ、半分は俺のせいみたいなもんだけど、楽しそうだから気にしなくていいだろう。
「へえ、道中気をつけて。あっ、戻ったらドアールの街の様子を聞かせて貰う事って出来ます?」
「・・・ええ。構いませんよ。戻って来るのは早くても2週間後になると思いますので、戻ったらこちらから連絡しますよ」
よし、これなら俺達の会話を聞いてる奴も戻ったダルクさんと俺が会ってても疑問に感じないだろ。ドアールの街の様子聞きたいってのはホントだけど。
そうしてダルクさんに誰の様子を見てきて欲しいかお願いしてしばらく話し込んだ後、少し時間は早いがクオン達の家に向かった。




