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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
4章 水都のEランク冒険者
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64話 首渡し

翌朝目を覚まして様子を見に行くと、まだみんな眠っていたので、俺は外で一人みんなの朝飯の準備をしながら串焼きとかパンを一人で食べて先に朝食を済ませる。終わったら顔を隠して全員を起こしに行くと、よく眠れたようで昨日までより表情が明るくなっていた。そうして朝食を食べて貰っている間に、俺は出発の準備を済ませる。


出発前に道中何があるか分からないから各自に野盗が使っていて、そこそこ良品の短剣を渡しておく。護衛だった人には捕まる前に使っていたという、片手剣と盾があったので渡しておいた。そうして5人で歩いて村までいくが、村の入り口が見えた所で俺は4人と別れる事にする。村にこのまま入れば色々聞かれてギルドにも報告がされ目立つからだ。


「ここでお別れだ。あなた達にはこれを村まで運んでいってもらう。中には野盗の首が入っているから懸賞金がでたらみんなで分ける事」


そう言って野盗の首が5個ずつ入った麻袋を各自に渡していく。


「えっ?何でですか?村まで一緒に行かないんですか?せめてお名前だけでも」

「名乗るつもりはないと最初に行ったはずだ、野盗の宝は俺が全部貰っていくんだから懸賞金については気にするな。それじゃあな」


そう言って俺は森の中に消える・・・と見せかけて、影に潜り、ちゃんと村まで着くか様子を見るていると、しばらくこちらに向かって叫んでいたが、諦めて村まで歩き出した。無事に村までたどり着いて門番に何やら話すと人が集まってきて、麻袋を運ぶのを手伝ってくれてるようなので、もう大丈夫だろう。そこまで見届けてから俺はゴルの実をあと2つ見つけないといけない事を思い出して探しに行った。





翌日


俺は野盗のアジトの近くの森の中を歩いて街道に出ようとしている。昨日は最後の一つが中々見つからなくて焦ったが、夕方ようやく見つける事が出来たので、そのまま森の中で『自室』に入り夜を明かした。そして起きてから都に戻る為に移動し道中は特に何もなくギルドに戻り依頼を達成したのだが。


「ギン、商業ギルドのダルクって人から呼び出し受けてるよ。ただ会いたいって怪しい話だけどどうする?」


依頼を達成し終わるとリマからおかしな呼び出しがあったと言われる。普通なら怪しむ所だけど昨日の今日で呼び出しを受けた訳だから何かあるのかもしれない。


悪い予感がするが商業ギルドに足を運びダルクさんを呼び出すと、個室に案内され、すぐにダルクさんが現れた。


「ギンさん。先日は助けて頂いて誠に有難うございます」


個室に入ってくるなりダルクさんは頭を下げて俺にお礼を言ってくるが、俺はすぐに否定する。


「いや、お礼を言われる理由も分からないですし、そもそも初対面じゃないですか」

「いえ、初対面じゃないですよ。お忘れですか。ドアールの街でワイン売った時に商人にならないか勧誘したじゃないですか」


・・・覚えられてた。これはマズい、ここに呼び出された理由も薄々感づいているが、これはもうバレてるって思った方がいいか。


「私は職業柄人を覚えるのが得意・・・というか商人なら必須技能ですね。それでまあ、先日助けて頂いた時も顔は隠していましたけど、声ですぐに分かりましたよ」


うん、これはバレてるな。それならこれ以上話を広げて貰わないようにお願いするしかないか。


「その事は他の人に話しましたか?」

「いえ、ギンさんは顔も隠してましたし、名乗りもせずにさっさと行ってしまったので何か理由があるんだろうと思いまして、どこにも報告はしていません」


よし!それは好都合。それならこのまま黙っていてもらおう。


「それでは、このまま内緒にしておいてください。助けたお礼はそれで十分です」


そう言って席を立とうとする俺の腕をダルクさんが掴んで引き止めてくる。


「いえいえ、そんな事では十分なお礼になっていません。せめてもう少し何かないですか?お金でもいいですし、人の紹介でも、家の手配でもいいですよ」


そう言われてもどれも魅力的には感じない。ホントに黙ってくれているだけでいいんだけどな。ただこの様子じゃダルクさんは引き下がらないだろう。どうしよう。


「・・・それなら買取をお願いしたいです。ただ俺が売った事は秘密にしておいて下さい」


野盗の宝を処分したかったけど、どうやって処分しようか困っていたので、ダルクさんに任せてしまおう。


「買取ですか?それは別に構いませんが、秘密にする理由は・・・いえ、それは聞かない方がいいですね。そうすると、ギルドではマズいですね。すみませんが、今から私の店までついて来て頂けますか?」


断る理由もないので、ダルクさんについていくと、大通りに面した所の結構大きな店に入っていく。俺も一緒に中に入ると、すぐに店の従業員が警戒した感じで近づいてくる。

この店は装飾品や布なんかが店のメイン商品で客層は少し金持ちの家庭や下級貴族って所だから冒険者の格好した俺が入ってきていい店じゃないな。

なんて考えていると、ダルクさんが店の奥に案内してくれる。案内された場所は立派なイスとテーブル、高そうな装飾品が置かれた立派な応接室だった。


「ダルクさんって結構大きな店を持っているんですね。ドアールの街の商業ギルドで店番していたから、店を持ってないのかと思っていましたよ」

「ハハハハハ、都ではまだまだ小さい方ですよ。ドアールの街はあそこの領主様や貴族様達の覚えが良くて、よく指名されるので商品を売りに行くんですよ。そこでついでに色々仕入れて戻って来るっていうのをやっていましてね。戻って来る時に護衛を雇うのですが、人が集まるまでは商業ギルドで店番の仕事をやったりするんですよ。ワインの時のように色々勉強する事も多いですから」


ダルクさん凄い働き者だな。それとも商人ってここまで働かないと駄目なのかな。そうするとやっぱり気ままな冒険者の方が俺に合ってるな。


「それで売りたいものとは?ギンさんなら高くで買い取らせて頂きますよ」

「秘密にしてくれると信じて話しますけど、野盗が持ってた宝とか装備品です。数が結構あるので、散らかりますけどいいですか?」


俺の話に驚いた顔をするダルクさんだが、頷いてくれたのでカバンをひっくり返して野盗の宝とか装備品、服なんかを床に落とす。・・・結構量あるな。


「・・・・・・」


ダルクさんも無言で俺が出した宝をジッと見つめている。多分商人として色々考えているんだろう。


「えっと、これが野盗の物だっていう証拠は・・・すみません、疑う訳ではないのですが、もし盗品なら色々トラブルが起きる可能性があるので・・・せめて野盗の首でもあれば何とかなるんですが」


元々野盗が奪った物だから全部盗品なんだよな。どうしよう、首も全部渡してしまったからな。困った。


「野盗の首は捕まってた女性4人に全部渡したので無いですね」


そう伝えるとダルクさんの顔色が変わった。


「その話は本当ですか?それなら何とかなるかもしれません。もう少し詳しく話を聞かせて下さい」





「それなら大丈夫そうです」


俺が詳しく説明するとダルクさんは安心したように答えてくれた。ダルクさんの予想では恐らく今日か明日には南の野盗が討伐された事が伝わってくるとの事。そのタイミングで謎の人物(俺)がダルクさんの店に色んな物を売ったと分かれば当然その出所は誰でも予想できるだろう。後はダルクさんの方で上手くやってくれるというので、俺は任せるしかない。


「それで、ザッと見た感じ、いくらぐらいで買い取って貰えそうですか?」

「そうですね。最低でも白金貨2枚はありますね。しっかり鑑定すれば「じゃあ、それで」・・・・・は?」


ダルクさんの話を遮り白金貨2枚でいいというと、固まってしまった。


「だから、白金貨2枚で買い取りをお願いします」

「・・・・いや、いや、何言ってるんですかギンさん、最低でも白金貨2枚ですよ。しっかり鑑定すれば白金貨3枚にはなるかもしれないんですよ」

「じゃあ、それ以上になったら口止め料だと考えて下さい。ダルクさんの想像通り、俺はあんまり目立ちたくないんですよ。ただ、野盗は個人的な恨みというか八つ当たりというか存在が許せないので、今後も狩っていくつもりです。その都度、野盗の宝はダルクさんの店に売りに来るので出所を黙っていて欲しいです」

「・・・うっ・・ですが・・・命の恩人に買い叩く真似は・・・」


凄い迷ってるみたいだ。それなら、


「ダルクさんには当然売った奴を教えろって聞きに来る奴等が来て迷惑かけると思いますのでそれの迷惑料とでも考えてもらってもいいです」

「・・・・はあ~。分かりました。すぐに白金貨2枚用意致します。ギンさんから買ったって事は誰にも話さないのでご安心下さい」




そうして白金貨2枚を手に入れてダルクさんの店を後にした。ダルクさんの予想通りその日の夕方には南の野盗団が壊滅した噂で持ち切りになった。


「おい、ギン。聞いたか?南の野盗の話」


夕方ギルドで一人飯を食べていると、ゴドルが俺の席の前に座り話しかけてきた。すぐに他の『ウェイブ』の連中も俺と同じテーブルに座る。


「ああ、なんか壊滅したって聞いたな。そんなに珍しい事でもないだろ。どっかのランクの高い奴等がやったんだろ」


軽く聞いた風な感じで答える。


「いや、それがよ、捕まってた女達が言うには、一人だったそうだ。そして顔も見せず、名乗りもせずに野盗の首を渡していなくなったそうだ」


うん、その辺はすごいよく知ってる。


「へえ~。変な奴もいるんだな」


自分で自分を変な奴というのもおかしいが、実際話を聞くと、明らかに俺の行動おかしいな。


「しかもだ、その前に街道で野盗に襲われてた行商人を助けたそうだ。その時の護衛が言うには一人で野盗20人を殺したんだってよ。そんですぐに礼も受け取らずに立ち去っていったんだとよ」


・・・・ん?何か少し脚色されてないか?あの時は一人で20人は殺してないぞ。護衛の人が何人か殺してたの見たし。


「そ、そうか、でもまあ、それを知った所で俺が得する訳でもないから、あんまり興味ないな」

「まあ、そうだけどよ。誰なんだろうな」


ゴドルは気になるみたいだが、ダルクさんが言わない限り、俺がやったとバレる心配はないだろう。そうして少し話をしながらゴドル達から東の方の依頼を教えて貰った。







◇◇◇

「・・・えっと。さすがに早すぎませんか?」


野盗から奪った財宝を前にドン引きしているダルクさん。これで南北東にいた野盗団3つ全て潰し終わった。ダルクさんの言う通り都にきて10日で終わらせたのは少しペースが早かったかもしれない。まあ、過ぎた事は仕方ないので、早速査定してもらう。幸いかどうかよく分からないが、どこでも捕まっている女性達がいて、野盗の首は全てその人達に渡して村や街の入り口で別れたので、野盗団が壊滅した事が知れ渡った。だからダルクさんに遠慮する事なく宝を売り払う事が出来る。さすがに10日で白金貨7枚は稼ぎ過ぎたかもしれない、ダルクさんも宝を処分するまで現金がないと言っていたので、支払いはしばらく待っている。





「おい、聞いたか?今度は北の野盗団も全滅したらしいぞ」


3つの野盗団を壊滅させてから3日後依頼を終えてギルドで飯を食べているとゴドル達が話しかけてきた。最近は都中その話題で持ち切りだ。『探索』で俺を見張ってる怪しい反応はないので誰にもバレていないだろう。


「へえ~。今度は北か。これで全部壊滅させられたんじゃないか?」

「そうだな。まあ、野盗ってのは壊滅してもまた沸くけどな。それにしても『首渡し』の正体誰なんだろうな?」


『首渡し』それが俺の新しい渾名だ。捕まっていた女達に野盗の首を渡すからそう呼ばれている。物騒な渾名だ、『野盗狩り』とかもう少しカッコいい渾名が良かった。


「さあ、一人なんだろ?ランクの高い奴とか、騎士団の誰か、召喚された勇者様とかって話があるけど、結局特定はされていないんだろ」


一応、バレてはないとは思いつつもゴドルに探りを入れてみる。


「ああ、唯、ダルクって商人が怪しいって話が出始めてる。なんか最近大量に宝石なんかを仕入れたらしく安くで売ってるらしい。中には野盗に奪われた物もあるらしくてよ、恐らく『首渡し』が売りに来たって噂になってる」


ゴドルの言葉に少し驚く。ダルクさんが噂になるの早いな。いや、俺が大量に売り払ったから現金を手に入れようと無理して色んな所に声かけてるのかも。あんまり急がなくてもいいって言っておけばよかったな。


「じゃあ、そのダルクって商人が『首渡し』の正体知ってるかもしれないのか」

「ああ、だから何人かダルクの所に話を聞きに行ったみたいだけど、仕入先は教えてもらえなかったそうだ。で、噂だけど情報屋がそいつの店に張り込んで『首渡し』の正体を探っているらしい」


よし、ダルクさん約束通り、俺の事は秘密にしてくれているな。若干迷惑かけてるけど、迷惑料込で宝とかを安く売ってるからそこは我慢してもらおう。しかし、情報屋が張り込んでいるって・・・正体が分かった所で、何か得するのか。


「そいつらは『首渡し』の正体調べて何するつもりなんだ?別に分かった所で得する事はないと思うんだけどな」

「アホか。その情報は各クラン、でかい商会、貴族なんかが今、一番知りたい事だぞ。各クランはそいつが自分の所の所属だと分かれば名前が広まる、まだクランに所属してなければ真っ先に勧誘して他のクランに取られないようにしないといけないからな。でかい商会は野盗の宝が目当てだ、ダルクがあれだけ安くで売ってるって事は『首渡し』はかなり安くで売り払ってる。当然他の商会は自分の所に売って欲しいと考える。貴族は自分の家に取り込んで周囲に自慢したいんだよ。だから『首渡し』の正体についての情報はかなりの高値になってるはずだ」


め、面倒くせえ。これ正体バレた時すげえ面倒な事になりそうだ。ダルクさんに後でもう一度注意しにいこう。店が見張られてるらしいけど『影移動』使えばバレないだろ。





「ダルクさん、夜中に失礼します」


店の奥で帳簿をつけていたであろうダルクさんに声をかけるとビクッとしてから顔をあげる。


「ぎ、ギンさん、どうやって店に・・・戸締りは確認したはず・・・」


まあ、当然驚かれるが、今回は勘弁してもらおう。ゴドルの言う通りこんな時間でも店を見張っているのが3人もいるんだからそいつらにバレないように『影移動』で忍び込ませてもらった。


「すみません。どうしてもダルクさんと話がしたかったのですが、外が見張られていたので俺のスキルで忍び込ませてもらいました」


そう言うと納得してくれたのか、椅子に深く腰掛け大きく溜め息をつく。


「ふう~。賊かと思って焦りましたよ。まあ、私もギンさんに早急に伝えたい事があったので、都合がよかったです。でもその様子ならもうご存じのようですね」


ダルクさんも既に自分が見張られている事に気付いているようだ。


「と言う事はダルクさんも見張られている事を知ってるんですね?」

「店の周りをウロウロしている不審な人物はいるし、店に来て仕入先を教えろとか、『首渡し』の情報で何か知っていれば買うぞとか聞いてくる人もいましたからね」


一応迷惑料を払っているつもりだけど、さすがに申し訳なくなってくるな。


「す、すみません。自分で思っていた以上にダルクさんに迷惑かけてるみたいです」

「いえ、いえ、こんな事商売やってたらしょっちゅうある事ですから気にしないで下さい。それよりもギンさんのおかげで今月過去最高の売り上げになりそうです。ありがとうございます」


迷惑かけてる事にはあまり気にしてないのか、満面の笑みで売り上げについて話してくるダルクさん。


「それでですね。しばらくダルクさんの店に来るのは控えようと思います。ああ、お金については困ってないので後になっても全然構いません。ただ、次からもこうやって忍び込む事になりそうなので、そこは了解して頂けると・・」

「・・・・分かりました。ただ、私から連絡を取りたい場合はどうしましょう?恐らく私の行動は監視されているので、ギンさんを呼び出すとバレるかもしれません」


しばらく俺の言った事について考えていたが、納得してくれたのか、頷いてくれた。呼び出し方法についてはどうしようか。『念話』はさすがに教えたくないなあ、となると原始的な方法しかないよな。


「それなら店の外のどこかに目立たないような目印をお願いします。都にいる時は1日1回はダルクさんの店の前を通るようにするので、その時にその目印があれば今日みたいに忍び込んできます」


その後はダルクさんと色々話合い取り合えず1ヶ月はダルクさんと接触しない事となった。


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