152話 ドアールの復興
「しかし、先輩が国王になり、目の前の方々が勇者様だとはいまだに信じられません」
「エディック子爵、我が夫からも説明を直々に受けたのでしょう?なら疑問を挟まない事ですね。それに目の前にいるハイエルフ様が見えないのかしら?しかも先程女神様にお願いして、わざわざあなたの為だけに黒龍様が元のお姿に戻られたのをお忘れかしら?」
「・・・・いえ、ソフィア公・・・ソフィア王妃様・・・先輩~」
師匠達に偉そうな態度だったエドワードが情けない声をあげて水の国の国王に助けを求めている。
「ソフィア様じゃなかった・・・ソフィア、あんまりエドワードをいじめないでくれ。これでもかなり優秀な人材でこれからの水の国に欠かせないからな」
「あなたがそう仰るなら私からは何も言いませんが、女神様達のお手を煩わせた事だけは私達ではどうにもできませんから直接謝罪して許して貰いなさい」
「ハッ!畏まりました」
これからこの国は王妃様が実権を握るな。
「女神様、黒龍様。この度は「ああ、別に気にしてないから。ソフィアも私達に変に気を使い過ぎなのよ」
今のやり取りはすぐ隣でやってて聞こえてたから、謝罪にきたエドワードをすぐに溝口が許した。ソフィア王妃が呆れたようにこっちを見ているのは、伝説の女神様だからもう少し威厳を持って欲しいとかそういう事なんだろう。ロレンツィオにそんな不満を言っていたと教えて貰った。
「ソフィア様、本当にエドワードを宰相にするおつもりなんでしょうか。我が家の爵位は子爵で『水無し』なので他の貴族がついてくるとは到底考えられないのですが」
エドワードの奥さんのカーラさんが不安そうに王妃様に尋ねている。この人は元々男爵家の出身らしいけど、学生時代にエドワードに見初められて貴族としては珍しい恋愛結婚をしたそうだ。そこがレイ達を刺激したのか馴れ初めを教えて貰ったレイ達のこの人に対する好感度はかなり高い。
「カーラよ、我が国の貴族はほとんど火の国に殺されたらしいからそこは気にするな。それに子爵が国王になったのだ、宰相が子爵でもおかしくはないだろう?まあ、すぐにお前達は侯爵にあげる予定だがな」
「こ、こ、侯爵??私もエドワードも『水無し』ですよ!上級貴族の作法なんて学んでいません!」
爵位があがる事にカーラさんは悲壮な顔でソフィアに叫ぶ。さっきから『水無し』って何の事だろ?
「作法などどうでもよいとアメリア王女が言っておったから大丈夫だ。それに作法や爵位よりもお前達にはもっと重要な事がある」
「な、何でしょう?特に思い当たる事は無いのですが・・・」
「まずはエドワードだ。我が夫が信頼しておるし、学生時代の後輩だそうじゃないか。色々意見を出しやすいし我が夫も相談しやすいだろ。そして影の勇者様からも好意的に捉えられている。そなたもいきなり女神様達と仲良くなっておったではないか。これはとても大事な事だ。今後必ず我が国では一悶着起こる、その時に勇者様達が助けてくれるのとくれないのでは大違いだ。恐らく勇者様の助けがあれば城の中だけで事は終わるが、助けが無ければ我が国では血が流れるだろう」
隣で物騒な話が聞こえてるんだけど・・・
「ソフィア!あんた聞こえるように言ってるでしょ!心配しなくてもあんた達に非がなければ助けてあげるわよ」
「あら、私とした事が声を荒げてしまいましたわ。オホホホ」
水谷の突っ込みにワザとらしく王妃様が笑っているけど、俺達に聞こえるように言ったのは絶対確信犯だな。
「ヒトミ、さっきの話で出ていた『水無し』って何の事か分かる?」
博識のヒトミに聞いてみる。
「『アクア』が名前にあるか無いかだよ。無い人達は水の国では新興貴族で『アクア』がつかないから『水無し』って言われて歴史ある名門貴族から馬鹿にされているらしいよ」
へえ~。って事は水の国で俺が潰したデブ貴族の家は名門貴族だったのか。そう言えば影商人がデブ貴族の派閥を切り捨てないと、とか言ってたから派閥作ってるぐらいにはでかい家だったんだな。もう無いけど、弟がまともだったら復活出来ないかお願いしてみよう。復興したら執事の爺さん達も喜ぶだろう。
「それでは皆様大変お世話になりました。何かありましたら微力ですがお力になります」
「慌ただしくすみません。城に戻った貴族が好き勝手やろうとしているみたいですぐに戻らないといけなくなりました」
火の国から解放された水都に今まで避難していた貴族連中が戻って各自好き勝手な指示を出して水都が混乱しているとの報告が昨晩あったので、国王たちは軍を率いて城に戻って行った。そして他の国と同じように文官1人と兵9人を好きに使っていいと言い残していった。
「さて、今日からみんなを蘇生していくんでしょ?どこでやる?の前に兵の配置も考えないとだね」
「この街の入口は3か所だから毎日国ごとに3人ずつで門番させて、残りは瓦礫の撤去作業ね。文官は蘇生で目覚めた人達に説明していく係でいいんじゃない?蘇生場所は適当な大きい建物使えばいいでしょ」
水谷の提案に特に反対する理由もないので、俺達は各国の人達に指示を出してから領主の館に向かった。
「それじゃあ、昨日エドワードにこの街の有力者の名前書いてもらったから、この人達優先で蘇生して、終われば土屋の知り合いからでいいわよね」
水谷が紙を渡してくる。こいつ、いつの間にそんな事聞いてたんだ?
渡された紙には名前が30人程書いてあるが、知っている人の名前はギルマスぐらいだけど、誰がどこの所属か書いてあるので分かり易い。取り合えず最初は10人を影から出してレイに蘇生をお願いすると全員無事蘇生に成功した。更に次々とレイは蘇生を成功させていき、紙に書いてある30人はすぐに蘇生する事が終わった。
「う~ん。まだ魔力あるからもう少しいけるわよ」
大きく伸びをしながらレイが言ってくる。これだけ蘇生してもまだ魔力切れ起こしていない事に全員驚いている。蘇生魔法は実際にどれぐらいの魔力を使うのかよく分からないけど、話を聞いている限りだとレイの魔力量は西園寺と比べてかなり多いって事だ。
「レイってやっぱり魔力量お化けじゃない?私達の中で一番魔力あったのフェイだけど、フェイより多いんじゃない?」
「確実に儂より多いじゃろ。本当に末恐ろしい奴らじゃ」
溝口とフェイが呆れているが、それよりも魔力が残っているならさっさと蘇生をしていこうと考えて、知り合いの冒険者から優先して蘇生をしていく。冒険者なら瓦礫撤去みたいな力仕事得意だし、何かあったら自分達で生きていけるからな。
「ふい~。ごめん、これ以上は多分無理」
50人連続で蘇生した所で、レイの魔力が切れたようだ。レイは大丈夫そうな顔をしているが魔力切れが心配だ。
「レイ、大丈夫か魔力切れ初めてだろ?」
「切れては無いけど、これ以上は何となく無理って分かるのよね。それに魔力ポーション高いし貴重だから大丈夫よ」
レイは俺が差し出した魔力ポーションを断る。確かに1本金貨1枚だから普通の冒険者なら使用を躊躇うが、俺達は別に金に困ってはいないので遠慮する必要はないと言ってもレイは飲んでくれなかった。
「魔力ポーションなんか使っても回復量なんて下級魔法1回より多い位だからあんまり意味ないわよ」
そう言えばカイルは土槍使ってポーション飲んでしばらくしてからしか使えなかったな。そう考えると魔力ポーションってすごい微妙に感じるな。
「そんなに回復したいなら手伝ってあげようか?」
「出来るのか?」
「私の召喚魔法なら誰かから魔力を取り出してそれを相手に送り込む事が出来るわ、マリも極偶にこれで魔力回復してたから。・・・・唯この方法一つ問題があるんだ」
溝口が言いにくそうにしているって事はあんまりおススメしたい方法じゃないようだ。それなら無理させる必要は無いけど一応理由だけは聞いておこう。
「魔力が回復する時って物凄い気持ち良くなるのよ。まあツッチーがいるし、私もテツがいるからいいか。ツッチーは、魔力が残り少なくなったら教えてね」
溝口が理由について教えてくれたら俺がその理由について考える間もなく手を繋がれた。そして、
おお!魔力吸われてるな。へえ~これが魔法使ってるって感じなんだ。影魔法使ってる時に感じないのは何でだろう?影魔法ってあんまり魔力使って無いからなのかな?
理由について考える前に体から何かが吸い出される感覚に驚きと納得する俺だが、
「くっ・・・ああっ・・・・くああああ」
「ああ・・・ちょ・・・・クッ・・・・」
レイだけじゃなくて溝口も苦しそうにしている・・・いや、気持ちいいって言ってたから苦しんでいる訳じゃないのか。そしてすぐに魔力の回復が終わったみたいだが、二人とも目が座ってて口から少しよだれを垂らしていて見るからにヤバい事になっている。
「ツッチー!『自室』!テツ!行くわよ!」
「お、おう?」
俺は溝口に言われるままに自室を出すと、テツを連れて部屋に急いで飛び込んでいった。珍しくタマは溝口から離れてフェイに抱き着いている。
「ギンジ!早く蘇生するわよ!さっさとして!」
こちらも目が座っているレイが俺に鬼気迫る勢いで叫んで怖いので死体を出すと、どんどん蘇生していきすぐに追加の50人の蘇生が終わった。
「終わったわね!ギンジ!私達も行くわよ」
「え?ど、どこに?」
「いいから来なさい!」
未だに目が座っているレイが怖いので言われるまま自室についていった。
「ただいま~」
サッパリしたレイが元気よく扉を開けると、みんなで迎えてくれた。周囲に蘇生した人はいないのは既に目覚めて文官達の説明により各自自分の仕事を始めたからだそうだ。蘇生した人達へは戦争で大けがをしたけど神官がようやく派遣され治療されたから目を覚ましたって嘘で通すらしい。文官の中に『話術』や『偽装』スキル持ちがいるらしいので心配する必要はないだろう。
「おかえり。今丁度アンナから聞かされたけど、理由聞いたらくだらなさすぎて心配して損したわよ」
「くだらないって何よ!アユムもどれだけつらいか一回体験してみればいいじゃない」
戻って来るなり水谷が呆れたように言うもんだからレイが軽くキレる。確かにアレは辛かったんだろう、その被害が俺に来るのは仕方ないけど、とばっちりで待木を巻き込んだのは悪いと思っている。見ると待木はまたやつれている、ちゃんと股間に『治癒』使ってんのかな?
「レイちゃん、どれぐらい辛いの?」
「最初に自室で自分の部屋だしてもらった気持ちいい感覚が数分続くって考えればいいわよ」
「げっ」
「う、嘘・・・それ結構辛いね」
「でしょ?」
「そうよこの魔力回復かなり辛いのよ。当時の私とマリは相手がいなかったから本当に必要な時以外は絶対使わなかったもん。でもまあ今はテツがいるし、レイはツッチーがいるからね」
そこは使う前にもう少し詳しい説明が欲しかったな。
「それで?まだ蘇生するの?っていうか後何人ぐらい残っているの?」
「まだ5000人ぐらいは残っているな。このペースだと全員蘇生できるのは50日後か」
「まあ、1日100人のペースでいいんじゃない?いきなり蘇生しても食料とかの調達大変そうだしね」
水谷の言う通りいきなり人が増えても街が略奪された後だから食料の調達が大変だな。最初は俺達の手持ちの魔物肉を提供していけばいいけど、いずれそれで賄うのも無理になるから早いとこ街を建て直さないと。俺達は基本全員の蘇生が終わるまでは街の住人に顔を合わせず、全員の蘇生が終わった後に領主として街に戻って来た事にする予定だ。アレス達の派遣した文官はかなり優秀だし、その辺は上手くやってくれるだろう
そして、それから約1カ月が経った。冒険者連中や商人、街の有力者なんかの蘇生は完了して、今は住人の蘇生をしている。
「ふう、ギンジ、いい加減にして」
いつものように蘇生の準備をしようとすると、レイから呆れたように言われた。
「アンナ達は少し家の中で待ってて」
「は~い」
レイの言葉を素直に従って溝口達は俺が出した扉から自分の家に入って行き、俺達カークスの底のメンバーだけがその場に残った。これは事前に溝口達には話をしていたんだろう。
「ギンジ、いつまで引っ張るの?」
「エレナさんまだだよね?」
うん、バレてたか。レイとヒトミから詰め寄られる。頬を膨らませているヒトミは結構本気で怒っている顔だ。
「土屋が日に日に元気が無くなっている理由ってそのエレナって人なの?」
水谷でもわかるぐらい俺って元気なかったのか。
「そう、ギンジが好きだった人」
「ギンジ君が師匠さんと同じぐらい大事に思っている人だよ」
2人ともそんな恥ずかしい事を暴露しないで欲しい。
「なら!なんでさっさと蘇生しなかったのよ?」
「・・・・会うのが怖いってのが理由かな」
「怖い?」
「俺ってエレナに振られてるんだよな。だから会っても気まずいだろうけど、会って話がしたいってよく分かんない気持ちになってるんだ。それに良い人がいたら躊躇いたくないって言ってたから、もしかしたらもうエレナには恋人がいるかもしれない。あんまり恋人と一緒に楽しそうにしている姿を見ると辛くなりそうだなって」
情けないけどこれが俺の本当の気持ちで、これが今までエレナの蘇生を後回しにしていた理由だ。
「プッ!ククク!アハハハハ!」
「アハハハハ!」
「ちょ、プっ!ちょっとククク、笑ったらギンジ君に悪いよ・・・ククク」
俺が真面目に答えたのに3人とも笑い出しやがった。よく見ればガルラとフィナもそっぽを向いて肩を震わせている。そんなに面白い事言ったか?
「何よ、そんな事考えてたの?世界中で暴れ回った『カークスの底』のリーダーが何情けない事言ってるのよ」
そうか?暴れ回ってたのはレイ達だと思うけど?
「そうそう、あんた各国の王様達相手に全く物怖じしてなかったじゃない、それに比べたらこんなのどうって事無いわよ」
それは結構レイと水谷に任せていたし、アレスは結構親しみやすかったからだ。
「伝説のフェイちゃんとタマちゃん相手にして1人で勝つ人がそんな事で悩んでいるなんてどうかと思うよ?」
伝説のフェイちゃんタマちゃんって言い方はどうなんだ。しかもヒトミも軽く酷いな。
「そうか?」
「そうそう、意外にこういうのはあっさり行く事が多いって」
「ほら、さっさと終わらせよう、いい加減こっちも気を使うのも疲れるのよ」
「レイ達があんたの事本当に心配してたんだから、さっさと安心させてやりなさい」
そうか、思っていた以上にレイ達に心配かけていたんだな。それなら不安だけど俺も覚悟を決めるか。
「はあ~。分かった。覚悟を決めるよ」
これ以上みんなに余計な心配をかけるのも駄目だと思い、俺は覚悟を決めた。ベッドに影を伸ばし、そこにエレナを横たわらせる。
「ちょ!これって!」
「ひ、酷い!」
「・・・っ!!!」
エレナの顔はあの時の酷い状態のままだったので、それを見て3人とも驚く。俺は金子達への怒りが湧いてくるが、すぐにエレナが光に包まれて顔の腫れが引いて綺麗な顔に戻った。
「へえ~。これが土屋の好きだった人ね~。・・・・チッ!」
元に戻ったエレナをマジマジと見ていた水谷だったが、自分と大きく違う体の一部に気付くと舌打ちして俺を睨む。俺何も悪い事していないんだけど。そして何か不思議そうな顔で自分の手を眺めているレイ。
「レイちゃん?どうかした?」
「いや、何でもない!『蘇生』」
動きが止まっていたレイにヒトミが呼び掛けるとすぐにレイが普段は全く唱える事はない簡単な詠唱を唱える。包まれていた光が消えると、エレナの胸がゆっくりと上下し始めた。それだけで俺は色々思い出して泣きそうになってくる。
「俺はここでエレナが目を覚ますまで待ってるから、みんな好きにしてくれ」
と言ってみたけど、誰も動こうとせずにみんなエレナを見つめている。そして大体1時間ぐらい経っただろうか、
「う・・・う~ん」
あの時最後に『念話』で聞いたエレナの声が部屋に響く。
「ふ、ふあ~。ん?ここどこ?」
寝起きのような声をあげてようやくエレナが目を覚ましてくれた。
「あ、あれ?・・・・ぎ、ギン?な、何で?」
「エレナ。良かった。目が覚めたか」
身体を起こしながら周りを確認していたエレナはすぐに俺に気付いて驚いている。目覚めて急激な動きをさせるのはマズいと知っているので、できるだけ優しくエレナを抱き締める。記憶の中にある変わらない抱き心地に、今までの色々な出来事を思い出して涙腺が緩んでしまう。
「ど、どうしたの?ギン?まだ水都にいるはずでしょう?」
「終わった。もうそれは終わったんだ。良かった、本当に良かったよ、エレナ」
自分でもきちんと受け答え出来ているとは思ってないけどエレナが目を覚まして嬉しい、ただそれだけだ。
「ちょっと、ギン!一体どうしたのよ?あなたもう泣かないってガフ達に約束したでしょう?」
「いいんだ。・・・今なら師匠達も絶対許してくれる。良かった。本当に良かった」
師匠達にもう泣かないって約束したけど、エレナに抱き着いてボロボロ涙を流している俺を師匠達も今日なら許してくれるだろう。
「はあ~。泣き虫なのは相変わらずね。水都で成長してくるんじゃなかったの?」
呆れた感じで言いながらもエレナはあの時のように優しく俺の頭を撫でてくれる。
「土屋が泣き虫って・・・津村君が死んだ時も泣いてなかったわよ?」
「私達の前でも泣いた事無かったんだけど・・・まさかギンジ君がここまでなるとは・・・」
水谷とヒトミが何か言っている声が聞こえるが、今は嬉しすぎてそれどころじゃない。
「頭が痛い・・・ギンが言う事は流石に頭が追い付かないわ」
俺が影魔法や自室を使える事を知っているエレナには全てを話した。俺が水都に行ってから俺が話せる全ての事を。当然レイの蘇生についても話したが、情報が多すぎたのかエレナが混乱してしまった。ただ話の途中でしきりにお腹を気にしていたのが気になる。俺が見つけた時にはお腹に大きな傷がついていたから、もしかしたら何か違和感があるのかもしれない。
「まあ、その辺は適当でいいさ、それよりもさっきから腹を気にしているけど何か違和感があるのか?レイ、ちょっと『上級治癒』頼んでもいいか」
「ギンジ!ちょっと待って!エレナさん・・・エレナに聞きたい事があるわ」
いつもなら二つ返事でOKしてくれるレイの様子がおかしい。エレナに何か警戒している感じだ。
「ねえ・・・エレナ・・・・お腹の子は誰の子?」
レイの言葉に時が止まった。レイ以外固まっている。エレナに子供・・・・ま、まさか・・・そうか・・・・良い人が見つかったのか・・・少し嬉しいけど少し悲しいって微妙な感情だな。
「わ、分かるの!!?無事なの???」
「回復魔法掛けたから大丈夫よ!それよりもそのお腹の子の父親は?」
すぐにエレナが正気に戻ってお腹の子の安否を尋ねている。エレナはお腹を切り裂かれていたから心配だったんだろう。レイの言葉に心底安堵した顔をした後、この日一番の爆弾を落とした。
「ギンよ」
「ああ~。やっぱりそうか~」
「は!!??はあああああああああああ!!!!???」
「ちょ!えええ!?えええええええええええええ????」
エレナの答えにレイは何故か納得した感じで流していたが、ヒトミと水谷が大声をあげた。俺はエレナが何を言っているか理解できてない。
「は?はあああああああああああ!!!!???俺の子?じゃないよな!別のギンって名前の奴だよな?」
「あなた以外にギンって名乗ってる奴に抱かれた事無いわよ。大体『尾無し』以降にあなた以外からの指名は全部断ってたから、ギン以外この子の父親はあり得ないわ」
マジか・・・でも・・・もしかしたらって事も・・・ないのか??
「エレナの言う事は多分間違ってないわ。だって回復した時に二人分魔力持っていかれたもん」
「そ、それだけなら!土屋が父親じゃないかもしれないじゃない!」
レイの言葉に水谷がすぐに声を荒げて反論してくる。
「エレナを回復したら、お腹の中にギンジと全く同じ魔力を感じたの・・・これまで何度もギンジの魔力で補充してたからこの感覚に間違いはないわ」
「で、でもエレナは『洗浄』してただろ?」
そう、事が終わったら『洗浄』するってのが猫宿のルールだったはずだ。
「最後は猫宿じゃなくて私の家だったからしてなかったわよ。これで子供が出来てたら水都から戻って来た時にギンの驚く顔が見れるなって思ってね。思った通り面白い顔してる」
そう言ってあの時と同じようにケラケラ笑っているエレナ。俺はその言葉を素直に信じて呆然としている。
「驚き顔見たいってだけはリスクが高くない?」
「だよね、嘘だよね」
「エレナ!本当の所は?」
3人から問い詰められケラケラ笑っていたエレナの目が泳ぎ出す。
「・・・もう!分かったわよ!!ギンの事が好きだったのよ!それで水都に行ったきりドアールに戻って来ることがないかも知れないって思ったら、せめてギンの子供だけと思ってね、これで出来てなかったら仕方ないと思ってたけど無事に宿ってくれたから良かったわ」
驚きすぎて理解できない。あれ?俺振られたよな?
「「今何カ月?」」
「多分6カ月ぐらいね、それで?ギン?私は何番目なのかしら?」」
エレナが呆然として突っ立ていた俺の頬をつねりながら聞いてくる。第3者から見れば俺のパーティ女しかいないから勘違いされるな。
「い!痛ええ!エレナ!何番目とかは無いから!レイとヒトミに順番なんてつけてないから仲良くしてくれ!」
「あれ?二人だけ?そっちの小さい子と獣人さん達は?」
俺の頬をつねっているエレナが不思議そうに首を傾げる。
「あいつらはパーティメンバーだから違うぞ」
「・・・・ふむ・・・・私は3・・・・で良いのかな?そこの小さい人・・・アユムだっけ?それでいいの?」
「わ、私は関係ないから!土屋やあんた達の好きにすればいいでしょ」
そう答えた水谷にエレナが何か感じたのか口元が緩んだ。
「そっか~。まあ宜しく。楽しくなりそうね。アハハハハハハハ!」
エレナの大きな笑い声が響き渡った。