27話 角兎狩り
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今日はようやく角兎狩りをするとの事で北門に7の鐘集合と言われていた。時間通りに到着してしばらくすると、師匠達がやってきた。また師匠二日酔いだよ。最初の頃は大丈夫かな?とか思ってたけど、今は頭を抑えて辛そうに歩く師匠を見ても何も思わなくなっちゃたな。
二人に挨拶を済ますとギースさんから大鼠のトラウマセットを手渡される。更に木の盾を2枚渡されて頭に?マークが浮かぶ。
「角兎はすぐに盾が駄目になるからな。1枚の盾で10匹仕留められたら良い方だ」
うん、説明聞いたけどさっぱり分かんねえ。しかも盾とこん棒代金として銅貨2枚払わされた。これ師匠達が使ってた中古品じゃん。とか思ったけど何か理由があるだろうと思い何も言わなかった。そうして北門を出てミーサさんの情報通り外壁沿いに南に歩いて行くと目の前に草原が広がっていた。マップには反応がたくさんあるので多分それが角兎だろう。
「じゃあ、手本見せるから見ておけ。基本大鼠と同じだ、攻撃を受けて盾に突き刺さった所を殴る。死んだら首を裂いて血抜きだ。」
実践しながらギースさんは説明してくれるが、2mぐらいのスキンヘッド悪人顔の人が角が生えた可愛い兎を殴ってるのは異様な光景だ。師匠はぐったりして地面にへたり込んでいる。いつもの光景だ。
「盾で受ける時は同じ場所で受けると盾が割れるか突き破られてケガするからな別の場所で受ける事を意識しろ。10匹を1枚の盾で倒していかないとマイナスになるから気をつけろ」
そう言ってギースさんはさっさと草原の奥に走っていく。俺も盾を構えてマップの白丸近くに行くとそれがすぐに赤に変わる。
・・・・来る!
身構えていると盾に衝撃が走る。大鼠より衝撃はないが、草むらから飛び出してくるのでタイミングが読みづらい。見ると盾に角を突き刺してジタバタしている兎がくっついている。その兎の頭をこん棒で殴るとすぐに動かなくなったので、短剣で首を切って血抜きをする。そうして同じ事を繰り返していると、
バキン!
七匹目が盾にぶつかった所で盾が割れた。
「だから気を付けろって言っただろ!赤字だぞ!次の盾は13匹以上狩れ。動きをよく見ろ」
ギースさんから叱責が飛んでくる。すごいな、俺の倒した数も頭に入ってる。俺を怒りながらも作業のように角兎を処理しているギースさんの盾に空いた穴はパッと見えるだけで10以上はある。
「くそっ」
今度は11匹目の突撃を盾で受けた所で盾が割れた。慣れてくると動きはそんなに早くないので、盾で受けるのは簡単だが、数をこなしていると穴が開いていない場所で受けるのが難しい。3枚目の盾を取り出しながらチラリとギースさんを見ると、盾が壊れたので狩りはやめたようで、血抜きしている兎を集めている。その数20匹以上!すげえ一枚の盾であんなに狩れるのか
「ほら、ギン!ラスト1枚だぞ!気抜いたら目標達成できないぞ。残り12匹頑張れ」
しかも俺が倒した数把握してるし、ギースさんすげえな。それに比べて俺の師匠は、今だにぐったりしているな。
バキン!
「よし!15匹!」
最後の盾は15匹目で壊れた。目標は残り12匹だったからこれで角兎の依頼も終わりだ。結構早かったな、まだ昼過ぎぐらいか?
「お疲れ。ギン。最後はまあまあだな、1枚で20匹行ければ上手い方だからな。初めてにしては筋がいいぞ」
ギースさんに褒められるが、本人は盾1枚で25匹殺していたりするので、あんまり嬉しくない。
昼飯を食ってから帰る事になり、今回は二人が騒ぎ出す前にカップラーメンを売りつけたので俺のカップラーメンは取られなかった。
「そう言えば角兎の報酬っていくらなんですか?10匹以上狩らないと赤字ってまさか鉄銭5枚とかじゃないですよね」
ラーメンを食いながら今回の報酬について聞いてみると、報酬は事前にちゃんと確認してろと怒られてしまった。確かに報酬でどこまで頑張るとか撤退とかの判断材料にしないといけないもんな。
「今回の『角兎の肉10個納品』報酬は銅貨2枚だ。安いだろ。まあこの時間で30匹狩れるぐらい簡単だから仕方ない」
あれ?盾の代金以上じゃん。それなら赤字にならなくね?
「ガハハハッ。お前今赤字か?って思っただろ?お前今回の依頼内容よく確認しろ。角兎の納品じゃねえぞ。角兎の肉の納品だ。って事はこいつを捌かなきゃなんねえんだけど、下手に捌くと報酬として認めてもらえねえからよ。ギルドの買取カウンターで一度肉にしてもらうんだよ。解体費用は10匹で銅貨1枚だ」
「でもそうすると盾の代金払っても鉄銭5枚残るじゃないですか?」
「そりゃ10匹狩れた場合だ、こいつの解体は10匹単位でしか受け付けてくれねえ。って事は?」
「10匹狩れないと報酬無しで更に盾の代金鉄銭5枚分の赤字ですか?」
「そう言う事。だからこの依頼は盾を何枚も持ってくるのが普通だな。新人はそれを知らずに一度は赤字を経験する苦い思い出のある依頼だ。良かったな!ギン!俺達がついて来てよ。ガハハハッ」
得意気に師匠は笑っているが、今回師匠何もしてねえよな?ずっとグロッキーで昼に俺のカップラーメン食っただけじゃん。まあギースさんが指導してくれたからいいんだけど。でも指導料は師匠が貰うんだろ。ずるくね。
「この依頼はホントは獲物の捌き方の練習も含んでいるらしいぞ。面倒だから誰もやらないけどな」
練習なら下手でも買い取ってくれないと誰もやらないよな。それか報酬をもうちょい高くしないと。
「そういや、ギン。街に戻ったら今回の装備予備含めて2つは買って持ってろ。銅貨2枚だが、金が無くなった時にこいつがあるのと無いとじゃ、全然違うからな」
新人依頼の討伐系はこん棒と盾があればどうにかなってるから、持ってれば何かあっても食事に困る事はなさそうだ。
「そういえば、エレナから二人はもっとすごい経験してるって聞いたんですけど、聞いてもいいですか?」
聞こうと思って忘れていた事を街に戻りながら質問してみる。
「うん?何の話だ?」
「ギン、良く分からん」
二人とも頭を傾げてホントに分かってないみたいだ。
「ほら、この間のクロの事で俺が落ち込んでたらエレナに慰めて貰ったじゃないですか。ああ、その節は有難うございます。師匠達の言う通りエレナに慰めて貰ったら元気になりました。エヘヘ」
「おう、良かったじゃねえか。やっぱりああいう時は女抱くのが一番なんだよ」
「ああ、さすがエレナだ。今度礼を言っておこう」
「で、そん時にこれぐらい誰でも経験しているって、師匠とギースさんはもっとすごい経験してるって」
「そうかあ?何かあったか?まあ強いて言えば村が全滅したぐらいか」
「いや、そっちじゃなくて下水で1年暮らしてた事だろ」
おお、この人達、物凄い事を何でもない風に言ってるんだけどヤバすぎじゃね?
「ちょ、ちょっと待って下さい。どっちもとんでもない事言ってますよ。何ですか全滅って、下水で暮らしてたって。明らかに異常ですよ!何で普通っぽい風に言ってるんですか!」
二人は顔を見合わせるがホントに可笑しな事言ってる自覚はないみたいで、キョトンとした顔をしている。
「いや、村が魔物に襲われてな、俺達以外全滅したんだよ。で、暮らす場所ないから近くのデカい街の下水で1年ぐらいこいつとケインの3人で暮らしててな。あん時は恐喝、強盗、殺し、3人で何でもやってたな。まあ普通だろ?」
「いや、普通じゃないですよ、かなり変です。その時何歳ですか?って聞かなくても今の俺より絶対年下ですよね」
「多分10歳?だったかなあ」
師匠の答えに言葉が出てこない
10歳で強盗、殺人はやべえ。
「やっぱりかなりおかしいですよ。」
「1年ぐらいすると流石にガキが目立ち過ぎたみたいで領主から賞金掛けられてな。最初は雑魚ばっかりだったけど、どんどん賞金稼ぎが強くなってきて、いよいよって時に孤児院のババアが現れたんだ。ババアは昔凄腕の冒険者だったみたいで土魔法使って俺らを捉えてよ。そのまま領主の所まで連行されて、ここで俺らも終わりかって時にババア何を勘違いしたのか今までの功績を全部俺らの罪の贖罪に使いやがったんだよ。あとはババアに引き取られて成人になったら冒険者になったって所だ。普通だろ」
11歳で賞金首って師匠達どんだけヤベえ事してたんだ。あと、断じて普通ではない。
「冒険者になる奴はそれぐらいの事を経験してるさ、ギンも似たようなもんだろ?」
いや、俺はそんな経験・・・・あるな。召喚されてすぐ殺されそうになった。1ヶ月逃げ回ってたな。
「昔の話はどうでもいいじゃねえか。昔どんだけ不幸でも今が楽しけりゃいいんだよ。ガハハハッ」
う~ん。師匠達かなり前向きだな。壮絶な人生を歩んだ感じは全くないな。
何か二人のすごい過去を聞きながら街に戻り、師匠の指示通り武器屋でこん棒と盾を2セット買ってからギルドに戻った。
「おう、今日は角兎か、『最長』は分かってる顔してんな。それじゃあ30匹預かるぜ、明日の昼には解体終わらせてるからな」
買取カウンターに戻って角兎を渡すと、最初少し警戒された。新人は角兎依頼の稼ぎをよく理解していない奴が多く、毎回ギルドの受付と買取カウンターで文句を言ってくるらしい。俺は師匠達から教えられて納得しているので、特に文句はない。
そのあと1時間程師匠達と訓練をしてからギルド内の食堂で飯を食べていると、ミーサさんがこっちにやってきた。
「皆さん、お疲れです。今日は何してたんですか?」
「今日は角兎ですね。明日には肉の納品できると思いますよ、ああ、情報ありがとうございます。言われた場所に行ったら角兎一杯いましたので1日で終わりましたよ」
「俺達もついてんだ。余裕だよ、余裕。ガハハハッ」
依頼中へたりこんでいた人が自慢げに話すのを俺はジト目で見る。ギースさんはやれやれって顔して呆れてる。
「まあ、それならいいんですけど。指導はしっかりして下さいね。そういえばギンさん、今日までの調査で問題なしと判断されたので明日から湧水行けますよ」
そうか、湧水いけるのか。俺はあの場所を通れるのか不安だ。またあの光景を思い出すかもしれないな。それにまだ1週目の依頼も終わってないし、湧水はまた今度だな。
「そうか。じゃあ、明日はギンは湧水行ってこい。ああ、孤児院のガキどもも連れて行け。俺は明日オフにするからよ」
何故か自分で決めた事と反対の事を師匠から言われる。まだ心の準備が出来てないし、ポイントにもならないから嫌なんだけどな。
「師匠、湧水はまだ2週目入ってないのでポイントにならないし、心の準備が出来てないから後に回したいんですけど」
「駄目だ。明日絶対行って来い。そうやってなんだかんだ理由付けて時間を置き過ぎると余計に行きづらくなるからな。それに調査終わったばっかりだから今なら道中の魔物は粗方駆除されてるはずだから安全だ」
師匠の言う事も最もなので、仕方ないから明日は湧水行くか。そうだ!帰りに孤児院寄ってガジに声かけてみるか。
「分かりました。明日は湧水行ってきますよ。じゃあ、俺今から孤児院行ってきますんで失礼します」
「おう、頑張ってこい」
「頑張って下さいね」
「明日湧水の納品終わったらギルドで待ってろ。次の依頼どうするか話するからな」
いつの間にかちゃっかり俺達のテーブルで食事を食べているミーサさんを含む3人から励ましの言葉を掛けられて、俺は孤児院に足を運んだ。
そう言えば前回はお礼が言いたいって事だったから気にしなかったけど、今回は何か手土産持って行った方がいいのか?どうなんだろ?やっぱりまだまだこの世界の常識知らないな。師匠に聞くか?いや酒飲んでる時にくだらない内容で『念話』使うと怒られるかな。今思えばクロの時は『念話』で師匠呼べば良かったな。そこに気付かないぐらい俺も焦ってたって事か・・・いや日本じゃあんな経験する事ないから普通焦るだろ。むしろ俺は、よくあそこまで冷静に動けたな。
考えが脱線した。さっき食べてみたけど大丈夫だったから手土産はまあ葡萄でいいだろ。
コン!コン!
孤児院に着いた時は辺りはすっかり暗くなっていて、孤児院も扉が閉まっていたので扉をノックしたが、この時間の来訪は失礼だったか?と思ったがもう遅い。
扉が開き中から見るからにシスターって服を着た優しそうなおばさんが出てくる。まあこんな時間の来訪者だからか少し俺を怪しんでいる気がする。
「何か御用でしょうか?」
「あ、遅くにすみません。私はギンって言う者ですが、少しガジに話があって来ました。呼んでもらってもいいでしょうか?」
できるだけ丁寧に挨拶をして不審者じゃないよアピールをすると、すぐにシスターは笑顔になる。
「まあ、あなたがギンさん!クロの事ありがとうございます。あとお肉と服もですね。とっても助かりました。ああ、ガジに用でしたね。どうぞ中でお待ち下さい。すぐに呼んできます」
そのまま孤児院の中に案内されて椅子に座って待つように言われたので、指示に従いイスに座る。中には子供が15人程いて丁度お風呂?上りみたいで髪を拭いている子がたくさんいる。小さい子は大きな子が拭くのを手伝っている、何とも和やかな光景だ。しかもみんな俺が寄付した服を着ているがまだ首回りを縫い終わっていない子が大半で、ズレ落ちないように首回りを縛って調整している。
「よう、兄ちゃん。どうしたんだ?」
部屋の奥からガジがパンツ一丁で出てきた。この世界のパンツは男も女も同じでトランクスを紐で縛って止めている感じでガジも例に漏れず同じパンツをはいている。ガジの前を小さい子が裸で歩いているので体を洗っていたみたいだ。
「明日から湧水汲みに行けるみたいだから、一緒にどうかなって誘いに来たんだよ。まあ師匠の指示だけどな」
パンツ一丁で俺の対面に腰かけるガジに要件を伝える。こいつ今は寒くないって言ってもこの格好だと風邪引くぞ。
「そうなの?行く!行くよ」
「そうか。ありがとう。そうだ、あの時一緒だった子も連れて来れるか?」
多分俺一人だとどうなるか分からないが、ガジ以外にも年下がいればしっかりしていられると思いもう一人も誘ってみると、ガジから二つ返事でOKがもらえた。
「じゃあ、明日6の鐘にギルド集合な。兄ちゃん、時間が早いっていうなよ。湧水行く時は朝と昼の2回って決めてるんだ。1回目と2回目の時間を空けるとその分スライムが集まってる事が多いからな」
はええな。6の鐘ってギルド開いてんのか?ガジが言うって事は開いてんだろうな。起きれるかな?まあ、最近21時には寝てるからな目覚ましセットすれば大丈夫か。
「ああ、分かった。もし俺が寝坊したら先に向かっててくれ。走って追いかけるから。じゃあな・・・・・そう言えばほら、少し日が経っているが、さっき食べて変な味はしなかったから大丈夫だと思う。いるか?」
帰ろうとした所でお土産を思い出したので葡萄を取り出しながら聞いてみると、ガジはブンブン頷いていた。後ろの子達も同じように頷いていた。手持ちの葡萄14個をカバンから取り出すと、全部取り出す頃には子供達に周りを取り囲まれていた。
「ほら、こんだけやるよ。食べる時に喧嘩するなよ、シスターの言う事聞く子だけ食べていいからな」
「「「「「はーい」」」」」
周りの子供達に注意すると、元気な返事が返ってきた。どんだけ葡萄好きなんだ?いや、腹減ってるだけかな。そんな事を考えながら孤児院を後にして、「猫宿」じゃない方の馴染の宿屋で部屋を取ってその日は寝た。




