140話 火の国の落日
「ま、まさか!副団長が!」
「う、嘘だろ!あの人が!第1騎士団の副団長だぞ!」
「くそがああ!全員!副団長の仇を討てえええ!」
オッサンが死んだ事で今まで何とか生き残っていた奴等が俺を目指して特攻を仕掛けてくるが、連合軍の前に次々討ち取られていく。たまにその包囲網を突破して俺に向かってくる奴がいるが、ガルラが楽しそうに相手をしている。
「フハハハハハ!中々だ!次!・・・貴様は良しだ!次!・・・貴様はもう少し鍛えろ!次!」
ガルラは向かってくる敵の攻撃を受けた後、評価を下して殴り飛ばしているが、殴り飛ばされた相手はピクリとも動いていない。というか首とか色々おかしな方向に折れ曲がっているので多分死んでいるだろう。
「終わりました。これより城内の制圧に向かいます。と言ってもこれだけの兵を倒したので後は本当に少数の兵しか残っていないと思いますが」
オッサンを倒した後は、無謀な突撃を繰り返してくる奴等が多かったので、すぐに片がついた。そして何故か指揮官さんが一々俺に報告してくるのは何でだ?別に俺に報告は要らないんだけど。
「それでこの国の王様はどこにいると思いますか?」
疑問に感じたけど一応話を合わせてこちらからも話を振ってみる。なんかこっちの方が気を使うな。
「恐らく謁見の間か王の自室でしょう。『建国王妃』様の命令でどの国も万が一の為に抜け道を作らせていると聞いた事があります。ただ、それがどちらかは分かりません」
黒川の奴面倒な事命令しやがって。多分秘密の抜け道とか格好いいとか言う厨二全開で指示しやがったな。
「近いのは?」
まあ行けば近衛兵や第1騎士団の団長がいるだろうって事で近い方から向かう事にする。
「謁見の間です。ついて来て下さい。お前達は城内の掃討だ!くれぐれも使用人にはこちらから手を出すな!反撃された場合だけ攻撃を許可する!あと城を無暗に傷付けるなよ!俺達の国の復興資金にするからな!当然調度品とかもだぞ!終わったら身体検査するから隠しても無駄だぞ!」
指揮官自ら俺達を案内してくれるようで、その前に部下達に指示を出してから謁見の間に案内された。
「外れですね」
まあ城に入って正面のでかい扉をくぐると謁見の間だったからな。『探索』ですぐにいない事は分かった。そして上の方に反応がある事も。
「それでは王の部屋に向かいます、ついて来て下さい」
謁見の間に人の気配が無い事が分かると、すぐに指揮官が部屋を飛び出して階段を上っていく。
「当たりです!」
階段を上って廊下を進んで案内された先には部屋の前にどう見ても隊長と言われるような頭に角が付いた兜を被った兵士が立っていた。
「ガルラ、まずは部屋に入って王がいるか確認したい」
今にも駆け出して行きそうなガルラに一つお願いをしてから、ガルラの影拘束を解除する。
「フハハハハハ!お前がこの国最強か!!」
ガキン!!
おお!ガルラの攻撃を止めやがった!あいつかなり強いな。走り込んだガルラの攻撃を手に持つ長剣で受け止めた敵だが、ガルラの次の攻撃の蹴りに対応できずに部屋の中に蹴り飛ばされる。良かった、ガルラの奴俺の言う事聞いてくれた。ホッとしながらも破壊された扉から部屋の中に入るとガルラと騎士団長が互いの武器を合わせて競り合っていた。そしてその後ろで今にも隠し通路っぽい場所から逃げ出そうとしている王様とその取り巻き達。
「ククク!貴様中々だな!最初に会った時の主殿より強いな。だが剣が素直すぎてつまらん」
うん、ガルラさんは楽しんでいて何よりだから放っておこう。それよりも取り巻き連中だな。目に見えるのが4,隠れているのが10か。
「ガルラ、あそこの兵士4人も相手に出来るか?近くの高そうな服着た二人は手を出すなよ」
第1騎士団の団長を相手にしているガルラに向こうの4人も相手に出来ないか声をかけると、隣の指揮官さんが「マジで何言ってんのこいつ」って顔で俺を見てくる。いや、兜被ってるから顔は見えないんだけど・・・。
「ああ、任せろ。5対1か楽しそうだ」
楽しそうに答えるガルラは俺の指示に従いすぐに隊長に背を向けて王様に向かって走り出す。ガルラの奴後ろから隊長が慌てて走ってくるのを確認しているからかなり手を抜いて走っている。
「陛下!早くお逃げください!」
「ここは我々が!」
向かってくるガルラの前に立ち塞がる4人だがガルラの一振りで先頭の一人の首がおかしな方向に向いて倒れ込んだ。
「お前等!囲め!見た目以上の怪力だ!俺や副団長並の力だと思え!油断するな!」
後ろから追いかけて来た団長が注意を促したので、残りの3人も冷静になったようだ。
「じゃあ、指揮官さん行きますよ」
ガルラが戦っているが俺は気にせず隠し通路に足を踏み入れた。途中敵が妨害しようとしてきたが、ガルラに背を向けた馬鹿は殴り飛ばされて動かなくなったのが見えた。
「な、何故だ!上手くいっていたのに!どこで間違えた!」
追い付いた!
多分火の国の暗部の連中に途中何度も妨害されたが、悉く切り捨ててようやく王の所まで追いついた。アレスと違い膨れた腹を見れば普段から鍛錬していない事は丸わかりだ。
「最初からだよ。久しぶりだなって言っても覚えてるのか?俺も覚えてねえから人の事言えないけど」
影で足を拘束して動けなくした所で、俺から声をかける。この国の王ってこんな顔だったかな?あんまり覚えてねえ。そして隣の偉そうな奴も誰だっけか?見覚えはあるんだけどな。
「罪人フレイム!大人しく投降しろ、抵抗するなら切り捨てる」
指揮官さん、切り捨てていいの?アレスからは生け捕りにしろって言われてるんだけど?
「き、貴様!陛下に対して罪人とは何たる無礼な!水の国の兵士は礼儀を知らんとみえる」
隣の大臣か何かが自分達の事を棚に上げてふざけた言葉を口にすると、指揮官さんが無言で剣を振りその手首から先を斬り落とす。
「ぎゃあああああああ、手があああああ、私の手があああああ」
「礼儀を知らんのはお前等の方だろう。捕まった陛下がどんな扱いを受けたか・・・さぞ無念だったはずだ。・・・ふう~・・・お前等は風の国に処分は任せる事になっているから命まではとらないが、またふざけた事を言えば俺も手が滑るかもしれん。気をつけろ」
冷静だと思っていた指揮官さんがブチ切れたので俺もちょっと引いている。水の国の王様ってかなり酷い扱いを受けてから処刑されたってのは俺でも耳にしたから怒るのは分かるけど、ここまでキレるって事は指揮官さんの忠誠はかなり高いようだ。ただ、風の国との約束があるから大きく息を吸って気持ちを落ち着かせた所は流石だ、俺なら殺していたな。
「隊長!おお!素晴らしい王と大臣を捕らえるとは。こちらは現在城を捜索中です。王妃や一族等の女子供は帝都から離れた砦に避難しているとの事なので、兵を向かわせています」
「そうか、ご苦労。ただこいつらを捕まえたのはギン様達のおかげだ。私ではないから間違えるなよ」
おっと、指揮官さん手柄を俺に譲ってくれるつもりみたいだけど、俺はもう手柄とかいらないんだけど。
「何言ってるんですか、指揮官さんが手伝ってくれなかったら、こんなに早くこいつら捕まえられなかったですよ」
俺の言葉に少し困った顔をする指揮官さんだが、特に何も言わなかった。部下もその様子をみて指揮官さんを改めて褒め称える。よし、これで手柄は半々だけど、あとでアレスに言って手柄は全部指揮官さんにあげよう。
指揮官さんの指示で手早く火の国の王と大臣が捕縛されて連行される。俺が影で拘束したので抵抗できずに簡単に捕縛できたが、連行中はうるさく騒いだ為、兵士から恨みを込めてボコボコにされて今は引きずられながら移動している。全裸のオッサン二人が引きずられている画は見るに堪えないので、なるべく視界にいれないようにした。
「おお!主殿、終わったか?」
部屋に戻ると、ガルラが豪華な椅子に腰かけて寛いでいて目の前には兵士と隊長が積み上げられていた。ガルラがご機嫌な様子なのでかなり楽しめたんだろう。俺も少し騎士団長と戦って見たかった。
「楽しかったか?」
「ああ、こいつら単体でもそこそこだが連携も上手くてな、かなり面白かったぞ。不満があるとすれば剣が真面目過ぎる所だな。もう少し意表をついた攻撃を仕掛けてくれば尚、楽しかったのだが」
相変わらず戦いの事になるとよく喋るな。ご機嫌なガルラを見たらその事は口に出来ないけど、これは後でフィナにも自慢して俺が文句言われるなこれ。
これからフィナに文句言われる事が確定したので少しげんなりしながら全員で階段を降りていき、1階の大広間まで来た所で大量の兵士に囲まれたアレスが歩いてきた。あれ?一応粗方敵は排除したけど、最前線まできて大丈夫なのか?
「ロバート、お前とんでもない事をしでかしてくれたな」
諦めたような、可愛そうな奴を見る目でアレスが火の国の王に話しかける。
「アレス!き、貴様!よくも我が国を!許さんぞ!」
水と風の国を滅ぼし更に闇の国に攻め込もうとしておきながらどの口が言うのか。そして二人の話ぶりから王族だからというには少し親しい感じがする。
「お前、何故こんな事をしでかした。おかげで世界中が大混乱だ。これからの事を考えると全く・・・面倒くさい」
アレス、最後本音が漏れたぞ。
「ふん。本当なら500年前に我が国が世界を征服してお前ではなく俺が世界の王となっていたのだ。それを本来の形に戻そうとして何が悪い」
自分のした事を全く悪びれた様子も無いから殴りてえ。そしてこの馬鹿王は何を言い出してんだ?
「お前、何を言っている?500年前に世界を統一しそうだったのはお前の国を乗っ取った『帝国』だろう」
「違う!あれは『皇帝』に国を譲っただけだ、世界征服した後は取り戻す予定だったのだ!それをお前の先祖が邪魔したのではないか!」
アレスは馬鹿王の言葉に困惑して周りの奴等に視線を巡らせるが、みんな困惑した顔をしているのは何を言っているのか理解できていないのだろう。俺も理解できていない。
「待て待て、お前の先祖というより『カラの国』の一族の主たる者は全員『皇帝』に処刑されただろう。その後『皇帝』を倒した『建国王』様が一族のかなり傍流のお前の先祖を王に据えたのが火の国の始まりだろう?お前の言い分は何一つ正しくないぞ」
うん、アレスの言う通り、俺もそう聞いてるから困惑してるんだよな。
「そんな『建国王』に作られた歴史などあてになるものか!」
「馬鹿を言うな。フェイ様にも確認したから我々が伝え聞いている歴史に間違いはない」
「『建国王』の嫁のエルフの言う事なぞ当てになるか!どう考えても『建国王』の味方で良い風に言うに決まっているではないか!」
これは話し合っても無駄だな。まあ向こうはそういう風に考えていたんだって事が分かればそれでいいな。
「それなのに、折角の勇者も役立たずだし、これまでの一族の努力が無駄になった、また一からやり直しだ」
「そう言えば、金子はどこにいる?」
馬鹿王の言葉にすっかり忘れていた金子の存在を思い出した。あいつはこの様子だとこの国にいない気がする。
「金子?あの役立たずどものリーダーか、知らん」
やっぱりこっちには帰ってきてないのか、って事は教国だな。ここは放置してさっさと向かいたいけど、さすがにこのままは行けないよな。
「クハハハ、おいギン!勇者が役立たずだってよ。ハハハハハ」
何が面白いのかアレスが大笑いしてる。
「な、何がおかしい!」
「フハハハハハ、いやいや、勇者様のおかげで俺達連合軍は大した被害も出さずに火の国を落とせたからな。それを役立たずとか相変わらずお前は人を見る目がない」
「たまたま貴様らの所に才能のある勇者がいたんだろう。運が良かっただけではないか!」
「いやいや、ロバート、今回俺達を助けてくれた勇者様は4人だ。しかもそのうち二人はお前の国に召喚された方々だぞ?それをお前が放り出したんだ、見る目が無いのが何よりの証拠じゃないか」
「ふ、ふざけるな。自分の国の勇者の動向等把握しておるわ!」
してないんだよな。俺とヒトミの存在についてまだ報告を聞いていないのか。
アレスから目で促され前に出るけど、別に話す事はないな。馬鹿王と大臣も誰だこいつって顔で見てるし覚えてないな。
「ロバート、お前達火の国の勇者ギンだぞ。覚えていないのか?」
「そう言えばさっき久しぶりとか言っておったがお前みたいな奴は知らん。アレスよ、大方こいつは勇者の名を騙る偽物だ。お前もこいつに騙されたのだろう、今ならまだ許してやるからこの拘束を解いて私を解放しろ」
マジでこいつ殴りたいな。でもそうすると火の国勇者って認めた事になりそうだからそれも嫌だな。
「ロバート、俺が疑り深い事を知っておるだろう。心配しなくてもこのお方が勇者様だと言う事は確信しておる、それにフェイ様も認めて下さったのだ、それに『建国王』様の事もご存知で顔も見せてもらった。疑う余地はない」
「耄碌したなアレス。『建国王』に憧れておったのは知っておったが、こんな薄汚い冒険者風情に騙されるとは情けない。それならはっきり言ってやるこいつは火の国の勇者ではない!大臣そうだな?」
横の大臣も首を縦に振っているからこいつも覚えていないんだろう。まあこの国で俺の事を覚えている奴はオッサンぐらいだろう。
「はあ~。お前の国に召喚された勇者は9人だと言っていたな?それは本当か」
アレスの奴も俺の事を思いださない二人に諦めたのかヒントを出し始める。いい加減俺も疲れて来たし、早い所教国に向かいたい。
「何度もそう言っただろう!お前の所の暗部も潜り込んでいたから数が間違っていない事を把握しているだろう!」
アレスの問いに若干イラつきながら答える馬鹿王だが、隣の大臣が何か気付いたのか顔が青ざめている。
「ハハハハハ、まさか俺も召喚して鐘1つも経たずに追放するとは思ってなくてな。しかし、『皇帝』に滅ぼされた国の子孫だと言ってもお前は影魔法使いを必要以上に怖がり過ぎだ。結構気さくで話の分かる奴だぞ、なあギン」
「やめろ!暑苦しい」
ご機嫌で肩に手を回してきたアレスの腕を押し払う。アレスは別に嫌いじゃないが王様として時々油断ならん手を使う事があるからな。
「・・・影・・・ま、まさか!き、貴様は殺したと報告を受けている。副団長!副団長を呼べ」
ようやく俺が誰か分かってくれたようだ。そしてオッサンを呼べと命令してくるが、当然誰もその命令は聞いてくれない。何で捕まっている事を理解してないんだ?馬鹿なのか?
「オッサンなら俺が殺したよ。ついでに団長も近衛も全員死んだぞ。今、お前を守ってくれるのはもう隣の大臣ぐらいだからな」
俺の言葉に大臣を見ると、大臣は気まずそうに視線を下げる。武闘派じゃない大臣では1回の肉壁ぐらいにしかならないだろう。
「ぐぬぬぬ!き、貴様!やはり確実に殺して死体を確認しておくべきだった!私の考えた通りこの国に災厄を呼び込みおって!」
「ロバート、それは違うぞ、お前がギンを追放し殺そうとしたから災厄になったんだ。召喚された時に他の勇者と同じ扱いにしていれば、ギンは火の国への復讐など考えずに今頃は俺がそこにいただろう」
まあアレスがそこにいたかどうかは別として、復讐を考えなかったってのは多分そうだろうな。追放されてなければドアールの復讐なんて考えなかったはずだ。金子達もいるからずっと火の国にはいなかったかもしれないけど、まあ仮定の話をしても仕方がない。
「そ、それならすぐにここから助けろ!火の国の勇者なら私の命令を・・・ぐええええ!」
何故そうなるのか分からないふざけた事を言ってくるので思わず腹に蹴りをいれてしまった。
「悪い、手が出た」
取り合えず手を出すなと言われていたのに出してしまったのでアレスに謝る。
「足ではないか!・・まあいい、ただギンもうお前は手を出すな。こいつとその一族は水都と風都で処刑が決まっているからな。殺したら俺が文句を言われる」
その言葉に腹を蹴られて苦しそうにしていた馬鹿王が顔をあげて、驚いた顔をしている。そんなに驚くような事言ったか?
「ま、待て、アレス!処、処刑だと?この私が?それに一族とはどう言う事だ?」
こいつが何故疑問に思うのかが疑問だ。こいつら水と風の国で残っていた王族を皆殺しにしたって聞いたぞ。無事だったのは他国に逃れる当てのあった一部の王族だけだと聞いている。当然火の国も同じ目に合うって分からないんだろうか。
「言った通りだ。お前ら王族は風都と水都で全員処刑される。侯爵以上の貴族についても水都や風都で処刑とし伯爵以下は罪状によって処刑から平民落ちまで様々だ。お前等は捕まえた貴族はほとんど処刑していたからな、こっちはこれでも優しい処分にしているんだぞ」
そう聞くと連合国側の処分は命が助かる奴もいて、貴族のままの奴もいるって聞いてるから中々温情ある処分だと思う。しかし火の国は捕まえた貴族はほとんど処刑していたってヤバいな。占領した街とかどうやって治めていたんだろう。
「ふ、ふざけるな!我が孫はまだ歩き始めたばかりだぞ!それに我が末娘はまだ社交界にも出ていないぐらい幼いんだ!その子達も全員処刑するというのか!」
「当然だ!水と風でお前達がやった事ではないか、そうしないと水と風の怒りが収まらんし、その怒りが平民にまで及ぶのを防ぐ為だ、上に立つ身分ならその身を捧げろ」
諭すように言うアレス。その目は怒りで満ちているがそれを頑張って抑えている。
「ふざけるな!民の命より儂等の命が大事だ!よし、それなら我が民はお前らの好きにしていいからすぐに俺達を解放しろ」
上に立つ身分で最低な言葉を口にするな。聞いていて流石に気分が悪くなってくる。
バキッ!!
その言葉にイラついたのかアレスが馬鹿王を殴りつけた。腹の出た馬鹿王と違いしっかり体を鍛えているアレスの一撃に馬鹿王は吹っ飛ばされる。すぐに後ろの兵士に馬鹿王は元の位置まで戻され、アレスは殴った方の拳を近くの兵が拭いてきれいにしている。
「ロバート、ここからは俺個人の意見だ。お前の所には俺の娘が殺されてるんだ!何でお前の娘を許さないといけないんだ?正直お前は俺が殺してやりたいが、それをすると各国から苦情がくるから我慢してやる。勘違いしているみたいだから最後に教えてやるけどな、世界の盟主なんて面倒くさいだけだぞ、言えば喜んで譲ってやったのに。馬鹿が!」
そう言ってアレスは立ち上がると指示を出し始める。アレスに殴られて呆然としている馬鹿王は大臣とそのまま引きずられながら連れていかれた。
「ギン、これでこの戦争はほぼ終わった。これから俺達は残った敵を掃討しながら復興を行う予定だが、お前はどうする?」
先程の怒りの表情からは既に戻っていつものように何考えているか分からない顔でアレスが聞いてくる。聞かれてもここからは当初の予定通りだ。
「水都まで来ているフェイに声を掛けて教国にいく。下手したら教国も潰すぞ」
「まあそれは儂等が知る所ではないな。ただ、女神様を起こすとなると、回復魔法についてはどうするかな?当面はポーションで何とかするにしても『上級治癒』が使えなくなるのは痛いな」
フェイの話が本当なら俺達が教国で溝口を起こすと回復魔法が使えなくなるってのはアレスも納得してもらってる・・・というよりフェイとミラの意見だから従わざるをえないって感じだったけど。
「回復魔法なら教えれば使える奴も出て来るだろ?」
フィナも覚えたんだし適正がある奴は少しぐらいいるだろうって軽く口にしたらアレスの奴呆れた顔で俺の方を見やがった。俺おかしな事言ったつもりはないんだけど。
「回復魔法は女神様の力を利用しているんだろう?教国は回復魔法の習得方法は秘伝だといっておったが、要するに女神様のお力を借りる魔道具が無ければ使えんと言う事だ。ならその習得方法については誰も知らないだろう。お前達勇者も召喚された時には使えるようになっていたからどうやって覚えるのか分からないだろう」
「いや、フィナには教えたからやり方は知ってるぞ」
まあ、フィナは才能の塊だから、もしかしたら別の方法があるかもしれないけど。
「はあ?・・・本当か?・・・フィナってあの獣人の子供だろ?嘘だろ?」
アレスの奴驚き過ぎて言葉使いがラフになってるぞ。周りの兵士が凄い物でも見た顔になってる。
「本当だ。フィナには火と影、回復を教えたぞ」
「ちょ、ちょっと待て!影もか!あれって覚えれるのかよ?」
「ああ、フィナは使えるようになったぞ。だけど影魔法使うとフェイに問答無用で殺されるから教えないぞ。教えるなって言われたし」
「・・・いや、そんな危ない魔法が手軽に覚えられたら世界が大変な事になるから教えるなよ」
全く先代影魔法使いにどんだけこの世界の奴等は怯えてるんだよ。まあフェイにも言われたから教えるつもりはないけどな。
「そ、それより回復魔法だ!どうやって覚えるんだ?」
まあ、知りたいのは分かるが、周りに兵士が大勢いるここで教えてもいいのか?まあ、アレスが聞いてきたからいいんだろう。
「自分の得意属性調べるやり方で『洗浄』に魔力を込めていって、だいたい10倍ぐらいの魔力を込めると『治癒』になるぞ」
「そ、そんな簡単な方法なのか?」
やり方は簡単すぎて、逆に何故こんな簡単な方法に気付かなかったのか不思議だったが、そもそも魔法使いが貴重な世界だから10倍の魔力を込められる奴が少なすぎたから気付かなかったのか、それとも他に理由があるのかその辺は全部終わってから調べてみよう。
「駄目だ、弾かれた」
「おっ!俺は倍ぐらいいけたぞ」
「俺は3倍だ」
「誰か成功した奴はいるか?」
俺の言葉が聞こえた兵士達が一斉に『洗浄』を試してみる。数倍の魔力を込められる兵はいるみたいだが、誰1人成功した人はいないみたいだ。まあ数撃てば当たるから世界中に広めたら使える奴も出てくるだろう。
「ギン!お前の言う通りだった!連合軍の中に二人使える奴が出て来た」
アレスは俺が教えたやり方をすぐに連合軍に広めて全員に試させた所、使える奴が出て来たと教えてくれた。けどたった二人か結構少ないな。
「それでも各主要な都市に1人か2人いると考えれば今までと偉い違いだ。今までは教国から派遣される神官をどう割り振ろうか頭を悩ませておったからな。しかもこれで各国とも教国の顔色を窺わなくても良くなる。ハハハハハ、あの狸の悔しがる顔が目に浮かぶ」
やっぱりアレスも教皇に対して色々抱えているんだろう。
そして何故こんな簡単な方法に今まで誰も気付かなかったかというと、子供が喋れるようになったら、生活魔法を教えるついでに各属性の下級魔法の詠唱を唱えさせるのが普通のようだ。そこで成功したらその子は魔法使いとして将来が約束される。まあ大抵が使えないので、その時点で魔法が使えない事が確定する。
ただ回復魔法だけは教国の神官以外誰も詠唱を知らないので試しようがないのだ。普段教会で治療する時は神官は顔を隠し、『無音』の魔道具を持って治療にあたるという徹底ぶりだ。レイも教国ではそういうもんだと言われて治療していたらしいし、戦争に巻き込まれた時も専用のテントの中で治療していたという。更に言えば回復魔法は教国の神官以外は使えないとの認識が世間では広まっている事も原因の一つだろう。魔法の発動にはイメージが大事だと思うから、『回復魔法は女神教の神官しか使えない』が常識の人族には使えないんだろう。
「終わったわよ」
「おお、レイ様ありがとうございます」
俺とアレスの所にみんながやってくるとアレスが立ち上がり頭を下げてくる。レイとフィナは回復魔法が使える二人にアドバイス的な事をしてもらったからだけど、王様がそんなに簡単に頭を下げるなと言いたい。
「結論から言うと二人は『上級治癒』は使えませんでした。そして5回と8回で魔力が切れるようです。二人とも今まで魔法は使えなかったみたいですから、あんまり無理はさせないで下さい」
使える回数が少ないな。フィナは自分の村で結構な回数『上級治癒』使って魔力切れ起こしたけど、あれって少しおかしかったのか。・・・そう言えば『尾無し』の時もカイルは魔法使うごとにポーションで魔力回復していたな。
「ギンジ君、どうしたの?何か考え事?」
「いや、使える回数が少ないなって思って。アレス、教国の神官は回復魔法どれぐらい使えたんだ?」
「神官にもよるが、『上級治癒』は多くても3回、『治癒』は10~30回ぐらいだ」
「少な!」
レイ、驚いているけど自分基準で判断したら駄目だぞ。多分俺達の魔力量が異常なんだ。周りの人たちが乾いた笑いになってるじゃん。
「少なくてもこれから使える人が増えていけば、全体では使える回数が増えるので大丈夫ですよ」
アレスも引き攣った笑顔でレイに答えている。
「じゃあ、フェイの所に寄ってから教国に向かう。後は任せた」
「分かっている。取り合えずドアールには何もしないでそのままにしておくぞ」
これで火の国との戦争は終わった。色々な後始末はアレス達お偉いさんに任せればいいだろう。俺達は金子を見つけて、溝口を起こしたら、ドアールに帰れるのか。まあまだ当分帰れなさそうだな。そんな事を考えながら俺達は『水都』に向かった。