41話 稽古とアドバイス
「顔も可愛くて、気持ち良かったんだけど、やっぱり金がな」
「だな~最低銀貨2枚はFランクには気軽に行けないよな。ギンは良いよな~。毎日『猫宿』行けて」
ウィートとカールが飯を食べながら嫌な絡み方をしてくる。二人とも酒は飲んでないから演技のはずだけどさっきから相手するのが面倒くさい。
「だから毎日行ってねえよ。多分3日に1回ぐらいか」
「「それでも多いわ!!」」
2人から突っ込みを入れられる。・・・・やっぱり新人がこんだけ頻繁に『猫宿』行くのは目立つよなあ。
「なあ、俺って何て噂されてんだ?『最長』って言われてるのは知ってる」
俺が聞くと二人は顔を見合わせて困った顔をする。この反応がかなり気になった俺は怒らない事を約束してから色々教えて貰った。
「言っとくけど俺らが言ったんじゃねえからな。怒るなよ」
・新人の癖に毎日『猫宿』通い詰めてる一部が大型の新人
・『猫宿』の女の子をコンプリートした新人
・アレが『最長』時間も『最長』
・ガフとギースが恐れた新人
・エレナ付きの子に手を出してもペナルティが無い新人
「ふざけんな!!!!!!!」
聞いた瞬間怒りが爆発したが、ウィートとカールが俺を抑え込んでくる。単純な力だけでは二人の男を跳ね除ける事は出来ない。
「だから怒るなって。噂だから勝手に言わせておけばいいだろ」
「そうそう、噂だから気にすんなって、お前が色々目立ってるから妬みだよ、有名税って奴だ。我慢しろ」
言われてみるとたかが噂だ、日本でも散々変な噂を金子達に流された、俺はそれを気にしなかったからこっちでもそのスタイルでいればいいのか。そう考えると少し落ち着いてくる。
「ギン、何騒いでんだ?ギルドで騒ぎは起こすなよ」
「おっ!何だギンお前早速パーティ組んだのか?変人のお前を受け入れてくれる奴がいて良かったじゃねえか・・・イテ」
「ごめんね、全くケインは口が悪いのよ。それでよくトラブルになるから気を付けてっていってるでしょ」
「女癖も悪い」
依頼が終わったのかちょうどギルドに帰ってきたギースさん以外の『カークスの底』メンバ―が騒いでいる俺達の所にやってきた。ギースさんは受付で手続きをしているみたいだ。
「ああ、師匠達お疲れ様です。依頼どうでした?」
「ああ、探すのにちょい手間取ったが戦闘自体は余裕だったな」
「楽勝」
師匠が軽くターニャさんがブイサインで力強く俺に答える。ターニャさんの完全装備初めて見たけど、結構軽そうな胸当てに弓を背中に背負っている。見たまんま弓士だ。
「あんた何もしてなかったじゃない」
エステラさんも初めて見たがターニャさんと同じく弓士の格好をしているが体の一部がターニャさんと大きく違うので胸当ては特注品だろう。
「エステラも弓外してただけ」
「わ、私は牽制だったのよ!」
「ギースに当たってた」
「ぐ・・・・・」
何も言えなくなるエステラさん。ギースさんに当てたって色んな意味で大丈夫なのか?大丈夫だな。みんな笑ってるし。
「師匠達ってこの後何か予定あります?暇なら稽古付けて下さいよ。ああ、こいつらも師匠達から稽古受けたいそうです」
ギースさんも手続きが終わったのでこちらに戻ってきて隣の机で師匠達と飯を食べている。昼も軽く過ぎた所なので、いまから依頼を受けて出発って事は無いと思ったのでいつものように師匠に稽古をお願いしてみる。ついでにウィートとカールにも稽古つけてくれないかお願いしてみる。
「お前ら確か『鉄扇』の奴等だったよな?名前は?」
師匠がウィートとカールに名前を聞いてくる。『ドアールの羽』の時もそうだけど、師匠ってかなり同業の冒険者に詳しいな。俺全然知らないけど、少しは勉強しておいた方がいいのかな。
「『鉄扇』のリーダーやってるウィートです。盾です。よろしくお願いします」
「カールです。アタッカーです。よろしくお願いします」
さっきと違いガチガチに緊張している二人。何でそんなに緊張するのか不思議だが、そんな緊張している二人を気にせず師匠達は二人を何も言わずにじっと見ている。
「ほら、師匠とギースさんのおっかない顔でじっと見られたら二人が緊張するじゃな・・・痛え」
また、頭を叩かれた。やっぱり手加減無しでめっちゃ痛い。
「まあ、いいぜ稽古つけてやる。但し最初はギンが相手な。それで俺達がアドバイスしてやるよ」
「はぁ、はぁ。ありがとうございます」
「・・・・・ま・・す」
稽古をつけて貰った二人は終わると地面にぶっ倒れた。二人は師匠達のアドバイスに従って普段と慣れない動きをするからかなり疲れたみたいだ。俺はいつも言われている事なのでぶっ倒れる事はなかった、いい汗かいたのでスッキリした。
「ウィートは自分が思っているよりもう1歩前に出る事を意識しろ。盾で相手の視界を狭くさせるのも役割だからな。そうすると相手もお前に意識を向けるからアタッカーも攻めやすくなる」
「カール、お前のランクじゃそのでかいハンマー使う敵はいないからしばらく片手剣ぐらいにしといた方がいいぞ。でかいハンマーはEランクに上がってから場所によって使いわけるぐらいの方がいい」
ギースさんはウィートにケインさんはカールにそれぞれアドバイスがされる。一方俺は、
「だから、てめえはフェイント含めて動きが素直過ぎるんだよ。もう少し意表を突く動きしろ、馬鹿」
師匠とギースさんからいつも言われている事を今日は師匠からきつめに言われる。フェイントも動きが素直すぎるってもうコレどうしたらいいかわかんねえな。
その後は俺、ウィートとカール対師匠とギースさん、ケインさんの3:3の訓練や訓練中に突如襲ってくるエステラさん、ターニャさんからの遠距離攻撃を躱す等色々想定した訓練を行い、かなり満足した。
「師匠達、今日はありがとうございます。かなり良い汗かきました」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます、もしよければまたお願いします」
稽古をつけて貰った俺達3人は疲れ果てて地面に寝転がりながらも稽古をつけてくれた師匠達にお礼を言う。これでウィートとカールとの約束も果たせただろう。次の稽古もお願いしているから、次回からは俺がいなくても大丈夫だろう。
「ガハハハッ。まあこっちも面白かったぜ。鈍ってた連携の確認も出来たしな」
「そうだな、エステラとターニャも実践に近い感じだったから感覚を取り戻せただろ?」
「うん、バシバシ当たって気持ちよかった」
「そうだねえ。なんかあれだけ当たると自分が上達したと思うわね。」
『投擲』スキルは動き回っていれば当たらないはずだけど、この二人は俺達の動きを先読みしているのか、訓練用の小石をポコポコ当ててきていた。師匠達も連携の確認が出来たみたいで何よりだ。
「よ~し、そんじゃあ、腹減ったし飯でも食いに行こうぜ。訓練付き合ったから酒の一杯でも奢れよ」
ようやく地面から起き上がるぐらいに息を整え『洗浄』で体をキレイにすると、ケインさんが酒を奢れと言ってきた。元々そのつもりだったので、了承して全員でゾロゾロとギルドに戻っていく。
「ぷは~。汗かいた後はやっぱりうめえな、で、お前ら『鉄扇』だけどあんまり評判良くねえぞ」
全員で乾杯した後、ビールを一口飲んだ師匠がウィートとカールに話しかける。ビールを一口飲んで嬉しそうな顔をしたウィートとカールだったが師匠からの一言に不安げな表情に変わる。
「悪い、言い方間違えた、嫌われてるんじゃなくて、危なっかしいって言われてるぞ。心当たりはあるだろ?」
俺もこいつら嫌われてるのかって焦ってしまったけどすぐに師匠が訂正した。
師匠の言葉に二人はハッとした表情でコクリと頷く。俺からも言われた事だと思うので二人は当然分かっているはずだ。
「分かってんならいい。まあ鉱石集めは人数が多ければ多いほど儲けが出るが、もうそろそろパーティ内で話し合って考えておけ。Eランクの依頼にはまだ鉱石集めがあるから何とかなると思ってると、Dランクからは無くなって大変な事になるからな」
「師匠。鉱石集めだけしてればDランクまで安全に上がれるって事ですか?」
ふと、思ったので横から口を挟む。そのつもりはないが鉱石集めだけでDランクまで上がるのは何か違う気がする。
「まあ、そうなるが、そういうパーティはDランクで必ず詰んで引退だ。Dランクからは採取依頼がほぼ無くなる、あってもやべえ魔物がいる所だったりするから、それまでにはそこそこ戦えたり、危険を察知できるようになってないといけねえからな。ずっと同じ洞窟だとそれが出来ねえだろ?魔物も同じ奴しかいねえし。お前も鉱石集めはEランクに上がるまでにしておけ。Eランクからは洞窟以外の場所で採取依頼を受けて色々経験しておいた方がいいぞ」
やっぱり師匠の話は役に立つ。理由までしっかり教えてくれるから納得してやっていこうって気になるし、ウィートとカールも真剣に話を聞いているので、Eランクに上がったら採掘にはいかなくなるだろう。
ウィートとカールは師匠の話を聞いた後、急いで食事を済ませるとお礼を言ってから席を離れていった。慌てていたから、今から二人なのかパーティでなのか分からないが話し合いをするんだろう。
「それで、ガフから聞いたけどホントにあるの?明日行くって言ってるけど、行って何もないとか嫌よ」
エステラさんが明日の草採取について尋ねてくる。さすがにギルド内だと誰が聞いてるか分からないから何の事かは話さない。
「大丈夫です。無かったら酒1本あげますよ」
これなら誰かに採取されて無くなっていても文句はないはずだ。
「ホント?」
エステラさんに言ったのに何故かターニャさんが机から立ち上がり食いついてきた。
「何でターニャが反応してるのよ。まあ、それなら私はどっちでも利があるから文句はないわ」
(そう言えば師匠、洞窟はいつ行くんですか?)
(洞窟は明後日向かうつもりだ。薬草は見つかる危険があるが、洞窟の方はそう簡単に見つからねえだろ。こいつらには家に帰ってから説明しとく)
『念話』で師匠と短い会話をしていると、ターニャさんが俺と師匠を何も言わずに見比べている。
「何か二人で話してた?」
ドキリとした。今師匠とは『念話』で話をしていたから声は出ていないのに何で気付かれた?師匠の方は向いていたけど、気付かれる様子はなかったはずだ。
「何言ってんだ、お前。何も「ガフは黙ってて」」
師匠が『念話』を誤魔化そうと話かける言葉を遮りターニャさんが俺にズイッと顔を近づけてきて、ジーッと俺の目を見てくる。美女にそんなに見つめられると照れるんですけど。
「ギンとガフは何か隠してる」
・・・・ちょっと、この人、勘が鋭いってレベルじゃねえ。何で?何が?隠し事多すぎてどれの事か分かんねえ。師匠助けて。
師匠に目を向けるとやれやれって感じで頭を振っている。
(師匠。何なんですかこの人。ちょっと、いやだいぶ鋭いですよ。隠している事多すぎてどれの事聞いてるのか分かんないですし。助けて下さいよ)
(分かったから情けねえ声を頭に響かせるな。俺もターニャがこんなに勘が良いとは思ってなかった)
「む。また?」
だから何故分かる。今の『念話』はターニャさんから視線を逸らしながらも師匠の方は見てなかったぞ。
「分かった。分かった。家に帰ってから詳しく話すから、今はこれだけな」
そう言って全員頭を近づけさせてヒソヒソ話の格好に入る。
「ギンが南の洞窟で違和感ある場所を見つけたそうだ。この街の下水道で酒を隠していた部屋に最初に気付いたのはギンだからな。俺は何かあるって思ってる。明後日から向かうぞ」
それだけ師匠が言うとみんな頭を離して静かに席に着くが、師匠以外は驚いた顔で俺を見ている。さっきから顔を見つめられる事が多い、照れるなあ。
「まあ、そういう訳だ。そろそろ切り上げて帰るか。ギン明日は広場に8の鐘でいいだろ。人数もいるから前より早く終わるだろうしな」
話の続きを聞きたくてうずうずしている人達がいるので、今日はお開きとなり俺はいつもの安宿に泊まった。




