表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
7章 大森林のBランク冒険者
145/163

135話 撃破

「フヒヒヒヒ。どうした土屋!威勢がいいのは最初だけだったな。いい加減負けを認めろ!」


 連発してくる魔法攻撃を躱しながらみんなの様子を伺っているだけなのだが、藤原は俺が手を出せないと勘違いしてご機嫌だから正直鬱陶しい。


 そしてしばらくは藤原から距離をとり攻撃を躱しながらみんなの様子を伺っていた。ヒトミが刺されそうになった時は少し焦ったがフィナがちゃんとフォローしてくれたおかげで大事ないようだ。いつものレイの役目をフィナはしっかり果たしてくれたから後で褒めてやろう。そしてみんな決着が着いたのでもういいだろう。


「ギャハハハ!どうしたんだよさっきから俺の魔力切れでも狙ってんのか?だったら教えてやるけどよ。俺は魔力量だけはあいつらの中で一番だからよ。魔力切れ狙うのは無駄だぜ」


 聞いてもいないどうでもいい情報ありがとう。・・・マジで要らねえ情報だな。


「別に魔力切れ狙ってるわけじゃねえよ。見てみろ、後はお前と金子だけだぜ?」

「・・・・やっぱりあいつら使えねえな。後ろから魔法放つだけの固定砲台はやめとけって言ってたんだけどな」


 川崎、石井、大久保が捕縛されているのを見た藤原の感想がこれだ。こいつここまで偉そうな立場じゃなかったよな?ここ数年で立場が変わったのか?


「お前こそさっきから固定砲台じゃねえか?人の事言えねえだろ?」

「ハハハハハ、俺が固定砲台?・・・勘違いしてんなお前?」


 ずっと魔法で遠距離攻撃ばかりしている藤原に答えると、大声で笑い出したと思ったら腰の剣を抜き俺に斬りかかってきやがった。まさか近接攻撃仕掛けてくるとは思わなかったので、少し驚いたけど、余裕で片手剣で攻撃を受けると受けた瞬間目の前が淡く輝く。


・・・こいつ


 俺は慌てて距離をとり右に回り込みながら、追撃してくる『光矢』を躱す。少し焦ったけど、これはレイ達も使う手だから余裕で躱せた。で、さっきから気になっている事が・・・こいつというかこいつら弱くねえか?火の国の悪魔だろ?水の国のAランクパーティを壊滅させたんだろ?・・・それとも油断させる為の罠か?


「俺はな、こっちに来てから常に真面目に訓練してたし、あいつらみたいに後ろから魔法を放つだけじゃなくて最前線で戦ってたんだよ。だから今じゃ俺が一番強えんだぜ」


 藤原はまたしても誰も聞いていない情報を教えてくれた。そして藤原の話が本当って事はやっぱりこいつら弱いんじゃねえか。警戒し過ぎて損した。いやあの時は『阻害』スキルの対策について分かってなかったから厳しかったか?


「はあ~」

「うん?ど、どうした?今頃ビビったのか?まあ許す訳ないけどな」


 自分の馬鹿さ加減に呆れているのをチャンスと見たのか藤原が再び斬りかかってくるが・・・遅え。手にした片手剣で藤原の攻撃を受けると、馬鹿の一つ覚えみたいに目の前が輝く。


 ザシュ!!


 今度は『光矢』をしゃがんで躱し、ついでに藤原の足を切り落としてやった。


「ぎゃあああああ!!あ、足が!!!・・・ハァ、ハァ、女神様、我が傷を癒したまえ『上級治癒』」


 足を斬り下ろされて地面をゴロゴロ転がっていたが、回復魔法を唱えると藤原の足が元通りになった。こいつ回復魔法は無詠唱で使えねえのか、そもそもその女神様ってクラスメイトだと教えたらどんな顔をするだろうか。


「土屋!!てめえ、殺してやる!」


 アホな事考えてたら藤原がいつの間にか立ち上がって目の前に『光矢』を放ってきたが、俺はそれを躱しながら藤原に向かってナイフを投げると、まさか反撃がくるとは思ってなかったのか簡単に命中した。


「ぐあああああああ!目が、目が!」


 藤原は右目に刺さったナイフを引き抜くと、目を抑え絶叫をあげながら、ムスカ状態だ。・・・あれは眩しかっただけだから藤原とはちょっと違うか。またまたアホな事を考えていると藤原が回復したみたいで、物凄い顔で俺を睨んでくる。


「土屋!てめえもう許さねえからな!」


 別にさっきから許して貰おうなんて思ってない。こいつはいつまで自分が上にいると思ってんだ?・・・うん?『光壁』?


 藤原が目の前に『光壁』を出したのを俺は何もせずに眺めている。


「ハハハハハ、これでもうお前の攻撃は当たらねえぜ。この壁は破られた事ないからな。俺はこの中で安全に魔法を撃てるって訳よ」


 聞いてもいないのに藤原は何故か丁寧に説明してくれる。そう言えばこいつの壁はガルラの投石で壊せなかったからそこそこ固いのかな。まあただの『光壁』だし影で斬れるだろ。


「この魔法を使って戦うのは最初の街を襲った時以来だぜ。あの時街にいたやけに強いオッサンもこれに手も足も出なかったからな。土屋如きじゃ絶対無理だから諦めろ!」


・・・・あ!?


「藤原、今何て言った!最初に襲った街にいた強いオッサン?・・・そいつはどうなった!答えろ!!」

「お?気になるのか?あのオッサンは俺が抑えてる間に政が近くにいた女を人質にしたら、抵抗やめたから刺し殺してやったぜ。土屋、もしかしてそのオッサンと知り合いだったのか?」


 話かけてくる藤原を無視する。・・・・ドアールで強かった人・・・多分ギルマスだろうな・・・近くにいたって事はミーサさんか。


「カハッ、カハハハハ、その顔ウケるぜ!まさか知り合いだったのかよ。アハハハハ!そうそうお前にはその顔が似合ってる」


 今俺がどんな顔しているかは藤原から言われなくても分かってる。はあ~、落ち着け俺、頭を冷やせ。冷静じゃなくなったら死ぬ可能性が高くなるって師匠に散々言われただろ。ふう~。


「藤原、最後にもう一つだけ教えろ、水着の事件は何で俺を狙ったんだ?」


 学校ではこいつらと全く接点を持ってなかったはずだ。なのに何故か水着窃盗の犯人にさせられた理由だけがどれだけ考えても分からなかった、今でも分かっていない。


「水着の時の理由か?あれは誰でもいいから俺の下が欲しかったんだよ。毎日あいつらにパシらされてたからな。盗んだ水着を入れる机は適当に選んだから土屋にした理由ってのは特にないぞ」


 そうか、そんな理由か。俺がターゲットにされた理由を考えても分かんねえ訳だ。本当に下らねえ理由で人の学校生活滅茶苦茶にしたのか。


「そうか・・・そんな理由か」

「お?怒ったのか?ギャハハハ!!いいぜ土屋!その顔だよ、その怒った顔が見たかったんだよ。アハハハハ!」

「クズが!!すぐに殺してやるからドアールのみんなに謝ってこい」


 もうこいつと話すのは苦痛だ、これ以上冷静でいられない。


「やれるもんならやって見ろ!さっきも言ったがこの壁はお前には破られねえよ」


ドシュ!!!


「あ、あれ?」

「どこが破れねえんだよ、簡単じゃねえか」


 俺の影が藤原の『光壁』を突き破り胸に突き刺さっている。藤原は今、自分の身に何が起こっているのか理解できてないみたいで、自分の胸に突き刺さった俺の影をただ黙って見ている。


「はあああああ!!!??ガハッ!ゴホッ!・・・・あ・・・あ・・・」


 胸から影を抜くと同時に藤原は地面に崩れ落ちて苦しそうに呼吸している。・・・おっ!回復したか。


「回復してもまた同じ目に合うだけだぞ。大人しく死んでろよ」

「ひ、ひぃいいいいい!!!」


 回復した藤原に話しかけると、俺との実力差に気付いたようで、尻もちをついた格好で後ろに下がっていく。


 藤原の放つ『光矢』、『光槍』が俺に向かって無数に飛んでくる。それを影でガードし距離を詰めようとするが藤原は更に後ろに逃げていく。いい加減鬱陶しいな。


「ひいいいいい!!!う、動け!!動け!」


 追いかけるのも面倒になったので影で動きを止めると、藤原は焦った顔に変わり、ワタワタしているが俺の影から逃げれる訳ない。


「それも無駄だって言っただろ」


 諦めずに藤原は『光壁』を出現させるが、俺は影で光壁を切り裂くと、絶望した表情で俺を・・・・


 ・・・うん?まだ何かやるつもりか?


 いきなりにやりと笑った藤原に若干警戒を強めると、辺りが明るく輝いた。


「ハハハハハ、お前の『影魔法』って『光』で簡単に解除できるんだろ!ビビッて・・・あれ?」

「弱点そのままにしておく訳ねえだろ。眩しいだけだから無駄な事はやめろ」


 今度こそ本当に絶望した顔になってくれたな。よく見ればこいつ下半身が濡れてる、きたねえな。


「さて、藤原、今度は首を斬り落としてやるから流石のお前でも魔法は使えないだろう。ちゃんとドアールのみんなに謝ってこいよ」

「う、うわあああああああ!!!!!」


 俺の言葉に今まで以上に俺に向かって魔法が放たれるが、全て影で防御する。そして、


「じゃあな」


 藤原の背後に回り、そのまま愛用の片手剣で首を斬り飛ばしてやると、ようやく魔法攻撃が止まった。・・・よし、回復も無いし、『探索』でも確認したから完全に死んだな。一応みんなの様子を見ると、捕まえた奴等を兵士に引き渡す手続きみたいな事をしていたので、俺が藤原の首を斬り飛ばしたのは見られてないだろう。盗賊で見慣れさせたと言っても俺がクラスメイトの首を斬り飛ばすのはあんまりみんなには見せたくない。


 そして、気を抜いた瞬間唐突に藤原の体から何かが飛び出してきたので、咄嗟に影で体を覆い警戒する。


・・・・??・・・な、何だ?これ?・・・に、人形?


 飛び出してきたのは青白い肌をした人形だと最初は思ったが、よく見ればそれは人だった。ただしどう見ても全員事切れている。・・・全員かなりの美人の女の人で俺達より年下もいれば年上もいる、そして全員裸だ。そんなのが十数体いきなり飛び出してきたんだ驚くなと言う方が無理だろう。しかも、


 こ、こいつカラミティじゃねえか?


 その中の1人の青い髪の女の顔に見覚えがあった。『水都』のAランクパーティ『水龍姫』のリーダーだったカラミティだ。そしてもう一人見覚えがある年上の女性の遺体が目についた。


(水谷ちょっとこっちに来てくれ)


 俺達の中で一番この年上の女性と顔を合わせてるはずの水谷を『念話』で呼び出す。


「どうかした・・・何これ?」


 石井の相手は終わったのかすぐにこっちに来てくれたが辺りの惨状にドン引きする。まあ美人な女の人の全裸遺体が十数体転がってればそういう反応になるよな。ドン引きしている水谷の反応に納得しつつもある遺体を指差す。


「で、殿下!!!」


 すぐに遺体が誰か気付いたみたいで水谷が慌てて駆け寄っていくのを見て、やっぱり風の国の王妃様で合ってたんだと確信する。


「うわ、何これ?何で裸の女の人がこんなに・・・」

「ええ~。」


 レイとヒトミもこっちに近づいてきて辺りの惨状にドン引きしている。


「レイとヒトミはこの中で知り合いはいないのか?」

「う~ん。確かあの人とあの人は水の国で挨拶した気がする」

「私はいないな」


レイは知り合いはいるみたいだが、ヒトミはいないようだ。まあヒトミはずっと引き籠ってたから俺達が知らない人を知ってる訳ないか。レイが聖女として水の国に表敬訪問行った時に挨拶されたって事は結構身分の高い人なんだろう。


「しかし、この惨状はどう言う理由なんだ?藤原の体から死体が飛び出してきたように見えたんだけど・・・ヒトミ分かるか?」

「た、多分藤原君が死んだからマジックボックスの中身が飛び出したんじゃないかな?」


 ヒトミの答えに周りをよく見ると、確かにポーション類や懐かしい学生服なんかも近くに落ちているから多分それで合ってるんだろう。だろうけど、何でこんなに遺体を持ってたんだ?いや、俺も今も死体は大量に影収納に入ってるけど、藤原は明らかに美人な女の人だけを選別して収納してるよな。


・・・・


「藤原君ってサイテーね」

「う~ん。気持ち悪いな」


 多分俺が想像した事にレイとヒトミも思いついたんだろう、嫌悪の眼差しで藤原への感想を口にする。死んでからも嫌悪されるのは少し可哀そうに思うけど自業自得だ。


「土屋。殿下達の遺体を預かっておいてもらっていい?流石にここに置いて行けないし、出来れば風の国か故郷のサイの国にきちんと埋葬してあげたいから」


 水谷の言葉に特に反論はないので、藤原以外の遺体は全て収納する。他の小物系はどうしようか・・・何となく持って行きたくないなあとか思っていたら、ガルラがすごく不満そうな顔して金子を蹴り転がしながらこっちに近づいてきた。ガルラって変わった運び方するな。


「主殿!何だこいつは!!全く強くないではないか!!」


 そう言われても選んだの自分じゃん。まあどいつが相手でもガルラを満足させる奴はいなかっただろうって事は黙っておく。


「ハハハ、悪いガルラ。俺が思ってた以上に弱かったな。でもこいつら火の国の悪魔とか言われて有名だったのはガルラも知ってるだろ?」

「むう~。確かにそう言われると・・・ただ・・・何か納得いかんな」


 欲求不満のガルラだけど、最初兵士達を相手にご機嫌で大暴れしてたからそれで納得してくれないかなあ。


「まあ、この後も兵士達を蹴散らしながら火の国の『帝都』まで行くんだ。そこそこ強い奴もいるだろ。特に第一騎士団は城にいるはずだから騎士団長は譲ってやるよ」

「まあ、それならいいか。じゃあ、今から狩りでも始めるか」


 そう言って既に撤退を開始しようとしている敵を見ながらガルラがこん棒を構えると、金子の体が輝いた。


「おい、ガルラ!お前金子の事殺してないのか?」

「むう?まだ死んでなかったか?あまりにも弱すぎたからもう死んでるものと思って確認してなかった」


 回復した金子を前に俺とガルラは緊張感のない会話をしていると、復活した金子からメッチャ睨まれた。


「土屋ああ!!獣女!てめえらは絶対許さねえ!殺してやる!」


 ここまでボコボコにされても金子の奴まだ心は折れてないのか。その執念は凄いと思うけど、まあ死ぬ事には変わらないからいいか。


そう考えて金子に近づこうとしたら、金子を中心に黒い何かが広がったので、慌てて距離をとる。これが噂の闇魔法か、俺の影と見た目はあんまり変わらねえけど、これに触れると何かの状態異常になるんだよな。


「次は殺してやる」


そう言って金子は懐から宝石っぽい何かを取り出す。ここまでされて余裕な態度に全員警戒態勢に入る。


「転移」

「全員!離れろ!」


 金子の言葉に宝石が淡く輝き出したので全員に距離をとるように指示を出す。一瞬噂の爆裂石かと思ったが違ったようだ。目を開けていられないぐらい輝きが強くなり、その輝くが収まった後には金子の姿はどこにもなかった。『探索』にも反応がない。どう言う事だ?


「今のは多分転移石だと思う。登録した場所に一瞬で移動できる魔道具だよ。ただ、あれって王族でも限られた人しか持ってないぐらい貴重な物だって読んだ事あるけど」


何でそんな貴重な物を金子が?・・・他の連中は?


「おい!他の連中は?その魔道具持ってたら逃げられるぞ!」


 最悪の展開を予想して慌てて叫ぶ俺にレイがコツンと頭を叩く。


「安心しなさい、あれ見たら持ってないのは明らかでしょ?フィナが持ち物全て回収したから隠し持ってるなんて不可能よ」


 レイに言われてみれば捕まえた3人は全裸にされて鎖で拘束され檻に入れられる所だった。捕まえると全裸にするのはこの世界共通なんだな。まあアレなら隠し持つなんてできない事が分かり安心した。逃げた金子だけど、行先は火の国の『帝都』か教国のどちらかしかない。『帝都』はこのまま攻め込むから、そこにいなかったら教国に探しにいけばいいか、そのついでに『女神』を起こせばいいだろう。


 そうして今後の事を考えていると、一つ不思議な事が起こっていた。気付いたら藤原の死体がいつの間にか消えていたのだ。色々考えてみたがどう考えてもやったのは金子だろう。持って行った理由は不明だけど、絶対に藤原を丁重に埋葬する為ではない事は確かだ。あいつの事だから何かしら禄でもない理由なんだろうけど今考えても分かる訳なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ