42話 異世界の厳しさ
本日2回目です
朝『自室』で目覚めて準備をするが、早寝早起きに慣れたのでまだ出掛けるには時間が早すぎる。そう言えば毎日確認しとけって言われてから全くしていなかったスキルの確認をしようと思いついた。何か生えてればラッキーぐらいの感じだ。
スキル:魔法(影)、探索、念話、自室、暗視、潜伏、快足、罠師、偽装、生活魔法
スキルに生活魔法が増えてた。多分師匠に教えて貰った時に増えたんだろう。けど師匠のスキルについて教えてくれた時「生活魔法」って言わなかったな。師匠も「生活魔法」使えるからスキルとして持ってると思うんだけど、・・・当たり前すぎて言わなかっただけかな、誰でも使えるって言ってたもんな。
スキルに「生活魔法」があったので、試してみようと考えてから手を付けてなかった生活魔法の合成を練習してみる。
・・・・
しばらく色々試してみたが、出来たのが、
火と風の組み合わせの『火炎放射』射程は1mぐらいなので敵の牽制に使える。これは火の威力を弱めれば手から温風を生み出せるのでこっちは『ドライヤー』。と名付けた。
水と風の組み合わせで『ミスト』。戦いでは役に立ちそうにないがひんやりするので暑い時に使うといいと思う。
砂と風で『目潰し』。砂を投げつけなくても風の方に行くので使い勝手がいいかもしれない。
水と砂で『泥団子』が出来る。役に立つかはかなり疑問だ。
火と光で白っぽく見える『白火』。が、闇と火で『黒火』が出来たが、ただそれだけだ。これもあんまり効果は期待できそうにない。厨二心をくすぐるものがあるので、子供には喜ばれるかもしれない。
最後水と光で『白水』が、水と闇で『黒水』ができた。こっちは見た感じ光と闇にそっくりなので、相手が打ち消して安心した途端、中の水を被って隙が生まれそうだ。
こんな感じで合成魔法が使えたが、色々試している内に生活魔法は威力を弱める事は出来ても高める事は出来ない事が分かった。これが出来れば似非属性魔法とかできそうだと思ったんだけどな。また、3つ同時に別の属性魔法を発動させる事も無理だった。素早く発動して3つほぼ同時に発生しているように見せる事はできたが、それだと合成されなかった。
◇◇◇
時間も近くなり広場で待つと8の鐘ですぐに師匠達がやってきた。
「おはようございます」
「よお」、「ああ」、「おはよう」、「ん」
各自挨拶を返してくれる、師匠だけは二日酔いみたいで手を挙げるだけだった。
「よし、それじゃあ行くか。ガフがこんなんだからギンが案内してくれよ」
ギースさんの指示に従い俺達は街の外に向かう。門を出た所で昨日寝る前にやりたかった事を思い出したので提案してみる事にする。
「初めてみんなで出掛けるんで記念に写真撮りませんか?」
俺の言葉にギースさん以外の3人は頭に?マークが浮かんでいる。師匠?師匠はグロッキーだから意見は何もないはずだ。ギースさんはなんだか呆れた感じだ。
「またか?その「シャシン」ってギンは好きだな。俺らを絵にして何が面白いんだ?」
「いいじゃないですか。記念ですよ記念。それじゃあ撮りますんでこっち向いて下さい」
そう言ってカメラを自撮りにしてみんなが入るように構える。
「何これ?鏡?にしてはキレイに見えすぎない?ギン、これいくらだったの?」
「おい、凄いキレイに見えてるぞ。この鏡高いんじゃねえか?」
「欲しい」
初めて見た3人はやっぱり鏡と勘違いしている。女性2人は思った通り欲しがりだした。
「これは鏡じゃないですよ。こうやって、ギースさん師匠を・・・・まあいいか」
カシャ
師匠が下を向いて秒読み段階だったが気にせず撮影したけど、かなりカオスな写真になった。すごい困惑した美男美女の横で厳ついスキンヘッドと俺が笑顔でピースしている、その後ろで頭頂部しか見えない吐く直前の態勢に入った師匠が写っている。
「ほらこれが写真です」
差し出したスマホを3人が頭をくっつけて覗き込んでくる。
「おい、これ魔道具か?何でこんなもん持ってんだよ。まああんまり金になりそうにないな」
「いや、これ凄いわよ。その辺の貴族の鏡よりハッキリ映ってるじゃない。こんなの見た事ないわよ。しかも何で鏡の中の私達動かないの?どうなってるのよ」
ケインさんは師匠達とあんまり変わらない男冒険者としての意見を行ってくるが、エステラさんは女なのか元娼婦だからなのか、自分の姿がはっきりと映る事に驚いているみたいだ。ターニャさんも驚いてはいるだろうが、何も言ってこない。
「さっきの瞬間を切り取って一瞬で絵にする魔道具って言って理解できます?」
これ以上は上手く説明できないけど、理解してくれなくてもこういうもんだと思ってくれればいいか。
「ちなみにこれがこの前、俺の指導員制度最後の日に師匠達と撮った写真です」
写真を見せると、またまた3人頭をくっつけて覗き込んでくる。仲良いな・・・恋人同士だから当たり前か。
「これすごいわよ!ギン私に売って!いくらでもケインが払うわ!」
「私も欲しい!お金はケインがちゃんと払ってくれる!」
「おい」
見せたのはスマホの写真機能だけだが女性2人はその凄さに気付いたみたいだ。・・・いや金をケインさん持ちにしようとしている時点でまだ気づいてないのか。だけど、どれだけ言われてもこのスマホは売れない、だって今の所、俺の『自室』じゃないと充電できないから、すぐに充電が切れて使えなくなる。
「悪いですけど、これは祖父の形見なのでいくら積まれても売れないです」
少し申し訳ない様子で伝えると二人はすぐに納得して引き下がってくれた。だけどターニャさんはその機能が気になるみたいで、
「もう欲しいって言わないから使い方教えて」
付き合いは短いが師匠の仲間だし信用しているので使い方をレクチャーする。と言ってもピントが合ったらボタンを押すって事だけ教えると、すぐに使い方を覚えたみたいで、面白そうに写真を撮りまくっている。取り合えず師匠の吐瀉物の写真は後で消去しておこう。エステラさんが腕を組んで胸を強調している写真とか、エステラさんとターニャさんのツーショット写真は永久保存だな。ギースさんとケインさんの尻のアップ写真も後で消去しておこう。
目的の場所まで写真を撮りまくっているターニャさんだったが、街道から外れるポイントまで来た所でスマホを取り上げる。マップには多くの薬草の反応があるので、他の連中に採取はされていないみたいだ。
「それじゃあ、ここから10分ぐらい森に入ります」
そうして全員を採取ポイントまで案内するとみんな驚いた顔になる。・・・師匠は・・・気持ち悪そうな顔してるな。
「おい、マジかよ。なんでこんな生えてんだよ」
「すごい」
「しかも手つかずとか信じられない」
「聞いてはいたが実際見るとやべえな」
初めて来た4人は辺り一面の薬草に驚いている、師匠は横で吐いている。最悪だ。
「ガフはいつもの事だ、みんなで手分けして採取していくぞ。」
ギースさんの指示の元薬草を採取していく。やっぱり経験があるのか、みんな採取スピードが早い。俺の倍近い早さでガンガン採取していくと、あっという間に採取は終わった。
採取も終わったので次の魔力草のポイントに向かおうとした所で、マップに反応があった。敵が5??、4と1?微妙な距離に離れているが、今回数は別にどうでもいい、問題はマップに赤丸の反応で表示されている点だ。この表示を街の外で見るのはクソムカつく国の兵士達と鬼ごっこした時以来だ。まさか俺が生きている事に気付いたのか。そうだったら師匠達とはここでお別れだな。・・・・それにしては追手がたった5人ってのは妙だな、あれだけの人数でも最後は軽くあしらってたから、もう少し人数連れて来ないと捕まえられないって考えないのかな。なんか変だな、もしかして追手じゃないのか?取り合えず師匠に教えておこう。
(師匠、敵です。数は5人です。今回は魔物じゃないです、多分人です。)
(ああ、分かった。気持ち悪いのに面倒くせえな、まだ俺達に絡んでくる馬鹿がいるのか)
いつも通り悪態をつく師匠なので、二日酔いもだいぶ収まったみたいだ。俺が相手は人だと教えても魔物の時と師匠の反応が変わらない。師匠の話ぶりだとこういう経験は何度かあるみたいだ。
そんな事を考えながら敵を迂回して街道まで行こうとすると、敵がこちらに移動してくるので向こうにも気付かれているみたいだ。そうしてお互い視認できる距離まで来るとやっぱり俺の勘違いではなく人だった。その数4人、1人は俺達を大きく迂回して背後に回りこもうとしている。俺への追手だと思ったけど相手の装備が貧弱なので俺なのか師匠達なのか狙いは分からないが明らかに襲うつもりの配置になっている。
「客だ、後ろに1、前は4。ターニャでも気配が分かるぐらいだから大した事ねえな」
「『私でも』って失礼」
師匠の注意にターニャさんが怒って師匠の足をゲシゲシ蹴っている。敵を前にかなり余裕があるな。他のみんなもいつも通りの様子で、こういう荒事には慣れているみたいだ。
「よお、『最長』この間はよくもやってくれたな!てめえ俺達から奪った装備返しやがれ!」
開口一番俺を名指しで文句を言ってくる悪人顔。防具はなくて手に短剣を持っているだけだ。その短剣もあんまり質が良さそうには見えない。他の3人も似たような感じだ。そしてこいつら何か見覚えあると思ったら街中で俺に絡んできて装備奪って全裸にした奴等じゃん。追手じゃねえのかよ。装備は全部売ったから返せないんだよな、まあ持ってても返すつもりはないけど。
「なんだ、ギンの客か。じゃあ、自分で責任持って相手しろ」
「ええ!ギースさん助けてくれないんですか?」
「馬鹿、俺らは何も関係ないだろ、巻き込むな。あと、自分でやった事は自分で責任持って対処しろ」
確かにギースさん達全く関係ないよな。
「おい!聞いてんのか!俺らの装備早く帰せ!大人しく返せば命だけは取らねえからな。まあ手足の1、2本は覚悟してもらうぜ、あとてめえの荷物もな。ブハハハ」
う~ん。こいつら装備返しても約束守る気はなさそうだよな。もう持ってないから正直に言うか。
「お前らの装備はもう持って無いぞ、商業ギルドに売った、大した金にならなかったけどな。でもお前らが先に絡んできたんじゃねえか、まあ犬に嚙まれたと思って諦めて真面目に働け」
「てめえ!ふざけんな!ぶっ殺してやる!大体ギルド資格剥奪された俺らが真面目に働ける場所なんてもう無えんだよ!」
そうなんですか?って感じでギースさんの方に目を向ける。
「倉庫で荷物運びでも、農業したりでも気にしなければ何でも仕事はあると思うぞ」
「だってよ、仕事あるみたいで良かったじゃん」
「ふざけんな!そんなチマチマした事やってられるか」
はあ~。こいつら我儘だな。
「真面目に働きたくないから、俺みたいな新人から金とか貴重品を巻き上げようとして、逆に全部巻き上げられたら、気に食わないって所か。救いようがねえな」
「うるせえ!てめえはもう殺すから黙って死んどけ!」
「ん?話は終わったか。だったらさっさと始めろ」
今まで木にもたれて俺達の会話を聞いていたケインさんが飽きたのか口を挟んできた。他のメンバーも警戒はしているが、手を出すつもりはないようだ。マジで俺一人にやらせるつもりのようだ。まあ、自分で蒔いた種だから仕方ないけど。どうしようか、前と同じように身ぐるみ剥いでいく・・・のは外だと少し可哀そうだな。取り合えずパンイチで放置だな。師匠達には俺の『影魔法』見られるけど、もういいか。多分師匠達ならバレても殺そうとしてこないだろう。最悪街から出て行けって言われるかもだけど、それはそれで仕方ないと思って諦めて街を出ていこう。
—————ズ
影を伸ばす。幸い深い森の中なので、俺が影を広げてもバレる事はない。後ろの隠れた敵だけは直線状に影を伸ばすと師匠の足元を影が通る。バレないだろうけど、間違えて影で師匠を攻撃しないように注意しないと。
「ケイン、てめえらもだ、ついでに殺ってやるよ。お前ら、エステラとターニャは殺すなよ。こいつら始末したら楽しむからよ」
「「あ゛!!」」
女性2人が腹から声を出す。その声は女の人が出していい声じゃない・・・怖い。
エステラさんとターニャさんと楽しんでいる想像をしているのか、連中は「グヘへ」とよくある雑魚キャラみたいな笑いをしながら武器を構える。
こっちは既に正面の4人と背後の奴の足元まで影を広げて準備は完了している。
さて・・やるか。
「ま、待て!ギン!今、こいつら俺らも殺るって言ったな?なら、お前は下がってろ。俺らで殺る」
影で捕縛しようとした直前に師匠が慌てた様子で声を掛けて俺を止める。
「いや、いいですよ。ギースさんに言われた通り俺のせいですから俺が責任持って相手しますよ」
「いや!駄目だ!お前は下がってろ!俺が後ろ、残りは4人な。たいした奴等じゃねえが油断はするなよ。ギン!てめえは絶対手出すなよ」
師匠は頑なに俺に手を出さないように命令してくる。俺のついでに殺すって言われて怒ったのか、エステラさんとターニャさんで楽しむって言われて怒ったのかどっちかだと思うけど大丈夫かな、さすがに師匠達が負ける事はないと思うけどケガとかしないで欲しいな。
そんな事を考えて敵に注意を払いながら影を引かせて後ろに下がると、まず最初に動いたのは師匠だった。いきなり振り向いて背後に回っていた奴に向かってナイフを投げると、咄嗟の事で敵は動けずにナイフが顔面に突き刺さる。それで敵は意識を失くしたのかその場に倒れこむ。師匠はナイフを投げると同時にその敵に走って向かい敵が倒れこむと同時に短剣を首に突き刺した・・・・刺した?・・・殺した?
「・・・・え?」
俺は何が起こったのか理解できていない。
ギースさんとケインさんも師匠がナイフを投げた瞬間に正面の4人に向かって駆けだしたので4人ともそちらに注意が向いた瞬間、4人の内2人の頭にナイフが突き刺さりその場に崩れ落ちた。投げたのはエステラさんとターニャさんだ。残った二人はギースさんとケインさんがそれぞれ相手をするが、ケインさんの長剣と相手の短剣ではリーチの差が違い過ぎるので短剣を持つ手を切り飛ばした後に、首を突き刺してトドメとなった。ギースさんは盾で相手の攻撃を余裕で受け止めた後、ハンマーで攻撃するが流石に武器が大きすぎたのか、相手は後ろに飛んで攻撃を躱すが着地した瞬間に頭に2本ナイフが突き刺さり崩れ落ちる。また、エステラさんとターニャさんが投げたナイフだ。
「終わったぞ。?ギン?どうした」
師匠が呆然とした俺に気付いて声を掛けてくれる。師匠の背後には首を切り落とされた死体が転がっている。師匠の手にはそいつの物と思われる短剣と財布が握られていた。
「それにしてもギースあんた、攻撃躱されるなんて腕がまだ鈍ってるわね」
エステラさんは死体を漁りながらギースさんにダメだしをしている。
「そうだな。ケガする前なら多分当ててたよなあ、鈍ってんなあ」
エステラさんのダメだしに素直に反省しているギースさんも死体を漁っている
「こいつら貧乏。ほとんどお金持ってない」
死体から漁った財布の中身を確認しながらターニャさんが文句を言っている。
「ほら、漁り終わったら首落とすから、どいとけ」
ケインさんは長剣で敵の首を斬り落とす作業をしている。
みんな何事もないかのように呑気に振舞っている、その光景ですら怒りが湧いてくる。
「な、何で!!殺したんですか!!!別に殺さなくてもよかったじゃないですか!!!」
俺が大声で非難するが、全員キョトンとした顔をしている。師匠だけは手を顔にあててやれやれって呆れた感じだ。
「どうしたの?ギン大声だして?」、「どうした?何かマズかったか?」、「もしかして知り合いがいたのか?」、「?」
みんな本当に何で俺が大声を出したか分かっていない。そう、多分おかしいのは俺なんだろう。こっちの世界ではこれは普通の事なんだ。クロ、『ドアールの羽』と覚悟をしてきたはずだけど、まだまだ俺の覚悟は足りていなかったみたいだ。
「ギース。悪いが、先に行って魔力草採取しておいてくれ。場所はこのまままっすぐ行って街道を突っ切ってこっちと同じぐらい進んだ所だ。分からなかったら街道まで戻って待っててくれ」
不思議な顔をしつつも師匠の指示に従い、みんな歩いて行った。残ったのは俺と師匠、首を落とされた死体が5つ。師匠は何も声を掛けてくれないけど、俺は絶賛反省中だ。師匠達がこいつらを殺さないようにする上手い対応が無かったか、師匠から止められた時に無理にでも俺が相手をするって言い張っていればとか。そもそも最初に街で絡まれた時の対応から問題があったのかもしれない。影で捕まえたら何もせず逃げ出せばこいつらもしつこく狙ってこなかったかもしれない。
「ギン」
「分かってますよ!!俺がおかしいってのは!でも・・・それでも殺さなくてもいい解決策があったんじゃないかって!」
「ギン、分かってるじゃねえか。お前の考えがおかしいんだよ。お前の田舎だとそれでも良かったんだろうが、ここでその考えは通用しねえ、武器を向けた時点で殺し合いになるんだよ。仮にお前の言う通りここでこいつらを殺さずにいたら次は俺らも標的にされてただろうな。その時ギンはどうするんだ?俺らを全員守るなんて不可能だろ。手遅れになってからじゃ遅いからなその前に殺しておいた方がいいんだよ」
厳しい。この世界は厳しすぎる。期待はしてなかったけど師匠の言い方もきつい、ただでさえ精神的にダメージを受けてるのに追撃の言葉をぶつけてくる。くそっ、言われっぱなしで悔しいのか、それともこいつらが死んで悲しいのか良く分からないけど、涙が出てくる。
「ギン、お前の言う通りこういう場合に情けをかけて殺さなかった奴等も俺は知ってるけどな、そういう奴等は俺の知る限り全員殺されたぞ。それも情けをかけた奴等にだ。これも珍しい事じゃないからな」
師匠が言葉を続ける。先ほどより優しい口調になったが、話の内容はやっぱり俺が甘いって事を伝えたいみたいだ。
「師匠達もこういう経験あるんですか?」
絶対師匠達もこういう経験はあると思っているけど、気にはなった。
「ガハハハッ!数えるのも馬鹿らしいぐらいあるぞ。特にエステラとターニャがパーティに入った時がやばかったな。あいつら顔はいいからな、『ギース達には勿体ねえから俺らのパーティに入れ』ってな。まあエステラとターニャをパーティに入れて何がしたいかは教えなくてもわかるよな。ケインが毎回ブチ切れて宥めるのに苦労したけどな」
俺からすればすごい内容を話しているが、師匠からすれば笑い話みたいだ。やっぱりこの世界の常識は全然違う。やっぱり俺がおかしいんだ。でも笑いながら話す師匠を見ていると、少し気分が紛れてくる
「すみません、師匠、手間取らせました。もう大丈夫です」
まだまだ納得は出来ていないが、心は落ち着いてきた。
「ホントだよ。弟子のくせしてあんまり師匠に手間かけさせんな」
「ひっでえな~。これでもかなり心に傷を負ったんですよ。もうちょっと優しくして下さいよ」
「そんなのは俺に頼むな!『猫宿』に頼め!お前今日エレナ指名できるだろ。丁度いいからエレナに慰めてもらえ」
「嫌ですよ。情けない。エレナなら『甘い』ってバッサリ切られそうじゃないですか、これ以上心の傷を抉られたくないですよ」
◇◇◇
「甘いわよ、ギン、そんな事言っているようだと、いつか痛い目見るわよ」
思った通り、エレナに今日の事を話すとバッサリ切られてしまった。あの後みんなと合流して魔力草を採取して道具屋に売ったら、金貨2銀5枚になった。本当はパーティー割だったが、ほとんど採取しなかった俺は報酬の受け取りを辞退した代わりに『猫宿』を奢って貰った。今日はエレナを指名したが、やっぱり前と同じで何か俺に違和感を感じたのか問い詰められて今日の事を正直に話すと思った通りだった。
「分かってるよ。師匠にも言われたから。くそっ、絶対こうなるって分かってたからエレナには言いたくなかったんだ」
あの連中が死んだ事が悲しいのか、自分が何も出来なくて悔しいのか分からないが出てくる涙を拭いながらエレナに文句を言う。
「また、泣いてる。ギンは泣き虫よね」
「うるさいな。傷を抉ってきたのはエレナだろ」
揶揄うような口調で言ってくるエレナに文句を言う。
「そうか~私か~だったら慰めてあげないとね」
言いながら俺の頭を抱え込んでくれるので、先程満喫した柔らかい感触が頭に当たる。
「ギンは優しすぎるわ。冒険者に向いてない、商人とか目指してみれば?計算は得意って聞いたわよ」
しばらく俺の頭を抱え込んで無言だったエレナが、唐突に転職を進めてくる。
「計算は得意だけどな、物の価値が分かってないから商人は無理だ」
まだこの世界に召喚されてから2ヶ月ぐらいだ、しかもそのうち1ヶ月は森の中で逃げ回っていただけだから、実質1ヶ月ぐらいしか見聞を広められていないので俺には圧倒的に情報が足りない。更にいつ追手が来るか分からないので、見つかった時に自分で火の粉が振り払えるぐらい強くなってなければいけない。そうするとやっぱり冒険者で鍛えていく方がいい。
「それなら、宿屋とか料理屋とかは?あとは自分で開墾して農業するってのもあるわよ」
「いや、いいんだ、俺には冒険者しか道がないんだ。今回は初めてでショックを受けただけだから次からは大丈夫だ」
「もう、心配してるのに・・・・・・・・・お願いだから無理して死んだりしないでよ」
軽く文句を言った後、無言だったエレナがポツリとお願いをしてきた。その言い方は心の底から俺の事を心配してくれてるように聞こえた。
「大丈夫、そう簡単に死ぬつもりはないから、それにこの前同じランクの奴等と訓練したけど1対1なら負けなかったぞ」
「ほら、すぐ調子のる。そういう奴から簡単に死んでくのよ」
その後は時間までエレナと酒を飲みながら話をして今日の出来事で負った心の傷を癒してもらった。・・・・思い返せば癒して貰っては無かった。サラに一本丸々酒をあげた事、スーティンに俺が酒を持っている事がバレバレだった事について小言を言われていただけだったな。




