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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
1章 火の国の逃亡者
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6話 水の国の国境都市

次の日、目を覚まして準備をしながらマップで街の様子を見てみると、街道には30人程の列が出来ている。恐らく街に入ろうとする人たちが並んでいるんだろう。国境の方からはどんどん人が移動してきているので、まだまだ列は伸びそうだ。


俺は急ぐ訳でもないので、のんびり準備をして『自室』から外に出る。出た場所は街からは見えない少し森に入った所、森から出てくる所を見られると怪しい事この上ないが、用を足していたとでも言えば大丈夫だろうと思い、森から街道に向かって歩き出す。ちなみに今の俺は兵士から奪った服を着ている。さすがに日本の服だと目立つと思ったので、一番サイズが合った物を当然洗濯して着ている。足はものすごく嫌だったが、我慢してこれまた一番サイズが合う奪った靴を履いている。あとはハンターから奪ったカバンを背にしている。武器は装備していると何か言われるかもと思ったので装備していない。


そうして列の最後尾に並ぶ。幸い森から出てきた所で誰も不思議に思わなかったようだ、良く見れば時々森から人が出てくるので本当に用を足していたと思われたのかもしれない。


列に並ぶと進むスピードはかなり遅いので街に入るまでは1時間以上はかかりそうだ。ただ列を挟むように露店が立ち並んでいるので、それを眺めていれば時間はすぐに経ちそうだ。露店に並んでいる商品は俺には見た事無い物が一杯で見ているだけで面白いが、列に並んでいる人達は見向きもせず全く興味がない様子だ。


そんな中俺は一人の男の子に興味がいく。その男の子は列に向かって何か話しているが、相手にされないと分かると列を移動してまた声掛けしてを繰り返している。首からは「絶品スープ鉄銭2枚」と書かれた板を吊り下げている。書かれている文字は日本語ではないけど何故か読めるので不思議だ。小さい男の子が頑張っているのと、「絶品スープ」に興味が沸いたので男の子を手招きしてこちらに呼ぶ。


「はい、いらっしゃい。スープ1杯鉄銭2枚です」


こっちに来ると元気に明るくはっきり答える男の子。しっかり接客態度が出来ているからすごい。俺?バイトもした事ないから出来ない。


「一つくれ。はいお金」


カバンの中から鉄銭を2枚取り出す振りをして、実際はカバンの中で影収納から取り出して男の子に渡す。兵士やハンターから奪ったのでお金は鉄銭、銅貨が300枚以上、銀貨150枚以上、金貨1枚はある。スープの値段から鉄銭1枚100円ぐらいかなと予想してみる。

お金を渡すとお礼を言って男の子は走って一つの露店に入っていくとすぐに手にコップを持ってこちらに向かってくる。


「はい、これ。コップはあとで回収するから捨てないでね」

「ああ分かった。」


あんなに小さい子でも働かないといけないのか?それともお手伝いしてるだけなのか?学校とかあるのかな?色々疑問が浮かんだが、まずはこのほのかにいい匂いがしているコップの中身だ。


匂いはコンソメスープっぽいな。何気に異世界最初の食べ物。さて、お味は・・・・・薄っ。滅茶苦茶薄いぞこのスープ。どこが絶品なんだよ、コンソメを水で倍以上に薄くしたみたいな味だ。薄味好きな人でも絶対薄いって文句いうレベルだぞ・・・もしかして異世界って薄味料理ばっかりなのか?だとしたら面白さ半減だな、いやまだ決めつけるべきじゃない。もう少し色々食べてからだ。


しばらくするとさっきの男の子がコップを回収しに来た。先ほどから様子を見ていたが、あまりスープを買う人はいないみたいだ。まああのスープなら俺も2回目は無いからなあ。


「コップ回収にきました」

「ほい。ごちそうさま」

「どうでした?うちの絶品スープ?」


笑顔で聞いてくる男の子に「味が薄い」なんてそんな酷い事は言えない。正直に言った方がいいのかも知れないけど、俺には無理です。


「ああ、美味しかったよ」


俺も笑顔で嘘を答える。


「本当!ありがとう。また今度もお願いします」


・・・ごめんな。次は無い


「ああ分かった。・・・あっそうだ。少年、ちょっと教えて欲しいんだけど」


思っている事と真逆の事を答えて、ある事を思い出して走って行こうとする男の子を呼び止める。


「この街に入るのってお金どのくらいかかるの?」


俺が尋ねると少年は笑顔で手を俺に向けてきて、


「鉄銭1枚でいいよ」


情報料を要求してきやがった。この野郎、結構たくましいじゃねえか。これならスープの味も正直に教えてやれば良かった。


「この街の住人とギルド員は無料だね、あっちの門から入れるよ。別の街のギルド員は銅貨1枚、それ以外は銅貨3枚だよ。」


俺が鉄銭1枚を渡すと、少年は素直に教えてくれた。


「って事は身分証何も持ってない俺は銅貨3枚必要って事か」

「そうだね。でもお兄さん街に入ったらギルドに登録した方が色々便利でいいよ。商業か冒険者どっちのギルドの場所も街の中心だから!分からなくても入ってその辺の人に聞けば教えてくれると思うよ。それじゃあ、仕事に戻るね。」


教えてくれた少年にお礼を言って、今の会話の内容について考えてみる。


街に入るのに銅貨3枚かそれなら余裕だな。身分証なくても問題ないらしいからこのまま列に並んで街に入るか。そんで商業か冒険者かのギルドに登録するか。でもどっちにする・・・って悩むまでもないか商売なんて俺に分かる訳ないから冒険者ギルドだな。・・・異世界召喚されて約1ヶ月ようやく俺も逃亡者から冒険者にジョブチェンジか。


そうして列が短くなりついに俺の番がやってきた。


「よーし。次。身分証は?」


・・・・対応した職員は話し方に抑揚がなくてすんごい事務的なんだけど・・・こんだけの人を捌かないといけないから忙しいんだろうと割り切る事にした。


「ない。冒険者になりにきた。」


こういう人には雑談しても迷惑に思うだけだから必要な事だけ答える。


「じゃあ、銅貨3枚・・・・はいありがとう。で名前は?」


用意していた銅貨3枚を渡すと相変わらず事務的に名前を聞かれる。


この人ずっと何か書き物しながらなので、全然俺の方に顔を上げないんだけど。まあこの人の対応はどうでもいいとしてどうする?偽名使った方がいいのか?本名の『土屋銀次』名乗っても大丈夫か?


「偽名でも本名でもいいぞ。どうせこっちで血を取って登録するから」


俺が少し迷っていると、すぐに答えてくれる。相変わらず顔は上げない。


名前はどっちでもいいのかよ。大切なのは血の登録の方なのか。多分大丈夫だよな。あのクソムカつく国で犯罪者にされてないよな?血とか採られなかったから大丈夫だと思うけど、一応逃げる心構えだけはしとくか。


「村では『ギン』って呼ばれてたから、本名かどうか分からない」


念の為、偽名を使う事にして、色々残念な生い立ちが醸し出る感じで答えてみるが、


「ああ、はいはい。じゃあ名前は『ギン』ね。それでこっちの針で指でもどこでもいいから刺して血を一滴頂戴」


残念な生い立ちは軽くスルーされた。こいつ対応がマジで事務的すぎる、日本なら暇なジジババからクレームが来るレベルだぞ。


心の中で文句をいいつつ言われた通り指を針に刺すと、針の下に置いてあった金属製の板が軽く光ったと思ったら、金属の板に『ギン』って文字とバーコードが書かれていた。


おお!すげえ。これって魔法か、いや魔道具ってやつか。すげえ異世界すげえ、テンション上がる。


魔道具?を見て少しテンションが上がった俺だったが、


「じゃあ、はい、これが仮の身分証ね。期限は今日から5日間。過ぎると衛兵に捕まるから5日過ぎる前にギルドに登録するかここで再登録し直して下さい。それでは、ようこそ、水の国の国境都市ウォータードアールへ」


相変わらず事務的に進めていく職員、『ようこそ』とか言うならこっち見て言え。書き物しながらこっちも見ずに仮の身分証渡してくるな、態度悪いぞ!・・・・なんて事が言える訳もなく無言で身分証を受け取る俺。受付の対応はあまり感じはよくないが、最初のクソムカつく国よりは全然マシだ。個人的にはこれが異世界最初に訪れる街だと思っているので、かなりワクワクしてくるが、必死に胸の高鳴りを抑えながら、門をくぐり異世界最初(2番目)の街に入った。


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