148話 女神と各国の代表
「こ、この方が、女神様なのか」
俺達の説明を聞くとアレスが震えた声で疑問を口にする。
「女神マリアンナの片割れアンナで~す」
当の本人は笑顔でふざけた挨拶を返すからアレス達の顔が引き攣っている。
「「「・・・・」」」
「滑ってるわよ」
「あれ~?この挨拶結構受けが良かったんだけどな。時代は変わったのね」
水谷の冷静な突っ込みに女神様は困惑している。滑ったっていうよりみんな驚き過ぎて声が出ないってだけだ。
「証拠は?何か絶対的な証拠はないのか?」
「こいつがアンナだと儂が保証してやる」
フェイが相変わらず不機嫌そうに言っているが、極度の人見知りと分かった今ではその態度も可愛いもんだ。
「あ、あの、あなた様は?」
元の若い姿に戻っているフェイが誰か分かっていないお偉いさんが疑問を口にした。
「フェイよ。ちょっとまたお婆ちゃんになってみんなに見せてみなさい」
溝口に言われて何か文句を言いたそうなフェイだったけど何も言わずに見慣れたフェイの姿に変化した。この変化の魔法って俺達でも使えないかな?
「おお、フェイ様。しかしさっきのお姿は一体?」
「あっちの若い方がフェイの本当の姿でこっちは男避けらしいわよ。それにフェイってまだ600年も生きてないから、あんな年寄りになる訳ないじゃない」
溝口がさも常識のように言っているが、周りの様子を伺うと誰もその常識を知らないみたいだ。エルフはこの500年ずっと大森林で引き籠っているらしいから寿命何て伝わってないのかもしれない。
「えっと、エルフは長生きってのは読んだ事はあるけど、実際の寿命ってどれぐらいなの?」
「さあ?でも前に3000歳のエルフに会ったけど、見た目は若かったし、これぐらいはエルフは普通に生きるって言ってたわよ。寿命の100年ぐらい前から老化が始まるみたいでそれまでは若いままだって言ってたし」
3000歳はすごいな。長生きってレベルじゃねえ。
「私もこのお方が女神様だと保証致します。その証拠に私が会議中に女神様から召喚されて、その場から消えた事で納得できるでしょう」
「皆も信じられないかもしれないが、砂の国の女王、フェイ様、黒龍様、そしてギン達が何も言わないから本当に彼女は女神様なんだろう。その事に疑問を持つのは時間の無駄だから次の議題に進めさせてもらうぞ」
フランとアレスが言うならって感じでお偉いさんは渋々納得して椅子に座ってくれた。
「ギン、それで火の国の悪魔はどうした?」
「ちゃんと殺した、死体は燃やしたから残ってないけどな」
「殺したのなら別によい。それで教皇の方はどうなった?」
あれ?そう言えば教皇ってどうなった?溝口が何かして消したよな?
「教皇ってあのお爺ちゃんだっけ?あれはどこかに飛ばしただけだから生きてるわよ。マーキングないから大体2㎞ぐらい離れた所にいると思うけど、適当に飛ばしたからな~」
「い、生きているのか?それならすぐに捜索隊を出して捕まえなければ!」
「子爵!落ち着け!今回の戦争を傍観していた教国に攻め込むのは駄目だといっただろう」
水の国の子爵だろう人が慌てて叫ぶがアレスに止められる。水の国は子爵がトップなんだ・・・アレスから聞いていた以上に貴族が殺されているな。
「で、ですが、教皇が大神殿に戻ればまた戦争を仕掛けてくるかも知れないんですよ」
「金子の奴が大神殿の連中を大半は殺したみたいで、ほとんど人がいなかったから、すぐに仕掛けてくる事は無いと思うぞ」
「はあ?ギンもう少し詳しく教えてくれ」
仕方がないのでアレス達お偉いさんに状況を詳しく説明した。
「そんな!『闇魔法』に吸収だと!」
「ああ、死んだ奴の持ってるスキルは魔法だろうが何でも奪えるって金子が言ってたな」
俺も最初は嘘だろうと思ったけど実際目にしたからな。
「ヨミコから聞いてた?」
「いや、儂も聞いた事ないぞ?ヨミコは使えなかったのか、黙っていたのか」
「う~ん。多分黙ってたわね。ヨミコが吸収なんて思いつかないはずないもん。ただあまりにも印象悪いからイチとマリに嫌われると思ったんじゃないかしら?」
「ハハハ、それはあり得るな。ヨミコはあれで心が弱いからな」
溝口とフェイが俺の隣で身内話で盛り上がっているけど、話の内容は『建国王妃』の事だから、みんなそっちに集中してる。
「そうか、それならしばらくは放置しても問題なさそうだな。その間に水と風の国を再興して、教国に備えるか・・・少し厳しいか?」
「再興には時間がかかるので厳しいでしょう。ただ、私達は今回教国が裏で何をしていたか分かっているので、どこの国が攻められても協力して教国に攻め込めばいいのです」
アメリア王女、物騒な事を言うなあ。こういう所は王族だよな。
「いえ、その前に教国は確実に潰れます。その時の事を今から考えておくべきです」
アメリア王女の言葉にフランが反論するが、内容が過激だ。教国が潰れる?潰すんじゃなくて?
「女神様が目覚めた今、教国の神官達がどうなっているか確認してみないと分かりませんが、恐らく回復魔法が使えなくなっているでしょう」
そう言えば教国の神官は溝口から回復魔法借りてるんだったな。今は目覚めた溝口がいるって事は当然回復魔法使えなくなっているはずだ。
「ああ、そっか。そう言えばそうだったわね」
本人が全く自覚してなかったみたいだけどいいのか?フェイも呆れているぞ?
「まあ、少し早い期間で目覚めたから、予想していたより回復魔法使える人は少なかったのね」
??
「あなた何言ってるの?」
「だから!私が起きるの400~700年の間って予想だったでしょ?それが500年って事は回復魔法使える人が少なくて、私の回復魔法をそこそこ当てにしてたって事でしょ?」
「??何言ってるか理解できないんだけど?」
俺も理解できていない。
「だからもし回復魔法を使える人がいなかったら、教国の神官に回復頼ってばっかりでしょ。その場合は礼拝する人が増えるから大体約400年で生命力が溜まる予想だったの、逆に思ってた以上に回復魔法使える人がいれば礼拝に来る人も減るでしょ?それでも700年もあれば生命力は溜まるって予想だったのよ」
俺達の召喚される時期の予想って結構しっかり考えられていたんだな。ただ、溝口の話で一つおかしな所がある。
「回復魔法なんて私達以外誰も使えないわよ?」
レイの言う通り、こっちの世界で回復魔法は教国の神官しか使えないってのが常識だ。レイやフィナみたいな例外は除く。
「は?何言ってるのよ?私ちゃんと教えたわよ!確かに使える人は少なかったけど、それでも20人はいたはずよ」
どう言う事だ?溝口が嘘つく理由もないから教えたのは本当なんだろう。それが今では使える奴が誰もいないって事は、思っていた以上に才能ある奴がいなかったとか?アレスを見ると首を振られたので、理由は分からないようだ。それなら唯一事情を知っているのはフェイだけか。
「フェイ!説明して!」
「異端者狩りじゃ。儂が森に帰って大体50年ぐらいした頃だったかな、教国が神官以外で回復魔法を使える奴を異端者と呼び次々処刑していったんじゃ。女神の神聖な回復魔法が使えるのは魔道具を賜った神官だけ、他の回復魔法は全て異端認定したんじゃ」
「何でそんな事に・・・そ、それにあの当時でも回復魔法使いはかなり貴重だったのに、全員処刑されちゃったの?王族や領主に密かに守られている人は誰もいなかったの?」
「そこが教国が厄介な所じゃ。今のように教国からは各国に神官が派遣されておった、当然各国の王宮にも大きい街にも神官はいたからな、恐らくそこで野良の回復魔法使いについて色々情報を集めていたんじゃろう。儂が大森林に帰ると、すぐに教国は野良の回復魔法使いの暗殺に動き出したようでな、異端認定を始める頃には野良の回復魔法使いはほとんどおらんかった。そして仕上げに異端者狩りじゃ、王国や領主の所にいた回復魔法使いは全て処刑された。同じ回復魔法使いでも教国の神官は教国からの派遣じゃから給金はいらんかったしな。中には処刑に反対して渡さない領主もいたがその頃には女神教が民の間に大分浸透していたからな、民を扇動して暴動を起こされれば従わざるをえんよ」
やるからには徹底的にって奴だな。それにしても何で教国はそんな事を始めたんだ?フェイの話から前もって計画していたみたいだけど。
「それはアンナを早く目覚めさせる為にしかないじゃろ。野良の回復魔法使いがいなければ教国の神官の回復魔法の需要が増えるから、礼拝する人が増えて生命力が沢山集まってアンナが目覚めるのが早くなるからな。それと女神教と教国の地位を高めるためじゃろう。まあこれもハイゼが言い残した事だと思うがな・・・イタタタ!おい!やめろ!痛いぞ!」
調子に乗って話していたフェイに溝口のアイアンクロ―がさく裂する。
「あんたは何でそのまま放置していたのよ!」
「い、イチ様からはその事について何も言われてなかったからじゃ!それにアンナが目覚めるのが早くなれば儂も黒龍殿も喜ぶしな」
「・・・う・・・そう言われたら何も言えないじゃない」
「分かったら手を離せ!頭が割れる!」
「ま、まさかハイエルフ様の頭を儂掴みにして何もされないとは・・・」
「やはり本当に『建国王』様達と戦った『女神』様なのか」
「しかもハイエルフ様に説明しろと命令したぞ、それにハイエルフ様は何も言わずに従った」
ヒソヒソと周りから声が聞こえる。
「何でみんなこいつに怯えてるのよ?ただの人見知りが激しいだけのエルフよ?慣れるまでが大変だけど慣れたらどうって事ないわよ?」
ヒソヒソ話が聞こえていたんだろう溝口が、フェイの頭をガシガシ撫でているが、多分あれはタマか待木がやって怒られないかどうかって微妙なラインだな。すごい嫌そうな顔しているがフェイは黙って撫でられている。俺達がやれば容赦しないだろう。
「こいつの事はどうでもいいわ、それよりも回復魔法使いがいないって事よ!私が起きたからあの魔道具はもう使えないわよ?しかもあの装置解除したからバッジワーグがいないとどうすれば元に戻るかも分かんないし・・・仕方ないからまた教えるしかないか」
どうでもいいと言われても不機嫌そうな顔をしているフェイ・・・伝説のエルフの扱い酷くね?
「それについてはギン達より解決策を聞いていて現在広めている最中です」
アレスの言葉に大きく溜め息を吐いて下を見ていた溝口の顔があがった。
「ほ、本当に?・・・ああ、誰か回復魔法使えるんだ。良かった~あの詠唱覚えてるか少し怪しいのよね。フェイは覚えてるの?」
「忘れた。まあ里の奴が何人か使えるから聞けば分かる」
溝口とフェイは二人で何か納得しているけど詠唱は関係ないぞ?
「そう言えば!あの回復魔法の詠唱何なのよ!女神様に祈りを捧げるって!女神ってあんたの事でしょ。アンナに祈りを捧げてたなんてよく考えれば気持ち悪いわよ」
唯一詠唱を知るレイが溝口に文句を言っているが、言われた本人はキョトンとしている。フェイも隣で胡散臭い感じでレイを見ている。
「はあ?レイ何言ってるの?私じゃなくて大地の精霊に祈りを捧げるんでしょ?」
「そうじゃ、儂もそう教わったし、里でもそう教えているはずだ」
認識に違いがあるけど俺は何となく理由は分かる。結局詠唱なんてどうでもいいんだろう、イメージがしっかりすれば発動するはずだ。それに詠唱自体黒川が考えたって話だしな。
「溝口はどうやって無詠唱で唱えられるようになったんだ?」
何か言いたげなレイを止めて俺が質問する。
「最初は詠唱の短縮かな。慣れてきたらまた詠唱を短縮してを繰り返してたら無詠唱出来るようになったわよ」
「俺達は『生活魔法』がベースだ。ヒトミ、ちょっと実際に見せてやってくれ。白炎までな」
俺の指示に従い、ヒトミは最初は生活魔法の『火』を出し、それに魔力を込めて火球に更に魔力を込めて青炎、白炎に変化させる。
「ちょ、待って!何よこれ!生活魔法で簡単に無詠唱出来るの?・・・いや、最後の白いのは絶対ヤバい奴でしょ」
溝口は白炎のヤバさに気付くか。
「おお、すげえなこれ。簡単に使える」
早速待木が試している。こいつ土魔法使えるのか。汚れるからその辺に放つなよ。
「あ、アンナ見ろ。儂も色が濃い緑に変わった」
フェイも手に風魔法を出して魔力を込めると薄い緑が濃い緑色に変わった。
「フェイのってヨミコと考えた『見えざる風』にならないの?」
「あれは少し威力を落とす代わりに精霊魔法で透明にしているからな。これと少し違う。しかしこの小娘共は全員色が変えられるらしいぞ、末恐ろしい奴等だ」
一段上の魔法を使ってみてそのヤバさにフェイはすぐに気付いたんだろう。レイ達が危険人物認定されてしまった。
「ギン!話についていけん。身内だけで納得していないで説明してくれ」
俺達が好き勝手やっているのを見かねてアレスが口を挟んでくるが、俺を指名したのは俺以外に声を掛けづらかったんだな。他のお偉いさんは驚き過ぎてみんな口開けて傍観している。
「・・・何と、そんな事が出来るのか」
「いや、多分だけど色を変化させられるぐらいの魔法を使える奴はいないんじゃないか?それこそ俺達召喚された勇者とその恩恵を受けられる奴隷ぐらいだろ」
ただでさえ魔法使える奴も少ないってのにその更に上はいないだろう。
「そ、それなら私は可能性があるのでしょうか?」
「フランは魔法使えないからね~。諦めなさい」
「お姉様の意地悪!」
いやさすがに無理なものは無理だ。
「おー、ホントだ。でもまさか『洗浄』が『回復魔法』の基礎だとは思わなかったわ~」
「生活魔法って昔はどんな扱いだったの?」
「生活魔法は使える人が4人中3人って所だったかな?使えないと役立たず扱いだったわ。それで私達の仲間が増えてきても、そんな感じで仲違いが頻繁にあったからヨミコが簡単な詠唱を考えてそれを味方に広めて使えるようにしたのよ」
まさか生活魔法の詠唱も黒川が考えたのか。それより昔は生活魔法無詠唱で使える人が多かったのか。
「最初は簡単に出来なかった人が多かったけど実演してたら段々使える人が増えていったからイメージも大事なんじゃないかって話もあったんだけど、ヨミコがそこは頑なに否定していたわ。まあ自分が考えた詠唱が無駄になるのが嫌だったんでしょう」
黒川・・・お前の我儘で生活魔法は今では、ほぼ全員が使えるようにはなったけど、無詠唱で使える人は皆無になったみたいだぞ。
「それで?この方法なら回復魔法の詠唱は教えなくてもよさそうね」
「今の所二人だけ使えるわね。各国には伝令を走らせているみたいだからこれからもっと増えるわよ。アンナが各地を回って注意点とか教えてあげたら?」
「う~ん。そうするか。マーキングも切れてるから世界中を回るついでにやってみようかしら」
レイと溝口が話をしているが、さっきからマーキングがどうとかってのが気になるな。
「ママ、眠たい」
「あれ?もうそんな時間か。いいわよタマ、お休み」
俺が質問する前にタマが寝ぼけ眼になりながら溝口におねだりすると、タマが魔法陣に吸い込まれて消えるとすぐに周囲から笛の音が鳴り響く。これサイの国と全く同じ展開だ。すぐにアレスが警戒を解除するように伝え窓から見上げると案の定城のてっぺんでタマが龍型で眠っていた。
「タマと一緒に寝なくていいの?」
「タマったら時々寝ぼけて龍型に戻るのよ。それで一度ガルフォードとナガレが圧し潰されてね。それ以来タマは龍型で寝るって決まっているの」
笑いながら圧し潰さたなんて言ってるけど、それ死んだんじゃねえのか?
「私も疲れたし、もう休もうかな。図々しくて申し訳ないんですけど、お風呂とご飯ってどうにかなりません?」
そう言えば溝口は500年の眠りから目覚めたばかりだった。俺がアレスに視線で合図を送るまでもなくアレスは既に風呂と食事の準備を済ませていたようで、そうそうに溝口達は案内されてどこかに行ってしまった。
「皆、悪いが今日はここまでとする。ギン、明日は何時がよいだろうか?女神様はお疲れだと思うから出来ればゆっくりして頂きたいのだが」
アレスの奴気を使いすぎだろ。まあフェイに対するあの態度見れば仕方ないか。
「9の鐘にここでいいんじゃね?」
「だ、大丈夫か?早すぎないか?」
「大丈夫だって、アレス達もさっさと終わらせて自分の国に帰りたいだろ。溝口の事は気にするなって」
「本当か?信じるぞ?・・・それと明日の朝食は何がいいと思う?今日の夕食は既に作らせてしまったが、明日の朝は女神様が喜ぶものを作って機嫌よく会議に出てほしいんだが」
王族が献立を考えるなと言ってやりたいが、アレスの『建国王』パーティへの尊敬の念は異常だからな。下手な事は言えない。
「だったら大き目の皿を5枚ぐらい貸して下さい。アンナ達の朝食は私が作るのでそれを持っていってもらえれば多分ご機嫌になると思います」
レイが口を挟んできたが、その自信は大丈夫か?
「アンナって多分日本料理まともに口にしていないはずだから、ご飯と味噌汁があれば絶対文句言わないと思うな。まあ他にもおかずは作るけど」
あ~。それなら溝口も喜ぶだろう。皿を受け取った俺達は元ヒトミの部屋を割り当てられた。この部屋俺が火を点けたけど既にきれいになっていた。まあ俺達はいつものように自室で寝たんだけど。