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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
2章 水の国境都市の新人冒険者
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13話 依頼の報酬(指導1日目終了)

色々話していると気付いたら街まで戻ってきていた。初めて街に入った門には人が列を成していたが、この街の住人又は所属の専用門はまったく人が並んでなくてギルドカードを見せるとお金を払う事もなくすんなりと街に入れた。こりゃあ便利だ。


このままギルドに向かって依頼達成の報告をしにいくのかと思ったが、広場まで向かう途中で師匠が路地に入っていったので、俺も慌てて後をついていく。


「ギルド行く前に先に採取したのを売りに行くぞ。場所は俺らパーティ馴染みの道具屋だ。愛想と接客態度は悪いが品は本物で、何より口が堅い。特にお前は色々秘密にしなくちゃいけない事が多いから、今日からここを利用しろ」


俺の事を考えてくれる師匠の心遣いが本当にありがたい。


「よし着いたぞ。ここだ」


路地に入ってしばらく歩くと師匠が足を止めるが、止めた場所に建つ店は外観からは本当に店かどうか分からないぐらい周囲の建物と違いがない。唯一表札に小さく『道具屋』の文字が書いてあるので、外から中の様子を伺うと店の中はうす暗くて本当にやっているかどうか怪しいが、師匠は躊躇う事無く店の中に入っていく。


「お~い!ジジイ!いるか~?」


店に入るなり師匠は大声で店の奥に声を掛ける。慣れた感じなので、店員さんは店の奥にいる事が多いみたいだ。


「おるわ!でかい声ださんでも聞こえとる!・・・・なんじゃガフか、お前ら今ギースが治療中で開店休業状態なのに何の用じゃ・・・お前指導員の依頼受けたそうじゃないか?って事はそっちの若いのが噂の『最長』か?」


師匠が声を掛けると店の奥から禿げた爺さんが怒りながらこちらにやってきて、すぐに師匠だと気付くと世間話を始める。・・・『最長』って俺変な渾名付けられてるな


「ちっ。相変わらず耳が早えな。一日中店で暇してるくせにどうやって情報集めてんだよ。・・・まあいい、それより買取だ、薬草と魔力草な!結構あるから渡したらギルドに行ってくるからその間に査定しとけ」

「相変わらずジジイ使いの荒い奴じゃ。そんだけ言えるって事は相当な数持ってきたんじゃろうな。大した事無かったら買い取らんからな」


爺さんがそう言うと、師匠は嫌らしい笑いを浮かべて、採取した薬草を自分の『魔法鞄』から取り出してカウンターに並べると結構な量になった。並べるっていうか積み上げるって言った方が正しいな。


「ふ、ふん!中々の量だが、薬草しか無いではないか、魔力草はどうした?」


爺さんがカウンターに積み上げられた薬草の数に若干驚きながらも文句を言ってくるが、それを聞いた師匠は更に意地悪そうな笑顔を浮かべる。


「ギン!薬草と魔力草それぞれ30個だけ残して、あとは全部出せ」


師匠に指示されてカバンから薬草と魔力草を取り出すがすぐにカウンターに置けなくなったので、爺さんが床に敷いた布に並べていく。途中から爺さんは驚き過ぎたのか何も言わずに俺が薬草と魔力草を取り出して並べている作業をぼーっと眺めていた。俺と師匠も自分たちが思っていたよりも数があって自分達で採取したにも関わらず驚いたんだけど。


「自分達で採取しといて何ですけど思ったよりありましたね。」

「お、おう、そうだな。それでジジイ、査定の方はどれぐらいで終わりそうだ?」

「う、うん?ああそうじゃな。鐘二つは時間をくれ、さすがに多すぎる。それにしても『最長』・・・いやギンと言ったな。その『魔法鞄』容量多すぎるからバレると心無い奴等に狙われるから注意するんじゃぞ」

「おお、どうしたジジイ、人の心配なんてらしくねえじゃねえか?耄碌したか?」


師匠は煽ってるが、何となくこの二人は仲が良い気がする。


「やかましい!お前に話とらんわ!それよりもさっさと出ていけ!査定の邪魔じゃ!」


そう言われて、俺と師匠は店を追い出されたので、ギルドに向かった。


ギルドに行くと人がほとんどいないのですぐにミーサさんがこっちに気づいて手を振ってくれたので、ミーサさんの担当する受付に向かう。


「お疲れ様です。初依頼はどうでした?ガフさんはちゃんと指導してくれました?」


ニコニコした顔でミーサさんは俺に聞いてくる。なんか知らない内に好感度上がってる気がする。


「ああ、ちゃんと指導したぞ、なあギン、俺ちゃんとしたよな?」

「ガフさんには聞いてないです。ギンさんに聞いてるんですからちょっと黙ってて下さい」


なんかミーサさん師匠に厳しいな。師匠前に何かやらかしたのかな?


「ええ、今日だけで支払ったお金以上の価値があるぐらい師匠から指導してもらいました。やっぱり指導員制度っていいですよ」


まあ師匠とミーサさんの関係は俺が口を出す事じゃないので、今日の指導の事について正直に話す。


「そうですか!それなら私も指導員制度紹介して良かったです。ギルマスにも報告しておきますね」


師匠への対応とは違いものすごく笑顔で対応してくれるミーサさんだが、師匠の一言でその笑顔が凍り付く。


「ギン、勘違いすんなよ。ミーサちゃんはこの街で初の指導員制度最長で頼んだ奴の担当になって、お前から苦情さえ無ければ出世コースだから親切にしてくれてんだぞ」


・・・最悪だよ、師匠!そんな裏話聞きたくなかった。信じたくないけど、それを言われたミーサさん俯いてプルプルしてるからどうみても真実じゃん。


「ガフさん!最低です!何でそんな事言うんですか?私は本当にギンさんに指導員制度紹介して良かったと思ってますよ。・・・ま、まあ確かにガフさんが言うような事を少しは考えましたけど、でも少しですからね!別にギンさんだからって受付での態度を他の人と変えてないですからね」


ミーサさんは師匠にキレて怒るが、言ってる内容はちょっとアレだな。別にいいけど。


「えっと、ミーサさん俺は師匠の指導に満足してるので苦情とか言わないので気にしないで下さいね?それよりも納品をお願いします。」


そう言って俺はカウンターに薬草と魔力草を10個づつ取り出す。俺がカバンから取り出すとミーサさんは少し驚いた顔になる。


何で驚いてんだ?薬草と魔力草10個づつが、このでかいカバンに入ってても容量的におかしくないよな?


「ギンさん、失礼ですが本当に採取してきたんですか?ガフさんの手持ちから出したって事はないですよね?まあガフさんが納得してるなら別にそれでもいいんですが」


採取自体を疑われてる・・・何でだ?


「ミーサちゃん、こんな時間だから疑うのも分かるけど本当に俺とギンで今日採取してきたものだっての」

「それにしては早すぎませんか?薬草だけなら不思議に思いませんが、魔力草も、ってなるとそりゃあ疑問に思いますよ」


どうやら魔力草まで採取してきたのにこの時間で戻ってきたのは少し早すぎるらしい。時間はまだ14時台だと思われるギルド内には冒険者の姿はほとんどいないし、流石にこんな時間から酒を飲んでる奴もいない・・・いやいるな、あいつら仕事しろよ。


「まあ、いいじゃねえか。ちゃんと現物はあるんだから、それよりも早く手続き済ませてくれよ。このあとも予定があるんだから」


師匠から促されてミーサさんは再度薬草と魔力草の数が10個ある事を確認すると、書類に何か書き書き終わったら俺のギルドカードを求められたので渡すと、書類と一緒にどっかに持って行ってしまった。奥の機械っぽいので何かやってるのが見えるがすぐに終わったみたいでこちらに戻ってきてギルドカードを返してくれる。


「薬草の納品報酬が銅貨3枚、魔力草の納品報酬が銅貨5枚になります。これで依頼完了です」


報酬は合計で銅貨8枚、だいたい8千円か一日というか半日の稼ぎとしては悪くない。


「それで明日はどうするんですか?」


ミーサさんに明日の予定を聞かれたが、全く考えていないので何も答えられないでいると横から師匠が口を挟んできた。


「明日は大鼠だ。討伐の証って尻尾で良かったんだよな?」


師匠から勝手に予定を決められているが、全く分かっていない俺は口を挟めない。


「そうですけど、初めから大変な依頼行きますね」

「俺は嫌な事は先にやるタイプなんだよ」


二人の話の内容から明日は大変な依頼らしい。『大鼠』って言ってたから『大鼠10匹の討伐』って依頼に明日は行くんだろう。


師匠とミーサさんの話も終わったので、さっきの道具屋に行くのだろうと師匠の後をついていくが、


「そういや、まだギンの腕見てなかったな。時間まだ少しあるし、稽古してからジジイの所行くか。」


そう呟いてギルドを出て建物の裏側に歩いて行くと、ギルドと同じぐらいのスペースの何もない広場があった。ギルド管轄の訓練場で大抵の各ギルドには必ずあるらしく名前の通り冒険者が訓練を行う場所らしい。


「ほい、少し腕を見てやるから、かかってこい。心配しなくても俺からは手を出さねえから」


近くに落ちていた短い木の棒を俺に渡すと師匠も同じぐらいの木の棒を手に持ち構えをとる。


かかってこいって事は渡してくれた棒で殴りに行って良いって事だよな?でもまず持ち方すら分からねえし、構えも振り方も分からないんだけど。


「長剣とかなら素振りとかから始めるんだろうけど、短剣だから素振りなんてしてても意味ねえだろ。適当でいいんだよ、練習や実践で自分に合うやり方身に付けるんだ」


俺が何も分からないと言うと師匠は適当でいいと言ってくれたので、取り合えず棒を振り回して師匠に殴りかかるが、これが全く当たらない。師匠の持つ木の棒で防御される訳でもなく、文字通り俺の攻撃は全て体術のみで躱されて当たらないのである。別に師匠の動きがものすごく早い訳でもないのに、俺が腕を振り始めるとほぼ同時にすぐに射程の範囲外に逃れるので、完全に射程が見切られてる。それならと思い突進して突きを繰り出すがそれも横にヒラリと躱されて全く当たらない。15分程師匠に攻撃を仕掛けていると体力が限界になり、攻撃した際に足をもつれさせて地面に倒れこんだ。


「ガハハハッ、ギン、どうした?もう終わりか?もう少し体力付けた方がいいな。攻撃の仕方も全然駄目だな。闇雲に攻撃するんじゃなくて少しは考えてから攻撃しろ。この腕なら期間中は結構練習しないと駄目だな、このままじゃゴブリンにも負けちまう」


師匠が色々言っているが、息が上がって返事が出来ない。日本で暮らしてきて、小学校の時に野球しかしてなかったので弱いのは仕方ない。剣道でもしてれば良かったのかもしれないけど、今更言っても仕方ないしな。俺の腕だとゴブリンにも負けるのか・・・いや、実際負けたけど。


「ワハハハハ。おいガフ、そいつが噂の『最長』か?動き全然駄目じゃねえかよ」


俺がへばっていると、師匠に話しかけてくる1人の男、後ろには3人仲間を引き連れている。その男たちの見た目と言葉使いからトラブル発生の予感しかしない。


「ああ?・・・何だてめえらか。何でこんなとこいんだよ。お前らもうちょっと帰ってくるの後のはずだろ・・・・ああ!さては依頼失敗しやがったな。ガハハハ、次の依頼でDランクに上がるって大口叩いてたのに何やってんだよ」


師匠も言い方!これ喧嘩売ってんじゃん


「・・・っ!うるせえな。オークジェネラルが居やがったんだよ!居るって分かってりゃ受けなかったよ!」

「おお、ジェネラルかそりゃきついな。あとで酒の1杯でも奢ってやるからその話聞かせろよ」

「まじか、悪いな。ギルドで待ってるからな。それよりガフ、そこの『最長』今のまんまだとすぐに死ぬぞ」


険悪な空気だったけど師匠が酒奢るって言った途端、そんな空気が無くなった。だけど話が俺に向いて、何かものすごく不安になる事を話している。


「分かってるよ。まあ期間中毎日稽古つけて様子見るわ。それでも駄目そうならギースの治療が終わるまで俺が臨時のパーティでも組んで面倒見る事にするからよ、あんまり心配するな」

「そうか、ならいいんだけどよ。やっぱり新人が先に逝くのは見たくねえからな」


そう言って4人組はギルドに向かっていった。最初はどうなるかと思ったけど思ったよりいい人達みたいで少しほっとした。


「ギン、今の話聞いてたか?依頼失敗した冒険者って大概イラついてるからな近づくんじゃねえぞ。それでも絡んでくる奴らもいるけど、そんな時は酒の1杯でも奢って話聞いてやれば大体上手くいくから覚えておけ」


おお、ベテラン冒険者の世渡りの仕方か覚えておこう。でも俺酒なんて飲めねえけどいいのかな?いやそんな事よりも俺の強さについて聞かないと。


「師匠、対処の仕方は分かりましたが、それよりも俺ってそんなに弱いんですか?さっきの人、俺がすぐ死ぬって・・・」

「ああ、そうだな。今のままだと死ぬな。ああ、『今のまま』って話だからな、これから依頼こなしながら稽古つけてやるから、ゴブリンには勝てるようになるだろ。それに指導期間が終わってからも稽古は付けてやるから安心しろ」





◇◇◇

師匠の心遣いに感謝して、二人でさっきの道具屋に戻ると店の中にはすでに店に預けた薬草と魔力草がきれいにまとめられて爺さんがカウンターで俺たちを待っていた。


「薬草65束の銅貨195枚、魔力草20束の銅貨100枚、残り端数はほとんど金にならんがおまけしといてやるから全部で銅貨300枚だ」


10束づつ根っこが紐で縛って纏めれていて数えやすいようになっていたので、すぐに俺も数を数え終わり爺さんの言葉通り数が合っている事を確認した。さっきのギルドの報酬だと薬草1束銅貨3枚、魔力草1束銅貨5枚だから金額も誤魔化してないな。


「じゃあ、金貨2枚と銀貨10枚で下さい」


俺がそう答えると師匠は慌てて俺を止める。


「待て待て、ギン、ジジイの店はしっかりしてるから安心だけど一応金が合ってるか確認しろよ。簡単に店を信じたらすぐにぼったくられるぞ」


あれ?師匠計算苦手なのかな?銅貨5枚おまけしてもらってるからこっちが得してるんだけどな・・・


「いや、師匠、こっちが多く貰ってますよ」


俺がそう答えると師匠も爺さんも驚いた顔で俺の方を見ている。


「いや、ギン、それホントか?ジジイ、ギンの言ってる事合ってるか?」

「ああ、合っとるが驚いたな、お前そんなに早く計算できるのか?そんなに計算得意なら商人になれば良かったものを」


二人の言い方からしてこっちの世界は計算苦手な人多いのかな?・・いやこの計算は出来ないと駄目だろう。しかし俺は計算できても何が売れるか分からないから商人は無理だ。


「そうか、ならいいわ、ジジイ金!」

「なんじゃ、計算も出来ん癖して偉そうに。ほれ金貨2枚と銀貨10枚・・・・ギン、お前これで払わせたのは二人で分けやすくするためか?・・・・『最長』はなかなかすごい奴かもしれんな、計算が」


そこは褒められてもあんまり嬉しくない。爺さんはお金を渡すともう用は済んだとばかりに俺たちが店にまだ残っているのに店の奥に戻っていった。


「じゃあ、師匠山分けなので一人金貨1枚と銀貨5枚ですね」


そういって師匠にお金を渡すと師匠は大声で笑い出す。


「ガハハハッ1日で、いや、半日でこの稼ぎしかも危険度ゼロだぜ、たまんねえな。これで今日は美味い酒が飲めるぜ、ブハハハハ」


師匠良い人なんだけど、笑顔がどう見ても悪人なんだよなあ。まあ嬉しそうだからいいんだけど。


「それで師匠、明日は何時に集まりますか?」


俺が聞くと、ご機嫌だった師匠は途端にしかめっ面に変わる。


「そうか明日は大鼠か、今日は酒控えとくか。ギン、明日は7の鐘に南門出た所に集合な。今日ギンが泊る場所は昨日と同じ宿で良いんだよな。何かあったら『念話』で連絡しろよ。じゃあ明日な」


道具屋を出てすぐに師匠と別れて俺は昨日と同じ宿に泊まった。まあ夕飯食べた後は『自室』で過ごしたんだけどね。あのチクチクするベッドでは寝れねえ。


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