44話 ターニャリカ・サンダーロッド
本日2回目です。予約投稿してみました
「よし行くぞ~」
翌日準備を済ませるとターニャさんと街を目指して出発する。『快足』持ちの俺がおんぶしてターニャさんを運ぶ。エステラさんなら背中に嬉しい感触があるが、ターニャさんにはそれがないけど、頑張って運ぶ事にする。
「違う、ギン、今の所曲がらないと」
洞窟を移動中ターニャさんから道を間違えていると注意されるが『探索』があるので道を間違えた事は分かっている。ただその先は魔物がいたので遠回りしたのだ。そうやってターニャさんに時々道を間違えていると指摘されながらも魔物と遭遇する事なく大回りしながら洞窟を進むが、上への階段近くにいる魔物だけは排除しないといけないので戦う事にする。
「階段の所に魔物がいます。赤土竜が3匹なので倒そうと思いますが、大丈夫ですか?」
「・・・・・・・・分かった。ギンの指示に従う」
しばらく無言で俺を見つめていたが、ターニャさんは納得してくれたのか返事をしてくれた。もしかして自分よりランクの低い俺が勝手に戦う事を決めた事を不快に思ったのかも知れないな。今度からはターニャさんの意見を最初に聞こう。
「そこから覗いてみて下さい、どうですかナイフで1匹倒せそうですか?」
「倒せるか分かんないけど、多分当たる」
「それじゃあ、作戦を言います」
ターニャさんに作戦を伝えた後、それぞれ配置についた。
「ん、いく」
そう言ってターニャさんはナイフを投げると何かに刺さる鈍い音の後に何かが倒れこむ音が辺りに響き渡る。
「1匹倒した。残りの2匹こっちに来る」
ターニャさんはそう言ってしばらく曲がり角で敵を引き付けてから洞窟の奥に走って戻る。俺はいつものように曲がり角の岩陰に身を潜めて魔物が近づいてくるのを待つ。すぐに俺の脇を2匹通り過ぎて行ったので岩陰から飛び出して背後から1匹の首に短剣を突き立てる。前を走るもう1匹が後ろの俺達の様子に感づいたのか振り向いて何が起こったのか理解すると立ち上がり長い爪を使って俺に襲いかかってこようとするが、何かが刺さる音がして唐突に立ち止まったと思ったら倒れこんだ。倒れこんだ奴の後頭部にはナイフが生えていた。
「お疲れ様です」
ターニャさんに声を掛けながら、首に短剣を突き刺して確実にトドメを刺していく。
「2匹倒した」
左手でブイサインして得意げにアピールする。その仕草が年下のように感じるが俺より年上なんだよな。
「ギンの作戦はすごい。私の方が多く倒せた。いつも倒した数が一番少ない私が2匹も、いやでもこれはギンの作戦が良かったから・・・」
何故か俺より討伐数が多い事に驚いているみたいだ。いつもは師匠達のフォローが多いって言ってたもんな。
「何言ってるんですか。ターニャさんの実力ですよ、実際2匹の内どっちかだけでも倒してくれたらいいな、ぐらいのつもりが2匹とも仕留めるからかなり楽でしたよ」
一応、最悪パターン等色々作戦は考えていた。一番最悪なのはターニャさんが最初の攻撃を外す事だったが、その時は逃げると決めていた。次に最初の攻撃で1匹倒せなかった場合は、角を曲がってきた先頭の奴を俺が不意打ちで仕留めてからもう1匹の無傷の方を俺が相手して、手負いの方をターニャさんが相手するつもりだった。
「そうかな。そう言われると嬉しい。ギンはいつもこんな戦い方なの?師匠だけあってガフの戦い方に良く似てる」
「そりゃそうでしょ、俺に戦い方教えてくれたのは師匠なんで。だから俺の戦い方は基本不意打ちが多いです。後、4匹以上いる時は手を出しません」
素材と魔石を回収した後、ターニャさんをおんぶして再び洞窟の出口を目指す。時々戦闘を避ける為、遠回りをしたが、あれ以降魔物と遭遇する事無く外まで出る事が出来た。
「お疲れ」
外に出るとターニャさんを下ろして少し休憩する。軽く柔軟体操をしているとターニャさんがさっきまで自分で飲んでいた竹筒の水筒を渡してきた。
「?」
飲めって事だと思うけど、別に『生活魔法』で水を出せるから、何故水筒を渡してきたかが分からない。
「これ葡萄ジュース、残り全部飲んでいい」
俺が疑問の思っている事が分かったのか水筒の中身を教えてくれる。疲れた体に染み渡りそうだけど、さっきまでターニャさんが口を付けていたけど、そのまま飲んで良いのかな?まあ、渡してきたって事はそこまで気にする事でもないって所か。
「ありがとうございます・・・・・プハ―。美味い」
遠慮なく口を付けて葡萄ジュースを全部飲み干すと思った通り体に染み渡って美味い。暫く休憩するとすぐに出発する。ここからは整備された街道なので洞窟よりスピ―ドが出せる。
「ねえ、ギンとガフは何を隠してるの?」
走り始めるとすぐに背中のターニャさんが耳元で囁いてきた。ゾクゾクするのでやめてほしい。
「何も隠してないですよ「うそ!」」
言い終わらない内から噓だと断定された。まあ噓なんだけど、隠し事を知られる訳にはいかないが、師匠もいないし、俺は逃げられないかもしれない。
「止まって」
言われた通り止まるとターニャさんが俺の背中から降りて正面に回ってくる。
「顔を見て話したい。抱っこで運んで」
「・・・・・・」
どうしよう。これはお姫様抱っこで運べって事だよな。まあ、ターニャさん軽いから出来ると思うんだけど、これから尋問されるのが分かっているからすごくやりたくない。
「おんぶの方が運びやすいんですけど・・・」
「ならしばらく歩く。それで話をする」
・・・・師匠達が心配だし、仕方がない。俺が喋らなければいいだけの事。
「・・・・・はあ~。何も隠してないですから。隠してても何も言いませんから」
覚悟を決めてしてターニャさんを抱える。
「きゃ!・・・・ちょっと強引」
いきなりお姫様抱っこした事に対して文句を言うターニャさんを無視して街に向かって走り出す。
「それで?ギンは何を隠してる?」
走り始めるとすぐに俺の顔を真っすぐ見つめて質問してくる。俺の目線は街道を向いているが、視界の隅にこちらを見つめるターニャさんが入るので気になって仕方ない。
「何も隠してないですよ。それより少しスピード上げますから喋ってると舌噛んでもしりませんよ」
「・・・・私の秘密も教える」
少し無言になったと思ったら、よく分かんない事を言い出した。ターニャさんの秘密ってまあ秘密は多そうだけど、俺の秘密よりは大した事はないだろう。それに俺の秘密と交換にしてまでターニャさんの秘密は知りたくはないってのが本音だ。
「いや、いいですよ。その秘密は俺じゃなくてケインさんとかに話して下さい」
「・・・・・・」
ターニャさんは俺の言葉に何か言いたげだけど無言で俺を見つめてくる。
「ターニャさん?」
様子がおかしい気がしたので、ターニャさんの方を向いて声を掛ける。
「ターニャリカ。ターニャリカ・サンダーロッド。私の本当の名前」
聞いていないのに秘密を話始めちゃったよ。でもまあ偽名じゃなくて名前を愛称で呼ばせてるだけだから別に大した秘密でもないよな
「・・・・・」
「・・・・・あれ?反応なし?」
特に何も言う事もない俺に逆に驚くターニャさん。いやターニャリカさんか。
「えっと、名前を偽名っていうか愛称で呼ばせてるだけですよね?別に大した事ではないかと」
「む。やっぱり、ギンは変。普通はサンダーロッドに反応する」
・・・サンダーロッド・・・「雷杖」!!
「雷魔法が使える!」
「違う。そんな魔法はない。家名持ち、意味分かる?」
「???」
「ホントにギンはおかしい。色々知らなさすぎる。家名を持ってるのは貴族だけ」
「・・・・貴族!!!・・・へっ?って事はターニャさんも?」
「そう、貴族。いや、元貴族。私の家は元々闇の国で土地を持たない法衣貴族、役人の家系だった。父が黒都の仕事から国境都市へ配置替えとなって家族で引っ越す時に野盗に襲われた。父と母はその時に殺されて、弟は多分奴隷商人に売られた。私は野盗に捕まってケイン達に助けられるまで野盗に飼われていた」
普段はそんな風に見えないが、この人すげえ人生歩んでるな。野盗に飼われてたって言い方からしてその待遇は最悪だったんだろう。師匠達もかなりすごい人生歩んできているけど、この人も酷さなら負けてないな。
「それなら今からでも事情を話せば、貴族に戻れるんじゃないですか?」
「戻るつもりはない。それに私の家みたいな下級貴族は半年も行方不明なら取り潰されるのが普通。更に私がサンダーロッドであるという証拠は何もない。全部野盗に取り上げられた」
証拠が何もないんじゃ、素人の俺でも家の復興は無理だと分かってしまう。せめて弟さんもいれば何とかなるんじゃないかと思ったが、
「弟は情報屋を使って何年も探しているけど見つかっていない、まだ探してはいるけど、生きている事は諦めている」
という悲しい返事が返ってきた。更に、
「家を復興するつもりもない。私には当時婚約者がいたけど40過ぎのデブ子爵。ついでに結婚すれば第3夫人。当時からすごい嫌だったけど家より爵位が上で色々援助してもらえるって事で我慢していた。だから家を復興すれば私はデブと結婚しないといけない、家族もいない今、それは全力で拒否する」
言い方からそのデブ子爵がすごく嫌いな事が手にとるように分かる。俺が同じ立場なら俺も全力で拒否する。今はケインさんっていうイケメン彼氏がいるから、そっち方面は満足しているだろう。
「これで私の秘密は全部話した、次はギンの番」
・・・・あれ?何で俺の秘密話す事になってんだ。でも、ターニャさんも教えてくれたのに俺が言わないのも不公平かなあ。でも他の人に言わないでくれるかな。
「多分ギンは『探索』と『念話』持ち」
どうしようか悩んでいるとターニャさんが驚きの発言をしたので、思わず足を止め、ターニャさんを見る。ターニャさんも俺に真っすぐ見返してくる。
「・・・・・・・はあ~。秘密ですよ、それで何で分かったんです?」
しばらく無言で見つめ合っていたが、ついに俺が折れて口にする。バレた理由を聞くと、
「ギン、私の秘密を全部知ったからこれからは本当の仲間、仲間に敬語はいらない。あと呼び捨てでいい」
また、難しい事を要求される。今まで敬語だったから今更タメ口とか喋りにくいんだけど、仕方ない。
「分かった、ターニャ。それで何でバレたんだ?」
「『念話』はギンも分かるはず。あの時ガフとギンの間に多分魔力が流れてた。私は『魔力探知』のスキルがあるから、それを感じ取ってその魔力に集中すると何となく二人が話をしている感じがした。あと火の国から戻ってからガフが考えこんでいる時がある。その時も魔力を感じていたから多分ギンと話していた。」
マジか。『念話』って魔法なの?いや魔力を使ってるだけで魔法じゃないのかも、良く分かんないけどターニャさん・・・ターニャが言う事がホントなら『魔力探知』のスキルがある奴が近くにいるとバレるかもしれないからもう少し注意して使うようにしよう。
「ギン、私も『念話』したい」
まあ、少し・・・かなり厨二を患っているターニャならそう言ってくるよな。
「ほら、手に頭をあててくれ」
ここまでバレたなら『念話』できるようにするのもあんまり変わんないだろって事で、お姫様抱っこして走っているが、少し手をずらして頭を当てるように言うと、素直に従ってくれたのでパスを繋げる。
(ほら、繋がったぞ、聞こえるか?)
(おお、すごい聞こえる。ギン、聞こえてる?)
(聞こえてるぞ。一応北の村から南の洞窟まで繋がる事は確認しているけど、どれだけ離れると使えなくなるかは分かってないから。あと、いきなり俺に話しかけても切ってる時は扉をノックしている感覚になるらしいから)
(切ってる時って何?)
(説明するより体験した方が早いか。一度切るから切れた感じがしたら話しかけてくれ)
そう説明すると、頭で通話を切る。すぐに頭に呼び出される感覚がくる。
(どうだ?分かったか?)
(あっ繋がった。どういう感じか分かった)
(あと何か質問は?)
(これってギンの魔力しか使ってないけど、大丈夫?)
「はあっ?」
『念話』じゃなくて言葉が口から出た。今ターニャ何て言った?これ俺の魔力だけ使っているの?ターニャの魔力は使って無いの?ターニャが魔力感じるってぐらいだから間違ってはないのか
「気付いてない?」
「自分では気付いてないけど、ホントに俺の魔力だけ使ってるのか?・・・いやターニャが言うなら使ってるんだろうけど、俺は魔力を使ってる感じは何もないな。」
「『念話』は使用魔力量が少ないのかも」
まあ、良く分かんないけど俺が感じていないって事は多分そうなんだろう。
「『探索』はさっき確信した。私が道を間違えてるって言っても、言う事聞かず遠回りしながら地図も見ないで迷うことなく洞窟から出たから」
・・・こっちは俺の不注意か。言われてみれば俺の行動は少し軽率過ぎたな。
「そう考えたら、地竜の巣を見つけた事も納得できた。ベテランのガフでさえあの壁に違和感を感じていなかったのにギンが見つけたのは少しおかしいって最初から思ってたから」
「はい、降参だよ。『探索』も持ってる。・・・分かってると思うけど」
「大丈夫、誰にも言わない。ギンも私の事秘密にしておいて」
「ターニャの事、後は誰が知ってるんだ?」
「知ってるのは、ガフだけ。ケインもエステラも知らない」
あれ?何で師匠だけ?ケインさんとエステラさんの方が知っていても可笑しくないんだけどな。
「何で言わないんだ?」
「貴族だって知ったらケインもエステラも遠慮すると思う。下級って言っても平民からすれば貴族だからその権力は絶対、私の言う事は何でも聞いてくれるようになっても嫌。ケインとエステラには3人で結婚した時に話すつもり」
今一貴族の権力にピンと来ないし、あの二人の態度が早々代わるとは思えないけど付き合いの長いターニャがそう言うなら、そうなんだろう。あと、普通に3人で結婚って言ったけど、やっぱりこっちだと普通なのか?
「私が貴族って知っても態度が変わらないギンがおかしい、そう言う所は師匠と同じ」
「師匠はな~。ターニャに敬語使ってる所想像できないな。そう言えば何で師匠だけに貴族の事教えたんだ?」
ケインさん、エステラさんにも教えてないなら師匠にも言う理由が分からない。ギースさんならパーティリーダーだからまだ分かるんだけど。
「違う。ガフはどうやったか知らないけど私の事を突き止めた。野盗から助けて貰って、しばらくして落ち着いた頃にガフから「お前、ターニャリカ・サンダーロッドか?」って。ガフの情報収集能力は少しおかしい」
確かに他の冒険者パーティの事もよく知ってるし、何がどの辺にあるとかも知ってるから依頼で詰まった事も無かったしな。師匠物知りだな~ぐらいにしか思ってなかったけど、機会があればそういう事も聞いてみよう。




