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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
第3章 水の国境都市のFランク冒険者
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48話 取り割戻し

本日2回目です


いいねが100いきました!

ありがとうございます!

師匠が大声で討伐完了の報告をすると周りの冒険者からも喜びの声が上がる。各自パーティメンバーや共に戦った奴等、フォローして貰った奴等などに各々喜びや感謝を伝えている。みんなボロボロで酷い顔だが笑顔で楽しそうに話している。俺もダメージは負っていないが、精神的には疲れたので地面に腰を下ろす。


「よお、お疲れだな。いやあ、助かったぜ、お前がいなかったらエステラはヤバかったし、そこから崩れ出したかもしれなかったからな」


いつの間にか近づいてきていた師匠が俺の頭をガシガシ撫でながら珍しくお礼を言ってくる。


「別に自分の役目を果たしただけですよ。それよりも俺ヘマしなかったですよね?それだけが心配なんですけど」


師匠を見上げながらそう言うと更に頭をガシガシ撫でられる。


「大丈夫だ。お前はヘマなんかしてねえよ。俺らが思っている以上に役立ったから自信を持っていいいぞ」


更に褒められるが、今まであんまり師匠から褒められた事もないのに何か気持ち悪い。


「師匠、そんなに褒めてくれると逆に何か気持ち悪いですよ。そんなに褒めても酒はあげませんからね」


ゴン!


言った途端師匠からゲンコツが落とされる。メッチャ痛い。


「ったくお前は、折角褒めてやったのに。ホントに空気読めねえ弟子だな」

「あ!師匠その言葉は、ほぼボッチだった俺には禁句ですよ!」

「知らねえよ、だったら空気読めるように努力しろ!」


そうやって師匠と軽口を叩いていると、


「ガフ、ギン、エステラが心配だから一旦集まるぞ」


ギースさんが声を掛けたので3人でエステラさんの所に向かうと、既にケインさんとターニャがエステラさんと話していた。エステラさんは腕と足を固定されて急拵えの担架みたいな物に寝転んでいた。


「よお、お疲れだったな」

「大丈夫か?」

「・・・・・」


師匠とギースさんが軽い感じでエステラさんに声を掛けるが俺はその痛痛しい姿に声を掛けれなかった。


「ごめん。足引っ張っちゃった」

「そんな事ねえよ。お前が目を潰してくれたから大分楽になったぞ」

「そうだな。あれが無けりゃヤバかったぞ」


謝るエステラさんを励ます二人。確かに左目を潰してから左側の攻撃をやらなくなったので盾組はだいぶ楽になっただろう。


「ギン、お前のおかげでエステラが死なずに済んだ。本当にありがとう」


ケインさんから改めてお礼を言われ隣ではターニャも頭を下げているが、俺は自分の役目を果たしただけだ。


「ギン、俺からもパーティリーダーとして礼を言わせてもらう。あとあの時俺も回復してくれてありがとうな。お前がポーション投げてくれなかったらヤバかった」


ギースさんからも丁寧に頭を下げられて少し恥ずかしい。


「いや、頭を上げて下さいよ。俺は自分の仕事をしただけですから、お礼はいらないですって」

「ホントにお前は。こういう時は敢えて恩を売っておいて後で利用すんだよ。今から報酬の分配が始まるから少しでも自分の取り分が多くなるようにな」


師匠が俺の頭をガシガシ撫でながら呆れたように言ってくる。師匠のやり方が普通なんだろうけどさすがにギースさん達にそういう事はしたくない。・・・・ってあれ?俺も報酬貰えるの?


「あれ?師匠、俺も報酬貰えるんですか?」

「当たり前だろ。お前は一人で1パーティってなってるぞ」

「いやいや、俺は師匠の下についてるはずですよね?あと俺見張りの時『カークスの底』として出ましたから良くて師匠達と報酬山分けとかじゃないんですか?」

「地竜見つけてから見張りは俺らがずっとやってたから最初から免除されてたぞ。ただ少しでも見張りに出す人数減らしたいから、戦闘に参加させるなら当然ギンにも見張りをやらせろって言われたからな。その時点でギンは1パーティとして参加になったんだよ。ククク、あの時言って来た奴等、今頃報酬が減るって悔しがってるぜ。ククク、ガハハハッ」


リーダー同士の話合いの後、ギースさんから「ギンの見張りは一番最後の組だ」って言われたから何も聞かずに素直に従っていたけど、そんな経緯があるなんて知らなかった。





そうして俺は何故かリーダー同士の話合いの場に呼ばれている。戦い前の話合いに呼ばれなかったのは戦力として見られてなかったし、師匠の指示に従うってなってたかららしい。まあ呼ばれても俺は経験がないから何も言えなかっただろうし、特に文句もない。


「それで何でガフがいるんだ?」


リーダーのみの集まりの場に何故か師匠が俺の隣に座っているのでギルマスから疑問の声があがる。


「なあに俺はこいつの師匠だからな。お前らにこの馬鹿が言い包められないように見張りだよ。ギースに任すとまとまるもんもまとまらねえからな」

「ああ?そりゃ関係ねえだろ。ここはリーダーだけの話合いの場だ。ガフてめえはギースに任せてすっこんでろ」


師匠がいる事が気に入らないのかどこかのリーダーが文句を言ってくる。


「まあ、待て。俺がいるとギンが言う事聞いてくれるから報酬が増えるけどいいのかそんな事言って?」

「ホント何言ってんだお前。昨日から思っていたがお前『最長』に甘くねえか?」

「ギルマス、これからする事は他の奴等には黙っているように命令してくれるか?」


文句を言うリーダーを無視して師匠はギルマスに話しかける。いきなり話を振られたギルマスは戸惑いながらも少し考え込んでコクリと頷いた。


「お前がいる事で全員の報酬が増えるならいいぞ。みんなもそれでいいな。これから起こる事はパーティメンバーにも言うな。ギルドマスターとしての命令だ」


文句を言って来たリーダーも報酬が増えるなら文句はないのか他のリーダー同様に頷く。リーダー以外のメンバーは元の洞窟に戻り荷物の整理をしている。報酬割の話合いはリーダー以外の誰かが口を挟んで揉める事が多いので、必ずリーダーだけでメンバーに聞かれないようにする事になっているらしい。


「それでお前らに最初に確認なんだが、『尾無し』の死体は全員で運んでどれぐらい持って帰れると思う?」

「全員『魔法鞄』持ってると考えても半分ぐらいか」

「そうだな、2/3いけば多いぐらいだと思う」

「また取りに来るとしても肉は駄目になってるだろうしな」


各リーダーから次々意見が上がるが、『尾無し』の死体を持って帰れるのは半分から2/3いかないぐらいだろうって意見が多い


「まあ、そうだろうな。俺もそんなもんだと思うぜ。だけどな、ギン、全部入るか?」

「えっと、多分入ると思いますけどいいんですか?俺の『魔法鞄』の事隠しておいた方がいいって言ったの師匠ですよ」


いきなり話を振られて若干戸惑いつつ師匠にだけ聞こえるぐらいの声で確認する。


「ああ、大丈夫だ。こいつらは口が堅いし、何より今ギルマスが命令して全員納得しただろ?これを破れば除名だろうが降格だろうがギルマスの心次第でどうにでもなるから、こいつらは言わねえよ」

「まあ、師匠がそう言うんなら」


俺は立ち上がり『尾無し』の所まで行くとカバンをつけて収納する。うん、どういう理屈かさっぱりだけど、やっぱり入るな。


「うお!!!」、「マジか!!!」、「嘘だろ・・・全部って・・・」


「ガハハハッ、な?言った通り報酬が増えるだろ」


各リーダーが驚きの声をあげる中、師匠が自慢げに話し始める。


「別にガフがいなくても『最長』がいりゃあいい話じゃねえか」


さっき文句を言って来たリーダーがまた文句を言うが、


「俺は師匠の指示でこの『鞄』の事は秘密にしてきたけど、今回は師匠の指示があったからみんなの前で使った。ここで師匠がやっぱりやめとけって言ったら俺はそれに従うけど」

「・・・・ちっ。分かったよ。俺の負けだ。さすがに半分近く残して帰るのは勿体ねえ」

「ガハハハッ。いい判断じゃねえか。まあギンの報酬が減らなきゃ俺は口を挟まねえよ」


師匠は笑いながら文句を言って来たリーダーの肩をバシバシ叩いている。叩かれた方は諦めた表情になっている。


「話は済んだようだな。それで報酬についてだが、全部持って帰れるとなると、恐らくだが素材だけで白金貨3枚、それに懸賞金が白金貨1枚だから合計白金貨4枚にはなる。今回は通常通り『取り割り戻し』だがいいか?」

「師匠、『取り割戻し』って何ですか?」

「ああ、ギンはレイド初めてだったな、そいつは『尾無し』の死体をまず一度ギルドに全部買い取って貰うんだよ。その金をパーティ毎に均等割する。ただ、金よりも素材が欲しい奴等もいるからな、その時はその素材分報酬を減らして買い戻すって奴だ。期間内に買い戻すなら買取価格で買い戻せるが期間過ぎると、もう通常価格での買い戻しになるから気を付けろ。素材については魔石なんか1個しかねえからな、そん時は欲しいパーティ同士で話合いだ、大抵揉めるけどな。素材がいらねえパーティはその話合いに参加しなくてすむから関係ない揉め事に巻き込まれなく済むんでこの分け方が普通だな。」


ふむ。素材を買『取り』してパーティ毎に均等『割』、それで素材が欲しい人が買い『戻し』で『取り割戻し』か、まんまだな。でもこれなら関係ない揉め事にも関わらなくてもいいし、一番報酬で揉める事が少ないのかな。


「ギルマス、ちょっといいか。さすがに『最長』まで報酬が同じだとパーティメンバーから苦情が入りそうだ。・・・・待て、ガフ、最後まで言わせろ。俺個人としてはパーティ割りでもいいんだが、盾や攻撃してた連中が何て言うか・・・『最長』は結局攻撃に参加せず安全な場所で回復してただけって言われたら、いや分かってる。ピエラやエステラ助けたり空いた穴を埋めたりしてくれて、かなり役に立ってたのは分かってるが、・・・・お前らの中にもメンバーの説得どうしようか悩んで奴もいるんじゃないか?」


別のリーダーが話し出した途中で師匠が怒りの表情で口を挟もうとしたが、それを抑えて自分の考えを口にした。何人か俯くリーダーがいるので同じ事を思っているみたいだ。


「そりゃあ、パーティ内の問題じゃねえか。そこはリーダーのお前の仕事だろ。ドル?」

「まあ、そうなんだが、そうすると『最長』に悪い噂が出そうでな。安全な場所にいただけなのに地竜討伐の報酬貰ったとかな、ガフ、お前なら予想できるだろ」

「・・・・・・」


師匠が何も言い返せない所を見ると、本当にそうなりそうだ。さすがにそんな噂は勘弁してもらいたい。そうすると、まあいつもの様にするか。よく考えれば金よりもこっちの方が俺には価値があるな。


「それなら俺は別の報酬を貰いたいんだけど?」

「ちょ!ちょっと待て!ギン!てめえ何て言うつもりだ!みんな悪いがちょっと待ってくれ。こいつは新人だ、今の言葉は無しだ、勘弁してくれ。てめえはちょっとこっち来い」


慌てる師匠に引っ張られてみんなから離れた所で話を聞かれる。


「ギン、お前何て言おうとした?」

「えっと、まず1本だけ持ってた上級ポーション使ったのでそれの補充とあと、師匠が切り落とした地竜の舌とあとはあのメンバーに暇な時に稽古つけてもらったり話聞かせてもらおうとしました。・・・そう言えば手持ちで使った中級ポーション4と下級ポーション10本は欲しいですね」


俺が言い終わると師匠は頭を抱える。しばらくすると顔を上げて怒鳴りだす。


「お前、上級ポーションなんて持ってたのか、誰に使った・・・いやエステラにか。上級ポーションの値段知ってるか?大金貨1枚だぞ、それを簡単に使いやがって、いや、悪い、躊躇いなく使ってくれたからエステラが助かった礼を言う。唯、報酬については別だ、お前入れて今回8パーティだ、って事はパーティ割で大金貨5枚以上確定してんだぞ。それをお前は上級ポーションとまあ後は大したことない物だけで済ませるっておかしいぞ」


まあ師匠の言う通り上級ポーション1本大金貨1枚だけだから大金貨4枚弱はいらないって言ってるようなもんか。・・・舌の価値は?


「あれ?師匠地竜の舌は金にならないですか?」


「あんな筋張って食えたもんじゃねえって部位は誰も欲しがらねえよ。都ならゲテモノ好きな貴族とかいるかも知れねえが、それでも大した額にはならねえ」


そうか、筋ばってんのかそれなら牛タンと同じ処理でいけそうだな。前にノブがコストコで牛タンの塊だけ買ってきたから二人でネットで調べながら処理して食った事があった。それを思い出しながらやれば出来るかな。


「それならみんなそれで納得してくれると思いません?それとも下のランクの奴が稽古付けてくれって言うのはやっぱりマズいですかね?」


ウィート達も何か頼みづらいって言ってたし、もしかしたら師匠達が特別なだけで何か駄目な理由でもあるのかもしれない。


「いや、特に駄目な理由なんてねえけどよ。ギンはそれでいいのか?多分大金貨4枚近く損してんぞ?」

「いや、俺にはあのメンバーからタダで稽古つけてもらえたり話をしてもらえる方がいいですね」

「ホント、お前の価値観どうなってんだよ。もういい、それでギンが良いってんなら俺はもう何も言わねえ。後からやっぱり無しって言っても聞かねえからな」




「よお、やっと戻ってきたな。ガフのその様子からどんなもん要求してくるか分からんが、あんまり無茶言うなよ」


戻ってきた俺たちに確かドルだっけ?リーダーが話しかけてくるが、


「もう俺はしらねえ。ギン、てめえから話せ」


師匠はかなり疲れた様子で投げやりに俺に話を振ってきたので、俺の要望を全員に話すと、全員呆れたり驚いた表情に変わる。呆れた表情はギースさんだけだったけど。


「俺から言っといて何だけど、『最長』はそれでいいのか?俺はせめて大金貨1枚ぐらい報酬減らしてもらえれば、それでみんな納得してくれると思ってたんだが・・・ガフ!」

「俺は知らん。ギンがいいって言ってんだ。何か気にいらないのか?」

「いや、そんな気はないが、何かウラがあるかと思うじゃねえか」

「ならギン、ギルマスに今言った以上の事は今後要求はしないって言っとけ」


別にそれ以上の事は要求するつもりはないので言われた通りギルマスに宣言する。


「マジなんだな。いや、ホントに大丈夫か?」

「大丈夫だって。早く納得しないと俺の気が変わるぞ」


改めて確認される。いい加減しつこいので軽く脅してやると、ようやく口を閉じたがドルはまだ何か言いたそうだけど気にしない事にする。


「ギン、報酬のポーションについては街に帰ったらすぐに渡そう。ただ上級ポーションだけは少し時間かかるかもしれないが、まあ商業ギルドに言えば2~3日中で渡せるだろう。そう言えば発見者報酬の大金貨1枚はどうするんだ。ギース達とお前で分けるのか?」


「いや元々『尾無し』の巣を見つけたのはギンだ。討伐出来なければ穴掘り手伝ったし金貨2枚ぐらいは貰おうと思っていたが、討伐までして報酬もこんなもんしか要求してこないからな。さすがに発見報酬はギンに全部渡す」


ギルマスの質問にギースさんが答えるがいつの間にそんな事になってんだろ?俺は発見報酬は人数割りすると思ってたんだけど、ケインさん達に相談なく勝手に決めていいのかな?


「そうか、それならみんなも少しは納得できるんじゃないか。ギンの要求だと報酬が筋張った舌だけになるからな。今回参加してない連中から見れば新人をこき使って報酬がマズい部位だけしか渡してないとか悪い噂が立っても困るからな。・・・それじゃあ報酬について話はまとまったな。欲しい素材は戻るまでにメンバーと各自考えておいてくれ」


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