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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
7章 大森林のBランク冒険者
155/163

145話 女神の目覚め

 目が覚めると、ガルラ以外の4人が俺の顔を覗き込んでいた。


「ギンジ!」、「ギンジ君!」、「土屋!」、「お兄ちゃん!」


 俺が目が覚めた事に気付いた4人が俺に抱き着いてきた。寝起きでこれは少し苦しいんですけど、重いとか言ったらダメな雰囲気だよな。みんな泣いているし。


「金子は?どうなった?」

「死体は私が燃やしたよ。もしかして首だけでも残しておいた方が良かった?」


 フィナが燃やしたならもう心配する事はないか。それに穴だらけの顔を持って行ってもアレス達も困るだろう。


「いや大丈夫だ、ありがとうな」


 そう言ってフィナの頭を撫でてやるといつものように嬉しそうに笑ってくれた。部屋から出てくるなって命令した時は少し距離を感じる返事が来たけど、気のせいで良かった。


「それより、ギンジ。体の方はどうなの?どこかおかしい所ない?」

「フィナが決着がついたって言ったから慌てて飛び出したら、あんたお腹に剣が刺さって倒れてたのよ。最初見た時、死んでると思ったわよ」


 レイは心配そうに聞いてくるが、水谷は軽くキレながらだからこれ心配してんのかな?


「ああ、多分大丈夫だ。この感じだとレイが上級治癒かけてくれたんだろ?」


 先程までの眩暈やふらつきが無いから回復魔法で回復された事は分かる。やっぱりポーションより回復魔法は便利だな。


「良かった。本当に心配したんだからね。今度は1人で戦わずに私達も戦わせて!」


 ヒトミが泣きながら言ってくるが、多分次同じ事があってもやっぱり1人で戦うだろうな。3人は非情になりきれないだろうし、ガルラより強い奴相手だと、万が一があるからな。俺はヒトミの頭を撫でて答えを誤魔化しながら立ち上がり、周囲を見渡す。辺りは広場になっており、近くに白塔や色々な建物が建っている。当たり前だけど、俺が大聖堂をぶっ壊して回収しているから俺達のいる場所は中庭みたいな感じになっている。そして地面に何か燃えた後がある側にガルラが立っていた。


「おお、主殿。起きたか。それにしても情けない所を見せてしまった。申し訳ない」

「あれ?てっきり俺が怒られると思ったけどな?」


 出てくるなって命令した時に文句言われたから怒られる覚悟はしていたのに、逆に拍子抜けしてしまった。


「フィナに回復されて冷静になったら、あそこまで一方的にやられた私が出ても足手まといにしかならない事に気付いてな。主殿に何も文句は言えん」


 良かった。一回は殴られるかもとか考えていたけど、それはなさそうだ。


「それで?大聖堂はどうしたの?きれいに無くなっているけど?」


 この国で長く暮らしていたレイはここに大聖堂が建っていた事は周囲の景色から分かるんだろう。それを聞いた他のみんなが驚いてる。


「水と闇の国境で回収してた砦で金子を圧し潰そうとしたらぶっ壊れた。崩れた建物なんて戦いに邪魔だったから影に入れてる」


 俺の答えに全員口を開けて呆然と見ている。他の連中ならともかく俺のパーティメンバーなら俺がこれぐらい出来る事知ってるだろ?


「あんたたち怪獣にでもなって暴れてたの?砦で圧し潰すって・・・そんな事出来る土屋も、それで死なない金子も一体何者なの?」


 水谷が俺と金子を同列に扱って呆れている。金子と同列に扱われるなんてすごい嫌なんだけど。


「まあ、これで後は安奈ちゃんを起こして終わりだから。詳しい話は家でゆっくり話そう」


 ヒトミの提案にガルラとフィナが少し不貞腐れてる。すぐにでも俺に金子との戦いの内容を聞きたいからなんだろうけど、俺も疲れてるし、風呂入って飯を食べてからじゃないと話す気になれない。


「それじゃあ、話は家でな。さて、最後に寝坊助を起こしに行くか。丁度フェイ達も降りてきたみたいだ」


 ヒトミの提案に乗りつつ、『探索』でフェイ達が白塔から降りてきているのが分かった。そしてそのメンバーが1人増えているのは何でだ?と思ったけど白塔から顔を出した待木が手招きするので向かうと、身分の高そうな服を着た爺さんが増えていた。増えていたと言ってもその爺さん縄で縛られて地面に転がっているから引きずられて連れて来られたんだろう。見ると所々怪我をしているし、着ている高そうな服なんてボロボロに破れている。


「おじい・・・教皇。これは一体どう言う事ですか?全部説明してもらいますよ」


 転がっている爺さんに気付いたレイが真っ先に駆け寄っていく。どうやらこの爺さんが教皇のようだ。


「レイか、生きていたならすぐに戻ってくればまだ使い道があったものだが、役に立たんな」

「なっ!・・・やっぱり私を騙していたのね!」


 レイは教国にいた時の教皇は優しいお爺ちゃんって言ってたけど、今の内容から腹黒ジジイだって事が確定したな。


「別に騙してはおら・・・グハッ!!」

「お主はもう喋るなと言っただろう」


 レイに話しかけて来た教皇の腹をいきなりフェイがかなりの力で蹴り飛ばした。



 ええ~~?いきなり何してんのこのババア?こんな爺さんを蹴り飛ばすなんてやっぱり危ないババアじゃん。


と思ったけど、そんな軽口叩けない程、フェイが怒っているのが分かる。他の面子もドン引きだ。


「ま、待木君、お婆ちゃん何であんなに機嫌悪いの?」


 ミラに聞いても納得できる答えが返ってくる所か、フェイの怒りに油を注ぐと判断したのか一番安全な待木にヒトミが小声で聞いている。


「詳しくは分からないが、大森林を攻められた事、東達仲間と仕込んだ事を台無しにされた事にかなり怒っていた」


 ああ、それならフェイがこんなに怒る理由も分かるな。でもこんなにキレてるなら教皇は殺されていてもおかしくないのに何でまだ生きてんだ?まさか人嫌いのフェイが情けをかける訳もないだろうし。


「教皇がまだ何か小細工をしてあるかもしれないから、殺してないだけだ。と言っても教皇を見つけた瞬間、教皇の両手をフェイは消し飛ばした。あとは下半身が・・・黒龍に踏み潰されたから、殺すのを躊躇ってる訳ではないと思う」


 後ろで待木が恐ろしい事を話しているんだけど・・・。フェイもだけどミラも容赦ねえ、こいつら危ねえ奴等だ。


「ほれ、行くぞ。こっちじゃ、ついてこい」


フェイは相変わらず不機嫌そうに言うので、俺達は文句を言わずに黙ってついていく。


「こっちって何も無いわよ?」


 教国にいた頃は何度もこの白塔に足を運んだ事があって内部の構造を知っているレイが質問する。確かにフェイの向かう先は扉も何も無いと言うよりここ白塔の1階は広い円状の空間になっていて、唯一さっき待木達が下りて来た階段が上に続いているぐらいだ。


「黙ってついてこい。・・・確かこの辺じゃったな」


 レイの質問に素っ気なく答えた後、フェイはいきなり魔法で床を攻撃しやがった。ボケたか?と思ったが、攻撃を受けた床が崩れて中から地下に続く階段が現れた。どうやってるのか分からないが、瓦礫が浮かんだままで下に落下する事は無かった。


「な、何よこれ?こんな場所に階段があったなんて知らないわよ?教皇、これは一体どう言う事?」

「うるさい。黙ってついてこい。あとこのジジイには喋らせるな」


 レイの質問を遮るようにフェイが口を挟む。フェイの奴いつも以上に機嫌が悪いな。対してミラはご機嫌なのはもうすぐ溝口に会えるからなんだろう。鼻歌を歌いながらご機嫌だが、教皇を縛っている縄を持っているから後ろからズリズリ教皇が引かれている。しかも階段だろうと全く気にかけずに引っ張るから教皇を色んな所にガンガンぶつけながら降りている。みんなドン引きしているけど、ある意味教皇が諸悪の根源みたいなものだから何も言うつもりはないようだ。


「白いの。ほら、これを読め。これを読めばお主は騙されていなかった事が分かるだろう」


階段を降り始めると、すぐにフェイが古い本をレイに投げて渡してきた。・・・『白いの』って・・・。


「・・・ヒトミ、読んで」


 そう言って受け取った本をヒトミに渡すとパラパラと中を読み流すヒトミだけど、速読出来るらしいので内容はきちんと頭に入っているはずだ。


「う~ん。この人最初はまともだけど、段々と頭がおかしくなってきてるね、結論から言うと女神様が目覚めるまでにその教えを世界中に浸透させて、女神様の信者を増やせって、それで女神様が目覚めれば更なる繁栄が訪れるって書いてあるかな」

「それをどう意訳したのか・・・アンナが目覚めれば、サイの国含め世界中が教国の下にひれ伏すと信じているのだ」


「・・・・・・・」


 何も言えねえ。結局教国も私利私欲で動いてただけか、くだらねえ。もし仮に溝口にそんな力があってもレイ達や待木が止めるだろう。大体溝口が眠っているのって待木を待つ為だって聞いたし、世界征服なんて考えてないだろう。


「だからこのジジイはアンナを起こす事だけを考えていたんじゃ。お前の事もただの駒としか考えていなかったんだろう」


 レイに向かってフェイが中々酷い事を言うが、実際水の国で見捨てたからその通りなんだろう。


「全く何をどう見てたらアンナが繁栄をもたらせるんじゃ。お前らと対して変わらん小娘・・・大娘じゃ」


 おい、フェイ。今何で言い直した?確かに俺の記憶の中で水谷と一緒に話しかけてきた女が俺よりでかいって記憶があるけど。



「ほれ、着いたぞ。少し待っておれ。あー、そうじゃ、そこの獣人の娘ども、少し黒龍殿を捕まえておけ。儂がいいと言うまで手を離すなよ」


 そうして階段を降りた場所は上の階とほぼ同じ広さの部屋だったが、その中心には何かの黒い装置があって、そこから太さのバラバラな配線が壁や上に向かって多数伸びていた。そしてフェイはガルラ達に謎の指示を出すと教皇の首根っこを掴んで一緒に中心にある謎の装置に向かう。そして装置までくると教皇の縄を解いて、何か指示をだしているが俺達はさっきから話について行けずポカンとしている。


 そしてフェイの指示に従っているのか教皇が装置を何やら操作すると、キーボードによく似た形の操作盤が現れた。そして、教皇がその操作盤を更に触っていると、


ガコン!!


 装置から何かが解除された音が聞こえた直後に装置が明るく輝いた。・・・いや、違う、元々装置は輝いていたが、外側のシャッターみたいな物で覆われていたから俺達には見えていなかっただけか。そして、明るく輝く装置の中には水の国で見たレイが着ていた教国の服によく似た服を着た女がいた。装置の中は何かの液体で満たされているんだろう、その女はゆらゆらと長い髪を漂わせながら装置の中で浮かんでいた。


「「「アンナ!!!」」」

「ま、ママああああ!!!放せ!!!お前等!邪魔じゃ!!!!」


 すぐに装置の中の人物が誰か気付いたレイ達は声を上げ、ミラは近づこうとするが、フェイの指示でガルラとフィナによって抑えられる。


「むう、すごい力だ。一度手合わせしてもらいたいな」

「お姉ちゃん!真面目に押さえて!ちょっとこれいつまで押さえてればいいの?」


 ミラの必死の抵抗をガルラは全く別な事を考えて面白そうに抑えている。そんなガルラはフィナに怒られているが、気にした様子はない。・・・気を抜いて手を離すなよ。


「黒龍殿、落ち着け。暴れてあの装置を壊してしまえばアンナは二度と目が覚めんと言っておいたじゃろう」

「・・・・う・・・うん。わ、分かった。大人しくするのじゃ」


 フェイが装置から離れてミラに話をすると、すぐに大人しくなった。事前に話はしていたけど、溝口を見た瞬間我を忘れたって所か。一緒にいた教皇はいつの間にか階段近くで倒れこんでいる。扱いがひでえ。


「アンナちゃん?だよね?」

「どっちかと言うとアンナのお姉ちゃんって方がしっくり来るけど」

「多分、この装置で眠る前に何年か経過してるんでしょ。私達も2年以上こっちにいるじゃない。それでも私達よりもう少し年上って感じね」


 3人ともフェイのミラへの注意が聞こえたんだろう。慌てずにゆっくりと装置に足を運びながら3人で感想を言い合っている。確かに装置で眠る溝口は20代前半から半ばぐらいって所だな。


「ほれ、ここから先はテツの出番じゃ。その操作盤の指示に従えばアンナは目覚めるはずじゃ」


 フェイは落ち着いたミラを優しく撫でながら待木に指示を出す。待木はそれに従い装置に足を進めるが、その目線は装置に浮かぶ溝口に釘付けになっている。ただ、その表情はいつもと変わらないので何を考えているかさっぱり分からない。そして装置まで近づいて操作しようとすると、それを覗き込んでいる女子3人が声をあげた。


「んん??これって、日本語?これパソコンのキーボードまんまだね」

「何この画面?《開始しますか?Y/N》・・・これって」

「ちょっと、これもしかして待木じゃなくてもいけるんじゃないの?」


 何だ?3人の様子から待木は必要ないのか?待木の魔力的な物とかキーアイテム的な物が必要だと思ってたんだけど、違うのか。


「なら、やって見ればよい、間違っても何もペナルティは無いが答えを知らなければ絶対にアンナは目が覚めんと聞いておる」


 水谷の言葉が聞こえたフェイが試しにやって見ろという。フェイの言う通りペナルティが無いのであれば、待木じゃなくても溝口の親友3人ならいけるかもしれない。フェイの言葉に水谷が躊躇う事無く操作盤に触れる。


『第1問!目の前の人の名前をフルネームで答えよ!』


 水谷が操作盤に触れるとどこからか声が聞こえて来た。何だこれ?


「ま、ママ!!ママの声じゃ!!!」

「アンナの声よね?これ?」

「録音っぽいね」

「っていうか何これ?クイズ形式なの?」


 聞こえてきた声は4人の反応から溝口の声のようだ。ミラは喜んでいるが、他3人は何か気が抜けた様子になっているのは仕方ないだろう。俺も気が抜けてしまった。


「アンナの名前ね・・・『溝口安奈』っと、これ変換すると漢字にもなるわね。漢字でいいのかな?それとも平仮名?カタカナ?」

「間違えてもペナルティ無いって言ってたし、漢字でやってみて駄目なら他を試せば?」


 レイの疑問に水谷が適当に答えている。何かさっきまでの緊張感が無くなったな。


「それじゃあ、まずは漢字で!えい」


 ッタ~ン!とレイが操作盤を軽く叩く。俺も近くに寄って操作盤を見てみれば『Enter』キーもあるしまんまPCのキーボードだな。・・・でも何でわざわざ『Num Lock』キーを作った?必要なのか?


『正解です。・・・ねえ。ちょっとこれ本当にやるの?』

『するって約束でしょ。ノリ悪いぞ?』

『クッ!・・・はあ~・・・・正解で~す!キミはこの人の事知ってる人かな?それともマグレかな?』

『アハハハハ!いいぞ!マリ!その調子でもっと自分を曝け出していけ!』

『あんたはこっち来てから曝け出しすぎだけどね、ヨミコ」

『デュフフフ、アンナ殿、そんなに褒められると照れますな』

『そのキモイ笑い方ムカつくからやめて』


 レイが『Enter』キーを叩くとまたまたどこからか声が響く。正解したみたいだけど、何だこの楽屋ノリは?しかも今度は溝口以外の声の人が嫌がっていて、もう1人が煽ってやらせているってのは分かるけど、グダグダ過ぎないか。


「何これ?」

「500年も寝ている人を今から起こすのに緊張感無くなるなあ」

「アンナの奴これ作った時、絶対楽しんでたでしょ。って言うかこの声は黒川と西園寺?」


 水谷の疑問はミラとフェイの反応を見れば答えは明確だった。


「ヨミコおおおお、マリいいいい」

「あ・あああ・・・」


 ミラは声をあげて大泣きしているし、フェイも声は震えているし目が潤んでいる気がする。


 そしてそんな空気を読まずに一人だけ大きく驚いている人がいる。


「な!!!!正解しただと!!!この問題に我らがかなりの時間をかけたと言うのに・・・」


 階段の側で倒れていた教皇が簡単に問題が解かれた事に滅茶苦茶驚いている。確かにヒント無しだとキーボードの組み合わせ無限にあるしな。むしろヒント無しでよく解けたなと感心する所だ。


「だが、次だ。最初の問題は女神様の家名を当てるだけだが、次は全くのノーヒントだ。我らでさえ答えが分かっていないから答えられる訳がない」


 女神マリアンナが二人の人物だって教皇は知っているのか。それでもキーボードにはこっちの文字じゃなく日本の物だから当てただけでも凄いな。


『第2問!この人の家の住所を答えよ!』


 おっと、溝口の家の最寄り駅すら知らない俺にはこれは答えられないな。ってあれ?レイ達も知らないのか?不安そうな顔をして何やら3人で話合っている。


「どこ?最寄り駅は西川口よね」

「駅からはバスだったよね」

「マンションの名前なんて覚えて無いわよ」


 3人とも家まで遊びに行った事はあるみたいだけど、詳しい住所までは知らないのは当然か。俺もノブの家の住所なんて答えられねえし。3人とも諦めたみたいで待木を見る。見られた待木は何も言わずに操作盤の所まで来ると、迷いなくキーボードを叩いている。こいつ、溝口の家の住所暗記してんのか?いくら彼女の家って言ってもそこまでするのか?日本で彼女いた事ないからこれが当たり前なのかよく分かんね。


『正解!マジで?もしかしてあなたアンナのストーカーとかじゃないよね?』


 正解したのにすごい失礼な事を言われた待木を少し警戒する3人。警戒しなくてもフェイ達の所にきちんと待木が召喚されてるからストーカーではないだろう。


「家が同じマンションなんだ」


 それなら納得だな。しかしストーカー呼ばわりされて、更に3人から警戒されても少しも動じないなこいつ。


「えっと。もしかして幼馴染とか?」

「幼稚園から同じだったな」


 マジかよ、幼馴染と付き合ってるとかラブコメ主人公じゃねえか。


「す、凄いぞ、まさか初見で2問目を突破するとは!やはり予言は正しかった!よし行け!そのまま次も突破するのだ!」


 相変わらず空気読まずに教皇が騒いでいるがフェイ達は気にしてないから放置でいいだろ。


『ほら、次はフェイの番よ』

『わ、私はいいよ』


 いきなりフェイの名前が呼ばれて驚いたが、よく考えればみんな仲間だから、これを録音している場にいても不思議ではないか。しかしフェイの今の皺枯れた声と比べてかなり若い声だな。


『何言ってるのよ。あんた第2王妃でしょ、こんなので恥ずかしがってたら駄目じゃない』

『前から言ってるけど私はイチ様の子を産めるだけで満足だから、私は第2王妃じゃなくて側室として前にでるのはヨミコやスーに任せるよ』

『残念!前に出るのはあんた達の仕事。私は部屋でゴロゴロしてるから』

『もう!あんた達そんな事は後で話しなさい!フェイ!さっさとして!グダグダじゃない』


 本当だよ。今の話しの流れから最後に文句言っているは西園寺っぽいな。しかし本当にみんな仲良さそうだな、フェイも若い時はあんなに控えめな感じで喋ってるんだな。


『だ、第3問この人の好きな「あーてぃすと」は誰でしょう?』


 すげえ。フェイが嫌がる事を素直にやっている。待木やミラを使って頼み込んで何とかって所の今じゃ絶対考えられない。


「だ、誰だろ?アンナちゃん、結構手広く歌ってたよね?」

「あ~。カラオケだとテンション上がる系ばっかりだっけど、絞り切れないわね」

「う~ん。あのいつも最初に歌う曲でいいんじゃない?」

「まあ、それでやってみようか」


 俺には口を出す事も出来ずに3人で話して俺達が高1ぐらいの時に流行った歌手の名前を打ち込んでいく。


『ぶっぶ~!残念違います。も、もう少しアンナの事を理解しないと駄目だぞ』

『キャハハハハ!かわいい!いいぞフェイ、ノリノリじゃない』

『は、恥ずかしいよ~』


マジかよババア、声だけなら可愛いじゃねえか。・・・いや、当時はギルド本部で見たあの絵の姿か、そう考えると破壊力ヤベえな。ただ、相変わらずの楽屋ノリで緊張感の欠片もないのはどうなんだろう。


「ムカつくわね」

「黒川さんってこんな性格だったんだ」

「お婆ちゃん・・・」



 間違えてもフェイの言った通りペナルティは無いみたいで何回でも挑戦できるので、思い当たる歌手やグループ名を3人が入れていくが全て不正解だ。


「ちょっと、次は待木がやってみて、これ当たんないんじゃないの?」


 少し疲れた顔で水谷が待木に操作盤を譲ると待木はまた躊躇いなくキーボードを打ち込んでいくが、そのアーティスト名は俺でもネタスレか何かで見た事ある人だった。その人テンション上げる系の歌なんて出してたか?


「ちょ、待って。これは絶対違うよ」

「アンナ暗い系の歌わないもんね」

「待木!真面目に!・・・ってマジなの?」


 3人の反応に特に動じる事もなくキーボードを叩くが、何も反応が返ってこない。今まではすぐに返ってきたのに壊れたのか?


『・・・・・・正解よ。これに正解って事はテツしかいないわね』

『マジで?答えは誰なの?・・・うっそ~。暗!アンナに似合ってね~』

『うっさい!陰キャオタクに言われたくないわよ!』

『フフフ、アンナ殿、『陰キャオタク』は私には誉め言葉ですぞ』

『クッソ~。開き直ったオタクはマジで性質が悪いわね』


 待木が正解した事に俺はまあ彼氏だしなって思ったんだけど、聞こえてくる楽屋ノリが耳に入っていないぐらいレイ達は驚いた顔で固まっている。


『それで、これ正解できるのが待木くんしかいないならもう終わりでいいの?』

『ええ~?問題10問考えて来たのに~。まあ、いいか、もう飽きて来たし』

『飽きたってあんたね~。一応私が目覚めるかどうかの問題なんだけど』

『まあ。フェイもタマもいるし無事に待木君を連れてくるでしょ』

『そうね。・・・それではそこにいるだろう待木君、私とヨミコは会えないけどアンナと仲良くね、フェイもタマも有難うね』

『そうそう、アンナ溜まってるらしいから覚悟しといた方がいいよ~。フェイとタマとも仲良くしてね~じゃあね~』


 最後黒川の奴最低な事言ったけど、それを感じさせないぐらいミラとフェイがボロボロ泣いているし、レイ達ももらい泣きしている。っていうか普通にミラの真名を言ってたけどいいのかな?


ガゴン!!


 疑問に思ったけど、すぐに装置から大きな音がしたので、全員警戒する。そんな中装置の中の液体がどんどん減っていっているというより溝口に吸収されている?どういう理屈だ?よく分からん。そして液体が減っていくのに合わせて装置の壁がゆっくりと下がっていき、液体も壁も無くなった装置の上で溝口はペタンと座り項垂れていた。誰一人動く事を躊躇っている中、1人だけ溝口に向かって飛びついていった。


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