34話 訓練と猫宿
「はあっ、はあっ、」
俺は今ベテランDランク冒険者の二人にボコボコにされている。対師匠、ギースさんペアでいつも以上に二人の攻撃を食らいまくっている。俺の攻撃は何一つ当たらない。
「アハハハッ。『最長』よく見ろ!ギースの盾を躱して懐に入り込むんだよ」
「目標はどちらかに絞れ。どっちもとか贅沢してんじゃねえよ」
「二人同時じゃなくて動きながら1対1に持ってくんだよ」
ギャラリーが好き勝手な事ばっかり言って五月蠅い。何人かまともな事を言っているが新人の俺がベテラン二人の動きをコントロール出来るはずがない。逆に動きをコントロールされて追い詰められて攻撃を食らう。さっきからそのパターンだ。
クソッ。もっと早く動かないと、師匠の後ろに回り込んで・・・
「そりゃ、無理だ。俺に回り込もうなんて100年早え」
師匠の後ろに回り込もうとするがあっさり止められて攻撃を食らう。
「『最長』少しはフェイント使え」
「さっきから動きが単調すぎるぞ」
「ガフじゃ無理だ、動きの遅いギースに回り込むんだよ」
くそ。周りが五月蠅いな!ギースさんの動き遅くねえよ。俺より早いぐらいだぞ。こいつら好き勝手言いやがって。
「はあっ、はあっ、疲れた~」
あれから1時間程訓練したが1回も攻撃を当てられず、結局ボコボコにされただけだった。クソッ、分かってはいたけどやっぱり悔しい。
「ふう、まあ大分動きが良くなってきたな」
「そうだな、最初に比べると大分マシだ。って言ってもやっと新人レベルを抜けたって所だけどな」
「ただ、これだけやられても鐘1つぐらい訓練を続けるなんて体力と根性だけは中々だ」
師匠とギースさんが俺を褒めてくれるが、攻撃を1つも当てられなかった俺としては全く嬉しくない。エレナからは腹芸を覚えろと言われたが悔しくて顔に出てしまう。
「ガハハハッ。そんなに膨れんなって。今から『猫宿』だぞ。機嫌直せって」
師匠からそう言われても悔しいもんは悔しい。
「ガフ、そうは言っても開店までまだ時間あるぞ」
「あ~。そうか、どうするか、適当に時間潰すか?」
「昨日言ってたギンの買い物はいいのか?」
ギースさんが気になる事を言い出した。俺の買い物って何だろ?
「ああ、そいつは丁度いいな、買い物しながら時間潰すか、ギン、俺の指導ってあと2日残ってたよな?お前にはまだ野宿について教えてなかったからな。明日明後日で遠征行くぞ。ラチナの実を拾いながら適当な所で野宿して帰ってくる。分かったな。」
野宿か。キャンプみたいな楽しいもんじゃないだろうな。キャンプやった事ないけど。でも俺には『自室』があるから別に野宿の訓練いらないんだけどな。
「ソロでもたまに臨時でパーティ組む事もあるからな。暗黙の了解みたいな奴もあるし、経験しとくといいぞ」
ギースさんが言った暗黙の了解ってのが気になる。そういうのは守らないと他の冒険者から目を付けられるだろうし、ここは素直に師匠の指示に従っておこう。
そういう訳で師匠に道具屋に連れてこられて野宿道具一式を買わされた。一式と言っても防寒用の分厚い毛布と火打ち石、調理用の鍋、食器類等で銀貨2枚もしなかった。買い物も終わった俺達はそのまま『猫宿』に足を運ぶ。
「Fランクの依頼ってどんなものがあるんですか?」
『猫宿』で飯と酒を堪能しながら師匠達に次のFランク依頼について色々質問している。
「どんなのって言われてもな、まあまだ採取系が多いな、深緑草とか赤鉱石とか鉄鉱石、あとなんかの実とか花もあったと思うが、覚えてねえな」
「この間、蝙蝠狩りに行った洞窟覚えてるか?あそこはFランクの報酬が多いから結構あそこに行く奴が多いな。分かってると思うけど街から遠いから大体3~5日ぐらいしてから戻ってくるのが普通らしいぞ」
採取系が多いのか。しかも次から鉱石も採取しないといけないならピッケルとか買わないと駄目かな。
「ああ、後はFランクからたまにだが依頼主に直接納品ってのもあるからな、依頼主が貴族の依頼は避けておけよ。話の通じる貴族なら報酬はべらぼうにいいんだけど、大抵はイチャモン付けられて依頼失敗、おまけに集めた品まで取り上げられて最悪だからな」
師匠が苦い顔で忠告してくれる隣でギースさんも「うんうん」頷いている。多分師匠達の経験談なんだろう。忠告しっかり聞いておきます。
「それで討伐系はどんなのがあるんですか?」
「ギン、最初の頃に教えたと思うが・・」
「分かってます。今の所、Fランクになっても採取系の依頼しか受けませんって。ただの好奇心で聞いただけですから安心して下さい」
師匠の教えてくれた低ランクは採取系をこなしていく。これは俺も賛成なのでしばらくは討伐系の依頼を受けるつもりはない。
「そうか、分かってんならいい。Fランクの討伐系はゴブリン、灰狼、大ミミズ、赤土竜、大嘴、角猪とかか。素材になる部位は依頼を受ける時に受付に聞けば教えて貰えるから忘れずに聞いとけ」
「大ミミズ、赤土竜はさっき言った洞窟に出るからな。やっぱりあそこがFランクの稼ぎ場だな。結構獲物の取り合いになるみたいだから気を付けろ」
「討伐系は受けないですけど、採取であの洞窟に入ると思うんですよ。もし、俺が他のパーティの戦闘中に遭遇したらどうすればいんですか?」
前に聞こうと思って忘れていた事を今のギースさんの話で思い出したので聞いてみる。
「そういう時は近づかねえのが一番だが、洞窟なら大回りして通るって訳にも行かねえからな。まあ魔物に狙われないような場所で戦闘が終わるまで待機しとけばいい。助けを呼ばれたら助けてやりゃあいいし。そん時は討伐した魔物は全部お前のモンだ。助けを呼ぶって事はそう言う事だからな、遠慮なく貰っとけ。そいつらだけで魔物を倒し終わった場合はわざとらしいぐらい音を立てて向こうに気付かせて声だけ掛けて脇を通って行けば大丈夫だ」
う~ん。色々ルールがあるけど、まあ戦いの邪魔しなけりゃ良くて、他のパーティーとすれ違う時は相手に気付かせればいいって事だな。よし、多分大丈夫だ。
「よし、そろそろ良い頃合いだろ。上に行くか。エレナ!来てくれ」
「何かあったの?」
エレナとワインを飲んでいると漠然とした質問をされる。今日は色々あったが、何でわかるんだろうか不思議だ。ちなみにもう二人とも服は着ている。
「ああ、色々あった。だから今日はエレナと話をしたくて初めて俺から師匠達を『猫宿』に誘ったんだけど、何で分かった?」
「今日はいつもより少し乱暴だったわよ」
「う・・・悪い。そんなつもりは無かったんだけど・・・」
「まあまだ全然だから良いんだけど。ホントに何があったの?」
エレナに俺の先輩冒険者パーティが今日どうなったのかを話す。全て話すとエレナは大きく息を吐く。
「ふ~。そういう事ね。で?ギンは首を落とした感触がまだ手に残ってるって所かしら?最初はみんなそうなるって聞くけど」
やっぱり、俺だけじゃなくて誰でも最初はあの感触が残るのか。でも俺はもう、その感触ほとんど上書きされたんだよな。
「いや、そっちは大丈夫だ、エレナの胸の感触で大分上書きされてほとんど残ってない」
「あら、そう。それなら完全に無くす為にもうちょっと触っとく?」
自分の腕に胸を乗せ大きさを強調するようにエレナは聞いてくる。さすがにその格好はいつも以上に胸の大きさが際立つな。
「いや、もう大丈夫だ」
「ふ~ん。そうじゃ無いなら何かしら?」
「クロの事はさ、どこかで他人事だと思ってたんだろうな。子供だから、戦えないからって。それが今日初めて魔物に殺された冒険者を見て、俺も他人事とは思えなくなった。あいつらは嫌いだったけど別に死んで欲しいとか思ってなかった。しかも昨日も嫌味だったけど話もしたんだ。そんな奴らが今日あっさりと死んだ、それを見たら俺もあんな風にあっさり死ぬのかと思うと怖くなってな。なんでか、すごいエレナと話をしたくなった」
俺が今日来た理由を正直に話すとエレナは飲んでいたワインを机に置き俺に両腕を回して抱き着いてくる。
「そうね、人はあっさり死ぬわ。昨日私を指名した人が今日魔物に殺されたって事は何度もあった。お店の常連だったパーティが全滅したって話もね。でも大丈夫よ、ギンは死なないわ」
俺の胸に顔を埋めて話しているのでエレナの表情は見えないが、励ましてくれている事は分かるので、少し元気が出てくる。やっぱりエレナと話すと安心する。
「ありがとうな、エレナ。嘘でもそう言ってくれると嬉しいよ。やっぱりエレナと話をすると、元気出るよ」
「・・・・噓じゃないんだけどな」
エレナがボソッと何か呟いた気がしたけどよく聞こえなかったが、すぐにエレナは俺に笑顔を向けてくれる。
「そう、それなら良かった。私も乱暴にされた理由が分かってホッとしたわ。もしかしてもうギンに飽きられちゃったかと思ったから」
「飽きる訳ないだろ。まだエレナとは3回だっけ?しかもこの間まで俺が童貞だったの知ってるだろ。ホントは毎日したい位なんだぞ。・・・・それはいいとして俺が今日乱暴だった理由って何だ?自分でも良く分かってないんだけど」
「多分『死』を身近に感じたからじゃない。そういう時は子孫を残したいって思いが強くなって激しく乱暴になるらしいわよ。お店の子達も「仲間が死んだ」、「今回運よく生き残った」って言う客は激しいって言ってるし」
ああ、そんな話日本でも聞いた事あるな。誰が教えてくれたんだっけ?ってノブしかいねえな。あいつ自衛隊希望だったから過酷な訓練から帰ってきた時に恋人も金も無かったら俺を襲うかもしれないとか気持ち悪い冗談言ってたな。蹴り飛ばしてやったけど。
「それよりも残った女の子達はこれから大変よね。ガフがお金出して都まで送ってくれるだけでもマシなんだけどね」
「うん?どういう事?何が大変なんだ?」
エレナが言っている意味が良く分からない。『水都』に送ってもらってミーサさんがしばらく面倒を見るんだと思ってたけど違うのかな?
「その子達新人だったんでしょ?新人なんてお金ほとんど持ってないじゃない。どこかの誰かは別だけど。都に行っても住む場所も働き口もお金もないから大抵は娼婦になるわ、それが一番手っ取り早いからね。ただ、慣れるまでが大変だなって。まあ都だとあの子達がどんな目に遭ったか知られてないから客はとれるだけまだマシなんだけどね」
「何でこの街だと客が取れないなんて言い方になるんだ?」
「魔物に犯されたって子は普通客がつかないわよ。知らないの?だからそういう子は誰も知り合いがいない街に行く方がいいんだけど、そういう子はお金も無いから大抵その街に留まるけど娼婦にもなれないからスラムで暮らしていく事になるわ。それか誰にも知られずに消えるわ」
「田舎に帰るって選択肢はないのか?」
「田舎にも当然話が広がるわよ。余計な事言う人はどこにでもいるからね。それを聞いた家族は田舎で肩身の狭い思いをしたくないから、あの子達は死んだって事にするわ」
はあ~。聞かなきゃ良かった。この世界はホントに優しくないな。まあでも関わっちゃったからな~。
「エレナ金貨4枚に両替ってしてもらえるか?」
俺はリュックから銀貨を40枚出しながらエレナに確認してみる。
「別に出来るけど・・・ギン、何考えてるの?」
エレナが俺を睨みながら聞いてくる。
「いや、銀貨が多いから重くて困ってんだよ」
噓です。『影収納』に重さは関係ない。
「ギンがそこまでしなくてもいいのよ」
俺の誤魔化しはエレナには通用しないみたいで、俺が何をしようとしているかバレてるみたいだ。でも正直に言うつもりはない。
「ほら、早く、もうすぐ時間だろ」
俺が催促すると、エレナは呆れて溜め息を吐くと鈴を鳴らす。
「はい」
すぐにサラが部屋に入ってくる。今は仕事モードみたいで無表情を貫いているがチラリと目線がワインに向けられて笑いそうになったのを俺は見た。
「両替、金貨4枚に替えてきて」
「畏まりました」
サラが部屋を出ていった後、俺はワインの瓶を横に倒しておく。瓶は色がついて見にくいが、先程俺とエレナで全て飲み干していたのだ。
バシン!
「もう、何でそういう意地悪するの」
エレナが俺の肩を叩き文句を言ってくるが物凄く笑っているので、説得力がない。
「お持ちしました。ご確認下さい。金貨4枚で・・・す」
しばらくして戻ってきたサラが俺にお金を渡すが、倒れた瓶が目に映ったのか最後言葉が詰まった。先程まで仕事モードで無表情だったその顔は今にも泣きだしそうに変わっている。
「ね、姐さん。も、もう少しで時間なので・・」
「分かったわ」
エレナは表情変える事無くサラに返事を返すが、サラが部屋から出ていった途端俺の胸に顔を埋めて笑い始めた。
「はあ~。ホントやめてよ。サラが可哀そうでしょ。それにまたあの子の顔見たら笑っちゃうじゃない。この前も笑うの我慢するの大変だったのよ」
エレナはひとしきり俺の胸で声を殺して笑った後、文句を言ってくる。
「アハハ。悪い悪い。今から俺がまた少し飲むからその残り持って帰っていいぞって言っといてくれ。さすがにあの顔は可哀そうだったな」




