26話 孤児院と依頼の状況確認と防具選び
朝、目が覚めると同時に『猫宿』だとすぐに理解できるぐらいにはここに泊まる事に慣れたみたいだ。あの後エレナにベッドに誘われたのでもう一度してから、時間が来るまで二人で話をしていたが、俺は途中で寝落ちしたみたいで、エレナの姿はもうない。頭はかなりスッキリしているので、エレナに感謝をしつつ出掛ける準備を始める。食堂でいつものように朝飯を食べていると、昨日の女の子が慌てた様子で俺の所にやってきた。
「お食事中失礼致します。あの、お部屋に昨日のお酒が置きっぱなしだったのですがどうしましょう?」
慌てた様子だったので何事かと思ったが、昨日の飲みかけのワインの事だったので、ホッとする。
「どうしましょう?って言われても残っているの後少しだったよな。お店の方で処理お願いできるか?」
それともそういうサービスしてないのか?ゴミは自分で持ち帰りましょうってスタンスか?いや、でもこの世界の生活水準だとそんな意識髙い事はしてなさそうだけど・・・。
「それなら私が頂いても問題ないでしょうか?」
「へ?まあ、問題ないよ。欲しいならやるよ」
「ホントですか?ありがとうございます!」
お礼を言いながら嬉しそうに俺に飛びついてくる女の子。ついでに頬っぺたにキスまでされる。まさか飲みたいのか?昨日少し飲んで気に入ったのかなあ、この年で酒貰って喜ぶって日本だと相当この子ヤバいと思うけど、異世界だからな、これが普通なのかな。
「ああ、失礼しました。お酒本当にありがとうございます」
女の子は俺に頭を下げてから軽い足取りで2階に上がって行った。
「おい、『最長』の奴お付の子にまで手出してるぞ」、「あ?そりゃ店のルール違反だろ。」、「しかもエレナ付きの子。あのエレナが直々に教えてるぐらいだからいい女になるって噂になってる子だよ」、「おお、あの子か。気が早い何人かもう狙ってるって聞いたぜ。まだ客とるまで2年はあるのにな」、「しかし『最長』の野郎、エレナだけじゃなくてそのお付にまで手をだすとは、この間まで童貞とは思えないぐらいの手の速さじゃねえか」
おい!手出してねえよ。俺がルール違反しているなら店側も対応して今頃叩き出されてるわ!・・・そう否定しても噂は勝手に広がるので無駄な事はスク水窃盗事件で十分知っている。だから言いたい奴には勝手に言わせておく。
朝食を食べて店を出ながら今日何しようか考える。
師匠達はまた昼前まで起きてこないだろうな。またラチナの実でも拾いにいくかなあ。そういや角兎1匹も仕留めてないな。師匠に後でこの依頼の事聞いてみるか。
「あっ!やっと出てきた!兄ちゃん、昨日何でギルド来なかった?俺ずっと待ってたんだぞ」
考え事をしながら店を出るとすぐに呼び止められた。この間の孤児院の少年だ。だけど何で怒ってんだ?別に約束してなかったよな。
「兄ちゃんが昨日来ないから肉渡して貰えなかったんだからな。ほらさっさとギルド行こうぜ。あと、院長がお礼言いたいって言ってたけどこの後時間ある?」
そうか、素材か!すっかり忘れてた。昨日ずっとギルドで待ってたって言ったな、悪い事したな。
「ああ、悪かった。昨日は街に戻ってくるなり師匠達にここに連れてこられてな」
「『猫宿』ねえ、何がいいのか」
『猫宿』を見ながら呆れたように少年が言うので、この少年はここがどういう店か知ってるようだ
「まあ、お前も大人になったら分かるよ」
「兄ちゃんとあんまり年変わんねえだろ?それに何勘違いしてるか知らないけど俺もう経験あるからな?」
・・・・・・・マジで?うそおお?俺より年下だろこいつ?
「ホントだぞ。孤児院は大きい子とチビ達とで部屋が別れてるからな、大きい子用の部屋に入った子は大概そこですぐ経験するぞ。孤児の女なんてこういうお店で働くか、冒険者になるしかないからな。男は冒険者一択だけどな。初めてが知らないオッサンよりは年の近くて知ってる子がいいだろ。更に孤児院に気になる奴がいればそいつとヤレばいいしさ」
「えっ?それって院長とか大人は注意しないの?」
「別に子供つくらなければ何も言われないよ。まあ次の日に影響があれば怒られるけどな」
すげえ、孤児院ヤベええ。こっちの世界の貞操観念どうなってんだ?これが普通なのか、孤児院が異常なのか。
ちょっとビックリしながらも二人で歩いてギルドまで行くと、中は熱気で溢れていた。多分依頼が更新されてるから我先にと報酬の良い依頼を選んでいるのだろう。みんな掲示板に張り付いている。俺はその輪に加わる事なく少年と買取カウンターに向かう。
「よお、ギン。昨日ガジの奴ずっと待ってたぞ。都合が悪けりゃ連絡ぐらいしてやれよ」
買取カウンターにいたオッサンからも注意される。まあ悪いのは俺だから仕方ないな。この少年の名前はガジというのか、今更ながら名前聞いてなかったな。
「もう謝ったよ。それより報酬と肉は」
ギルドカードをオッサンに渡すと店の奥に消えて、しばらくすると肉とお金を持ってこちらにやってくる。
「ほら報酬の銀貨2枚と銅貨4枚な。肉はガジに渡していいんだよな?」
オッサンの言葉に頷くとガジは肉を受け取り笑顔になる。これで用事は済んだのでギルドを後にすると、
「兄ちゃん、さっきも聞いたけどこの後時間ある?院長がお礼言いたいから連れてこいって言ってんだけど」
ガジから聞かれるが、まだ師匠達も寝てるだろうし大丈夫だろうと思い孤児院まで足を運ぶ事を了解する。孤児院までの道中はガジは両手で持った肉を嬉しそうに眺めていた。
「ガジ!」、「兄ちゃん!」
孤児院に着くとガジの周りに小さい子供が集まってきた。その視線は肉に集中している。どれだけ飢えてんだろ。少し心配になるな。しかもチビ共の着ている服は元は白い服だったのか一部白い部分はあるが、他はかなり汚れて灰色になっていて全体的に小汚く見える。
「よし、お前らこれをシスターに持っていけ。昼は肉だぞ!こんだけあれば腹一杯食べられるぞ」
わあああと歓声をあげながら肉を手にしたチビ共はどこかに走って行ってしまった。
「じゃあ、兄ちゃん。案内するからついてきて」
ガジに案内されて孤児院に立ち入る。入ってすぐは食堂っぽい感じで机とイスがたくさん並んでいる。奥は調理場になっているみたいで、いい匂いがしてくる。後でガジに聞いたが洗い場とトイレも更に奥にあるらしい。洗い場で体を拭くのも順番なので2~3日に1回だそうだ。入ってすぐの階段を上がると奥まで廊下が伸びていて一番奥が院長の部屋で、手前がシスターの部屋。その手前に大部屋が左右にありチビ共の部屋と大きい子の部屋になっているらしい。廊下の付き当たりにある院長室の扉をガジがノックしながら、
「院長!兄ちゃん連れてきたぞ!」
大きな声で呼びかける。すぐに入るように返事が入ってきたので、部屋の中に入ると大きな机でなにやら書き物をしていた優しそうなおばさん?お婆さん?判断が難しいぐらいの年齢の女性が座っていた。
「あら、あらよく来てくれたわね。あなたが『最長』いいえ、ギンって名前だったよね。初めまして、院長のクラースです。本来であればこちらから出向かなくてはいけないのにごめんなさいね。足を悪くしていてね、外に出るのも大変なのよ。」
「どうも初めまして。ギンです」
こっちの挨拶の礼儀なんて全く知らないので、日本と同じように名前を名乗ってペコリと頭を下げる。別に変な顔されなかったから問題はないみたいだ。ただ正しいのかは分からない。
「どうぞ、お掛けになって。ガジ、シスターに言って飲み物を持ってこさせて」
俺にイスを勧めながらガジに指示すると、ガジは何も言わずに部屋から出ていった。
「えっと、ガジから聞きましたクロの件、本当に有難うございました。」
ガジが出ていくとすぐにクロの件でお礼を言われる。昨日までだとそのお礼も素直に受け取る事ができなかったが、今日はすんなり受け入れる事ができた。
「いえ、こちらこそ間に合わなくて申し訳ありませんでした。」
俺が謝罪するとは思っていなかったらしく、院長は少し驚いた顔をするが、すぐに優しい笑顔に変わる。
「いえ、本来であれば助ける理由もないから謝らなくてもいいのに・・・むしろあの場合は普通見捨てるの、しかもお肉まで頂いたみたいで本当に有難う」
「肉の件は師匠の指示ですので、お礼は師匠に言って下さい」
「ホントに師弟ともどもいい人達ね」
院長の言葉に少し驚く。俺の渾名知っていたし、俺の事少し調べていたのかな?
「師匠を知ってるんですか?」
「直接話した事はないわ。ただ子供達を何度か助けて貰っているので、お礼を伝えたくて何回か孤児院に呼んでるんだけど、全部断られているわ」
何だよ、見捨てるのが普通とか言っときながら師匠も助けてるじゃん。
師匠に心の中で文句を言っていると、扉がノックされて、小さい子が2人トレーに飲み物を乗せて入ってきた。相変わらず小汚い格好なので、ふとある事を思いついた。
小さい子が出ていくと、すぐに院長に質問してみる。
「あのここって寄付とか受け付けてるんですか?」
「へ?ええ、ゴミじゃなければ大歓迎よ。見て分かるようにここの生活はかなり苦しいのよ、領主様から補助金が出てるけど、それだけだと到底立ちいかないの。卒業して働いている子達からも寄付を貰ってるけどそれでもって所が現状ね。だから小さい子供達にも毎日働いてもらっているの。お恥ずかしい限りだわ」
「そう言う事なら、ちょっと訳ありの服と靴下を70着程持ってるんですが、寄付できますか?中古なので靴下はいらないですかね?」
あのクソムカつく国の兵士から奪った鎧と違い、服なら幸いマークも入っていないのでここで処分できるかもと思い聞くと、目を輝かせて院長が俺の手を取り、首をブンブン振る。
「いえ、雑巾にも使えますので是非靴下も下さい。」
「あと訳アリですからできれば孤児院の中だけで使ってもらいたいんですけど」
「それなら寝間着にしましょう。」
「最後に、これは匿名の人からって事にしてもらえると嬉しいです。寄付するぐらい余裕があると思われて狙われるの嫌ですから」
「ああ、それなら大丈夫です。基本寄付した人の名前を言う事はありませんので」
それなら安心かな、って事でここで取り出していいのかな。汚れてるから1回洗ってからの方がいいよな。
「それで、どこに出しましょう。1回洗った方がいいと思うんですが・・・」
「それなら洗い場に出して貰っていいですか?この時期は外で体を拭くのであそこならしばらく置いていても邪魔にならないので」
そういう事ならと足の悪い院長には悪いが洗い場まで案内させてカバンから服を取り出していく。さすがに大きいカバンとは言ってもそこから70着以上服と靴下が出てくる光景は異様なのか驚きの表情を院長はしている。
「はい、これで全部です。大丈夫ですか?使えますかね?」
ボケっとつっ立っている院長に声を掛けると意識がはっきりしたみたいで、マジマジと服を眺める
「これはかなり良い生地だわ、でもちょっと汗臭いわね。『洗浄」すれば大丈夫だけど、首の所を縫えば寝間着でも全然使える。寒くなるまでに十分時間あるから縫うのも急がなくていいし」
院長は俺が出した服を見ながらブツブツ言って色々頭の中で予定を考えている。俺は不動在庫になりかけていたこの服が捌けただけでも嬉しいので、院長にお礼を言って孤児院を後にした。
微妙に時間潰れちゃったな。今からでもラチナの実でも拾いに行くか?でも起きた師匠に呼び出されても嫌だしなあ。・・・・あっそう言えば湧水の封鎖はどうなったかな。ギルドに確認に行くか。
という事でギルドに足を運ぶが、朝と違って依頼を受けた冒険者達がいなくなり中は職員さんと数人の冒険者がいるぐらいだった。受付も全く人がいなかったので暇そうにしているミーサさんの机に向かう。
「ああ、ギンさん、ようこそ。納品ですか?」
「いえ、湧水の封鎖状況を聞きたくてきました」
「ああ、それなら昨日の調査では何も異常が無い事が報告されています。本日、明日調査して問題なければ明後日から湧水汲みに行けますよ」
そうか、なら良かった。後はラチナの実とスライム、ゴブリン、角兎、か。湧水採取の時でもスライムは何とかなるだろうし、ラチナの実とゴブリンは『探索』で探せるから問題ないな。問題は角兎だよな。これまだ1匹も倒してないから手こずりそうだな。
「何か困った事がありましたか?私達冒険者ギルド職員は依頼の相談に乗る事も仕事のうちですから何でも言って下さいね」
俺が困った顔をしていたのが分かったのか優しい言葉をかけてくれる。というか相談してもいいのか。そうだよな、俺は師匠がいるから何も考えなくても師匠が効率いい場所に連れて行ってくれたけど、普通の新人は指導員制度利用しないからどこ行けばいいか分かんねえもんな。蛙や蝙蝠なんてそれこそ教えて貰わないとどこにいるかわかんねえし。それよりも角兎だ。
「角兎がまだ1匹も倒せてなくてちょっと不安なんですよ。どこにたくさんいますかね?」
「ああ、それなら北でも南でも門をくぐったら外壁に沿って歩いてちょうど、領主様の館の裏辺りぐらいまでくると草原が広がっていますからそこにたくさんいますね。そこならかなり効率よく狩れますのでガフさんがいれば1日で30匹狩れると思いますよ」
おお、いい情報もらった。これならすぐにでもランク上げられそうだ。
「有難うございます。参考になりました。おかげでFランクにすぐにでも上がれそうですよ」
「そうですか。頑張って下さいね。但し、あんまり大きな事を言うと、この後効率が悪くなったりしますから、気を付けて下さいね」
「ああ、フラグって奴ですね。まあ多分大丈夫です、もう5つは20個集め終わってて、残りの4個もある程度目途が立ってるので。角兎だけが不安だったんですが、ミーサさんの話を聞いて安心しました。それでは・・・・ぐえ。」
そう言って立ち去ろうとしたが、ミーサさんが受付から乗り越えて俺の襟首を捕まえるから変な声が出た。
「ちょ、ちょっと待って下さい!今何か凄い事言ってましたよね?もうちょっと話をしましょう。」
え~、俺何か言ったか?師匠からもうそろそろ連絡きそうなんだけど・・・・ってホントに来た。
(あ~悪い。今店出た。どこにいる)
(ミーサさんにギルドで捕まってます)
(そうか、ならそっち行くわ)
それだけ言うと『念話』が切れる。
「で?何か5個終わっているって言ってましたけど」
「ええ、薬草、魔力草、大鼠、蝙蝠、蛙の数はもう揃っていますよ」
俺の言葉にミーサさんは驚いた顔に変わる。こんな美人さんが口をポカンと開けてる姿は中々間抜けに見えるな。ただ、俺のペースはそんなに早いんだろうか。
「そんなに早いんですか?普通はどのくらいのペースなんですか?」
「そうですねえ、ギルドの難易度設定だと1依頼1~2日で達成って考えてますね。ギンさんは冒険者になってから9日目ですけど、8個の依頼を達成しているので、かなり早いと思いますよ。で、10個の依頼達成したら次は納品数が倍ですからね、かかる日数も倍なので、大体30~50日ぐらいで新人のGランクからFランクに上がる人が多いですね。それよりもホントですか?100歩譲って草とアレは分かりますけど、蝙蝠と蛙は嘘ですよね?」
草って・・・薬草と魔力草こういうまとめ方するのか。しかも『アレ』ってミーサさん口にするのも嫌なぐらい大鼠嫌いなのか。
「ホントですって、ここで嘘言う理由ないじゃないですか。師匠とギースさんも手伝ってくれたのでどちらも集まりましたよ」
「そう、ホントなんですね。ガフさんとギースさんの3人なら可能かな。あと角兎以外の4つの状況も教えて下さい」
いや何で?言う必要ある?まあ隠す事でもないけど
「湧水は後1回行く必要がありますね。でその時にスライムの魔石残り10個集めようかなって、ゴブリンは今6匹討伐なので後24匹ですけど、まあ師匠もギースさんも手伝ってくれるから問題ないかと、あとラチナの実もですね。こっちもあと14個探せば終わりです」
ざっと皮算用を答えると、
「湧水とスライムは1日、ゴブリン2日、角兎は1日、ラチナの実よね問題は、3人でも見つからない時は見つからないし、いや、でもこれ無しで13日?13日!」
ミーサさんは何かブツブツ言ってるなあとか思ったら大声を上げて立ち上がった。何だ?何か問題か?
「ギンさん、すごいです。これならあっという間にFランクじゃないですか!このまま行けば、この街のソロ最速Fランクですよ!頑張って下さい!私も全力で応援しますよ」
物凄い笑顔で俺を応援してくれるが、最速か~あんまり目立ちたくないな~。
「ガハハハッ。ミーサちゃん、嘘はいけねえな。こいつは指導員制度利用してるからソロにはならねえよ」
「そうだぞ、自分の評価上げたいからってギルド職員がギンを煽るなよ」
ミーサさんの応援をあざ笑うように入ってきた悪人顔の二人。師匠とギースさんだ。これがイケメンとかなら良かったが二人の顔だと、いちゃもん付けに来たチンピラにしか見えねえ
「な、な、何て事言うんですか!二人とも!私は全力で応援してますよ!煽ってませんよ!そりゃあちょっとは私の評価上がるかもって期待してましたけど」
う~ん。この人少しつつけばすぐに本音出すな~。俺に害がないからいいけど。
「それよりもガフさん!何でこんな時間にギンさんに会いに来たんですか?これから指導って言っても認めませんからね!」
「ありゃ、そうか今日は防具見てから避け訓練の予定だったけどまあいいか」
「ちょっと待ってください。師匠!やります!それやりますから!」
師匠の今日の指導内容にかなり興味が沸いたので、慌てて師匠を止める。ミーサさん、あんまり口出さないで欲しいなあ。
「って訳だ。ミーサちゃん、こいつ持ってくぞ。おしゃべりばっかりしてないでちゃんと仕事しろよ、ガハハハッ」
また余計な事言ってミーサさんを怒らせる師匠。ミーサさんの怒鳴り声を聞きながらギルドを後にした。
「じゃあまずは俺達の家に向かうぞ。そこで俺達のお古着て、良い奴があればそれを格安で売ってやる。まあ最終的には防具屋行くけどな」
師匠の指示に従い、3人で師匠の家に向かう途中で腹が減ったので定食屋で腹を膨らませてから家に向かう。
「どんな感じにするかな。まあギンは俺と似たスタイルだから身軽系がいいよな?って事はギースのは無しだな。いや、小物系は使えるか」
家に着くとリビングで待つように言われてしばらく待っていると師匠とギースさんが大量に防具を抱えて下に降りてきた。
「ほら選べって言っても分かんねえか?なら俺が決めてやる。まず頭だけどギンは斥候に向いてるから顔は隠す事が出来る装備だな、体は鎖帷子の軽い奴か革鎧でいいか。」
師匠に指示されてどんどん俺の装備が決まっていく。最終的に俺は頭に丈夫な布を巻いてマフラーを首に巻く、マフラーは必要に応じて口や鼻を隠す為で、そうすると目だけが見える状態になり完全に不審者になる。鎧は防具屋で選ぶ事になったが、ベルトは師匠のお下がりを貰った。色々小物が入れられるポケットがいくつか付いていて、そこにポーションや投げナイフ等が入れられるようになっている。手首にもリストバンドを付けているが、中は金属が入っていて少し重い。軽い斬撃なら受けれるとの事だが試したくはない。しかもこのリストバンド手首側に物が入れられる様になっており、師匠はそこに投げナイフや鍵開けの道具を入れていたと聞いたので俺もそうしようと思う。下半身は太ももにベルト巻いて予備の短剣を付けておけと言われたが、これはEランクに上がってからでいいと言われた。最後に足首にもバンドを巻いて投げナイフを隠しておけと言われたんだけど、投げナイフ隠し持ち過ぎじゃないか?多分10本は常備するぞ。
「あん?ナイフ持ちすぎ?馬鹿野郎!10本でも少ねえぐらいだ。先制、戦闘、牽制、捕まった時の脱出用、色々使えるんだよ。基本投げ捨てだからな、あんまり高い奴だとすぐに赤字になるから気を付けろよ、まあ鉄銭ぐらいの奴使ってればいいぞ」
経験豊富な師匠の言う事は素直に聞く事にして、今回師匠達からのお下がりはワイン1本と交換だった。あんまり美味いと思ってないからこっちとしてはそれでいいのか?とも思ったが師匠達は喜んでたから良いんだろう。
で、今は貰った装備を身に付けて師匠達の行きつけの防具屋に向かっている。大抵の
武器防具屋はギルドに近い所にあり、ギルドでも場所を教えて貰えるらしい。
「よお、ガフにギースじゃねえか?久しぶり、いよいよ本格稼働か?」
防具屋に入ると店主と思われるオッサンが師匠達に声をかけてくる。
「いや、まだだ、ケイン達が帰ってきてねえし、ギースのケガももうちょっとかかる」
「あれ?そうなのか?だったらどうして・・・・『最長』か!いやあ、お前が噂の『最長』か、宜しくな」
う~ん。やっぱり渾名が広まりすぎだろ。もうそろそろ慣れてきたけど。
「って事でこいつの防具買いに来た。鎖帷子の軽い奴か革鎧ぐらいにしたいが良い奴見繕ってくれ」
俺が店長と挨拶を済ませると師匠が注文する。
「鎖帷子は今店に出てるのが全部だ。ちょっと試してろ。その間に革鎧持ってくるから」
店には鎖帷子が10着程飾られているが、試しに一つ手にすると、すごく重い。こんなん着てたら動きが遅くなる。
「う~ん。こいつかこいつだな。ギン!ちょっとこの二つ着てみろ」
そう言って手渡された鎖帷子はさっきよりも軽い。軽いと言ってもさっきの奴と比べてだ。着ると重く感じる。
「ちょっと重く感じますね。これ着ると動きが遅くなると思います」
「そうか、慣れると気にならないが、最初だから自分にしっくり来る装備の方がいい」
ギースさんはすごい重い盾を片手で軽々持てるぐらいだし、あんまり重さは気にしないんだろうな。
「あれ?鎖帷子は合わなかったか?」
「ああ、一番軽い奴でも重く感じるんだとよ。それも考えて選んでくれ」
革鎧を両手に抱えた店長が戻って来るなり聞いてきたので何故か師匠が質問に答える。
「そうなると、こいつか、こいつだな。後はその鎖帷子より重いからな。こいつは灰狼の革で値段は金貨1枚、こっちは大牙牛の革で値段は金貨1と銀貨5枚だ。」
灰狼か、あんまり良い思い出ないからもう一つの方にしたいけど、防御力はどうなんだろ?やっぱり高い方が良いのかな?まあ着てから考えるか。
「すみません、こっちにします」
試着した結果、どっちも動きが制限されずに重さも気にならなかったが、やっぱり灰狼は嫌だ。着ているだけでクロが頭をよぎる。って事で牛の方を選んだ。そこから師匠と店長の戦いを俺は後ろで見ているだけだった。結果お値段金貨1枚と銀貨2枚になった。代金は師匠が払ってくれたが、店を出た所でワインを1本師匠に渡した。ワイン2本で装備が揃ったので得した気分だ。
「そう言えば、師匠の売ったワイン全部で白金貨になったらしいですよ」
ワインを渡した所で昨日エレナから聞いた話を思い出したので師匠に報告する。
「ああ、聞いた。まさか領主が買うとは思ってなかったぜ。でもまあ、これなら次は1本金貨2枚で売れるぞ。ガハハハッ」
嬉しそうに笑う師匠とギースさんと再びギルドを訪れる。今回は訓練をやる為なので、建物には入らず裏に回る。
「ほれ、持ってろ。今回は攻撃を躱す訓練だからな、躱す事に集中しろ、攻撃は考えるなよ。あと短剣は相手が短剣以外だと基本攻撃を受けるなよ、受けても力負けしちまう。今回は持ってるだけだぞ。」
俺にいつもの棒を持たせると師匠は棒ってよりも枝って言った方がいい太さの枝を手にする。
「じゃあ、行くぜ!」
「はあっ!はあっ!」
「やっぱり攻撃もだけどギンは動きが素直すぎるな。すぐにフェイントに引っかかる。偶には攻撃を誘ったりしないと」
ギースさんが倒れこんだ俺にアドバイスをするが、返事をする余裕がない。あれから1時間程、躱す練習をしているが、当たり前だが全く上達していない。師匠とギースさんの攻撃が面白いぐらいパカパカ当たる。動きの速い師匠の攻撃が躱せない事は分かるが、ギースさんはそこまで動きが速くない。だけど何故か俺の動きを先読みして攻撃を当ててくるのは経験だろうか。
「今日はこのぐらいにしとくか。寝る前にもう一度頭の中で攻撃と躱す練習をしておけ。じゃあ飯食って今日は帰るか」




