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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
7章 大森林のBランク冒険者
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141話 光の教国へ

「フェイ、いるか?終わったから今から教国に向かうぞ」


 水都に戻った俺達はフェイとミラ、待木が使っている部屋をノックする。


「ま、待って!・・・待つのじゃ!」


 うん?またフェイの声変じゃないか?気のせいか?


「今、おばあちゃんの声変じゃなかった?」

「うん?そう?気にしてなかった」


 ヒトミは俺と同じ違和感を感じたようだが、レイと水谷は話をしていたから聞こえていなかったようだ。聴覚の優れたガルラとフィナがいればどうだったか聞けたのだが、訓練場に直行していないから仕方ない。


「入っていいぞ」


 中から聞こえてきた声はいつものフェイの声だった。気のせいだったのかな?ヒトミと首を傾げながら部屋に入るとフェイしかいないので気のせいだったんだろう。待木とミラは訓練しているらしい。


「火の国の方は終わったぞ、これから教国に行くけどどうする?」


 まだ金子が残っていて危険がある事も伝える。


「儂等はテツの護衛じゃ、テツが行くと言えば行くし、行かんと言えば行かん」


 ああ、そうですか。しかしフェイは待木の護衛なら部屋でのんびりしないで、訓練場までついて行った方がいいんじゃないか?まあ言わないけど。


「そうか、なら待つか」


 そう言って部屋で寛ごうとするとフェイが慌てだした。


「ちょ、待て。何故この部屋で寛ぐ。テツ達は訓練場だ、そっちに行け」


 そう言われても・・・みんなと顔を見合わせる。訓練場にはガルラとフィナが訓練しているはずだ。当然そこに行けば訓練に付き合わされるが、今日は移動の日と決めていたので訓練はしたくないっていうのがここにいるみんなの意見だ。


「遠慮すんなって。東達の好きだった食い物出してやるから」


 そう言って各自寛ぎだす。フェイの部屋はメイドとか使用人がいないから人の目を気にしなくていいから楽だ。今や水都でもVIP待遇の俺達は城を移動するにも使用人がついてきて鬱陶しいし、用意された部屋にも何人も使用人がいるからゆっくり寛げない。その点、人嫌いで有名なフェイの部屋なら誰もいないからゆっくり寛げる。まあ『自室』に戻ってもいいけど、戻るともう動きたくなくなるから、1日のやる事が終わった後でしか戻らないようにしている。


「こ、こいつら、儂の部屋じゃぞ。それをこうも遠慮なしに・・・ヨミコやアンナみたいな奴等じゃ」


 フェイが怒りながら文句を言ってくるが、既に手はテーブルに伸びて俺の出したチョコを食べようとしているから、このままここにいても問題ないだろう。何だかんだ文句を言ってもフェイも日本の食い物が気に入ってるからな。


「それでそのカネコとかいうのは教国にいるのか?」

「他の国では手配書が回っているから間違いなく教国にいると思っている」

「でも、教国のどこにいるの?あの国は狭いって言ってもそこそこ街があるわよ?」


 教国をよく知っているレイが口を挟んでくる。レイの言う通り、一番小さい国と言ってもいくつか街があるから虱潰しに探してたら時間がかかる。ただ、俺は何となく金子がいる場所が想像できる。


「いるとしたら『聖地』だな。あいつだけ貴重な転移石を持っていたからな、そんな貴重品をあいつが一人で手にいれたと考えにくい、恐らく教皇から持たされたんだろう」

「そうか、教皇ならその貴重な転移石をいくつか持ってても不思議じゃないわね」


 俺の考えにレイが肯定してくれたし、金子が聖地にいる可能性は高いだろう。ただ一つ分からない事がある。


「何で金子君だけにその貴重な石を渡してたんだろう?」


 ヒトミが俺も答えが分からない疑問を口にする。何故金子だけなのかってのが良く分からないんだよな。教皇がいつ金子と接触したのか知らないが、早い段階なら俺が殺した浅野とか『四重詠唱者』だし、処刑された石井は『三重詠唱者』だからそっちに渡していた方が納得できるんだけどな。金子があいつらのリーダーだからって可能性もあるけど、それで貴重な石を持たせるかな?


「目的は闇魔法じゃろう、ヨミコ以外で使えた奴は『沼』と『教祖』ぐらいだがヨミコ以外は使えた事が知られておらんからな。世間一般では小僧の影魔法より珍しいぞ。大方洗脳とかに利用しようとでも考えておるんじゃろう」


 俺の出したお菓子を食べながらフェイが会話に入って来た。言われてみれば召喚された時に馬鹿王達が大騒ぎしていたから闇魔法はかなりレアだったはずだ。その闇魔法は攻撃力が無い代わりに状態異常を起こす魔法だから洗脳に利用か。王族とかに使われるとかなり大変な事になるな。


「俺達はフェイから聞いた闇魔法対策を使えばいいから金子がいたら全員魔力で体を覆えば問題ないな。魔法の使えないガルラはまだ俺の命令が有効だから会話は出来ないからこっちも問題ない」

「私達は大丈夫だけど、教国の人に使われたら厄介じゃない?レイの『状態異常回復』で1人1人治すのも面倒よね。そもそも知らない人なら洗脳されてるかどうか見ただけじゃ分かんないわよ」


 水谷の言う通り、教国の人達は既に金子に洗脳されている奴もいると思う。それをどうやって見極めるか・・・罪のない人は出来れば殺したくないな。


「術者のカネコと言う奴を殺せば、闇魔法の状態異常は元に戻るからそこは気にせんでいいじゃろう。洗脳されてこちらに向かってくる敵は殺せばいいんじゃ」


 このババア、今俺はどうやったら洗脳された人を殺さないですむかって考えているのに・・・やっぱり危ねえババアで間違ってないな。


「ちょ、ちょっと!洗脳されているだけの人を殺したら駄目よ!もし向かってきたら私の『状態異常回復』(リカバ―)で対応するから、殺したら駄目よ!」


 フェイの言葉にレイが慌てて止めるが、それだと複数で向かってきた時に対処できないんじゃ?


「複数向かってきたらどうするつもりじゃ?言っておくが儂は手加減は出来んぞ」


 自慢にならない事を偉そうに言うフェイ。こいつ言う事が物騒だな、東達はこういう時はあんまり言い聞かせなかったのかな。


「大丈夫よ。私の『範囲状態異常回復』(エリアリカバー)なら一度にどれだけ来ようが治して見せるわ」


 『範囲状態異常回復』って何だ?フェイも聞いた事ないのかキョトンとした顔している。そう言えばレイって『範囲上級治癒』とか使えたな、それなら使えても不思議じゃないか。


「な、な、何じゃその『範囲状態異常回復』とは、聞いた事ないぞ!アンナもそんな魔法使ってなかったぞ」


 キョトンとしていたが、すぐに我に返りレイに詰め寄ってくる。自分に知らない魔法があるのがそんなにショックだったのか?


「そうなの?じゃあ安奈より私の方が回復魔法の才能はあるのかな。あの子どんな魔法使えたの?」

「あ、アンナは『治癒』と『上級治癒』と『状態異常回復』じゃ。それより『範囲状態異常回復』とは何じゃ?説明しろ」


 慌てるフェイに動じる事無くマイペースで溝口の状況を聞いて来るレイにフェイが更に強る。そんなに興奮してポックリ行かないか心配になる。


「う~んと、『範囲状態異常回復』は範囲に入った人に『状態異常回復』をかけるってだけよ。これなら一遍に終わるでしょ」

「な、なんじゃそれは・・・そんな魔法は誰も使えなかったぞ」


 レイの答えに驚いて固まるフェイ。溝口達は誰も使えなかったのは思いつかなかっただけのような気もするが、その辺は起きた時に聞けばいいか。


「う~ん、そうなの?じゃあ『範囲治癒』とか『範囲上級治癒』とかは?」

「だ、だから何じゃそれは!聞いた事ないぞ」


 またまた何でもないように言うレイにフェイが即座に否定する。そう言えばレイっていつの間にその『範囲』系の魔法覚えたんだ?


「そう言えば最初はレイも『治癒』と『上級治癒』と『状態異常回復』だけって言ってなかったか?練習したら使えるようになったのか?」

「ううん、フィナの村でフィナの代わりに回復した時あったじゃない?あの時面倒だから一遍に出来ないかなって思って後で試してみたら出来たの。使ったのは水の国が最初よ」


 め、面倒だからってそんな理由で、新しい魔法を開発するなよ。フェイが驚いて固まっているじゃないか。


「それって難しさでランクつけるとどうなるんだ?」


 前から俺は回復魔法が何故下級魔法の『治癒』と『状態異常回復』の上が『上級治癒』なのはどういう事なのか疑問に思っていた。他の属性みたいに中級と最上級が無いのは回復魔法だからかなって事で納得していたのだが、ここでレイが『範囲』系の魔法を作り出したので話が変わって来た。


「う~ん。一番難しいのが『範囲上級治癒』で次が『範囲治癒』と『範囲状態異常回復』が同じぐらいでその下が『上級治癒』かな?」


 って事は、回復の最上級魔法が『範囲上級治癒』で上級が『範囲治癒』と『範囲状態異常回復』、中級が『上級治癒』になるのか。上級ってつくのに中級魔法ってややこしいな。



「ほ、本当にお主ら勇者と言う奴等はどうなっておるんじゃ。イチ様達の魔法にも驚かされたが、お主らも大概じゃな」


 しばらく固まっていたフェイがようやく落ち着いたのか呆れ顔で言ってくる。


「東君達の魔法ってそんなに珍しかったんですか?」


 フェイの言葉にヒトミが疑問に思ったのか質問する。言われてみれば東達の魔法も驚く要素があったんだろうか?


「今ある上級や最上級の魔法を作ったのはイチ様達だ。そしてヨミコが全ての魔法の詠唱を考えた」

「「「「はあ?」」」」


 フェイの言葉に今度は俺達が驚いて固まってしまう。東達が魔法作ったって本当かよ・・・いや、隣の彼女も面倒くさいってだけで作ったな。


「500年前の魔法使いは火球飛ばしたりしてたぐらいだが、それでも今よりかなりいい待遇で国に迎え入れられておったぐらいだ。そんなレベルだったから上級の『嵐』シリーズなんてすごい発明だったし、それを使える勇者を抱える『カラ国』はそこから連戦連勝だったそうだ。そんな凄い魔法じゃから王から他の勇者やそれ以外にも使えるようにしろとの命令があったそうじゃ。」


 そんな凄い発明なら使える奴を増やして今までやられた分をやり返したいだろう気持ちも分かる。


「使えるようにしろと言われてもイチ様達もどう教えたらいいか分からなかったそうじゃ。そんな中ヨミコが詠唱を思いついたそうじゃ。それで大抵の勇者がイメージが出来るようになったのか使えるようになったし、それを見た他の魔法使いも何人か使えるようになったと聞いた。更に今まで詠唱が無かった下級や中級魔法にもヨミコは詠唱を考えたそうじゃ。それをきれいに法則化したのがマリじゃ。ただ最上級魔法だけは法則に当て嵌めずに格好良くしたいとヨミコが我儘いったから今の形になったそうだ」


 やっぱり俺の考えていた通り魔法ってイメージが大事なんだ、詠唱はイメージを固めやすくする為のツールって所か。それならフェイの孫が魔法を使う時に唱えていた詠唱がヒトミの覚えている詠唱と違っていた事も理解できる。極論を言えばイメージさえしっかり出来れば詠唱って要らないんだと思う。俺達の無詠唱のやり方はまた少し毛色が違うかもしれないけど・・・そして最上級魔法だけが法則から外れているのは黒川の我儘が原因かよ。





「フェイ!こいつらおかしいのじゃ!」


 部屋に戻って来るなりミラが大声で騒ぎ出した。後ろにガルラ達がついて来ているから訓練所で合流したんだろう。ミラはフェイに向かって話すのに夢中で俺達に気付いていないな。


「黒龍殿、戻って来るなりどうしたんじゃ?」


 椅子に座っているフェイの胸に飛び込んできたミラを抱えながら尋ねる。


「この獣人達の訓練じゃ!骨が折れるまでやっておったぞ。テツもこいつらの訓練に混ざったら容赦なく骨を折りおったんじゃぞ」


 それがいつもの俺達の訓練だからな。ウチのガルラってかなりのスパルタなんですよ。待木を見ると、別に怪我をしている様子ではないのでフィナが回復したんだろう。みんなも苦笑いしている。


「本当にお主らは頭大丈夫か?まったく勇者っていうのはどこか栓が抜けている奴等ばっかりじゃな」


 フェイが呆れるように言ってくるが、俺達じゃなくて骨が折れても追撃してくるガルラがおかしいんだよ。


「土屋達は毎回こんな訓練やってたんだな。強くなっているわけだ」


 普段無口な待木が感想を口にするほど、俺達の訓練は衝撃だったようだ。まあ。俺達も最初は骨が折れた所を笑いながら追撃してくるガルラに衝撃を受けたからな。


「さて、今からアンナを起こしに教国に向かうぞ。黒龍殿、すまんが運んでくれんか?」

「おお!ママの所にいくのか。それなら全く問題ないのじゃ。全員乗せていってやる」


 ミラは溝口の所に向かうのがよほど嬉しいのか二つ返事でフェイのお願いを了解する。500年待ったから嬉しくなる気持ちも分かる。


 そうしてご機嫌なミラの背に乗って俺達は国境何て関係なく教国の首都『聖地』に直接乗り込んでいった。


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