128.5話
・・・・気まずいな。
一日のうちで楽しい食事の時間だが空気が重い。理由は分かっている。今日の事はガッシュに話をしておいた方がいいだろう。そうするとどうしてもガフの話になる。ガッシュはガフの話をすると、いつも怒って聞いてくれないからな。マリーもどう切り出そうか考えているみたいだし、ピエラとクリスタもどうしようか困っているのが分かる。どうしようかと考えているとガッシュから話を切り出してきた。
「なあ、カイルさん。今日『カークスの底』がこの街に来たってホントなのか?」
「ああ、本当だ。すぐにグランツェに向かったけどな」
あれ?ギンの奴ガッシュと会ったんだよな。名乗らなかったのかあいつ。
「どんな奴等か見た?噂だと筋肉モリモリのデカい女達とか逆に美女ばっかりのハーレムパーティって聞くけどどっちが本当だった?」
「みんな美人だったわよ。でも『金影』は美人っていうよりまだ小さくて可愛かったけどね」
マリーの答えにみんなうんうん頷いている。まあ見た目可愛いかったけどあれでも水竜をソロ討伐するような強さなんだよな。しかも獣人族の族長ってギンの野郎とんでもない奴を仲間にしてるな。みんなは族長って信じてなかったけど、俺はギンの秘密を知っているから疑う事はない。
「あれ?何で母ちゃんも見たの?ピエラさんもクリスタさんも頷いてるって事は家の前通ったとか?」
「違うわよ。カイルがウチに連れてきたのよ。言った事ないけど『カークスの底』のリーダーとは私達知り合いなのよ」
クリスタが少し意地悪い顔で笑いながらガッシュに答える。これはいつガフの弟子だとバラそうか企んでいるな。
「マジで?やっぱりカイルさん達すげえな。俺も家で寝てるんじゃなくてこっちに来てればよかった。親父の墓参りに来たのは雑魚冒険者だったしな」
・・・・
「雑魚ってお前何言ってんだ?」
「だって自分でも雑魚だって認めてたんだよ。そんなだせえ奴が親父の弟子だってよ。やっぱり親父も大した事なかったんだよ」
・・・ガフの弟子ってやっぱりギンの事じゃねえか。ガッシュのこの言い方から失礼な態度とったりガフの悪口言ってたんだろうけどよくギンに殺されなかったな。
「ふ~ん。でもその雑魚冒険者から短剣もらったんじゃないの?私に短剣の扱い教えるように依頼されたよ」
ピエラもガッシュの言う雑魚冒険者が誰か分かってるな。分かっててからかってるな。
バシン!
「いって~!母ちゃん何で叩いた!!」
話を聞いていたマリーが思い切りガッシュの頭を叩いたので結構いい音が響き渡った。
「あんたそれギンの事じゃないか!私達の恩人だよ。ガフの荷物届けてくれるようにカイルに依頼した人だよ」
「へえ~あいつが。短剣やナイフもタダでくれたりしたから金持ちなんだな。商人か何か?」
ガッシュが見当はずれな事を言っている。いい加減教えてやるか。
「ギンの奴は凄腕のBランク冒険者だ。さっきお前が言ってた『カークスの底』のリーダーだ」
ガッシュの食事の手が止まった。驚いた顔で俺達を見渡す。ピエラとクリスタはニコニコしてガッシュの驚いた反応を楽しんでいる。マリーはしかめっ面でガッシュに呆れてる。
「う、嘘だろ?カイルさん。俺を騙してるだろ。そもそも何でクソ親父の弟子にそんな凄い奴がいるんだよ。信じられねえよ」
「騙してねえよ。お前は知らねえだろうけどギンが新人の時に指導員をしてたのがガフだ。それが縁でガフ達のパーティメンバーから可愛がられていたし、ギンの奴もあいつらを慕っていた。その証拠に『カークスの底』ってガフ達のパーティ名を名乗ってるからな、どれだけ慕ってたか分かるだろ?」
「ガフ達パーティメンバーの遺品を私達に運ぶように依頼してきたのもギンだしね」
「あれは報酬が滅茶苦茶良かったね」
ピエラとクリスタも口を挟んできたので俺が嘘を言ってる訳じゃないと信じてくれただろうか。
「ついでに言えばお前等が領主に許されたのもギンのおかげだ。街に出入り禁止のマリー達を見たら絶対ギンの奴は怒るぞって言ったら許してくれたんだ」
あの時二つ名の連絡を見て領主に報告しておいて良かった。今日ギン達が来てるって連絡があった時は領主と二人肝を冷やしたからな。今はマリー達が許されているって言っても昔の話を聞いたらギンが怒る可能性もあった。まあ無事グランツェに向かった事を聞いた領主は大きなため息を吐いてたな。
「そ、そうなの?だったら教えてくれたら良かったのに」
「お前ガフの話は聞かねえし、すると怒るかどこか行くじゃねえか。ギンの話をするにはどうしてもガフが出てくるから今まで言えなかったんだよ」
「そうだったんだ。って俺そんな凄い人にすごい失礼な態度とったんだけど大丈夫かな」
「まあお前じゃなかったらどうなっていたか」
ギルドでギンがCランクの奴を一方的に締め上げていた光景を思い浮かべて思わず苦笑いが出てくる。
「しかしギンの奴あんなに大口叩くなんて変わったな~。師匠に怒られるから謙虚に生きてくって言ってたのに」
「まあ、Bランクで有名だし、少しぐらいはいいんじゃない」
ピエラとクリスタが呑気に喋っているのは去り際にギンの言った言葉の事だが、二人は全く信じていない事は分かる。俺だって普通なら鼻で笑う所だけど、さっきのギン別れ際一瞬だが目がヤバかった、火の国に本気で怒ってやがった。それに軽く冗談っぽく言ってたが、一歩も足を踏み込ませないって本気でやるつもりだろう。って事は影魔法を躊躇いなく使うんだろうな。ドアールのギルドで影魔法を初めて見た事を思い出して身震いがしてくる。それに一緒にいた獣人以外の女達、ギンが仲間に入れてるって事は全員勇者だろう。
「どうしたの?カイル?そう言えばオールから返事来た?」
「そうだよ戦争になったら『黒都』のオールの家に避難するって話やっぱり断られた?」
不安そうな顔をしていたんだろう、嫁二人が心配そうな顔で見てくる。ギンに伝言でも頼んでくれていても良かったのにオールからは返事は来てない。いきなり女王直属になったから忙しそうだったぞとか訳分かんない事をギンが言っていたが、オールは平民だからそれはない。
「いや、オールから連絡はないな。ただ戦争が始まっても多分もう大丈夫だ。ギンを怒らせたんだ、火の国は滅ぼされる」
「は???」
「ちょっと、冗談言う所じゃないよ」
「そうだよ、子供達が心配じゃないの?」
「カイルさん、それは流石にどうかと、いくら『カークスの底』でも6人じゃ無理だよ」
みんな俺が冗談を言ったんだと思ったのか非難してくる。それなら安心させる為に本当の事を教えてやろう。
「子供達もいるのに冗談な訳ないだろ。これからの話は誰にも言うなよ。ガフ達もエレナもレニーさんもいない今、多分部外者で知ってるは俺だけだ」
みんな俺が真面目な話をすると分かってくれたのか真剣な目でこっちを見て話を聞いてくれている。
「ギンの奴は火の国の勇者だ」
「え?」
「そ、それって?」
「それじゃあギンはあの悪魔達の仲間って事!!」
「それって尚更ヤバいじゃない、早く避難しないと!」
おっと、言い方が悪かった、勘違いさせちまった。
「落ち着け!あいつは火の国の勇者だけど『影魔法』使いだから追放されたんだよ」
「「「「影魔法!!!」」」」
「だから全員落ち着け!俺も最初は聞いて焦ったが、あのギンだぞ『皇帝』や『大頭領』、『教祖』みたいな大物に見えるか?」
「う~ん、見えないけど・・・それよりも影魔法使いってホントなの?」
「ああ、俺は実際にドアールで目にした。レニーさんも一緒だった」
「レニーさんの名前出すって事は本当なんだね」
ピエラの疑問に答えると何故かレニーさんの名前をだしたら信じて貰えた。何で俺じゃなくてレニーさんを信じてるんだ。
「だからあいつは火の国を嫌ってるってガフが言ってたんだけど、今は憎んでいるな。理由は・・・多分ドアールだと俺は思ってる」
「カイルさん、ドアールって何も無くなった街だよね?」
「ガフやあんた達が所属してた街で確か最初に火の国に街の住人が皆殺しにされて忽然と消えた街だったって聞いたよ」
「ああ、そうだ。そしてギンが冒険者登録してガフ達と出会った街だ。気の良い奴等が多い良い街だった。ギンも気に入ってたし、好きな女もいたからな。その街を滅ぼしたからギンは復讐するつもりなんだろう」
「なら!何ですぐに復讐せずに今まで我慢していたんですか?」
「流石のあいつでも一人で復讐は厳しいとでも考えたんじゃねえか?だから仲間を集めた。影魔法使いのギンがパーティ組んだ奴等だ、獣人以外の3人も多分勇者だ」
「えっ??」
「ほ、ホントに?」
「ホントなの?赤ん坊触ってるあの子達年相応の娘達だったよ」
「あの3人の内2人は二つ名持ちだぞ。その由来を忘れたか?」
「・・・・・」
みんな普通に忘れてたな。俺も何も知らなければ獣人以外はギンを含め唯の一般人としか思わないぐらい隙だらけだったからな。まあ大人の獣人は子供と遊びながらでも常にこっちに注意を向けていたからみんな安心していたのかもしれないが。
「だからギンの言った通り火の国の奴等はこの国に入ってこれねえから安心してろ」
「か、カイル、ガフは何て人を弟子にしてるんだい。失礼な事してなかった?」
「してたら今日墓参りなんて行ってねえよ。ギンの奴は本当にガフの事を信用してたからな、そこは心配しなくていい」
「う、嘘だろ。あのクソ親父がそんな凄い人の師匠だったなんて・・・」
ガッシュが信じられないのは無理はないが、本当の事なんだよな。冷めてしまった料理を口に運びながらこれからの事を考えた。