153話 5年後
ここは独立都市シャドウドアール。元々水の国の国境都市だったけど、火の国の騒動で多大な功績を残した影魔法使いの冒険者に褒賞として与えられた街。この街はどこの国にも属していない唯一の独立都市として有名だ。この街最初は旧名のドアールって名前だったけど、影魔法使いが治めていたので、いつの間にか頭にシャドウがついてシャドウドアールと呼ばれるようになった。
「お姉ちゃん!私もう行くからね!」
「ちょ、ちょっと待てフィナ!」
私の呼びかけに慌てて家の奥からエプロンを付けたガルラお姉ちゃんが出て来た。あんまり似合っていないけど作ってくれたヒトミお姉ちゃんが、悪いから私はそんな事言えない。ガルラお姉ちゃんも空気を読んで普段使いするぐらいの気遣いはしているみたいだ。ガルラお姉ちゃん、ヒトミお姉ちゃんに弱いしね。
「何度も言うが、必ず村に寄るんだぞ?あと強そうな奴がいたら私を呼ぶ事」
「は~い」
軽く返事をしたけど、絶対呼んであげない。私が1人で倒す。義妹が今日から世界を回る旅をするっていうのに私の心配じゃなくて自分の欲求を満たそうとするのはどうなの?
お姉ちゃんの態度に心の中で怒っていると家の奥から子供の泣く声が聞こえて来た。
「ファル!!リオが起きたみたいだから見てくれ!!」
お姉ちゃんが大声で叫ぶからリオが更に起きたみたいで泣き声が更に激しくなった。リオって言うのはお姉ちゃんの子供でガルフィリオという名前だ。
里には年に1度帰るという約束だったので、ドアールの復興途中で一度私とお姉ちゃんは里に帰った。帰ると私が族長なのが気に入らない人が大勢いたので全員と手合わせてして族長を認めさせた後、ドアールに戻る時にファル兄が一緒についてきたのだ。そのままお姉ちゃんと暮らして今に至る。お姉ちゃんは街の治安を守る兵を鍛える仕事をしながら、たまに『カークスの底』へ指名依頼が入るとそっちに行っている。ファル兄は意外にも魔道具作成の才能があったらしく色々珍しい魔道具を発明している。と言ってもドワーフの国を建国した天才魔道具師バッジワーグ様の設計図をハイエルフ様が残していたので、それを見ながらだけど。それでもドワーフの人達では再現できないから凄い事だと思う。当の本人は凄い事をしているつもりは無いみたいで楽しんでやっている。
「フィナ。主殿には挨拶はきちんとしていけよ」
「分かってるよ」
一応昨日の夜に旅立ちの宴をしてもらったんだけど・・・また引き止められそうだなあ。
「あらフィナちゃん今日だっけ?気をつけてね」
「フィナちゃん。領主様にこれ持って行って。今朝ウチで採れた野菜」
「フィナ。今日はガルラの所に泊まったのかい?」
街に入ると色々な人から声を掛けられるぐらい、獣人の私達は今では普通に受け入れられている。ドアールの復興を手伝っていた事もだろうけど、私達の強さも知られたからだろう。ちなみにガルラお姉ちゃんの家が街の外にあるのは差別ではなくて、魔道具の暴走でファル兄が一度街中で爆発騒ぎを起こしたからだ。あの時は私は関係ないのにアユムお姉ちゃんに凄い怒られた。
街の外に家があるので万が一を考えて弱いファル兄と赤ん坊のリオはガルラお姉ちゃんが仕事でいない時は私が家にいるか、お兄ちゃんの家に行く事になっている。更に二人にはマーキングもしてあるので攫われても女神様に召喚されるようにして誘拐対策を徹底している。
「フィナ。おはよう。次の街では冒険者の所属変更ちゃんとしてね」
冒険者ギルドにも挨拶に向かうとミーサさんが受付に座っていたので挨拶をする。ドアールの復興が終わった後、女神様達は宣言通り世界中を周り各地で大騒ぎを起こしていた。そして何がどうなったのかよく分からないまま獣人でもエルフでも奴隷であろうと冒険者登録が可能となったので奴隷で獣人の私も今ではDランク冒険者だ。一応この街のC以上の冒険者は風か水の所属になるらしいので『D止め』している。
「最初はお兄ちゃんと同じで水都周辺に居着こうかなって考えてます」
「ギンさんと同じね。その後は闇の国?」
「そうですね。大体1年ぐらいかけて水と闇とサイの国を探そうかなって思ってます。それで実家に里帰りして、フランに会いに行ってから同じように砂と風と光を1年ぐらいかけてから戻ってくる予定です」
今回の旅の目的は私達の村が襲われて攫われた獣人の捜索だ。いまだに4人が帰ってきていないので、各国にも協力してもらいずっと探しているが見つかっていない。自分達でも女神様の『召喚』を使わせてもらい世界中を探したが見つかっていない。今回私は自分の足で世界中をじっくり探すつもりだ。もう一つの目的は不当に奴隷になっている獣人やエルフがいないかの調査だ。あの後、女神様の命令で各国との「りゅうがく」は始まり人族との距離はかなり近くなったけど、それでも昔ながらの悪い考えを持った奴ってのは残っていて隙あらば攫って奴隷にしているらしいので、そういう悪い奴を懲らしめる事も目的の一つだ。
後は誰にも言ってないけど、私もお兄ちゃん達みたいな『冒険』がしたいっていう目的がある。私も奴隷としてあの『冒険』について行ったけど、結局あの『冒険』の主役はお兄ちゃん達で私は端役でしかなかった。だから今回は私1人世界中を回って私が主役の『冒険』をするつもりだ。
「2年もこの街を離れるのか~。寂しくなるな~」
「その頃にはミーサさんのお腹の赤ちゃんも生まれてますから、寂しいとか言ってる場合じゃないと思いますよ」
ペンを指でコロコロ動かしながら拗ねたように言ってくるミーサさんだけど、そのお腹は見ただけで妊娠している事が分かるぐらい大きくなっている。多分後二カ月もしない内に生まれるだろう。そして目の前のミーサさんは、今や『カークスの底』専属の受付嬢で世界中で有名になっている。それもこれも世界中から『カークスの底』じゃなくても対応できるような指名依頼が殺到して、それがドアールの復興の妨害レベルまでになったから、お兄ちゃんが怒ってしばらく依頼を全く受けない時期があった。それを旦那さんのギルマスと依頼を受けるように説得したのがミーサさんだ。お兄ちゃんも新人の頃にお世話になった二人のお願いは断れず、条件としてミーサさんが専属になって下らない依頼は回さないって話になった。最初はミーサさんに対して賄賂や貴族からの圧力なんかあったみたいだけど、そういうのは各国の王様達へ苦情を回して対応してもらった。まあ、お兄ちゃんは水都にいるリマさんとクオンさんって知り合いの依頼は極秘で受けてたりするんだけどね。
「水都に行ったらリマとクオンっていう受付嬢にこれを渡すと色々よくしてくれると思うよ。フィナちゃん慣れ過ぎて忘れているかもしれないけど、この街以外だと獣人はまだあんまり良く見られていないから、気をつけてね」
ミーサさんから手紙をもらい、ギルドを後にする。途中知り合いの冒険者から声を掛けられるので手をあげて対応していく。そして旧貴族街の最奥に建つ領主の館に向かう。前の領主の館はボロボロだったので、今は風の国でアユムお姉ちゃんが使っていた館が代わりに建っている。ちなみにその後ろに建つ街壁の向こうはガルラお姉ちゃんの家なので、面倒くさい時は壁を飛び越えてくる。飛び越えてくるのがバレるとアユムお姉ちゃんにもの凄く怒られる。
「あれ?フィナ?昨日挨拶終わらせたんじゃないの?」
敷地に入ると洗濯物を干していたサーリーさんが声をかけてきた。この人もお兄ちゃんが新人だった頃からの知り合いで、今は二人の旦那さんを持ち、子育てしながら領主の館で働いている。
「お姉ちゃんからちゃんと挨拶してから行けって言われた」
「あちゃ~。ギンの奴朝から落ち込んでたからまた引き止められるわよ」
う~ん。その情報は聞きたくなかったけど、『探索』で私がここに来た事がバレたみたいで館からみんなが玄関に向かって集まってきている。
「フィナ!どうした?やっぱり旅に出るのやめたか?」
玄関を開けると勢ぞろいでお兄ちゃんが顔を輝かせて聞いてきた。そんなに明るい笑顔で言わないでほしいな。
「やめてないよ。挨拶に来ただけ」
その言葉にお兄ちゃんの顔が絶望に染まっていく。そんなに心配なのかな?
「フィナ、辛かったらすぐに戻ってこいよ。『念話』よし、『マーキング』よし、『リング』の魔力補充よし、『転移石』よし、そうそう昨日遅くにダルクさんから上級ポーション届いたからこれも持って行け」
「・・・アハハ・・・ありがとう」
お兄ちゃんが影から出した100本の上級ポーションを引き攣った笑顔で受け取る。本当にお兄ちゃんは心配性だな。
「もうギンジ君は心配性だなあ。フィナちゃんが怪我する事なんてほとんど無いと思うし、しても自分の回復魔法で何とかなるんじゃない?」
「ヒトミ、万が一って事もあるから!俺もフェイの時にポーションほとんど無くてヤバかったから用意しておいて損はないぞ」
お兄ちゃんの言葉にみんな呆れた笑いをしているから、私と考えている事は同じなんだろう。
「フィナならそんな心配ないと思うけど、一応気を付けてね。あと珍しい食材や調味料があったらお土産宜しく」
何でもこっちに来る前の国の料理を全て再現するのが目標だと言うレイお姉ちゃんは料理の研究にハマっている。私達も美味しい料理を食べられて嬉しい。最近は街で料理屋を経営して繁盛している。しかもその店では料理のレシピを開示して食材さえあれば誰でも作れるという。レイお姉ちゃんはそこから更に誰かが改良した料理を開発してくれるのが狙いだと言っていた。
「ふあ~。私はフィナの顔見たし、もう寝るわ」
大きなあくびをしてエレナ姉が階段を上っていく。今ではスーティンさんとサラちゃん共に『猫宿』を二店舗経営している女将だから、客をとる事は無いけど帳簿付けたり片付けしたりと明け方まで起きて色々やっていたんだろう。
「フィナが帰って来た時にはこの子生まれてるわね」
「帰って来た時の楽しみにしているね」
アユムお姉ちゃんが大きくなったお腹を撫でながら言ってくる。多分ミーサさんと同じ時期ぐらいに生まれるだろう。二人目だし、レイお姉ちゃんと女神様がついているから心配はしていない。それよりも心配なのは領主としての仕事が回らなくなる事だとガジ君が言っていた。そう、アユムお姉ちゃんは今やこの街の領主様だ。2年前までお兄ちゃんの補佐として領主代行をしていたんだけど、お兄ちゃんが街も十分復興したって事で領主やめて冒険者に戻った後を継いだのがアユムお姉ちゃんだ。最初は立候補を募ったみたいだけど、お兄ちゃんの後を継ぐのは恐れ多いって事で誰も立候補がいなくて、色んな人から頼みこまれてアユムお姉ちゃんが渋々引き受けたらしい。あの時アユムお姉ちゃんが継いでくれなかったら私を指名していたとお兄ちゃんから聞いた時はものすごく焦った。
「さて、それじゃあ私も仕事してこようかしら」
「私は準備してこようっと」
執務室に戻るアユムお姉ちゃんにヒトミお姉ちゃんがついていく。ヒトミお姉ちゃんは今は孤児院で子供達に読み書き計算を教えている。私も教えてもらったけど、ヒトミお姉ちゃんは教え方が本当に上手く今では孤児だけでなく孤児院以外の子供にも教えて欲しいと頼まれて結構生徒の数が多い。
「今日はアンナ達が遊びに来るらしいから、ギンジはアンナ達が来るまで子供達の面倒みててね」
「あいつらまた来るのか?」
お兄ちゃんが呆れたように言うのも分かるぐらい女神様達は大森林から気軽に遊びにきている。逆に来ない日が珍しいけど、子供の面倒を見てくれるので助かっている。今やお兄ちゃんは奥さんが4人に子供7人の大家族だ。これでアユムお姉ちゃんの子供が生まれたら8人になるけど、各国ともお兄ちゃんに側室でも愛人でも何でもいいから送る機会を伺っているとフランから聞いている。お兄ちゃんも直接言われているみたいだけど全て断っているそうだ。
「アンナ達が来たらギンジもギルド行けるんだからいいじゃない」
「まあそうだけど・・・あいつら気まぐれで来るから俺の予定が組みにくいんだよ。こっちだって仕事してるんだぞ」
お兄ちゃんは今は『指名依頼』があればそっちをやっているけど、無い時はお師匠さんから教わった事を格安で新人冒険者に教えている。その教え方は『ガフ流指導法』として本にまとめて世界中のギルドに配布されているので新人冒険者の死亡率はかなり低くなったとミーサさんが嬉しそうに話していた。
そしてこの街には属性魔法を極めている『紫光』のレイ、『白炎』のヒトミ、『黒水』のアユムの3人の二つ名持ちがいると有名なので魔法使いがその教えを乞いに訪れるようになった。その魔法使いの多くは3人の教えを習得しようとこの街に居座るのでこの街の冒険者のレベルはかなり高いそうだ。新しい二つ名については、レイお姉ちゃんとヒトミお姉ちゃんは『撲殺』と『切り裂き』から変わった事に喜んでいたし、アユムお姉ちゃんも二つ名がついてまんざらでもない様子だった。それでこの街に多くの魔法使いが所属するようになり各国からは苦情がきてるから、せめてその教えを世界中に広めろとフランから言われている。一応魔法学校みたいなの作るかみたいな話になっているから後は3人に任せておけばいいだろう。
最近は各国からお兄ちゃん達への苦情はフランが窓口になって私に言われるようになったんだけど、私に言われても困るんだけどな。
「おはようございます。あれ?フィナまだ出発してないのか?」
声が掛かったので振り返ればガジ君が子供を抱っこして立っていた。ガジ君は一度孤児院の仲間とサラちゃんを連れて冒険者になって街を離れた。サラちゃんが街を離れた時はエレナ姉が店が忙しくて困ると嘆いていたけど1年ぐらいしたら冒険者をやめてこの街に帰って来た。冒険者としての才能が無かったとガジ君は言っていたけど、本当はサラちゃんの押しに負けたと他の子から聞いた。戻って来たらすぐにサラちゃんと結婚して今はお兄ちゃんの頼みで領主補佐として仕事している。
アユムお姉ちゃんからは既に後継に指名されているけど、ガジ君は孤児の自分に領主なんて冗談だろとか思っているみたいだけど、既に有力者への根回しは完了している。サラちゃんは戻って来たらすぐにエレナ姉に『猫宿』女将として働かされた。今はスーティンさんと3人で女将として2店舗を回しているが、子育てが一段落したら水都への出店も考えていると聞いた。そしてガジ君、サラちゃんと一緒に冒険者になった残り二人は料理が得意だったので今はレイお姉ちゃんの料理屋を任されている。
「もう出るよ。サラちゃんにもよろしくね」
「ああ。分かった。気を付けてな。・・・兄ちゃん、アユムさんは?」
「仕事してるぞ」
「はあ~。今日は俺に仕事任せるって話だったんだけど、本当に働きすぎだよ」
「なんだかんだ楽しいらしいぞ」
「兄ちゃん、今度サラにその言葉聞かせてよ」
「俺よりもエレナの方から言ってもらうか。そっちの方が効くだろ」
「ハハハ、そうだね。じゃあ俺は仕事にいくから。兄ちゃん、子供よろしく。フィナも気をつけてな」
そう言ってガジ君は自分の子供をお兄ちゃんに預けて執務室に向かった。さて、私もそろそろ出発しようかなと思ったら、足元が白く輝いて魔法陣が現れた。この家では特に珍しくない光景なので、誰も騒ぐことなくその様子を見ていると、ほぼこの家の住人と化している4人が現れた。女神様、ハイエルフ様、タマにテツさんの4人だ。他に女神様は2人、ハイエルフ様は1人自分の子供を抱っこしている。
「セ~フ!良かったフィナまだ出発してなかった」
「嫌じゃよ~。ママと離れたくないよ~」
出て来た瞬間のやり取りでものすごく嫌な予感がした。タマだけが旅装で泣きじゃくっているのが、また不吉だ。
「黒龍殿、いい加減泣き止め。こうなったらアンナは誰にも止められん」
「ウウ・・・グス・・・ママあああああ」
「ほら、そういう所!タマは500年ずっと待ってたんでしょ。2年ぐらいどうって事ないわよ。それに偶には帰ってきていいし、必要な時はちゃんと喚ぶから」
「偶にはってどれくらいじゃ?」
「う~ん。1年ぐらい?」
「嫌じゃああああ。毎日会いたいよおおおお」
テツさんに子供を渡すと女神様が優しくタマを抱擁する。タマは最初5歳ぐらいの見た目だったけど、今では私と変わらないぐらい成長して、変化していると尻尾や羽根も消えている。頭を触ると2本の角があるのがようやく分かる所以外は、出る所もしっかり出てる黒髪の美女になっている。なんでたった5年でここまで成長したのか聞いたけど、『ママがいるからじゃ』とよく分からない答えが返って来た。深く聞いたけど本人もよく分かってないようだし、気にしないようにしてるけど、体の一部がもうそろそろ負けそうなのが気になって仕方ない。病気で死んだお母さんは大きかったって聞いたんだけど、お父さんの方の血が濃く出たんだろうか?
「はあ~。分かった。それならフィナの許可が貰えた時もOKにしましょう?」
ここまでの流れでなんとなく想像していた事が確信に変わった。
「わ、私ですか?な、何でしょう?」
このままとぼけた振りして誤魔化せないかなと思ったけど、女神様はそんなに甘くない。
「フィナの旅にタマもついていかせるわ。その間はフィナの言う事には逆らわないように言い聞かせてあるから心配しないで」
タマとは結構訓練しているから実力は私の方が上だと知っているけど、本気の竜形態は私でも危ない場面があるし、街中で喧嘩とかなったら、心配しかないな。っていうか私の許可なくついて行かせるの決定なんですか?
「そんな顔しないの!大丈夫だから、タマ分かったわね!フィナの言う事聞かないと私の所に帰る許可貰えないからね!」
「うう・・・グス・・・分かったのじゃ」
「よしよし、タマはいい子ね。だからいい加減親離れしようね~。この旅で良い人を見つけてくれるといいんだけど」
「嫌じゃ。儂の相手はママしかいないのじゃ」
「う~ん。嬉しいけど私もタマも女だからね~それだと子供が出来ないな~」
「じゃあ、テツでいいのじゃ」
『じゃあ』って、そんな理由で相手を決めてもいいのかな?
「テツか~。テツは最後の手段かな~。それよりもタマの好きなタイプはどんな人なの?」
「ママじゃ。ママみたいに強くて優しい人がいい」
「ママか~。それならツッチーはどう?私より強くて優しいわよ」
おっと!いきなりお兄ちゃんに白羽の矢がたった。お兄ちゃん滅茶苦茶動揺しているけどガジ君の子供落とさないでね。
「あいつは儂とフェイを殺そうとしたから優しくないのじゃ」
「そっか~。それならまずはタマより強い人を見つけようか?人じゃなくても竜でも魔物でも何でもいいわよ。見つけたらその時は旅を終えて帰ってきてもいいって事にしよう」
「ホント!分かった!儂より強い奴を見つけてくるのじゃ」
タマより強い人とか魔物とかっているのかな~。ドワーフの国のある山脈の奥にいる火竜王が強いって聞いたけど、ガルラお姉ちゃんが倒したんだよな~。『フィナより少し弱いぐらいだった』って褒めてるのか馬鹿にしているのか分からない感想言われたけど、殺してはいないみたいだから行ってみるのもアリかな。・・・・っていつの間にかタマがついてくる前提で考えてる!!
「それじゃあ、フィナ、タマを宜しくね、この子フェイと色々街を訪れていたらしいけど常識を知らないから色々教えてあげてね。フィナの強さと賢さで世界を旅しても絶対楽しくないからタマを連れてく『縛りプレイ』で旅が更に楽しくなると思うわ」
「はあ・・・ありがとうございます・・・」
何だかよく分からないまま女神様にお礼を言ってしまった。気付いた時にはお兄ちゃんが頭に手を当てていた。しまった!いつの間にかタマ連れて行くの了解しちゃった??
「ママの命令じゃ。大人しくフィナについて行くのじゃ。ただし毎日ママの所に帰ってもいいと許可しろ」
「タマ~。そんな事したらあなたを旅に出した意味ないじゃない。フィナ許可出すのは1月に1回までね」
女神様から頭を鷲掴みにされて痛がっているタマを見ると折角の旅立ちが台無しだ。だけどまあ、今日からは本当に私とタマだけで誰も助けてくれない。私の冒険が始まると思うと気持ちが昂る。
「それじゃあ、行ってきます」
「フィナ、毎日帰ってきていいからな」
お兄ちゃん、残念だけど2年は帰りません。『念話』も必要な時以外は使いません。と言うとお兄ちゃんまた絶望した顔になるから言わないけど、最後にみんなにお別れをしてから私はドアールの街を後にした。
「タマ、今日からあなたはミラって呼ぶからね」
街を出た後、指を噛んで時々名残惜しそうに後ろを振り返るタマに声を掛ける。
「何故じゃ?」
私の言葉に噛んでいた指を離して不思議そうに聞いてくる。
「真名知られたくないんでしょ?」
「そうじゃな。あんまり知らん奴に呼ばれたくないから分かったのじゃ」
「よし!それじゃあ、ミラ!冒険に出発!」
これで終わりとなります。お読み頂きありがとうございました。更新優先にしていた為、感想に返事を返せず申し訳ございませんでした。誤字、脱字報告、感想ありがとうございました。