151話 蘇生魔法
「ふう、これで全部?何とか終わったわね。結構魔力使ったけど、魔力切れな訳じゃないのにこの人達は何で駄目だったんだろ?」
藤原が持っていた遺体の15人の内12人は蘇生出来たが、3人だけは蘇生出来なかった。レイは手を翳した時に蘇生可能かどうかかが分かるらしく、この3人は最初から出来ないと言っていた。ただ全員蘇生をかけた後に念の為に蘇生魔法をかけたがこの3人は再び目を覚ます事は無かった。
「こいつの魔力量は末恐ろしいな・・・いや、マリが少なすぎただけなのか」
「う~ん。どうだろ。この人たちが死んでからどれぐらい時間が経っているかわかんないから何とも言えないな。まあ確実に言える事はマリより魔力量が多いって事ね」
2人だけで何か話しているが西園寺の事なので、あんまり気にしない。それよりも蘇生出来た人とできなかった人の違いは何だ?
「3人とも胸がすごい大きい人達だね」
ヒトミの言う通り、蘇生出来なかった3人は胸がかなり大きく巨というより爆って感じだ。そして藤原は確か巨乳好きだと言って金子達に揶揄われていた事を思い出した。更に藤原は死体を収集して使っているって聞いた・・・・そうすると、この3人は使用頻度が高くてよくマジックボックスから出されていたのかもしれない。その分死んでからの時間経過が進んでレイの蘇生可能時間を超えたって仮定する事ができる。実際に蘇生出来なかった1人は風の国のどこかの街の領主婦人なのに、最初に攻められた水の国の人は蘇生出来ている事を考えると多分それで合っているんだろう。ちなみにカラミティも蘇生に成功した。
「ギンジ君、どうかした?」
ヒトミが考え込んで押し黙っている俺を不思議そうに見てくる。
「いや、藤原って気持ち悪いなって思っただけだ」
「まあ、これだけ死体を集めてたら仕方ないよね」
「ここにいて顔を見られたら面倒な事になるから私達は別室に行くわよ」
ヒトミは何故3人が蘇生出来なかったのか思い当たらなかったらしいが、気持ち悪いので俺から教えるつもりはないし、知らない方がいいだろう。そして溝口に促されて俺達は用意された別室に移動すると当然のようにフランとアメリア王女がついてきていた。
「大体の事情は教えて貰いました。『カークスの底』の皆様、私達を救ってくれた事、火の国の悪魔達を退治してくれた事、改めて礼を言わせて頂きます」
翌朝、色々事情を聞かされたコーデリア王妃から改めてお礼を言われた。隣に座るアレスがニコニコしながら愛娘を見ているからコーデリア王妃は時々何とも言えない表情をしている。
「私達が捕虜になって今まで薬で眠らされていたという話については疑問がありますが、そこは父上やアユムから深く追求するなと言われているので我慢しましょう」
藤原のコレクションだった人達には火の国で目覚めた事をそういう理由にしたのか。コーデリア王妃の斜め後ろに立つ水谷が目線で話を合わせろと言ってきている。
「それよりも、女神様とハイエルフ様がこちらにお見えで、ギン様達が居場所をご存知だと聞きましたがどちらにおられるのでしょうか?普通ですとこんな話信じられないですが、あの伝説の黒龍が今も外で眠っていますので、こちらにおられると信じるしかないでしょう?」
溝口とフェイか・・・昨日『自室』で溝口の家を出したら、待木と3人ですぐに部屋に籠ってそれっきりだ。久しぶりの家でゆっくりしているんだろう。
「アハハ、あいつらはまだ寝てるみたいだからもう少し待ってもらっていいですか?」
「うん。そうだね、疲れてたからまだぐっすり眠っているみたいだし」
レイとヒトミが慌ててフォローしているが水谷は手を当てて天を仰いでいる。わざとらしすぎたか。
「それなら後で女神様達が起きて来た時でいいですが、せめてご挨拶とお礼だけは言わせて下さい」
その話は溝口達が起きてきた時にしてもらおう。それで水と風の今後だけど、風の国はコーデリア王妃含めて公爵や伯爵貴族の7人が蘇生できたし、ノブの子を宿したミルとルルは王妃直属の近臣として扱い、子供が大きくなれば爵位を与えるそうだ。クーミはグレシー伯爵を継ぐ予定だそうだ。コーデリア王妃がいるので風の国については問題ないだろう。一方水の国は5人蘇生できたが、一番爵位の高い人でも公爵家の3女で政治について何も知らない人だったので急遽サイ、闇、砂から人材が派遣される事になった。まあ派遣された人材がみんな美男美女だったのは各国とも考えている事は同じみたいだけど・・・。そして、
「ギン様はドアールの方々を影に隠しておられると仰られておりましたが、エディック家の者はいますでしょうか?」
水の国の代表の子爵・・・今回蘇生した公爵と婚姻した事で未来の水の国の国王が恐る恐る尋ねて来た。
「いますね。エドワード、チャーチル、ギルバート、カーラ、メアリーで全部です」
「おお!エドワード!あいつがいるのか!ギン様もしお許し頂けるのであればエディック家の皆を蘇生して頂けないでしょうか?・・・帝都ではマズいので一度水都かドアールでと言う事になりますが・・・」
元々全員蘇生させるつもりだったので、特に反対するつもりはない。
「特に問題ないですけど、知り合いですか?」
「ええ、学生時代にエドワードは後輩だったんですよ。中々優秀で話の分かる奴だったので出来れば今後水の国の復興を手伝って貰えたらかなり助かります」
笑顔で答える将来の水の国の国王。王様になるならもう少し表情を押さえた方がいいと思うけど、俺はこっちの方が好きだな。
「そう言えばアクアフォース家から追い出されてダークグレンツェにいる次男が優秀だと聞いた事あるのでから手伝って貰えばいいんじゃないでしょうか?」
貴族の数が足りてなさそうなので、心当たりのある貴族を紹介しておいた。俺自身はその人は知らないけど、あれだけ執事達に慕われていたから問題ないだろうし、駄目な家族は死んだそうだから足を引っ張られる事はないだろう。俺の勧めにすぐに使いを出したみたいだけど、アメリア王女も慌てていたのは何故だろう?もしかして闇の国に引き抜こうとか思ったのか?
「グオオオオオオオオオオ!!!」
水の国の子爵と話をしていたら外から大きな声が叫び声が聞こえた。タマが目を覚ましたようだと思い外を見ると、タマが魔法陣に消えていくのが見えた。溝口の奴ようやく起きたか。
「おはよう。お腹空いたレイ!朝ごはん頂戴!」
しばらく待つと会議室に溝口達がやってきていきなり朝食を催促してきやがった。溝口とフェイはサッパリした顔をしているが、待木はまたやつれたな。・・・まあ頑張れ。
「はあ?あんた昨日ギンジから家出してもらえたんだから自分で用意しなさいよ!」
「え~。まだ目覚めたばっかりだから面ど・・・ちょっと本調子じゃないのよ」
今面倒くさいって言いそうにならなかったか?それに本調子じゃないって、フェイと二人日ごとに顔色が良くなってきていると突っ込んで欲しいのか。
「あ、あの女神マリアンナ様で間違いないでしょうか?」
レイと溝口の会話に恐る恐るコーデリア王妃が割って入って来た。
「そうよ。女神マリアンナの片割れアンナで~す」
「・・・・」
溝口の軽い挨拶に言葉が出ずに固まるコーデリア王妃。伝説と言われている女神様がこんな軽い挨拶されたら驚くよな。
「だから滑ってるって」
「あれ~?やっぱりこの自己紹介やり方古いのかな~?」
水谷の突っ込みに溝口は不思議そうに首を傾げているが、多分そう言う事ではないと思う。
「そ、そ、それで隣のお方が建国王様の第2王妃のハイエルフ様で宜しいでしょうか?」
「話しかけてくるな」
「・・・・」
フェイはさっきまでサッパリした顔で機嫌良さそうだったのに、いきなり不機嫌になったな。塩対応された王妃様がまた固まったけどいいんだろうか。
バシン!
「フェイ!あんた何失礼な事言ってるの!・・・ごめんなさいね、このエルフ人見知り激しすぎて、ちょっと変な事言う癖があるだけだから気にしないで」
「ぐぎぎぎぎ・・・儂は人族に頭を下げんぞ・・・・うきゃ」
溝口はフェイの頭を叩いてから王妃に謝った後、フェイの頭を下げさせようとしたが必死で抵抗して頭を下げないフェイ。しかし溝口の手に魔法陣が浮かぶとおかしな悲鳴を上げて強制的に頭を下げさせられた。そんな伝説の女神とハイエルフのやり取りにまたまた固まっている王妃様。その間にアレスが気を利かせたのか溝口達の分の朝食がテーブルに並べられた。
「それでツッチー達は今日出発するの?」
「ああ、俺達はドアールに戻るぞ。溝口達はどうするんだ?」
「うん?ツッチー達についてくよ。ドアールにしばらく滞在して落ち着いたら世界を回る予定」
あれ?そうなのか、まあ復興手伝ってくれるなら助かるけど。
「儂は大森林に戻っているからな」
「何アホな事言ってんのよ。あんたの土魔法で街の復興しないと時間がかかるじゃない」
フェイの言葉を即座に溝口が否定する。
「テツも儂並に土魔法は使えるから問題ないじゃろう」
「二人いればそれだけ早く復興できるじゃない。今まで森に引き籠っていたんなら少しは働きなさい」
フェイは溝口の言葉に観念したように何も反論しなかったが、口がへの字に曲がっている。
「それではギン様。色々ありがとうございます。また我が国にいらしてください」
「分かってます。ノブに終わった事を報告にいかないとけないしミルとルルの子供達も見に行かないといけませんから」
城の入口でコーデリア王妃と別れの挨拶をする。水と風の軍は今日中に帝都を発ち国に戻るそうなので、風の国のコーデリア王妃とはここでお別れだ。水の軍とはドアールまで一緒に行動する予定になっている。アレス達はもうしばらくここに残って治安維持や復興を手伝うらしい。
「それで?アユムそなたはどうするんじゃ?我と一緒に国に帰るのか?ギン様達についていくのか?」
「わ、私は・・・・」
コーデリア王妃に聞かれた水谷は答えにくそうにもじもじしている。こいつがこんな態度をとるのは珍しいけど、友達か恩人を天秤にかけてるから悩むよな。
「はあ~。よい。アユムはそのままギン様達についていけ。ただし頻繁に連絡を寄越すように。あと、お前の子は1人は我が国に寄越せ。悪いようにはせんから心配するな。我が娘が候補に入れるように早めに男を産んでくれると有難いぞ」
「で、殿下!!」
「アハハハハ!よいか、出来るだけ早くだからな!忘れるなよ!父上もお元気で」
「うむ、帰りは風都に寄ってから帰るから、すぐに会える」
そう言ってコーデリア王妃と風の国の面々は出発していった。
「アユムちゃん。男の子だって」
「早めにって言われたから、今すぐ動かないとマズいんじゃない?」
「あ~!もう、うるさい!」
コーデリア王妃の言った事をレイとヒトミが揶揄っている。3人とも戦争が始まってから気を張りっぱなしだったから、ようやく気を緩める事が出来たみたいだ。
「へえ~。アユムがねえ。ツッチーも大変だね」
その様子を眺めていた溝口が俺の脇をつつきながらニヤニヤした顔をしている。
「うん?あいつからはよく怒られて大変だけどもう慣れたぞ」
「・・・・うわ~。駄目だこいつ、何も分かってない。ねえテツ」
「うん?何がだ」
「ああ、この朴念仁に聞くだけ無駄だよ。フェイ・・・こいつも魔力しか見てない淫乱エルフだから駄目だ」
「誰が淫乱じゃ!」
何かいきなり溝口に俺と待木とフェイがディスられたんだけど、俺達何した?
「ギン!俺の国にもお前の子を1人くれ。心配せんでも王族か公爵の中から相手を選ぶぞ」
「いや、それ前に断っただろ。そもそも子供なんて出来てもいねえよ。それにそう言うのはちゃんと相談してからだ」
そもそも生まれてもいない子供をくれと言われてもピンとこない。
「お姉様の子は当然我が国に優先権がありますから、抜け駆けしないでくださいね」
「ふ、フラン!そんな約束してないでしょ!」
フランの言葉に慌ててレイが否定する。否定されたフランは少しショックを受けた顔しているのは何故だ?約束してないんだよな?
「我が国は私の子をギン様達の子の伴侶に差し上げますので、その時は宜しくお願いします」
アメリア王女は何言ってるんだろう?
「私はエルフの里に「りゅうがく」するのでそこでエルフの子を必ず宿します。その子はハーフエルフとなり当然見た目も優れてますので、ギン様達の子もきっと気にいってくれるではずです」
・・・・・すげえ、アメリア王女の中で俺達の了解なく、そんなシナリオが出来ているのか。こういう考えできるのが王族とか貴族なんだろう。俺には無理だな。
「もう、みんな何言ってるんですか!ウチの子達は自由恋愛です。子供達を政略結婚の道具にはしません!レイちゃん!アユムちゃん!分かった!」
「うん。そのつもりだし」
「まあ、普通そうよね」
ヒトミの剣幕に押されてレイと水谷が頷く。
「アンナちゃん達もだよ!子供を道具みたいな使い方したら怒るからね」
「は~い。まあそんな事は自分達で考えさせればいいのよ」
「エルフも自由恋愛じゃ、そもそも爵位とかないからな。政略結婚と言われてもピンと来ないんじゃないか?」
溝口達にもヒトミが詰め寄るが、気にした様子もなく軽くあしらう。溝口は子供を自由に育てそうな感じだな。
「女神様とハイエルフ様の子が生まれる可能性は考えていなかった」
「各国の婚約について一度白紙に戻した方が良くないですか?」
「そうですね。あちらは自由恋愛と言っていますので、我が国の人間が運よくギン様達と女神様達の子全てと縁を結んでも文句は出ないって事ですもんね」
「アメリア王女、さすがにそれは図々しすぎませんか?」
「あら、あらゆる手練手管で既成事実を作ってくる水の国がそれを口にしますか?噂では聖女様も手に入れようとしたらしいじゃないですか?」
「はて?公爵だった私には王族の企み等分かる訳ないので何も言えませんね」
「王族の企みだと分かっている時点でクロではないですか。全く」
各国のお偉いさんが勝手な事を言い合っているけど放置しておこう。まだ生まれてもない子供の話だし結局どうなるかなんて誰にも分かんないからな。
「それでは準備も整ったようですし、そろそろ出発しましょうか」
水の国の軍も準備が出来たのか、今まで水の国の代表だった子爵が呼びに来た。この人まだ正式ではないけど蘇生した公爵令嬢と結婚して水の国の国王になるんだけど、こんな雑用してていいんだろうか。
「ギン、たまには我が国にも遊びに来いよ」
「落ち着いたら、そのうちな」
「ハイエルフ様もいつでもお戻りください」
「・・・アンナと一度は寄る」
「お姉様、帰りにドアールに寄りますのでその時は宜しくお願いします」
「分かった。フランも大変だろうけど頑張ってね」
「フィナ、次は城まで遊びにきてね」
「1年に1回は里に帰るからその時に寄るよ」
「主様、必ず一度我が国にお越し下さい。あと、何かありましたら遠慮なく召喚して下さい」
「まあ、気長に待ってて」
「ヒトミ様、アユム様色々お世話になりました。私も帰りにドアールに寄りますので、その時はよろしくお願いします」
「アメリアちゃんも頑張ってね」
「私達より年下なのにあんたも大変ね」
そうして各自挨拶をしてからドアールに向けて出発した。
◇◇◇
「そうですね、今後はソフィア・アクア・スペリオル・ベネチアと名乗る事になります。子爵・・・夫はロレンツィオ・アクア・スペリオル・ベネチアですね」
ドアールへの道すがら水の国の公爵と子爵と話をしていると、王になった時の名前について教えて貰った。
・・・・ベネチアねえ。水の国って事も関係しているのか
「溝口、この名前って偶然じゃないよな?」
「うんそうよ。水の国だからベネチアとかアクアとかよ。コンセプトはイタリアにしたってナガレが言ってたわ」
やっぱりそうか。しかし何でイタリア?
「そう言えば国の名前何でサイの国なのよ?」
「イチがこの方が覚えやすいし、親しみが湧くだろうって。ヨミコは異世界に似合ってないってずっと文句言ってたけど」
う~ん、確かに異世界で彩の国の名前は合わないな。
「ヨミコは闇の国の街にカッコいい名前つけるって言ってたけど、何故かドイツ由来の名前なのよ。何でかしら?」
多分厨二病発病したんだろう。
「それにしてもイタリア語やドイツ語なんてあいつら話せたのか?」
「マリが話せたから、翻訳させられていたわ。私は翻訳機じゃないって怒ってたけど」
下らねえ事に女神様使われてたんだな。
「あ、あの、それじゃあ、ガルフォード様の子供に順番に数字がついているのも何か理由があるんでしょうか?前に里の名前はそこを開拓した子供の名前が由来と聞いたので、気になっていたんです」
「ガルフォードが自分の子供の名前も覚えられないかもと不安に思ったマリが数字が入った名前をつけたんじゃ。流石に自分の子供の名前は憶えたようだが、生まれた順番はよく間違えていたな」
フィナの質問にフェイが答えた。自分の子供の生まれた順番間違えるってガルフォードどれだけ記憶力なかったんだ。尊敬するガルフォードのダメな所を聞いてガルラの尻尾が力なく垂れている。
「あいつも相変わらずね。マリも大変だっただろうな」
溝口が呆れたように言っている。確かに聞く限りガルフォードの相手は大変そうだ。
そうして道中は魔物の襲撃があったりしたが、ガルラや他の兵士達のおかげで俺達の出番はなかった。流石にこの規模の人数に仕掛けてくる野盗はいなかったし、反応も無かった。そして結構な日数がかかったが無事にドアールの街があった場所に辿り着いた。
「こ、ここがドアールのあった場所ですか?本当に何もないんですね」
ソフィア王妃が街のあった場所を眺めながら呆然としているが、日が暮れて見えないけど一応街の共同墓地は残っている。大分荒れてるからあそこも綺麗にしないとな。
「それじゃあ、今から街を出しますのでここでみんな待ってて下さい」
そう言って足元の影を広げる。溝口が軽く悲鳴をあげるけど、いい加減慣れてほしいな。
「おお、すごい」
「こ、これが影魔法」
「街毎出現させるとは」
俺が影から街を出すと周りから驚きの声があがる。俺が影魔法使える事はもう隠す必要もないので、周りの目を気にせず使う。
「それじゃあ土魔法使える人は崩れた建物の修理。レイ達はここでご飯の準備しながら王様達の護衛ね。兵士達は瓦礫の撤去とか街の片づけで王様達はここで彼らに指示をだしてね。ツッチーとフィナは影魔法で瓦礫を回収して街の外に持ってく係ね」
溝口がテキパキと指示を出していく。帝国を滅ぼしてからは眠りにつくまで街の復興もしていたらしいので、手慣れている。
「あ、あのギン様、出来ればここでエドワードを蘇生して頂けると有難いのですが」
水の国の国王様(予定)が俺の耳元に例の約束について囁いてきた。ここで蘇生させると俺がわざわざ水都まで行く必要もなくなるから丁度いいか。今日はエドワード一家だけを蘇生させよう。・・・・って出来るかどうかはまだ分かんないんだよな。でも成功したら多分ドアールのみんなは蘇生可能だと言う事になる。
「レイ、溝口、ちょっとついてきてくれ」
2人に声を掛けるとレイはヒトミと水谷に指示をして、溝口はフェイにサボらないように注意してからこちらにやってきた。
「あら、あなた、私にいきなり隠し事ですか?」
「あ~・・・ソフィア様・・・ソフィア。これはギン様達の秘密に関わる事だからキミでも教えられないんだ。ごめん」
「そう言われたら深く追求できませんね。ギン様達が一緒なら大丈夫だと思いますがあなたは国王なんですから、気を付けて下さいね」
王妃様に納得してもらってから俺達は領主の館に向かった。
「結構荒れてるわね。これ立て直した方がいいんじゃない?」
溝口の言う通り、今すぐ崩れるって程ではないけど館はボロボロだった。壁に所々穴が空いていて扉は燃えて炭になっている。
「ここも市民の避難所として解放していたようですが、やはり攻められたようですね」
「へえ~。館を避難所として市民に開放するなんて、ここの領主さん話が通じそうですね」
「そうなんですよ。エドワードの奴、貴族にしては珍しく平民に目を向けてる奴で、領主である父親からそう教えられたそうです」
ここの領主と言えば尾無し討伐した後に酒や食い物奢ってくれたっけ。エドワードは洞窟に師匠が案内してきた少しポチャッとした奴で確か話の分かる奴だって言ってたな。
「平民の事を考えてくれるなんて貴族にしては珍しいですね」
「曾祖父の教えらしいですよ。曾祖父が水都の権力争いに負けてこの街に戻って来た時に住人が励ましてくれたそうで、それ以来平民に目を向ける事が家訓に加わったって言ってましたよ」
「それじゃあここでいいか」
見られるとマズいので2階のでかいベッドがある部屋でエディック家の遺体を影から出す。あれ?領主の死体がないな。エドワード、同じ年ぐらいの女の人、男の子2人、と女の子1人だけだな
「あれ?領主の死体がないな?」
「エドワードの父親は多分国境の戦いで敗れたんでしょう。戦争の時は全ての都市の領主に召集がかかっていましたし、その戦いから戻ってきた者は誰もいませんでしたから」
それって文字通り水の国の軍は全滅だったって事か。その割にはレイを助けに行く時に死体見かけなかったな。金子達が死体をどうにかしたのかな。
「まあその辺は後で確認すればいいわよ。それにしてもこんなに小さい子が傷ついてる死体を見ないといけないからやっぱり戦争は嫌だなあ」
溝口が子供の死体を前にぼやきながらも手を翳して『上級治癒』をかけ、体の傷を元に戻す。そしてそれを確認した後、レイが蘇生魔法をかけると、全員胸が上下運動を始めた。
「それじゃあ、私達は顔を見られる訳には行かないから先に戻ってるわね」
「じゃあ、行こうか・・・ギンジ?」
部屋から出て行く溝口の後をついて行こうとしたレイが動かない俺に気付いて首を傾げながら呼ぶ。ただ、俺は嬉しさのあまり返事が出来ない。これで・・・・これでドアールのみんなが蘇生可能だと判明した!ギルマスも、ミーサさんもウイート達『鉄扇』の奴等も、俺が知らない奴等もみんな蘇生できる!そして、何よりエレナも蘇生出来る!今はレイやヒトミの方が大事だし、俺は振られたけど、それでも好きだった人が蘇生できると思うと嬉しい。流石に『猫宿』に行く事は無いけど、エレナと話をする事が出来るんだ。もしかして師匠達もイケるのか?
「ギンジ?どうかした?」
「これでドアールのみんなが蘇生可能と分かって嬉しくてな。ああ悪い、目を覚ます前に先に移動しようか」
レイを促して外に出て歩いて中心広場に向かいながら、レイに俺の考えを説明する。
「う~ん。ギンジの師匠さん達は多分無理だと思う。そもそも2年以上前に亡くなって埋葬されてるなら骨になっているか腐っているかだよね?そうなると『上級治癒』も効かないって教えられたよ」
「それも教国の噓の可能性は?」
蘇生魔法は間違った情報が伝わっていたんだ。上級治癒もその可能性は十分考えられる。
「それは本当。私も何度も試したから間違いないわ。マリはそれが普通の状態になったからって言ってたわね。ただそれだと失って数年経つ手足が『上級治癒』で復活する理由が説明できないってヨミコが言ってたわ。ヨミコは魂が抜けたから回復出来ないって仮説を立てていたけど、理由なんて分かってもどうにもならないからいいのよ」
溝口の言う通りなんだけど、もう少し言い方気をつけてくれ。俺は師匠達が蘇生出来ないって分かってかなりショックを受けてるんだ。
落ち込みながらも中央広場に戻ると、みんな忙しそうに働いている。俺もその後は落ち込む暇がないほどに働かされた。