表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
第3章 水の国境都市のFランク冒険者
58/163

57話 師匠からの命令

「これでもう安心したか」

「うん、いつもと変わらないギンの顔になってる。フフフ」


言いながら抱き着いてくるエレナだが、そんなに怖い顔していたんだろうか。鏡見て無いから分かんないな。


「それなら、そろそろ教えてくれてもいいだろ。師匠は何で俺が勇者だって気付いたんだ?」


あの後、3回も搾り取られたので、さすがに体が怠い。賢者タイムなのかポーラスへの怒りはあるが先程よりは大分収まっている。


「最初の薬草採取から怪しんでいたみたいよ。ギンの持ってる『魔法鞄』の容量が新人が持てるもんじゃねえって言っていたから、でも情報屋を使いだしたのはクロの件からだって言ってたわ」


ああ、あん時か灰狼の死体出した時すごい怪しい目で俺の事見てたもんな。


「それで色々ギンの事を調べたって、火の国の情報も仕入れたりして、最終確認したのは『尾無し』戦で、致命傷を負わせた黒い土槍を見た時だって言ってたわ。それも『偽装』スキル使って誤魔化したそうね」


うへえ。全部バレてる。流石師匠。


そこからエレナに詳しい話を聞いて俺がやらかした事を教えて貰った。クソムカつく国の兜を商人ギルドに売った事、カールに長剣を貸した事、BBQの準備の時に手伝ってくれた子にナイフを貸した事、全て知られていたようだ。やっぱり装備品に変なマーク入れてるあの国のせいじゃねえか。余計に鎧セットが売りづらくなっていくな。


「それで、師匠の命令って何だ?」


バレた経緯は聞いて納得したから次は師匠の遺言を聞く事にする。


「・・・・・『この街をしばらく離れろ・・・まあ『水都』がいいか、1年ぐらいそこにいろ』だって」


しばらくの沈黙のあと、エレナが教えてくれたが、師匠がそんな事を言う理由がよくわからない。


「冒険者は仲間や親しい知人が死ぬとその死に引きずられるってのがあるらしいわ。街に残ると色々思い出がある場所が多いからふとした時に思い出して、長く引きずるそうよ。そうすると依頼に集中できなくなって格下の魔物でもあっさり死ぬ事があるんだって。新しい街に行けば慣れるのに精一杯で思い出す事も少なくなるかららしいわ」


エレナが説明してくれた。確かにこの街や周辺は師匠達、『カークスの底』との思い出がある場所が多すぎる。多分このままこの街に残ると俺はいつまでも引きずるだろうし、師匠の命令だから従うんだが、街を離れるには心残りが一つあるんだけどな。チラリと隣にいる心残りを見る。


「それで、ギンはどうするの?」

「・・・・考え中」


師匠の命令なので街を離れる事は確定しているが、エレナに伝えるかどうかはまだ迷っているので、適当に答えを返しておく。


「そう、これでガフから聞いた事は全部伝えた・・・・もう一つあったわ。『カークスの底』の装備や家に残っている物は全部ギンにあげるそうよ」


ベッドの隣に置いてある机の引き出しから鍵を取り出すと俺に渡してくる。


「それじゃあ、明日は朝のうちにギンはギルドに行って謝ってきなさい、それが終わったらガフ達の家に行って片付けして家を引き払う手続きするから結構忙しいわよ。それじゃあ、おやすみ」


一方的に明日の予定を決めると、エレナは疲れていたのかすぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。そう言えばエレナの寝顔を見るのは初めてだ。しばらくエレナの寝顔を眺めながら色々考えているうちに俺も眠ってしまった。



朝、何かの物音で眠りから覚醒すると、良い匂いが漂ってくる。目を開けると今日も知らない天井が目に入ってくるので状況確認しようと体を起こすと、よく知っている声が響く。


「おはよう、ギン。ちょうどご飯できたから起こそうと思った所よ。冷めないうちに食べましょう」


机の上にはパンとスープ、ベーコンとサラダの正に朝食って感じの料理が並んでいる。


「おはよう、これってエレナが作ったのか?料理できたなんて意外だな」

「意外って何よ、失礼ね。『猫宿』の子はお付の時にある程度料理も教え込まれるから、みんな料理できるわよ」


朝一で軽く文句を言われながらも、暖かくて美味しい朝食を口にする。朝食を食べながら、師匠の命令通りこの街を離れる事をエレナに伝えた。但しもう一つの事は伝えていない。


「・・・・そう」


俺が街を離れる事を伝えるとエレナはそれだけの反応だった。もう少し寂しがってくれたなら俺も頑張れたんだけどな。



食べ終わると、朝食をご馳走して貰ったお礼に俺が片づけをしてから、出掛ける準備をする。


「行きたくねえ」


今日は昨日の事を謝りに朝からギルドに行く予定だが、正直気まずいので行きたくない。


「何子供みたいな事言ってるのよ。私も店に寄ってからギルドに行くから、それまでに済ましておきなさい。その後はみんなの家に行って遺品の整理よ」


まあ、俺の我儘なんて聞いてくれる訳ないので、覚悟を決めてギルドに足を運ぶ。


ギルドには朝の少し遅い時間だったが結構な冒険者が残っていた。特に俺や師匠と親しい奴等はほぼギルド内にいる。この時間は依頼を受けてほとんど冒険者はいないはずだけど・・・こいつら何で依頼受けてねえんだ。


俺に気付くと騒がしかったギルドが静かになる。『鉄扇』や『赤盾』、『大狼の牙』もいるが誰も俺に話しかけてこない。腫物扱いされてるけど、昨日の騒ぎを起こした張本人なので仕方がない。気にせず昨日一番迷惑をかけたミーサさんの受付に向かう、幸い受付には誰もいないのですぐにミーサさんの前に立つ事が出来た。


「・・・・ギンさん」


若干戸惑いつつも俺を不安な表情でみてくる。


「ミーサさん、昨日はすみませんでした」


シンプルに謝罪の言葉を口にして頭を下げる。俺への処分はもう決まったんだろうか。


「いえ、昨日の事は気にしないで下さい。気持ちはみんな同じですから、唯あれ以上すると、ホントに庇いきれなくなってたので反省はして下さいね。あと、止めてくれたカイルさんとエレナさんにはお礼をきちんと言っておいて下さい」


カイルは昨日あの後、上手く誤魔化してくれたみたいだ。これも師匠からカイルにお願いしていたとエレナから聞いた。「まあ、みんな魔法何てよく知らねえからカイルの土魔法って事で上手く誤魔化してくれ」という雑な作戦だったようだが、うまくやってくれたみたいだ。ホントに師匠はどこまで俺を守ってくれるんだろう。


ミーサさんの話から特にお咎めはなさそうだ。それでもギルマスにもきちんと謝っておきたいが、


「ギルマスはカイルさんと野盗のアジトの調査に向かってます。馬を使ってますので順調なら今日の夕方に戻って来ると思いますよ」


いないみたいだ。そう言えば『大狼の牙』にもカイルの姿がみえなかったな。あとここでやる事は、


「ミーサさん、俺は1年程この街を離れて都に行こうと思います。所属についてはどうすればいいですか?」

「・・・そうですか。寂しくなりますが、まあ仕方ないですね。所属については移動してからその街のギルドで手続きをお願いします。こっちでは特に手続きはないですが、離れる事を教えてくれるだけでも助かります。所属変更の書類が届くまで姿が見えなくなると心配しますから」


力なく笑いながら答えてくれると、俺が討伐した野盗について話をしてきた。


「ギンさんが倒した『三兄弟』ともう一人には懸賞金がかかっていまして、併せて白金貨一枚になりました。あと、野盗のお宝なんですがこちらも全てギルドで買い取りさせてもらうと白金貨1枚になります」


全て売り払うと伝えると白金貨2枚を報酬として受け取った。


「あと、『カークスの底』のみんなは昨日のうちに依頼してますので、今日中に街の共同墓地に埋葬されます。埋葬の費用はギルドで持たせて下さい。あのパーティにはギルドも大変お世話になっていますので、これぐらいはさせて下さい」


そうか、それじゃあ費用はギルドにお願いして、明日墓参りに行こう。そして街を離れる事を報告しよう。


「・・・さ、最後に・・・・ポーラスさんが今日のお昼に処刑される事が決まりました」

「・・・・そうですか」


昨日ポーラスの処分は街に委ねるとエレナと約束しているので、特に文句はない。・・・いや、やっぱりこの手で殺してやりたいが、我慢だ。




「そういえば、俺でも依頼って出来ますか?」

「へ?・・ええ、誰でもできますよ。どんな内容ですか?」

「『大狼の牙』への指名依頼で、闇の国ダークカークスへの荷物運びです。荷物の量はこれから整理を始めるのでどれくらいになるか分かってないですが」

「ギンさん。・・・・それって」

「ええ、師匠達の遺品を届けてもらおうかと。師匠達の故郷は全滅したらしいんですが、カークスの孤児院に引き取られて育ったそうなので誰か知り合いに遺品を渡したいなと思って」


ターニャは弟がいるって言ってたけど見つかってないらしいし、エステラさんは国境の街で出会ったって事しか聞いてないから、どうしよう。カークスまでの途中で軽く探してもらって駄目ならカイル達に預かってもらうか。それで1年後に俺が本格的に探しにいけばいいか。


「その内容ですとだいたい大金貨1枚になります、でもこれは通常依頼の料金です。指名依頼は相場の倍ぐらい出すと受けてもらいやすくなりますけどどうします?」

「じゃあ、報酬はこれで」


俺は白金貨を1枚差し出すと、ミーサさんが引き攣った顔で俺を見てくる。


「ギンさん、荷物の量が分かってないって言ってもこれはちょっと多すぎますよ。しかも報酬って手数料込みって事ですよね」

「手数料は別で払いますよ。多めなのは向かう途中で少しエステラさんとターニャの家族や知り合いについて調査してもらいたいからですよ」

「それでも多すぎですよ!・・・・っていいんですね。分かりました、手数料は大金貨1枚になります。カイルさんが戻ってきたら話をしますので、夜にでもギルドに来て下さい」


すぐに納得してくれたミーサさんが手続きを済ませて俺はギルドを後にした。



「ちゃんと謝った?」


ギルドを出るとエレナが待っていて声を掛けてきた。


「ああ、ギルマスがいなかったけど、ミーサさんには謝って許して貰えた。あと、俺のお咎めは無しだった。よかった~」

「そう、良かったじゃない。じゃあ行きましょ」


そう言って俺と腕を組んで歩き出す。


「さて、頑張るわよ。何から始める?」


師匠達の家に行き、エレナから預かった鍵で家の中に入ると、エレナは腕まくりをしながら気合を入れるが。


—————ズァァァァ


影を広げて片っ端から荷物を『影収納』に入れていく。


「終わった」


言った瞬間エレナから肩パンされる。痛え。何も悪い事してないのに。


「ほ、ホントにこうやって改めて見ると凄いわね、『影魔法』って。それでホントにギンが使えるんだもん、未だに信じられないわ」

「便利なだけで別に凄くないぞ。他の魔法はカイルの土魔法しか知らないから実際はどうか知らんけど。それよりも仕分け手伝ってくれ。師匠達の『魔法鞄』に荷物をいれるつもりだから、まずは食い物は駄目になるから取り出して俺が貰うつもり。だけどあと何を入れたらいいんだろ?装備とか?」


師匠達の『魔法鞄』を取り出してエレナにも渡して取り合えず中身を取り出していく。食べ物はあのマズい干し肉とか乾燥した何か、豆とかがあっただが取り合えず俺の『影収納』にいれていく。


「う~ん。孤児院への寄付になるなら・・・そうね。武器、防具は売ってお金にして渡した方が喜ぶわね。あとは服とか食器は喜ばれると思うわ。家具は貰っても困るからこれも売ってお金にしましょう。小物系は孤児院にそのまま渡してどうするかは向こうに任せましょ」


エレナの指示で仕分けがどんどん進んでいき、すぐに男達の荷物の整理が終わった。次はエステラさんとターニャだが。


「エステラとターニャの服とか下着は『猫宿』に寄付してもらっていいかしら?」


エレナからの提案を少し考える。ターニャの弟が生きててもターニャの服とかパンツ貰っても困るだろうから問題ないか。エステラさんはどうしよう。妹とかいたら勝手に処分するのはマズいだろう。


「エステラに家族はいないわ。流行り病でみんな死んだそうよ」


どうしようか困ってエレナに聞くと、エステラさんも天涯孤独だと教えられた。それなら有効活用してもらおう。結局二人の服は全て『猫宿』に寄付する事にした。後は師匠達と同じにし関係者が見つかればその人に渡そう。


そして、これはどうしよう。目の前には約80本のワイン。


「これどうする?売った方がいいか?」

「やめた方がいいわ。ただでさえ、ガフとギースが売ったワインの出所を求めて商人が集まってきてるのに、この数を売れば街が大騒ぎになるわよ。で売ったギンは当然狙われるでしょうね」


そんな騒ぎになってんのか。


「じゃあ、これはみんなに配るか?」

「馬鹿。そんな事したら、ますます騒ぎになるわよ。ギンが持ってた方がいいわ」


そうか、そういう事なら俺がもらっておくか。『影収納』に入れると俺の持っているワインが約200本になった。こんなに飲み切れるかな?


そんな事を考えていると、いきなりエレナが抱き着いてきた。さすがにここではしないぞ。する気もおきない。


「どうした?エレナ?疲れたか?」


少しドキドキしながらも俺の胸に顔を埋めたエレナに声を掛ける。


「ギンは、悪人じゃないわよね?『影魔法』使って悪い事したり、街を滅ぼそうなんて考えてないわよね」


影に沈んでいく酒をみて改めて俺が影魔法使いだって思ったのか、エレナが少し震えながら俺を見上げて聞いてくる。やっぱり『影魔法』って恐れられてんな。先人たちはマジで何しでかしたんだよ。


「大丈夫だ。俺ほど善人なんてそうそういないぞ。それに、俺が考えた悪い事なんてこんな事ぐらいだ」


エレナを影で包んで服を回収する。


「へ?・・・きゃあああ!!」


すぐに自分が裸になった事に気付いて手で大事な所を隠してしゃがみ込む。すぐに俺が影を使って元に戻す。






「悪かったって。許してくれ、ごめん。でも俺がそんな大それた事なんて考えてないのが分かっただろ?」


いきなり裸にされて激おこのエレナにペコペコ謝っている俺の姿はどう見ても小物にしか見えないだろう。


「次やったら叩くからね」


エレナから警告されるが、既に頬に紅葉マークをつけられてるんだけど。


「でも、良かった。ギンはやっぱりギンね。ガフも言ってたわ、ギンは自分がどんだけやべえ奴なのか分かってないって」


機嫌を直してくれたのか膨れた頬を元に戻して笑いかけてくる。


「別にそんなにヤバくはないだろ。失礼だな。ちょっと『影魔法』使えるぐらいじゃねえか」

「それはちょっととは言わないわよ。大体ギンはスキル11個ってどんだけ持ってんのよ!しかも『探索』と『念話』なんて激レアスキル二つも持ってる奴なんて聞いた事ないわよ。・・・あと、もう一つ何か持ってるでしょ。ガフが言ってたわ、ギンの国の物を持ってこれるスキルを絶対持ってるって」


師匠すごいな。隠してたつもりだけどバレバレじゃないか。俺の隠し方が下手だったのかな。まあバレてるなら教えてもいいか。でもその前に、


「そっちは後で教える。取り合えず広場に行こうか」


自分の感情がグチャグチャで怒ってるのか落ち着いているのか良く分からないが、エレナを安心させるために笑いながら誘って、広場に向かう。


俺の言葉で理解したのか俺の腕を強く握るエレナと広場に向かう。広場には3階ぐらいの高さの特設ステージができており、そこには物々しい装備で身を固めた兵士が十数人立っていた。


「嫌だ!!!!!!私は何もしてない!!助けて!!」


しばらく待っていると、周りに情けない叫び声が広場に響き渡り、鎖に繋がれたポーラスが引きずられながらやってきた。特設ステージまで引きずられると、処刑用の器具に頭と腕を固定される。俺が切り落とした片腕はそのままだった。固定されても尚暴れ叫ぶポーラスだったが、役人は淡々と罪状を述べていく。ポーラスが叫んで罪状が聞こえなくても既に街中に知れ渡っているのか、誰も騒ぐことはない。


罪状が読み終わると役人が下がり兵士が準備を始める。


「誰か!助けて!助けて下さい!私は悪くないんです!ギンが『最長』が私を嵌めたんです!あいつが悪い、俺は騙されていたんだ!!」


俺はみっともなくもがくポーラスを見ている。色々思う所があるが、約束だから我慢する。エレナとの約束が無ければすぐにでも首を斬り飛ばしてやりたい。


ギュッ


何か感じたのかエレナが手を強く握ってくる。俺もエレナの手を握り返す。


「あああああああ!!!!誰かああ!!!!!!!死にたくない!!!!!助けて!」


叫び続けるポーラスを無視して隣に立つ兵士が剣を振り下ろすと、首が切り離され、広場が静寂に包まれる。すぐに役人が処刑終了した事を告げると広場から人が離れていく中、俺は処理されているポーラスの死体を何も言わずに眺めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ