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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
7章 大森林のBランク冒険者
135/163

128話 闇の国の商業都市

 翌日俺はオールの見送りでカークスに向かった。カークスは闇の国でも主要な街道が重なる重要な街で商業が盛んな為この国では商業都市と呼ばれている。カークスに着いた俺達は女王様から貰った手紙で街に入り、カイル宛に伝言を頼んだ俺達は街の中心に足を運ぶ。


「もう、ギンジ顔がずっとにやけてて気持ち悪いわよ」

「仕方ないだろ、この街は師匠達の育った街だぜ、俺はずっとここに来たかったから嬉しいんだよ」


 屋台で買った串焼きを頬張りながらレイに反論する俺。本当に師匠達の育った街に来れて嬉しいのでさっきから顔が緩んでしまう。


「それで?これからどうするのよ?」

「取り合えずカイルが来るまでギルドで待ってようかと考えている。入口で伝言も頼んだしすぐに来るだろう」


 そう言って師匠達が冒険者になったギルドに足を運んだ。


ギィ


 やっぱりどこの街のギルドでも扉が軋んでいて音が鳴るなあとか思いながらギルドに入ると、当然ギルドに残っている連中から視線が集まる。水谷も最近ではこれぐらいで動じる事は無くなり普通にしているので、俺達は集まる視線を気にせず適当なテーブルに腰かける。


「おい、あれ」「おいおい、まじかよ」「マジで来やがった」「あいつらの関係者だと思うが見た事ねえな」「あれが本物か、見た目はあんまりだな」


 俺達がテーブルにつくと周りが騒ぎ始めるがいつもの事なので無視する。みんなも最近ではあんまり気にならなくなったようだ。俺はいつものように依頼が気になるので、見に行こうとすると早速こっちを見ていた奴が一人近づいてきて絡まれた。見た感じベテラン冒険者って所か。


「お前等『カークスの底』で合ってるか?」

「ああ、って言ってもこの街に来るのは初めてだけどな」

「それならガフ達の知り合いか?」


 まあ、当たり前だけどこの街に師匠達の事を知っている奴はいるよな。


「俺はあの人たちの弟子だ。新人の頃にかなり世話になった」

「そうか、あんな奴等でも面倒見は良かったのか。まあそれよりもだ。お前等そのパーティ名を名乗るのはもうやめろ」


 ・・・一瞬何を言われたのか分からなかった。そもそも俺らの騙りがでるぐらい有名だから街の名前も有名になって喜ばれる事はあっても文句を言われるとは思わなかった。


「嫌だね。これは師匠達が最後に俺の為に残してくれた物だって思ってるからな。誰に言われようが変える気はねえよ。」

「お前等はBランクになったり二つ名や有名な通り名持ちばかりだ。実力は十分にあるんだろ。そんな有望な奴があんなクソ共のパーティ名を使うなって言ってんだ」


・・・・



 あっ!?




 その一言に俺はキレた。


「ああ?お前今師匠達の事馬鹿にしたか?俺に喧嘩売ってんだな、いいぜ買ってやるよ」

「ぐ・・ち、ちが・・・」


 胸倉を掴まえて持ち上げてやると苦しそうに俺の腕を掴んで振りほどこうとするが、『身体強化』使ってるから振りほどける訳がない。苦しそうに暴れて面倒なので、このまま締め落としてやろうかと思った時に、


「ギン!!!」


 あの時のドアールのギルドと同じようにカイルが飛び込んできた。あの時と違うのはエレナがいないって事だな。


「カイルか、久しぶりだな。話したい事が一杯あるけどちょっと待ってくれ。先に師匠達の事を馬鹿にしたこいつに思い知らせてやる」

「馬鹿野郎!!詳しい事情は俺が説明してやるから手を離せ。こいつらの言い分も間違ってねえんだよ!」


  一瞬で事情を把握したのか少し気になる事を言う。こいつの言い分も間違ってない?師匠達が馬鹿にされる理由があるって言うのか?


「チッ!分かったよ。でも詳しく教えろよ」


 そう言って手を離してやると、床に倒れ込んだ奴にカイルが駆け寄って介抱する。


「馬鹿が。だからギンの前でガフ達の事馬鹿にするなって言ったじゃねえか。お前らの知ってるガフ達と俺達の知ってるガフ達は全くの別人だって何度も説明したじゃねえか」

「隊長、悪い、助かった。まさかお前の話が本当だったなんて微塵も信じて無かった」


 そう言われたカイルは大きく溜め息を吐くとそいつの頭を軽く小突いてからこっちに向き直った。


「まあ、ここじゃ話にくいからな。俺の家に行くぞ。ピエラもクリスタもお前に会えば喜ぶからな。それになお前に会わせたい奴がいるんだよ。お前絶対驚くと思うぜ。ククク」


ドアールの時と同じように意地悪い笑いを浮かべるカイルだったが、多分オールから聞いた師匠の子供の事だろう。驚く顔を楽しみにしているみたいだから知っている事は黙っておこう。




「よお、帰ったぜ」


 もう少し歩けば貴族街だろうって手前の所でカイルは路地に入り2階建ての一軒家の扉を開けて中に入っていった。


「あれ?仕事はどうしたの?」

「サボったとか言ったら怒るよ。これから更に出費がかかるんだからね」

「い、いや、ちげえって。今日は領主に言って休みをもらったんだよ。久しぶりに懐かしい顔に会えたからな」

「アハハハハ、この街の隊長さんでも嫁には弱いねえ」


 中からは懐かしい声と聞き覚えの無い声が聞こえる。しばらく中で何か話していたと思ったら扉が開いてカイルが顔を出した。


「いいぜ、入ってくれ。子供が寝てるから静かにな」


 そう言って中に入ると、


「よお、久しぶりだな。ピエラ、クリスタ」

「ぎ、ギン??」

「う、うっそ~。すごい久しぶりじゃない」


 俺に気付いたあの時と全く変わらないピエラとクリスタが大声を上げると、2階の方から子供の泣き声が聞こえてきた。


「あらら、母親が起こしてどうするのよ、まあ二人はここに残って話でもしてな。私が面倒見てくるよ」


 泣き声が聞こえて立ち上がろうとしたピエラとクリスタを止めたのは、俺が見た事がない人だった。少し恰幅の良いおばさんって言うかお姉さんっていうか微妙な年齢だけど、若い時は痩せてれば美人だったと思う人がそう言って2階に上っていった。


「マリー、悪いな。お前にも紹介したいから落ち着いたら下に来てくれ」




「いや~凄いな~。ウチにあの『カークスの底』がいるなんて」

「何言ってんだピエラ、別に唯のBランクパーティが遊びに来ただけじゃねえか。大げさだな」

「いやいや、何言ってんの?今や『カークスの底』がギルドで話題にならない日は無いってぐらい有名だよ」


 クリスタが否定してくるが、別に俺達は普通のBランクパーティだぞ。俺が知ってる他のBランクパーティって両手で数えるぐらいしか知らないしな。


「そうなんですか?別に私達変な事してないよね?」


 レイがみんなに聞くと全員俺と同じ考えなのかすぐに首を縦に振る。


「いやいや、おかしなことだらけだって。最近だと偽物の騙りパーティを全て壊滅させたとかAランクの赤竜剣パーティを刺激袋だけで倒したとか聞いたな。あと、あなたでしょ?シャルラの英雄って。火竜ソロとか信じられないけどシャルラから正式に与えられた称号なら多分本当なんだろうな」


 なんか一部誇張されてるような・・・


「い、いや、ま、まあそういう事もあったと思うが・・・いやその呼び方は止めて貰っていいか。ガルフォード様と同じ『英雄』とは私ではまだまだだ」


 ガルラがその称号もらうの渋ったのはそこだったんだ。マジでガルラの中でガルフォードって神様みたいな存在になってそうだな。


「それじゃあ、あなたが『金影』?小っちゃいのに水竜をソロとかこっちも本当なの?」

「いえ、その時はレイお姉ちゃんに足場を作って貰ったのでソロではないです」

「足場を作るってのが良く分からないけど・・・」


 まあ実質ソロ討伐みたいな物だけど説明が面倒だから放置してこっちを先に聞いておこう。


「それで?カイル、さっきの話の続きだ。師匠達が馬鹿にされても仕方ないって理由を聞かせてくれ」

「ああ、お前もあいつらがこの街にいた時の事は少しは聞いた事あるだろ、下水で暮らしてた時だ、あいつらはまだガキだったのにそこらの悪党よりも悪党だった。強盗、殺人、窃盗で日々暮らしていたからな、仕方がないがそれであいつらに賞金がかけられた。大した金額じゃなかったがそれでもこの国で最年少って事でかなり話題になった。その時にここの領主は他の貴族達からかなり色々言われたらしい。まあ賞金がかけられたって言っても大した金額じゃなかったからな最初は新人冒険者連中が軽く考えて捕縛に向かったが、あいつらに悉く殺された。それで徐々にランクが上の奴が出たんだが、噓みたいだけどそいつらも下水に行って帰ってこなかった。それでとうとうギルドが本気になって討伐隊が組まれる事になったんだが、その前にあいつらを捕まえたのが孤児院の院長だった。」


 ああ、その話は師匠から聞いたな。しかし本人達の話とカイルの話とで認識が違いすぎる。師匠達笑いながら軽くしゃべってたけど、やっぱり俺があの時思った通り大事じゃん。


「まあその後は、大人しくなったみたいだが、この街の連中はあいつらを『最年少賞金首』とか『カークス史上最悪の子供達』と呼ぶようになったんだ。そんな奴等が冒険者になった所で良い顔をされる訳も無く、この街の冒険者連中は仲間を何人も殺したあいつらを許さなかったようであいつらを騙して素材取り上げたり、報酬奪ったりしまくったんであいつらも愛想尽かして街を出ていったそうだ」


・・・師匠が俺を騙さなかったのはそれが理由か。しかしカイルの話だと師匠達は小さい頃はかなりヤバかったらしいが、どこで変わったんだろ?いや、孤児院で暮らしている間に変わったのか


「師匠達を捕まえたって院長は?」

「カイル達がこの街に来る前に寿命で死んださ。最後まで3人を気にしていたから今頃は説教でもしてるよ。あいつらは院長には頭があがらなかったからね渋々頭を下げて怒られているだろうよ」


 カイルに向けた質問に何故か後ろから答えが返ってきたので後ろを振り向くとマリーさんが赤ん坊を二人手に抱き、横に小さい子供を二人連れて階段を下りて来た。


「悪いね。目が覚めたみたいだ」


 マリーさんが下りてくると横にいた子供がそれぞれピエラとクリスタに抱き着いてくる。そしてマリーさんが腕に抱いた赤ん坊を二人に手渡す。


「きゃあ!か、可愛い」

「さ、触ってもいいですか?」

「だ、抱っこさせて」


 レイ達は赤ん坊を見て大喜びなので、それを見てピエラとクリスタも微笑んでいる。自分の足で歩けるチビ達はガルラとフィナの尻尾が気になるのか触ろうとしているがそれを躱して遊んでいる。


「悪かったなマリー。それでこいつが前から話していたギンだ」

「ギン、こいつがマリーだ。それで驚け、何とガフの嫁だ!」

「嫁じゃないっての。何であんなロクデナシの嫁にされなきゃいけないのよ」

「そりゃあ、ガフの子供産んだからそうなるだろ」


・・・・・おい、おい、おい、何かすげえ事言ってる。し、師匠の嫁?いや違うって言ってるけど・・・でも師匠の子供産んでるって・・・そう言えばオールから師匠に子供がいるって聞いていけど・・・子供がいる事は、当然生んだ母親もいるだろうけど全く思い浮かばなかった


「は、初めまして。ギンって言います。師匠には大変お世話になりました。よろしくお願いします」

「アハハハハ、今や飛ぶ鳥落とす勢いの『カークスの底』のリーダーが何で私なんかにこんなに頭を下げてくれるんだい。それよりもガフ達の遺品届けてくれてありがとうね、大分助かったよ」

「師匠がいなければ今の『カークスの底』メンバーはほぼ死んでいますからね。そう考えると師匠は命の恩人ですから、その家族のマリーさんにも当然感謝していますよ」

「・・・・本当なのかい?・・・あの馬鹿にそんなに感謝・・・してるんだね」


 マリーさんは俺の表情から全てを分かってくれたのか呆れた感じになる。それから俺の知っている師匠達の話をしたし、マリーさんからこの街にいた時の師匠達の話を聞いた。


「それならガッシュにも会わせてあげたいけど、あいつはどこに行ったのか」

「ガッシュっていうのが師匠の子供なんですか?師匠からは子供がいるなんて聞いてませんでしたけど?」


 師匠は何だかんだ面倒見がいいから自分の子供がいたら一緒に連れてきているはずか、仕送りでもしていると思うんだけど、仕送りしている様子もなかったよな。


「ああ、あいつ等が出て行った後に妊娠しているのが分かったから、ガフは自分の子供がいる事を知らないよ」


・・・マジで?何で教えなかったんだ?とか聞くのは失礼かな。まあ色々考えがあるんだろうから聞かない方がいいか。


「それよりも折角だからあいつらの墓参りでも行ってくれないかい?南門から出て外壁を左に沿って進むとボロイ小屋があるからその後ろにあいつらの墓があるんだ」


 それはお願いされるまでもなく是非行かなければ。



「あれ?ギンジどこか行くの?」


 赤ん坊を抱っこしてあやしているレイが俺に気付いて声を掛けてくる。みんな赤ん坊や子供を相手にしながらピエラとクリスタと話をして楽しそうだ。


「ああ、少し出てくる。すぐ戻るから待っててくれ。戻ったら出発だ」

「おい、おい、もう出てくのか?一日ぐらいゆっくりしていけよ」

「いや、流石に今回は遅れたくはない。それにオールからも情報は貰ってるからな」


 みんなに声を掛けるとカイルが引き止めてくるが、流石に3回も間に合わないって事はしたくない。今度は誰かが捕まる前にあいつらと決着をつけてやる。



 えっと、門を出て左って言ってたな


 あの後一人でカイルの家を後にして南門を出て壁に沿って左に歩いていると、すぐにボロイ小屋が見つかった。




 ・・・・・みんな。


 小屋の裏に回ると二本の棒がクロスして縛られただけの粗末な墓が立っていて、そこに5枚のギルドカードがかけられていた。


久しぶりです。師匠。ギースさん、ケインさん、エステラさん、ターニャ。


・・・・まだ何も終わってないので、報告は全て終わらせて、ドアールに戻ってからにします。


 ワインをお墓にかけながらそれだけ報告する。レイを助けに向かう時に師匠達に会ってから約2年経つが俺は『金子達への復讐』、『ドアールの再興』、『ドアールのみんなの埋葬』の3つをまだ何一つ果たしていない。


2年以上経つのに何一つ終わらせてないなんて駄目な弟子ですね。


 そんな事を考え報告すると、師匠とケインさんがそうだそうだと言いながら追撃してくる横でギースさんが軽く慰めてくれる。そしてエステラさんが師匠達に注意している様子が浮かぶ。ターニャは・・・予測つかないな。




さて、


「何の用だ?出てこい」


 マップを見るまでもなくボロイ小屋に隠れて俺に敵意を向けてくる奴がいる事は最初から分かっていた。『探索』に頼り切りの俺でもスキル無しで気付いたんだ大した奴ではないだろう。


「あんた、親父達の知り合いか?」

「・・・っ!!!」


 ボロイ小屋から姿を現した子供を見て絶句してしまった。小屋から出てきたのはガジより少し年下だろう男の子だった。俺に敵意をぶつけてくる男の子は師匠によく似ていた、師匠が小さい時はこんな感じだったんだろう。ただ、その顔や見えている肌は結構傷だらけになっていた。


「ああ、ガフって人の弟子だったけど、他の人達にもかなりお世話になったんだ」

「ホントか?あのクソ親父の弟子?」


 俺の言葉が信じられないのか疑うような目で俺を見てくる。多分この子がガッシュだ。


「クソ親父って酷いな。自分の父親だぞ」

「顔も見た事ねえよ。それにあんな奴クソ親父で十分だ。あいつのせいで俺と母ちゃんはどれだけ苦労した事か」


 顔も見た事ないか・・・それなら。


「ほら、これがお前の親父だ」


 俺のスマホで撮った写真を見せてやる。


「うおおお!何だこれ?絵か?・・・いや、それよりもこいつが親父なのか・・・楽しそうにしやがって、ムカつくな」


 楽しそうに酒飲んでる写真を見せたのは逆効果だったのか、ガッシュの奴余計に怒り出してしまった。


「何でそんなに親父の事嫌いなんだ?」

「当たり前だろ。あのクソ親父のせいで俺達は最近まで街に入れなかったんだぞ。院長が助けてくれなかったら俺も母ちゃんもとっくに死んでたよ。それなのに親父の野郎街を出てから一度も戻ってきやしねえ。それどころか水の国でくたばったって話じゃねえか。人に迷惑ばっかり掛けた奴を好きになる訳ねえだろ」


 マリーさんあんまり師匠の事ガッシュに話をしてないみたいだな。ガッシュもこの様子じゃ素直に話を聞いてくれそうにないな。


「何で最近まで街に入れなかったんだ?」

「当時から領主様からも反対されてたのにそれを無視して俺を産んだから母ちゃんは街から追放されたんだよ。当然俺も『最年少賞金首』の息子だから街に入れなかった。ここ最近だよ、カイルさんが領主に掛け合ってくれてようやく街に入る事を許して貰えたからな。俺と母ちゃんはあの人には感謝しているよ」


 そうかカイルには後で礼を言っておこう。師匠もこの事を知ってれば絶対助けてくれたんだけどって言っても信じてはくれないか。


「カイルさんは平民だけど領主様はあの人の話は素直に聞いてくれんだよ。さすが元Cランク冒険者だよな。しかもあの人魔法使えるんだぜ。親父みたいな雑魚とは違うよ、俺は将来あの人みたいに凄腕の冒険者になるんだ」


・・・・


「雑魚って・・・師匠は結構凄かったんだけどな」

「結局死んでるから雑魚じゃねえか。親父達Cの壁を越えられず、ずっとDランクだってって聞いてるぜ。しかもDまで採取依頼しかしてこなかったんだろ?」


 ずっとDランクだったのはD止めしてたから、Dまで採取依頼しかしてなかったのは知識や経験を積むのや金欠にならないようにするのに効果的なんだけど、これも言っても信じて貰えそうにないな。カイルの言う事なら素直に聞いてくれそうだし、いつかカイルから言って貰うように頼んでおこう。


「あんたもあんなクソ親父の事を師匠なんて呼んでるって事は雑魚なんだろ」





・・・雑魚か



・・・まあその通りだな。俺は師匠達も、エレナも、ドアールのみんなも、ノブも助けられなかったもんな。


「ハハハ、まあそうだな。俺が雑魚ってのは否定はしないよ」

「おい、おい。少しは言い返して来いよ。マジで雑魚なんだな、あんた。俺は親父やあんたとは違うぜ。いつか強くなってこの街の連中を見返してやるんだ」


 ガッシュは俺に向けてる訳ではないが、敵意を持って決意を表明してくる。傷だらけの顔や体を見れば何となく予想できる。


「師匠の子供ってだけで扱いが酷いのか?」

「当たり前だ。領主様から許して貰ったって言ってもまだ街の連中は許してくれてねえよ。カイルさんがいるから大人は何もしてこないけど、俺が他の奴から殴られていても誰も助けてくれない。ガフの息子ってだけで嫌われるには十分なんだよ!」


 そんなに師匠達はこの街の連中から疎まれているのか。


「まあ、それももう少しの辛抱だ。これからはガフの息子ってだけでみんなからチヤホヤされるようにしてやるよ」


 また一つ火の国に負けられない理由が出来たな。あいつらに勝った後には俺が師匠の弟子だって事を国中に広めてもらおう。


「あんたみたいな雑魚に何が出来るんだよ」

「まあ見てろって。それよりも冒険者になるんだろ。これやるよ餞別だ、冒険者になれる年齢になるまでに練習してろ」


 そう言って俺が最初に愛用していた短剣を渡してやる。ヒトミは今火竜の杖をメイン武器にして火竜の素材で作った短剣を予備に回しているからな。その前に使っていた短剣は影収納の肥しになっているから丁度いい。


「は?おい、これ結構いい短剣じゃねえか?いいのか?」

「今は使ってない奴だから気にすんな。だけどくれぐれも人に向けて使うなよ。使い方はピエラに教えてもらえ。後はちょっと来い」


 そう言ってガッシュの手にナイフを持たせる。


「いいか投げる手に集中しろ。可笑しな感覚があるはずだからそれをよく覚えろ」


 そして結構大きな魔力を手に纏わせてガッシュの手を握りナイフを投擲する。当然狙った木にナイフが突き刺さる。


「今の違和感分かったか?」


 俺の問いに驚いた顔でコクコクとガッシュが頷いてくれた。やっぱり師匠の子供だけあって勘がいいな。


「今の違和感をいつでもだせるようになったら『投擲』スキルを覚えるはずだ。結構便利だからな俺も師匠から覚えるように言われたんだよ。お前も練習して使えるようになるといいぞ」

「あ、あんた、一体何者だ?普通こういうスキルって覚えようと思っても覚えられる物じゃないだろ。っていうかナイフ何本隠し持ってんだよ」


  ガッシュの練習用に置いて行ってやろうと装備しているナイフを取り出していくとガッシュがドン引きしている。大体10本は隠して持ってるな。


「冒険者になったら使い捨て用に安いナイフでいいからこれぐらいは装備しておけってのが師匠の教えだ」


 みんなにもそこまで多くは無いが何本か隠し持たせている。ガルラ?あいつはその辺の石ころで十分だとか言って聞いてくれないから諦めた。





「もう行くのか?やっぱり一日ぐらいゆっくりしていけよ」


 ガッシュと別れてカイルの家に戻ると、みんな待っていてくれたみたいですぐに出発しようとすると、カイルが引き止めてきたが、答えは変らない。


「悪いな。今度こそ遅れる訳には行かないからな。ターニャの荷物は黒都のワイズナー子爵家まで宜しくな。これから俺達は戦争が始まるまではグランツェにいるから何かあったら連絡してくれ」

「・・・・っ・・・お前、まさか」


カイルは何かを察してくれたようだ。


「ねえ、これからグランツェに行くの?やめた方がいいわよ、火の国が次に戦争仕掛けてくるのがこの国だってみんな言ってるよ。グランツェなんていたら巻き込まれるよ」

「まさかギンも戦争に参加しにいくの?」


 クリスタが止めてくれるが、この時期にグランツェに行く理由はピエラが言う通り戦争に参加する為だ。


「ああ、まあ安心してていいぞ。師匠達の生まれ育った国に火の国の奴等は一歩も足を踏み込ませないからな」

「あら、強気ね。さすが『カークスの底』のリーダーだね」

「ギンって何か性格変わった?そんな大口叩く奴じゃなかったよね」

「ハハハ、これでもBランクだ、少しは大口叩いてもいいだろ。あ、そうだ、ピエラ。ガッシュの奴に短剣あげたから暇な時に使い方を教えてやってくれ」


 大金貨を取り出して指で弾いてピエラに渡す。


「はあ?だ、大金貨ってあんた・・・はあ~、まあガフの子だから仕方ないか。ギンって相変わらずガフ達の事になると金銭感覚おかしくなるわね」


「それではマリーさん。お世話になりました。戦争が終わって平和になったらドアールにも遊びに来て下さい。師匠達も喜ぶと思います」

「そうだね。その時は宜しくね。それにしても色々世話になったね。私からは返せるものが何もないのが悲しいんだけどね」

「いえ、師匠には返しきれない恩があるので、それを少しでも返せて良かったですよ。それじゃあ、平和になったらドアールに来て下さいね」


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