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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
7章 大森林のBランク冒険者
147/163

137話 先代への報告

「で?火の国を落とした後はあの国をどうするつもりだ?」


 食事も一段落した所でビールを飲みながらアレスにこの後の事を聞いてみる。アレスはビールを飲むのは始めてだったみたいだが喜んで飲んでいる。初見の物を躊躇いなく口に入れているから冒険者適正があるのかもしれない。


「ああ、ギンに任せる予定だ」

「はあああああ!!!??任せるって何だよ!」


 全く想像していなかった答えが返って来た為、声が大きくなってしまった。任せられても困るっていうかいらねええ。


「ギンに任せるのがどこからも文句が出ないからいいと思ったんだか?」

「いや、良くねえよ!俺みたいな若造が治められるわけねえだろ?」

「何でだ?初代様はギンと同じぐらいの時から国を興したから出来ないって事はないだろ?」

「東と比べるな!あいつはクラスをまとめるのが上手かったから特別だ。それに俺はどっちかというと一人が好きなんだよ」


 俺が言うとアレスの奴でかい溜め息を吐きやがった。なんか馬鹿にされた気分だ。


「仕方ない、被害を受けた水と風の国で半分ずつ統治させるか」


 それが一番どこからも文句出ないんじゃないか。俺も当然文句を言うつもりはない。


「それでギンはその後はどうするんだ?」


 火の国との戦争が終わった後か・・・金子がいようがいまいが取り合えず決まってる。


「教国に行く」


 溝口を起こしにいく約束しているからな。それに火の国に金子がいないと教国にいるだろうし。あとはレイが教皇に文句言ってやるって言って聞かないから確実に一悶着起こるだろう。


「言っておくが、俺達各国は教国に攻め込めないからな?」

「ああ、分かってる。一般的に見てあの国はずっと中立を保ってるからだろ」


 そう、裏で火の国と不可侵の密約を結んでいたので、今回の戦争に参加しなかっただけだが、事情を知らない大多数から見れば戦争に参加せず中立を保った国だもんな。そんな国に攻め込めば自分の国の女神教徒を敵に回す事になるからそれはやりたくないんだろう。


「分かってるならいい。教国も攻めてくればこちらも大義名分ができるんだけど、あの狸はそれが分かってるから動かないか。結局あいつは『女神』様を起こして何がしたいのやら」


 アレスが呆れるように言いながらビールをグビッと飲み干しておかわりを要求してくる。こいつ王様のくせに俺にたかるなよと思ったけど、俺が着替えさせたから金持ってないんだった。


「それで『女神』様を起こして、カネコも倒した後は?お前達ならどこでも歓迎してくれるぞ?」


 おかわりのビールを一口飲んでから俺に質問してくる。まあ、その後の事も決まっている。


「う~ん。まあドアールの街の再興だな。あの街は住人全員殺されたけど、街を作り直せばまた人が集まってくるだろ。あとは、ドアールの街のみんなを埋葬もしないと」


 そう、ここまでは俺の中で決まっている。その後はまだ決めてないけど、世界中を観光するのもいいだろうし、のんびり冒険者やってもいいけど、具体的には決まっていない。


「そうか、その時は遠慮なく言え。この戦争の立役者だから手を貸すのに文句はない。というか各国黙ってても何かしらの援助をするぞ」


 えー。借りは作りたくないからそっとしておいて欲しいな。


「そんな顔するな。これでもまだ俺達の監視の目があるからマシだぞ。俺達から援助がないとどうなると思う?」

「・・・・・聞きたくないけどどうなるんだ?」

「そりゃあ、各国の貴族が頼んでもいないのに援助してくれるだろうよ。全てはお前等『カークスの底』に取り入る為だ。まあ援助だけで済む訳なく嫁とか側室とかも勝手に送られてくるぞ」


 う、ま、マジか。いや脅しだ・・・って判断できない。悩んでいる俺にアレスが更に言葉を続ける。


「まあ、俺達の援助を受けてるのに貴族が勝手に動くと、王族の援助は足りないって言ってるのと同義だからな。さすがに王族に喧嘩売る行為はしないだろ。だから素直に俺達の援助をうけておけって、そっちの方が俺達も貴族を抑えておきやすいんだよ」


 まあ、そう言う事ならと納得しそうになったが、アレスの真面目な顔の裏にもう少し何か隠している感じがする。


「そう言う事なら遠慮なく援助受けさせてもらうけど、期待しても返せるものは何も無いぞ」


 みんなと話をしてこの戦争が終わった後は、俺達はどこの国の物になるつもりはない事は決まっている。今まで通りその時にいる街の所属の冒険者だ。


「ま、まあ、たまに俺達からの指名依頼受けてくれるだけでいいぞ。勿論指名料は正規料金で払う」


 やっぱりそう言う事か。まあアレス達なら俺達を取り込もうとしたりしないだろうから少しぐらいなら受けてもいいか。


「まあ、依頼内容にもよるけど、たまになら受けてもいいぞ」

「本当か?よし、約束したからな。これで宰相や女王達に小言を言われないですむ」


 何だそれ?何で俺達の指名依頼受けさせるのに女王や宰相達から色々言われてるんだ。別に知り合いの指名依頼なら断るつもりはないんだけどな。まあ今までは全く指名依頼受けてなかった事も関係しているのかな。


「宰相や女王に何言われてきたんだ?」

「何とか『カークスの底』が今後、指名依頼受けるように説得してこいって言われてたんだよ。まあ、ギンが頷いてくれたからこれで目標達成だな」


 サイの国の王様がパシリにされてどうすんだよと思ったけど何も言わないでおこう。それにしてもアレスって最初会った時も思ったけど王様っぽくないな、結構気さくで、王族特有の威厳が感じられない。フェイにペコペコしているのを見たからかもしれないけど。


「そうそう言い忘れていたけど、お前等『カークスの底』はサイ、砂、闇の3国でAランクに上げるようにギルドに推薦しておいたぞ」


 また勝手にそう言う事する。


「まだ俺達ポイント溜まってないんだけど?しかも水谷なんてDランクだぞ?あいつはCにあげるのか?」

「まさか、アユムも『隕石』を余裕で打ち消すし、火の国の悪魔の1人に圧勝していたから既に十分Aランクの実力はあると判断し特例でお前等と同じAランクの点付きだ。既にユーテラスの婆さんとは話はつけてあるし、フェイ様も了承済だ」


 対応が早いな。グランドギルドマスターのフェイは興味なさそうに「勝手にしろ」とか言ってそうだけど本部の代理はそう言う事はしなさそうだけどな?


「フェイ様の了承済と言えばあの婆さんは二つ返事で了承したぞ。あの婆さんは初代様と二代目様に憧れておるから簡単だ」


マジかよ、職権乱用じゃないのか・・・。まあ点付きだしAになっても今までとあんまり変わらないかな。





「そう言えば、火の国を風と水の半分で統治させるって言ってたけど、領主はどうするんだ?今の領主をそのまま据えおくのか?」

「まさか、今の領主は全員クビだ。そのまま新たな領主の下につくか平民になるかは選ばせてやる貴族もいれば、問答無用で処刑する貴族もいる。まともな統治をしていれば前者、してなければ後者だな。あとは素直に街を明け渡さなかった領主は処刑とする。火の国の王族と親族関係にある伯爵家以上の貴族は争いの目を摘む為に全員平民に落とすか処刑だ」


 聞くと、結構厳しい対応だな。


「水や風の国の領主は全員処刑されたからこれでもまだ寛大な処置だと思うぞ。二国で生き残ったのは治める土地を持たずに元々領主や上の貴族に仕えていたわすかな法衣貴族達だけだ」


 しまった。自分の娘を殺されたアレスの地雷を踏んでしまった。さっきまでビールを飲んでご機嫌な様子だったのに、今は憎々し気な顔で不味そうにビールを口にしている。


「それだと貴族の数が足りないんじゃないか?法衣貴族だと実務は出来ても上から監督するってのも慣れてないだろ?」


 領主なのに実務で忙しくて領内を統治できない貴族が出てくる事が目に浮かぶ。そうなった時に一番被害を受けるのは多分孤児やスラムの人達だろう。関わりのあった孤児やスラムのあいつらを頭に浮かべる。やっぱりあいつ等みたいに小さい時から苦労するような生き方はして欲しくないな。


「安心しろ。水と風は貴族は少ないが、俺の国と砂と闇には余る程、貴族がいるからな。しかも優秀だけど長子じゃなくて跡を継げない、上も優秀だから後を継げないという人材には困っておらん。そう言う奴等と水と風に残った法衣貴族との仲を取りもってやればいいんだ。こっちは優秀だけど燻っていた人材が日の目を見る事になって嬉しい。向こうは優秀な人材が来てくれて嬉しいから問題はない」


 それなら何とかなるかな。困ってるって噂があったら魔物でも狩って差し入れしようかなとも考えたけどそうすると際限なくなるからな。


「この戦争が終わったら、『水都』と『風都』で出会いの場を用意する事になっているからギン達も来るか?むしろ来てくれ、お前等が来ると絶対場が盛り上がる」

「客寄せパンダになるつもりはない。って言いたいけど水谷は風の国に恩があるからな頼まれたら行くって言うかもしれない。それは本人に直接頼んで見ればいいんじゃないか?あいつも金子達の件が片付いたらいい加減出会いがあってもいいだろうしな」

「・・・ぎ、ギン・・・お前・・・気付いてない・・・・いや!いい!何でもない」


 俺の言葉に何故か驚いた表情をしたが、すぐに元に戻したのは流石王族と言いたいが、俺何か驚かせるような事言ったか?その後はアレスは「こっちで攻めるのも・・・」「闇と砂に相談・・・」とかブツブツ言ってるのが聞こえた。




「ハハハハハ、かなり楽しかったぞ。ギン礼を言うぞ。出来れば今後も偶に遊びにきて俺を連れ出してくれんか?」


 飯を食ってしばらく話をした後、城に戻るとアレスからお礼を言われた。護衛も無しにただのアレスとして外を出歩いたのをかなり気に入ったみたいだ。


「まあ、サイの国に行った時なら別にいいぞ。それよりもどこまで案内すればいいんだ?城内だと言っても一人で歩くのは危ないだろ」


 『水都』の王城に戻ってきたが、アレスは未だに俺が着させた冒険者の格好で俺と歩いている。冒険者風の男二人が城を歩いているのに。さっきからすれ違う兵士から道を譲られるのは多分俺のせいだろう。俺達が暴れているのを魔道具で大画面に映し出されていて、みんなそれを見ていたって聞いたから俺達の顔はかなり知られてしまった。すれ違う兵士が道を開けてくれるのも俺を怖がっているのが理由だ。ついでに俺の隣を平然と歩くオッサンは誰だと言う声も聞こえてくる。


「よお、ギン。何してんだ?」


 カイルとオールが廊下で何やら打ち合わせをしていたのか俺に気付いて声を掛けてくる。周りの兵士はお前等正気か?みたいな顔でカイル達を見てくる。俺ってそんなに危ない奴に見えてるのかな。


「外で飯食ってきたんだ。お前等こそ打ち合わせか?仕事熱心だな」

「お前は昼間あれだけ大暴れしてんのに相変わらずマイペースで変わんねえな」

「俺はお前の影魔法黙ってた事をカイルに文句言ってた所だ」


 おっと、オールのこの様子だと俺にまで文句言ってきそうだと思ったら、アレスが会話に割って入って来た。


「何だお前達はギンが影魔法使いだと知っていたのか?」


 本当に嫌な感じを何もさせずにすんなりと俺達の会話に入ってくるのは才能だなと感心してしまう。


「い、嫌、俺は知らなかったな」

「俺は知ってたけど、信じて貰えそうにないから誰にも言った事ないな」


 オールもカイルも普通にアレスの質問に答えてるし、すげえな王族の話術。


「そういうオッサンは見ねえ顔だな?」


 冒険者の格好しているから、カイルの奴サイの国の王様をオッサン呼びだよ。


「ああ、俺の知り合いだ。とんでもなく強いから気を付けろよ(権力が)」

「ホントか?ギンが言うほど強そうに見えねえぞ?」


 オール、失礼な事言うな。お前この場に闇の国の女王様がいたら顔が青ざめてるだろう。アレスはにこやかに笑っているからこの場を楽しんでいるみたいだ。


「ああ、そうだ。ちょっと変わった方向でとんでもなく強いってのは本当だな。ククク」


 俺の言葉の意味に気付いたのかアレスの奴面白そうに笑いながら会話に乗っかってくる。それを聞いてカイルもオールも不思議そうな顔をする。


「そのちょっと変わった方向って何だ?魔法か?いや、それなら普通に強いって言うか・・・それならヤベえ魔道具でも持ってるとかだろ?」


 冒険者だったカイルならそう考えるんだろう。まさかサイの国の王様が薄汚れた冒険者の格好で城を歩いているなんて思わないもんな。アレスの奴、カイルの言葉を聞いて更に笑い出す。もうそろそろ教えてやろうかなと思った所で、近くの扉が開いた。

 中からは闇の国の王女アメリアが出てきたので、カイルもオールもさっきまでと違い喋るのをやめて廊下の隅で直立不動に立ち王女様を迎える。闇の国の女王と兵士の大半は国境まで戻り、教国を警戒しているが、戦争の終結を見届ける為にアメリア王女と護衛の兵士は最後までついてくるそうだ。



「お待たせしま・・・あら?ギン様?どうかされました?」


 待っていたオールに声をかけようとする所で、俺に気付いた王女様が話しかけてくる。チラリとアレスに目をやるが特に気にした様子もないので気付いていないな。


「いや、こいつと飯食って部屋に戻る所でオール達に会って軽く話をしていた所ですよ」

「あら、初めて見る顔ね、ギン様のお連れ様なら私もしっかり覚えておかなければ」


 何故俺の連れなら覚える必要があるんだろうか。そして何故初めて見る顔とか言ってるんだ?俺の交友関係を王女様が把握してるの?


「・・・・あっ!・・あ、あなた様は・・・ま、まさか・・・・」


いくら変装していると言ってもアレスの顔をマジマジと眺めると流石に分かったらしい。アメリア王女が驚愕の表情でアレスを眺める。そして、オール達は王女が何をそんなに驚いているか分からずに困惑している。


「今は唯の冒険者のアレスって事でお願いします」


 どう対応していいか分からずに困惑している王女様に小声で囁くと納得してくれたのか頷いてくれた。


「後でどう言う事なのか説明をお願いしますよ、アーレスブライト王」


 そして咎めるような顔でアレスに囁いた後、一礼してからアメリア王女はオール達を連れてその場を後にした。カイルも一緒について行ったけど、あいつはいつから王女付きになったんだろう?その後はアレスを送り届けたんだけど、王子達に黙って出て行ったらしく、部屋に戻るともの凄い剣幕で詰め寄られていたので、俺は巻き込まれる前にさっさと自室に戻り寝た。



 翌日からは再び火の国を目指して進軍を開始した。昨日のうちにサイの国の第5騎士団を各都市に送り解放と治安維持を行わせているそうだ。そして本隊はまっすぐ火の国を目指すので俺達もそれについて行っている。本隊の進路上にある都市も早々に撤退を決めたみたいで、都市の解放に抵抗はなく俺達が戦う事も無かった。


「それで斥候の報告によれば、国境周辺に部隊を展開しているのだな?」

「はい、恐らく残存兵や各都市の兵が集結しているようで、その数は4000程と思われます。風の国との国境でも同じように兵が集結しているようです」


 俺は各国の代表と同じ席に着き、兵士から報告を聞いている。俺の存在が気になるのか報告しながらこちらをチラチラ見てくる兵士達だが、何で俺が席に着いているかはサイの国の王様に言ってくれ。朝いきなり呼び出し受けて言われるままに席に着いたらこうなっただけだ。


「第1騎士団はどうなっている?」


 火の国の最後の戦力で最強の騎士団の動向は当然気になるのかアレスが質問する。昨日と違い王族オーラを纏っているが、そのオーラって自在に出したり出さなかったり出来るのだろうか?


「第1騎士団は僅かばかりを帝都に残して国境の兵士達と合流したようです。ですので、国境の戦いで勝利すれば後は抵抗らしい抵抗はなく帝都まで兵を進める事が出来ます」

「ふむ、そうするとこれが最後の戦いとなるのか。ギン、危なそうなら『カークスの底』にもお願いする事になるがいいか?」


 外に連れだしてからやけに距離感が近くなったアレスが聞いてくる。まあ、別に俺は構わないんだけど、俺みたいな冒険者に王様が気やすく話すのはどうなんだろうと思うが、アレスの評価なんて俺には関係ないか。


「別にいいぞ。と言うよりガルラとフィナが暴れる気満々だから、逆に大人しく見てて欲しいんだが?」

「ハハハハハ、そうかそれなら安心だな。ただ何もしないのもどうかと思うから半分は風の国側の援軍に向かわせる事にしよう」


 他の国の代表も異論は無いみたいで、各自で横に立つ文官に指示を与え始めた。ガルラがいれば風の国側の敵も蹴散らしてくると言いかねないので、この話は黙っておこう。これ以上俺達が出しゃばるのも違う気がする。



「と言ってたな?主殿!」

「はい、すみませんでした」


 俺は今ガルラの前で正座をして怒られている。周りには兵士がいるのにすごい見世物にされているが、俺が悪いので仕方がない。周りから好奇の目で見られてるのは奴隷が主人に対して怒っているからなのか、影魔法使いを獣人が怒っているのが珍しいからなのだろう。チラリとフィナに目線をやって助けを求めるが、プイッと目を逸らされた。ヤバい、フィナも怒ってる。特にフィナは金子達との戦いでフォローに回して暴れたりてないから第1騎士団含む敵との戦いをそれはそれは楽しみにしていたからな。それを俺が全滅させたから怒るのは当然だよな。


「ガルもあんまり怒らないの!ギンジが怒った理由も分かるでしょ?」

「そうそう、ガルちゃん許してあげてね」


 俺が火の国の連中に怒った理由はみんな分かってくれている。彼女二人から言われてガルラも観念したのか大きなため息を吐いた。


「はあ~。まあ主殿が大事にしていたドアールの街跡に布陣していたから仕方がないか。ただし、主殿、次は絶対に手を出すなよ。第1騎士団と騎士団長は私達が相手するぞ」


「ほら、フィナも機嫌直しなさい。あんた達の我儘土屋はいつも聞いてるから許してあげなさいよ」


 怒っているフィナに水谷がフォローしてくれている。珍しい。


「ぶー。分かったよ。でも次は絶対私が最初だからね。お姉ちゃんを止めてくれるって約束だからね」

「分かった約束だ。ごめんなフィナ。」


 そう、最初はフィナが国境の敵を全て相手にする予定でガルラもそう約束させていたのだ。それで大体半分ぐらい倒したらガルラを投入する予定だったのだが、敵の布陣していた場所がドアールの街跡だった事に気付いた俺がブチ切れて影魔法で全滅させたのだ。ドアールの街には何も無いとは言われているが、俺にとってはとても大事な師匠達『カークスの底』の墓があるからどの都市よりも大切な場所だ。そんな大切な場所を二度も土足で踏み込んできた火の国の連中にキレるなという方が無理だ。気付いたら敵を全滅させていたので、フィナには拗ねられ、ガルラから説教される状況になってしまった。


「それじゃあ、ガルラとフィナが許してくれたって事で行くか」

「・・・どこに行くつもり?」


 水谷は分かってないみたいだけど、レイとヒトミは分かってくれたのか頷いてくれた。ガルラとフィナはいつものように黙って従ってついてきてくれる。


「ぎ、ギン様。どちらへ?」


 進軍を開始した兵士達の列から離れていく俺達を当然見咎められて、部隊長みたいな人が質問してくる。


「ちょっと師匠達に挨拶してきます。すぐに追いつきますので先に行ってて下さい」


そう答えると、すぐに偉いさんは納得したのか進軍する兵の列に戻って行った。そして俺達は師匠達の墓に向かう。


良かった。荒らされてない。火の国の連中が布陣していたし、結構長い事離れていたからどうなっているか心配だったけど、師匠達のお墓はあの時のままだった。まあ少し汚れている程度だけど、これは水かけて布で拭けば元通りだな。


「師匠、ギースさん、ケインさん、エステラさん、ターニャただいま戻りました。久しぶりの酒ですよ。味わって飲んでくださいね」


レイ達の手伝いを断り一人で墓を掃除した後は師匠のワインを1本づつ墓に振りかけていく。久しぶりの酒にみんな喜んでいる姿が目に浮かぶ。


もうすぐです。もうすぐようやく一つ目の約束が果たせそうです。それが終われば後はすぐに達成できそうですよ。


(遅え、遅すぎだぞギン。俺は師匠として情けねえぞ)

(だな。相変わらずマイペースな野郎だな)

(ガハハハッ、ガフとケインの言う事は気にするな!)

(ギースの言う通りよ!あんた達口悪すぎよ、ギンだって頑張ってるのよ)

(クックックッ、約束はまだ果たされていない)


 俺の報告に何となくみんなならこう言ってきそうだなって事を思い浮かべる。


「ああ、そうそう師匠達見て下さいよ、俺のパーティメンバーで二代目『カークスの底』ですよ。師匠達を抜いて俺達Bランクですよ、凄いでしょう」


 そう言って後ろにいるメンバーを紹介する。まあ情報通の師匠なら紹介されるまでもなく既に知っているだろう。そして最後にレイとヒトミを両脇に抱き寄せる。


「師匠達!レイとヒトミは俺の女ですからね!手を出さないで下さいね!ケインさん!分かってますか?俺の女ですからね!手を出したらエステラさんとターニャに言いつけますからね!」


 くくく、あの時のケインさんに念を押された事をやり返してやった。多分、ケインさんは不貞腐れた顔をしているが師匠達はゲラゲラ笑っているだろう。その光景を思い浮かべると、胸が苦しくなり、涙腺が緩くなる。


「・・・・・・・ッ・・・グッ・・・・」


「ギンジ・・・・」

「ギンジ君・・・」


 両脇に抱えた彼女が顔を伏せた俺を気遣ってくれるが、師匠やエレナと約束したから大丈夫だ。


「・・・・・ふう~。悪いなみんな、師匠達への挨拶に付き合わせて、それじゃあ行くか」


 どうにか我慢する事が出来た俺は大きく息を吐き皆に努めて明るく声を掛ける。みんな心配そうな顔して俺を見てくるので、少し悪い事をしてしまった。


「そう、じゃあ、私達の先代に挨拶も終わった事だし行きましょうか」


 気を利かせてくれたのかレイが明るい感じでみんなに声を掛ける。


「行くのは良いんだけど・・・流石にこのままじゃ行けないよね?」


 その声にヒトミが反応してくれるが、俺も周りが見えていなかった。気付いたら、アレスにフラン、アメリア王女に水と風の代表が集まってきて俺達を興味深そうに見ていた。


「フィナ、この墓は誰のだ?ギン様の態度を見ればかなり大事なお方だと思うが・・・」


アレスが何も聞いて来ないのでアメリア王女と風と水の代表も遠慮して疑問を口に出来ない中、我慢しきれなかったのかフランが友達に話すようにフィナに質問を投げかける。流石にフランも俺よりも歳の近いフィナに聞きやすいようだ。


「先代の『カークスの底』のメンバーのお墓だよ。私達は会った事は無いけど、お兄ちゃんに戦い方やこっちの世界の常識を教えてくれた人達。この人達がいなかったら、私達は多分みんな死んでたし、火の国にも負けていただろうね」

「そうか、ギン様の師匠様がここで眠っているのか。それなら私達も挨拶させてもらおうかな」


そう言ってフランが師匠達の墓に軽く頭を下げていくと、他の国の代表も同じようにしている。師匠達もまさか自分達が王様とか偉い人達から挨拶されるとは思ってなかっただろう。驚いている様子が目に浮かび思わず口元がにやついてしまう。


「な~に、笑ってるのよ」


レイが俺がにやけているのに気づいて軽く体を当てて聞いてくる。その顔は俺と同じで何故か楽しそうだ。


「いや、流石の師匠達も各国の偉いさんから挨拶されるなんて考えた事もなかっただろうから、驚いている姿が目に浮かんでな」

「まあ、普通なら驚くだろうけど、ギンジの師匠さん達ならこれぐらい予想してたんじゃない?」


そう言われてみればそう言う気もする・・・いや、流石の師匠でもここまでは予想できないだろ・・・ないよね?


「ギンジ君はお師匠様達への挨拶はもういいの?」


ヒトミに言われて周りに目をやれば、いつの間にか師匠達への挨拶を終えたみたいで俺が注目されている。レイと話している内にみんな挨拶を終わらせたんだろう。


「ああ、どうせ全部終わったらここに戻って来るんだ。その時にしっかり報告はするから今はもう大丈夫だ」

「そうか。それなら全軍進軍を開始だ!これより火の国の本来の領地だ気を引き締めるように全員に伝えろ」


アレスの一声で各部隊に伝令が走り、火の国へ向かって再び進軍が始まった。

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