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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
7章 大森林のBランク冒険者
142/163

133.5話

「カイル!本当にあいつらだけで大丈夫なのか!」


 俺達は今、他の領主やお偉いさん達と国境の砦の上から戦の様子を眺めていると、もう何度目になるか分からない質問をまた聞かれる。未だにウチの領主様はギン達の実力を過少評価しているようだ。足元には連合軍の兵が隊列を組み整列していて、草原の向こうにはこれまた同じぐらいに火の国の軍が待ち受けている見た感じ数は同じ。そして、その間にギン達『カークスの底』の6人が散歩するかのように火の国の軍に向かって歩いてるおかしな光景が見える。


「俺に言われても分かんねえって。女王陛下やサイ国の王様達が決めた作戦なんだから、文句があるならそっちに言えって」

「言える訳ないだろう!間違っていれば正す事も臣下の役目だが、これが間違っているか正しいか誰も分からんのだ!」

「じゃあ、黙ってみてようぜ。いい加減女王陛下にも聞こえるぞ」


 そう言ってようやく黙ってくれたので、俺は戦場に目を戻すと火の国の兵士が一人ギン達に向かって行くのが見えた。


「よし、始めろ!」


 誰かの命令する声と同時に目の前にギン達の様子が目の前に映し出される。『千里眼』と同じ機能を持つかなり高価な魔道具だけど、3国の王がいるからあっても不思議ではない。その3人の王様と同列に3人座っている。1人は背の高い男、そしてもう一人は見た目は婆さんだけど、白い髪、長い耳を持つエルフだ。そしてもう1人黒い髪の幼女だけど、頭に角、背中に羽、尻からは尻尾が生えているからこいつも人族じゃねえ。しかもその3人に王様達がペコペコしてやがるから、相当位の高い人のようだ。


 『聞き耳』スキル持ち数人がギン達の声を拾って解説しているようだ。俺達の近くにも配置されているが、レアスキル持ちをこれだけ集めて何て贅沢な使い方してんだと感心しながらギン達の様子を見ていると、いきなり黒い何かが兵士の両腕を切り落としやがった!


「な、何だアレは!今何をした!」


 今の光景を見た奴等は全員驚きの声を上げている。俺も驚いたが、すぐにアレはギンの影だと理解した。アレで攻撃するのは初めて・・・いや『尾無し』の時に見た時以来だが、やべえ、あんなの躱せねえぞ。


 両腕を切り落とされた兵士が火の国側に戻っていくと、戦闘開始の音が鳴り響いた。


「こちらも吹け!」


 その命令でこちらからもほら貝の音が鳴り響き足元の兵士達が足踏みを始め気合を高める。そしてほら貝が鳴りやむと同時に火の国側から大量の魔法や矢が飛んできた。普通ならこちらも同じように魔法や矢を打ち返すのだが、上から指示があるまで何もするなと言われているので、盾を構えて身を守るしかない。俺も領主の前に立ち、慣れない盾を構えて身を守ろうとしたのだが、いきなり目の前に白い何かが出現した。


「な、何だアレは!カイル!説明しろ!」

「いや、分かんねえよ!『火壁』っぽいが色が白いから違うかもしれねえ。ギン達の中で唯一動いたあのヒトミが何かしたんじゃねえか?」


 無数に飛んでくる矢や魔法を前にあいつらは何でもないように突っ立っていた。そして当たる直前にヒトミだけが腕を振ったら今の状況だ。訳分かんねえ。『聞き耳』スキルの奴も何も言ってねえからギン達も無言だったんだろうから状況がさっぱりだ。ただ、あの『火壁』みたいな奴を突き破ってくる魔法や矢が何も無い。どうなってんだ?


「おお、あれがあの『切り裂き』のヒトミか!凄いではないか!」

「『切り裂き』だと?」

「あの女があの有名な二つ名持ちか」


 俺の言葉に領主が反応し、それを聞いた周りの連中が『切り裂き』の仕業だと広めていく。まだ確定じゃないからそんなに広がっても困るし、何よりその二つ名がヒトミに聞かれるのはマズい。与えられた二つ名が気に入らないってギルド本部で暴れ回ったヤベえ奴等だから、ヒトミとレイの二つ名を口にする事は禁忌だと既に冒険者連中には広まって知られている。


 俺の家で子供をあやしている時は普通の娘だったんだが、どこで逆鱗に触れるか分かんなかったから冷や冷やしてた。ああ!下の兵士達にまで広まって二つ名を呼ぶ声が大きくなってやがる、やべえ。その声が聞こえたのかヒトミは頬を膨らませながらこちらを振り返るが、すぐに前に向き直る。


「おい!すぐに『切り裂き』を叫ぶのをやめさせろ!ヒトミはその二つ名嫌ってるから下手したら敵に回るぞ」


 近くの兵士に指示をして、すぐに騒ぎを落ち着かせる。そうしている間に敵がギン達に迫ってきていた。


「ククク、アハハハハハハハ!今まで暴れるなとは何度も言われた事はあったが、暴れろなんて初めて言われたぞ!やはり主殿と一緒にいると面白い!アハハハハ!」


 獣人の女『金棒』とか『シャルラの英雄』とか言われているガルラが大笑いしながら映像から消えた。


 次の瞬間左側の敵が多数吹っ飛んでいったのが視界の端に見えた。慌ててそちらに目をやると、敵が次々に吹き飛んでいき、その中心でガルラが大笑いしているのが見える。ガルラが手に持つこん棒を振ると再び敵が吹っ飛ばされていくこの状況、俺含めて一同呆然と見ているのは何が起きているか分かっているが理解できていないからだ。


「千人斬りだ!ムソウだ!と言っています」


 『聞き耳』スキル持ちがガルラの言葉を伝えてくる。ムソウって言葉はよく分からんが、千人斬りはあの調子だと余裕で達成しそうだ。斬ってないけどな。ガルラが楽しそうに大声で叫んでいるそんな異様な光景とは反対側では逆に兵士が大声をあげていた。


「クソッどこだ?」

「こっちだ!!・・・ぎゃああ」

「全員下だ!ちょろちょろしてるぞ!」

「この!ガキ!!」


 これだけ遠くからでようやく動きが見えるが、敵はあれだけ近づかれて兜もつけて視界も悪ければガルフィナの動きを捉えられないだろう。金色の影が通り過ぎた後には足を切り落とされた兵士達が動く事も出来ずにその場に倒れて呻いている。


「あ、あれが『金影』のガルフィナか」


 領主がその光景を呆然と見ながらボソリと呟く。ガルラ程の理不尽さは感じないとは言ってもこの光景も異常すぎる。何故敵は鎧を着ているのにスパスパ斬れているんだ。確か最初に手にしていた短剣は赤竜の素材で作ったって言ってたが、それでもあそこまで簡単に斬れるもんじゃない。それに赤かったはずの刀身は今は黒く揺らめいていて、俺の見間違いじゃなければ刀身が伸びたり縮んだりしている。訳が分かんねえ。そして獣人二人が側を離れたら、ギンの足元の影が広がった。


・・・


・・・ギンの奴


 だ、出しやがった。あの時見た時よりずっとヤベえ。ここまで広げる事が出来んのか。


「カイル!あの黒いのは何だ!!」

「ギンの影魔法だよ!俺もドアールのギルドを埋めつくすぐらい広げたのは見た事はあるけど、あそこまで広げられるとは聞いてねえ!」

「あれが・・・『皇帝』の・・・」


 俺達の会話が聞こえたんだろう、すぐに周りにギンの影魔法の事が伝わり、全員がギンに注目する中、ギンの野郎散歩でもするかのように火の国の兵士に歩いて行く、そして敵が影に入った瞬間、


 ドシュ!!ザシュ!!


 『尾無し』戦で見た時よりは小さいが黒い『土槍』によって敵が貫かれる。貫かれた兵士は当然絶命しているが、その後がおかしい。その場に崩れ落ちずに、何故か地面に沈み込んでいく。ギンの野郎マジで何してやがんだ。異常な光景に全員言葉も無く黙ってギンの動きを眺めている。そんな心配を余所に影に入った敵を次々と貫いたり斬り飛ばしたりしているが、ギン自体は武器すら抜いてねえ。ただ、何かを・・・多分悪魔達を探す様に周りを見ながら前進している。この異常な光景に敵は遠距離攻撃を始めようとしてやがるが、ギンの野郎気付いてんのか?と思ったが、その心配は必要なかった。


「放て!!」


 敵の指揮官の命令でギンに向かって次々に矢が放たれるが、ギンの周りに黒い壁が出現すると、ギンに届くことなく全て黒い壁に飲み込まれていく、またまた異常な光景が起こる。更に吸い込まれた矢が黒い壁から打ち出されて逆に敵がやられていく。マジでたった3人だけで敵を圧倒してやがる。




「悪魔の一人が動きます」


 ギン達に注目していたが、兵士の一人の言葉に全員反応する。見ると、宴会していた机から一人の女が立ち上がり、手を掲げると上空にでかい火球が十数個出現した。


「・・・・『隕石』・・・『隕石』だ!魔法使い!壁を張れ!」


 慌てて周囲が騒がしくなり、魔法使いが壁の詠唱を始める中、俺は火の国の悪魔に感心していた。最上級魔法をあれだけ素早く発動させるなんて、あの女すげえな。こっちの壁は間に合いそうにないからみんな絶望した顔になるのは分かる。真面目に戦うのが馬鹿らしく思うぐらい勇者の力ってのは理不尽だ、ただこっちにも同じ奴等がいるから、何とかなるはずだ。更に言えば王様達の隣にいる謎の3人の内、男以外の二人は欠伸してやがる。


「アユムが対応するそうです」


 3人が何か相談している様子が見えていたが、『聞き耳』スキル持ちがその内容を教えてくれた。多分誰が『隕石』を止めるか話していたんだろう。あの3人の中で唯一二つ名を持たない、更にその実力は全く知れ渡っていないDランク冒険者のアユムが対応するって言われて更に周りがパニックになった。


「カイル!あの女で大丈夫なのか!『撲殺』と『切り裂き』は何故動かん!」

「俺に言うなよ。レイとヒトミが動かねえってならアユムでもあの『隕石』をどうにか出来るんだろうよ。黙って見てればいいだろ」


 そう言って領主を黙らせてから、あいつらの様子を伺うが、『隕石』が降ってきてるってのに誰一人慌ててねえ。やっぱりどうにかしてくれる事を俺は確信した。


 そしてアユムが手に持つ杖をかざすと、火球と同じ数だけの水球が出現する。ただその水球は普通の水球じゃねえ。『隕石』の火球と同じぐらいのデカさだからアレを水球って言っていいのかわかんねえ。それだけのデカさの水球を十数個難なく出現させるだけでもヤベえってのに、更に水球が黒に染まっていく。それに何の意味があるのか分からないが、俺達に理解できない事をしているってのは分かる。そして準備が出来たのか軽く杖を振ると水球が次々に『隕石』にぶつかっていき消した。文字通り水球が『隕石』に触れると全て消えてしまった。残るのは宙に浮かぶ十数個の黒い水球。周りで慌てていた連中も何が起こったのか理解しておらず呆然と立ち尽くしている。


「普通の『隕石』で焦って損したと言っています」


『聞き耳』スキル持ちが呆然としている俺達に律儀に報告してくれるが、普通じゃない『隕石』って何だよ!あいつら今まで何と戦ってきたんだ。


「もう一人悪魔が動くようです」


 映像を見ると、今度は男の悪魔が気だるそうに立ち上がっているのが見えた。『隕石』を消された女は不思議そうに自分の手を眺めているのが見える。あの位置からでは兵士達に邪魔されて打ち消された所が見えなかったのか発動に失敗したとでも思ってんのか?まだ座っている悪魔達はそれを見て大笑いしているから、前線のヤバい様子はまだ伝わっていないようだ。前線は未だに崩れてはいないが、さすがにギンのヤバさに気付いた奴等が突撃する事を躊躇っている。躊躇っているがギンは普通に歩いて敵に向かっていき、影に入るそばから敵を殺し、影に沈めていく。


 そちらに目をやっている内に男の悪魔が詠唱を開始し、見上げると、空に緑色の風が吹き荒れているのが見える。


こ、これは『神の息吹』か?今度は風の最上級魔法かよ。歴代でも『建国王』の嫁のハイエルフしか使える奴はいないって聞いてたのに、やっぱり悪魔の名にふさわしいぜ。こんなのバンバン連発されるんじゃ水も風の国もどうにもならなかっただろう。ただ、今回もあいつらは全く焦ってねえから俺も安心して伝説の風の最上級魔法を見ていられる。


「フェイのに比べたら大した事無いのじゃ」

「ふん、発動までに時間がかかり過ぎじゃ、未熟者め」


 後ろの方から聞き捨てならない会話が聞こえてきたが、今は目の前の伝説級の魔法から目が離せない。


「今度はレイが対処するそうです」


 また『聞き耳』スキル持ちがきちんと自分の役目を果たしてくれる。こいつらは後で領主に言って追加報酬払ってやろう。


「で、出来るのか?今度は風だぞ?」


 慌てる領主に俺はもう何も言わないと言うか言えない。ギン達は俺の理解を超えてやがるから解説のしようがない。ただ黙って見ているだけだ。そして見上げていると空から緑の風の塊が落ちてきた。その風の真下にいると圧し潰されて死ぬらしく、更に直撃しなくても地面に落ちた風が今度は広範囲に広がり何もかも吹き飛ばす凶悪な魔法だと聞いた事がある。



ピシッ!!


 『神の息吹』が落ちてきたが砦より少し高い位置に、紫の壁みたいなものが空一杯に広がった。


「か、カイル!これは何だ?どうなってる!」

「だから分かんねえよ!見た感じ『光壁』っぽいが色が違う、空一面に広げるなんてマジで訳分かんねえ」


 焦る俺達を余所に『神の息吹』が紫の壁に当たり、緑の風が上空で荒れ狂っているのが分かるが、壁の下にいる俺達には何も影響はない、ホントにこの異常な光景をレイが引き起こしたんだろうか。


「紫じゃなくても良かったかなと言っています。あとここまでしなくても良かったんじゃないかとも言っています」


 この騒ぎでも有能な『聞き耳』スキル持ちがしっかりと仕事しているが。紫以外だとどうなるんだ?とかここまでってどういう意味だよ!とか言いたいが、一つはっきり言える事はギン達は火の国の悪魔達より遥かに上にいるって事だ。こいつらには最上級魔法でも何も通じないんじゃ、それこそさっきアユムが言っていた普通じゃない最上級魔法を使いこなさないと相手にならないんじゃないか。前線ではギン達に恐れて敵の一部が逃げ出し始めた頃に二度も最上級魔法を防がれた火の国の悪魔達が遂に前線に動き始めた。


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