132話 決戦前②
「ただいま」
ドワーフの国の王様から今度変化の腕輪を貰う約束してから別れた後、俺は『自室』に帰ってきたのだが、何故か闇の国の女王様と娘二人もいる。というか何故かジャージ着て寛いでるんだけど、どう言う事?
「お帰り。ギンジ君。えっとこれは、フランちゃんが家に泊まるって話を闇の国の女王様が聞いていたみたいでお願いされちゃった。いいかな?」
「いいかな」って聞くまでもなくジャージ着て寛いでいるからこれもう断れないだろ。
「ギン様、勝手に押しかけてしまい申し訳ございません。それで私達も今晩泊めて頂けないでしょうか?戦の前で緊張感が足りないと思うかもしれませんが、皆の髪が他と違う理由を知ってしまったら我慢できませんでした」
女王様と娘二人が正座して頭を下げてお願いしてくるので断れる訳ない。見れば髪も濡れているから既に風呂に入った後みたいだ。
「まあ、いいですよ。ゆっくりして行って下さい。それよりも王族なのにそんなに寛いでいていいんですか?」
「ええ。家族だけの時はこんな感じです。ずっとあんな感じだと体壊してしまいますよ。それに初代様は常にこんな感じだったと伝わっておりますので、我が国はそこまで礼儀に五月蠅くないんですよ」
・・・・常にこんな感じって黒川って真面目に国作りしてたのかな?
「それで、みんなここで夕食食べるって言ってるから、王様に夕食はいらないって伝えてきてくれない?フランがまたカレー食べたいんだって」
って事で王様に伝えに言ったら、王様もカレーを食べたいと言い出した。更に何故か待木もその場にいたので待木もついてきたし、カレーが溝口の好物だと聞いたミラも当然ついてきた。そして待木の護衛だから当然フェイもついてきてかなりの大人数で夕食となった。
「ママじゃ!フェイ見ろ、ママがいる」
「本当じゃ。な、懐かしい」
話題は当然東達だった。溝口とヒトミ達は親友だけあってスマホに写真が多く残っており、ミラが大喜びしている。
「このお方が『建国王』様か。優しそうなお方だ」
「おお、イチ様、イチ様じゃ。しかも若い」
「この方が初代様。読書されておる。本好きという話は本当だったんだな」
「こちらが『水流王』様か、『建国王』様と楽しそうにしておられる」
そして王様達もご先祖様を見て感動している。東達とレイ達グループは仲が良かったから写真が結構残っていて東の写真を見てフェイも感動して震えている。黒川は写真に偶然映り込んでいるだけなので、数は少ない。そして、
「この方が『女神』様?なんか想像と違いますな」
「慈愛に満ちた方と聞いていたのですが、何か冷たい感じしますね」
こちらも偶然写真に写り込んでいるだけなので数は少ない西園寺の写真を見て王様達が疑問を浮かべている。
「儂が買われた時には既にみんなに心を開いていたが、マリは最初冷たかったと聞いたぞ」
スマホの画面から視線を外すことなくフェイが疑問に答える。どんだけ東の写真に齧り付いて見てるんだ。2台あるスマホの一つをフェイが握り締めて離さないからミラが少しご機嫌斜めになっている。
「私達からすればその冷たいイメージが西園寺さんなんだけどね」
「だよねえ。優しいイメージは浮かばないな」
俺を含めたクラスメイトはそういう感想が出てしまう。むしろ慈愛に満ちた感じの西園寺のイメージが沸かない。
そして翌日の朝食で砂の国の女王が拗ねているのをレイが宥めている。
「フラン。ごめんって、いつまでも拗ねてないで機嫌直して」
「昨日はお姉様と一緒に寝れるの楽しみだったのに・・・」
昨日、レイはフランと寝ると言ってたはずだが、何故か夜中に俺の布団に潜り込んできた。そして朝にフランが一人で寝ている事に気付いて拗ねているのでレイが必死に宥めている。
「また今度一緒に寝てあげるから」
「その時は私の部屋にしましょう。あそこなら護衛がいるので夜中抜け出せませんから」
フランはどんだけレイと一緒に寝たいんだろう。そして若干俺を睨みつけるのはやめて下さい。俺は悪くねえ。
「ねえ、水谷さん。昨日土屋君って委員長と一緒に部屋に戻ったよね?え?それで大野さんはその部屋で寝たの?・・・え?3人で?」
「・・・狭山・・・気にしたら負けよ」
そう言いながらもすごい冷たい目でこっちを見てくる水谷と顔を真っ赤にしている狭山。水谷はあんまりそう言う事バラさないで欲しいな。
「いやあ、昨日は有意義な時間を過ごせました。まさか『建国王』様達のお顔が確認出来るとは思ってもみませんでした」
昨日の事もあって朝から砂の国の女王様以外の王様達はご機嫌だ。フランは初代女王のスーって人の写真が無かったのでがっかりしているのも理由だ。
「それで今朝、連絡がありまして、恐らく明後日には火の国の軍は国境付近に到着するそうです。その前にギン様達に国境砦を落としてもらいたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「分かりました。今晩あの砦は落としてきます。敵に奪い返されると厄介ですからそのまま撤去しておきます。戦争が終わったら元に戻しておくので心配しないで下さい」
「じゃあ、行ってくる」
「気を付けてね」
「危ないと思ったらすぐに逃げてきてね」
「二人とも土屋の事頼むわね」
今回は隠密に砦を落とす為、レイ達は留守番だ、ガルラとフィナがお供でついてくるが、この二人には砦から逃げ出した兵士を一人も逃がさないようにお願いしている。
時刻は深夜、いい具合に月が雲で隠れて周りは暗くなっているので、砦に近づいても見張りに気付かれた気配はない。そして『暗視』スキル持ちの俺と獣人二人にはこれぐらいの暗さは全く問題にならない。
「じゃあ、手筈通りに頼んだ」
「なあ、主殿、やっぱり配置変えないか?待ってるだけってのは退屈で仕方ない」
ガルラが何度目になるか分からない我儘を言ってくるが、答えは変らない。
「駄目だ。少し影の練習したいって説明しただろ。暇だと思うけど我慢してくれ。明日か明後日には好きに暴れていいから」
「う~む。まあ仕方ないか。フィナの持ち場の方が暇そうだしな」
今回ガルラは火の国側の出口、フィナは闇の国側の出口を見張って逃げて来た兵士を倒すようにお願いしている。この砦は元々水の国の物なので、出入り口は二つしかない事は確認している。そしてガルラも砦を回り込んで配置についたと『念話』で報告が来たので、俺は動き始める。
「貴様!何者だ!それ以上・・・・」
俺が入り口に近づくと外にいる門番が敵意むき出してこちらに向かってきたので影で斬り飛ばす。うん。こいつらの鎧でも俺の影は通用するな。
「敵襲!!敵襲!」
その様子を砦の奥から見ていた兵士が鐘を鳴らし辺りに警戒を促すが、もう遅い。
(ちょっと、いい加減起きてよ!)
頭の中で水谷から『念話』で呼び出されたので目が覚めた。時間は10時ぐらいだと思うが、昨日寝るのが遅かったので仕方がない。まだ隣で寝ている二人を起こしてから部屋を出ると、水谷が不機嫌そうに待っていた。
「遅い!いつまで寝てるのよ!客が来てるわよ!ってレイ!ヒトミ!あんた達何て格好してんのよ。服着なさい!」
「ギンジ~」
「ギンジ君~」
2人にお願いされていつものように影で早着替えさせるが、水谷が滅茶苦茶睨んでくる。まあ、いつもの事だから気にしない。
「それで客って誰だ?」
「さあ?フィナが『探索』で気付いただけだから、さっきから部屋の前で待ってるんだって」
言われてみれば部屋の外に二人待っている事が分かる。グランツェの領主の屋敷は今やVIPが寝泊まりしていて、警護がヤバい事になっているので俺達は街の安宿に泊まっている。そこに来る奴ら・・・トマス達かな?
「何してんの?お前等?」
扉を開けると、トマス達では無かったが見知った顔が待っていた。闇の国の鎧に身を包んだオールとこれまた似たような鎧をきたカイルだった。
「何してんのじゃねえよ。お前こそ昨日何したんだよ。陛下達が話を聞きたいんだとよ、一緒に来てくれ」
「あれ?俺達前もって説明してたんだけど、王様達よく分かってなかったのかな。ついて行くのは構わねえけど、今起きたばっかりだから飯食ったり準備してからな」
「お、お前、陛下達待たせる気かよ」
俺の言葉にカイルが驚く。そう言えば俺達いっつも王様達待たせてるな。いや、いきなり呼び出されるから仕方ないと言えば仕方ないか。
「カイル、そこは陛下達も納得しているから大丈夫だ」
「そう言えば、オールは分かるけど何でカイルもここにいるんだ?カークスにいなくて大丈夫か?」
「戦争だからカークスからも領主自ら兵を率いてきてるんだよ。俺はその護衛だったんだけどよ、お前を呼びに行く命令を受けたオールが俺の名前出しやがって、俺もついてくる事になったんだよ。女王陛下の名前で呼び出された時は生きた心地がしなかったぞ」
「ガハハハッ。まあ俺もいきなり陛下から声を掛けられた時はマジでビビったからお互い様だ」
「へえ~。二人とも大変だな~」
「「お前のせいだよ!!」」
朝飯も食べて準備をした後、グランツェの領主に屋敷の応接室だろう場所に案内されると、既に各国の代表が座って待っていた。俺が来てから集まればいいのに何で毎回待っているんだろう。
「ぎ、ギン様、昨日の砦での事で詳しくお話を伺いたいのですが、宜しいですか?」
改めてサイの国の王様から聞かれるが、その話は前もってしていたはずなんだけど、やっぱり分かってなかったのかな?それとも逃げ出した兵士がいないか心配してるのかな?だったらそれは心配無用と言っておく。出口はガルラとフィナが見張っていて、終わった後に見に行くとガルラの方には大量の火の国の兵士の死体が積みあがっていた。フィナの方は数は少なかったが、兵士の体は両断されており、聞くと影魔法の練習をしていたと言っていた。そしておれが回収した死体と一緒にフィナの魔法で全て火葬したから装備品以外は何も残っていない。その事を告げると各国の代表は顔を引き攣らせた。
「で、では砦は?砦はどうなったのです。兵からの報告では朝には砦があった場所には何も無くなっていた聞いています!」
この人水の国の代表だったよな。元々自分の国の砦が忽然と姿を消したら驚くのは無理はないと思うけど、そうならないように昨日きちんと説明したはずなんだけどな。
「昨日も言った通り、砦は万が一向こうに奪われて籠城されても面倒なので、俺が回収していますよ。戦争が終われば元の場所に戻しておきますので心配しないで下さい」
「わ、分かりました。皆もいいな、ギン様の言う事に従えばよい」
サイの国の王様がそう言って周りを納得させてくれた。この人フェイと黒龍がいないと俺の味方してくれるな。有難いけど、何かお礼しとかないと後が怖いな。
「そう言えば、これ置いときますので、何かに使って下さい」
「これは・・・」
「砦にいた兵士達が装備していた物です」
俺は砦の兵士が着ていた鎧を全て影から出して部屋の隅に置くと軽く鎧の山になったな。昨日確認したが、鎧には4と5の数字が入っているものがあったので、少なくとも火の国は第5騎士団まであるようだ。その数は現在集まっているサイの国の騎士団3つと砂と闇の騎士団1つづつで、各騎士団人数に若干差はあるが、それでも数は互角と思っていいだろう。ただ、火の国には水の国の騎士団2つ、風の国の騎士団3つを蹴散らした金子達がいる。
「それでは、明日の決戦に供えて今日はゆっくり休みますので、失礼致します」
高く積まれた鎧に驚いている面々を放置して部屋を後にする。
「どうだった?」
宿に戻ると、リビングで寛いでいたレイ達が王様達の打ち合わせについて尋ねて来た。
「昨日の事を聞きたいってだけだった。前もって言ってたんだけど理解してくれてなかったらしい」
「当たり前だよ。私でもあんなに大きな砦を影に収納できるなんて思ってなかったよ」
俺以外の唯一の影魔法使いのフィナに呆れた感じで言われる。言われてみれば俺の収納にはドアールの街、風の国の水谷の屋敷、今回の砦とでかい建物が結構あるな。
「いよいよ明日だ」
皆の顔を見ながら最終の確認をする。ガルラとフィナは昨日の砦と心境は何も変わらないだろうが、他のみんなは違う。レイと水谷はしっかりと覚悟を決めた顔で頷くが、ヒトミは不安そうな顔をしている。ヒトミだけはあいつらに何の恨みも無いから仕方がない。
「分かっていると思うが、向こうは俺達を殺す事に躊躇いは無いからな、手加減はするなよ。王様達からは全員の前で処刑したいから生け捕りにするようにお願いされているが、お願いだからな、別に殺しても構わないとも言われている。どっちでも好きな方でいい。ただ捕まえるならこの魔封じの首輪を嵌めるのを忘れるなよ」
そう言って各自に闇の国でもらった魔封じの首輪を渡す。ガルラだけは貰ってくれなかったが、こいつはポーションも魔法鞄も金も持たない、持つのは愛用のこん棒だけで、そのスタイルは全くブレない。でもガルラって俺達とはぐれた時はどうするのか考えているのかな。
「ねえギンジ君・・・」
「ヒトミ、俺は大分譲歩したぞ。これ以上は譲れない。これ以上我儘言うなら俺が殺る」
「・・・ごめん。やっぱり私がちゃんと話をします」
そう言って頭を下げて項垂れるヒトミを見ながら、フィナに目線を送ると頷いてくれたので大丈夫だろう。ヒトミの実力なら負ける事は無いと確信しているが、ヒトミは優しすぎるのが欠点だ。敵を前に躊躇って殺されるってのは勘弁して欲しいので、フォローはフィナに頼んである。
「レイ、水谷!二人とも覚悟はしてるな!」
「大丈夫よ!」
「マスミの!陛下の!みんなの仇を討ってやるわ!」
よし!この調子なら二人は心配なさそうだ。二人とも連中から殺したいぐらい酷い仕打ちを受けたから当たり前か。唯一の心配は非情になれるかって所だろう。
「主殿、明日は本当に手加減無しでいいんだな?多分大勢殺してしまうぞ?」
「ああ、明日は手加減無しだ。なるべく殺すなってお願いも無しだ」
「ククク、そうかいいのか?少しは強い奴がいればいいが、まあ無双するのも気持ち良さそうだ」
最近のお気に入りゲームをリアルで真似するつもりだよ、こいつ・・・。まあガルラは単純だけど力でねじ伏せてくれるから作戦が立てやすい。そしてフィナはと言うと、
「最初はお兄ちゃん達と敵を蹴散らして勇者が出てきたら、後衛のお姉ちゃん達3人にいつでもフォローに入れるように待機するんだよね?」
流石にフィナはよく作戦を理解してくれているので安心だ。今まではレイが後衛で各自のフォローをしていたが、今回は前に出る為、回復持ちのフィナがレイの代わりとなりこの作戦の要となる。そのフィナも自分の役割をよく理解しているので多分大丈夫だろう。
そして最終確認をした後、俺達は早めに就寝した。そして決戦の日が始まる。