139話 小僧VSオッサン
「罠は全て解除しましたので、進軍を始めても大丈夫ですよ」
さっきの指揮官に罠を解除した事を報告して進軍を再開させる。門の所に敵がいるけど、連合軍の人達にも働いてもらおう。やる気満々のガルラは好きにやらせておく。
「進め!」
「おおおおおおおおお!!」
指揮官の指示に従い兵士が門に向かって殺到すると隠れて様子を見ていた相手も応戦を始める。まあ、真っ先に先頭に飛び出して行った獣人は見ない事にしておく。
ボガン!!!
「ワハハハハ!!ほら!どうした!かかってこい!」
ガルラを先頭に兵士が門に近づくと城壁の上から隠れていた兵士が姿を現し弓などで攻撃を仕掛けてくるが、先頭を走るガルラは早すぎて攻撃が当たらない。そして門までたどり着くと一撃で門を破壊してご機嫌で中に飛び込んでいった。木製の門のすぐ後ろは鉄格子の門なのに何で一撃でまとめて破壊できるんだ・・・あいつ。
「ガルちゃん、楽しそうだね」
隣のヒトミが呆れたように呟く。俺もヒトミと同じ気持ちだから何も言えない。そして呆れながらも戦況を見ていると、ガルラが単独突破した門に後ろから味方の兵士達が雪崩込み敵と切り結んでいる。敵はどうもあんまり動きや連携が良くないので、こちらが押している。これって第1騎士団じゃないな、撤退したり街を放棄して後退してきた奴等だな。なんて考えていると、外壁から兵士が吹き飛ばされるのが見えた。ついでに良く聞くご機嫌な笑い声も聞こえる。
「ガル、はしゃぎ過ぎじゃない?」
「あんまりやり過ぎるなって王様に言われてたんじゃないの?」
外壁の上で兵士が舞っているのを見上げながらレイと水谷から言われるが、俺が悪いんじゃない。ガルラにはちゃんと伝えたのはみんな見ていたから知っているはずだ。それなのにあの戦闘狂は・・・困った奴だ。
「アレスに小言言われるかもしれないけど負けるよりはいいだろ。・・・さて、門前も粗方決着が着きそうだからそろそろ俺も行ってくる。金子が奇襲してくるかもしれないから気を付けてな」
レイとフィナは回復魔法が使えるのでここに残って怪我人の治療をお願いされている。ヒトミと水谷も流石にこれから激戦となる城まで連れて行く訳にもいかないので一緒に残ってもらう。
そして、門前は決着が着きそうなのでみんなに注意してから俺は城に向かう。目標は悪魔の中でたった一人逃げた金子と火の国の王の二人。金子の生死は問わないが火の国の王だけは生け捕りにしろとお願いされている。そしてその二人を抑えれば俺の仕事は終わりだ、後はアレス達他の国の人達がやってくれる。
「ギン様、お供します。お前等!進軍だ!城に向かう!民間人には手を出すなよ!」
多分先頭の部隊を指揮している人が俺の動きに気付いて大声で指示を出す。この指揮官が水か風の国出身か分からないが、火の国が滅びればここの住人は復興したどちらかの国の所属になるから、悪い印象は与える事はするなと厳命されている。幸い大通りに出歩いている民間人は見えずみんな建物に避難しているようだ。そして味方も建物の中にいれば何もしないと大声で触れ回っている。逆に言えば外に出てきたら斬るって言ってるんだよな。
「私を置いて行くなんてずるいぞ、主殿」
城に向かっているといつの間にかガルラが追い付いてきた。置いて行ったというが、門で楽しそうに暴れてたガルラに声を掛けたけど全く聞いてなかったんじゃねえか。獣人の耳に聞こえない訳ないぐらい大きな声で呼んだぞ。
「一応声はかけたんだけどな」
若干呆れつつガルラに答えると、少し疑わしい目をして俺を見てくる。俺はそこまで戦闘狂じゃないからな、ガルラの獲物取ったりした事・・・この間のドアール以外は無いはずだ。
「まあ、そうだな、主殿が私の獲物を獲ったのはこの間だけだもんな」
やっぱり少し根にもってるな。
「さっきのはどうだった?強いのはいたか?」
ドアールで獲物を奪った事は俺が全面的に悪いので、蒸し返されないように別の話題をふる。ガルラは普段あんまり喋らないが、戦いの事に関してはよく喋るからな。
「まあ、少し強いぐらいのはいたな。魔法使いとの連携が上手くこちらが反撃しようとすると魔法が飛んできて楽しかったぞ。ただ魔法使いはレイ達みたいに絶え間なく魔法を撃ちこんでこなかったからな、いい加減飽きて来た所で、瓦礫を投げたら首が折れて死んだぞ。魔法が無くなればそいつも並みの敵だったな」
ガルラ、そっちの戦い方がこの世界の普通だと思うぞ、絶え間なく打ち込まれる魔法を躱しながら攻撃する練習している俺達がおかしいはずだ。
「あ、あのガルラ殿が倒した相手は魔法部隊の精鋭だと思うのですが・・・」
俺達の話が聞こえていたんだろう、隣にいる指揮官が若干顔を引き攣らせながら俺達の会話に混ざってくる。
「ん?何だそれは強いのか?」
「つ、強い何てもんじゃないですよ。ただでさえ使える人が少ない魔法を全員中級魔法までは確実に使えるんですよ。しかも他の騎士達と魔法の連携の訓練も徹底して行っていますから、出会ったら死を覚悟するように言われています」
「う~む。そうか?そんなに強くなかったぞ」
まあ、ガルラにとって肩書よりも実際に強いかどうかが重要なので、あんまり興味はないようだ。その様子に周りの兵士も危ない物を見るような目でガルラを見ている。俺は見られていないから大丈夫なはずだ。
少し緊張感に欠ける話をしながら進軍を続けると、ようやく城が見えて来た。俺が最初に召喚された場所だけど、すぐに追放されたから記憶に全く残っていない。一度ヒトミを助ける為にきたけどその時も夜中で影移動で侵入したからよく覚えていない。要するに何も思い入れがない場所だな。そして城の近くまで行くとよく鍛え上げられた兵士が鉄格子の門の向こうに多数見える。そして城壁の上にも多数の兵士がいる事が分かる。
「さて、どうします?俺達が斬り込みますか?」
流石にこのまま突撃させたら、相手は火の国の精鋭第1騎士団だからこっちもかなりの被害がでるだろう。そうならない為に俺とガルラが出ようと指揮官に提案したのだが、
「いえ、その前に最後通告を行います。これから先は命の危険がありますのでここで待っていて下さい」
そう言われると喜んでついていくのがガルラなんだよな。「どうなってもしりませんよ」という指揮官さんの言葉を流して俺とガルラの3人で門まで歩いてついていくと、向こうも気付いたのか指揮官っぽい兵士が1人で門から出て来た。
「何用だ!ここ帝都に攻め込んでくる賊どもめ。これ以上は我が第1騎士団が相手になるぞ。死にたくなければ消えろ」
当然だけど、向こうは怒ってる。怒っているからなのか上から目線で偉そうに言ってくるが、既に城を囲まれて落城も時間の問題だって分かってるのかな。
「連合国代表アーレスブライト様の言葉を伝える。『全員武装を解除して投降しろ。そして罪人フレイムをこちらに差し出せば帝都だけは火の国として存続を許してやる』」
おお!指揮官すげえ事言うな。この国の精鋭中の精鋭第1騎士団ならこの国と王に対する忠誠は絶対だろう。こんな事言うと確実に喧嘩売ってるよな。そしてアレスの奴この提案は水と風の国は許してくれないだろ、何考えてんだ。
「ふ、ふざけるな!事もあろうに陛下を賊呼ばわりするとは!貴様覚悟しろ!」
当然指揮官の言葉に目の前の兵士が怒って斬りかかってくるが、ガルラが動いて敵を弾き飛ばす。ガルラの馬鹿力でフル装備の兵士が城門まで弾き飛ばされたぞ。弾き飛ばされた兵士はピクリとも動かなくなったので、それを見た敵兵が怒り弓や魔法で攻撃を仕掛けてくる。
「で?今の要求ってどういう意味があるんですか?」
降り注ぐ魔法や矢を影で防ぎながら指揮官に先程の要求を聞いてみる。
「あれは元々どちらも受け入れられない提案ですけど、こっちとしては最後に降伏勧告をしたけど火の国は受け入れなかったと喧伝する事が出来るでしょう。それに国を滅ぼされた我々としても火の国は最後の情けを拒否したから遠慮はいらないって事で士気があがるでしょう。そもそも本当に許す気があるなら最初の戦いの時にこの要求はしていますよ。忠誠心の強い第1騎士団が守っている城まで攻めてきて言ってる時点でこの要求は拒否される事は分かっています」
何となく色んな思惑があるって事は分かった。そしてアレスの奴が腹黒いって事も理解した。
「まあ思惑は何となく理解したけど、それならあなたは俺達がいなければ死んでいたんじゃないですか?」
この指揮官いきなり斬りかかってきた敵に何とか勝てたとしても、その後の遠距離攻撃を食らって絶対死んでいただろう。
「そうですね。ただ私は進んでその役目を引き受けましたから、ギン様達がついて来なければそうなっていたでしょうが、私にはその覚悟はありました。私1人の犠牲で皆の士気があがり、こちらの大義名分が得られるなら安いものです」
真剣な目をして真っすぐ俺を見てくる指揮官。この人も水の国の出身だと聞いたので、火の国に相当な恨みがあるはずだ。その言葉に嘘はないだろうけど、人を捨て駒みたいに使おうとしたアレスの奴には後で文句いってやろう。
呑気に話をしているが未だに降り注ぐ魔法や矢を影で防いでいるので、敵からは驚きの声があがっている。
「あ、あの黒いのは何だ!」
「報告にあった影魔法使いだ!殺せ!・・・何故『光』が効かない!」
「以前影使いと戦ったって言ってた奴等を呼んで来い!それと副団長に報告だ!」
さすがにあれだけ大暴れしたから俺の影魔法の事バレてるな。まあもうバレても構わないし、こいつらには遠慮はいらない。影を伸ばし城門の鉄格子を綺麗に門の形のまま斬ってからガルラに声を掛ける。
「ガルラ。門は開けたから行ってもいいけど、相手はあの第1騎士団だからな、油断するなよ」
「フフ、アーハハハハ!承知した!アハハハハ!」
俺の言葉にガルラは大喜びで門に向かって駆け出していき、その勢いのまま門の鉄格子に飛び蹴りを食らわすと、鉄格子とその後ろにいた兵士が吹っ飛んでいった。相変わらずの馬鹿力に呆れながらも俺も指揮官と門をくぐると、城の中庭は一瞬で地獄絵図に変わっていた。鉄格子と一緒に吹っ飛んでいった兵士達は当然ながらほとんどがピクリとも動いていない、更にガルラの奴蹴り飛ばした鉄格子を拾って放り投げたからそれを食らった奴等も当然のようにピクリとも動いていない。これだけで結構な人数が中庭に倒れこんでいる。そしてこの光景を引き起こしたガルラはと言うと、今は城門の上にいる兵士を相手にしているみたいで、ガルラに殴り飛ばされた兵士が上からボトボト落ちてくる。
「影使いに侵入されたぞ!こっちにも兵を回せ!」
城門をくぐると俺達に気付いた兵達に取り囲まれるが、
ザシュッ!
向かってきた敵を影で斬り飛ばす。
「すご・・・」
隣の指揮官がそれを見て声を上げる。
「うおおおおお!かかれ!」
「これが最後だ!国の恨み思い知れ!」
ようやく後ろで待機していた兵達が追い付いてきて中庭になだれ込んで乱戦になる。こうなると、俺の影は使いにくいので、後は連合軍に任せる事にして俺は城を目指す。指揮官もお礼を言って俺から離れて乱戦に加わっていった。城に向かって歩きながら乱戦の様子を見てみると個々の実力なら敵の方が強いが、如何せん数で勝っているのでこっちが押している感じだな。この調子だとここはすぐに終わるだろう。
バン!!!
城に向かって歩き出すと、城への扉が勢いよく開いて中から3人の兵士が飛び出してきた。飛び出してきた3人はすぐに状況を確認すると、武器を抜いて周囲からの奇襲を警戒する。
そして警戒している3人のうち真ん中に立つ兵士と目が合った気がした。フルフェイスの兜で顔が見えないけど、俺を睨みつけている気がする。俺も何故か相手が誰か分かった。
「こ、小僧!貴様!生きていたのか!」
「よお!オッサンじゃん。久しぶりだな」
怒りで震えながら声を出す相手に向かって、俺は久しぶりにあった友達感覚で相手に声を掛ける。俺の事を小僧なんて呼ぶ奴はこの国には1人しかしない。召喚直後に俺を暗殺しようとした第1騎士団の副団長のオッサンだ。
「副団長だ!」
「お前等副団長が来たぞ!気合を入れろ!ここで情けない姿を見せたらまたしごかれるぞ」
「うおおおおお!副団長だ!これでお前らは終わりだ!」
オッサン相変わらず人気者だな。オッサンの姿に気付くと敵の士気が高くなって、こっちが押し返されている。
「オッサン。相変わらずの人気だな。そう言えばオッサン副団長から降格したんじゃないのか?」
確かヒトミを助けに城に忍び込んだ時にそんな事を聞いたような。
「再び昇格して任命されたのだ!それもこれも貴様の暗殺に失敗したからだ!貴様のせいで俺がどれだけ苦労したか分かっているのか!」
いや知らねえ。興味もねえ。ただ、オッサンには恩があるからな、一度だけ聞いてみるか。
「オッサンの苦労なんて興味がねえ、ただオッサンから貰った上級ポーションで俺の先輩冒険者の命を一度助けて貰ったからな、オッサンだけなら見逃してやってもいいぞ」
オッサンのポーションで尾無しにやられたエステラさんを助けられたのだ、俺を殺そうとしてきたオッサンだけど、このまま抵抗しないなら本当に命を助けるつもりで提案してみた。
「ふざけるな、貴様!俺のポーションを薄汚い冒険者なんかに使ったのか!そのまま死んでいれば良かったのに勿体ない事をしおって」
こいつ・・・エステラさんを。
見逃してやろうと思ったけど気が変わった、オッサンは必ず殺す。
「主殿、あいつは強そうじゃないか。私にくれ」
いつの間にか隣にガルラがやってきてオッサンの相手をさせて欲しいと言ってきたが、流石に今回は譲ってやれない。
「悪いな、あいつは俺が相手する。両脇の二人を頼む。・・・そんな顔するな、あれは副団長らしいから団長は任せる」
俺の言葉にすごく不満そうな顔をするガルラだが、団長を譲るとの俺の言葉に納得してくれたのか頷いてくれた。
「フハハハハハ、あの時逃げ回っていただけの小僧に何が出来る。そのまま隠れて逃げ回っていればよかったものを!まあこの俺に見つかったんだ今度こそ確実に殺してやる。お前等これは決闘だから手を出すなよ」
オッサンは両脇の兵士に指示を出すが、俺の事詳しく聞いていないのか、それとも『光』で俺の影をどうにかできると思ってるのか。まあどっちでもいいか。
「それはこっちのセリフだ。オッサン、エステラさんを侮辱したからな、もう許してやらねえからな」
「薄汚い冒険者なぞ何人死のうがどうでもいいわ!小僧もすぐにその冒険者に会わせてやるから感謝しろ!」
オッサンの言葉にますます頭が冷えてくる。今度は冒険者全体を馬鹿にしやがった。こいつも平民の、冒険者の命なんて何とも思ってないんだな。
「そう言えば名乗ってなかったな。俺はギンだ、Bランク冒険者で『カークスの底』のリーダーだ」
「チッ!騎士の私が薄汚い小僧のような冒険者と剣を交える事になるとはな・・・剣が腐るんじゃないか」
俺は名乗ったけどオッサンは名乗る気はないようで、イラつく言葉を口にしている。そんなに騎士ってのは崇高で偉いのか。
「オッサン、それなら俺は薄汚い冒険者として殺し合いをしてやるよ。影魔法は使わないから安心しろ」
勇者として召喚された時に覚えていたスキルは全て使わねえ。こっちで覚えたスキルや冒険者としての戦い方でオッサンの相手してやる。
「クハハハ!負けた時の言い訳作りか?そんな事しても小僧はもう死ぬ事が決まっているから無駄だぞ」
俺の言葉に大笑いするオッサンだったが、
「ほら、オッサン死んだぞ?」
油断しまくりのオッサンの背後に回り込み斬りかかる。オッサンは油断していたので全く動けていない。
ガキン!
クソッ!俺の素の腕じゃ剣が良くても鎧は斬れないか・・・影を剣に纏わせれば斬れるけど影魔法は使わないって決めたからな。
「ぬおおお!」
オッサンが慌てて振り向きながら剣を横薙ぎに振ってくるが既に俺はその場から離れているので空を切る。
「こ、小僧!その動き・・・少し油断していた、だがここからは油断せん!小僧にチャンスは無いぞ、それにその腕では鎧を斬る事までは出来ないようだしな。ワハハハハ」
油断しないとか言っておきながら油断して大笑いしてんじゃねえよ。鎧が斬れないなら別の手を使うまでだ。油断しているオッサンに向かってスライムの死骸を投げつけると兜に当たり真っ黒に染まる。
「な、何だこれは・・・おのれ卑怯だぞ小僧!・・・前が見えん!」
師匠特製の黒スライムだ。って言ってもスライムの死骸に炭を混ぜて黒くしただけだけど人型や猿系等の目がいい魔物には効果抜群だ。オッサンは前が見えないので慌てて兜を脱ぎ捨てるといつか見た懐かしいオッサンの顔が出て来た。まああんまり見たくない顔だけど、これで兜は剥がした。これでも簡単に殺せるんだけど、もう少し冒険者について教えてやろう。
「卑怯とか何言ってんだオッサン?オッサンが相手にしてるのは騎士じゃねえ、薄汚い冒険者なんだぜ。冒険者ってのは基本相手が魔物だからな、勝つ為には何してもいいんだよ。魔物も卑怯なんて言わねえし、俺達も魔物に対して卑怯とか言わねえからな。その辺はルールの中で戦う甘ちゃんの騎士様には理解できないか?」
冒険者に対する認識を改めて貰おうとオッサンを挑発すると、真っ赤な顔して怒り出した。
「き、貴様!騎士を愚弄するか!貴様みたいな小僧に騎士の何たるかが分かってたまるか!そこに直れ叩き斬ってやる!」
そしてブンブン剣を振り回してくるが、ガルラ達と訓練している俺はそれを余裕で躱したり受け流したりする。流石に『身体強化』使わないとオッサンの剣を受ける事は出来ないだろう。それぐらい重い剣筋だけど当たらないならあんまり意味はない。
「クソッ!相変わらず逃げ足だけは得意なようだな」
剣を振りながら俺に文句を言ってくるオッサン。さすがに騎士だけあって全く体力が落ちている様子はないが、いい加減躱すのも疲れたので次の手を使う事にする。
・・・パリン
再び俺から投げられた小瓶がオッサンの鎧に当たって割れる。中の液体が飛び散りオッサンの鎧が濡れるが、オッサンは気にした様子はなく剣を振り回している。
「オッサン、早く鎧脱いだ方がいいぜ」
一応忠告してあげてから『火』を放つと、オッサンは炎に包まれる。先程投げつけた油がよく燃える。
「ぐああああああ!熱い!き、貴様ああああ!・・・・小僧!正々堂々と戦え!」
炎に包まれたオッサンは慌てて鎧を外してから自分に向かって『水』を何度も浴びながら俺を今にも殺しそうな目線で睨んでくる。俺からは火傷は見えないけど、オッサンはポーションを飲んだので少し火傷したのかもしれない。
「ほら、オッサン次だ!」
そう言って態勢を整えている途中のオッサンに向かって今度は刺激袋を投げる。殺し合いの最中だってのに態勢整えるのに夢中で俺を全く警戒していないので簡単に当たった。一応躱された時の為に2~3個取り出していたが無駄になった。っていうかオッサン弱いな。正々堂々戦えば強いんだろうけど、搦め手とか変則技に全く対応できていないのは騎士だからってのが理由か。
「ガハッ!ゴホッ!目がああああ!・・・こ、小僧!許さん!許さんぞ!」
またまた慌てて今度はガントレットを投げ捨てて目をこすり始めるオッサン。もういいや、オッサンもこれで冒険者というのを分かってくれただろう。未だに目を抑えて痛がっているオッサンの背後に回り込み鎧で守られていない膝裏を剣で突き刺す。
「ぐああああああ!こ、小僧!貴様!卑怯だぞ!」
膝裏を刺されたオッサンは片膝立ちの状態で俺に真っ赤な目で文句を言ってくるが、オッサンは何言ってるんだろう?
「何言ってんだオッサン?これが冒険者の戦い方だぞ?卑怯何て言葉はある意味冒険者にとって誉め言葉だ」
ギルドで酒飲んでると、どうやって魔物倒したか聞いてもいないのにでけえ声で教えてくれる奴がいるからな、その中でもどうやって簡単に倒したかってのはみんな聞きたい所だし、そのやり方に卑怯だぞって言葉が飛んでくると喜んでいる奴等だ。そして俺もそんな奴等と同じ冒険者だ、卑怯何て言葉はむしろ愉快な気分になってくる。
「ぐ!このおおおお!小僧!貴様またしても俺を!騎士を馬鹿にするのか!!」
「別に馬鹿にしてねえよ。冒険者として戦っただけだ、俺より強ければオッサンじゃなくて今頃俺がそうなってただろうさ」
吠えるオッサンにそう返してから片手剣を振ってガントレットを外した方の手首を斬り落とす。
「ぐああああああ!こ、この!許さん!許さんぞ!」
「副団長!!」
「全員副団長を守れ!!」
オッサンがいよいよヤバそうだとだと気付いたのか、俺に向かって兵士が攻撃を食らうのを気にせず向かってくる。オッサンえらい慕われてるな。向かってくる兵士の大半が連合軍の兵士に囲まれて立ち止まる事になるが、それでも数人は抜けてこっちに向かってきた。
「このおおお!」
「おいおい!1対1の神聖な決闘に乱入してきていいのか?オッサンは手を出すなって言ってたぜ」
最初の1人の攻撃を躱しながら騎士としての誇りについて聞いてみる。まあ聞いてもまともな答えが返ってくる訳も無いのは分かってる。
「ふざけるな!お前が先に卑怯な手を使ったから決闘は無効だ!」
あ~あ、それ言うと今まで我慢して様子を見ていた戦闘狂が参戦してくるぞ。と思った瞬間ガルラが相手をして既に決着を付けていた兵士を俺に向かってきた兵士にぶん投げたから兵士が吹っ飛んでいった。
「主殿、これはもう私も混ざっていいんだよな?」
オッサンと一緒についてきていた二人との戦いが楽しかったのか、ソワソワした感じで聞いてくるガルラ。これはもう止めると面倒くさいな。
「オッサン以外は好きにしていいぞ」
ガルラに許可を出すと大笑いしながらこっちに向かってくる兵士の相手を始めた。
「こ、小僧!!貴様!ゼントを!ニグルドを!よくも!!」
おっと、ガルラとのやり取りの間に回復したのかオッサンが元気になって俺に斬りかかってきた。ゼントとかってのはガルラが倒した奴等だろう。俺に文句言うなよガルラに言え。どれだけ上級ポーション使ったのか分からないけど斬り落とした手首もくっ付いているな。
「そうかオッサンも仲間が殺されて悔しいか。まあその気持ちは俺達も味わってるからな自業自得だ」
今までどれだけ火の国が好き勝手やって各国から恨まれているのかオッサン・・・というより帝都を守っていた第1騎士団は知らないんだろうな。
「お前らの事情なんて知らん。負けた奴等が悪いのだ!勝った我が国が負けた国をどうしようが勝手ではないか!」
・・・・・・
「ああ、そうだな。勝てばいいってのは冒険者の絶対だ。だから今オッサン達は追い詰められてる。分かるか?今度はお前らが負けるんだ」
ザシュッ!!
あまりの身勝手なオッサンの言い分に怒りで再び腕を斬り飛ばす。
「あああああああ!腕があああ!俺の腕が!!!」
肘から下を斬り飛ばされてオッサンは地面に転がりながら痛がっているが、俺は気にせずまた回復されないように斬り飛ばした腕を細切れにする。
「き!貴様!卑怯だぞ!」
俺の戦いを見ていただろう兵士が大声で文句を言ってくるが、こっちに注意を向けていた事と大声出して目立ったので、すぐに周りの連合軍に切り伏せられる。
「・・・・ぐ・・ひ・・・卑怯者め!」
痛みを我慢しながらもオッサンが俺を睨みつけ苦しそうに文句を言ってくるが、俺はまあ何も感じないというよりむしろ今はその言葉が心地いい。
「勝てば何してもいいってのがオッサン達の理屈だろ?お前等も水と風の国で同じ事してきたんだ、負けそうになって今更文句言ってくるんじゃねえよ」
剣を振るう。オッサンの手首がもう一度斬り落とされる。さっきまでは少しは戦いを楽しめていたんだけど、今は何も楽しくないな。
「ぐああああああ!くそ!ちくしょおお!!やっぱりあの時貴様は殺しておくべきだった!全軍で死体まで確認するべきだった!!・・・グボッ!・・・へ、陛下・・・ゴポッじで・・・」
大騒ぎするオッサンの首に剣をゆっくり突き入れていく。この感触は慣れたくはないが野盗で何回も経験しているから何も感じない。事切れたオッサンを見下ろしながらやっぱりいつもと変わらない事を考える。