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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
2章 水の国境都市の新人冒険者
23/163

22話 救援

朝、やっぱり腰は少しダルいが頭はスッキリしている。ふと横を見るがスーティンはいない。時間が来たら「今日は後一人以上は客とらないと」とか言って服を着て元気に仕事に戻っていった。仕方がないけど少し寂しい。時間は早いが、起きようとした所で今日の予定を決めていなかった事を思い出した。どうするかなあ。師匠を『念話』で起こすのは流石に怒られるかな。・・・また前にみたいに別の子と2回戦しているかもしれない。給仕の子に聞いてみよう。


給仕の子に挨拶しながら、師匠達の事を聞いてみるとやっぱりあの後また降りてきて酒を飲んだ後、別の子と部屋に戻ったそうだ。相変わらず元気すぎだろ。俺は朝食を食べてから特に意味もないが街の中心の広場に歩きながら、昼まで何するか考える。


そういえばラチナの実がまだ10個しか集まってなかったな。あと20個集めておくかな、『探索』

う~ん。北門に反応が多いけど、10個ぐらいか、いいや拾いにいくか。


そうして北門から街を出て、反応がある近い方からラチナの実を拾っていると6個目で『探索』に反応があった。


敵だ。動きはスライムと違って少し早いぐらいか?何だろ?


興味が沸いたので、気付かれないようにマップを見ながらゆっくり近づいていくと、ゴブリンだった。


分かってはいたが数は1匹か。武器は短剣・・・ボロボロだなあの短剣。まだこっちには気付いていない。どうする?戦う?


影魔法使えば余裕で倒せるけど、直接戦わないと俺の戦闘経験にならないので意味がない。あの時の戦闘の記憶が蘇り、武器を握る手が震える。




結局俺は逃げ出した。この前は戦闘する事が目的だったが、今回は討伐が目的なので必ず殺す必要があった。魔物だと言ってもさすがに人型は殺す覚悟が無かった。いや、あれだけ手が震えていたら多分まともに戦えなかった、下手したら俺が死んでいた。


精神的にも肉体的にも俺って弱いなあとか落ち込んでいると、師匠から『念話』が飛んできた。


(よお、ギン、悪いな。予定何も決めてなかったわ。こんな時間だし今日は休みにするか、心配しなくても今日は指導した事にはしねえからギルドにもちゃんと言っとく、で?お前今どこにいるんだ?)

(おはようございます。師匠。今北門出た所ですね。ラチナの実拾ってました。)

(おお、真面目だな・・・ってお前何か落ち込んでないか?どうした?何があった?)


落ち込んでいる俺にすぐに気付いてくれた師匠には隠し通せないだろうと思いさっきの事を正直に話す。


(はあ、何でゴブリンに覚悟決めれねえんだよ。大鼠も最初はビビッてたけど、最後は手慣れた感じで殺してたじゃねえか)

(いや、人型は殺した事はないのでさすがに最初の覚悟が違いますね)

(そんなもんか?どっちも変わんねえと思うけどな。・・・!!おい!ギン!まさかと思うがお前の田舎ってゴブリンいねえのか?)

(いないですね。)


警察か自衛隊がやつけてくれると思うけどいたら大騒ぎになる。


(マジかよ!じゃあゴブリンの生態とかも知らねえのか?)

(知らないですよ)


漫画やゲームの知識だと碌な奴等じゃない事は多いが実際はどうか知らない。


(ホントお前どこに住んでんだよ。お前の田舎どんなとこだよ。それはいいけど、それならお前がゴブリンに対して覚悟が決まんねえ理由も納得だわ。って事で教えてやるけど、ゴブリンっていうか魔物の大半は俺ら人間を食料としか見てねえからな。だから出会うと殺し合いになって負けると食われる。男はそれだけだけど、女はもっと酷いな。ゴブリンとか人型の魔物だと生きたまま散々弄ばれてから最後は食われる。あんまり気分のいい話じゃねえだろ?ただ、お前の田舎と違って大半の人間がその事を分かっているから魔物を殺す事に躊躇う奴はあんまりいないな)


ええええ、ドン引きなんですけど。人食うのあいつら?しかも女はもっと酷い目に遭うって・・・これは情けをかける必要はないな。次からは覚悟できそうだ。


(そ、そうなんですね。それなら遠慮する必要なかったですね)

(俺らもオークとか食っているから向こうからすれば同じだけどな。それよりもギン!大鼠の時も思ったけど、お前、やっぱり殺す事に慣れてねえな。残りの依頼で討伐系何が残ってる?)


そんなのに慣れたくないんですけど・・・とか冒険者やるならそんな事も言ってられないか。けどなあ・・・


(スライム、ゴブリン、角兎、巨大蝙蝠ですね)

(う~ん。じゃあ明日は蝙蝠行ってから兎にするか。明日からトドメは全部ギンの担当な。覚悟決めとけよ)


うへえ。すごい嫌だけど嫌とも言っていられないか。ゴブリンからじゃないだけまだマシだと思おう。


(分かりました。それで今日この後師匠はどうするんですか?)

(特にやる事もねえからな。ギースの野郎も今日は医者行くって言ってたし。まあチラッとギルドで依頼見てから家で酒飲むかって所だな)

(ええ?それなら俺も街に戻りますので稽古つけてくださいよ)

(ああ?今日はオフって言っただろ。何でわざわざ汗かかなきゃなんねんだよ。お前は今日は他の採取系依頼進めとけ)

(そうは言っても後はラチナの実と湧水ぐらいしかないですよ?)


残りは討伐系だけのはずだ。湧水は2週目にならないと採取してもポイント溜まらないから結局はラチナの実だけって事になる。


(あ?マジか?いつのまにそんなに・・・まあいいかじゃあ、今日はスライムの魔石とってこい。あとポイントにはならねえけどついでに湧水汲みもやってラチナの実探しだ)




「はあ~もう相変わらず師匠って俺の予定勝手に決めるなあ」


誰ともなくぼやきながら街に戻りギルドに向かう。時間は昼過ぎなので、ギルドで革袋貰ったら屋台で何かつまみながら湧水汲みにいくかと思いギルドに入ると、


「ガハハハッ。ドア1枚見つけただけで金貨1枚だぜ。笑っちまうよな。ガハハハッ」


まだ昼なのに酒飲んで酔っ払ってる師匠が他の冒険者に大声で話をしていた。


「だからあの洞窟今日から封鎖されてんのか。でもガフ、お前すげえな。あんだけ調べ尽くされた洞窟で隠し通路見つけるとか」

「偶々だよ。マグレだって、ギンの野郎が靴紐結ぶって立ち止まるもんだから、壁に背中預けたら違和感あってよ。こりゃあ何かあるなって思った訳だ。そしたら案の定隠し扉あったんだよ。しかも領主の紋章入り。俺じゃなけりゃ見つけられなかっただろうよ!ガハハハッ」


最初は謙遜してたのに、最後は自慢になってる。酔っ払いすぎて言ってる事が一貫していないから師匠かなり酔ってるな。さっき『念話』で話してから1時間ぐらいしか経ってないのに。しかも少し前に起きたばっかりだろ。


「師匠、まだ昼なのに飲みすぎですよ。しかも少し前に起きたばっかりなのに何でもう酒飲んでんですか?」


師匠の置いたジョッキをヒョイと持ち上げながら師匠に注意すると、すげえ嫌そうな顔された。


「ブハハハハ、ガフ、良かったな。早速弟子に尻に敷かれてるじゃねえか?あのガフがミーサ以外の奴、しかも男に酒を注意されるなんてな、ブハハハハ」


一緒に飲んでる人は見た事無いけどこの人も酔ってんな。いい大人が二人も昼から酔っ払うなんて。


「チッ!ギンつまんねえ事言ってんじゃねえよ!酒がマズくなる!お前はさっさと湧水行って来い!」


俺からジョッキを引っ手繰ると手で俺を追い払う。


「分かりましたって!行きますけど、程ほどにしておいてくださいよ。今日みたいに寝過ごすとか無しですからね」


師匠から離れて受付に向かいながらも師匠にもう一度注意をする。


「ブハ!ガフ、いい嫁じゃねえか?男だけどよ!ガハハハッ」


背後から師匠と飲んでいる人の笑い声が聞こえる。その横では師匠がすげえ嫌な顔してるのが分かったが、俺は振り向くことなく受付に向かう。




受付を済ませ、師匠の横を通る時に再度注意するが、師匠は手だけであっち行けのジェスチャーするだけだった。昨日スーティンから少し嬉しい話聞いたんだけど、あれ噓だったんじゃないか?俺の扱い雑じゃねえか?





少し不機嫌になりながらも湧水に向かって歩いて行く。湧水への脇道をしばらく行くとマップに人と魔物の反応があった。ちなみにラチナの実は昨日の今日なので一つも見つかっていない


何だ?人と魔物の距離が近いって事は戦闘中か?こういう時って近づいていいのか?『下手に近づくと獲物横取りを警戒されるから駄目だ』みたいな話しをラノベで読んだ事があるけど、こっちの世界はどうなんだろ?師匠にこの辺はまだ教えて貰ってないんだよな。


「うわあああああああああああ」

「きゃあああああああああああ」


そんな事を考えていると森の奥から悲鳴が聞こえた。この声・・・子供だ!

その事に気付くとすぐに駆けだした。駆けだすとすぐに奥から子供達がこちらに走ってきた。この子達は見覚えがある、この間ここであった子達だ。


「おい!どうした!」

「灰狼が、・・・出て、・・・クロが、・・・クロが」


この間のリーダー格の男の子が泣きながら答えてくるが最悪の言葉だった。


「いいか!すぐに街に戻って大人を呼んで来い!」

「無理だよ!兵士は街の外の事は関わらないし、助けてくれる大人なんて知り合いにいないよ!」

「なら、冒険者ギルドに行け!俺の師匠・・・あの顔の怖い人だ、あの人がギルドに居る!俺の名前を出していいから呼んで来い!分かったな?」


コクリと頷いて子供達は走って街の方に向かうのを確認すると俺はすぐに森の奥に向かう。




最悪だ!くそ!間に合わなかった!


森の奥に向かうと3匹の大型犬並みの大きさの灰色の犬・・・狼がいた。3匹の足元には血だまりが出来ていて『何か』を競うように食っている。いやその『何か』は当然人だったもので、腹が食い破られ、喉も半分ほど嚙み切られていて、顔も半分程無くなっているので既に死んでいるだろう。


—————ズッ


その事を確認した瞬間、俺は影を広げて狼を影で捕縛する。躊躇う事は何もなかった、作業のようにまずは1匹、影で狼の首を刎ねる。何も音がしない、狼からの悲鳴も上がらない、本当に殺したのか?確認する為、首から上の捕縛を解除すると、


ボトッ!


捕縛を解除すると何も言わない狼の首だけが地面に落ちてそこから血が流れている。殺した事を確認した俺は2匹目も同じように、いや、今度は首から上だけ捕縛を解除してまだ生きている狼を見下ろす。どうにもならない事が分かっているのか怯えた目つきで俺を見つめるが、


ザシュッ!


何も感じる事無く2匹目の狼の首も影で切り落とす。今度は切る時の音がした。


3匹目、今度は自分の手で殺そうと決めて首から上を解放して狼に近づく。相変わらず怯えた目つきをしている。


ガブッ!


短剣で首を刺しやすいように口を持とうとしたら、怯えた目から一転攻撃的な目になり俺の手に噛みついてこようとした。


「大人しくしとけ」


影から手を作り出して狼の口元を掴む。


バキッ!ボキッ


影が捕んだ瞬間、狼の口から骨が砕ける鈍い音がする。狼は「キュウ、キュウ」鳴いているが構わずその首に短剣を突き刺す。肉を切り骨に当たる感触が伝わってくるが大鼠の時に感じた嫌な気持ちにはならない。短剣は首に残したまま、子供の近くまで行き様子を確認するが、やはり既に死んでいる。俺は子供の亡骸を影収納から取り出したマントに包み腕に抱いて元来た道を歩き出す。狼3匹は影に沈んで『影収納』に入ったので、死んだ事は分かった。




「ギン!」


トボトボと来た道を戻っていると師匠がすごい速さでこちらに走ってきて、俺を大声で呼ぶ。


「おい!大丈夫か?ケガは?」

「ああ、師匠。すみません。お酒飲んでるのに呼び出してしまって、俺は大丈夫です」

「そうか。それなら良かった。・・・・ただ、まあ、なんだ、残念だったな」


師匠は俺が腕に抱いた血まみれのマントを見ると察してくれたようで慰めてくれたが、師匠からそう言われた瞬間、今まで我慢していた俺の緊張が解けてしまった。


「うう。す・・すみません・・・グス・・間に合いませんでした。俺が・・あの時・・・師匠に注意してなければ・・・走って向かってれば・・・うう、ああああああああああ」


足に力が入らず崩れ落ちて高校生にもなって子供みたいに大きな声で泣いてしまう。あの時師匠に注意した時間がなければ、街を出た所から『快足』スキル使って走って向かってれば、色々後悔が頭に浮かぶ。


「ギン!あんまり自分の事を責めるな!さっきまで馬鹿話してた奴が魔物に殺されるなんて話はよくある。俺も何度も経験した。だけどすぐに頭を切り替えろ、じゃないと、次はお前の番になるぞ」


師匠もこういう経験は何度もあるのか、励ましてくれるがこんな経験初めての俺にはすぐに立ち直る事は出来ない。


「うう、・・・・グス・・・でも・・・俺が間に合っていれば・・・」

「だからあんまり自分を責めるんじゃねえって、お前はよくやったさ。ほら、立て!こんな所で座り込んでると魔物に狙われるぞ!俺に血まみれのお前を運ばせてえのか?」


乱暴な物言いだなあと呆れつつも師匠が俺を気遣ってくれるので、何とか立ち上がり、師匠と街へ戻る。街の入り口では少年達が待っていて、俺を見つけるとすぐに走って近づいてきた。





「兄ちゃん!・・・クロ・・・は?」


リーダー格の子が話しかけてくるが、血まみれのマントが目に入ると察したようで泣きそうな顔に変わる。


「ごめん、間に合わなかった」


少年に亡骸を手渡す。


「うわあああああああ。クロ!クロ!」


少年達が亡骸を取り囲み泣き叫ぶのを見ると、俺も涙が溢れてくる。




◇◇◇

「兄ちゃん。助けてくれてありがとう。兄ちゃんがいなかったら俺達も死んでたかもしれない。クロもちゃんと埋葬してあげる事ができるよ」


しばらくして泣き止んだ少年達からお礼を言われるが、間に合わなかったのでそのお礼を素直に受け取る事は出来ない。


「おい!ガキども、誰か一人付いてこい。あんな場所に灰狼が出たって事を一応ギルドに報告しなきゃなんねえからな」

「じゃあ、俺が行く」


リーダー格の少年がもう一人の子供に亡骸を渡していくつか指示をした後、少年を連れて冒険者ギルドに向かった。


「ああ!ギンさん、ガフさん、無事で良かったです。心配してました」


ギルドに向かうと入り口で立っていたミーサさんが声を掛けてきた。まさか俺達心配してずっと入り口で立って待ってた訳じゃないよな?


「詳しい話を聞きたいので受付までお願いします」


そのままミーサさんに受付まで案内されて、状況を詳しく説明する。


「状況は分かりました。2~3日湧水への道は封鎖して他にも灰狼がいないか調査します。それで、ギンさん、その狼達はどっちの方向に逃げていきましたか?」


あれ?何で狼が逃げた事になってんだ?俺が殺したって言わなかったか?


「うん?逃げてないですよ。3匹とも俺が殺しました。あれ?言ってなかったでした?」

「言ってないですよ!襲われた子を助けたとしか聞いてないです!え?ホントですか?灰狼ですよ、しかも3匹!」

「ギン!お前噓は良くねえぞ。カッコ悪くても正直に報告しなきゃ。また被害が出るぞ」


二人とも信じてくれない。それなら証拠を見せるか


カバンから狼の頭だけを取り出して受付に置く。


「きゃああああああああああ」

「うわあああああああああ」


ミーサさんと少年が悲鳴を上げた。ごめん、少年にはさっき襲われた恐怖があったのに考えなしで取り出しちゃった。師匠は驚きの顔で言葉が出てこないみたいだ。


「あと2匹も出します?」

「いやいやいや!こんな所で出さないで下さい!買取カウンターで出してくださいよ!うわ!机が血だらけじゃないですか!」


ミーサさんはプリプリ怒りながら足元から雑巾を取り出し血まみれの机を拭き始める。


「ギン!お前どうやって倒した?お前の腕なら1匹でも勝てるかどうか怪しいってのにそれを3匹って・・・」


師匠が怪しんでいる。これはマズい。影魔法は言えないからどうするかなあ。よく覚えてないって事でいこう。


「その時は無我夢中だったので覚えてないです。3匹とも気付いたら死んでました」

「そうか・・・まあ無事ならいいさ。それにしても3匹を1人でって・・・多分難易度はEランク相当だぞ」


へえ~。影魔法使うと二つ上のEランク難易度も簡単なんだな。でも見られるとマズいし、頼ってばっかりじゃ自分の力にならないから使わないようにしとこ。


「ミーサちゃん。もう話はいいか?いいんなら買取カウンターに行きてえんだが」

「そうですね。もう大丈夫です。また何かありましたら聞く事があると思いますが、今日はもう大丈夫です。・・・ギンさん・・・あの・・・あまり自分を責めないで下さいね」


師匠と同じ事をミーサさんからも言われる。そんなに落ち込んでるように見えるのかな。




ミーサさんにお礼を言ってギルド外にある買取カウンターへ足を運ぶ。いつも納品ばっかりだから何気にここに来るのは初めてだ。外にあるのは、魔物の血や匂いがギルド内に充満しないように外に設置されているらしい。


「よお、ガフ。何だ買取か?あれ?そう言えばお前らもう復帰したのか?」


買取カウンターにいる髭モジャで筋肉モリモリのオッサンが師匠に話しかけてきた。何でこの人上半身裸なんだろ?


「まだギースのケガは治ってねえよ。今日はギンの野郎の付き添いだ」

「ああ。お前が『最長』か。で?今日は何を持ってきたんだ?」


やっぱり渾名で呼ばれるな。悪意ある感じで呼んでる訳じゃないからいいか。


俺はカバンから3匹の狼を取り出す。取り出した所で、これ『魔法鞄』って思われるんじゃと思ったが遅かった。


「おい、見ろ。『最長』の奴、今カバンから取り出したぞ。あれ『魔法鞄』だ」

「新人の癖して、何て贅沢な物持ってんだ。・・・クヒヒヒ」


後ろから嫌な会話が聞こえ、師匠は呆れた顔をして俺を見ている。


「お前ら、やめとけ。『最長』に手出すと、多分ガフがキレるぞ。ガフを敵に回しても構わねえってんなら止めねえけどな。ああ、あとギースも『最長』を可愛がってるからあいつも敵に回るな」

「じ、冗談だよ。冗談。さすがにあの二人は敵にしたくねえ」


あれ?師匠達って強いのか?そういえばこの街の最高ランクはCって言ってたからDランクの師匠達は上から2番目か。ああ、あと、ギルドから俺の指導任されるぐらい信頼もされてるもんな。


買取じゃなくて後ろの会話を気にしていると、買取のオッサンから声を掛けられる。


「おお、2匹はキレイに首を刎ねてあるな。他に傷はねえから毛皮も高く売れるな。もう1匹は首の刺し傷はいいが、口がバキバキになってんな。どうやったらこうなんだ?まあ他に傷もないしこいつも高く売れるぞ。」


オッサンが何か言う度に師匠が俺を見る目つきが鋭くなる。ヤバい、メッチャ怪しまれてる。


「1匹銀貨1枚で買い取るけど解体はどうする?こっちでやるなら銅貨2枚ずつ引く事になるが?」

「どうせギンは解体出来ねえだろうし、それで構わねえ。ギン、肉と毛皮と魔石はどうする?」

「どうしましょう?」


師匠から聞かれてもどうしていいか分からないので困ってしまう。別に要らないから全部売るのがいいのかなあ。


「じゃあ、毛皮と魔石は売って肉はガキどもに渡すって事でいいか?」

「え?俺?うん!くれるなら貰う!」


師匠が勝手に決めると一緒に付いて来ていた少年が驚いて顔を上げ、言葉の意味を理解すると二つ返事で頷く。


「じゃあ、それで。でもいいのか?その・・・友達食べた奴の肉だぞ?」

「俺達いつも腹減ってるからそんな贅沢言ってられない」


逞しいな。この子はもう友達の死を受け入れてる気がする。それに比べて俺は・・・。


「それじゃあ、明日、もう一度来てくれ。毛皮は銅貨2枚、肉は銅貨3枚、魔石は5枚だ。そこから一匹につき解体費用の銅貨2枚引いて銅貨24枚だけどいいか?」


買取の金額に了承してからギルドカードをオッサンに渡して何か処理をしてもらってからギルドを後にする。


「じゃあ、兄ちゃん達、今日はクロの事本当にありがとう。あと肉も!それじゃあ」


肉が貰えるのが嬉しいのかスキップしながら少年は人混みに消えていった。


「よし、ギン!俺達も『猫宿』行くか?今日は俺が奢ってやる。ガハハハッ」


師匠が俺を気遣って『猫宿』を誘ってくれるのが分かる。だけど、今日はさすがにそんな気分にはなれない。


「すみません。師匠。さすがに今日はそんな気分になれないです」

「・・・・そうか。まあ一晩寝れば気持ちも落ち着くだろ。じゃあ、今日は宿まで送ってやるからそのまま寝てろ。自棄になってその辺うろつくんじゃねえぞ。お前の今の姿はどう見てもカモにされるからな。明日はまた7の鐘に広場集合な」


やっぱり無理やりテンション上げてたみたいで、俺が断ると師匠は申し訳なさそうになる。そうして師匠にいつもの安宿まで送られた後、部屋をとり『自室』に入ると風呂も着替えもする事無く布団に倒れこみそのまま寝た。


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