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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
第3章 水の国境都市のFランク冒険者
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50話 カイルとの訓練

翌日『猫宿』でいつもより少し遅い時間に目を覚ます。少し遅いって言っても『猫宿』の宿泊客の中ではまだまだ早い方だ。下に降りて朝食を食べながら今日の予定を考える。取り合えず今日の内に舌の処理を済ませよう。ただ俺の包丁捌きだとかなり時間がかかるので、孤児院の子に手伝って貰おう、駄目ならどっかの定食屋に金払って処理してもらえばいいかな、とか考えながら孤児院に足を運ぶ。今日は幸いにもガジがいたので事情を説明して下処理をお願いする、報酬は明日の肉にして二つ返事で了承してもらう。処理要員としてガジ以外に4人の料理が得意な子を残してもらい、さっそく舌を取り出すと、全員ドン引き、出した俺もドン引きだ。戦闘中は何も思わなかったが出してみると思ったよりでけえ。いや、舌攻撃の射程が10mぐらいって事からこのぐらいのデカさはあっても仕方がないがそれにしてもでけえしきもい。まずは井戸の近くに運び桶にいれて水に浸そうとするが当然全部入らないので、舌を3つに切り分けてでかい桶に水を張り舌をいれて血抜きを始める。ついでに俺の家で余っていた重曹もいれる。暫く血抜きをした後、クソムカつく国で奪ったナイフをみんなに渡して皮を剝いで、終わったら次は筋を切りとっていく。筋も粗方取り終わって下処理は完了だ。さて、


「少し味見してみるか、ガジ達はどうする?味は保証しないけど食べてみるか?

「もちろん食べるに決まってるじゃん。」


ガジ以外の手伝ってくれた4人も食べるらしいので早速焼いて食べてみる。味は普通に牛タンそっくりだ。ガジ達も美味しいって言いながら食べてくれるが、ガジ達はいつも腹空かしてるから何食っても美味しいとしか言わない気がしたので、ギルドで誰かに味を見て貰おうと思い追加で少し肉を焼いた。その後は残った舌を薄く切って後は焼くだけにしてもらってギルドに向かった。


ギルドに着くと昼前で冒険者連中はほとんどいなかった。もしかしたら昨日の騒ぎでみんなまだ寝てるのかもしれない。そっちの方が可能性が高そうだな。誰か知り合いという毒見役がいないか辺りを見渡していると、


「おお、ギンじゃねえか。お前その格好だと依頼受ける気はないんだろ、だったらちょっとこっちに来いよ」


呼ばれた方に顔を向けると、カイルとクリスタ、ピエラが座っていた。呼ばれたので毒見役はこいつらでいいかと思いながら3人の対面に座る。・・・・・何で3人で固まって座ってんだ?


「よお、昨日はピエラにちゃんと説教してくれたか?」


何となくクリスタとの事が気になったので、関係ない話題を振ってどんどん核心に近づいて行こうと思ったのだが、俺が質問すると何故かピエラが顔を赤くして俯いた・・・?


「ハハハ、ちゃんと説教してやったぜ。ベッドの中でだけどな」


バシン!


カイルが下品な冗談を言った途端、顔を赤くしたクリスタとピエラから叩かれたのを見て俺は悟ってしまった。


「お前ら、マジかよ。いや、良いんだけど。クリスタは分かるけど何でピエラまで?」

「『尾無し』に狙われていた時に考えていたのはカイルの事だったの。それで私もカイルの事好きだって気づいてね。クリスタには悪いけど私もカイルの彼女にしてもらったの」

「いやあ、ギンが昨日『猫宿』止めてくれたおかげでいきなり二人も彼女ができたぜ。ようやく俺もモテ期到来って奴だな」


そう言ってにやけ顔で二人の腰に手を回して笑うカイル。二人も顔を赤くしながらも満更でもない様子だ。うん爆発しろ。


「ああ、はいはい、ご馳走さま。そう言うのはガウルとオールにでも自慢してくれ。それよりも地竜の舌を処理してきたんだけど味見してくれないか?多分そこまで悪くないと思うけど」


そう言って調理済みの舌を取り出す。3人は地竜の舌と聞いた途端、顔を顰めるが食べてくれたら多分そこまで味は悪くないと思うんだけどな。一応タレ、塩胡椒、レモン汁の3つで味付けはしてある。


「私が食べてみるよ、ギンは昨日私を助けてくれたからね。毒とか盛ってる訳ないだろうし、何よりさっきから匂いはいいんだよね」

「おい、ピエラ、本当にいくのか、やめた方がいい。俺も1回だけ食ったけど、まず嚙み切れねえし筋張ってて食えたもんじゃなかったぞ」


しばらく3人で顔を見合わせていたが意を決したようにピエラがでるとカイルが止めるがピエラは恐る恐るレモン汁をかけてある竜タンを口にするとすぐに顔を顰める。・・・・あれ?口に合わないのか?


「酸っぱ~い。これレモンついてるの?先に言ってよ、ビックリしたでしょ。でもこれホントに地竜の舌なの?すっごい美味しいんだけど」

「マジかよ、ピエラ。俺にも食べさせてくれよ」

「私も」


そう言ってカイルとクリスタも竜タンをそれぞれ口にすると、顔を輝かせる。


「おいしい。聞いてたのと全然違うじゃない。カイルの嘘つき」

「いや違うって、前に食べたのは全然美味しくなかったんだって。ギン、これホントに『尾無し』の舌なのか?・・・いや、鮮度がいいから美味いのか」


クリスタに文句を言われながらも、カイルはこの竜タンの美味しさの理由を必死に考えている。鮮度もあるだろうけど、カイルの話から下処理をちゃんとしなかったのが不味かった原因だろうな。


「こっちは何か黒い液体がついてるわね・・・・うま!!これも美味しい!同じ肉なのに味が全然違う!」

「・・・・うめえ!マジでなんだこれ?この黒い液体がうめえな」

「こっちはただの塩・・・じゃないわね。ちょっと!これ胡椒入ってるわよ」


3人がワイワイ騒ぎながら食べているので、口には合ったみたいだ。これなら明日俺が一人で食べる事はなさそうだ。


「ギン!お前これもうないのか?金なら払うからもっと食わしてくれよ」

「悪いな、明日、師匠達とこれを食べる約束があるから売れないな」


カイル達は竜タンをかなり気に入ったのだろう、売ってくれないか聞いてくるが、明日のBBQで食べる用なので売る訳にはいかない。


「よし、なら明日俺らもギース達の家に行くぞ。あいつらギンの師匠だからってこんな美味いもん食えるなんてズルいからな。ガフなら酒持って行けばいきなり行っても参加させてくれるだろ」


軽い調子でカイルが言うが、それは『赤盾』が先だ。


「残念だったな、明日は『赤盾』が樽でビール持って来るって言ってたから、そこは効果ないと思うぞ」

「な、ちくしょう。なんで『赤盾』まで参加になってんだよ。俺らに先に声を掛けろよ。くそ、酒が駄目ならどうしたらいい?ギン?」


それ以外の効果的な事知らないのかな。美味しい物でつるとか、ターニャの厨二心を刺激するとかでいけそうだけどな。。


「そうだな。今日舌の処理を手伝ってくれた孤児院の連中も呼んでるから、チビどもが好きそうな飲み物とあと野菜買ってきてくれたらいいぜ。肉が大量にあるから野菜は少しでいいけどな」

「よし、言ったな。任せとけ。樽で葡萄ジュース持って来てやるよ」


いや、『赤盾』に対抗して樽買いしなくてもいいんだぞ。と思ったが、クリスタとピエラの許可を貰い参加が決定してしまった。




「そうだ、今日なら暇だからちょうどいいか、ギン約束だったな。稽古つけてやる」


話が終わるとカイルから誘われてカイル達3人と訓練場に移動して訓練の準備を始める。と言っても短剣の形の木を手にとるだけなんだけど。


「よし、いいぜ、かかってこい。最初は俺から手をださねえから、遠慮せず打ってこい」


木剣を手に余裕の表情で立ちながら俺に声を掛けてくるので、俺も本気で打ち込んでいく。打ち込んでいくが、カイルは余裕で俺の攻撃を躱したり木剣で受け止めている。


「う~ん。Fランクにしては腕はいいが、まだまだフェイントがバレバレだな。よし、次は俺も打ち込んでいくから躱しながら攻撃してこいよ」


言うなり俺の攻撃をはじいた後、俺に向かって木剣を振るってくる。その速さは何とか俺が躱せるレベルだが、『尾無し』と戦っている時より、数段スピードが遅いので手加減しているのだろう。それでも何とか躱せるレベルで間一髪カイルの攻撃を躱しながら攻撃を打ち込むが、結果は変わらない。そうして何度かカイルの攻撃を躱していると速さにようやく慣れてきたので、カイルの攻撃を躱すと同時に後ろに回り込み、攻撃を狙う。これならカイルは振り返りながら剣の横凪ぐらいしか攻撃手段がないと思い、それを警戒しながら攻撃をする。これは確実に入った。そう思った瞬間腹に衝撃が走って、後ろに吹き飛ばされる。吹き飛ばされた衝撃を手と足を踏ん張り勢いを殺しながら状況を確認。カイルの足が伸びているのですぐに蹴られた事を理解した。


「ハハハ、中々良かったが、攻撃は武器だけじゃねえぞ・・・・うん?ちっ!手癖の悪さは師匠譲りかよ」


やっぱりCランクはすごいな。勢いを殺す為に踏ん張った手で砂を握りこんだのを見逃してはくれなかった。俺も師匠との訓練中に嫌になるぐらい師匠から砂で目潰し食らったから真似をしたけど、見つかったなら意味がない。・・・・・見つからなかったら効果があるんだよな・・・・試してみるか。


「おいおい、小細工はしねえのか?今の砂の取り方は中々上手かったぞ」

「それでも気付かれちゃ意味ないだろ」


手に握った砂を落としながら俺は攻撃を仕掛ける。


「はっ。そうだな。バレたら意味ねえな」


そう言って俺の攻撃を受け止めた瞬間、剣先から『火炎放射』を放つ。躱される事は想定している。


「うおっと。あぶねえ」


慌てて後ろに下がり俺から距離をとる。初めて俺の攻撃でカイルがその場から動いてくれた。そして後ろに下がったカイルの頭上にはすでに『水』を置いてある。


「な、なんだ?」


全くの死角にあるのにすぐに気付いて頭上を見上げる。何ですぐに分かった?反則だろ。カイルが再びその場から飛び退いている所に、追いついた俺からの攻撃が入る。今まで俺の攻撃は体術で躱される、木剣で受けて弾かれるか受け流されるだったのが、ここにきてようやく鍔迫り合いの状態に持っていけた。


「くっ!!ギン、てめえ変わった攻撃してくるじゃねえか」


鍔迫り合いって言ってもカイルの方が力が強いのですぐに押し負けたので、後ろに飛びのきながら、


「闇」


わざと詠唱を唱えながら『闇』をカイルに投げ放つ。


「光!」


すぐにカイルが対抗してくるが、俺が作った『闇』は中に水の入った特製『闇水』なので、闇が消えると中から水球が現れる。


「!!!」


驚くカイルの横に回り込んだ俺は距離を詰める。どう水を躱す?どう躱しても対処できるように頭でイメージしながら更に距離を詰める。ほら、早く動け、躱せ、・・・躱さないだと!!!!マズい!

パシャア!・・・ドン!


水を躱すことなく浴びたカイルは目を瞑りながら、俺の攻撃を躱すと同時に俺の背中を木剣で突いてきたので、俺は自分の勢いがあった事もあり、地面に倒れこんだ。あの一瞬で全くダメージを負わない水を受ける事を選択して、俺にだけ集中すると決めた判断力、さすがCランク冒険者だ。


「冷てえな。くそ。それでどうするギン?まだやるか?」

「いや、俺の負けだ。これ以上は何もできそうにない」


倒れた俺の首筋に木剣を当てているカイルに向かって降参する。


「いやあ、ずぶ濡れだ。お前『生活魔法』を変わった使い方するなあ、しかも噂の合成魔法を無詠唱で出来るとそんな戦い方もあるんだな、ちょっと焦ったし、参考になったぜ。その戦い方なら相性が良ければEランクの魔物もソロでいけるだろうな。あとはフェイントの入れ方だな。ギンのはフェイントってバレバレだからな、ピエラが上手いから後でフェイントのやり方聞いてみろよ」


降参すると、俺の何が良くて何が駄目だったか教えてくれるが、駄目な所は師匠達からもさんざん言われている事だった。カイルの言う通り後でピエラに聞いてみよう。合成魔法の事は昨日ターニャ辺りから聞いたんだろう。喜んで『闇火』作ってたし。


「分かった、後でピエラに聞いてみる。しかしカイルに少しも本気出させられなかったのは悔しいな。今の俺の全力なら少しはいけるかと思ったんだけどな、やっぱりCランクは強えな」

「当たり前だ。これでもこの街最高ランクなんだぞ、新人に本気出す訳ないだろ」

「あれ~、それにしては最後ちょっと本気になってなかった~」

「カイルを最初の場所から動かせるなんてEランクでもあんまりいないから、ギンは自信を持っていいよ」


カイルを揶揄うクリスタと俺を励ましてくれるピエラがこっちに歩いてきた。ちょうどいいからピエラにフェイントの事を聞こう。


「ピエラ、さっきの訓練俺のフェイントの入れ方ってどう思った?」

「ん、素直すぎる」


即答される。だからどう素直なのか聞きたいんだけど・・・


「みんなからそれ言われるんだけど、具体的にはどうしたらいいんだ?」

「そうだね~ギンはフェイントの後は絶対攻撃するから、もう一度フェイントするとか、後は意味のない動きのフェイントをするとかだね。ガフは意味のない動きよくやるよ。例えば無駄に足を動かしたりして、唯のフェイントって思って他に注意を向けると足で蹴り上げた小石が目に飛んできたりとか。武器を頻繁に持ち換えて武器に注意を向けさせて空いた手でナイフ投げたりとか、その逆を突いたりとかは良く使ってるね」


おお、初めて具体的なアドバイスされた。そうか素直すぎるってそういう意味だったのか。言われてみれば俺は攻撃の為にフェイントを入れてるな。フェイントの為のフェイントなんてした事なかった。それに師匠の戦い方の分析まで聞けてすごい参考になった。そうか~無駄な動きか~、でも一見、無駄と思わせてそれが攻撃に繋がるか。今度からそれを意識して訓練してみよう。


その後、もう一度カイルに訓練をお願いしたが、「今日はもう腰が痛いからやめとくぜ。まあ、今日も腰使うんだけどな」とかいうオッサンみたいな事を言って訓練場を後にした。クリスタとピエラから頭を叩かれていたけど。っていうかあいつら今日何しにギルドに来てたんだ?


その答えが分かったのは俺がしばらく一人で『投擲』の訓練をして、ギルドに戻ってからだった。


「やっとかよ。クリスタ」

「ホント一途だね、あんた。でも報われて良かったよ」

「エステラ馬鹿を好きって聞いた時は止めたんだけどね。でも良かったよ」


多分クリスタの想いを知っている連中がクリスタに祝いの言葉をかけている。エステラ馬鹿って・・・カイルの事か。すぐ隣では、


「クリスタは分かるが何でピエラも何だよ」

「ゴブリンに殴られて死ね」

「てめえ、エステラはどうした?諦めんなよ、ケインから奪い取れよ」


他の冒険者から文句を言われながらも、ピエラ達の腰に手を回し自慢げに笑いながらビールを飲んでいるカイルが座っていた。・・・こいつ今日ギルドに来たのはただ自慢したかっただけだな。絡まれているカイル達から離れた所に席をとり、食事をしてからいつもの安宿に泊まった。


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