40話 鉄扇の二人
『自室』でいつものように目が覚める。色々朝の準備をしながら昨日の事を振り返ったり、今日の予定を考える。準備も終わり『探索』で周囲に人がいない事を確認してから『自室』から出て、街を目指す。『快足』スキルで走って街まで戻ると、この間師匠達と一緒だと3時間は掛った距離が今日は1時間もかからず街に辿り着いた。これなら昨日門が閉まる時間に間に合ってたな。後悔しても仕方ないので、ギルドで光苔の納品を終わらせる。ついでにポーラスに文句を言いたかったが、見当たらなかったので我慢した。
・・・・・・暇だ、師匠達がいないし依頼を受けていないと暇だ。暇すぎてガジに会いに孤児院に行ったがガジ達はお金稼ぎ中でいなかった。広場に戻り店を冷やかしながら時間を潰していると、人気のない所の路地に入った所で後ろから声を掛けられる。
「よお、『最長』」
「お前少し調子乗りすぎだ」
『探索』で途中からこいつらに気付いて敢えて路地裏に入っていくと、思った通り話しかけてきた。
「今日はガフ達もいねえからな。たっぷり指導してやるぜ」
・・・・3人か。話を聞くのも面倒くさいな。まあ暇つぶしには丁度いいか。
―――――――ズ
影を広げてすぐに捕縛収納。全裸にして解放したら衛兵呼んでおしまい。その足で商業ギルドに行き奪った装備品とハンターさんの防具類なんかも売却する。今さっき絡んできた奴等の装備は大した事なかったが、ハンターさんの防具類はやっぱりそこそこいい値段で売れた。
「よお、ギン。何暇そうにしてんだ?」
商業ギルドで売却した後も特にやる事がなくて暇だったので、ギルドで一人寂しく少し早い夕飯を食べているとウィートから話しかけられた。後ろには『鉄扇』メンバーが少しくたびれた様子で立っている。
「あれ?お前らもう帰ってきたのか?」
採掘だからもう少し時間がかかるかと思っていたが、案外早く戻ってきたことに驚いてしまった。
「洞窟で今日に帰るって言ったじゃねえか。それよりも場所いいか?」
ウィートが俺の向かいに座り手を振ると他のメンバーは各々散っていった。ウィートは酒と料理を注文してから改めて俺に聞いてくる。
「それで返事は?」
パーティ勧誘の答えを聞いてきた。師匠とはすでに『鉄扇』の事、パーティに誘われた事を『念話』で話してどう答えるか決めている。
「悪い。しばらくソロでやっていこうと考えている。折角誘ってくれたのに悪いな」
「いや、いいさ、ダメ元だったしな。気が変わったらいつでも声掛けてくれよ。まあこの間みたいに、たまには臨時のパーティでも組もうぜ」
この間の大ムカデとか赤土竜みたいな時は仕方ないもんな。俺はウィートの言葉に頷く。こいつらから悪意はないから仲良くしても問題ないかな。さすがに師匠達しか知り合いがいないと今日みたいに暇すぎて困るしな。
「良かったじゃねえか、今回いつもより儲けたんだろ?」
「ああ、だけどな、Fランクになってこっち採掘ばっかりだ。腕が鈍っていかないか心配なんだよ」
俺は今『鉄扇』のリーダー、『ウィート』とハンマー使いの男『カール』から愚痴を聞かされている。他4人?・・・・残りの『鉄扇』メンバーは恋人同士なので、すでにギルドに姿はない。
「それなら訓練すればいいじゃないか?」
「パーティメンバーでやってもどれだけ強くなってるかわかんねえだろ。だから上のランクに訓練お願いしたいけど怖くて頼めねえ」
ランクってあんまり気にした事なかったけど、そんなもんなのかな。
「ランクって言うほど気になるか?誰がどのランクなんて覚えてねえだろ?適当に声掛けていけばいいだろ」
「言うほど簡単じゃねえよ。ギンはガフさんとギースさんに慣れてるからそんな簡単に言えるんだよ。普通は上のランクの人に訓練してもらえるようになるだけでもかなり大変なんだぞ」
そういうもんなのか。師匠には時々訓練してやるって簡単に約束してもらえたから、あんまり大変だと思えないんだけどな。
「取り合えず師匠達が帰ったらお前らの事話しとくから、言っとくけど、紹介するだけだからな、その後どうなっても文句いってくるなよ」
「分かってるって。それでもう一つ頼みがあるんだけど・・・俺らを『猫宿』連れていってくれ。お前毎日行って慣れてるだろ?頼む!連れていってくれ」
毎日は行ってねえよ。またおかしな話が流れてるけど噂なんてどうでもいいか。『猫宿』まだ一人で行く根性はないけど、こいつらと一緒ならいけるな。
「毎日は行ってねえよ。まあ、別にいいけど、泊って指名するのに銀貨2枚はするけど金は大丈夫か?」
「大丈夫だ、ちゃんと持ってる」
「それならいいか。それじゃあ飯食い終わったら行くか」
飯を食い終わり『猫宿』まで行き入り口で女将に金を払うと、珍しく女将から話しかけられた。
「ギン、『鉄扇』に説明しとくか?」
そう言えば色々説明しないといけなかったが、俺から説明して何か漏れがあっても困る。
「俺だと説明漏れがあるかもしれないから、女将から頼む。お前ら先に席について注文しとくから女将から説明聞いたら入ってこいよ」
そう言い残し店に足を踏み入れる。給仕の子に銀貨1枚を渡し、酒と軽いつまみを3人分頼んでウィートとカールが来るのを待つ。
「ヤベえ。緊張する」
「この店噂通り女の子全員可愛い」
俺も最初来た時に同じような事考えたなとか思ったけど、『猫宿』初めて来てから一カ月も経ってないから懐かしむには早すぎるな。
「俺が言うのもアレだけどお前らとサーリー以外の3人特に大ムカデで立ち竦んでいた2人は大丈夫か?」
酒を飲みながら『鉄扇』メンバーについて俺が思っている事を言う。ムカデとの戦闘でサーリーが吹っ飛んだ時に駆け付けた一人はまだマシか。戦闘に参加しなかったのは気になったが・・・。そいつよりも何もせずに震えあがっていた二人についてウィートとカールはどう思っているか質問してみる。
「それなあ、やっぱりギンから見てもそう思うか。俺とカールは、あの4人組と同じ日に冒険者になってな。あいつらに誘われてパーティに加入したんだが、正直な・・・」
やっぱりこいつらも分かってはいるみたいだ。なら後はパーティ内の問題だから俺が口を出す事ではないが、やっぱり『ドアールの羽』が頭をよぎるので、一応余計なお世話だと分かっているがいわずにはいられない。
「あの二人このままの状態だと、多分死ぬぞ、それかあいつらのせいでパーティメンバーに犠牲がでるかだな」
「だよなあ。ギン以外にも同じような事を言われてんだよ。カールとは鉱石の依頼こなしてランクが上がるまでにはどうするか判断しようって決めてる」
俺以外にも同じ事言われてるって事はムカデ以外の戦闘も酷いって事か。それならすぐにパーティ抜けた方がいいと思うけど、ウィートとカールがそう決めているならもう俺からは何も言わないでおこう。
「まあ、分かってて、どうするか決めてるならいいさ。悪いなパーティの問題に口を挟んで」
「そうよ。パーティの問題にあんまり口を出しちゃ駄目よ」
後ろから誰かが会話に入ってくるが、この声は俺も知っている、スーティンだ。
「よう、スーティン。なんか久しぶりって感じだな。そう言えばいつまで何だ?」
確かこの間指名した時は結婚するから、あと1ヶ月で辞めるって話だったけどいつ店を辞めるのか聞いてなかったので聞いてみる。もし次回来るまでにスーティンが辞めてるようなら今日はスーティンを指名しようかと考える。
「店にはしょっちゅう来てるから顔は合わせてるんだけど、忙しかったり指名受けたりで話できてなかったもんね。店は今週一杯だね、ただ、人が足りない場合は臨時で給仕の仕事だけしにくるから、顔を合わせる事もあるわよ、指名は受けないけどね」
そうか今週までって事は今日が指名できるの最後かもしれないな。よし、今日は断られなければスーティンを指名しよう。
「それよりギン、この二人は?初めて見るわね」
俺がこの後の事を考えているとスーティンから質問される。さすがベテラン新規客はすぐに分かるみたいだ。
「こいつら『鉄扇』のメンバーでウィートとカールっていうんだ。臨時でパーティ組んだりして仲良くなってな。こいつらが『猫宿』連れて行けっていうから連れてきた」
「フフフ。そうなの、ありがと。楽しんでいってね。で?ギンは今日誰を指名するか決まった?」
スーティンから聞かれるが、俺は今日ウィートとカールを連れてきた方なので、先にこいつらから決めさせた方がいいだろう。そう考えて二人に聞いてみると既に狙いは絞っているみたいで、スーティンに頼んで連れてきて貰ったら、あっさりOKが貰えたので二人は2階に上がって行った。
「それでギンはどうするの?今日はお気に入りのエレナ指名できないでしょ。私を指名しない?店辞めるまでにもう少し稼いでおきたいの」
さっきも少し考えていた事なのでスーティンを指名して2階に上がる。覚悟はしていたがお酒についてかなりしつこく追求されたので、2回戦をなし崩し的に始めてどうにか誤魔化せた。・・・・誤魔化せたかな?
翌朝、目を覚まして準備をして部屋から出ると、扉の前にスーティンのお付の子が立っていた。
「おはよう。どうかしたか?時間はまだ全然大丈夫だよな?」
「おはようございます。スーティン姐から伝言を預かっています。『今回は誤魔化されてあげる』だそうです。こう言えば分かって頂けると言われました」
スーティン付きの子はそう言うと俺にペコリと頭を下げて掃除道具を手に持ち、俺が出てきた部屋に入っていく。一人廊下に取り残された俺は苦笑いしかでてこない。
やっぱりバレバレか。でも持ってないって言い張ったからこのままにしておこう。折角師匠が俺の為に色々考えてくれたけど、次、同じ状況になったら多分もう無理だ。酒をスーティンにあげる事になるだろうな。
そんな事を考えながら下に降りて適当な席に着くとサラが朝食を持ってきてくれた。相変わらず仕事中は無表情だ。
「朝食になります」
それだけ言うと立ち去ろうとするが聞きたい事があるので呼び止める。
「サラ、ウィートとカールって昨日俺が連れてきた奴等もう店出た?酒美味かった?」
ウィート達の事も気になったが、サラの無表情も気になったので、少し揶揄って酒の話を振ってみる。
「ブッ!ゴホッ!ゴホッ!・・・・いえまだお二人はお休みになっています」
盛大にむせた後、ウィート達の事は教えてくれたが、酒については教えてくれなかった。少し怒った表情で俺を見てくるサラ。怒らせたかな?と少し反省したが、俺の横を通る時に、
「もう少しで無くなりそうです。次は早めに来店して下さい」
ボソッと俺にしか聞こえない声でそれだけ伝えて仕事に戻っていった。
そうか無くなりそうか。だったらあんまり時間を空けずにまた来ないとな・・・あれ?そういえばなんで俺がサラに酒をあげる約束になってんだ?・・・したか?・・・してないよな?
そんな約束をしたか思い出しながら歩いてギルドまで向かうが、結局そんな約束した事は思い出せなかった。ギルドに来た所で師匠から待ってるように言われてるから依頼も受けれないので、暇だ。
暇なので、訓練場で『投擲』スキル習得する為、ひたすらナイフを投げている。鐘1つは投げていたと思うが、少しだけ的に当たる回数が増えた気がする。誤差の範囲と言われたらそれまでなんだけど・・・。そうしてひたすらナイフを投げていると後ろから声を掛けられる。
「よお、ギン。昨日はありがとうな」
「お前、朝から熱心だな。そういう所も強くなる秘訣なんだろうな」
ウィートとカールがこっちに歩いてきた。今日は依頼を受けるつもりはないのか防具は装備せずに普通の服に武器だけ手に持っている。
「おはよう。昨日はお愉しみでしたか?・・・まあその話は後でするとして少し稽古しないか?いっつも師匠達に手も足も出ずに負けてるからな。俺がどれぐらい強いのか同じランクの奴とやってみたかったんだ。相手してくれたら昼飯奢るぞ」
「よ~し、今の言葉忘れんなよ、相手してやるよ。一応俺たちの方が先輩だからな、指導員付けたぐらいで勝てると思うなよ」
「よっしゃあ、昼飯代浮いて、ラッキー。今更奢り無しとかつまんねえ事言うなよ?」
「はぁ!はぁ!クソッやっぱり負けた~!」
「「・・・・・」」
俺が地面に寝転んでいるのをウィートとカールは呆れた様子で見てくる。
なんだ?負けて地面にへばっている姿がそんなに面白いか。くそ、やっぱり俺あんまり強くねえ。もっと鍛えないと駄目だ、このままじゃすぐに死ぬ。
「2対1で負けて悔しがるなよ。しかもそれでもかなりいい勝負してくれるしよ。俺達がみじめじゃねえか」
「そうだ。そうだ。1対1ならこっちが全敗じゃねえか。お前どんだけ強いんだよ。しかもお前今まで休みなしのぶっ通しで訓練してるよな?どんだけスタミナあるんだよ」
ウィートとカールから褒めてるのか馬鹿にしているか分からない事を言われるが、俺としてはこの二人相手でも勝てると思っていたりしたのだが、やっぱり現実は甘くない。師匠達が戻ってきたら、また稽古つけてもらおう。今度はケインさんとやってみるのもいいかも、こいつらも誘ってみるか。
「そうだ、師匠達が帰ってきたら稽古お願いしてみるつもりだけど、お前らも暇だったらどうだ?カールは同じアタッカーのケインさんから教えて貰えるかもよ」
「マジか!やるやる!ケインさんにも教えて貰えるなんて夢みたいだ。あの人イケメンで腕もたつし、しかも可愛い彼女2人も連れてるから憧れてんだよ」
カールめっちゃ興奮している。まあ傍からみたらそう見えるか。エステラさんもターニャさんも目立つぐらいの美人だもんな。そんな二人の腰に手を回して歩いているイケメンだからな嫌でも目立つか。でもケインさん師匠達のパーティーだと一番扱いが雑なんだよな。
「まあ、聞くだけな、そこからどうなっても文句言うなよ。それじゃあ約束通り飯奢るから行こうぜ」




