130話 『ギン弟子』とドミル
飛びついてきた汗臭い3人を引き剥がし、しばらく近況を話し合っていると、時間を潰していたレイ達がこっちに歩いてきたので、自己紹介させる。
「トマスです。Dランクで『ギン弟子』のリーダーやってます」
「ディーっす。ウッス」
「ベースっす。宜しくお願いします」
そう言えば3人に言っておく事があった。
「お前らのパーティ名『ギン弟子』って何だよ。おかしいからすぐに変えろ」
「嫌っす」
「俺らが一生懸命考えた名前っすからね~。それにアニキの弟子ってのも噓じゃないですからね」
「そうっすよ。それにこれでも俺達あの『カークスの底』のリーダー直々に指導してくれたって有名なんですからね」
俺の命令を即断りやがった。こいつらこの調子だと何言っても変えてくれそうにないな。それにしても何でそんな事で有名になってんだよ。
「そうなの?」
「まだヒトミのアネキ達とパーティ組む前、アニキがソロだった時に俺達助けてもらったんですよ。それに感謝してこのパーティ名にしたんですが、その頃はまだ『カークスの底』が有名になる前でしたから、当時は馬鹿にされましたよ。ギンって誰だよ?って、それが『カークスの底』が有名になった今では俺達は一躍みんなから羨ましがられるんですよ。まあ、俺達の真似してアネキ達の弟子を勝手に名乗ってる奴等もいますけどね」
「ええ!!??何よそれ!私達誰にも教えた事なんて無いわよ」
誰だよ、人の許可なくそんなパーティ名名乗ってるのは、会って直接注意してもいいが、それでも後からどんどん湧いてくるんだろうな。しかしヒトミもアネキ呼びされているけど気にならないのか?
「まあ、勝手に名乗ってるんで・・・ガルラの姉御やガルフィナ姉さんの弟子を名乗ってる奴等も聞いた事ありますよ」
「あ、あの私年下なので『姉さん』はちょっと・・・」
流石にフィナは姉呼びは嫌だったらしく、小さくなりながらお願いしている。自信なさそうに言ってるけどフィナの方が格段に強いからな。
「何言ってんすか。アニキのパーティにいるって事は俺達のアネキって事じゃないですか」
「・・・・そうなんだ、お兄ちゃんのパーティにいるとそう呼ばれちゃうんだ」
フィナが困った顔で納得しているが、そんな訳ない、結構長くパーティ組んでいるけどやっぱりまだフィナも常識を知らない所があるな。そして何故かガルラが微妙な顔をしている。流石に姉御呼びは気にいらなかったのかな。
「いや、私達は獣人だからそれ相当の対応をされるのだが、何故か主殿の知り合いはみんな普通に接してくるから不思議に思ってな」
「そりゃあ、アニキの知り合いだからって事もありますけど、俺らスラムのド底辺出身ですからね。獣人の奴隷は見た事ありましたけど、俺らよりよっぽどいい服着てたから、逆に俺らの方が差別されてましたよ」
・・・明るく何でもないように言っているけど相変わらずこいつらのスラム時代の話は内容が重い。ガルラはなんか納得したような顔しているけど、スラムなんて知らないだろうからトマスの話の内容理解せずに考えるのをやめたな。そして確かに俺の昔からの知り合いでガルラ達を馬鹿にする奴はあんまりいないな。冒険者は強さが全て見たいな所あるからだろうし、後はガルラ達を馬鹿にすると俺達が怒るって知れ渡ってるそうだ。
「それでアニキ達これからどうするっすか?『ウェイブ』や『戦乙女』もアニキに会いたがっていたんで、しばらく滞在して貰えると嬉しいっす」
「ああ、ここの所属になったからな、しばらくこの街に居着くさ」
「ま、マジっすか!!やったー!アニキに久しぶりに稽古つけて貰える」
「おお!『カークスの底』がここに滞在するなんて大事件っす」
「ウッス。広めてくるっす」
そう言ってディーとベースが走ってどこかに行ってしまった。あんまり騒ぎにしないで欲しいんだけど。
「悪い、みんな。あいつらのせいで少し騒がしくなるかも」
俺の弟子?のせいなので仲間に先に謝っておく。あいつら師匠に頭下げさせるなんて俺でもやった事ないのに破門にしてやろうか。
「まあ、いいんじゃない?どっちみち私達がここにいる事広まるだろうし」
「そうだねー。ギンジ君のお弟子さんなら仕方ないか」
「それにしてもあんた、意外と知り合い多いじゃない。日本にいる時もそれぐらい愛想よくしときなさいよ」
そう言われても愛想よくしないと、この世界で重要な情報収集できないから必然的にそうなっただけで、未だに知らない奴に話すのはあんまり得意じゃない。特に身分の高い奴なんかレイや水谷にほとんど任せてるからな。
そんな事を話しているとトマス達が指導していた奴等の人影から一人の男がこちらに近づいてくる。他の連中は俺達が『カークスの底』だからか、トマス達がペコペコしていたからなのか分からないが遠巻きに見ているだけだった。ただその懐かしい顔は俺達に特に気にする事なくこちらに向かってくる。
「ガハハハッ、今日はまた懐かしい顔が来たな。久しぶりだな。ギン。全くどこをほっつき歩いてたんじゃ?」
そう言ってあの頃と同じ髭モジャの顔で明るく話かけてきたのは『打壊』のドミルだった。あの頃と違うのはその左腕が無い事だ。
「ど、ドミル、お前その腕」
「ああ、ちょっと火の国との戦争でやられてしまっただけじゃ。まあ気にするな、命が助かっただけでも良かったからな」
驚く俺を気にする事なく以前と変わらず陽気に笑うドミル。
(レイ、頼んでいいか?こいつも結構世話になった奴なんだ)
(別に構わないけど、それならさっきのテントが一杯ある所まで戻りましょ。あの辺に体の一部が無い人や杖ついてる人とか一杯いたからまとめてやるわ)
(え?何それ?そんな事出来るの?)
(出来るわよ。『範囲上級治癒』《エリアハイヒール》って教えて・・・無かったね。まあウチのパーティ複数人がまとめて大けがする事なんて無かったから考えた事も無かったからね。個別にやってもいいけど『範囲上級治癒』の方が一遍に終わるからそっちの方が時間取られないし)
そう言って『念話』を切るとテントの方に向かって何事もないように歩き始めるレイ。軽く言ってるけど『範囲上級治癒』って結構凄い魔法なのではないだろうか。それを時間短縮の為って理由で使うって・・・。
「そうか、ギワンはみんなを守る為に最後まで残ったのか」
「と言ってもどこまで足止め出来たのか・・・『火の国の悪魔』あいつらは滅茶苦茶じゃ、最上級、上級魔法をバンバン打ち込んできおって戦いにすらならんかった。勇者というのは想像以上の化物じゃ!『水龍姫』、『大海龍』は全滅、儂等『ガーデン』も生き残りはほとんどおらん」
あの後どうだったのかドミルに聞くと、落ち込んだ様子で戦争の内容を教えてくれた。その当時でその強さならあいつら今はどれぐらい強いか予測つかないな。
「今は儂が『ガーデン』を引き継いだと言ってもクラン戦は行っておらん。もっぱら後輩の指導をしておる。まあそっちも『ウェイブ』や『戦乙女』に任せっきりだがな、それに『ギン弟子』もじゃな。孫弟子だけあってあいつらに似てきおった、直弟子は師匠に似ずに世界中を騒がせまくっとるがな」
「それ色んな奴に言われるけど、俺達別に大した事してねえからな、国を越えてまで騒ぎにする事じゃねえだろ」
俺の答えにドミルが呆れた顔をする。何でだ?
「はあ~、本当にお主は『首渡し』の頃から変らんな。自分の評価を正しく認識出来んのは相変わらずだな」
「いや、評価は正しくしてるって!俺達普通のBランク冒険者だろ。まだAでもないのに周りが騒ぎすぎておかしいんだよ」
「お主Aランクの『赤竜剣』を一人で倒したんじゃろ?それでよく普通と言えるな。普通はAランクのパーティを一人で相手にして勝つ奴はおらんぞ」
そうなのか?師匠の戦い方で勝ったから師匠なら勝ちそうな気がするんだけどな。それにあいつらAランクって言ってもそこまで強くなかったしな。
「はあ~、まあいい。それでここまで連れてきて何の用じゃ?」
取り合えずレイの指示に従ってドミルをここまで連れてきたけど、どうしよう・・・まあ話をすればいいか。そう考えて食堂っぽいテントに入っていき軽く注文してから話を始める。
「しかし、あいつらのパーティ名を名乗るとはな。まさかあいつらも自分達のパーティ名が世界中に響き渡るとは思ってなかったじゃろう」
「俺は師匠達のパーティに入れて貰える予定だったから名乗っても怒られないだろ。それに有名になった所で師匠達は何も変わらないと思うぜ」
「ガハハハッ。確かにあいつらなら変わらずにギルドで酒飲んで騒いでいる姿しか思い浮かばんな」
軽く雑談をした所で、レイからもう始めていいか『念話』で聞かれたのでOKを出す。
その日グランツェの避難民キャンプで奇跡が起こった。
後日『水流王の奇跡』とか言われて原因の特定が行われたが、結局原因は一部の人間にしか知らされずに一般には原因不明と公式見解が出された。不自由だった体が元に戻ったり、体の調子が元に戻ったと言うメリット以外特に悪い所も無かったので誰も文句を言う事は無かった。
(疲れた~。結構魔力使ったわね)
(大丈夫?魔力切れ起こりそう?)
(いや、全然。前にミラを回復した時と同じくらいかしら、まあ、体育の授業の後ぐらい疲れたって感じかな)
(ありがとうレイ。しかし凄いなこの魔法って範囲どれぐらいなんだ?)
(さあ?今回はキャンプが全部入るぐらいで使ってみたけど?)
う~ん。相変わらずレイは自分がどれだけ凄い事してるか分かってないな。しかもこれだけやっても魔力切れしないってレイの奴どれだけ魔力あるんだろう。周りから嬉しい悲鳴や喜びの叫び声が響くの聞こえてないのかな。そして目の前にはいきなり腕が元に戻って驚いて固まっているドミルがいる。
「おお、ドミル。腕が元に戻ってるじゃねえか」
白々しいが驚いた振りをしてドミルに声を掛けると、我に返ったドミルが慌てて元に戻った腕を恐る恐る触って確認する。
「な、何故じゃ?何が起こった?す、すまんギン。少し周りを見てくる」
周囲の騒ぎにようやく気付いたのか慌ててテントから外に向かってどこかに走っていった。
「アニキ達こんな大変な事が起きているのに何か落ち着いていますね?」
俺達に一人ついて来ていたトマスが何か怪しんだ顔してこっちに聞いてくる。レイがやったとバレて騒ぎにはなりたくないので、誤魔化す様にはみんなに言ってある。
「いや~。結構驚いているよ~」
「そうそうでもまあ、私達世界中旅してきたからこれぐらい日常茶飯事だから。こんなんで驚いてたら生き残れないから」
すかさずヒトミと水谷がフォローしてくるが、こんな事が日常茶飯事は無理があるだろ。ほら、トマスの疑いの目が強くなってきた。
「ふ~ん、そうッスか。やっぱり世界を旅した人が言うと納得っすね。そう言えばさっきから気になってたんですけど、レイのアネキの姿どこかで見た事あるんですけど少しその仮面外して顔見せてくれないっすか?」
「え??これ??仮面は駄目よ!この下すごい火傷だから見せたくないの。今ので治ってるかもしれないけど、まだ確認してないから外せないわよ」
慌ててレイが断ったのでトマスはすぐに引き下がったが、危なかった。そう言えばレイが『水都』に来た時のパレードでこいつらレイの顔バッチシ見ているんだった。そう考えるとここは他にもパレード見ている奴がいてレイの正体がバレそうで怖いな。
「そうっすか。嫌な事聞いてすみません。もう言いませんけどレイのアネキは俺達とどこかで会った事ないッスか?」
「え?ない、無いわよ。私、風の国で冒険者になったから人違いじゃない?」
「そうっすか。何かアニキといる時に見た気がするんッスけどね~。気のせいかな」
「俺は覚えてねえから気のせいじゃないか。それよりここの依頼について教えてくれ。俺達が受けれそうな依頼とかってあるか?」
これ以上はマズそうなので強引に話題を変える。少しホッとした顔をしたレイが目でお礼を言ってきたが、気にするなと返しておいた。そしてトマスから依頼について教えて貰ったがこの街にはBランクの依頼は無いようだ。『黒都』に行けばあるらしいのだが、流石にそこまで戻るつもりは無いので、この街で水谷をDランクにあげながら攻めてくるのを待つ事にしよう。
そしてしばらく依頼をこなして水谷をDランクに上げた頃についに火の国が動き始めたと連絡があった。