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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
2章 水の国境都市の新人冒険者
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16話 師匠の家

商業ギルドを出てから二人で北門に向かって歩いて行くと北門の近くで師匠が脇道に入って行ったので、俺もついていくとすぐに2階建ての一軒家の前で足を止めた。


「着いたぞ、ここが俺らパーティが借りてる家だ。今はパーティリーダーのギースしかいねえけどな。他3人は火の国に出張中だ、ほら入れ」


師匠に促されて恐る恐る家に足を踏み入れ中に入ると廊下が伸びてその先は階段になって2階に続いていた。廊下には左に1つ、右に2つ扉があるが、師匠は左の扉を開けて中に入っていくのでついていくと、大きなテーブルのあるリビングだった。


「あれ?いねえな、自分の部屋かな。おい!ギース!降りてこい!」


師匠が部屋に入ると誰もいなかったのか、すぐに廊下から顔だけ出して2階に向かって大声で叫ぶ。


「取り合えずそんな所に突っ立ってないで適当に座れ」


師匠に言われて、部屋に入ると大きなテーブルとイスが5つ置いてあるだけの部屋と奥には多分台所と思われるスペースが広がっていた。俺は言われた通り適当なイスに腰を下ろす。


師匠は俺がイスに座るのを確認すると『魔法鞄』から荷物を取り出し整理を始めだす。俺はその様子を何となく見ていると2階からドシッ、ドシッと足音が近づいてきて部屋の前まで足音が近づいてくると部屋の扉が開きその足音の主は部屋の中に入ってきた。


「何だ?」


部屋に入ってくるなり師匠に向かって疑問を投げかける大男多分この人がギースって人だろう。師匠がパーティリーダーって言ってたよな。それにしてもでけえ!身長2mぐらいありそうだ。しかもスキンヘッドにその顔、どうみても山賊とか盗賊にしか見えねえ。師匠もだけど、二人とも見た目だけで捕まりそう。


「ああ!てめえまた鍛えてやがったな!医者から安静にしてろって言われてるだろ!何やってんだよ!おとなしくしとけよ!」

「動いてないと暇だ。というか誰だ?」


俺が誰か分かっていないのか俺の方を見ながら師匠に尋ねる。


「暇だじゃねえよ!ったく、まあいいか、こいつはギンだ!ほら、指導員の。ギン、こいつがギースだ。一応パーティリーダーやってもらってる」


ギースさんに文句を言いながら俺を紹介してくれたので、俺もしっかり挨拶をする。


「初めまして。ギンです。師匠には指導員としてお世話になっています」


師匠のパーティメンバーなら弟子の俺はしっかり挨拶して師匠に恥をかかせないように丁寧に挨拶をする。


「ギースだ。一応パーティリーダーやってるが実質のリーダーはガフだけどな。しかしガフが師匠?似合ってねえな」

「うるせえ。黙ってろ。折角『猫宿』奢ってやろうとしたのにやっぱり辞めるか」

「怒るな。それより『猫宿』って本当か。金は?」

「いやあ、今日もギンと二人で稼いじまってよ。いくら稼いだと思う?ククク・・・ブフ!ブハハハハ」


商業ギルド出る前から笑いたくて仕方なかったんだろう、師匠は大きな声で笑い出した。


「ギンって言ったな?昨日からガフの奴ご機嫌過ぎて鬱陶しいんだが、今日は何があった?」


笑い出した師匠に呆れたのかギースさんは俺に今日の事を聞いてくる。師匠から今日の事黙ってろって言われてんだけど、どうしよう。


「ガハハハ悪いな。今日の事は誰にも言うなって言ってるからギンは何も言わねえよ。仕方ねえから教えてやるけどよ、金貨36枚だ」

「36枚・・・・・はあ、衛兵呼ぶか」

「馬鹿野郎、別に悪い事して手に入れたんじゃねえよ!こいつを大鼠の討伐中に見つけてよ。120年前のチルラト産のワインだ、1本いくらだと思う?金貨1と銀貨2枚だぜ。そいつを30本売って金貨36枚って訳よ」


『魔法鞄』から下水で見つけたワインを取り出しながらドヤ顔で語る師匠。落ちてる物を自分の物にしてるから日本だと悪い事してんだけどなあ。まあこっちの世界じゃそれは悪い事じゃないみたいだしいいんだけど。


「30本!・・・・いや、お前まだ何十本も残してるだろ?酒好きのお前が全部売る訳ない」

「さすが、ギース。良く分かってんじゃねえか。あと70本ぐらい持ってるぞ。これは俺んだからな、パーティには渡さねえ」

「そんなに金あるんなら少しはパーティ資金を潤せよ。・・・いや、それよりも俺にも少し飲ませろ」

「金貨1枚でいいぜ」

「はあ?ふざけんな!1本ぐらいタダで飲ませろ!」

「そっちこそふざけんじゃねえぞ!こいつは俺のだからどうしようと俺の勝手じゃねえか。しかも金貨1枚にまけてやってんだから感謝しろ」


睨み合う二人の間の空気がかなり険悪になっている。見た目のヤバい二人が睨み合ってるとすぐにでも殴り合いを始めてもおかしくないように見える。


「まあまあ。師匠もギースさんも落ち着いてください。1本ぐらいなら俺が出しますから、師匠、グラスとかってありますかね?」


慌てて二人の間に入ってワインを取り出すと、すぐにギースさんの機嫌がよくなる。


「ギンって言ったか?お前中々見どころあるな。ガフの弟子とかもったいない。こんな腕じゃなけりゃあ俺が指導してやったのにな」


ギースさんは服の袖を捲るとその太い腕には包帯が巻かれていた。見た感じケガの具合は分からないが、安静にしてろって言われてるぐらいだから多分、あんまりよくはないと思う。


「偉そうに。てめえがへましてオークなんざにやられるから俺らが稼げなくなったんじゃねえか」


文句を言いつつもグラスを3つ台所から持ってくるご機嫌な師匠に俺のワインを渡すと、手慣れた様子で蓋を開けてグラスにワインを注ぐ。


「美味い!なんだこの酒!売値で金貨1枚と銀貨2枚って事は普通に買うと・・・」


ギースさんはワインを一口飲んだ途端、驚きの声を上げる。そんなに美味いかなあ?俺が酒に慣れてないだけなのかなあ。


「多分金貨2枚以上だな。いやあそれにしても何回飲んでもうめえなこれ」


師匠とギースさんは二人で美味い美味いと言いながらグビグビワインを飲んでいる。俺はまだ最初の1杯なのに、瓶は既に空になってしまった。


「どうした、ギン?酒あんまり好きじゃないのか?」


師匠と同じで見た目は怖いがギースさんは俺を気遣ってくれる。


「ガハハハッ、ギース聞いて驚け。ギンのやつ酒飲んだの今日が初めてなんだってよ。しかも最初に飲んだのがこの酒だぞ。運が良いのか、悪いのか」

「そうか、そりゃあ、何とも言えないな。俺たちみたいに最初に飲んだ酒がドブみたいな匂いのする酒だとどんな酒でも美味くなるんだけどな」

「しかもだ、ギンの奴今日大鼠で童貞捨てたんだぞ。今日だけで初めてを2回も経験してるぞ、いや今から3回目の初めてか、ガハハハハ!」


師匠もギースさんも少し酔ったのか上機嫌で話をしている。


「そうか、でもこの年でって遅いぞ。俺らの時はいくつだ?・・・確か10歳でゴブリン殺したよな?」


酔ったように見える二人は恐ろしい話を始める。俺が勝てなかったゴブリンを10歳で倒すとかマジで才能の塊なのかな?訓練の時、師匠に攻撃が掠りもしなかったしやっぱり、二人とも強いんだな。


「そうだった、そうだった。あん時はケインが腰にしがみついて、俺とお前で木の棒と石でボコボコにして殺したんだったな?そん時の魔石が鉄銭2枚だったから稼ぎの良い薬草とかの採取ばっかりやるようになったんだな」


師匠の話からカッコよく討伐したようではないみたいだ。あと話に出てきた『ケイン』って誰だろ?今出稼ぎ行ってる他のパーティメンバーなのかな。



「ああ、懐かしいな。ってギンも飲み終わったな、そろそろ『猫宿』行くぞ。ガフの奢りなんだろ。稼げなくなってすっかりご無沙汰だから楽しみだ」

「よし!ちょっと早いが、泊まれなくなるよりはマシだろ。そういや、昼も食ってねえから腹も減ったな。まあ少し高いが『猫宿』で食えばいいか」


出掛ける気満々の二人に少し言い出しづらいが俺はさっきから気になってどうしようもない事を聞いてみる。


「師匠、先に体を洗いたいんですが・・・『洗浄』でキレイになったって言っても今日は下水にいたから何となく気持ち悪くて」

「ああ、そうか。でも宿に着くまで我慢しろ。今洗ってもどっちみち後1回は体を洗う事になるんだから」


よく分からないが、師匠がそう言うなら我慢するしかないか。今日は奢ってくれるって言ってるし。唯さっきからちょくちょく可笑しな事を言われてる気がする。



◇◇◇

そうして3人で広場まで行くと領主の館がある方向に二人は歩き始めたので、俺も後をついていく。二人は迷うことなく足を進めているが、この先は貴族が多いって言われてるから何かトラブルに巻き込まれないか不安だ。ただ、その不安は杞憂だったみたいですぐに大通りから脇道に入って、少し歩くと二人は足を止める。建物の入り口にはベッドのマークが書いてあるので宿屋だと分かる。あと名前の通りデフォルメされた猫の顔が書かれている。扉の上の看板には『猫の安眠宿』と書かれている、略して『猫宿』か。


「ギン!この宿はなかなかおススメだから、場所は覚えておけよ。これからお前もちょくちょく世話になると思うからな。場所が分からなければ『猫宿』で大概通じるからよ。」


そう俺に教えてくれた師匠の後について店に入ると、お婆さんがカウンターに一人で座っている。膝には猫っぽい何かが寝ているが断じて猫ではない。顔は猫に似ているが足が6本あるし、尻尾が見えるだけで3本。


「3人だ。空いてるか?」


師匠は気にした様子もなく銀貨3枚取り出しながらお婆さんに確認する、お婆さんはコクリと頷くと師匠がカウンターに置いたお金を受け取る。


「『最長』に説明はいるかい?」


お婆さんが俺の方を見ながら聞いてくる。俺の渾名やっぱり『最長』なんだ・・・っていうかこの渾名知れ渡りすぎじゃね?


「いや、腹減ってるから飯食いながら俺たちで説明しとくわ、安心しろ、こいつ童貞だから無茶はしねえよ」

「ちょ!師匠!何言ってるんですか?誰が童貞ですか!違いますよ!失礼な!」


本当は童貞だけど恥ずかしいので見栄を張ってしまった。


「あん?ホントか?じゃあ今まで何人とヤッた?」

「・・・・100人ぐらいですかね?」


言った瞬間自分でもアホな事を言ってしまったと思った。100人て何だよ!友達じゃねえんだから、俺の年で100人は嘘だってバレバレじゃねえか。いや友達も100人いねえけど、ノブ一人しかいねえ。


「ハハハ、これなら安心だねえ。ガフそれじゃあ説明は任せたよ」


ババア。童貞じゃねえって言ってるのに信じ・・・・られる訳ねえな。

少し落ち込みつつ師匠たちの後に続いて奥の扉をくぐる。


「「「いらっしゃいませ~」」」


中に入ると、5人ぐらいの可愛い女の子が出迎えてくれたのだが、その格好はTVとかで見る水商売のお姉ちゃんが着ている服によく似ていて明らかに給仕をするにはおかしい格好をしている。店には何人かお客がいるが、まだ時間も早い為、かなり空いている。


あれ、宿屋だよな?最初に泊った宿だと給仕の子は普通の格好だったけど、ここはこういう格好が売りの宿なのか?


「取り合えずビール3つだ。あと料理適当に、ああ、腹減ってるから少し多めに持ってきてくれ。」


慣れた様子で言いながら師匠は銀貨1枚を席に案内してくれた給仕の子に渡す。


「師匠。この店先払いなんですか?いや、それより店の子の格好おかしいですよ?宿屋ですよね?ここ?」

「ああ?何言ってんだギン?先払いなんて当たり前じゃねえか。じゃねえと金持ってねえのに飲み食いする奴等が出てくるからな。まあ、飲み屋だといくら使うか分かんねえからな先にいくらか渡しておいてそこから頼んだ分を引いてもらうんだよ。足りなくなったらまた金を追加すればいいし、余ればちゃんと返ってくるからな。それなら俺らも財布の中を気にしながら飲み食いしなくてもいいし、金が足りねえなんてトラブルも起きねえしな。店側も金額を誤魔化すと一瞬で信用を無くして潰れるからそこは安心していいぞ」


師匠が先払いについて説明が終わると同時にビールが運ばれてくる。うん?何で今給仕の子俺に触っていった?


「よし!お疲れ!」


疑問に思ったが、すぐに師匠がジョッキを持ち上げたので俺も慌ててジョッキを手に持ちギースさんと同じように動いてビールの入った木のジョッキを3人で合わせる。なんか社会人みたいで、自分が少し大人になった気になってくる。


「ぷはあ。うめえ、やっぱり働いた後の最初の一杯は格別だな」

「何言ってるんだ。ガフ、さっきワイン開けただろ」

「細けえ事はいいんだよ。それにしてもギン、やっぱりビールは口に合わねえか?まあ慣れると美味えからよ。大概みんなこればっかり飲むからお前も飲めるようになっておけ」


ビールを口に入れた俺の顔を見てたのか口に合わない事が一発でばれてしまった。日本にいる頃から聞いてはいたけど、ビールって本当に苦いな。何でこんなもん美味しいって飲めるんだ?・・・でも冒険者なら飲めるようにならないといけないなら我慢して飲むか。


そうやってチビチビとビールを我慢して飲んでいる間にどんどん料理が運ばれてくる。腹が減っている俺はビールよりも料理に集中するが、二人は俺に負けないペースで料理を口にしつつ、ビール3杯目を飲んでいる、俺はまだ1杯目の半分しか飲めてないが初めてのビールだから仕方ない。


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自分がビール美味く感じるようになったのは働き始めてからだったな・・・
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