38話 初めての1人の依頼
昨日はいつもの安宿に部屋を取って『自室』で寝た。朝目覚めると準備をしていつものようにギルドに足を運び、依頼を眺める。
もしかしたらもう無いかもしれないと思っていた光苔の採取依頼がまだ残っていた。少し遅い時間だけど昨日から張り出されたままなので人気がない依頼のようだ。確かに稼ぎがあんまりよくないとケインさんは反対していたからな。
ミーサさんはまだ都に行っていないみたいで、俺は開いている受付に依頼の紙を渡す。
「おはようございます。ギンさん、光苔の採取ですね。それではこの瓶一杯に光苔を採取して納品すれば完了となります。こちらの依頼期限は受付から1週間となっていますが、宜しいですか?」
この受付の人もミーサさんと同じでテキパキ仕事しながらも笑顔でいい感じだ。ギルマスの指導がいいのかな。
「はい、大丈夫です。そういえば南の洞窟の地図が欲しいんですけどあります?」
師匠からそんなに高くないから地図は買っておけと言われていたのを思い出したので受付に確認してみる。『探索』があるので本当は必要ないが、洞窟に地図無しで潜っていると他の冒険者に怪しまれるからだ。
「地図ですね。ありますよ。銀貨1枚になります。」
「・・・・・は?」
銀貨1枚とは思ってなくて思わず声が出る。値段は師匠から聞いてなかったがそんなにするとは思ってなかった。あれ?師匠そんなに高くないって言ってたよな?
「どうかしましたか?」
受付の人は表情を変える事無く聞いてくる。
「いや、銀貨1枚ってホントですか?高くないですか?」
「高いなら買わなくてもいいですよ。これは先輩冒険者が命がけで作った地図ですから、ただ、地図無しだと洞窟で迷ってしまいますよ」
「・・・・・・」
そう言われるとそうだが、何となく言い方が気に食わない。さっきまでの好印象はどこかへ行き、何か怪しさまで感じる。見た目は20代の細目スキンヘッドでひょろっとした感じで笑顔で対応してくれているが、よく見ると目が笑っていない。何か観察しているような目で俺を見ている。
「ポーラス、何か問題か?ギン!どうした?」
何か感じたのか近くを通りかかったギルマスが声を掛けてきた。
「・・・・・・・いえ、何でもありませんよ」
今こいつ小さく舌打ちしやがった。そういう事ならギルマスにチクってやろう。
「ギルマス、南の洞窟の地図が銀貨1枚って高過ぎじゃないですか?もうちょっと安くしてくれないと地図買えないですよ」
「うん?ギン何言ってるんだ?南の洞窟の地図は銅貨1枚だぞ。銀貨1枚って大洞窟の最新の更新地図並みじゃないか」
「そうですよ。ギンさん。ああ、聞き間違えていたから驚いたんですね。銅貨1枚ですよ。ど・う・か」
この野郎。銅と銀なんて聞き間違えるか。マジか~。ギルドの受付にも騙してくる奴がいるのか。この世界で初対面の奴は基本信用したら駄目だな、疑ってかかろう。取り合えずこいつの名前はポーラスな覚えたぞ。
銅貨1枚を支払い地図を買うと俺はすぐに中を確認するが中には何も書かれていなかった。マジでこいつどうしてやろう。
「おい!何も書いてねえぞ!」
「これはすみません。まだ白紙の方を間違えて渡してしまいました。こちらでしたね。いや、すみません、ホント確認不足で良く怒られるんですよ。気をつけますのでお許し下さい」
「ポーラス!またか!お前は良く確認しろっていつも言ってるだろ!地図がなくて死ぬ冒険者もいるんだぞ!気を付けろ!」
俺達のやり取りを近くで見ていたギルマスがポーラスを怒っているが、「またか」って事はこいつやっぱり確信犯だろ?ミーサさん早く戻ってきてくれないかな。
ギルマスが怒っているので、俺はそれ以上何も言わずにきちんと書かれた地図を受け取りギルドを後にした。その足で次は道具屋に足を運ぶ。
「爺さん。いるかー」
薬草と魔力草を買い取った爺さんの道具屋に顔を出す。入るとやっぱり店の中に人がいないので、奥に向かって呼びかけると、爺さんが出てくる。
「おう、なんじゃ『最長』か?何の用だ?買取か?」
「買取はもう少しあとかな。また一杯持って来るから。今日は毒消しポーション3,中級ポーション1買いにきた」
この間『ドアールの羽』を助けた時に中級ポーションを1本使ったのでその補充と手持ちになかった毒消しポーションを買いにきた。どちらも金貨1枚なので爺さんに金を払って購入する。購入後は南の洞窟に向かって出発した。
道中は特に問題なく昼過ぎには目的の洞窟に到着した。したのだが・・・・
「ポーラス!!!!」
あまりの怒りで地図を破りそうになったけど我慢した。だってこの地図デタラメだよ。地図は入ってしばらく1本道で突き当りを左に行くようだが、実際は入ってすぐに三差路になっている。この時点ですでにおかしい。最初の三差路は書き忘れなのか?と最初考えまっすぐ行くとすぐに行き止まりだった。この時点でこの地図は偽物だと判断した。1度はこの洞窟に師匠達と来たが、俺は後をついて回っていただけだったので、行先は全て師匠達に任せっぱなしだったのは失敗だった。せめて最初だけでも道を覚えていればすぐにこの地図が偽物だと判断できたはずだ。ギルマスが怒ってたし、地図も書かれていた事に安心してよく確かめなかった事も駄目だった。多分今から偽物と言っても、銅貨1枚でここまでやってくるポーラスの事だからシラを切りとおすに違いない。
仕方がないので、『探索』のマップで確認しながら洞窟を進む。偽の地図は怪しまれないように時々確認している風を装うのに使っている。道中1mぐらいのでかいミミズと遭遇したが、特に危なげなく倒す事ができたが、ポーラスのせいで素材部位を聞いてくるのを忘れたので、倒したミミズは丸々『影収納』に入れるはめになった。3階まで降りるとマップに大量の敵の反応があったので様子を見にいくと俺と同じぐらいの身長の赤い土竜が洞窟の広場に大量にいた。
あれが多分赤土竜って魔物だな。さすがにどのぐらい強いか分かんねえから、あの数は相手にしない方がいいか。目的の光苔は5階なんだよな。少し遠回りになるけど4階に向かう階段まで迂回できそうだからそっちから行こう。
マップを確認しながら4階の階段近くまで行くと、誰かが戦っている音が聞こえてきた。
うわあ、戦闘中か~、こういう場合は気付かれない場所で戦いが終わるまで待機だったよな。で、戦いが終われば音を鳴らして近づいて挨拶して脇を抜けていけばいいんだったよな。・・・うわあ、でけえムカデだ~気色悪い。殺虫剤とかこの世界あるのかな、ああ、やっぱり昆虫系は弱点は火なのか。
少しだけ戦闘の様子を伺うと6人パーティが連携して大ムカデに挑んでいる。何人か生活魔法の『火』を投げつけたり松明の火を振ったりしてムカデを怯ませているがその程度で、固い甲殻に阻まれてあまりダメージを与えられていないみたいだ。パーティのメインアタッカーっぽい男はハンマー使いでこちらもムカデと相性は悪そうだ。もう一人女騎士みたいな恰好をした人は手に持つロングソードの性能が悪いのかこちらもムカデの甲殻を突き破る事ができず苦戦している。節と節の間を狙えばダメージが入りそうだが、戦闘中にそこを狙っていくのは難しそうだ。
結構苦戦しているな~。ハンマーはムカデに相性悪そうだし、あの女騎士の武器性能悪いな。俺の短剣なら甲殻破ってダメージ入るかな?切った所に生活魔法の『火』を流し込んで焼いていくってのがベストかな。
自分ならどうやって倒すか考えてしばらく待っていると。
ガシャアアン!!
「ぐおおおおおお、離せ!」
「サーリー!!!!!」
「カール!!!ちくしょお、カールを離せ!」
金属音が響き渡ったと思ったら、各々叫び声が洞窟内に響き渡る。かなり苦戦しているみたいだ。チラリと覗くと、女騎士が吹っ飛んだみたいで壁の隅で横たわって、近くに仲間が駆けよっていくのが見える。大ムカデはハンマー使いの腕に噛みついて振り回している。幸いハンマー使いは金属製の鎧を着ているので腕を噛みちぎられる心配はなさそうだが、あの金属鎧を着た男を軽々振り回している時点で俺が攻撃を食らうとヤバい事が分かる。残りのパーティメンバーで盾持ちの男は盾を振りながら攻撃してムカデの興味を引こうとしている。もう二人は呆然と戦闘の様子を見て、震えている。
「だ、誰か!助けて!」
「了解!」
震えて様子を見ていた女の弓使いが大声で助けを求めたので、俺は返事をして洞窟の影から飛び出していく。
「へ?」
返事がくるとは思ってなかったのか女が可笑しな声をあげるが、それに答えている余裕はないので無視してムカデに走っていく
取り合えず、俺の武器が甲殻に通用するか確かめる為、走った勢いのまま胴体に短剣を突き刺す!
よし!通る!火!
刺さったのを確認したら短剣の先から生活魔法の火を生み出して中から焼いていく。
カチカチカチカチ。
俺の攻撃に怒ったのかムカデはキバを打ち鳴らしながらこちらを見てきた。その時に噛みつかれていたハンマー使いを放り出したが仲間が向かって行ったから大丈夫だろう。それよりもこっちに注意が向いたムカデだ。短剣を構えて対峙するが、少しヤバい感じがする。こいつには影魔法使わないと俺だけでは勝てそうにないと思った。
カチカチカチカチ!
怒っているのか音を立ててムカデが俺に口を開けて向かってくるので、その場を飛びのくが、すぐにこちらに向かって噛みついてこようとする。
クソ、これは躱せない!おらああああああああ。
手から生活魔法の火と風をムカデに向けて放つ。見た感じ火炎放射器みたいになった。ムカデは火を嫌がり俺への追撃をあきらめる。
「魔法?」
「火属性魔法だと?」
助けたメンバーで俺の動きを見ていた奴らが驚くが、注意している余裕はない。
「おい!盾持ち!少し時間を稼げ!」
俺が参戦してからいまだに困惑している盾持ちに指示を出すと、すぐに俺の指示に従い、ムカデの気を引こうと動く。
それを確認してから俺はハンマー使いの元に向かう。ハンマー使いはムカデに噛まれた時にハンマーを落としたらしく拾いに行く機会を伺っていたみたいだ。だけどこいつにハンマーは相性が悪い。
「ハンマーは相性が悪いからこれを使え!」
カバンから第1騎士団が使っていた長剣を取り出しハンマー使いへ投げる。
「おい、お前、こいつを女騎士へ渡せ」
次に怯えて震えあがっていた二人のどっちでもいいと思いハンターさんから奪った短剣を二人の手前に放り投げる。
「ぬおおおおおおおお!」
「悪い!待たせた!」
ムカデの噛みつき攻撃を声をあげながら盾で防いでいた男に声を掛け、ムカデに生活魔法の火と風の混合魔法『火炎放射』を吹き付ける。
カチカチカチカチ!
やっぱり火は嫌いみたいですぐに怯みだしたところに、
「おおおおおおおおお!」
「でやああああああああ!」
戦線に復帰したハンマー使いと女騎士二人が俺が渡した武器を手にムカデを切り刻み始めた。これに俺と盾持ち併せて4人でタゲ取りしながらムカデを攻撃すると、ムカデもターゲットを絞り切れないみたいで単発的な攻撃しかこない。しばらく3人で切り刻みながら火で焼いていくとムカデは息絶えた。




