62話 水都の冒険者ギルド
「・・・でけえ」
昨日馬車から降りた所でカイルから場所は教えてもらっていたが、改めてギルドの建物を見ると、その大きさに驚いてしまう。多分ドアールの街の3倍以上はありそうな建物と、そこに出入りする冒険者の数の多さ。改めて都に来たんだと実感する。しかしここで驚いている訳にもいかないのでギルドに足を踏み入れる。
今日は所属の変更とどんな依頼があるのかの確認、それと南へ向かう採取依頼があれば受けるって所かな。時間は先程9の鐘が鳴った所、真面目な冒険者は既に依頼を受けていないので、この時間に残っているのは、大抵新人とかに絡んでくる面倒くさい奴等だってのはドアールの街で知っている。俺がギルドに入るとそんな奴等から視線が向けられる。結構な数が残っているがその分ギルドも広いので人口密度的にはこの時間のドアールの街とあんまり変わらないかな。とか思いながら空いている受付にいき、ギルドカードを机に置く。
「所属の変更を頼む」
見るからに暗い表情の受付の子に用件を伝える。見た感じ俺と同じ年ぐらいか、しかし、受付だってのに表情が暗いな、紺色の長い髪のおかげで余計に暗く感じるけど胸はかなり大きいし、よく見りゃ可愛いから愛想よくすれば人気のある受付になりそうなのに、もったいない。
そんな感想を抱きつつ、俺はギルド内を見渡す。
しかし、中もでけえな。何人入るかさっぱりわかんねえ。ドアールの街は忙しい時間でも受付は最大5人だったけど、ここはこの時間でも10人以上受付がいるな。あとで買取カウンターとか訓練場も見学するか。あと掲示板の依頼の数も半端ねえ、これならドアールと同じぐらいの時間に来ても依頼は受けれそうだ。
「・・・ドアールの・・・ギン?」
何てことを考えていると、受付の様子がおかしい事に気付く。何か俺のギルドカード持ってプルプルしている。
「???」
「・・・・『最長』?」
不思議に思っていると受付が俺の渾名を口にした。
「俺の渾名どんだけ有名なんだよ。まさかここでも知ってる奴がいるなんて思わな「ギン!!!!!!」・・・どわあああああ」
ぼやいてる途中で受付の女が涙目になって俺に飛びついてきたから焦った。椅子から倒れる事無く受け止めるたが少し『身体強化』使ったのは秘密だ。
「おい、お前!何してんだよ!」
慌てて引き剥がそうとするが、何故か受付の女は俺をガッチリホールドして離れそうにない。
「ちょっと!あんた!リマに何してんの!ギルド職員に手だしたら処分されるわよ!」
引き剥がそうと悪戦苦闘していると、受付から別の声が聞こえる。見ると受付の奥にいる茶髪で気の強そうな顔をした女が注意したようだ。どこかで見た事あるな。とかおもっていると、
「クオン!ギンだよ!ドアールの街の!『最長』だよ!」
俺に抱き着きながらリマって女が状況を説明する。・・・・するのだが
「・・・・え?う、嘘・・・ギン?ドアールの街の・・『最長』?」
言われて俺は頷いて肯定すると、
「ギン!!!」
うわああああ!お前もか!クオンって受付嬢も泣きそうな顔になって俺に抱き着いてきたので、またまた『身体強化』を使って受け止める。しかし何だ?都の挨拶ってこんななのか。俺に受け止められた二人は泣きながらお礼を言っている。・・・・何でだ?よくわかんねえ。お礼を言われる事は何もしてないっていうかこの街来たばっかりだから知り合いなんていないはずだけどな。
「お前らちょっと落ち着け。誰かと勘違いしてないか?俺は昨日都に来たばっかりで、お前らにお礼を言われる事はしてないと思うぞ」
「「・・・覚えてない?」」
俺の言葉に二人は顔をあげて疑問を口にしたので、俺は頷くとクオンが俺の耳元に囁いてきた。
「『ドアールの羽』で思い出さない?」
言われてマジマジと二人の顔を見比べると、だんだん思い出してきた。新人の頃にうざ絡みしてきたパーティメンバーの二人だ。確かゴブリンにやられていた所を助けて師匠がミーサさんに頼んで都に連れて行ってもらってたな。
「おお、思い出した!思い出した!職員の格好しているから分からなかった」
「ぷっ、何それ。」
「職員が職員の格好しているのは普通だよ」
2人から突っ込みが入れられる。
「そうか、お前らここで働いてるのか。良かったじゃないか。・・・・」
『あんな目にあったの』・・・思わず言いそうになって押し黙る。さすがにこんな所で口にするのはマズいか。押し黙った俺を二人は少し困った顔をして見ている所に、
ゴン!ゴン!
2人の頭に後ろから杖が降ってきた。
「・・・い、った~い」
「・・・・・・」
1人は痛そうな声をもう1人は声も出せずに悶絶している。
「お前たち、何サボってんだい。さっさと仕事しな」
2人を叩いたのは格好からして魔法使いですって感じの婆さんだった。
「ぎ、ギルマス。痛いよ~。何するんですか?」
「本当にそれやめて下さいよ。職員からも不評なんですよ。それ。」
二人は抗議をしているが、婆さんは気にした様子もなく、俺を観察するように目線を向ける。この婆さんが都の冒険者ギルドのギルドマスター、多分強かったんだろう・・・いや、この感じ今でもかなり強いんだろう。
「仕事サボるからだよ。さっさと仕事に戻りなって言いたい所だけど、こっちの坊主は誰だい?見ない顔だね」
「ギルマス。ほら、前に話しました、ギンです。ドアールの街の、『最長』です。覚えてますか?」
俺が自己紹介する前にリマが紹介してくれる。前に話したって変な事言ってないよな。少し心配になるが、
「へえ、あんたがドアールの街の・・・レニーの坊やからも今朝手紙が届いてたね。『変なのが行くから宜しく』ってあいつがわざわざ手紙を書くぐらいだ、どんな奴か気になってたけど早速職員を二人も・・・しかもリマとクオンをナンパするとは、ホントに変な奴だね」
リマじゃなくてギルマスから話がいってたみたいだ。おかしいなギルマスとは結構仲良くなれたと思ったんだけど、やっぱり最後のクソムカつく国の鎧セット売ろうとしたのがいけなかったかな。ホントあの国と関わると碌な事がねえ。
「で?いつまでウチの職員を抱いてるんだい?早く仕事に戻って貰いたいんだけど」
言われて俺がいまだに二人を膝に座らせて抱きしめている態勢になっている事に気付いた。慌てて開放して、仕事に戻るように言うと、
「ねえ、ギン、積もる話もあるし今日一緒に夕飯どうかしら?私達今日は夕方までだから16の鐘が鳴るころにギルドに来て」
一方的に約束されて、クオンは仕事に戻っていった。リマも仕事を再開し、俺のギルドカードをなんか色々処理している。
「はい、終わったよ。これでギンは『水都』の所属ね。で、食事の件だけどいいかな?」
「今日は特に依頼受けるつもりもないし、別にいいぞ。時間になったらギルドに戻ってくればいいんだな」
「うん。時間になっても私達がいなかったら近くの職員に聞いてみて。職員スペースで待ってるかもだから」
リマに了解と言ってから受付を離れる。ギルド内をザッと流し見すると、さっきより俺への圧が強くなってるな。リマ達と騒いだからだろうけど、絡まれたらその時だ、取り合えず依頼どんなのがあるか見にいくか。
すげえ、依頼が一杯だ。Fランクの依頼もこの時間でこんだけ残ってんのか。ドアールの街でほとんど無かったCランク以上の依頼が普通に一杯貼ってるな。
「よお、色男、リマとクオンとどんな関係だ?」
依頼の多さに圧倒されていると、いきなり肩に腕を回されてあいつらとの関係を聞かれる。隣のやつを見ると明らかに悪そうな顔をしているが、極悪人顔に慣れている俺にはどうという事もない。
「昔の知り合いだ」
隣の奴をチラリと見てから再び掲示板に目を戻して答える。しかしこれだけ依頼があると南方向の採取依頼って見つけるのが難しいな。
「そうか、ならどうやったらリマと仲良くできる?頼む、何でもいいから教えてくれ」
「・・・・・・え?」
何を言われたか分からず変な声が出た。普通は「見ない顔が何目立ってやがる」って絡んでくるとか「余所者か、今の内に上下しっかり分からせてやる」って定番の感じになると思っていたんだけど、何か拍子抜けしたな。
「い、いや、普通に話せばいいだろ」
「リマは無理だ。あいつの男嫌いは半端ないんだよ。男があいつの受付に行くと事務的な対応しかしてくれねえ、世間話は全て無視だ。それで今まで何人の男が散っていったか。なのにお前はリマと普通に話してるどころか抱き着かれてるじゃねえか。昔の知り合いなら何か仲良くなる方法とかないか?」
そう言われてもなあ、むしろドアールの街では敵対に近い関係だったんだけど、男嫌いなのはゴブリンに襲われたトラウマからだろうけど、それをこいつに言う訳にはいかない。そうするとリマが自分から話をしてくれるようにするには、時間をかけてゆっくり行くしかないんじゃないか。
「まあ、最初からがっつくのは良くないな。最初はお前も事務的な対応してて、慣れてきたら一言だけ言ってから席を立つとかしてゆっくり慣らしていけばどうだ?」
「そうか~ゆっくりか~。そういうのは苦手なんだよな」
「そうそう、ゴドルには無理だって言ってんだろ」
「お前とリマじゃ合わねえよ」
「お前は『カモメ亭』で我慢してろ」
多分こいつのパーティメンバーと思われる奴等が寄ってきて、揶揄いだす。こいつの名前はゴドルというらしい。
「お前も悪いな。ウチのリーダー、リマに惚れてんだよ。無理だから諦めろっていってんのに未練タラタラで情けない。おっと、俺はヤーツってんだ」
「ギンだ。昨日ドアールの街から都に着いた。Eランクなりたてだ。色々教えてくれると助かる」
「トルティだ。俺らはDランク上がったばかりのパーティだ」
「リコル。このパーティ『ウェイブ』の斥候だ」
全員顔が悪人顔だな、まあ、自己紹介をしっかりしてくれるので、ある程度俺を好意的に捉えてくれると助かるな。
「おう、宜しくな。早速で悪いけど、買取カウンターと訓練場の場所を教えてくれないか?」
そう言って案内された場所はギルドの隣の建物だった。隣と言っても職員スペースは繋がっているらしく人が出入りしている。買取カウンターにはクオンが座っていて、俺に気付くと手を振ってきたので、手を振り返しておいた。
「おお、ここが訓練場か、広いな」
買取カウンターの案内の後、訓練場に着くとドアールの街の倍程もあるその大きさに思わず驚いてしまう。
「ハハハハハ、ドアールと比べるなって、こっちは都だぜ。で?ギンの獲物は何だ?」
ゴドルが武器を選びながら俺に声をかけてくる。もしかして訓練してくれるのか?早速訓練の相手が見つかって嬉しい。しかもDランクという格上だ、こりゃあ、いい、しばらくこいつらに相手してもらう。
「く、強ええ」
「何でEランクなりたての奴がこんなに強いんだ?」
「ギン、てめえランク嘘ついてないよな?」
「しかも、何でバテてねえんだ。どんな体力してんだよ」
訓練が終わるとゴドル達から口々に文句を言われる。確かにこいつらDランクにしては弱すぎるな。上がったばっかりって言ってたからこんなもんなのかな?『鉄扇』よりちょっと強いってぐらいか。
「俺はドアールでC、Dランクとよく訓練してたからな」
「あの街でCランクって『大狼の牙』しかいねえじゃねえか、何でそんな奴等がEランクの訓練に付き合ってんだよ」
「おい、ギン、お前と訓練してたDランクの名前は?」
「一番は『カークスの底』、次が『赤盾』で、いない時は適当なDランクに相手してもらってた」
結局師匠達から一本もとれなかったな、あと『赤盾』もとれてねえな。帰ったらあいつらにはリベンジだな。とか考えていると、
「まじかよ、どっちもD止めで有名な奴等じゃねえか」
俺が答えるとよく分からん単語が飛び出してきた。
「D止め?」
「ああ、Cランク以上になると国から毎月少しだが給金が支払われて、ランクに見合った爵位並みの待遇を与えられる。Cなら騎士爵、Bなら男爵、Aなら子爵だったはず。で、そうなると待遇はよくなるが、義務が発生する。まあCならそうでもねえがAにもなるとしょっちゅう貴族から呼び出し受けて、国からの依頼を受けたりしなくちゃなんねえ。それが嫌で、Cに上がれる実力があるのにずっとDで止まってる奴等の事をD止めって言うんだ」
『赤盾』はどうか知らないが、師匠達はそういうの嫌いそうだな。豪華な飯よりギルドの酒場で作法とか気にせず楽しく酒飲めりゃいいとか言いそうだ。そうするとカイル達は貴族なのか?あいつら闇の国に行ったけど大丈夫なのか?
「で、そのD止めで『カークスの底』と『赤盾』は都まで知られてるぐらい有名なパーティなんだよ。まさかギンがそんな奴等から訓練して貰ってるなんてな・・情けねえが俺らが負けた理由も分かったぜ」
そうか師匠達やっぱりDランク以上の実力だったんだ。師匠達がしっかり評価されてて嬉しいな。
「まあ、これからも暇な時は相手してくれ。それよりも少し話が聞きたい。飯でも奢るからどうだ?」
「おっ、お前中々分かってんな」
「よし!お前ら行くぞ」
俺の言葉に機嫌を良くした「ウェイブ」の連中おススメの飯屋に案内されて飯を食べる事にする。
「で?聞きたい事って何だ?」
「ああ、さっき言ってただろCランクになると貴族並みの待遇になるって。俺、『大狼の牙』にカークスまで荷物運び依頼したけど大丈夫なのか?」
「まあ、大丈夫だろ」
ゴドルの奴が軽い感じで言ってるが、本当に大丈夫なんだろうか?
「いやいや、貴族並みの待遇の奴が他の国に行っていいのか?国の許可とかいらないのか?あともし闇の国に所属移したらどうすんだよ」
「貴族並みの待遇って言っても所詮平民だしな。Cランクなら特に何も言われねえよ。Bになると少し引き止められて、Aはかなり引き止められるって聞く。まあCでも国への貢献度で子爵並みの待遇になってる奴もいるからその辺は個人やパーティによって違うな。あと所属を変えると次からその国で給金がでるが、各ランクに応じた爵位からやり直しになるから、国に貢献した奴等程別の国に行きたがらねえな」
国への貢献度が少し気になるけど大丈夫かな。カイル達も別段気にしてなかったし、ノリノリで依頼受けてくれたもんな。大丈夫だろ。
その後は軽く都のローカルルールっぽいやつを教えてくれと頼んだら、喜んで教えてもらった。ほとんどドアールと変わらず徒歩1時間圏内での採取は子供達用で禁止って所ぐらいが違ったぐらいか。ドアールは30分だったからな。その後は『ウェイブ』の連中と別れて、広場や道具屋、武器屋等を見て時間を潰した。武器屋では少し考えている事があり、安い投げナイフを100本程購入した。
そして16の鐘丁度にギルドに足を踏み入れると、中は大盛況だった。すげえ、この時間で既にドアールより冒険者の数が多い。しかも強そうな奴等も結構いるな、仲良くなって訓練してくれねえかな。・・・・そういうのはボチボチやっていけばいいか、取り合えず今日はリマとクオンだ。そう思って辺りを見渡すが、二人とも見当たらないので、受付に声を掛けるとすぐに奥から二人が出てきた。既に職員の服装ではなくて、普通の格好に着替えていた。
「悪い、ちょっと待たせたか?」
「ううん、着替えてた所だから大丈夫」
「それじゃあ、行きましょ。私達おススメの店だから期待しておいてね」
そう言ってクオンは俺の腕に抱き付いてくる。
「おい、歩きにくいし勘違いされるから離れろよ」
「いやよ。ギンには感謝してるからお礼よ、お礼。あと、男避け?」
「お前、何のお礼なんだよ。あと、勝手に男避けにするな。リマからも何か・・・お前も何してんだよ」
リマに助けて貰おうとして後ろを振り向くと何故か俺の服の裾を掴んでいる。俺の突っ込みに気付くと何か照れ笑いするだけで、手を離そうとしない。何だこの状況?とか思いながらも都だと普通なのかと思い外に向かっていると、
「おい、アレ、リマとクオンじゃねえか。一緒の男は誰だ?」
「リマが男と歩いてるなんて・・・しかも笑顔とか初めてみたぞ」
「クオンとか腕に抱き付いてるじゃねえか、あの男誰だよ」
若干騒ぎになってる気もするが、まあ気にしない事にして、クオン達おススメの店に案内してもらった。
「「「お疲れ~」」」
木のカップを打ち鳴らしてビールを口にする。最近はなんだか美味しさが分かってきたので、俺もかなり冒険者らしくなったんだろう。
「プハー。いやあ、うめえな」
「ギンは何かオッサン臭くなったね」
「お酒なんてすごい久しぶり。・・・あの時以来か・・・」
俺のリアクションにリマが突っ込みを入れて、クオンがしみじみしてからポツリと呟くと表情が暗くなる。リマもそれを聞いて暗い顔になる。多分『ドアールの羽』で飲んだ時以来なんだろう。
「あんまり昔を振り返るなって、今日は楽しく飲もうぜ」
「そ、そうだね。クオンも変な事言わない!」
「アハハ、ごめんごめん。それで?ギンはどうしたの?所属変更って事は都にずっといるの?」
「いや、俺は1年だけ修行で来ただけだ。1年したらドアールに戻るつもりだ」
ついでにその理由も一緒に説明する。
「そっか。『カークスの底』が・・・・ちょっと信じられないけど相手に『三兄弟』がいて人数も多くて、しかも情報まで漏れてたら厳しいね」
「それよりもその『三兄弟』よ。ドアールの方で討伐したって聞いたけどホントなの?」
「ああ、ホントだ」
「しかもEランクが一人で倒したって噂が流れてきてるんだけど?」
「一人じゃねえよ。半分は師匠達が殺してたぞ」
「やっぱり!『三兄弟』倒したのギンだったのね?誤魔化してももうすぐ報告書上がってくるから嘘はすぐバレるからね」
うっ。あんまり言い触らして欲しくないんだけど。
「あと『尾無し』戦に一人だけFランクで参加してたんでしょ?報告書読んだから知ってる」
おい、冒険者ギルド!情報管理ガバガバだぞ!どうなってんだ!
「できれば目立ちたくないから内緒にしてて欲しいんだけど」
「分かってる。職員は報告書は自由に読めるけど、内容について口外すると罰せられるから誰にも言わないよ」
それならバラされる事もないから大丈夫だろう。
「それで?お前らの方はどうだったんだ?」
俺が聞くと二人は顔を見合わせた後、真面目な顔になって頭を下げてきた。
「ギン、あの時助けてくれた事、お金を持たせてくれた事ありがとうございます。おかげで体を売らずにギルド職員として働く事が出来ました。本当に感謝しています、お礼は私達に出来る事なら何でもやりますので遠慮なく言って下さい」
急に改まってリマがお礼を言う。その横でクオンも真面目な顔をしている。感謝してくれるのは有り難いが、そこまで畏まる必要もないけどな。
「別に気にしなくていいぞ。金も師匠の指示でカバンに忍ばせたからな。お礼は師匠に言え。どうしてもってんならいつかドアールの街に行って師匠達の墓参りでも行ってくれ」
カバンに忍ばせたのは師匠の指示じゃなかったけど、師匠のせいにしておこう。あっちに行った時に師匠から叩かれるかもだけど、それはまあ、俺をおいて逝ったからとか言えば納得してくれるだろう
「ホントにそんな事でいいの?・・・・分かった。必ずいつか墓参りに行くから。そうだ!1年後ギンがドアールの街に戻る時に一緒に行こうかな?」
「あ!それいいね!ついでにチックとテトの墓参りも行こう」
なんか俺抜きで勝手に予定が決められているけど帰りこいつらが一緒なら馬車も暇じゃないからいいか。それよりも、
「お前ら何でギルド職員になれたんだ?」
「ミーサさんが保証人になってくれたんだよ。ギンから貰ったお金で部屋を借りられたからね。住む場所がちゃんとしてれば仕事は選べるから、最初は給仕でもって思ってたんだけど、ミーサさんが保証人になってギルドで仕事見つけてきたって言って都について3日後にはもう働かされてた」
着いて3日後って・・・あの人仕事速いな。俺のあげた金貨も役に立ってくれたみたいで良かった。
「そうそう、そこから1週間休みなしでギルド開ける所から閉める所までずっと働かされて辛かった。ただ、覚える事が多かったから気落ちしてる暇なんてなかったけどね。しかもミーサさんは私達に付きっきりで仕事教えてくれたから、頑張れたんだ」
師匠からの依頼だったけど、帰ったらミーサさんにもお礼言っとかないとな。
「私達の仕事教え終わってからのミーサさんが凄かった。有り得ない速さで仕事片付けていってギルマスも驚いてた。何回か都のギルドに移籍してこないか勧誘したみたいだけど断られたって悔しがってたなあ」
その時のギルマスを思い出したのかリマがクスクス笑っている。普段からそうしてればいいのに。まだ引きずってるようだし俺からは何も言わないけど。
しばらく話していると、だんだん二人の仕事の愚痴になってきた。普段からあんまり言わずに溜め込んでいるのか、それはもうありとあらゆる愚痴を聞かせてもらった。大半が男の視線や飯の誘いが鬱陶しいって事だった。二人とも笑えば可愛いし、リマはまあ中々立派なものを持っているから仕方ないと思うけど。
「それよりさ、南の街道方向でいい採取依頼とかってないか?」
現役ギルド職員なら詳しいかもと思って話の流れをぶった切って質問してみる。さすがにずっと愚痴に付き合うのも疲れる。
「・・・うーん、Fランクの採取・・・しかも南の街道って言うと・・・今ならゴルの実かなあ。10個採取で銀貨3枚だったはず」
自信なさげにリマが答えるが、何かしら依頼があるならいい。明日はその依頼を受ける事にしよう。
「そうか。明日その依頼受けようと思うけど、人気の依頼か?」
「全然、Fランクならあんまりそういうの気にしなくてもいいよ。ただDランクに上がったぐらいから意識はした方がいいね。あんまり狙いすぎてるとクランに目を付けられるから」
クラン?また訳分からん言葉が出てきた。D止めもだけどまだまだ俺が知らない事多すぎるな。まあ、困ったらクオンかリマ、『ウェイブ』の連中に聞けばいいか。
「クランって何だ?説明してくれ」
「ああ、そうかドアールの街だとCランク一組だったもんね。クランってギルド公認の言葉じゃないんだけど、水の国では都にしかいない3組のAランクパーティの派閥みたいなものだよ。Cランクが加入条件だから上がるとどこかの派閥に所属するパーティが多いよ。別にギルド公認じゃないから所属しなくても問題ないけど、クラン戦に参加できないっていうデメリットもあるよ。」
「クラン戦?」
また訳分から単語だ。
「レイド戦みたいなもの。レイドはギルドや、貴族、領主が参加可能な強いパーティをクラン関係なく招集して地竜みたいな大型の魔物を討伐するけど、クラン戦はクランに所属するパーティで大型の魔物を討伐しにいくってのが大きく違うかな。レイド戦は滅多に発生しないけどクラン戦は3~6ヶ月に1回ぐらいのペースでやってるみたいだから、参加すると報酬はかなりいいってのがメリットかな」
少しクラン戦に興味沸いたけど加入条件がCランク以上ならD止めする予定の俺にはあんまり関係ないな。それよりも、
「Cランクが加入条件なら何でDランクから意識しないといけないんだ?」
「それは、優秀なパーティはDランクのうちから見られてるからよ。Dランクになったらスカウト合戦が開始してるみたいだし。そんな事だからあんまり割のいい依頼受けてばっかりだと周りから嫌われてCランクになってからもクランに入れて貰えなくなるって話も聞くね」
確かに良い思いばっかりしてる奴が仲間に入るとモチベが下がるもんな。
「そう言えば今日、『ウェイブ』ってD成り立ての奴等と仲良くなったんだよ。あいつらどこのクランになりそうか分かるか?」
聞くと、リマが少し嫌そうな顔をする。ゴドル・・・厳しいかもしれないけど頑張れ。
「『ウェイブ』なら多分『ガーデン』で間違いないわ」
代わりにクオンが答えてくれた。
「聞いておいてアレだけど、何でほぼ断定できるんだ?」
「『水都』のクランは『ガーデン』、『大海龍』、『水龍姫』ってあってね、『水龍姫』はAランクの女冒険者カラミティの元に集まったクランね。Cランクに上がったパーティでイケメンだけを、どうやってるのかクランに入れて新たにパーティ組ませてるわね。それでよくパーティ解散引き起こしてる問題クラン、ギルドとしてはパーティ内の事だから口出せないんだけど、あんまり評判は良くないわ」
そのクランは流石に関わりたくねえな。絡まれる事があったらすぐに引き下がって遺恨を残さないようにするのがいいか。
「次は『大海龍』。ここは魔法使いを好んで加入させているクランね。あと、女冒険者が多いから男は肩身の狭い思いをするわよ。女が多い理由は『大海龍』トップのAランクパーティ『深海』がイケメンばっかりだからよ」
・・・万が一誘われたとしてもこのクランもパスだな。
「それで最後が『ガーデン』ね。ここはさっきの二つから落とされたパーティが加入するクランってのが一般的な認識かしら。最後の受け皿的なクランだから当然数が多いし、クラン戦も中々参加出来ない。ただこのクラントップ『青盾』パーティのリーダー、ギワンさんは何とかしようと色々頑張ってる人だから好かれてるわね、ギルドとしても雑用的な依頼も受けて貰ってるから一番評価されてる」
それならこのクランが一番まともそうだな、それでもソロでD止めの俺には関係ないか。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
「ねえ、また一緒に飲もうよ」
あの後もしばらく話をした後、店を後にしてこいつらの家まで送っていくと、次回のお誘いを受けた。別にあの時みたいに敵視してこないし、中々参考になる話が聞けたので俺としては断る理由もない。
「おお、いいぞ。前もって言って貰えればこっちが日程を調整する。それじゃあ・・・って所だけど、色々教えて貰ったし、奢って貰った礼にこれやるよ。二人で飲め、味は師匠のお墨付きだ」
そう言ってワインを1本渡す。そう言えば都の下水とかにも隠し部屋あったりするのかな?近いうちに強制参加の下水の大鼠討伐があるみたいだから、その時に調べるか。
「ありがとう」
「おお、ありがとう、よし、リマ寝る前に少し飲もうか?」
「いいけど、明日仕事だからあんまり飲まないよ」
玄関で話し込んでも迷惑だから挨拶をしてから俺は宿に戻った。




