33話 ゴブリンの巣
いつもの通り七の鐘少し前に広場に着くと当然のように師匠達はまだ来ていないが鐘が鳴りだすと二人の姿が見えてきた。おお、師匠もギースさんも今日は完全装備だ。ギースさんってハンマー使いだったのか、すげえ似合ってんな。
二人に挨拶をして東門に歩き始めると師匠が昨日のバーベキューについて聞いてきた。
「おい、ギン!昨日孤児院で何か楽しそうな事やってたみてえじゃねえか?」
「ああ、バーベキューの事ですか?師匠達にも声掛ければ良かったですね。すみません。今度孤児院でやる時はちゃんと声掛けますよ」
昨日の事なのにもう知ってるのに驚いたが、結構噂が広がるの早い街だからな。師匠ならもう知っててもおかしくないか。
「いや、孤児院は俺らがいくとガキが怖がるから呼ばなくていい。その代わり今度俺達の家でそのバーベキューってのやれ」
「師匠が孤児院に行かない理由ってそれなんですか?バーベキューぐらいやってもいいですけど、食材のお金は出してくださいね。それにしても昨日の事なのにもう噂になってるんですか、早いですね」
「い、いや、ギン、お前って結構この街の有名人だぞ。指導員制度『最長』で利用した事もだし、エレナが指名受けてる事、新人なのに灰狼3匹殺した事、新人依頼有り得ない速度でこなしてる事。孤児院の女の子を3人連れてデートしてた事。後エレナお付の子に手だしたって話も聞いたな」
そう言われてみれば、少し目立ちすぎか?ただ最後2つは違うといいたい。しかしヤバいな、あんまり目立つと火の国に生きてる事がバレるかもしれない。今後はもうちょっと目立たないように行動しよう
「有名人ってホントですか?だから『ドアールの羽』が絡んできたんですね。今度からはもう少し目立たず生きていきます」
「今は新人だから新人がライバル視してくるけど、ランクが上がると今度は同じランクの奴らがライバル視してくるからな。あんまり目立たない方がいいな」
そうかランク上がると今まで以上に絡まれて面倒くさそうだな。
どうすれば絡まれないで済むかを師匠とギースさんに聞きながら俺達は東へ進んでいった。
この時の俺は、昨日の事を今日の朝には師匠が知っていた事について何も不思議に思わなかった。・・・・この時点で師匠が既に俺を調べ始めていた事を知ったのは、もっと後になってからだった。
◇◇◇
(どうだ、ギン、何かあるか?)
(どっちも反応ないですねえ)
湧水への分岐を通り過ぎて歩いているがいまだに『探索』に反応は無い。
「ギースさん、群れがいるかもって場所はどの辺りですか?」
「あと鐘1つぐらい先だぞ」
そうするとゴブリンはそこに行くまでは見つからないかもしれない。もしかしたらこの辺のラチナの実も俺以外の新人が拾い集めたのかもしれないな。
そんな事を考えながら1時間程歩くと『探索』に反応があった。
崖の方に巣があるのか、結構ゴブリンがいるな。巣の手前には何かの死骸があるのが分かる。巣の中にも白丸が2つあるから生きた獲物でも捕まえたのか?
師匠に『念話』で場所を案内していくと、崖にぽっかりと洞窟が空いていた。その入り口にはゴブリンが3匹見張りをしているが、その入り口の手前何かの死骸だと思ったがそれはどう見ても人だった。恐らく装備から冒険者だと思う。
「チッ。やられてやがる。どうする?やるか?」
「ガフ、何匹いる?」
ギースさんが師匠に数を聞くと
「反応は入り口3、途中に5、奥に17だ」
多分師匠が自分のスキル『探査』を使ったのか敵の数を答えるが、俺と2つ合わない。
「結構いるな。まとめてきたら逃げるか」
「だな、途中の5の所まではやれるだろ、そいつらと闘ってる時に奥の奴が来たら万が一があるかもしれないから撤退だ。いいな!」
作戦は師匠の指示に従い配置につく。全員配置についたら師匠とギースさんが入り口にいる2匹のゴブリンに投げナイフを投げて命中させるとそいつらは予想通り大声で叫び出す。その声に注意を向けた残りの1匹のゴブリンを俺が背後から首を斬り仕留める。今度は投げナイフが刺さった2匹が俺に注意を向けるので師匠達が死角から一撃で殺していく。
「よし、奥から5匹出てくるぞ崖に張り付いて待て」
また師匠が『探査』で様子を探ったようだ。さっきから師匠の作戦通りに事が進んでいるこの辺りは流石ベテラン冒険者って感じですごく参考になる。
そうしてしばらく待つとゴブリンが洞窟から姿を出した瞬間、入り口脇で張り付いていたギースさんがハンマーを振ってまとめて洞窟の中にぶっ飛ばす。すぐに師匠が洞窟に飛び込み吹っ飛んだゴブリンの首を掻っ切っていく。前にいた2匹はギースさんのハンマーで既に死んでいたが念の為俺がもう一度首を刺していく。
「ふう、ここまでは順調だ。あとは奥の奴等だが・・・こいつら見た事あるな」
師匠が言う通り既に事切れている二つの死体は俺も知っていた。俺に鬱陶しいぐらい絡んできた『ドアールの羽』のリーダーとその仲間の男だった。
「ギン、よく見とけ。自分の力量を把握できなかった奴等の結果だ。ゴブリンって言っても新人が群れを相手に出来る訳ねえだろ。何で誰も注意しねえんだよ」
師匠がイラつきながら文句を言って、ギースさんは何を考えているか分からないが無言で立ち尽くしている中、俺は更に最悪な状況を思いついてしまった。
「師匠、こいつらって4人パーティだったんですよ。で女二人が見当たらないんですけど」
「チッ!って事はギース!奥の17匹のうち2人は女かもしれねえ。面倒くせえ事になった。」
(師匠、俺の『探索』でも反応は17で2つは魔物じゃないです)
「ふう、落ち着け。少し考えさせろ」
師匠が焦ってる姿を初めて見た。
「よし、作戦を言うぞ。まずギン、今回は『潜伏』持ちのお前が一番大事な役目だ。絶対に我を忘れるな。冷静に行動しろ!お前の動きで二人とも死ぬかもしれないからな!」
師匠に念を押されるので、しっかりと頷く。
師匠から作戦を聞かされた後、3人で洞窟に足を踏み入れる。奥まで来ると、ゴブリンの喜んでいる声と女の泣いている声が聞こえる。師匠から事前にこういう光景になっていると言われてなければすぐに飛び込んでいっただろう。だが今回俺が冷静にならないと二人とも助けられないと言われたので、何とか怒りを抑えて留まる。
そうして師匠の作戦通り俺は岩陰に隠れておく。次に二人がゴブリン共に向かってナイフを投げまくる。二人は『投擲』スキル持ちなので、女に当たる心配はしなくていい。この時点で3匹は殺しておきたいと言っていた師匠だが結果はどうだろうか。岩陰に隠れている俺からではよく見えない。
「よし、5匹殺ったぞ。盾は一人か。下がるぞギース!」
師匠は状況の説明をしてからギースさんと撤退を始めるとすぐに全裸の女を盾にしたゴブリン達が俺の近くを通り過ぎていった。『探索』では師匠達に7匹ついていき、広場には3匹残っている。少ししてから岩陰から奥を覗くと腰を振っているゴブリンの横で気色悪く笑う2匹のゴブリンが恐らく女の腕を押さえつけている。
その光景をみた瞬間、頭に血が昇ったが、怒りすぎて逆に自分を客観的に見ているようで冷静だった。この感じはスク水窃盗犯に仕立て上げられて、金子から顔に水着を投げつけられた時と同じ感じだ。めちゃくちゃ怒っているはずなのにものすごく冷静な感じで不思議な気分だ。
まずは腕を抑えていた1匹に走って近づき首を掻き切る。残りの二匹はすぐに戦闘態勢に入ろうとしたが腰を振っていたゴブリンをもう1匹に蹴り飛ばし態勢を崩させてから手を押さえていたゴブリンの首を刺す。最後に残った腰を振っていたゴブリンは武器も何も持っていない全裸だったので苦戦する事なく殺る事ができた。全て師匠の指示通りで上手くいった。二人とも盾にされた場合は俺が後ろから襲い掛かり注意を引いたうちに師匠達が女を助けるって作戦だったけどこれは俺のリスクが高いと言われたのでそうならなくてよかった。
取り合えず倒れているゴブリン共にもう一度トドメを刺して安全を確認してから女に中級ポーションを振りかけて『洗浄』の魔法をかける。女の服はビリビリに引き裂かれて役に立たないので俺の服を影魔法で着せる。まだ泣きじゃくっているので影魔法はバレてはいないだろう。
「おい、大丈夫か?」
声を掛けると泣いている女が顔を上げて俺を見ると、再び涙を流しながら俺に抱き着いて泣き出すので、泣き止むまで抱きしめて慰める。途中師匠から『念話』が入り状況の報告をした。師匠達も盾にされた女を無事助けたみたいだ。
「大丈夫か?もう一人の女も師匠達が助けて無事だから取り合えず合流するぞ」
少し落ち着いた女に声を掛けるとコクリと頷いてくれたので、外まで抱きかかえて運んでやる。どうも恐怖で腰が抜けて立てないらしい。
「ようご苦労さん!よくやったな」
外に出ると師匠が労ってくれた。ギースさんは助けた女がまだ泣いているので慰めている所だ。
「師匠の作戦通りでしたよ。すごいですね。言われた通りでしたんで危ない所は無かったですよ。師匠達も7匹どうやって倒したんですか?」
「俺が入り口の壁に張り付いてギースが反対に逃げるように見せる。ギースの方に注意がいってる先頭のゴブリンを出てきた瞬間俺が殺してから女を救出。あとはギースと俺ならゴブリン6匹ぐらいなら楽勝だな」
簡単そうに言ってるけど、師匠達ベテランだから出来たんだと思う。俺の実力だと影使わないと絶対助けられない。そう考えると奥に俺を残して二人とも助けられた師匠の作戦はすごいな。やっぱり経験とか判断力がすげえ。
「よし、ギン。俺とギースは今から先輩としてこいつらに言わなきゃならねえ事があるから、お前は魔石と耳の回収してこい。あとゴブリンが持ってた装備、それも回収してこい」
先輩として言わなきゃいけない事って何だろ?不思議に思いつつ色々回収してから戻る。今回だけでゴブリン23匹討伐なので目標は達成だ。残りはラチナの実だけだ。
色々回収して戻ると女たちが項垂れてさっきより泣いているのを師匠とギースさんが厳しい表情で見ている。
「ちょっと、師匠達何したんですか?まだ泣いてるじゃないですか。慰めてあげないんですか?」
二人に文句を言うと、あまり見せた事が無いような真剣な顔で俺を見てくる。
「ギン、こいつらはもう駄目だ。仕方がないけど、いい機会だ!お前にやらせるから話を聞け」
「ギースの言う通りか。ギン、こいつらにはパーティメンバーがどうなったか伝えた。そんで今からこいつらが何をしないといけないかについてもだ。それでこの調子だから、もうこいつらは冒険者は無理だ」
ええ?師匠何言ってんの?っていうか今から何するの?
「今から死んだ奴等の首を落として身ぐるみ剝いで行く。一人はギン、お前がやれ。回収した装備の中に片手剣があるだろ、それ使え」
「え?・・・は?師匠!何言ってんですか!何でそんな追剥みたいな事しなくちゃいけないんですか!」
師匠の言っている事がすぐに理解出来なかったが、理解した瞬間師匠に向かって叫んでいた。
「勘違いすんな、別に追剥じゃねえよ。首を落とすのはアンデット化を防ぐためだ、身ぐるみ剥ぐのは魔物や盗賊に取られないようにってのと、今回はパーティメンバーが生き残ってるから装備売ってこいつらの生活の足しにすんだよ。メンバーが全滅してたら、見つけた奴の財産だけどな」
・・・・マジかよ!でも確かに師匠の言っている、身ぐるみ剥ぐ事は二次被害を防ぐって意味では正しい。正しいけど何で俺が首を落とさないといけないのか。あっ!死んでるなら俺の影収納に入れて街の教会に持って行けばいいじゃん
「師匠、街まで連れて帰って教会で埋葬して貰えばいいんじゃないですか?」
「パーティメンバーでもないのにそこまでする必要はねえ。そんな事していると際限なくなるぞ。首を落としてやるだけで十分なんだよ、ホントはこいつらの仕事だけどな、話をしたらこんな状態になっちまった」
「ほらさっさとやれ。これが出来ねえとお前も冒険者は引退だ」
師匠は一人の首を迷う事なく切り落とした後、いまだに躊躇している俺を催促する。足元には俺に絡んできた『ドアールの羽』のリーダーがいる。ムカつく奴だったけど首を落とす事に何も感じない訳ない。手足が震えて、胃から何かが逆流してきそうだ。
「うええええええ。げほ、げほ。おえええええええ。はあ、はあ」
あの後しばらく時間はかかったがどうにか首を落とした結果、俺は胃の中の物をぶちまけた。ゴブリンの首を切った時には何も感じなかったが、今は手に首を切った時の感触が残って気持ち悪い。
「大丈夫か?まあ、最初は誰でもこうなる。慣れていくしかない」
ギースさんが慰めてくれるが、こんな事慣れたくない。気持ち悪い、気分が悪い。だけど耐えないと、冒険者として生きていくなら慣れないといけないのだろう。
俺が落ち着くまでしばらく待って貰ってから5人で街に戻った。女二人は師匠とギースさんに背負われている。俺たちの様子を見るだけで何があったか分かる人にはわかるらしく、女二人は頭から布を被って顔を隠してギルドまで戻った。
ギルドに戻ると俺達の様子を察しただろう騒いでいた冒険者がどんどん静かになり、いつも騒がしいギルド内が静かになる。その様子にギルド職員も異常を感じて動きが止まる。
「ガフさん!ギースさん!」
静かなギルド内に俺達の様子に気付いたミーサさんの声が響く。
「ミーサちゃん。悪いな。ここからはミーサちゃんの仕事だ。個室でいいか?」
師匠が暗い雰囲気を取り払うかのように軽い感じでミーサさんに聞き、促されるまま個室に入っていきミーサさんに状況の説明をする。多分俺が吐いている時に師匠が回収してきたギルドカードをミーサさんに渡す。
「そうですか。『ドアールの羽』が・・・チックさんとテトさんが・・・」
あいつらチックとテトって名前だったのか。そう言えば名前聞かなかったな。
「でも何でゴブリンの巣に挑んだんですか?4人とも自分の実力はよく理解していたはずなので、こんな無謀な事をするとは思えないんですけど」
俺の中ではムカつく奴らだったが、ミーサさんから見れば身の丈を分かってる前途有望な奴等だったみたいだ
「そりゃあ、多分ギンがあと二つって聞いて焦ったんだろ、昨日もそれでギンに絡んできたみたいだし」
師匠の言った言葉を聞くなりミーサさんは女二人に怒り出した。
「だから!競争じゃないって何度も注意しましたよね!焦っちゃ駄目!慎重に行く事!何度も言ったじゃないですか!もう・・・それでこんな事になるなんて・・・」
「すみません」
「ごめんなさい」
怒られた2人は謝りながらもまた目から涙をこぼす。
「それで二人はまだ冒険者続けられそうですか?」
「すみません、もう・・・」
「私も・・・・続けられません」
2人は同じ考えのようだ。確かに仲間があんな事になれば仕方がないとは思う。そうして師匠の言う通り二人は引退する事になった。
「それでこれからどうします。あなた達に何があったかこの街では知られますから生活しづらいですよ。かといって田舎に帰っても同じ事でしょうけど」
「まあこういう時は都に行かせるのが常識だよな。って事でミーサちゃんこれ、依頼料な。仕方ねえから面倒みてやるさ」
そう言いながら師匠は金貨1枚をミーサさんに差し出すとミーサさんは呆れた顔になりながらも金貨を受け取る。
「はあ~。またですか?ホントにいいんですか?」
「ああ、構わねえよ。ここで依頼しなかったってケインにバレたらうるせえからな。しかもあいつらもうすぐ帰ってくると思うからよ」
「分かりました。ガフさんからの依頼受け付けます。リマさん、クオンさん明日には出ますので荷物をまとめておいて下さい」
師匠とミーサさんのやり取りから、師匠がミーサさんにこの二人を『水都』まで運ぶように依頼したんだろうって事は分かった。ただミーサさんの態度から助けたと言っても普通はそこまでしないみたいだ。
「それからこれが死んだ奴等の装備だ。全部売り払うから金はこいつらにやってくれ。じゃあ、俺らはもう行くからな。何か聞きたい事あったら明日にでも声掛けてくれ」
師匠が死んだ奴等の装備を机に置くと俺達3人は個室を後にした。個室から出ると騒ぎ出していた連中が俺達に気付き、再び静かになる。
「『ドアールの羽』の野郎二人が死んだ、残り二人は引退だ」
師匠がギルド内に大声で簡単に結果だけを伝える。それで十分だったみたいで、ギルド内は再び騒がしくなる。
「また新人か」
「あいつら結構イケると思ったんだけどな」
「やっぱり新人が先に逝くのはきついな」
色んな場所から『ドアールの羽』を惜しむ声がする。この声がいつか俺にかけられるかもしれないと思うとゾッとする。今回の件は他人事ではない、いつか自分も同じ目に遭う・・・そう考えると怖くなってくる。
「はあ。なんか疲れたな。でもギン、今日でゴブリンは終わりだろ。まだ昼だし飯食ったらラチナの実でも探しに行くか?」
「今日は飯食ったら訓練をお願いしたいです。その後は『猫宿』に行きたいです」
師匠の提案を断ってでも今日は訓練がしたい。たった1日でどうなるとも思わないが、今日の事を考えると少しでも強くなりたい。そして今日は無性にエレナに会いたい、会って話がしたい。
「・・・・ブハハハ、ギン、お前も段々分かってきたな。こんな事があった時は女を抱いて気分を変えるんだよ。お前から言わなくても今日は行くつもりだったけどな」
俺の言葉に一瞬戸惑った師匠だがすぐに理解すると俺の肩を叩きながら明るく答えてくる。少しわざとらしいが、多分師匠も無理やりテンションあげてるんだろう。俺も気持ちを切り替えないといけない。




