127話 ターニャの弟
城に泊まった俺達は次の日に再び昨日と同じ部屋に呼び出された。ターニャの事について分かった事を報告してくれるらしい。部屋に着くと昨日と同じ女王と娘二人の他にかなり太った温和そうな顔をした中年が席についていた。そして何故か部屋の隅にオールが立っていたので護衛のつもりなのだろうか。
「昨日、調査しました所、すぐに該当の人物・・・と言っても父親のグラコス・サンダーロッドですが・・そちらに辿り着きました。ですが城の記録ではギン様から教えて貰った事と変わりがありませんでした」
第1王女アデリナの報告を聞いて少しがっかりする。ターニャは土地を持たない下級貴族って言ってたから詳しい事が分からなくても仕方がない。
「ですが、幸いターニャリカの婚約者の子爵の方には辿り着く事が出来ました。こちらワイズナー・ファイアナックル子爵です」
そう言って第2王女が隣に座る太ったオッサンを紹介してくれた。ターニャは確かデブ子爵と結婚させられるって言ってたけど、相手がコレか~。多分ターニャの父親と同じぐらいの年だってのも嫌がった理由の一つだな。
そしてこちらも自己紹介をして色々話を聞きたいけど、まずはこの人の知っているターニャが俺の知っているターニャと同一人物か確認しないといけない。
「それで確認ですが、ワイズナーさんの知っているターニャはこの人物で合っていますか?」
俺はスマホにあるターニャの自撮り写真を見せる。
「おお!ターニャリカ!そうです!!彼女がターニャリカ・サンダーロッドで間違いありません!」
「な、なんだこれは?絵には見えないが・・・凄いな」
「魔道具でしょうか?こういった物は見聞きした事はありませんが・・・」
写真の人物を見た途端、腰を浮かせて興奮気味に答えてくれる子爵。女王や王女はスマホの撮影機能に興味があるようで3人で何やら話している。
「良かった。俺の知っているターニャと同一人物ですね。それでワイズナーさん、ターニャには弟がいたはずです。俺は今、弟の居場所を探しています。名前や手がかりを知っていれば教えてください」
「・・・名前はスーラと言います」
俺が弟について尋ねると少し躊躇いがあったのは何故だ?しかも視線が落ち着かず汗も噴き出してきて挙動がおかしくなっている。これはどう見ても怪しい。
「子爵、何を隠している?」
俺でもワイズナーの挙動がおかしいのが分かるぐらいだ。当然色々な人に接する機会が多い女王や王女達は気付いたんだろう。代表して女王が質問してくれたので、ワイズナーは嘘を吐く事は出来ない。ここでもし噓を吐いてそれがバレると国のトップを騙した事になるから何かしらの罪に問われる。それが分かっているからだろうか、ワイズナーは何も答える事が出来ず忙しそうに流れ出る汗を拭いている。隣に座る第2王女がそれを見てものすごく嫌そうな顔をしている。
「ファイアナックル子爵!答えよ!何を隠している!」
「・・・・スーラは我が屋敷で保護しています」
女王の強い口調にようやく重い口を開いてくれたが、その内容はこんなに早くターニャの弟が見つかるとは思っていなかった俺にとって有難いものだった。
「ほう。それではそのスーラとやらを連れてこい」
ワイズナーの答えに女王は目を細めて命令をする。
「申し訳ございません、陛下。出来ればスーラは我が屋敷から動かしたくはないのですが・・・」
「貴様!我々に足を運べと?」
「いえ、いいでしょう。何かしら理由がありそうですし、俺達がそちらに足を運びますよ」
ワイズナーの言葉に女王が声を低くして尋ねるが、俺は早く会いたいし、子爵が女王の命令を断るぐらいだから何かしら理由があると察したのでこちらから出向く事にする。
「・・・分かりました。アメリアお前もついて行きなさい。オール、お前もアメリアの護衛としてついて行け。と言ってもギン様達が一緒なら不要かもしれないがな」
俺の答えに不満そうな顔をしながらも女王が指示し、王女とオールも子爵の馬車に乗って一緒についてきた。女王は俺達の分も馬車を用意しようとしてくれたのだけど、馬車嫌いの俺はそれを断りみんなで歩いて子爵の家に向かった。傍から見ればワイズナー子爵の馬車を護衛している冒険者に見えるだろうと軽く考えていたのだが、後日ワイズナー子爵の元に「どうやってカークスの底を雇った」と問い合わせが殺到したらしい。俺達は点付きだから基本貴族の命令は聞かないし、指名依頼も受けないのでワイズナー子爵には悪い事をしてしまった。
「こちらがスーラになります」
「えっと、おじさん?この方達は?」
そうして子爵の屋敷まで着くと、ある部屋に案内され中の人物を紹介された。紹介された人物を見た瞬間にターニャの弟だと分かった。ターニャと同じ緑色の髪で弟だけあって顔がよく似ている。そしてターニャの弟スーラには両足と片腕が無かったから、ワイズナー子爵が動かしたくないと言った理由も分かった。その姿に軽くショックを受けたけど、生きていてくれただけでも嬉しい。
「初めまして、スーラ。俺はギンと言います。ターニャリカにはかなりお世話になったので、弟のあなたにお礼を言いたくてずっと探していました」
そう言ってみんなから一歩前に出て話を始める。スーラはいきなりの事で若干戸惑っているみたいだ。
「姉さんが?お世話をしたんですか?なったんじゃなくて?」
・・・ターニャ・・・弟からの信用無いぞ。何やったんだ
気を取り直して俺はターニャの事について知っている事を全て話をした。
「そ、そうですか。姉さんは既に亡くなっているんですね。悲しいですけど、あの姉さんに仲間や恋人が出来てたなんて安心しました」
・・・「あの」ってのが気になるな。いや、それよりも、
「答えたくないなら答えなくてもいいですが、その体は?」
「盗賊に捕まった後、奴隷商に売られましてね。そこから鉱山送りにされて働かされていたんですよ。その時に落盤事故でこんな体になってしまいました」
俺の質問にスーラは軽く笑いながら自分の体を眺める。
「グラコス一家がグランツェに行ってから半年後ぐらいに行方不明だと知り、慌てて行方を探し野盗に襲われたという所までは分かりました。ターニャリカは女だから奴隷として売られるかどうかは賭けでしたが、男のスーラは生きていれば確実に奴隷商に売られるので、奴隷商に依頼してずっと探していました。そしてようやくスーラを見つけた時にはこの姿でした。落盤事故の後で働けないって事で再び売られたんでしょう」
子爵がどうやって探し出したかを教えてくれた。子爵には感謝の気持ちしか浮かばないけど、お礼は後で言う事にしてまずはスーラの体だ。
「レイ。頼んで良いか?」
「当たり前じゃない。ギンジの恩人の弟なんでしょ、なら気にしなくてもいいわよ」
後ろにいるレイにお願いすると、すんなり了承してくれた。そしてすぐにスーラの体が光り手足が元通りになる。
「こ、これは『上級治癒』!!」
元に戻ったスーラを見て王女が驚きの声をあげる。オールやワイズナー、スーラも驚愕の表情を浮かべているが、この国にも教国の神官がいるはずだから、そんなに珍しいものでもないはずだけど・・・教国の神官以外が回復魔法使えるって事に驚いているのか?
「わ、私の体が・・・おじさん、元に戻ってるよ」
「おお、良かった。スーラ、本当に良かった」
体が元に戻ったスーラと子爵は抱き合って涙を流して喜んでいる。
「疑問なんですけど何でこの国にいる神官に治療させなかったんですか?」
「犯罪者等が紛れ込まないように、身元がはっきりしないと神官の治療を受けらません。サンダーロッド家は公的な記録では取り潰されていますからね。そこにスーラが現れたら、何かしらの責任を取らされるので、今まで治療させる事は出来ませんでした。一応上級ポーションも使ってみたんですが、既に失った手足は元に戻りませんでした」
俺の質問に子爵が答えてくれた。って事はこの人はスーラの為に上級ポーション使ったり、スーラの事を今まで守ってくれていたんだな。
「スーラ・サンダーロッド、事情は分かりましたのでお前を罪に問う事はしません、それと男爵の爵位も戻しておきます。まずは子爵の寄り子となり仕事を学びなさい」
爵位戻すとかこの場で決めて良い物では無い事は俺でも分かるけど、王女様は俺達に気を使ってくれたんだろう。まあ他にも思惑があるとは思うけど今は黙って受け取っておく。
「ありがとうごさいます王女様」
「いえ、この程度でギン様が喜んでくれるなら大した事ではありません」
俺のお礼にそう言って逆に頭を下げてくれる王女様。
「子爵、私からも質問があります。あなたとサンダーロッド家の関係です。何故他人の、しかも自分より爵位の低い家の者にここまでするのですか?」
俺も気になっていた疑問を王女様が聞いてくれた。王女の言う通りターニャの婚約者だとしてもここまでしてくれるのには何か理由があるんだろう。
「私とグラコスは親友だったんですよ。それだけじゃなく、私が困った時には相談に乗ってくれたり、色々アイデアをだしてくれたり、無償で手伝ってもらったりと、かなり助けて貰いました。そんな親友の息子が生き残ってくれてたんですから当然助けますよ。これでもまだまだ恩を返せたとは思っていませんけどね」
その優しい口ぶりに子爵はターニャの父親と本当に仲が良かったと言う事が分かった。それにスーラが子爵の事をおじさんと呼んでいる事からも両家とも関係はかなり良好だったんだろう。
「父は姉さんと婚約してくれただけでも、十分感謝してくれていましたよ、おじさん」
子爵の言葉にスーラがフォローしてくるが、少し内容が気になる。ターニャの口ぶりから無理やり婚約させられたみたいな感じだったから父親の権力争いに利用されたか、爵位が上のエロ貴族に無理やり狙われたと思っていたんだけど、子爵とスーラの話からそれは違うみたいだ。
「姉さんは小さい頃から変わっていまして、高い所から変な事言いながら飛び降りたり、魔法使えないのに詠唱唱えたり、王女様のお姿を真似する変な姉でした」
うん。知ってる。俺が知ってるだけでも軽い厨二病患っていたから当時は更に酷い感じだったんだろう。
「えっと、これは初代様の若い頃のお姿を真似しているのですよ?敢えて不便な格好をする事で人の痛みが分かる女王になるようにと初代様の素晴らしいお考えに由来しているのです。それを真似するなんて素晴らしい姉じゃないですか」
この国の王族は黒川の厨二病を間違って解釈しているけど、本当の事は話すとショックを受けそうだし黙っておくことにしよう。
「そう言う考えならば素晴らしいのかもしれませんが、姉はそのお姿を格好いいとか言って真似してたんですよ。そういう事もあってサンダーロッド家のヤバい娘ってのが周りからの評価でした」
「か、格好いい?ですか?こ、これが・・・・?」
よ、良かった、戸惑っているから王女様は患ってないみたいだ。ただ、黒川の子孫だから可能性はまだ十分にあるかも知れない、注意は必要だな。
「そういう理由で姉さんに良い縁がなかったので、父も母も焦っていました。流石に二十歳を過ぎて結婚どころか婚約者もいないのはマズいっていうんで、おじさんに相談したんですよ。当の本人は『私を受け止められる奴はこの国にはいないのか』とか言って笑っていたので父と母は相当手を焼いていましたけど」
・・・ターニャ。俺と会った時はかなりマシな性格になってたんだな。
「それで私が取り合えずターニャリカの婚約者になったんですよ。グラコスには恩がありましたからね、第3夫人でも構わないと言われましたし、勿論親友の娘ですから手を出すつもりはありませんでしたよ。結婚してもうちに迷惑かけるから実家で暮らさせるとも言ってましたし。まあこれで対外的に結婚しているから周りからとやかく言われる事はないだろうと安心していました」
ターニャって昔は危険物扱いされてたんだな。しかしターニャの言い分と子爵やスーラの言い分がかなり違うって事は・・・
「正直に話をするのは流石の姉さんでも可哀そうだって事でおじさんが婚約者になったとしか言ってません」
聞くとやっぱり本当の事はターニャに言ってなかったらしい。流石のターニャでも本当の事を知れば落ち込むだろうとの両親の優しさだったらしい。
「オール。俺が依頼したターニャの荷物って今どこにあるか分かるか?」
話がまとまった所で、俺の方も済ませる事にする。あれから2年近くは経っているけど、これでようやく一つ片がつく。結局これも俺の勝手な自己満足だけど、それでもずっと心残りだったことが一つ解消できる。
「それならカイル達が持ってるはずだ。ギンに黙って処分すると怒られるっていうんで、あいつらの家で保管してある」
「よし、それならこれからカークスに寄ってギルドに依頼してここまで運ばせますから、後はスーラにお願いします」
これで後はエステラさんだけだけど、オールの話だとグランツェに滞在中は手掛かりは無かったそうだから、そっちはマリーナさんに聞けばいいだろう。
「ワイズナー子爵、ターニャの弟を保護して頂き有難うございます。今までにスーラに掛かった費用は私の方で支払いさせてもらいます」
恐らく今まで少なくない金額がかかった事はよく分かるので、その費用を支払おうと言ったのだが、子爵からは首を振って断られた。
「いえ、そのお申し出は不要です。こちらはグラコスに受けた恩を考えれば大した金額ではありませんし、我が家からしても大した費用とはなっていませんのでお気になさらず」
お金の支払いは固辞されてしまった。貴族だからお金以外の価値あるものがいいか。
「そうですか。と素直に引き下がると俺も師匠達に怒られそうなので、それならこれをお譲りします。一応サンドディオラの領主からも大変価値のあるものだと言われていますので、安心してください」
そう言ってミラの黒鱗を一枚渡す。ミラからはどう扱おうが勝手にしろと言われているので問題はないだろう。それにまだ何十枚もあるうちの一枚だし。
「何ですか?やけに黒いですね・・・何かの甲殻とか鱗でしょうか?しかし大森林の門番が価値があると言うぐらいですから本当なんでしょうが、よく分からないですね」
渡された黒鱗を手に子爵は触り心地や色合いを確認しながら、これが何か考えている。
ガタッ!!
そこに何かに気付いた王女様が椅子をひっくり返して立ち上がった。その表情は驚きで溢れている。
「それはまさか黒鱗!!いや、我が国の国宝の倍以上の大きさがある!ギン様これをどこで手に入れました!」
近い近い。慌てて詰め寄ってきた王女様に落ち着くように言ってから、ミラから貰った事を話す。ミラもフェイも神様みたいな扱いを受けてるみたいだから、やり合った事は黙っておこう。その辺は隠しながら話をして今フェイとミラがサイの国にいると伝えると王女様は大慌てになった。
「オール!お前はすぐに城に戻ってこの話を母上に報告しなさい!私の名前を出して緊急の用件と言えばすぐにでも会ってくれるでしょう。私は子爵に送ってもらいますので心配は無用です」
オールにそう命令してから王女は子爵に帰る用意を始めるように指示していたが、途中『あの親父め』とか『砂の国にも報告しなければ・・・』とかブツブツ言っていた。そしてまた城に戻ると城の中を兵士やメイド達が忙しく駆け回り城内は何となく慌ただしい雰囲気に包まれていた。
「おお、姫様お戻りになられましたか。陛下よりすぐに会議室に来るように言われております」
「分かっている。申し訳ないですが、ギン様達も同席して下さい」
城の入口で馬車から降りた王女様に門番が女王からの呼び出しを伝える。俺はいい加減どこか宿でもとって休みたいんだけど、もう少しだけ付き合わないといけないみたいだ。
「戻りました、母上。それで私ですか?姉上ですか?」
会議室に入るなりアメリア王女が女王に尋ねる。主語がないから俺達は何の話かさっぱりだけど、二人はしっかり意思疎通は出来ているみたいだ。
「時間が惜しいからアデリアだ。先触れは既に城を出たから、アデリアも準備が出来次第すぐに出発させる。しかしサイ国の王め、ギン様達が教えてくれなければ会えず終いになる所だった。そして、ワイズナー子爵よ、ギン様から黒鱗を貰ったそうだな、見せてみよ」
「エッ!?・・・申し訳ございません。陛下。あれを流石に持ち歩く訳にはいかないので我が家に置いてきました」
その答えに女王は一瞬だけ怒りの表情に変わるが、すぐに元の表情に戻った。流石に国宝と言われる物をほいほいと外に持ち出せないのは当然と思ったみたいだ。
「これぐらいの大きさのものを子爵にお渡ししました」
女王の表情の変化を見逃さなかった子爵は大きな体を必死で小さくしているのが可哀そうなので、俺は同じ大きさの黒鱗を取り出して女王に渡す。
「こ、これは!!何と大きな!!我が国のものより倍以上あるではないか!」
王女と同じ感想をするのは親子だからって訳じゃないだろう。後多分この国の黒鱗は黒川がミラから貰った奴なんだろう。当時はまだミラは小さくてあれから500年経ってるからミラも成長したんだろうし、俺が貰った黒鱗が大きいのは当然だ。
「ああ、まだ持ってますからあげますよ。オール。お前もいるか?」
「いらねえよ!この国の国宝の物を俺みたいな平民にあげようとするな!貰っても換金できねえし、家で保管もしておきたくねえよ」
言われて見ればその通りか。っていうかこれって換金できないのか・・・どうしよう、まあ各国の世話になった奴等にお礼に配っていけばいいか。
「しかし、これを頂いても我が国からお返しできるようなものは何も・・・」
「ああ、だったらこれを4個ぐらい貰えませんか?」
黒鱗が欲しいけど対価が払えないと困っている女王に俺はある物を取り出し、提案をしてみる。
「げっ!それまだ持ってたの?いい加減捨てなよ」
「そうよ!それには嫌な思い出しかないからさっさと捨てなさい!」
取り出したものを見てトラウマを持っているレイと水谷が文句を言ってくるが無視だ。多分これが必要になると俺は考えているので予備を含めて要求してみた。
「これは、魔封じの首輪ですね。こんなもので良ければいくつでもご用意できますが?」
俺が欲しがったのはレイと水谷があいつらに捕まっていた時に嵌められていた首輪だ。『魔封じの首輪』名前の通りだな。
「いえ、4つで十分です。ああ、あと今日はオールを借りて行っていいですか?」
「え?ええ、構いませんが、他に何かないでしょうか?」
そう言われてもな~。欲しい物何かあったかな~。
「そ、そうだ、サイ国の王様とディオラの領主様からこんなの貰ったんですけどこの国でも同じ様な物貰う事って出来ます?」
そう言って黄門様の印籠並の効力がある手紙を女王に見せてみると、途端に顔が明るくなった。女王からすれば一筆書くだけだから費用はほぼゼロだが、その価値はかなり高いので十分黒鱗の代価になると思ってくれたんだろう。
「ええ、これぐらいお安い御用です。何でしたらこの国にいる間の費用は全て城まで請求するように書きましょうか?」
「いえ、そこまでして頂かなくても大丈夫です。街に入るのに住人専用の門から入れて、貴族から絡まれなくしてくれるだけで、十分黒鱗の代価になります」
「ありがとうございます。すごく助かります。よっし!オール、飲み行くぞ!お前のおススメの店に案内しろ」
そうして魔封じの首輪と印籠を書いて貰ってお礼をいった後、俺はオールの肩を組んで部屋から出て行こうとすると、レイ達3人から服を掴まれて止められる。
「??うん?まだ何かあった?」
「あった?じゃないわよ!大事な事聞いてないわよ!馬鹿じゃないの?」
「お城に来てからずっとギンジ君のペースで話が進んでたから我慢して待ってたんだけど、流石に忘れているとは思ってなかったよ」
「ギンジ、ホントに冷たいわね~。ボッチだった理由が分かるわよ」
何故か3人が軽く怒っているのか呆れている様子だけど、俺何かしたか?何か聞き忘れている事あったか?
「「「はあ~」」」
俺の顔見て3人とも大きなため息を吐く。いや、忘れている事はないはずだ。明日にはカークスに向かって出発するだけ、特に食材や道具の補充は必要ないはずだ。フェイにやられたから通る街で片っ端からポーションは買い込んでおいた。ガルラとフィナを見ても「さあ?」って顔してるから大丈夫なはずだ。
「クラスメイトの事何も聞いてないでしょ?」
・・・・・
「・・・・ああ!」
そう言えば全く気にしてなかった。
「『ああ!』じゃないわよ。どんだけクラスメイトに興味ないのよ」
「う~ん。ギンジ君って興味ない事に信じられないぐらい無関心だよね」
「でも土屋って日本でもそんな感じだったわよね。私と安奈が話しかけても全く興味なさそうだったし、大変だったんだから」
・・・そう言われると何も言えない。実際今の今まで言われるまでクラスメイトの事なんて思い出す事すらしなかった、何かもうクラスメイトって他人としか思ってない自分がいる。東達は俺達の為に色々してくれたから別だけど・・・。
「それで女王様。この国に召喚された勇者様はどこにいるんですか?あと名前を教えて下さい」
「勇者様は遠征中です。現在は第2騎士団とオークの巣の討伐に向かっています。勇者様の名前は『タイガ』と言います」
タイガ・・・タイガ・・・誰だ?苗字は?
「タイガ・・・・山内君だね」
「あいつか~調子良い奴だったわね」
「東君達のグループだったから東君と江澤君の事知ったら悲しむかな」
ああ、あいつか、東達グループの盛り上げ役で少し騒がしかった奴だ。少し空気読めない発言したりいきなり慣れ慣れしく話しかけてくるから困った奴だとノブが言っていた。
「オークの巣の討伐って山内がソロで行ってんですか?」
俺の発言に3人が呆れた目線を送ってくる。どうせ最初に聞く事がそれ?とか思っているんだろうけど、冒険者だから強さが気になるのは仕方がない。聞かれた女王は驚いた顔をして否定する。
「ま、まさかオークの巣をソロでとか危険すぎますよ。第2騎士団と一緒です」
「オール、って事はDランク相当って強さだな」
水の国でオークの巣を討伐した時の事を思い出す。あの時はBやCランクがいたが第2騎士団ならその代わりになるだろうって事でオールに確認してみる
「まあ、ついて行った第2騎士団の面子と人数から考えれば、そのぐらいだな。ただ勇者様には土魔法があるから、もう少し強いかも知れないけどな」
やっぱりオールも俺と同じ認識みたいで安心した。俺のパーティは全員オークの巣ならソロ討伐出来るぐらいには強いから山内はあまり戦力として役に立たなさそうだ。まあ、これは俺の自己満足の復讐なので、出来ればレイ達も巻き込みたくないが、既に3人とは因縁の相手を任せる約束をしてしまっているから仕方ない。
「それじゃあ、聞く事も聞いたし・・・イテテテ」
外に行こうとした所でヒトミから耳を引っ張られた。もう聞きたい事は何もないはずだ。
「もう、私達が聞いた事を手紙に残して行かないと!私達が書くからギンジ君はもうちょっと待ってて!」
え~。別に山内の事なんてどうでもよくね・・・なんて言うと3人から怒られそうだ。ただ俺はオールに・・・懐かしい奴に会えたから酒飲みながら色々話を聞きたい気分にもうなってしまっている。
ドン!
「よし飲むか・・・すみません」
酒を出したらものすごい冷たい目で3人から睨まれたのですぐに謝る。そうしてしばらく待つと手紙が書けたみたいだ。砂の国と同じように日本語で書かれているので内容は山内から聞いて下さいと言ってから俺達は部屋を後にした。
「オール!お前は明日ギン様達を見送った後は報告に来い!こちらも聞きたい事が山ほどあるからお前はしばらく私に付け。第3騎士団にも連絡しておくから明日からはここか政務室に来い」
俺が肩に腕を回したオールは女王の言葉に器用に敬礼してから返事をしていた。
「おい!ギン!お前のせいでとんでもない事になったじゃねえか!何で平民の俺が女王様の下につく事になってんだよ!」
オールおススメの店に案内されて乾杯直後にこれだ。全くこれぐらいのトラブル冒険者だった頃にはよくある事だ。対応できねえと死ぬぞってお前等にもさんざん言われた事だけどな。・・・・まあこれはちょっと対応できないか
「まあ気にすんな。出世したから素直に喜んでおけって、しかしうめえな。この店の料理」
「ハハハ、だろ?『黒都』出身の同僚に聞いたんだよ、これがこの国の伝統料理『おでん』だ。何でも『建国王妃』様が試行錯誤して考えたらしいぜ」
・・・・・・
料理をおいしいと言って食べていた俺含む召喚組の動きが止まる。・・・違う、断じてこれはおでんではない、おでんの味ではないが煮込んであるからそれに類似したものだろうし、美味しいって事は認める。
「う~ん・・・ポトフって言った方がしっくりくるわね、和風じゃないし」
「おお!そうだね!レイちゃん流石!」
「コンソメスープ飲みたくなってくるわね」
店員さんもオールも聞いているから3人は思った事を口にするのはやめて欲しい。俺も3人の意見と同じだけど何も言わずにオールから色々話を聞いて楽しく過ごせた。やっぱりドアールの頃を、師匠達の事を知ってる奴がいると話が弾む。