150話 500年前のクラスメイト
「そ、それで女神様、リングについては現在ハイエルフ様がお持ちのこれ一つだけでございましょうか?他に心当たりなどないでしょうか?」
「う~ん。持ってたのは私の仲間だけだったからな~。フェイはイチたちが持ってたリングどうなったか知らない?」
「みんな死んだ後は自分達の国の宝物庫に保管しておいたぞ。闇、砂、水、サイの国には一つ、獣人の里にはマリとガルフォードの分の二つあるはずじゃ。最も魔力が無ければ特に価値があるようには見えないリングじゃから捨てられておるかもしれんがな」
出来れば捨てられていない事を祈ろう。アレス達は早速誰か呼んで宝物庫を探す様に指示出している。フィナも俺の念話を通して族長代理に指示を送っておいたからすぐに返事がくるだろう。
「あ、あの我が風の国にはそのリングはないのでしょうか?」
「貴重な素材を大量に使ったって聞いてるからリドラルテさんの分は無かったな。まあハイゼも貰ってなかったから」
溝口の言葉に肩を落とす風の国の代表さん。リドラルテって人が風の国を興した初代で東達の御用商人だった人だ。当たり前だけど溝口にとってリドラルテって人は伝説の人じゃなくてよく買い物した店の商人なんだよな。伝説級の名前がポロポロ出てくるからみんな時々固まっておもしろい。
(ガルフィナ様、言われた通り宝物庫の中にリングが2つ保管されていました。ただ、あまり価値がなさそうです。一応妻や他の女性にも確認しましたが、一同私と同じ評価のようです。)
(ありがとうございます、ガルバルグさん。そのリングはとんでもない価値がある魔道具ですから私が受け取りにいくまで大事に保管をお願い致します)
(わかりました、族長の指示確かに承りました)
(それでは、失礼致します)
念話が切れた。うん、やっぱり族長代理とだけ念話繋いで正解だな。無駄話がなく必要な事しか話さない。これがフィナの親父と繋いでいたらこんなに簡単に念話切ってくれなかっただろうし、強制的に切ってもしつこくコールされそう。
「リングは里に二つあるって。先代に売られてなくて助かったよ。これで売られてたら世界中探し回らないといけなくなる所だった」
「良かったじゃない」
「へえ~。500年近く前の物を残してあるなんて獣人は物を大事にするのね」
「大森林はあんまり資源がないから獣人もエルフも物を大切にするって読んだ事あるよ」
「資源が少ないのもあるが、物を大事にしないとマリがすぐに怒ったからな。その辺は獣人もエルフも小さい頃に教え込まれて、しっかり伝わっているみたいじゃからな」
その割には先代族長は宝物庫の宝売ったりしていたみたいだから、その辺は人によるんだろうけど、西園寺も大森林で色々伝説が残ってそうだな。
「ちょ、ちょっと!フィナってもしかして『念話』使ったの?」
「私じゃないです。お兄ちゃんが使えるので使わせてもらっただけです」
驚く溝口にフィナが訂正すると、その驚いた顔で俺を見てくる。確かに珍しいらしいけど溝口達は誰も使えなかったのか。
「いいな~ツッチー。それって仲間が使えるとかなり便利だけど、逆に敵に回るとすごい厄介なんだよね」
「なんかの体験談か?」
「沼田についた小森の奴が『念話』使えてね、何度も囲まれて危ない目にあったんだよ。まあ最初の内は私達もカラの国の為に戦っていて『念話』繋げてもらってたからその有用性は理解してるよ」
あ、あれ?・・・よく考えれば俺達20人しか召喚されてない。残りのクラスメイト17人の内、東達5人しか伝わっていないって事は。
「ま、まさかアンナちゃん達と皇帝以外誰も言い伝えが残っていないのって」
ヒトミも俺と同じ考えに気付いたのか顔が青ざめている。
「そうよ、沼田もいれて18人召喚されたけど途中で私達はカラの国から去ったって伝わってる?丁度9対9に別れてそこからは召喚された同士で殺し合いよ」
「な、なんでアンナ達は途中で国から去ったのよ!」
「沼田に洗脳されてたのよ。だから特に疑問に思う事無く、指示されるまま敵国を攻めてたんだけど、途中で正気に戻ってようやく自分達が酷い事をしていた事を理解したわ。だから国を抜けたんだけど、その時に仲間がやられてね。最初はその復讐の為に沼田と敵対していたんだけど、カラの国に負けた国の悲惨な状況を目にしてからは、カラの国・・・その頃には帝国って名前を変えていたけど、帝国を潰す事も目的にしたの。当然帝国に残ったクラスメイトとも敵対して殺し合いになったわ。で運よく生き残ったのが私達だけど、帝国もだけど私達も各地で暴れたから世界中がボロボロだった。そこからはみんな別れて各地の再興していたら、いつの間にかみんな王様みたいになってたって訳」
すごいな、溝口達も俺達に負けないぐらい辛い目にあってるんだな。
「沼田についたクラスメイトは何が理由なの?みんな洗脳されてたなら、アンナ達についていっても可笑しくないわよね?」
「当然私達が国から抜ける時にはみんな正気だったし、沼田もどっちにつくか選ばせたぐらいだったわよ。だけど沼田だけのもつ唯一のスキルに魅力を感じて残ったの」
「それって何よ?魅了とか?」
「みんな正気だったって言ってるでしょ。・・・・みんなは『自室』ってスキル知ってる?沼田だけが使えたんだけど伝わっているかな?そのスキルって自分の部屋を再現するスキルで、日本の物を持ってこれたんだ」
言われた瞬間溝口と水と風の代表以外みんなが俺に注目する。マジか沼田の奴影も使えるし自室も使えるとか俺とスキル被りまくりじゃねえか。あいつの事かなり嫌いだから全然嬉しくねえ。
「え?何?どうしたのみんな?ツッチーどうかした?ん?」
「あ~、その『自室』俺も使えるんだわ。信じられないなら待木でもフェイにでも聞けばいい」
「うっそ!ツッチー使えるの!・・・もしかして沼田とかじゃないわよね?」
あんなムカつく担任と同一人物と扱われて気分が悪い。
「沼田と一緒にするな!気分が悪い!信じられないなら誰かに『状態異常回復』使ってから質問すれば納得するだろ。それに朝飯で味噌汁に驚いていたじゃねえか」
俺の指示通り『状態異常回復』使って質問するのはいいんだけど、どうして全員に試すんだ?そんなに信じられないのか?
「アハハ!ツッチーには悪いけど念には念を入れておかないと安心しないの、ごめんね~。でもこれでツッチーの事は信用するよ。それで図々しいんだけど、私も自室にいれてくれない?カップラーメンとかあれば食べたいんだけど‥駄目?」
「あんた土屋をあれだけ警戒しておいてよくそこまで図々しくなれるわね?」
水谷の言う通りだよ、言われた本人はかなり呆れているよ!しかも女神様がそんなんでいいのか。
「アハハハハ、まあ、ヨミコの方がもっと図々しいから、私なんてまだまだよ」
「なんかアンナってオバちゃんくさくなったわね」
「な、何ですって!レイ!まだ私23よ!全然オバちゃんじゃないでしょ!」
いや500年は寝てたから500歳以上とか言うと・・・怒り狂いそうだから黙っておこう。
「後でだしてやるよ」
「ホント!ラッキー!マジでラーメンなんてしばらく口にしてなかったからな。マリの奴色々万能だったけど料理に関してはポンコツだったのよね。スーにも色々教えてたけど、誰もしっかり伝えられなかったから結局似非和食だったのよ」
「確かラーメン作ろうとしてカルボナーラが出来たってフェイから聞いたぞ」
「アハハハハ、それ聞いたんだ。豚骨の色は白!白と言ったら牛乳!とかヨミコが言い出したのよ。最後はスーが味を整えてくれたらカルボナーラになったのよ」
黒川、滅茶苦茶じゃねえか。豚骨だから豚だって分かんねえのか。なんで牛乳をチョイスした。
「しかし、本当にツッチーって便利なスキル持ってるね。ウチ等だとナガレが『マジックボックス』持ってたぐらいかな」
「それ私持ってるよ」
『マジックボックス』持ちのヒトミが手を挙げて答える。
「マジで?ヒトミそれ結構レアスキルよ。当たりじゃない・・・もしかしてみんな便利スキル持ってるの?召喚された時にスキル確認するように言い残していたから、みんなちゃんとスキル分かっているわよね?」
まさかあのスキルが分かる装置もこいつらの仕込みか。そう言えば浮かんだ文字が日本語でこっちの奴等は読めなかったからそう言う事なんだろう。
「持ってないわよ。私は水と土ね。まあ土は練習して中級まで使えるようになったばかりだけど」
「私は火とマジックボックスだけかな」
「私は光、回復、蘇生ね」
レイの答えに若干驚いた顔をする。
「おお、レイって蘇生持ってるんだ。それってレア中のレアらしいわよ。私達が召喚された中で使えたのはマリだけだったし、敵もマリだけは殺さずに生かして捕らえようとしてたぐらいだから。それに私が眠るまで何人も教えたけど結局使える人はマリ以外いなかったしね」
「儂もマリ以外に使えたという話は聞いた事ないな。当然エルフも獣人も使えた奴はいない」
フェイの言う通りなら西園寺以外今まで誰も使える奴がいなくてレイが二人目って事なのか。
「それでレイはどのぐらいイケるの?」
「・・・ん?どれだけって?何が」
「蘇生魔法の制限時間よ!死んでからどれだけなら蘇生できるの?マリは魔力少なかったから30分以内だったけど、多分だけどレイは流石にそこまでじゃないでしょ?」
本当に何気ない会話で、溝口も別に俺達の事を探っている訳ではなかったのは分かる。ただ、その一言で俺は固まってしまった。
「え?ええ?30分以内じゃないと蘇生できないって教えられたんだけど?」
俺もレイからそう教えてもらった、だからみんなを生き返らせる事は不可能だと諦めて丁重に弔う事に決めていた。・・・・だけど、まさか・・・生き返る可能性があるのか。
「あれ?もしかして時間について試した事ないの?」
「ある訳ないでしょ!もしそれで失敗したらそのまま死んじゃうじゃない!」
「レイってホントに蘇生魔法使えるの?」
「使えるわよ!教国で目の前で首を飛ばされた人を蘇生したわよ。それに火と水の国の戦争の時に何人か蘇生したし、旅してる時に魔物に殺された人達を蘇生したのをみんな見てるから!ねえギンジ!・・・ギンジ?」
溝口と言い合っていたレイが不思議そうに俺を振り返るが今俺はどんな顔をしているんだろう。
「俺は大量の死体を影収納に入れているから試す事は出来る」
「な!何でそんなの持ってるの?」
溝口は若干警戒して後ろに下がるが、別にそんな警戒する程でもない。
「金子達に皆殺しにされた街の人達の遺体だ。全て終わってから丁重に埋葬するつもりだったんだ」
「あ、そう、ごめんね。変な勘違いする所だった」
勘違いされそうな事を言った俺も悪いな。
「ああ、あと藤原が持ってた多分偉い人達の遺体もだな」
藤原が何に使っていたか考えたくもないが、もしかしたらこの人達も生き返る可能性がある。俺と同じ事に思い至ったんだろう水谷がハッと顔を上げた。
「もしかして殿下も生き返る可能性があるってこと!!」
「水谷あまり期待はするな、駄目だった時のショックが大きくなるぞ」
溝口に詰め寄る水谷に注意するが聞いてねえな。俺も期待はしないように考えているが、どうしても期待してしまう。そして風の国の王妃で試すには父親であるアレスの許可がいるな。
「ギン!今の話は本当か!コーデが・・・コーデが生き返るかもしれんのか?」
「僅かな可能性があるだけだ。実際できるかどうかは分からない」
「お、お願いします。レイ様。一度だけやって頂けないでしょうか?それで駄目なら私も諦めがつきます」
アレスはレイの足元に膝をついて必死にお願いしているのでレイが少し困った顔をしている。だが、やるだけレイにやってもらおう。アレスには悪いがコーデリア王妃で実験させてもらおう。
「コーデリア王妃って死んでからどれぐらい経過しているんだろう?実際は死んでから半年以上は経っているって考えた方がいいのか?それとも藤原のマジックボックスも俺の影収納も時間経過無しだから死んでから収納されていなかった時間だけで考えればいいのか?」
「収納されていなかった時間で考えればいいわよ。私達も複数死んだ時はナガレのマジックボックスに死体を入れて時間経過止めてたからね」
溝口達ってマジでギリギリの戦いしてきたんだな。さっきから聞いてれば江澤と溝口、西園寺の誰か1人でもいないと沼田達に負けてたんじゃね?
「じゃあ死体を出す前に全員全裸だったから何か着せる物があれば欲しいんだけど?」
俺のお願いにすぐに城中からカーテンや布団などが集められたので、すぐに影に収納する。これで遺体を出した時に一緒に影で着せればいい。
「始める前に、レイが蘇生魔法使えるってここの人達だけの秘密にしておいたほうがいいよ」
いよいよ始めようとした所で溝口が唐突に訳分かんない事を言い出した。
「いきなりどうしたの?」
「ほら、マリが蘇生魔法使えるって言ったわよね、それでその話が広まると大勢の人が死体を持ってマリの前に現れたわ。それで蘇生出来ないって分かると酷い事を言ってくる人もいて、マリは精神的にかなり疲弊したわ。だから蘇生が使えなくなったって事にしたり、私が眠った後は死んだ事にしたらしいって言ったわよね」
「その辺は聞いたけど・・・」
西園寺のその辺の所は聞いたな。
「だから蘇生魔法使える事が広まるとレイも同じ事が起こるのよ。何度も攫われそうになったり逆恨みで命を狙われたりするようになるのは嫌でしょ?」
蘇生魔法使えるとそんな事になるのか。俺も少し認識が甘かったようだ。レイにそんな事してきた奴がいたら、俺は我慢できる自信がない。
「分かったら、私の言う通りにして友達が蘇生魔法の事で落ち込む姿はもう見たくないの」
真面目な顔で話す溝口を見ていると、本当に西園寺は酷い目に合った事が分かる。
「って事だ。皆この事は他言無用でお願いします」
「ああ、分かった。お前達の怒りを買ってタダで済むとは思ってないからな。皆もそれでいいな」
「あの~。もし生き返った場合、その人の記憶ってどうなるんでしょうか?死ぬ直前の記憶があれば誤魔化しきれないと思います」
アレスの言葉に恐る恐る水の国の代表が質問してくる。言われてみれば自分が死ぬ直前の記憶があるのに目が覚めたら無事ってのは不思議に思うよな。
「それなら大丈夫よ、だいたい死ぬ30分前ぐらいの記憶が抜け落ちて蘇生されるから。ねえフェイ」
「そうじゃ」
実際3回も死んだ事があるって言うフェイが言うと説得力があるな。
「蘇生が終わってすぐ目が覚めると、レイの存在を確実に見られるからそこから何か感づかれるかもしれないって可能性は?」
「蘇生してから1時間ぐらいは目を覚まさなかったからそれはないわ。だからその間に部屋を移動すれば問題ないわ」
まあ、それならレイの存在がバレる事はなさそうだ。あとは自分がいた場所から全く別の場所の帝国の城で目覚めた理由をどうするかな。その辺はアレス達が考えるって事でいい加減アレスも我慢しきれないみたいだ。かなり急かされたので始める事にする。
ズッ
いつものように影を伸ばすと溝口が息を飲む声が聞こえた。まあトラウマになっているって言ったから仕方ないけど、いつか慣れてほしいぞ。
そして黒い影に包まれたコーデリア王妃の遺体を影から取り出し、集めてもらった布団を被せてから影を元に戻すと、眠っているかのようにきれいな顔のコーデリア王妃の遺体が現れる。アレスが歯を食いしばり拳を握りこんで何かを必死に耐えているのが見える。
「うわ~。綺麗な人。う~ん。特にケガは見えないから溺死かな?まあ一応やっておくか」
溝口は死体を前に手慣れた感じで布団を捲ったりして王妃の外傷を確認すると、手を翳して治癒を使ったのが分かった。
「レイ、いいわよ、やってみて」
溝口はレイに声を掛けると、レイが前に出て横たわっている王妃の上に手を翳す。誰かがゴクリと唾を飲む音が聞こえるぐらい、みんな黙ってレイに注目している。
「うん!大丈夫!イケるわ!」
レイが短く詠唱を唱えると王妃が青白い光に包まれた。そして数秒後にはその光が消え、そこには何も変わらない王妃の姿があった。ただ、その胸はゆっくりと上下していた。
「お、お、おお、コーデ!」
「殿下!」
アレスと水谷が駆け寄ろうとするのを溝口が前に出て止めた。
「待った。まだよ。今急に動かしたりすると蘇生は失敗する事もあるわ。目が覚めるまで待ちなさい」
溝口の言葉に慌てて動きを止める二人。蘇生は成功したけど、実際コーデリア王妃が死んでからどの程度時間が経過したかは藤原に聞かないと分からないが、死んだのでそれは無理だ。出来ればドアールの誰か・・・最初は領主で試してみたいが、流石にここにいる事が説明できないのでドアールのみんなは帰ってからになるな。
「蘇生場所もう少し考えれば良かったね」
目の前に横たわるコーデリア王妃を見下ろしながらヒトミが最もな事を言う。床で蘇生したからベッドまで運びたいが無理に動かすと失敗するそうなので、動かす事も出来ないので困った。