143話 大聖堂の戦い
ガキン!!
俺の本気の一撃を金子は難なく受ける。
ガルラを圧倒したから止められた事に驚きはない。俺はそのまま更に腕に力を込めると、金子が余裕そうな態度から少し驚いた顔に変わった。『影魔法』と『身体強化』を使えばギリギリ俺の力の方が強いみたいだが、そのまま押し込める程ではないので、本当に微妙な所みたいだ。
バシュッ!!
「・・・な!?」
そして影で攻撃を仕掛けた俺が逆に驚きの声をあげた。その隙に金子が大きく距離をとる。
「アハハハハ!悪いな土屋!お前の得意の影魔法は俺に効かないみたいだ」
俺と同じように真っ黒に染まった金子がご機嫌で答えてくる。こいつ闇魔法を体に纏わせて俺の影を吸収したのか?って事は金子の言う通り影魔法は通じないって考えた方がいいか。いや、念の為もう一度確認してみるか。
「ハハハハハ!だから効かねえって、無駄な事はするな、ほら集中しねえと死ぬぞ」
再び距離を詰め剣で攻撃をしながら影でも攻撃を仕掛けるが、金子の纏う闇魔法に触れると影の手応えが無くなる。金子の言う通り俺の影魔法は本当に吸収されている。そして金子の奴、影の攻撃を全く気にしていない。ほぼ実力が互角の戦いで俺は足元も気にしてしまった。そんな事をすればどうなるか身を持って体験する。
「ぐあ!」
俺が振り下ろした剣を受け流され、少し体が流れた俺の脇腹に金子の蹴りが入り飛ばされた。
「がは!ゴホッ!・・・」
おかしい!『身体強化』と『影魔法』の二つで体を守っているのにダメージがでかすぎる。・・・まさか、あいつの足にも纏っている闇魔法で『身体強化』と『影魔法』を吸収して無効化したのか?って事は俺は生身であいつの蹴りを食らったって事だろ。しかもこのダメージ唯の蹴りじゃねえ、何かスキルで強化してやがる。あいつの攻撃受けるとヤバい。
「どうした、土屋?唯の蹴りでビビり過ぎだろ」
ニヤケ面で金子が聞いてくるって事はこいつも分かってやがるな。分かっていて聞いてるから相変わらず性格が悪い。ただ金子の奴は影魔法は全く気にしていないが、剣による攻撃だけは必ず躱したり受けたりしてるからこっちだとダメージが通るんだろう。ポーションを飲んでダメージを回復した俺は、ある可能性に賭けて影魔法による牽制をしながら斬りかかる隙を探す。
「アハハハハ!これが世界中で恐れられている影魔法か?全く効かねえぞ」
分かってはいたが、金子に対して全く影魔法が通らない。もしかしたら連続で攻撃してればとか、大質量で覆えばとか思って色々やってみたが、全て無駄だった。切り札の影魔法で全くダメージが通らないので落ち込む俺とは対称的にご機嫌な金子。ムカつくぜ。
「アハハハハ!土屋、俺の闇魔法をどうにも出来ねえって事は、お前の影魔法は俺の下位互換みたいだな。それならもう要らねえかな」
何が下位互換だ、ムカつく事ばっかり言いやがって。
カキン!!
調子に乗っている今がチャンスかと思い仕掛けてみたが、また金子の剣に攻撃が阻まれる。そこから調子に乗ったのか金子からフェイントも何も無い雑な蹴りが飛んできた。
ザシュッ!!
「ぎゃああああ!痛ええええ」
よし!やっぱり剣ならダメージが入る。足を抑えて痛がる金子を見ながら剣ならダメージが入る事を確信した。ただ、本当なら金子の足を斬り落とすつもりだったんだけど、思ったより斬れていないのは、剣に纏わせた影が吸収されて剣だけの切れ味で斬ったからだろうか。そして痛がりながらもこちらを警戒する金子が光に包まれる。
しまった!こいつ回復魔法持ちだった。慌てたけどもう遅い、目の前にはいつものニヤケ顔じゃなくて怒りに震える金子が立っていた。
「土屋!てめえ殺してやる!死ねええ!」
ここで初めて金子から攻撃を仕掛けて来た。怒りに身を任せていると言っても一撃一撃が早くて重いし、隙あらば殴ってこようとしたり蹴りを入れてきたり掴みかかってこようとしやがる。俺も生身で金子の攻撃を喰らわないように落ち着いて金子の攻撃を捌いていく。そして何度も攻撃を捌いている内に金子の攻撃にも大分慣れてきた。そして何度目かの唾競り合いになり動きが止まる。俺はさっきから懲りずに影での攻撃も継続して行っているが、全て吸収されて金子まで届いていない。
「クソが!ここまで強くなってもまだお前を圧倒出来ねえのかよ!土屋てめえどんだけ化物なんだよ」
悪態をつく金子に俺は何も答えず、いつ蹴りが来ても対応できるように足にも注意を向けながら押し込まれないように剣を握る手にも力を込める。
俺から答えがないと分かると、一瞬だが金子が笑い鍔迫り合いから剣を下に押さえこもうと動くが対する俺も下まで抑え込まれないように力を込めると金子と体が近づく。
!!
その瞬間頭に警報が鳴り響いたので、剣を手離し慌てて金子から距離をとる。
「クッ!」
慌てて金子から距離をとったが少し遅かったみたいで腕と腹に激痛が走った。
い、今何で攻撃を受けた?距離をとった瞬間レイが使う光矢っぽいのが見えたけど・・・あいつまさか。
ポーションで回復しながら状況を確認する。ついでに手放した武器は床に落ちていたので影で回収して再び装備する。
「これも躱すのかよ。てめえはやっぱり強えな。しかもいつの間に武器まで回収してやがる」
余裕のつもりなのか金子は追撃してこずに、呆れた顔で俺が回復している様子を眺めている。
「てめえ、吸収ってのはスキルを奪うのかよ。今のは藤原の光魔法だろ?」
嫌な予想だが、金子は光魔法使えなかったはずだから合っているだろうし、金子のニヤケ顔を見る限り多分間違ってないだろう。
「アハハハハ、そうだぜ。俺の吸収はスキルを奪う。死んだ奴からしか奪えないけどな。要らねえって言ったけど、やっぱりお前の影魔法も便利そうだから、コンプする為に死んだら有難く使わせてもらうぜ」
ゲーム感覚でスキル集めようとすんじゃねえよ。・・・って、ま、まさか!少しやらかしてしまったかもしれない。
「金子!てめえ、まさか藤原だけじゃなくて浅野もなのか?」
「アハハ!その通りだよ、あの時はありがとよ!わざわざ浅野の死体置いて行ってくれたおかげで魔法コンプかなり楽になったぜ」
こいつ俺が風の国で置いていった『四重詠唱者』の浅野を吸収してやがった。あの時は少しでも進軍を諦めてくれればとか、火の国の勇者を殺せる奴もいると脅しの意味で置いていったんだけど、完全に失敗だったな。金子の奴四大属性と光、闇、回復の魔法使えるって事か。こいつの闇魔法ズルくねえか。
「失敗したぜ、お前は一番最初か風の国でしっかり息の根を止めておくべきだった」
「ハハハハハ、今更後悔しても遅えぜ、ほら、攻撃が雑になってねえか?」
俺の言葉にご機嫌になり俺の剣を受ける金子。さっき斬られてブチ切れた事はすっかり頭から抜け落ちているようだ。
金子の振り下ろした剣を躱すと、体を真っ二つにするつもりで腹に向かって剣を振るが、金子の腹に剣が埋まった所で勢いが止まった。
固い!
さっき足を斬った時は何も考えずに体が反応したから勘違いしたけど、今回は影魔法が吸収される事も考慮してマジで体を真っ二つにする気で剣を振ったのに・・・こいつ『身体強化』なのかどうか分かんねえけど何かしらのスキルで体を強化してやがる。
思わぬ展開に俺は一瞬だけ考えを巡らせたが、その一瞬は金子にとっては十分だったみたいだ。頭に警報が鳴り響いたので、金子から慌てて距離をとろうと、さっきとおなじように剣を離して後ろに飛ぶが、躱した剣が跳ね上がってくるのが見えた。
「ぐ!・・・ぎ!」
後ろに飛びながら金子の剣に注視していたが、僅かに間に合わず金子の剣が俺の影に潜り込み腹を通過していく。着地したと同時に腹に激痛が走るが、何とか叫び声を我慢してポーションを飲んで回復を図る。見ると、金子も回復魔法で治療している。
このままじゃフェイと同じで俺のポーション切れか金子の魔力切れかのチキンレースになってしまう。フェイとの戦いの後は各街でポーションを買い占めてたから在庫は十分にあると言ってもそれはやりたくない。しかも今度は影で回収する前に武器を金子に盗られてしまった。
「チッ!やっぱり痛えな。まあでも武器を奪ったから良しとするか」
そう言って金子の奴、空間をおかしくして俺から奪った剣をその中に入れる。その光景はヒトミがよくやっている『マジックボックス』への出し入れだ。やっぱり魔法だけじゃなくて他のスキルも使えるようだ。
「てめえ、人の武器盗むんじゃねえよ!返せ!」
「ハハハハハ、なら取り返しにこいよ。もう『マジックボックス』に入れたから俺を殺さねえと返ってこないけどな」
相変わらず俺が文句を言うと嬉しそうに笑いやがるからムカつく。その間も俺は影を伸ばして攻撃をいれているが吸収されているので金子は全く気にしていない。というか影魔法はもう眼中にないって感じだな。
武器はあんまり在庫はないので今度からはもっと影収納に入れておかないとな。
そう決めた所で、現状はどうする事も出来ない。幸い金子は俺が素手になったと思っているのから、このまま素手で攻撃して隙があれば武器を取り出して攻撃するか。
覚悟を決めて素手で金子に向かって行くと、俺がヤケクソになったとでも思ったのか、金子は、面白そうに顔を歪めて笑いやがる。絶対あの顔ぶん殴ってやる。金子に向かいながらナイフを3本投げるが、2本は手に持つ剣で撃ち落とし、もう1本は体を捻って躱す。その隙に俺が肉薄すると、慌てた金子が剣を振ってくるが、狙いは甘いし、振りもさっきより鈍いので楽に攻撃を躱してから金子の腹に蹴りを入れる。 『身体強化』や『影魔法』を『闇魔法』で剥がされ、金子の謎のスキルで強化された体にはダメージはあまり通らないと思っていたが、予想と違い俺の蹴りを喰らうと金子は大きく転がっていった。
あれ?
追撃しようとするが罠かもしれないと考え、影だけで追撃するが、こちらは全くダメージが入っていない様子だ。
「ゲホッ!うえええええ!・・・・土屋てめえ!!」
俺に蹴り飛ばされた後は呻いて地面に蹲っていた金子の体が輝くとすぐに起き上がり、俺を睨みつけてくる。
回復魔法使ったって事はかなりダメージが入ったのか?それとも噓か?噓の可能性もあるが、今のでかなり戦いに有利な情報が手に入った。
まず金子の奴、ナイフ投げただけであんなに慌てるって事は搦め手に慣れてねえな。あいつが今までどういう戦い方してきたのか知らねえけど、少なくとも冒険者向けの戦い方だと隙が作りやすいと考えていいだろう。
そしてさっきの俺の蹴りだが、あそこまで近づいたのでさっきみたいに魔法で反撃してくる事も考えていたけど来なかった。って事はまだ魔法の発動を反射的に出来る訳じゃなさそうだ。あの様子だと俺を騙す為って訳でもないだろうから、あいつへの攻撃で魔法の反撃は気にしなくていいだろう。
そして蹴りでダメージが入ったって事は、あいつ自身を強化するスキルは常時発動している訳じゃなく意識しないと発動できないって事だ。さっきのは斬られる覚悟で俺を攻撃してきたんだろう。
最後に俺の追撃の影魔法をあいつ自身意識している様子は無かったけど闇魔法に吸収されたって事は闇を纏っていればオートで吸収するって事だ。
よし、かなり有益な情報が集まった。これが全部金子の罠だったら多分俺の負けだが、あいつは馬鹿だからそこまで考えてないだろう。
影魔法で攻撃をしながら影が俺と金子を遮断した瞬間に俺はナイフを投げる。
「ったく、うっとおしいな!てめえの影魔法は効かねえって・・・チッ!」
俺の影を吸収した瞬間、影に隠れていたナイフが飛んできたのに気付いた金子は、慌てて大きく横に飛んでナイフを躱す。ナイフの後ろから追撃しようとしていた俺も金子について横に飛び着地と同時に攻撃を仕掛ける。
「チッ!卑怯な野郎だ!・・・どこからそれを!!」
いつの間にか俺が手に持つ片手剣に驚きながらも攻撃を受ける金子だが、動揺して隙だらけだ。態勢を立て直す隙を与えず攻撃を加えていきどんどん金子を傷つけていっているはずだ。全身闇魔法で覆っているからどれだけダメージが入ったかよく分からんけど、手応えはあるので確実にダメージを積み重ねていっている事は分かる。
「クソッ!!クソッ!土屋如きに!・・・俺が!・・・そんな訳!」
俺から押されてどんどん傷つき、焦る金子。腕を上げて大振りの一撃を仕掛けてこようとするが、腹がガラ空きだ!俺は力を込めて心臓に向かって片手剣を突き刺す。
バキン!!
俺の攻撃は何故か通らず、手に持つ片手剣が折れた。水都から使ってきたお古だったけど結構業物だったんだけどな。って今はそんな事考えてる場合じゃねえ。金子が剣を振り下ろしてくるのがはっきりわかるし、このままだと直撃する。ヤバい!俺は影収納から盾になりそうな防具類を取り出して少しでも勢いを止めようとしながら後ろに下がる。
ザシュッ!!!
「・・・・く、クソッ!」
ギリギリ間に合った!
影から投げ出した防具を斬る事で若干剣の勢いが遅くなってなければ俺は死んでいただろう。体を袈裟切りに斬られて危ない所だったけど、ポーションを飲みながら金子から距離をとり態勢を立て直す。俺が出した防具は真っ二つに斬られているのでもう使えないだろう。
「ふう~。焦ったぜ。土屋、残念だったな、言ってなかったけど俺の心臓と首はガチガチに固めてあるんだよ」
そう言って大笑いする金子は首元までキッチリ閉まっている服のボタンを外し首元を見せてくる。その首元には淡く輝く何かが巻かれている。よく分からんけど、かなり固い防具なんだろう。俺の手持ちの武器ではあれは壊せそうにないから影収納で奪うか、頭を直接攻撃するしかないな。
ブワッ!
おおよその作戦を決めた俺は再び影で攻撃を開始する。影魔法は全く効いていないがさっきの二の舞は御免なのか金子は場所を移動しながら俺のナイフ攻撃を警戒している。こう移動されてはナイフは当たらなさそうなので別の方法に切り替え俺は影を更に広げる。そして金子の移動先を予想して影からマキビシを出して罠を設置する。
「いっ!!!痛え!」
金子が罠に嵌ったと同時に再び距離を詰めるが、金子の奴、闇魔法に乗って逃げていきやがった。どこの筋斗雲だよ。
「さっきから小細工ばっかり使いやがって!」
態勢を立て直した金子が黒い筋斗雲に乗りながら文句を言ってくるが無視だ。俺はナイフ2本を影に投げ入れてから空に浮かぶ金子に向かって影を伸ばして攻撃をするが、やぱりダメージが通らないな。それなら!今投げ入れたナイフを伸ばした影から取り出す。
ザシュッ!
「ぐあ!!!くそがあ!!土屋!!!!!」
空に浮かんでいたから全く警戒していなかったんだろう。影から飛び出したナイフが足に突き刺さると、怒り狂う金子。そして態勢を立て直しながら俺に向かってきた。俺も手持ちのナイフを影に投げ入れて迎撃準備を整える。こんな事ならもう少し影にナイフを投げ入れて準備をしておけば良かったと思った所で後の祭りだ。フェイの時もだけど、俺って準備不足の反省点が多いな。こんな事だと師匠に怒られる。そんな事を一瞬考え、黒い筋斗雲から飛び降りて振り下ろしてきた剣を躱す。こっちはまだ影収納から武器を出していない素手だから、金子が油断してくれる事を祈っておこう。
最初は戸惑ったが何とか金子の動きが見えてきた、というよりこいつ戦いの経験が少ないから動きが直線的で読みやすい。まあ油断したら一撃で殺されるから、攻撃は紙一重で躱したりはせずに少し余裕をもって躱す。そうしながらも影での攻撃は諦めずに行っている。そしてすぐに金子が焦れたのか大振りの攻撃を仕掛けてきたので、仕込んでいたナイフを影から射出し、腹に当て、俺は金子の顔面を殴りに行く。
これで金子が気絶してくれたら俺の勝ちと思っていたのが、俺の予想に反してナイフが腹に刺さった金子は剣を返してきやがった。そのムカつくニヤケ顔を見た瞬間、俺が罠に嵌められた事が分かったが勢いは止まらない。金子の剣が俺の腕を斬り落とす軌跡で向かってくる。そして、
バキッ!!!
俺の拳が金子の顔面に届いた。殴られた金子は大きく吹っ飛んでいくが、気絶までは行かなかったようだ。すぐに起き上がり回復しながら不思議そうに剣と俺を見比べている。隙だらけだけど俺の方も痛みで追撃どころじゃなかったのでポーションを飲んで回復する。
「ああ!?今てめえ斬られたよな!?何がどうなってやがる?」
「さあな、当たんなかったんじゃねえか?」
「良く分かんねえけど、攻撃が効かないって訳じゃねえよな。だったら俺はとっくに負けてるもんな。てめえまだ何か小細工してんな」
問いかける金子を無視して俺はまた距離を詰める。
「相変わらず愛想の無いヤローだな」
金子の攻撃を躱しながら隙を伺うが、偶に出来る隙もさっきのように金子の誘いだと思うと迂闊に飛び込めない。しばらく膠着状態が続くがいつまでも警戒していても仕方が無いので、俺は覚悟を決めて金子が剣を振り上げた隙に腹に蹴りを入れた。
固ッ!
さっきの金子を蹴った時の感触はなく、岩でも蹴った感触が足に広がる。金子の罠に引っかかった事に気付いた時にはもう遅かった。
「ハーハッハッ!おらあああああ!!」
金子が足に向かって剣を振り下ろしてくる。慌てて距離をとろうとするが間に合わずに脛の辺りを金子の剣が通り抜けていったと同時に足に激痛が走る。
「今のは確実に斬れたはずだ。・・・・その顔と・・・ポーション飲んでいる所見ると、やっぱり足は斬れてやがるな。それを影魔法で無理やりくっつけているって事か。まあタネが分かればどうって事ねえな」
・・・・バレたか。
この方法はすごい痛いから本当はやりたくはないけど、相手の意表をつくのにかなり効果的な方法でフェイもこれで倒したからな。でもタネが分かってもそう言う攻撃があるかもって事で選択肢が増えれば当然迷うだろう。更に手持ちの短剣を二つ取り出し影に投げ入れる。今のを見た金子は今度はナイフじゃなくて短剣が飛び出してくる事も考えないといけないので更に警戒するはずだ。そして更に俺はレンガや岩を取り出して同じように影に投げ入れていく。その光景を見た金子は焦って俺に向かってきた。
「また小細工かよ!」
さっきみたいにマキビシを喰らいたくないのか闇魔法で少し浮かびながら迫ってくる。器用な事しやがる。
ブワッ!!
影で大神殿の内部を覆い、そこから投げ入れた短剣やレンガ、岩なんかを金子に向かって射出する。この四方からの攻撃はさすがに躱せないだろう。トドメに水の国の砦を取り出して圧し潰してやる。大聖堂より大きな砦をだしたから当然大聖堂は崩れ落ちた。俺はすぐに大聖堂から避難したので、何もダメージがないが、直撃を喰らった金子はただでは済まない。っていうかこれで終わっていて欲しい。
ガラガラッ!ドガッ!
砂煙の中からひときわ大きな瓦礫の崩れる音がしたので、俺の僅かな期待は打ち砕かれた。これでも駄目とか金子の奴どんだけ丈夫なんだよ。
「ゲホッ!何て無茶苦茶な野郎だ。大聖堂が無くなって・・・何だこれ?砦か?土屋の野郎マジでヤベえな」
ガラガラと瓦礫の山をかき分けて出てくる金子の姿に怪我は見当たらない、埃で汚れているだけだ。
「てめえどんだけ固いんだよ。これで死んでろよ」
思わず口から金子の丈夫さに対して文句がでてしまう。
「いやあ、俺も焦ったぜ。でもまあ奪ったスキルのおかげであんまりダメージ無かったな。これでスキル無ければ俺は死んでたぜ」
俺の攻撃があんまり効果が無かったのに少しショックを受けていると、落ち込んだ俺の様子が面白いのかまたムカつくニヤケ顔で返事をした。落ち込んでいる今も現在進行形で影で攻撃を仕掛けているが、相変わらず効いてない。攻撃の為に影を伸ばしたついでに邪魔な砦や瓦礫なんかも影に収納する。
「一瞬で片付けるって影魔法便利だな。やっぱりてめえを殺してから有難く使わせてもらうわ」
金子はもう俺を殺せるつもりでいるようで、余裕の口ぶりで俺を挑発してくる。そして俺はそれに答えずもう何度目になるか分からないが、金子に向かって攻撃を始める。
「クソッ!しつこいな、いい加減死ねよ!」
俺の短剣の攻撃を後ろに下がりながら剣を振り下ろして腕を斬り落とそうとしてくるが、俺は気にせず短剣を持たせた影を伸ばして金子を追撃する。
ザシュッ!
もう何度聞いたか分からない腕が斬られる音が振動と共に伝わる。そして遅れて激痛が走る。慣れたくはないがこの痛みもいい加減慣れたので叫ぶ事もなく耐えるが痛いのは痛いので、すぐにポーションで回復する。まだポーション在庫にはかなりの余裕があると言っても斬られた直後から出血した血は戻らないので、このままだと血を流し過ぎてちょっとマズい事になる。幸い流れた血は全部影にいれてるから金子にはこの事はまだ気付かれていない。
「痛ええな!ちくしょう!」
金子を見ると俺の短剣が腹に突き刺さっていたので、すぐに影で短剣を手元まで戻す。ぶっつけ本番で試した影に短剣を持たせての攻撃は中々効果的だけど、影に気を取られて自分の対応が疎かになってしまうのが欠点だ。今は短剣を持たせた一つしか操作する余裕がない。
そんな金子は、相変わらずダメージを負ってもすぐに回復して魔力が尽きる様子はない。まあ魔力切れがおきないのは俺の影による攻撃で魔力回復してるからなんだろうけど、最初から分かって影で攻撃を仕掛けているので文句はない。でもいい加減にしてくれないと俺の血が足りなくなる。ウッ!少し眩暈が・・・
「おっ?ようやくか?ったくしぶとい野郎だぜ。だけどやっぱり回復魔法と違ってポーションだと流れた血までは回復しないみてえだな」
俺が眩暈で若干ふらついたのを見た金子が嬉しそうにしている。・・・こいつ俺が血を流している事知ってやがったな。知ってて俺が限界くるまで待ってたのか。人の事は言えないが狡猾な野郎だ。
「知ってたのかよ。頑張って気付かれないように努力してたのは無駄だったみたいだな」
バレてたらわざわざ隠しておく必要もないかと思い、影にいれていた血を取り出す。・・・やめておけば良かった。結構な量の血が地面に広がるのを見て後悔してしまった。
「おいおい、そんなに血が出て大丈夫か?影を収めれば回復してやるぜ?」
絶対そんな事するつもりも無いのに煽るように金子が言ってくる。こいつも俺が信じてくれるなんて思ってないだろう。
「心配してくれてありがとよ。でも回復はいらねえから、いい加減俺に殺されてくれねえか?」
「ハーハッハッ!俺も死にたくねえからなそいつは無理だな。まあ、これで土屋ともお別れか寂しくなるぜ」
相変わらず心にも無い事を言って俺をムカつかせる天才だなこいつ。眩暈も収まった事だし俺は再び金子に斬りかかる。
「おいおい、大丈夫か?無理せず大人しくしておけよ!今なら苦しませずに楽に殺してやるぜ」
こいつもう俺に勝った気でいやがる。俺も血を流し過ぎて動きが少し鈍くなったのか、少し金子に余裕が出て来たようで殺し合いをしている最中だってのに慣れ慣れしく話しかけてきやがる。
「嘘つけ。てめえの事だから苦しめながら殺すに決まってるだろ」
「アハハ!よく分かってるじゃねえか。大野みたいに両手両足斬り落とした後、火を点けてやるぜ」
レイとこっちで出会ってしばらくは夜うなされていたから、何をされたか分かっていたけど、やった奴が笑いながら言ってくるとムカついてくる。
「てめえ!よくもレイを!!」
「アハハ!いい顔だ!ほらスキありだ」
レイの事を言われて冷静さを欠いた俺の攻撃の隙をついて、金子の攻撃が俺の腹を切り裂く。痛ええええ!ポーションで回復・・・また血が流れちまった。ヤバい頭がふらつく。っていうかまだなのか、それとも俺の作戦が失敗だったのか?頭の中ではかなり焦っているが、影の攻撃は止めずに続けている。金子はそんな影の攻撃を相変わらず気にした様子はなく、余裕で俺に向かって歩いてくる。
「どうした土屋?いつも以上に目つきが悪くなってるぞ。疲れてるみたいだからもうそろそろ諦めたらどうだ?」
流石に金子でも分かるぐらい俺の目つきが悪くなっているようだ。血を流し過ぎたからだろう、少しでも気を抜けば足元がふらつく。だからといって諦めるって選択肢はないけどな。
「てめえに心配してもらわなくても大丈夫だ。ちゃんとトドメを刺してやるよ」
「フハハハハハ、やっぱり土屋は面白えな。俺にここまでされてもまだ諦めねえからこっちも楽しくて仕方ねえ。でもまあ、いい加減飽きて来たしもうこの玩具はいらねえな」
誰が玩具だ!てめえの玩具になった覚えはねえ。それよりもまだなのか?これ以上金子とやり合うのは、かなりキツイ。しかも金子は回復魔法で全快してるからここからは一方的にやられる。まだか?それとも俺の予想が外れていたのか・・・まだギリギリまで足掻いてやる。
俺は更に影で金子を攻撃する。