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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
4章 水都のEランク冒険者
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63話 水都での初めての採取依頼

翌朝、ギルドに向かうと・・・なんか注目されてるな。俺の勘違いって訳でもなさそうだ。見ない顔だからかな?まあいいか、ゴルの実、ゴルの実、あった。


ゴルの実の採取依頼の紙を掲示板から剥がしてリマの受付に向かう。


「昨日はありがとうな。それで言った通りゴルの実の採取依頼だ。ちなみにゴルの実ってどんな奴だ?」

「こちらこそ。これがゴルの実だよ。それより昨日のお酒、何あれ?滅茶苦茶美味しかったんだけど、クオンなんて飲みすぎて二日酔いになってるよ」

「ハハハハハ、ありゃあ、師匠の秘蔵の酒だ、まあ正直に言うと120年前のチルラト産のワインだって」

「・・・う・・・・噓・・・・そんな・・・昨日全部飲んじゃった」


なんか絶望した顔になってる。まあ、それでも手は動かしてるのはミーサさんの指導の賜物かもしれない。それか後ろで杖を構えてウロウロしているギルマスのせいかな。


「もう少し持ってるから、今度またやるよ。但し俺からってのは内緒にしといてくれよ。それじゃあ、行ってくるわ」

「ホント!期待しとくよ!それじゃあ気をつけてね」


手を振ってくれるリマの受付から離れると何故か驚いた顔でこっちを見ている奴等がいる。何なんだ?とか思って後ろを振り向くと、昨日と同じ暗い表情に戻って次の冒険者の相手をしているリマを見て何となく理由が分かった。昨日『ウェイブ』リーダーのゴドルにもリマの塩対応について聞かれてたから多分それだろう。視線を浴びる中、俺は南に向かった。



さて、まずはゴルの実か、さっき覚えたから南に行きながら探すか。そうして軽く走りながら、『探索』に反応のあったゴルの実を採取していくと最初の村に着く頃には4つは拾えた。ラチナの実の時も思ったが、実ってぐらいならまとめて落ちていてもいいのにとか考えたが、後日リマに1年に一度一つしか実をつけないから貴重だと教えて貰った。確かにポコポコ落ちていたらEランクの依頼にはならないな。


最初の村はまだ都の管轄なので村への入場は無料だ。門番に飯屋を教えて貰い、そこで昼飯と情報を収集する。飯屋のおばちゃんに定食を頼んでから話を聞くと、色々話をしてくれた。


「野盗?そうだねえこの村と次の村の間で被害が多いねえ。この村は王族の領地で、次の村は侯爵様の領地だから、間の街道で襲われるとどっちが対応するか揉めるからね。野盗もそれを分かっているからやっているんだろうけど」


野盗の癖に悪知恵が働くな。襲われる場所がある程度限定されているならあとは『探索』で探すだけだ。幸い来る時にいた野盗の斥候が東の方に離れていくのは確認しているし、案外早く見つかるかもな。





◇◇◇

「うわああああああ!!」

「誰か!助けてくれ!」

「全員!たかが野盗だ、数は多いが落ち着いて行けば大丈夫だ」


夕方までゴルの実を探し回ってどうにか残り二つという時に悲鳴が聞こえてきた。これは・・・思わず顔がにやけてくる。探す手間が省けた。おっと、顔見られる訳にはいかないな。マフラーで鼻まで隠し、頭に巻いている布を深く被ると目だけしか出ていないどう見ても不審者、こっちだと暗殺者みたいな格好になり、悲鳴の聞こえた方に向かう。



現場に到着し、木陰から様子を確認すると、20人ぐらいの野盗が馬車を囲む護衛8人と対峙している。馬車の御者台にはどこかで見た事あるオッサンが槍を構えている。あれって、師匠とワイン売りに行った時に対応してくれた・・・・確かダルクって名前だったか?まあ顔隠しているからバレないだろう。そして俺は『身体強化』を使い投げナイフを構える。幸いまだジリジリと間合いを詰めている所だから簡単に当てられそうだ。


ヒュン・・・ドシュ!


まずは一人!俺の投げナイフが胸に命中し崩れ落ちる。『身体強化』のおかげで当たれば体に潜り込むぐらいの威力があるから安いナイフでも一撃だ。一人目が崩れ落ちる前にすぐに次を投げ放つ。これも命中。首に刺さった二人目も崩れ落ちた所でようやく、向こうも異変に気付いた。


「な、なんだ?」、「何かいるぞ!気をつけろ!」、「こっちだ!こっちから狙われて・・・・」


騒ぎ出す野盗達と困惑している護衛達だが、俺は止まらず3人目、4人目とナイフを当てて数を減らしていく。


「お前ら!良く分からんがチャンスだ、行くぞ」


護衛のリーダーが野盗に向かっていきながら他の護衛に声を掛けると後に続いて、乱戦になる。

う~ん。このまま守りに入って欲しかった。動いてると当てにくいんだよな。

間違えて護衛に当ててもマズいので、俺は木陰から飛び出して近くの野盗の首を切り裂く。注意をこちらに向けていたが、いきなり飛び出してきた俺に驚いて何もできずに首を切り裂かれた野盗は倒れこむ。


「出てきたぞ!囲め!」


5人は倒したが、それでもまだまだ野盗の数が多い。すぐに俺は囲まれるが・・・「闇」・・・無詠唱で周囲の野盗に『闇』を使って目を潰す。何人か躱したが、気にせず俺は目が見えなくなった奴らの首を切り裂いていく。切り裂きながらもこちらに向かってくる奴等には死体を蹴り飛ばして隙を作り、投げナイフを投げて同時に倒していく。俺を囲んだ奴等を倒しきって周囲を確認すると、護衛が順調に残り少なくなった野盗を倒している。『探索』にも隠れた場所に反応はないし、これならもう大丈夫だろうと思い武器をしまう。念の為、護衛が残りを倒しきるまではその場に留まっていたが、最後の野盗を殺したので俺はその場を立ち去ろうとした所で、声を掛けられた。


「すまない、助かった」


護衛のリーダー格が俺にお礼を言ってくる。


「ありがとうございます、おかげで助かりました。最近物騒なので護衛は多めに雇ったのですが、まさかあれだけの数に襲われるとは思ってませんでした。ホントに何とお礼を言えばいいか。そうだ、お名前を教えて下さい、おっと、失礼、私はダルクと言います。今は手持ちが心許ないので、後日都の商業ギルドで私を呼んで頂ければこのお礼は必ず返させて頂きます」


ダルクさんが近づいてきて俺に声をかけてくるが、目しか出してない俺に気付く訳ない。このまま名乗らずにいよう。


「いや、俺も野盗に恨みがあるから礼はいらない。依頼中だから、それじゃ」


この野盗に恨みはないが、『野盗』については師匠達を殺された恨みってより、ただの八つ当たりだな。それでも『野盗』の存在は許しておけない。そう言い残して森に走って行く俺の背後から、


「ちょ、待ってくれ」


リーダー格が呼び止める声を無視して俺は森の奥へ向かっていった。





うむ。まだ20人はいるって事は結構大きな群れだったみたいだな。

野盗のアジトを『探索』で見つけた俺は影から様子を伺っている。この野盗のアジトはこの前の洞窟と違い廃村を利用しているみたいだ。そして今は食事時みたいで、ボロい服を着た女が4人食事をよそい野盗達に配っている。一番奥で偉そうに酒を飲んでるのがボスだろう。

さて、困った、あの女達は両手が鎖で繋がれているから、どう見ても野盗の仲間じゃないだろうから殺す訳にはいかないな。かと言って人質にされても困るな。


どうしようかしばらく考えていると、食事を配り終わったのか女達が建物に連れていかれるが、みんな足を引きずったおかしな歩き方をしている。そこは後で確認するとして、こっちとしては女達がいなくなって好都合だ。始めるか。







ザシュ!


多分用でも足そうとこっちに向かって来た一人を背後から首を切り裂く。そこからは一方的な殺戮となった。最初の2~3人は俺の投げナイフで倒すと、何人かこちらに向かってきたので、俺は場所を移動して、俺がさっきまでいた所を警戒している奴等とアジトに残っている奴等にもナイフを投げると、今度はこっちに向かってくるので更に移動を繰り返し同じ事を繰り返していく。この作戦は俺の『隠密』と『潜伏』スキルのおかげで見つからないんだろうけど、流石に4回程繰り返すと見つかってしまった。残りは7人か。


「てめえ、ナニモンだ?」


ボスが斧を手に俺に尋ねてくるが、答えてやる義理は無い。残りの野盗も俺を囲むようにしているが、ここからはさっきの再現で無詠唱の『闇』で目を潰して投げナイフで殺していく。ただ、ボスだけは『闇』を躱したので、動きに注意していたが、仲間に当たるのも構わず斧を振り回してくる。こいつの攻撃に巻き込まれて死んだ奴も4人ぐらいいる。


「『闇』!」


「我に輝きを『光』」


警戒しているのかすぐに『光』で『闇』を無効化してくる。ボスの攻撃を躱しながらそんな事を数回繰り返して、もういいだろうと判断して今度は合成魔法の『闇水』を使うが言葉は、


「『闇』!」


「我に輝きを『光』」


パシャ!『闇』を打ち消して油断したボスの顔に『水』がかかり、大きく隙が出来る。


「うわ!何・・・・だ」


そんな大きな隙を見逃す事無くボスの首を斬りつけて、戦闘は終了した。辺りは死屍累々、さすがにこれは魔物が集まってくるな。仕方ないが影を広げて死体を全て回収する。そして女達が入っていった建物に入ると、しっかりしたベッドのある部屋や野盗達の宝が保管されている部屋等があったが、女達が見当たらない。暫く探すと地下に続く扉があったので降りていくと、ようやく牢屋に入れられている女達を見つけた。


「今日は誰でしょう?」


俺が降りて牢屋の前に立つなり質問されるが、何の事かよく分からん。


「何言ってんだ?助けにきたぞ。ここに残りたいってなら別にいいけど」


そう言いながら鍵に手をあて収納し、牢屋の扉を開けると女達は驚いた顔をしている。


「ホントに!ホントに助けてくれるんですか?」


質問してきた人が俺に縋り付いて泣きながら訴えてくるのでコクリと頷くと、残りの3人も声をあげて泣き始めた。かなりひどい扱いを受けていたようだ。


「ありがとうございます。ホントに何とお礼を言っていいか」


しばらく4人で泣いていたが、泣き止むと最初に質問してきた人がお礼を言ってくる。その後ろで他3人もお礼を言っているが、この人が4人の中のリーダーだろう。そうしてまずはボロくて色々丸見えの服だと目のやり場に困るのでさっきの野盗達が着ていた服を渡して着替えさせる。お腹も空いてそうだったので、パンとスープと葡萄を渡すと、みんなまた泣きだす。ホントに酷い扱いだったみたいで、ご飯もまともに食べさせて貰えなかったそうだ。そうして落ち着いた所で少し話をした所、近くの村から攫われてきたり、襲われた商隊の家族だったり、その護衛だったと教えてくれた。そして全員片足の腱を切られて満足に歩けないとの事だった。


腕の鎖は野盗のボスが持っていた鍵で外す事ができたけど、足のケガはどうにかしないと近くの村まで連れていけないな。一人ずつ運ぶか、村まで助けを呼びに行くかだけど、俺がいない間に魔物が来て襲われでもしたら困る。仕方がないけど4人には覚悟を決めてもらおう。


そう考えて俺は中級ポーションと短剣を取り出す。


「足のケガを直さないとここから連れて行けない。悪いけどもう一度足の腱を切ってこの中級ポーションを使って治してくれ」


ポーションだと古傷には効かないので一度傷付ける必要があり、そう言うと、全員暗い顔になる。まあ当然だ俺もやりたくないもん。だけどやってもらわないと困る。それにこのままだと村や家族の元に帰っても不自由な生活を送る事になるだろうし、少し厳しくするか。


「出来ない奴はここに置いていく」


俺の言葉に更に暗い顔になるが、すぐに一人が覚悟を決めたのか手を挙げる。確か元護衛で捕まったって人だ。


「やります。助けてくれたあなたを信じます。さあ、ひと思いに!」

「え?俺がやるの?自分でやるじゃ駄目?」


何故か俺がやるように言われて思わず聞いてしまう。野盗ならまだしも罪も恨みも無い人を傷つけるのはちょっと。しかも野盗が殺さなかっただけあって全員美人だから余計に傷つけたくないんだけど。


「無理です。自分でやると、怖くて手元がくるってしまうかもしれないです。だから、さあ!」


ええ、嫌なんだけど。と思い残りの3人を見るとスッと目を逸らされた。仕方ないか。


「それじゃあ、俺がやるけど、あなたはこっちでポーションを準備して俺が切ったらすぐにかけて下さい。あと残り二人は痛みで動かないように体と足を抑えておいて下さい」


そうして準備が出来た所で、若干躊躇いながらもアキレス腱を切る、すぐにポーションがかけられ、みるみる傷が塞がっていく。


「くううう。痛かった。でも、やった。普通に歩ける。普通に・・・ウッ・・・ヒック」


傷の痛みで涙目だったがすぐに普通に歩ける事の素晴らしさに気付くと泣き出してしまった。それを見て残り3人も覚悟を決めたようで、同じように処置して歩けるようになるとみんなで抱き合って再び泣いて喜んでくれた。そして日が落ちて暗くなったので、村に向かうのは明日にするとして、寝る事になったのだが、女性陣は毎晩相手をさせられたベッドで寝るのは嫌だと言った為、牢屋に野盗の服を敷き詰めて寝させる事にした。今まで石の上で寝ていたからこれだけでも寝心地がいいのかすぐに全員眠ってしまった。俺も流石にそんなベッドで寝たくないので、地下室の入り口前に『自室』から布団を持って来てそこで寝た。


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