3話 ハンターと罠回収
ヒュン。バシッ。ヒュン。バシッ。
検証もある程度終わり俺は部屋の中でキャッチボールをしている。相手は俺だ。
・・・・これは一人キャッチボールとは言わないよなあ。
なんて思いながら俺は壁に伸ばした影に向かってボールを投げる。バシッ。壁から生えている黒い手がボールをキャッチして、俺に投げ返してくる。それを受けてまた黒い手に投げ返す。部屋の床からは別の黒い手が二つ生えていて、今、林檎を剥いている。俺は林檎の皮なんて剥けないのに何故か影の手は出来るんだよ。有能すぎないこれ?しかも片方の手は刃物じゃなくて指の辺りを黒い刃物に変えて林檎を剝いてる・・・普通に包丁を持たせても問題なく林檎が剥ける事は確認している。取り合えず分かった事は影魔法ってヤバいくらい自由度が高い。
次に壁に伸びた影に向かってボールを投げるとボールが影に飲み込まれていく。で、頭で『ボール』って思い浮かべると壁の影からボールが飛び出してくる。・・・飛び出してくるのである。ためしに床に置いたボールをそのまま影に入れて壁から出しても勢いはなく真下に落ちるのである。・・・つまり、影に入れた時の勢いは変わらずそのまま出てくるのだ。但し思いっきし投げ込んだボールでも俺が影の中に手を突っ込んで取り出せば、勢いは失った状態で出てくる。あとこの『影収納』(そう名付けた)容量どのくらいかはわかんねえ。試しに部屋の物全部影に入るか試したら入ったし。ちなみに俺は収納できなかった。足首まで入った所で押し戻されたので、俺だから駄目なのか、それとも他の要因があるのか、これもまた要検証が必要だ。更にこの『影収納』入れると入っているもの一覧みたいなのが出てくるんだよ。しかもそれが何か簡単な説明がつくという優れもの。
あと、虎のマスクを『影収納』に入れてから俺に影を纏わせて虎のマスクを被るイメージすると虎のマスクを被れる事も分かった。逆に影を纏わせてから着ている服を全て収納して早脱ぎも出来るし、選んだ服だけ『影収納』に入れる事もできる。マジで有能すぎるぞ『影魔法』これチートだろ。美人なお姉さんいたら影使って瞬く間に全裸にできるんだぜ、そりゃあ悪い事もしたくなるわ・・・・俺はしないけど。
検証している間に時間も経過し、流石に眠くなったので、寝る事にする。明日はマップの外の茶色い点を調べないと、後は今日できなかった『影魔法』の検証できたらいいなあ・・・なんて考えながら俺は眠りに落ちた。
◇◇◇
翌朝、冷凍してあるご飯をチンしてインスタントの味噌汁、目玉焼きにベーコンの朝飯を食べ終えると今日やる事を考える。
まずはマップの確認・・・『探索』・・・相変わらずたくさん敵がいるな。しかし捜索範囲が昨日より広がっている・・・もしかして俺が寝てる間も探してたのか?ご苦労様です。
よし周りに敵もいなさそうだし、近くの茶色い点を確認しにいくか。念の為100均で買った丸眼鏡に付け鼻髭がセットになった変装セットを装着して『自室』からゆっくり外に出る。周囲に敵はいないが音を立てないようにマップを確認しながら茶色の点まで移動する。移動するとすぐにそれが何か分かった。
・・・罠だ。草と草を結んで足を引っかけさせて転ばせる単純な奴だ。逃げてる時とか地味に嫌な奴じゃ・・・ん?なんか前の土に違和感あるな?
気付いた俺はその辺の木の棒で地面をつつくと地面が落ちて、足首が落ちる程の落とし穴が現れた。
うわ~。更に地味に嫌な奴、これに落ちて足首捻って捻挫とかに・・・・え?これ剣山?
色々考えながら穴の中を枝で弄っていると中からスカスカの剣山みたいな奴が出てきた。しかも針の部分に何かしらの液体が塗られているのを見てゾッとした。
この液体って多分毒とかだよな?地味に嫌な罠とかじゃねえ、殺意マシマシじゃねえか!草結んだ罠に注意引かせて本命はこっちの落とし穴か。くそ!マジで殺る気だ。追っかけられた時にマップなんて見てる余裕もあんまりないから気付かずに罠に引っかかる危険があるな。こうなったら、手当たり次第罠解除してやる。そんでこっちも罠を逆に仕掛けてやる。
そう考えて、簡単な草を結ぶ罠をいくつか設置する。剣山罠は使う気はない。これで本当に人が死んだら俺人殺しになるからな。殺されそうな状況だけどさすがにその覚悟は俺にはまだない。まあ、いずれ覚悟しないといけない場面が出てくるまでは極力人は殺さない方針でいく。甘いと言われようが平和ボケした日本人だから仕方ない。
そんな感じで敵が近くにいない罠をマップで確認しながらどんどん解除して行く。何で解除できるかって?罠見つけたら『影収納』であら不思議、簡単に罠だけが収納されるので解除は簡単。この時、生えてる草や木は収納できなかったので結ばれた罠とかは放置だ。生きてると収納できないのか?とか思ったが検証はまた今度。罠を解除して行くついでに草を結んだ簡単な罠を設置していく。他の罠は色々道具が必要なので、元々設置してあった罠を使えばいいが、俺が解除した罠は基本針や刃物に毒を塗ってそれで傷をつける確実に殺しに来てるタイプの罠なので、不殺の俺には設置できない。後、音が出るタイプの罠も多かったが、この罠に嵌ると敵が集まってくるので陽動で使えない事もないが、確実に罠にかかる保証もないし、俺が近くにいる時に敵が罠にかかっても困るので、保留だ。
そんな感じでマップを見ながら罠を解除していくと粗方解除できた。今度は俺が設置した罠がマップに残っているが、これは黒い点で表示されているので、敵の罠と区別できている。今日は朝から周りを警戒しながら移動して罠解除を繰り返したのでかなり精神的に疲れた。という事で、『自室』に戻る。時間は15時ごろだったが、昼飯を食べていなかった事を思い出して、昼夜兼用でラーメンを2食分食べてからシャワーを浴びて、夕方には眠ってしまった。
◇◇◇
変な時間に寝たからか、夜中に目が覚めてしまった。『探索』でマップを見ると、
・・・え?何これ?罠めっちゃ増えてる
俺が昼間に罠解除したのが気に入らなかったのか、罠を設置している人が3人に増えて現在進行形でどんどん罠を設置している。罠は増えているが赤丸は減ってる。いやマップを縮小すると離れた所で固まっている。これは野営でもしてるのかな?
それならこれはチャンスか、俺に罠は効かないから、実質俺の敵はこの3人だけだ。それならまだ逃げられそうだ。そうと決まれば。
俺は昼にも付けていた丸眼鏡付け鼻髭セットを付ける、虎のマスクは視界が遮られるからもうしない。それでまたまたゆっくり外に出ると時間通り夜中で真っ暗だった。しばらくその場で留まり目が慣れるのを待ちながら影を広げて近くの罠を回収していく。ついでにどこまで影が伸びるか試してみたが、マップのデフォルトサイズの100m以上は軽く広がる。これ以上は一番近くの敵まで影が伸びて何か感づかれるかもしれないので、広げるのはここまでにしておいて、範囲内の罠を全て収納する。収納したら、目も暗闇に慣れてきたので、慎重に歩き出し、影を20~30m程広げて、範囲内に入った罠はどんどん回収していく。しばらくそうやって歩いていると、
ピュイ。
森の中に笛の音が響き渡った。ヤバ!見つかったか!と思い慌てて近くの茂みに身を隠してマップを確認すると一人の敵の方に残り二人が走って向かっていく。一人は俺のすぐ近くを通りそうなので、茂みに隠れて息を殺してやり過ごす。その際、チラリとそいつの姿が見えたが鎧は着てなくて、どちらかというと動きやすい服装だった。
・・・・うん?見つかった訳じゃなさそうだ。何かあったのか・・・あっ!
マップを見ていたら多分二人を呼んだ奴に俺が罠を解除して移動している事がバレたと分かった。だってそいつの周りは俺がさっき罠を解除した辺りでその辺りをさっきからウロウロしてんだもん。
その事に気付いた俺は少しペースを上げて移動するが、3人集まってしばらく止まっていたと思ったら急に俺の方に向かって動き出した。森の中だって言うのにすごい速さだ。このままじゃヤバいと思った時に『自室』に逃げれば良かったのだが、テンパっていた俺はそんな事思いつく訳もなく全力で走り出した。だけど有り得ないぐらい向こうが速い、どんどん距離が縮まる。
「見えた!」
「いたぞ!」
ピーーーーーーーーーーーーー
見つかったと思ったら森の中に大きな笛の音が響く。野営していたと思わしき奴らも動き出した。
ヤバいヤバい!クソ!影よ広がれ。そんでマキビシ!
そうイメージすると影が広がる。その直後、
「ぐあっ!」
「いてええええええ!罠だ!気を付けろ!」
俺の影魔法が上手くいったのか、マップでは二人の足が止まった。
よし、足止め成功!あと一人は?・・・横!・・・クソ!影よ足を引っかけて転ばせろ!
ドダァ。
すぐ近くで誰かが転ぶ音が聞こえる。チラリとそちらを見ると如何にも盗賊っぽい格好した人相の悪いオッサンと目が合った。
「オッサン?」
オッサンに不思議な感じでオッサン言われた。誰がオッサンだ!まだ17のピチピチ童貞だ。どんだけ目が悪いんだよ!・・・あっそうか俺、今眼鏡付け鼻髭セット付けてるから勘違いされたか。
どうでもいい事を思いながらもダッシュでその場から離れる俺の背後から、
「何であいつ罠に引っかからないんだよ!しかもいつ罠を仕掛けたんだ!ただの素人って話だったぞ!」
「若い男って話だったのにオッサンに見えたぞ!色々話が違う!お前ら、一度戻って騎士たちに話を聞くぞ!」
そう怒鳴り合っている声が聞こえてきた。罠は俺の影に入ると速攻で『収納』してるだけだし、罠仕掛けたんじゃなくて影魔法だし、俺がオッサンに見えたのは変装?仮装?してただけだからだが、いい感じに誤解してくれている。心の中でほくそ笑みながら俺は更に移動を続け、結局明け方近くまで移動した所でマップを最大まで縮小した所に街と思わしき壁が映り込んでいるのを確認してから『自室』に戻って飯食って寝た。
◇◇◇
目が覚めると当たり前のように『探索』を使って状況確認する。
これ常時発動できるかな?で敵が100mまで迫れば警報鳴って起こしてくれる機能とか・・・何となくできそうだ。
良く分からないが、何となく出来そうな気がしたので、今夜にでも試してみよう。それよりもだ、
・・・・何でこうなってる?
そう。今日にでも潜り込もうとしていた街の周りが赤で塗り固められていて、しかもまた俺のいる場所の近くに敵が複数いる、罠の設置はない。
何で?・・・昨日・・・まだ今日か?かなり移動したよな?何でいる場所がバレてんだ・・・まさか探知機?・・・魔法か?良く分からない。くそ!このままじゃあ街に行けない。どうする?しばらく様子見か?いや、このままだとジリ貧になるな、何で俺の場所がバレるのか少しでも情報が欲しい・・・危険だけど少し賭けてみるか。
そう考えてまた変装してゆっくり外に出ると時計通り夕方で森の中は暗かった。今日は朝から夕方まで結構長い事寝ていたみたいだ。まあ命を賭けた鬼ごっこなら肉体的にも精神的にも疲れるから仕方ない。
長い事寝ていた言い訳を頭の中で考えながらゆっくり敵に近づいていく。幸いマップを見なくても向こうは松明を持っているのでいる場所は丸わかりだ。敵に近づくのは危険だけど、また影魔法使って逃げればいいかとか昨日の経験から少し緊張感の欠けた考えになっている。
近くの敵まで近づくと二人で何かぼやきながら話をしていたので好都合、隠れて話の内容を聞く。
「はあ~。見つかんねえな。本当にこの辺いるのか?朝からずっと探しているんだぞ?」
「文句言うな。副団長に聞かれたら大目玉食らうぞ、タダでさえ子供一人殺せなくて気が立ってるのに、中隊まで使ってまだ見つかってないんだからな」
くくく。オッサン苛ついてるらしいな。ざまあ。このまま逃げ続けたら降格されるかな?それはそれで飯が美味くなりそうだ。
「それよ!それ!中隊使ってずっと探してるのに見つかってないんだぞ?この辺にはもういないんじゃないか?ここよりも国境周辺を固めた方が良くないか?」
「俺も少し聞いただけだが、雇ったハンター連中が言うには奴の痕跡はこの辺りまで続いていて、忽然と無くなっていたそうだ。昨日も同じ感じで、そうしたらどこかに潜んでいた奴を見つけたらしい。影魔法で隠れていたって話だったが。」
「でもよお、朝から交代でずっと探してんだぜ。やっぱりこの辺にはいねえって。」
「だったらお前が副団長にそう言って来い。俺はどやされるのは御免だ。」
「・・・・・」
俺はその会話を隠れて聞いていた。
そうか。ハンターの奴等がいるから俺を追跡できるんだな。このまま逃げてもどこまでも追われるな。何とかしないと・・・・今考えても何も思い浮かばねえ『自室』に戻ってから考えよう。・・・・その前に検証検証と。
俺はぼやいていた兵士に影を伸ばす。俺の影がそいつの影にくっ付いたのを確認してから動きを止めるようにイメージする。そうするとその兵士は足が地面から離れなくなり移動する事ができなくなった
「?あれ?ふん!むん!は?何でだ?ぐおおおおお。」
「おい、何遊んでる。真面目に探せ。」
動けない兵士は隣にいる兵士から注意される。その様子を見てる限りだと、大人1人の力では俺の影から逃げられないみたいだ。
「いや、ちょっと引っ張ってくれ。何故か足が動かんのだ。泥濘にはまった・・・のか?」
「何で疑問形なんだよ!ほら引っ張るぞ!ふん!むおおおおおおおお。はぁはぁ。駄目だどうなってる。おーい!何人かこっち来てくれ」
引っ張っていた兵士が声を上げると向こうから2人兵士がやってきた。
「どうした?見つかったのか?」
「いや、こいつが泥濘に足を取られてな。ちょっと手伝ってくれ。」
「何やってんだよ。また副団長に怒られるぞ。」
「ほら引くぞ。せーの!ふん!はあ!よいしょおおおおおお!」
それでも兵士は動けません。国語で習ったカブ引っ張る話みたいになってる。そんなアホな事が頭に思い浮かんだがそれよりも、
俺の影魔法強ええええ。兵士3人でも動かせないってヤバくない?俺別に力込めてないんだけど、デフォでこの強さとかヤバい。俺最強。勝ったな!ワハハハハ!
とか思っていると、腕を組んで考えていた一人の兵士が他の兵士に注意をした。
「お前ら、ちょっと目を閉じてろ、・・・我に輝きを『光』」
そう言った兵士の手から明かりが生まれた、と同時に俺は何かに押されたような衝撃が加わったのでビックリして思わず声が出てしまった。
「うわ。・・・何?なんだ?今の?」
尻もちをついた状態で辺りを見渡すと、離れた所からこっちを見ている4人の兵士。これはヤバい。慌てて立ち上がり兵士達とは逆方向に逃げ出す。
「いたぞ!こっちだ!」
ピーーーーーーーーーーーーー
背後から兵士の大声と笛の音が響き渡る。更に背後から色々な声が聞こえる。
「おお!動けた!影魔法って奴か、伝承の通り強力だぞ!」
「いくら強くても伝承通り『光』でさっきみたいに対処可能だ!全員いつでも『光』を使えるようにしておけ!」
「「「了解!」」」
そう言って俺を追いかけ始める兵士4人をマップで確認しながら逃げている俺は思っていた。
弱ええええ。俺の影魔法弱ええええ。何だよ!弱点あるんじゃねえか!しかも知れ渡ってるぞ!おい!歴代の影魔法使い出てこい!弱点バラしてんじゃねえよ!
過去の人に頭の中で文句を言いながら森を駆ける。先頭を走って追ってきてる4人はそこまで足が速くないのか8割程の力でも余裕で距離が開いていくので、安心していると、マップにすごいスピードで俺を追ってくる敵が見える。
こいつ速い!絶対昨日の奴等の誰かだ!・・・『自室』
昨日の失敗を繰り返さずにすぐに『自室』に逃げ込む。逃げ込んだ後もマップを確認していると、すぐに足の速い敵が俺を通り過ぎていく・・・と思ったらすぐに戻ってきた。そうしてマップ上で俺の近くをウロウロしている。
こいつ・・ハンターか?雇ったって言ってたハンターだな絶対、俺の痕跡探してるっぽいし、かなり優秀そうだ。って事は少なくとも3人はいるのか?
昨日罠を仕掛けていた奴等を思い浮かべてハンターの人数を再確認する。と同時にこのまま逃げ続けてもどこまでも追いかけられるだろうと考える。
・・・どうする・・・そうだ!兵士から鎧奪って他の兵士に紛れれば逃げれるんじゃ・・・影魔法の早脱ぎが効くかだな、あとまたあの明るくなる魔法・・・『光』って言ったか・・・あれ使われたら駄目だな。はあああああ。マジのチート能力かと思ったけど弱点が知れ渡ってるならあんまり使えねえな。どんどん敵が集まってきてるから今日はもう動けねえし。何するか・・・そうだ!昨日回収した罠でも確認しとくか。
そう思って昨日回収した罠を一覧で確認すると、大抵の罠に(毒付き)って書いてある。マジでどんだけ俺を殺しにきてんだよ。とか思ったが、『影収納』の中で毒と罠が分離できる事が分かったので、取り合えず毒付きの罠から毒だけを分離していく。幸い毒なしでは人が死ぬほどの罠はなかったのでこれで心おきなく罠が設置できる。毒の分離も終わったがマップを確認した所、今日はこれ以上の移動は無理そうだと判断して、部屋でのんびり明け方まで過ごした後、寝た。