147話 砂の国と女神の関係
「それでこっちにきて今何年目?」
「2年と少しだ」
少し落ち着いた後、待木に質問を始める。俺達も聞きたい事はあるが、まずは溝口が現状把握してからにしようとなった。
「ふ~ん。そう、ならテツも19になってるね、よかった~」
あれ?確か召喚したら2年は戦争が起きないか様子見しろって指示だったよな?19になってるのは当然として何が良かった?
「ああ、それ噓。私今23だから、さすがに幼馴染って言っても高校生のテツに手出すと、捕まるぞ、ニュースになるぞってヨミコに散々言われたのよ。やっぱり気にするじゃない?それで2年待てばテツも19になってセーフだから2年待ってもらったの」
そのくだらない理由がアウトだよ。こいつらの事、色々考えてるなあとか思って馬鹿みたいだ。そしてその何か下らない事に関しては黒川が必ず噛んでいる気がするのは気のせいか?
「それで2年経ってる世界は今どんな状況?」
「世界大戦が終わった所だ。クラスメイトも半分以上死んだ」
「・・・・はっ???」
俺達の為に色々してくれた溝口達には悪いがそうなってしまった。死んだクラスメイトの大半は俺の仕業って考えると、俺、悪者だな。
「やっぱりあの国任せたのは失敗だったな~。イチとマリの優しさが仇になっちゃったか」
俺達が召喚されてから今までの話を黙って聞いていた溝口は、話を聞き終わると後悔を口にした。聞けば帝国を滅ぼした後、火の国をカラの国の王族の血筋に任せるかどうか揉めに揉めたらしい。結局東と西園寺の意見に反対の他3人が折れて任せたそうだけど、結果から言えば俺達が召喚されると各国に戦争を仕掛けてきたから失敗だった。
「色々俺達の為にやってくれてたのに俺が結局大半の奴等を殺してしまった。悪い」
理由はどうあれ、こいつらがやってくれた事を台無しにしてしまった。
「話を聞いたらツッチーがそうしたのも仕方がないよ。それよりも親友3人を助けてくれてありがとうね」
あれ?俺このままツッチー呼びなの?
「それはそうとツッチーとそこの獣人さんはいつまで私を警戒しているの?嫌だなあ、私暴れたりしないから、それに二人には流石に負けると思うよ。私も結構強いと思ってたんだけど、ツッチーはたった2年でどうやってここまで強くなったの?もしかして私達の訓練の真似した?あの方法はおススメしないから広めないって話だったんだけどな」
警戒しているのは流石にバレていたようだ。さっきからレイ達が咎めるような目で見てたのもあるけど、溝口はそれがなくても気付いただろう。しかし溝口達の真似って何だ?
「お前らの真似って何だ?俺らは普通にみんなで訓練してただけだけど」
「何が普通じゃ!ママ、こいつら骨が折れても構わず攻撃してくる頭のおかしい訓練しておるのじゃ」
「ええ!??私達も大概だけど、ツッチー達も大概だね」
何故か頭のおかしい集団にされたけど、溝口達の話を聞いたら、こいつらの方が頭がおかしかった。『帝国』と戦う時は基本特攻かけて、誰か1人が致命傷を負えば溝口の召喚魔法で撤退、回復、特攻を繰り替えしていたらしい。厳しい戦いになる程俺達の成長は速まると俺達を召喚した装置を作ったバッジワーグから聞いたそうだから間違いないだろう。
「そ、それでよく無事だったね」
「無事じゃなかったわよ。みんな何度も死んだわ。フェイは何回だっけ?」
「3回じゃ」
ええ?死んだってどう言う事だ?しかも3回って意味分からん。
「まあ、私とマリは死ぬ訳には行かなかったら、死んでないけどね」
聞けば、東達の中でも『上級治癒』、『召喚』が使える溝口と『蘇生』が使える西園寺が戦いの要だったそうだ。東達は世界樹のあった場所を拠点として『蘇生』が使える西園寺だけをそこに残し各地を戦っていたそうだ。それでもし回復が間に合わなかったら西園寺の『蘇生』を使っていたので、マジで頭のおかしい戦い方してる。思い出せばフェイと最初にやり合った時も捨て身戦法慣れているって言ってたな。やられた方はたまったもんじゃないけど。
「フォードなんて20回は死んでるわよ。あいつ作戦聞かずに突撃しかしないから仕方ないんだけどね」
チラリとガルラを見ると、少し尻尾が項垂れていた。自分に身に覚えがあるのか。憧れの人に失望しているのかどっちだ?
「あれ?フェイは回復魔法使えるのに、特攻してたのか?」
「儂が使えるようになったのはアンナが眠った後じゃ。国が落ち着いた後にイチ様が教えてくれたからな」
「へえ~。あんた回復魔法覚えられたんだ。まあ、あの頃は覚えている余裕なかったもんね」
フェイが東達と知り合った時は激戦の最中だからその時は教える暇がなかったのか。
「あ、あのお姉様、もうそろそろ事情を説明して頂けないでしょうか?あと、会議の最中だったので今頃大騒ぎになっていると思うので、出来ればみんなに説明して頂けると助かるのですが・・」
今までずっとレイの隣で立ち不安そうな表情をしているフランの事すっかり忘れていた。
「あっ!ごめんね。スーの子孫さん。それでどこまで送ればいいかな?」
召喚した本人が謝罪してるけど、フェイを手玉にとり、黒龍からママと呼ばれているからフランが怯えるのも無理はない。
「フラン、こいつちょっと大きくて怖いかもだけど、傷付ける事はしないから安心して」
「ちょっとレイ!誰が大きくて怖いって!」
「あんたよ!いきなり召喚されて、目の前で伝説のエルフ手玉に取ってる奴を怖がるなって方が無理でしょ」
「伝説のエルフって・・・フェイってそんなに有名なの?」
「『建国王』様の第2王妃で生きる伝説と言われています。それに普段は大森林の最奥で暮らしているので御姿を拝見した記録があるのは2回だけです」
「に、2回??あんたどんだけアジトに引き籠ってるのよ」
フランの言葉に呆れたようにフェイに目線を向ける。
「ヨミコに引き籠りの極意を教えてもらったからな。これでも多い方じゃ」
自慢できることではないが胸を張るフェイ。若返っても胸は薄いな。
「自慢する事じゃないわよ、馬鹿!・・・ごめんね~フランちゃんだっけ?このエルフにはそんなに敬意を払わなくてもいいわよ。何かあれば私が何とかするから。それでどこまで送ればいいかな?」
その伝説のエルフに怒鳴りつけるからフランがドン引きしてる。
「え、えっと。先程まで火の国の帝都で会議をしていました」
「火の国ね。オッケ~!・・・・あれ?マーキング切れてる?まあ500年経ってるし仕方ないか。タマ、お願い」
「分かったのじゃ。でも全員は乗せられないのじゃ。」
「そうなの?じゃあ、フェイは乗れない人を魔法で運んで。逃げたら100人の前で自己紹介だからね?」
伝説のエルフ脅すとか・・・フランが怯えるのはそう言う所だと思う。
「ええ!女神様!・・・ま、まさか、そ、そんな・・・」
タマの背中に乗って移動中にフランに詳しく説明すると当然驚かれた。
「そう言われてるけど、ガラじゃないけどね。マリの方がよっぽど似合ってたから。それよりもフランだっけ?スーの話を聞かせて」
「初代様ナイアス・スー様は、建国王様の第3王妃様で、砂の国を興したと伝わっています」
「それは知ってる。スーの実家あのオアシスの畔にあったのよ。それで自分の村を大きくするのが夢とか言ってたからね」
「ナイアスという名前はヨミコが与えた。第3王妃になるのにいつまでもスーだけじゃ格好つかんだろと言っておった。スーの実家から考えたとか言っておったな」
溝口とフェイは何でもないように言ったけど、フランは新たな事実を知った事で驚いて固まったじゃねえか。
「スーは実家の村で攫われてカラの国に売られたんだって。それでちょうどこっちに来た私達のお世話係として私の奴隷になったのが縁で一緒についてきてくれたの。あの子私達にすごく感謝してたけど、まさか自分の子孫に奴隷紋つけさせるなんて何考えてるのかしら」
「いえ、これは砂の国の女王の証として代々受け継がれてきたものですから、我が国の誇りです。そしてこれは砂の国の女王に代々伝えられている事ですが、この奴隷紋の主が現れた時は砂の国の全てをもって尽くすように言われています。まさか私がその栄誉を賜る事になるとは思ってなかったですが、これから精一杯尽くさせて頂きます」
目を輝かせて気合十分のフランと対照的に溝口は頭を抱えている。こいつさっきから何回も頭抱えてるな。
「えっと。スーの子孫さん・・・フランって言ったわよね。スーが何言い残したか知らないけど、私の事は気にしないで。むしろそうして欲しいんだけど?」
「そ、そんな!せめて一度我が国に来て頂いてから結論を出して下さい。『主貯金』もお渡しなければいけませんので」
『主貯金』って何だ?
「ちょ、待って。一度行くのは元々考えてたからいいけど、『主貯金』って何?」
「歴代の女王が主様の為に貯めているお金です。少し前に数えたら白金貨300枚ありましたけど、もしかして少なかったでしょうか?」
白金貨1枚1千万ぐらいだから、30億か、すげえ。って溝口分かってない顔してるな。金銭価値が昔と違うんだろうか。
「えっと、アンナちゃん。白金貨1枚が大体1千万円ぐらいって考えればいいよ」
「・・・・30億!!ちょ!大金じゃない!も、貰えないわよ、そんな大金」
「え!?な、何故でしょうか・・・ま、まさか私何か不手際を・・・この命をもってお許し願えないでしょうか?」
「ちょ、待って。レイ、何なのよこの子、怖いわよ」
俺もフランの態度にドン引きだ。砂の国では溝口の事どう伝わっているのか・・・そもそも溝口はスーに何したんだ?
「これ1回アンナは砂の国に行って説明しないと駄目じゃない?っていうかあんたこれだけ感謝されてるってスーって人に何したの?」
「何って・・・身の回りの世話してもらってたから、こっちが感謝してるぐらいだけど?あ~、そう言えばイチとの仲を取り持った時は凄くお礼を言われたな」
「それじゃない?」
「え~?そう?ヨミコとフェイの許可貰ったから、イチに酒飲ませて押し倒せって言っただけなんだけど?それすらも私よりもヨミコがノリノリだったわよ」
子孫の前で最低な暴露話するなよ。
「そういう訳よ、フラン。だからあんまり気にする必要は無いから、それに一度アンナが砂の国に行くからその時は私もついて行ってあげる」
「お姉様、ありがとうございます。でも本当にいいんでしょうか?歴代女王の想いが詰まっているのを私の代で終わらせて・・・」
「いいって、いいって。スーも私がいいって言えば納得してくれるから、何て言っても私はあの子の主だし!」
それでフランが納得して引き下がったのと同時ぐらいに帝都が見えて来た。やっぱり空飛ぶと速いな。そして帝都の城の入口前にタマが着地すると当たり前だけど兵士に囲まれた。そう言えばタマが黒龍だって知らない奴等も多いんだった。
「あ~どうも。お騒がせしてすみません。心配しなくても暴れたりしないですから安心してください」
すぐにタマの背中から降りて、ペコペコ頭を下げて回ると、兵士達が俺に気付いてくれたのか少し警戒が解けたが、まだ黒龍姿のタマにみんな怯えている。
「溝口、みんな怯えてるからタマを人型に戻してくれ」
「タマ、おいで」
「ママ~」
溝口の言葉にタマはすぐに人型に戻り抱き着く。当たり前だけど溝口にすごい従順だな。
「ギン!戻ってきてそうそうすまんが、大変な事が!砂の女王が・・・あれ?フランチェスカ女王?」
しばらく待つと報告を聞いただろう各国のお偉いさんが、走ってこっちにやってきた。そしてその集団の先頭を走っていたアレスがフランに気付く。そして他の面子もフランに気付いて安心した様子だ。会議中いきなり目の前から消えたらそりゃあ心配するだろう。
「お前達、火の国を滅ぼしてまだ2日だぞ。それなのに見ただけで、また訳分からん事になっているのはどういう事だ。色々説明してもらうぞ」
アレスに文句を言われてしまった。確かにいつの間にか溝口が増えてるし、フェイが若返っているし、フランが一緒にいるしで説明する事が多いな。まあ説明はレイと水谷に任せればいいか。