146話 目覚めた女神様
「ママあああああ!!!!ママ!ママ!」
「・・・んあ?・・・ちょっとタマ、寝てる時に飛びついてくるのやめてって・・・・!!何かおっきくなってない?」
ミラが飛びつくと約500年間眠っていたとは思えないぐらい、本当に寝起きみたいな声をあげて溝口は普通に目を覚ました。覚ましたが抱き着いてきたミラに違和感を感じて抱っこして持ち上げると目を大きく見開いた。
「ちょ、タマ?何でこんなに成長・・・!?」
驚いてミラを持ち上げていた溝口だったが何かに気付くと周囲を見渡す。最初はフェイに目が留まり、次にレイ達、そして待木で目線が完全に止まった。俺はスルーされた。
「「アンナ!」」、「アンナちゃん」
「ヤッホー!うわ~、3人とも久しぶり~ってそっちはそうでもないのかな?それにしてもみんな変わらないな~。レイはちょっと太った?」
「太ってないわよ!失礼ね!」
感動の再会だってのに何か溝口軽いな~。それともワザとかな?
「もう!本当にみんな何で私達の為に色々してくれたの?みんな良い人過ぎるよ」
「本当に唯のクラスメイトの為にこれだけしてくれるなんてどうやって恩を返せばいいのよ」
「本当、あんた達大馬鹿よ。でも本当にありがとう」
「アハ、アハハハハ・・・み、みんな無事で良かった~、会いたかったよ~」
レイ達が口々にお礼を言い溝口に泣きながら抱き着くと、溝口も我慢できなくなったのか涙を流して4人で抱きしめ合っている。やっぱり最初は照れ隠しだったみたいだ。
「ふう。私達はもういいでしょう。ほら、アンナ立てる?彼氏が待ってるわよ」
「あっ!その事は後で詳しく聞かせてもらうから!」
「あんた、待木の事黙ってたの覚悟しておきなさいよ!」
しばらく4人で泣き合っていたが、落ち着くと彼氏との感動の再会を促す。元々溝口はそのためにずっと寝ていたらしいからな。
「め、女神様!!わ、私が女神様を目覚めさせました!!どうか、どうか我が教国に繁栄を!!」
感動の再会前に面倒くさいイベントが残っていた。雰囲気台無しで教皇が溝口に頭を下げてお願いしてくるが、当の本人は理解していないので困惑している。
シュッ!バシィイ!
そんな教皇だったが、フェイの風魔法で容赦なく吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
「貴様は喋るなと言ったじゃろう。アンナに近づくでない」
恐ろしく冷えた声で言うフェイを見て驚く溝口。
「あ、あなた・・・やっぱりフェイ?何でそんな?・・・!!それより今のお爺ちゃん大丈夫?」
フェイに気付いたけどその前に吹き飛ばされた教皇が気になるのか、教皇まで駆け寄ると無詠唱で回復魔法をかける。・・・・やっぱり無詠唱できるか。
「おお!『上級治癒』を無詠唱とは、流石女神様、素晴らしい!さて、それでは我が国への繁栄の為、共に歩んでいきましょう」
教皇の奴、完全に自分の世界に入ってないか?溝口引いているぞ?
「な、何このお爺ちゃん?何言ってるの?」
「光の教国の教皇じゃ・・・ハイゼの奴がアンナが目覚めれば教国に繁栄をもたらせると書き残していて、それで勘違いしておるんじゃ」
「・・・えっと・・お爺ちゃん。私は恋人に会う為に眠っていただけだから、残念だけどそんな事するつもりはないし、できないわよ」
「・・・・え?・・・は?・・・何を言って・・・我が一族はその為だけに・・・」
教皇もまさかこんな事言われるとは思ってなかったのかパニクってる。
「ご、ごめんね~」
溝口が申し訳なさそうに両手を合わせて謝った所で教皇は何か吹っ切れたようだ。
「ふ、ふざけるな!!お前を目覚めさせる為に我が一族は500年ずっと努力してきたのだ!全てはサイの国に勝つ為!貴様には断る権利などある訳ないだろう、死ぬまで教国の為に働いてもらうぞ!」
「・・・・う~ん。・・・そんな事言われてもなあ~。・・・ごめんなさい。やっぱり無理」
教皇の奴顔真っ赤にして怒ってやがる。ざまあ。
「だ、だから貴様に断る権利はない!!貴様の意思などどうでもいい!」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らした後、教皇が詠唱を唱え始めると、目の前に水球が数個出現した。水球かどうしようかな・・・教皇が詠唱始めた時点でみんな警戒してるし、問題なさそうだ。溝口も隣にフェイがいるから守るだろう。
「『水球』!!!」
!!!
教皇が水球を放った瞬間、いきなり溝口の目の前に魔法陣が現れ、水球がどこかに消えたので驚いた。驚いていないのはフェイとミラとこれをやった溝口だけだ。ミラは無表情で教皇をガン見している。気分が昂ったんだろうか、黒目だけが元に戻っているからちょっと怖い。
「な、何だ!!・・・き、貴様!今何をした!」
「自分の手の内は晒さない主義なの、ごめんね。それと次、私に攻撃したらタマが問答無用で反撃もするから気を付けて、じゃあね~」
教皇の足元が光輝き、魔法陣のようなものが浮かぶと教皇が消えた。溝口の奴確か『召喚魔法』使えるとか聞いたから多分、それだな。
「テツ」
「アンナ」
教皇を排除した後は溝口はゆっくりと距離を縮めて待木と見つめ合う。500年彼氏を待ち続けた彼女って考えると物語の主人公とヒロインみたいだな。それでここから抱きしめ合ってハッピーエンドだな。
バシン!!
そう思って俺は二人を眺めていたら、何故か溝口が待木の頭を叩き辺りに大きな音が響いた。
「あんた、レイ達いるのに何で正解してんのよ!キャラじゃないから黙っててって約束したでしょ!!」
「言ってない。入力しただけだ」
「そんなトンチみたいな答え求めて無いわよ!馬鹿!」
あれ?500年ぶりの感動の再会は?これでいいの?と思ったら溝口が吹き出した。
「・・・プッ!!フフフ、アハハ!やっぱりテツは相変わらずね。変わってなくて安心したわ・・・それで?浮気とかしてないわよね?」
溝口の纏う空気が変わった。・・・こいつマジか?教皇の時は本気出してなかったな・・・かなり強いぞ。
(あ、主殿!!)
(分かってる。レイ達は親友同士だから、もし戦いになったら避難させて俺とお前で対処する。気を緩めるな!)
ガルラもすぐに溝口の強さに気付いたようだ。親友同士では戦わせたくないので俺とガルラだけで作戦を決めておく。そうしている内にも話は進んでいた。
「だ、大丈夫だ!フェイが何度も誘惑してきたが、ちゃんと断った!」
普段全く動じない待木でも流石に動揺して慌てて弁明している。しかし見た目ババアのフェイに誘惑されるとは待木も災難だな。フェイも自分の年を考えろと言ってやりたい。
「フェイいいいいいいいい!!!!!!!!!」
そしてその彼女はさっき500年の眠りから覚めたとは思えないぐらい大声で叫ぶ。見ると周囲にいつの間にかフェイの姿は無い。あいついつの間に逃げたんだ?そしてここまで怒っている溝口に対してミラはニコニコしながら抱っこされている。
「あの馬鹿エルフ!許さん!!『召喚』!!」
溝口の言葉に足元に魔法陣みたいなものが2つ現れる。すげえ、『召喚魔法』って飛ばすだけじゃなくて呼び出す事も出来るのか。
「ふ、二つ!!!???あれ???」
溝口は自分で出した魔法陣に何故か驚いているけど、そこからゆっくりと二人の人物が頭から生えてくる。
「スー??え??何で?」
「フラン??」
「い、今のは??・・・お姉様??」
「ぎゃああああ!い、痛いいいいいいい!」
場がカオスになってしまった。落ち着いてよく見ると、溝口から召喚されたフェイは分かるとして、もう一つは何故か砂の国女王フランだ。それで召喚されて戸惑っているフランにそれに気づいたレイが声をかける。フェイは召喚されると溝口からアイアンクロ―をかけられて痛がっている。
「な、何でスーが??」
「スーではない!スーの子孫じゃ!それよりも頭が割れる!アンナ!手を離せ!」
「子孫?でも何で召喚・・・あちゃ~、気にしないでって言ったのにスーもどれだけ律儀なのよ。・・・えっと、スーの子孫はちょっと待ってて」
「お、お姉様、ここは?私は会議をしていたはずですが・・・」
「う~ん。私も分かんないけど後でアンナが説明してくれるでしょ。少し待ちましょう」
「ちょ、ちょっと、アンナちゃん。お婆ちゃんにそれはちょっと酷いよ、痛がってるから離しなよ」
フェイがアイアンクロ―されてるのを流石に見るに耐えかねてヒトミが溝口に注意する。
「お婆ちゃん?フェイが?そんな訳ないでしょう!こいつまだ600年も生きてないはずよ、どうせ変化でしょう!ほら!解きなさい!」
そう言う溝口の手に魔法陣が浮かび上がると、フェイが更に苦しみだす。
「ぐああああ!やめろ馬鹿!このデカゴリラ!魔力を飛ばすな!」
「誰がデカゴリラよ!色ボケエルフ!その暴言も含めて今ならまだ許してやるわよ!!」
「ぐあああああああああ!わ、悪かった!儂が悪かった!謝る!許してください!」
すげえフェイの敬語なんて初めて聞いた。しかも素直に謝るとは・・・溝口やべえな。
「痛いのじゃ」
「あんた何でテツを誘惑した?イチの事はもういいの?」
溝口から手を離されて床にペタンと座り頭をさすっているフェイだった人物。今ではギルド本部で見た肖像画の美人になっている。これって変化の腕輪使ってるんじゃないのか?どっちがフェイの本当の姿?待木はもしかしてこの姿のフェイに誘惑されたのか?よく我慢できたな。
「イチ様の事は好きじゃ。ただ、流石に500年近くも日照りの体にテツの魔力は目の毒で我慢できんかった」
「はあ~。私には魔力の色なんて分かんないって、それで?テツの魔力はどんな感じなの?」
「イチ様と同じく透き通っていて輝いておる」
「ふ~ん。それって日本人ならそうなんじゃないの?ナガレも綺麗って言ってたじゃない」
「違うな、そこの小僧を見てみろ。あれは『沼』みたいに濁っておる。心が荒んでおる証拠じゃ」
おい、ババア!訳分かんない事で人の事ボロクソ言うのやめろ。
「・・ん?んん?あれ?ツッチー?誰かと思えばツッチーじゃない?」
つ、ツッチー?・・・あれ?俺って渾名で呼ばれるぐらい溝口と仲良かった?・・・いや良くなかったはずだ。
「渾名で呼ばれる程仲良くなかったはずだけど?」
「ああ!そっか、ヨミコが勝手に呼んでたからうつっちゃった。気にしないで」
・・・・
「黒川とも接点何も無かったんだけど。何でそんな渾名つけられてるんだ?」
「何か、自分と同じ陰の者だからシンパシー感じて、ツッチーは仲間だとか言ってたわよ」
誰が陰の者だ!黒川の奴勝手に仲間にするな。
「それよりも・・・ふ~ん。ようやく上手くいったみたいね?」
溝口は俺の隣に立つヒトミを見てニヤニヤし出す。
「あっ!私もだから!」
すぐにレイが気付いて俺の腕に抱き付いてくる。
「・・・は?え?『も』って?」
「この馬鹿、二股してんのよ!信じられないでしょ!レイもヒトミもいくら言っても聞いてくれないし、ホント信じられない!」
驚く溝口に水谷が怒りながら説明する。こいつまだ俺がレイとヒトミと付き合っているの気に入らないのか。
「ちょっと驚いたけど、まあ異世界だしね」
「軽!アンナも何か言いなさいよ!親友二人が心配じゃないの?」
「・・・う~ん。そう言ってもな~。イチは3人だし、ナガレは知ってるだけでも5人はいたからな~。『沼田』なんて50人はいたって聞いたし、本人がいいならいいんじゃない」
俺達より異世界生活が長いだろう溝口は特に気にした様子はない。しかし沼田の奴50人はすげえな。体持たねえんじゃないか。
「ナガレは最終的に10人じゃったな。イチ様は儂等以外は家臣にいくら言われても増やそうとしなかった」
「まあ、イチらしいわね。それよりフェイ、さっきの格好とその喋り方は何なのよ?」
今は若い姿に戻っているフェイに溝口が変化していた理由を問いただす。
「この姿でいると男が寄ってきて鬱陶しいからじゃ。これでも変化がバレないように長い時間をかけたから結構大変だったんじゃぞ。この話し方は黒龍殿の口癖が移ったんじゃ」
「そうなのじゃ、ママ。ヨミコがこの喋り方をすればママが喜んでくれると教えてくれたんじゃ。えへへ」
可愛らしく笑うミラだけど、溝口って娘?にそんな喋り方させたかったのか?
「ヨミコが言うには『のじゃロリ』は至高だそうじゃ」
「・・あの馬鹿!タマに何てアホな事吹き込んでいるのよ」
黒川のせいかよ!マジで何教えてるんだ?あいつ異世界エンジョイし過ぎだろ。そしてさっきから気になる事がある。
「なあ、溝口、さっきから黒龍の事『タマ』って呼んでるけど大丈夫か?」
確か黒龍の真名は気軽に教えたらマズいって話だったはずだ。
「どう言う事?タマって呼んで何かマズいの?」
あれ?どう言う事だ?溝口分かってないぞ。
「タマと言うのはママが名付けてくれた真名だから、無暗に人に教えたら駄目だとヨミコに教えられたのじゃ。儂をタマと呼んでいいのは儂が許可した奴だけなのじゃ」
その言葉にまた頭を押さえる溝口。また黒川の奴が原因か。
「はあ~。タマ、ヨミコが言った事は忘れなさい。少なくともここにいる人達はタマって呼ばせてあげて」
「分かったのじゃ。ママの言う通りにするのじゃ」
溝口から頭を撫でられてすごい嬉しそうな顔をしているミラ・・・じゃなくてタマ。・・・こいつの正体黒龍なのに猫みたいな名前だな。
「フェイ、それでみんなはどうなった?」
待木を待ち続けていたと言っても、一緒に戦った仲間がどうなったか当然気になるんだろう。
「みんな天寿を全うしたぞ、最初はナガレで、マリ、ヨミコ、イチ様、スー、ガルフォードの順番じゃ。みんな最後までアンナを気にしておったから、この後アジトの墓まで報告に行くぞ」
「そっか、みんな逝っちゃったか。まあ、覚悟はしてたけど。・・・それよりアジトってまだ残ってたの?世界樹のトコよね?」
「ああ、今は儂等はあそこで暮らして居る。静かでいいぞ」
「はあ~?あんた彩の国はどうしたのよ?」
「イチ様から死ぬ間際に好きに生きろと言われた。だからスーが死んだ後は儂も国を離れた」
「国はどうなったのよ?」
「彩の国はヨミコとイチ様の長男が継いだ。闇の国は長女だな。スーの子は砂の国を継いでおる」
「あんたの子供はどうしたのよ?」
「息子はエルフの族長で、娘は別の集落の村長をしておる」
エルフの族長ってフィナみたいなもんなのかな?孫のシルカが結構偉そうな身分だったから、この考えは大きく間違ってないだろう。
「そう、ならいいわ。それでマリとフォードは上手くいったの?」
「ああ、アンナが寝たらすぐじゃった。というよりアンナがマリの背中を押したんじゃろ?」
「まあ、直前にようやく相談されたからね。全く種族の違いとか気にするなってのと、少しは色ボケエルフを見倣えって」
「誰が色ボケエルフじゃ!」
「あんたよ!人の男に手を出そうとして、そこは後でゆっくり話をさせてもらうから」
「・・・グ・・・そこはまあ、何とかならんか?」
「なる訳ないでしょ!・・・それでマリとフォードの子孫はいるの?」
「ほれ、そこにおるじゃろ。あの獣人の小娘はマリの血を引いておる」
そう言ってフェイがフィナを指差す。
「ふぇ?わ、私?」
いきなり話を振られたフィナはキョトンとしている。
「きゃあ!!可愛い!!小っちゃいマリだ」
キョトンとしているフィナを躊躇う事無く抱き締める溝口。
「ちょ、ちょっと待て!そのマリとかいうのは主殿達と同じ人族なんだろ?ガルフォード様のお相手は同じ獣人だと伝わっているぞ」
ガルラが慌てて口を挟んでくる。流石ガルフォードマニア。
「そうなの?」
「そうだ。ガルフォード様の隣には魔法が使える美しい奥方が付き従っていたという。大森林に保護された獣人達が生活していく知恵をガルフォード様が授け、奥方が皆に広めたと伝わっている」
「フォードが知恵?ククク、アハハハハ。チョー面白い。あの馬鹿が知恵とかある訳ないじゃない。数も数えられなかったのよ?」
ガルラの知っているガルフォード様と溝口の知っているガルフォードって別人じゃね?
「貴様ガルフォード様を馬鹿にするのか?」
おっと、ガルラが怒ったか?ガルラの殺気を受けても全く動じない溝口はやっぱり強いな。
「アハハ!ごめんごめん。ただフォードに知恵なんて言葉使うから面白くて。でもまあこれでハッキリしたわ、その奥方がマリね。あの子本当に何でも知ってたからねえ。大方ガルフォードを族長だと認めさせる為に、マリが色々教えたって所かな?」
「うむ。大体合ってるぞ」
ここでフェイも頷いたって事は溝口の言い分が正しいんだろう。ガルラはちょっとショックを受けている。
「そ、それなら何故奥方が獣人だと伝わっている?『建国王』様達の仲間なら獣人も受け入れたはずだ!」
「アンナが眠った後、マリは死んだ事にしたからな。正体がバレないように常に獣の仮面を被っておったからな。それがいつからか勘違いして伝わっておるんじゃ」
フェイから衝撃の事実が突き付けられガルラが膝をついた。何で死んだ事にしたんだろう?そう言えば獣の仮面被ってる奴ってどこかで聞いた事あったな。
「何で?・・・って聞かなくても『蘇生魔法』か・・・結局そうなっちゃたのね」
「ちょ、ちょっとどう言う事?私にも説明してよ」
なんか色々訳ありの様子に見えたので、蘇生魔法が使えるレイにとっては他人事ではない。溝口に慌てて詰め寄る。
「ああ、マリは蘇生魔法が使えたの。って言っても死んでから30分以内って制限付きだけどね。ただ人って自分に都合のいい情報しか信じないのよ。死んでから30分以上経過しているから無理だっていくら言っても信じてくれない人が大半で、人によっては、マリにすごく酷い事を言う人がいてね。マリは優しいからそれで自分を責めてよく泣いていたの。だからもうそれならいっその事、蘇生魔法はもう使えないって事にしてしまおうってみんなで決めたのよ。それでその時ヨミコが考えた理由が『処女じゃなくなったから使えなくなった』よ。最低でしょ?マリってその頃まだ経験ないのに非処女認定されたからめっちゃキレてたのよ」
最低だな黒川。そして楽しそうに笑う溝口の言葉にレイが呆然としている。
「あんた達の考えたその最低な理由、今も伝わってるんだけど?」
そう言えばレイは口を酸っぱくして注意されてたって言ってたな。
「はあ?馬鹿じゃないの?何でそんなの伝わってるのよ?・・・あ~ハイゼか。あの子ならやりそうだな」
どうもそのハイゼってのが色々おかしな事を伝え残しているみたいだな。
「それでも信じてくれなくて生き返らせろと人が押し寄せてきおったんじゃ。アンナが眠りについた後は、マリは一人残った女神じゃ、その重圧に潰される前にイチ様達がアンナを死んだ事にして大森林に隠したんじゃ。勿論フォードも一緒にな。それからはマリはガルマリーと名乗り、ガルフォードと大森林で暮らしたんじゃ」
「えっと、私がそんな偉い人の血を引いているなんて聞いた事ないんですけど?子孫はイチ村の人とかじゃないんですか?」
フィナが恐る恐る溝口に質問する。溝口はいつまでフィナに抱き着いているんだ?
「マリの子は各村を切り開いた奴等じゃからどの村にもマリの子孫はおる。まあお主は特によくマリに似ている、顔もじゃが魔力もな。獣人なのに魔法が使えるだけでなく3重詠唱者になった事に不思議に思わんかったか?」
フィナのその魔法の才能は西園寺の血を引いているからなのか。
「まあ、それ以外にも勇者の奴隷になり才能が開花したってのもあるがな」
「??ど、どう言う事ですか?」
「なんじゃ気付いておらんのか?勇者自体成長速度は著しいが、勇者の奴隷になればその恩恵を受けれるんじゃ。儂もガルフォードも最初はイチ様の奴隷じゃったから、ここまで強くなれたんじゃ。スーは小さかったしアンナの奴隷でもあったから戦いは禁止しておったので強くはならんかったがな」
「そ、そうなんだ・・・私お兄ちゃんに買ってもらえて運が良かったな」
フェイが余計な事言うからフィナがまた俺達に感謝するじゃねえか、別にそんな事気にするなと後で言っておこう。
「わ、私のこの強さも主殿のおかげなのか」
「いや、聞いた限りお前は力よりも賢さじゃな。小僧に感謝しておけ、ガルフォードはマリがどれだけ教えても数も数えられんかったからな」
ガルフォードって勇者ブーストかけても数えられないってどれだけ頭悪かったんだ。そしてガルラが感謝するのは俺じゃなくてヒトミの方だ。もしかしたらヒトミの教え方が上手かったのかな。
「それでキミは何番目の村の子なのかな?」
未だにフィナに抱き着いて耳や尻尾を撫でまわしている溝口がフィナに質問する。いい加減離してやれよ。
「ヤクモ村ですから8番目です」
フィナの言葉に溝口が固まった。
「は、八?8~~?ちょっとフェイ流石に嘘でしょ?」
「本当じゃ、ガルフォードとマリの子供は8人じゃ。大森林に行ってからはほぼ毎年子供が生まれておった」
「多!!あの二人どれだけ作ってるのよ」
俺も8人はさすがに多いと思うぞ。
「獣人の子育ては集落でまとめて面倒みるから楽だとマリは言っておったな。ヨミコがそれ聞いて大森林で子育てすると騒いでいたが、イチ様から止められておった」
呆れるようにいうフェイの言葉を聞いて溝口がまた頭を押さえている。黒川ってそんなに問題児だったのか。
「で?ヒトミは何をそんなに難しい顔してるの?流石に8人子供欲しいとか言わないわよね?」
「ち、違うよ。さっき言ってたガルマリーって名前どこかで聞いたなと思って」
そう言えば俺もどこかでその名前聞いたな。どこだっけ?
「その名前は冒険者ギルド本部で聞いたな。ガルってつくから知ってるか主殿から聞かれたから覚えているぞ」
まさかのガルラが覚えていた。そう言えばそんな事あったな・・・!!!
「ちょっと待て!ガルマリーって冒険者ギルド作った奴だろ?そいつが西園寺だってのか?」
「冒険者ギルドって何?」
あれ?溝口も知らないのか?そう言えば溝口が眠ってからガルマリー名乗ってるから知らないのは当然か。
「アンナが眠りについて1年ぐらい経過した頃にヨミコが唐突に冒険者ギルド作ると言い出したんじゃ」
また黒川か。・・・いやギルドがあって俺は助かったから感謝した方がいいのか
「それで大森林で過ごしていたマリを呼び出してギルド立ち上げを手伝ってもらったとイチ様に言い訳しておったが、実務はほとんどマリがやったようなもんじゃ。ヨミコはこうしたい、ああしたいとアイディアを出しておっただけじゃな。マリが手伝うのはいいが、死んだ女神が表に出てくるのは色々マズいって事で大森林で使っていた仮面を被りガルマリーを名乗っていたって訳じゃ。」
そう言う事か。そう言えばガルマリーってギルド作ったらさっさと後を譲ったって聞いたけど、大森林に帰ったんだろう。
「それで思い出したけど、フェイってまだ2代目グランドギルドマスターのままだぞ?誰かに譲ってやった方がいいんじゃないか?」
「なら、小僧に譲ってやる。それで終わりじゃ」
「なんて適当な、っていうか要らねえよ。それに譲るならギルドに顔出してやれよ。フェイ森に帰ってから一度も顔出した事無いんだろ?代理が言ってたぞ」
「ちょっと、ツッチー今の話もう少し詳しく」
溝口が食いついてきたので詳しく話をしていくと、溝口の表情が消えた。
「フェイ~~~、あんた何て無責任な事してるのよ。今度謝りにいくわよ」
「い、嫌じゃ。儂がいなくても問題ないとマリから言われたから渋々引き受けたんじゃ。それに儂は人族が嫌いじゃ。絶対行かんぞ」
フェイの人嫌いは相変わらずだな。と思ったら溝口が大きなため息を吐いた。
「あんたのそれは人嫌いじゃなくて人見知りなだけでしょ。500年経つのにまだ克服できてないの?それなら私が眠りにつく前にした約束覚えてるわよね」
人見知り?フェイが?・・・そう言われてみればそんな気がする。徹底して人前に出ようとしなかったし、出ても不機嫌そうな感じだった。それに大森林の出口で他のエルフ達にもあんまり話そうとしてなかったな。
「わ、忘れた。年を取ると物忘れが酷くてな・・・い、嫌じゃ。絶対嫌じゃああ!」
笑顔で詰め寄っていく溝口に言い訳をしていたフェイが逃げ出した。
「馬鹿ね。私から逃げられる訳ないでしょう。『召喚』」
「ぎゃああああ!痛い!!離せこのゴリラ!!」
フェイを召喚してあっさり捕まえる溝口。ここまで簡単にフェイをやり込めるなんて溝口もだけど召喚魔法も凄いな。っと?マジか?フェイ、溝口に魔法使うのか。
バシュッ!!
フェイの奴、躊躇う事無く溝口に魔法を放ったけど、抱き着いているタマが手だけを黒龍サイズに戻してそれを防いだ。その顔はさっき教皇を見ていた時と同じで無表情でフェイをガン見している。かなり怖い。
「フェイでもママに次攻撃すれば容赦しないのじゃ」
「タマはいい子ね~」
「ママ~」
溝口が頭を撫でて褒めるとすぐに笑顔で顔を擦りつける。フェイは観念したのか床にペタンと座り不機嫌そうだ。
「まあ行くにしても詳しく現状理解してからだから、それまでに覚悟決めときなさい」