61話 水都到着
翌日からも馬車の中はマリーナさんに色々聞いたり、アンも含めて俺の持って来たトランプやリバーシで遊んだりして暇にはならなかった。トランプやリバーシについてはこの世界でも似たものがあるらしく、別に驚かれなかった。
で、本日はマリーナさんから歴代の『影魔法』使いについて話を聞いた。最初の『影魔法』使い『皇帝』はあの本の通りだった。ただ最初から『皇帝』と呼ばれてなくて『沼』と呼ばれていたそうだ。由来は『影収納』にしまう時に沼に沈んでいってる様子からだそうだ。それから『沼』として台頭してきた頃に一人で国を滅ぼしたっていうから、かなり強かったんだろう。俺が本気出せばどうなんだろう?国滅ぼせるのかな?そういやエレナが街を滅ぼしたりしないか聞いてきたのはこれが原因か。
次に『大頭領』これもアンの言ってた通り各国を荒らし回った大盗賊団のトップだ。こいつは金目の物は相手が身に付けてようが『影魔法』で一瞬で奪い取っていったらしい。まあ、『影収納』の応用だな。こいつは各国の精鋭から追われて洞窟に逃げ込んだ所を『光』を絶え間なく入り口に投げ込まれ、閉じ込められたそうだ。『影魔法』封じられた状態で洞窟から出たら精鋭に殺される事が分かっていたんだろう。『ずっと』ってのがどれくらいか分かっていないが、しばらくしてから洞窟を確認したら、餓死していたそうだ。俺は今『影収納』に半年は生きていけるぐらいの食料は入ってるし、『自室』もあるから、餓死する事はないだろうけど、何となく街についたら少し食料を補充しておこう。
最後が『皇帝』崇拝のカルト教団を作り多くの生贄を『皇帝』に捧げた『教祖』。こいつは正体不明で、どうやって信者を増やしたか、どうやって各国の中枢に信者を潜り込ませたかよく分かっていない。各国が気付いた時には信者の大部分が重要な役職についていたので、排除した後は各国ともかなり疲弊したらしいが、それでも『サイ国』と『光の教国』が本気を出してやつけたそうだ。ただいくつか気になる事があった。
「・・・・効かなかった?」
「いえ、効かなかった訳じゃなくて、怯みはするけど『光』の中でもある程度『影魔法』を使えたそうです。それでかなり被害が出たそうで、結局最後は魔力切れの所を討ち取られたそうです」
おいおい、ちょっと待て、マリーナさんからすげえ事聞いたぞ。まず『光』使われても『影魔法』使えるってとこだ。これは今日から試してみるか。そしてもう一つは魔力切れだ。『影魔法』って魔力使ってんのか?・・・いや『魔法』ってぐらいなら使ってんだろう。俺はあんまり使わないから魔力切れ起こした事ないな。これも後で検証してみるか。
そうして今日はドアールの街と同じくらいの規模の街に泊まった。そして翌日またまたすごい話をマリーナさんから聞いた。
「伝承通り?」
「はい、伝承通り。この前、勇者様が召喚されたそうです」
「えっと、伝承通りって誰が予言したんですか?」
「建国王様達です。今から数百年後に20名の勇者様が各国に召喚されると言い残したと伝わっています」
・・・・『建国王』って予知系のスキル持ってたのか?しかも20人って・・・俺と一緒に召喚されたのが俺含めて10人だったから、残り10人はどっか別の場所に召喚されてんのか?しかも20人って事はクラス全員が召喚された訳じゃないのか。ノブはいないかもしれないな。
「召喚された勇者って名前とか分かりますか?」
「いえ、勇者様の情報については一切分かっていません、極秘事項だという話です。私達平民には無事召喚されたとだけ国から発表がありました。その時ドアールの街でも盛大にお祭りしてたんですけど、ギンさんはいなかったんですか?」
・・・その時は多分鬼ごっこしてた頃かな。クソムカつく国でもお祝いしてたのかな、祝って欲しくはないけどそれはそれで何か腹が立つな。
「その頃は各国でお祝いしてたそうですけど・・・」
そうか世界中で楽しんでた時に俺は一人必死で逃げ回ってたのか。やっぱりあの国はムカつくなあ。
「そうですね、あとは各国2~3人召喚されるって話と建国王様達が召喚装置を作ったとか、『サイ国』は勇者召喚に参加してないとかぐらいですかね」
後は何かないか聞くとマリーナさんはまたとんでもない事を言い出した。
各国2~3人って・・・俺を召喚した国は10人召喚してるんだけどこの時点で話が合わない。それと建国王達が召喚装置作ったって話、火の国の様子から俺らは戦力としてかなり期待されていた事は分かるが、何で『帝国』と戦ってる時じゃなくて数百年後の一応世界が平和な時代に召喚してんだ?・・・・伝承通りって事だから召喚に失敗した訳じゃないよな。今から何かしら悪い事が起こるからその為に呼んだ?・・・考えても分かんねえな。あと『サイ国』が勇者召喚に参加していないってのも気になる。何か後ろめたい事でもあるのか・・・これも考えてもよく分かんねえ。気になるけど死んだ事になってる俺は無理に調査して危ない橋を渡る事もないか。魔王とかそういうの倒せってのは金子達がやればいい、俺は自由にやらせてもらう。ただ、
「カイル、少し話がある」
今日も夕方まで馬車で揺られるとドアールの街と同じぐらいの街に着き今日はここで泊まるそうだ。で、宿についてマリーナさん達が寝た後に俺はカイルを部屋に呼んだ。
「何だよ。ピエラとクリスタとこの後楽しむんだから、早く済ませろ」
イラッ!——————ズッ
部屋を影で覆いつくす。
「ちょ!お前何してんの」
「何となくだ、それよりも勇者召喚について聞きたい」
「はあ?お前今日マリーナから聞いてただろ。俺もたいして変わらねえぞ」
「10人だ、俺含めて10人が召喚された。これはどういうことだ?各国2~3人ってのはデマなのか?」
「・・・お、お前、それマジかよ。・・・噓・・・な訳ねえよな、勇者本人だし。しかしやべえ事聞いてしまった」
「別に何もヤバい事は言ってないだろ?」
「馬鹿、勇者の情報は超極秘扱いなんだよ。この国でも召喚成功したって事は発表はあったけど、名前、性別、何人召喚されたなんて、国の上の連中ぐらいしか知らないんじゃないか。で、そんな勇者の人数を知ってるなんてバレてみろ、確実に捕まって色々聞かれるぞ。ホントかどうかしらんが各国密偵を放って勇者の情報集めてるって話だ、更にドアールの街なら大したことないが都で勇者について聞いて回ってたら密偵と間違えられて捕まった奴もいるらしいぞ」
勇者ってのはそんな重要なのか。ホントに何かやらせるつもりで召喚したのか
「なあ、何で俺らが呼ばれたか分かるか?」
「知らん。建国王達の予言も400~700年後ぐらいに勇者が20人召喚されるって伝わってるだけだぞ」
・・・400~700年って期間が絞り切れてねえ。今が予言から500年後あたりだろ、700年後に皇帝復活とか魔王出現とかなっても俺ら死んでんじゃねえか。ホントに何で呼ばれたんだ?
「建国王達が召喚装置を作ったってのは?ホントか?」
考えても分からないので次の質問をする。
「ホントかは知らねえけど、そう伝わってる。サイ国以外には召喚装置が設置されてるらしいぜ。サイ国に設置されてないのは、建国王の指示らしい」
ますます分かんねえ。自分達で作っておいて自分の国には設置しないってホントに何考えてんだ?
「自分達で作っておいて召喚装置置かないってどういう理由かわかるか?」
「分かる訳ねえだろ。ただ、召喚に失敗したら装置が爆発して城が吹き飛ぶから設置しなかったとか、世界の盟主国の『サイ国』がこれ以上戦力を手に入れても意味ないからとか聞いた事あるぜ」
物騒な事を言われてるが、実際はどうだったかなんて本人に聞かなきゃ分かんねえ。いや、もしかすると国の極秘文書に書かれてるかもしれないな。昼間はどうでもいいかとか思ったけど、こうやってカイルを呼び出して話をしていると、自分が思っている以上に気になっている事が分かった。でも結局は国の上の奴に話を聞かないと分からないだろうな。『勇者』って名乗り出ると証拠見せろって言われて『影魔法』使う。不吉だとか言われて命を狙われる。この国にもいられなくなる。・・・・うん、やっぱり目立たないように冒険者として生きよう。そう結論をだした所でカイルを開放してから寝た。夜中隣が五月蠅かったので壁ドンを何回かする嵌めになった。明日は『自室』で寝ようと決めた。
翌日寝不足の俺は午前中は馬車で寝てすごした。さすがにここまで来ると席も8割方埋まっているので、横になって寝れなかったので体がバキバキになった。昼飯は初日からずっと『大狼の牙』とマリーナさんとアン母娘で食べている。そうしていつも通り昼飯を食べていると、護衛が交代してピエラ達が食事を食べにくるので、俺はいつもの様にスープを3人に渡していくが、いつもと違い3人・・・今見張りをしているガウルとオールもだが緊張している。俺も理由は分かっているのでピエラに確認してみる。
「見られてるぞ」
「知ってる」
斥候のピエラなら気付いているだろうと思い聞いてみるとすぐに答えが返ってきた。答える時にチラリと視線を向けたので、場所も分かっているみたいだ。俺の『探索』でも視線の先に反応があるので、間違っていない。しかも赤だから敵視してるようだ。
「こいつは何だ?気になるから捕まえてきていいか?」
「やめて。多分野盗の斥候よ。客が金目の物を持ってないかとか、私達がどの程度の腕か調べてるのよ。唯の乗り合い馬車だからすぐに興味を無くしてどっか行くから。ああいうのは行商人とかの商隊を狙うから下手にこっちから手を出すと、怒って襲ってくるわ」
「・・・野盗を見逃せと」
『野盗』と聞いて怒りが湧いてくるが、頭はすごく冴えている感覚だ。
「ちょ、ちょっと、ギン。気持ちは分かるけど、今はやめて!守らないといけない人をわざわざ危険に晒すわけにはいかないわよ」
慌てるピエラの言葉に少し冷静になる。確かにこのまま戦闘になったらアンとかすごい怖がるだろうな。
「悪い。無関係の人を巻き込む訳にはいかないな」
ピエラ達に謝った後、斥候に気を付けながら食事を済ます頃には言われた通り、斥候は俺達から離れていった。そして夕方ごろにようやく都に到着した。都の入口にはかなりの人数が並んでいたが受付の数も多いのか思った以上に待つ事なく『水都』に入る事が出来た。そうして入った『水都』だがカイル達から聞いている通りドアールの街のだいたい4倍ぐらいだ。街の形もドアールと同じで南北に主要街道が走り、街の中心から東へも光の教国への大きな街道が通っている。西側はでかい城が建っていて、その周辺は貴族街。まんまドアールの街だ・・・いやドアールが真似したのか。ただドアールと大きさ以外で唯一違うのは城の向こうは海が広がっている事だ。これなら海鮮系が期待できる。
「よし、ここよ。ここが私達おススメの「流水の宿」。この場所で素泊まり個室で銅貨3枚だから、かなりお得だね。まあ人気すぎて泊まれない事もあるのが欠点だけどね」
中央広場から程近い入り組んだ場所にある宿を案内してもらった。カイルはリーダーとして護衛依頼の報酬をもらいに商業ギルドに行っているのでここにはいない。取り合えず疲れたのでここを今日の宿として荷物を置いて近くの酒場でみんなで飯を食べている。
「ギンさん。色々とありがとうございました。エステラさんの件はしっかり調べますので、期待しておいてください」
改めてお礼を言うマリーナさんは最初に会った疲れ切った顔より大分血行が良く明るくなった気がする。アンも『大狼の牙』に慣れたのか今日はクリスタの隣でご飯を食べていた。その後、店の隅で腕立てしているガウルの背中に乗って楽しそうにしている。
「いえ、きちんとそれに相応しい対価は貰っているので、お礼はいいですよ。それよりも道中気を付けて下さい。一応カイル達がいるので大丈夫だと思いますけど」
「いやあ、駄目だった。もう取られてた。やっぱり都は競争が激しいみたいで、ギルドが開いてからすぐに行かねえと駄目みたいだな」
カイルがぼやきながら戻ってきた。国境までの護衛の仕事は無かったらしい。
「って事でマリーナ。明日から歩く事になるから覚悟しておけ。それと街や村で泊まる予定だが、最悪野宿も考えておいてくれ」
言われてコクリと頷くマリーナさん。そうして軽く話した後、明日に備えて寝る事とした。
翌朝、門の所まで『大狼の牙』と母娘を見送りについて行った。
「本当に、本当に色々ありがとうございました!エステラさん達の事はしっかり調べておきますので1年後、必ず来てくださいね」
マリーナさんから改めてお礼を言われるが、何度も言ってるようにお礼を言われる事はないんだけどな。
「カイル、師匠達の事頼んだぞ、あと道中気を付けてな」
「まあ、大丈夫だろ。護衛対象が二人に減ったから、何かあっても切り抜けられると思うぜ。それよりもお前もしっかりな。ここは冒険者の数も多くて、俺らよりランクの高い冒険者もいるからな。最初は絡まれるかもしれねえが、余所から来た冒険者なら当たり前の事だから、やり過ぎんなよ」
俺がやり過ぎた事があったか?カイルの注意に疑問が浮かぶ。しかし絡まれるの確定かよ、面倒くせえ。
「じゃあ、後は頼んだ、道中マリーナさん達に無理はさせるなよ。急ぎじゃないんだ1日2日ぐらい予定が伸びても、こんだけあれば気にならんだろ。お前らとマリーナさんの宿代や飯代に使ってくれ」
そう言って、カイルの手に金貨3枚握らせる。
「・・・お、お前、これ・・・・はあ~。分かった。ありがたく貰っておくぜ。お前ら、今回の依頼主はかなり羽振りがいいぞ、道中の費用も出してもらったぜ」
カイルがメンバーに声をかけると、次々にお礼を言われる。そうして各自とお別れを済ませて、ガウルに肩車されたアンの頭が人混みに消えていくのを見届けてから俺は冒険者ギルドに足を運んだ。




