124話 女神教
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どう言う意味だ?と思い3人の顔を見るけど、誰も分かっていないみたいだ。
「お前たちのせいだ!お前たちのせいで儂はママと離れ離れになったのじゃ!それなのにお前達はママを覚えていないし感謝もしないのじゃ!」
今まで静かだった黒龍が溝口の話題になるといきなり騒ぎ出した。しかし言っている事が全く理解できない。
「黒龍殿、そなたも納得したではないか」
「で、でも。それでも寂しいもんは寂しいんじゃ」
そう言って大声で泣き出した黒龍に俺達は戸惑いながらフェイを見るが、慣れているんだろうフェイは黒龍を抱き寄せ優しく頭を撫でながら話を続ける。
「言った通りじゃ。アンナはまだ死んではおらん。教国の白塔の下でこの500年ずっと眠っておる」
「えっと。それってお墓で眠っているとか、そんな感じですか?」
「死んではおらんと言っておるじゃろ。アンナはまだ生きておる。まあ起こしにいく必要があるがな」
ヒトミの問いに呆れるように答えるフェイ。500年も人は寝てられないというか生きていられないんだけど、どう言う事なんだ?黒龍が溝口の事をママと呼んでいるのに関係あるのか。
「って事はまた安奈に会えるの?また会って話が出来るの?」
「そうじゃ。儂もそれになにより黒龍殿はずっと待っておったからな」
「ほ、本当なの!よ、良かった。安奈とはもう会えないって思っていたのに・・・」
フェイの言葉を聞くと水谷とレイとヒトミは涙を流しながら嬉しそうに喜んでいる。3人は親友とまた会えるって話をすぐに信じたみたいだけど、俺は未だに信じられない。
「さっきも言ってたけど安奈が寝てるってどういう意味よ」
3人で喜びあっていたけど、しばらくして落ち着ついたのか水谷がフェイに質問する。俺もさっきから『溝口が眠っている』事について考えているが意味が理解出来ていない。
「そのまんまの意味じゃ。アンナはお前達勇者を召喚する力を集める為に、今もまだ眠っておる」
・・・・・・・
??やっぱりよく意味が分からないな。周りのみんなを見ても良く分かっていないみたいだし、俺だけが理解していない訳じゃないみたいだ。
「よ、よ、よく分かんないけど、安奈は今もまだ生きているって事でいいのよね?」
水谷が動揺を抑えきれないのかフェイに尋ねる。
「だからそう言っておるじゃろ。今も教国の神官が『回復魔法』を使えるのがその証じゃ」
??また訳分かんなくなってきた・・・取り合えず溝口は生きている、眠っているだけらしいから起こせばいい。そこまではOK、分かった。
「そうじゃな。まずは最初から話すとお前達も全員イチ様達と同じ時にこの世界に召喚されたんじゃ」
俺達の頭に?マークが見えたのか、フェイは大きく溜め息を吐くと話を始めた。また訳わかんなくなってきた。
「そ、それなら何で500年も時間に差があるのよ!」
当然の疑問にすぐに水谷が食いつく。東達と一緒なら何で俺達だけ500年後に召喚されたか意味が分からない。
「召喚するときに必要な生命力が足りなかったらしい。それでお前達は時空の狭間と言われておる所で眠っているんじゃないかとヨミコが言っていたな。詳しくは儂も分からんが召喚装置を作った本人もそんな事言っておったのだ、間違ってはないじゃろう」
「ちょっと、待て!俺達を召喚した装置を作った奴を知っているのか?そいつは何で俺達を召喚した!」
「作った奴はバッジワーグ・・・ドワーフの国の初代国王じゃ。あいつも最初は『帝国』・・・いや『カラ国』の奴隷じゃったそうだ。カラ国は他国に攻められ滅亡間近と言う時に、バッジに命じて作らせていた召喚装置がなんとか完成し、戦力として召喚されたのがイチ様達じゃ。勇者達全員魔法を使えるのはその装置のおかげだそうじゃが、詳しい事は知らん。それでその時お前達も一緒に召喚されたらしいのじゃが生命力不足でこちらに召喚は出来なかったそうじゃ」
思った通り俺達も戦力として召喚されたのか。そしてさっきから生命力不足って言葉が何となく不吉過ぎるな。
「そ、それなら帰る方法もどうすればいいか分からないの?」
「お前達の国『ニホン』と言ったか?そこで同じ装置を作って召喚して貰えばいいそうじゃ。それを聞いたイチ様達はすぐに帰る事を諦めたよ。まあお前達も帰った所で500年は経っているから既に知り合いは誰もおらんじゃろ」
「なっ!!」
「500!!」
「な、何で日本も500年も経っているのよ」
「そりゃあ、お主達は500年眠っていたんじゃ、当然じゃないか」
当たり前のように言うフェイに驚くが、東達と召喚時期が同じならそれは当然の事か。そして勇者が全く必要ないこの時代に俺達が召喚された理由がこれでようやく分かった。
俺達を日本に戻すのに同じ事をすればいいってのは当然の事だけど、日本で誰がやるんだって話だ。大体日本にその装置を伝える手段がないから、東達も早々に諦めたんだろう。
「分かってはいたけどやっぱりもう帰る事が出来ないって辛いわね」
「そ、そうか~。もう誰もいないのか~。みんなどうなったかは気になるな」
「・・・・そうなのね。もう私達はこっちで生きていくしかない訳ね」
しばらく驚いていた3人だったが、レイとヒトミは帰れる可能性はないとほぼ諦めていたので、帰れないという事実を受け入れるのも早くすぐに気持ちを切り替えているようだ。水谷はさっきまで帰れる可能性を捨ててはいなかったのか、今、ようやくこっちで生きる事を決めたみたいだ。
「それで、力不足って事と溝口が眠っている事と何か関係があるのか?」
「今は教国の神官しか回復魔法が使えない事は知っておるじゃろ?それは教国の神官共はある魔道具を使ってアンナの使う回復魔法を引き出しておるんじゃ。そして回復された奴等やそれを目にした奴等は女神に感謝して礼拝に行くじゃろ。各礼拝堂には生命力を少しだけ回収する魔道具が埋め込まれており、それで必要量溜まった所で眠っていたお前達を召喚させたんじゃ」
生命力勝手に吸われるって酷くね?
「大した事はない。毎日礼拝している教会の人間でも寿命にそこまで影響ないと言っておった」
それ具体的にどれくらいの影響があるんだ?と思ったけどフェイの口ぶりから詳しくはわからなさそうだ。それにしても500年もそれを集めていたなら最初の召喚はどれだけ生命力使ったんだ?
「4千人生贄にされ、それでも半分も召喚できなかったそうじゃ。」
・・・よん・・・俺の疑問に想像以上の答えが返ってきた。4千人ってマジかよ。
「い、生贄って・・・ま、まさかその4千人は・・・」
「全員死んだそうじゃ。その事もイチ様達がニホンに帰るのを諦めた原因の一つでもある」
あ、当たり前だ。4千人が犠牲ってヤバすぎだろ。自分達が知らない内に人を殺していた事を知ってレイ達も青い顔してる。
「そ、それで、召喚に必要な力を集めていたって事か」
「そうじゃ、バッジもいない今、失敗は許されないからな。かなり余裕をもって溜めていたはずじゃ。そして十分溜まったからお前達がようやく召喚されたんじゃ。予想では早ければ400年遅くても700年ぐらいと見ていたからな。少し早いぐらいだな」
俺達が召喚される時期があれだけ幅があったのはこれが原因か。
「そ、それじゃあ、安奈は?もう役目も終わったなら目覚めてもいいはずよね?」
「それには教国に行かねばならん。あの国の白塔、その地下にアンナは眠っておる」
「それなら何でお前はすぐに起こしにいかなかったんだ?お前の力や伝説ならすぐにでも起こせたんじゃないか?」
サイの国の王様達の言動を見ると、何でも協力してくれそうだし、それがなくてもこいつらは教国の兵を二人で追い返したんだ、強引にでも起こしにいけたはずだ。
「アンナからは2年は様子を見るように言われておった。それで世界が平和のままなら起こす様にと、まあ心配した通り争いを始めたのでな。全てが終わってから私と黒龍殿で出るつもりじゃったが、このザマじゃ」
あれ?何でそんな目で俺を見る?俺が悪いの?先に仕掛けてきたのそっちだよな?
「それは勇者の数が均等にならなかったからじゃない。そもそも火の国って最初から戦争する気満々じゃない。・・・まあ、私の所もだったけど」
水谷が呆れたように言うけど、数がバラバラなのは教国の仕業だってサイ国の王が言ってたから、フェイに言っても仕方ない気がする。
「攻めて来た教国の奴等を拷問して聞いたが、まさか召喚装置の使い方が伝わっておるとは儂等も誤算じゃった。信じて欲しいのはイチ様達は本当にお前達の為に色々な事をした。各国に召喚される勇者の数がなるべく均等になるように、また召喚された勇者は丁重に扱うように言い残していた。召喚された国から出奔しないように自分達の名前を歴史から消した事もそうじゃ」
「な、何で名前を消す必要があったのよ?」
「もし、国を興したのが知り合いだと知ったらどうする?何か手がかりがないかとか気にならんか?」
た、確かにもしノブが風の国を興した奴だって分かったら俺は必ず風の国に向かったはずだ。っていうか東達どれだけ俺達の事を考えてくれたんだ。唯のクラスメイトだったってだけなのに。
「それでも出奔して『野良勇者』になった場合を考えて、ヨミコとマリが冒険者ギルドを作った。何かしら金を稼ぐ手段を用意しておかないといかんからな。後はサイの国は勇者召喚に参加する事を禁止し、もし野良勇者が訪れた場合は、イチ様と同じ扱い・・・つまり王族より上の扱いをするように伝え残した。あとは、お前達もサイの国で見ただろう。イチ様が残したニホンの言葉で書かれた伝言を」
ギルドもかよ。あいつらどれだけ俺達の為に色々やってくれてるんだよ。
「サイの国が勇者召喚に参加しなかった理由は?」
「国から出奔する理由はいくつか考えられるが一番最悪なのが、この世界を恨む事じゃ。勝手に召喚されたらそりゃあ誰でも怒るじゃろ。それで国を出て復讐を始められると勇者の力だとかなりの被害が出る。そんな時に勇者召喚に参加していない国があると聞けば気にはならんか?何故参加しなかった?とかな。まあ、それも賭けではあったがな。さすがに目に余るようなら儂等が止めるように言われておった」
「お前等が東に言われていた事は、溝口を目覚めさせる事、暴れる勇者がいれば止める事だけか?」
「いや。もう一つ。影魔法使いが出た場合は頼むと言われている。じゃから『大頭領』と『教祖』の時は儂等が出ていって倒した。儂等が倒したと広まるといつ影魔法使いが儂等を狙ってくるか分からんから、倒した手柄は人に譲ってやったんじゃ」
それでフェイの名前が出てきてないのか。
「過去の歴史から影は悪と決めつけてしまっていたからな。今更じゃが悪かったな。ただし、あんまり影魔法を教えるのはやめてもらおう。アレは本当に他の魔法より性質が悪いからな」
フィナを見ながら咎めるように言ってくるが、俺としては極めた属性魔法の方が性質が悪いと思うんだけどな。
「そう言えば『女神』ってのは誰の事だ?」
「マリとアンナの事じゃ。アンナは『上級治癒』マリは『上級治癒』『蘇生』が使えたからな。各地で治療や蘇生を行っていたらいつの間にか『女神』と言われておった。『女神』マリアンナ・・・いつからか二人はまとめてそう呼ばれるようになっておった。まあ『女神教』を作るのに都合は良かったからイチ様達も敢えてそう呼ばせて広めていたがな」
女神もクラスメイトっていうか二人合わせてそう呼ばれていたのか。
「女神教を作った理由は」
「さっきも言った通り、生命力を集めるのに都合が良かった。既に女神は回復魔法が使えると広まっておったから、そこの神官なら当然信用された」
あれ?でも建国王の東と建国王妃の黒川も回復魔法使えたのに何で溝口と西園寺だけが?
「イチ様とヨミコは『治癒』までしか使えんかった。それに二人とも自分の国を興すのに忙しかった」
「あれ?それなら教国興したアンナと西園寺さんも忙しかったんじゃないの?」
「そういうのは初代教皇のハイゼがやっておった。あいつは二人の女神に命を救われて心酔していたからな、色々有能じゃったし丁度良かった」
「最後に『沼』ってのは結局誰だったんだ?俺達と同じ異世界人だったんだろ?」
「儂がイチ様に出会った時には既にあやつは『皇帝』と名乗っておったが、儂やフォードは『沼』と言っていた。まあ、イチ様達はずっとは『沼田』と言っておった。」
フェイの言葉に俺達の間に緊張が走る。
「えっ!ちょっと嘘でしょ!」
「ありえない・・・と思いたいけど、ここまで来たらあの人以外いないよね」
「・・・う、嘘つく理由もないもんね」
3人が驚く中俺はフェイに質問する。
「その『沼田』って東達の先生だったやつか?」
そうフェイに質問しながらあいつの事を思い出す。俺が水着窃盗が冤罪だと何を言っても信じてくれなかった、クソ教師『沼田春人』の事を。
「ふむ、流石勇者と言うのは嘘じゃないな。確かに『沼』の奴はイチ様達の先生だったとバッジワーグに聞いておる。ただ、それが本当か一度だけフォードがみんなに尋ねたら物凄く怒って答えてくれなかった」
「そ、そりゃあみんな怒るでしょ。担任の先生が私利私欲に走って、教え子と殺し合いまで始めるなんてどう考えても駄目でしょ」
その後の話は世界統一間近だったところを東達が押し返して『皇帝』を倒したと、まあ俺も大体知っている通りだ。
「他に何か聞きたい事はあるか?」
「ねえ、その子、安奈の事『ママ』って言ってるけど、どう言う事?」
「黒龍殿はアンナの『召喚』でこっちに呼び出されたからじゃ。召喚前の記憶はないそうだから、アンナが創造したんじゃないかとかイチ様達は考えていたが、結局はよく分からん」
溝口って『召喚』なんて使えるのか?聞いた事ないからそれもかなりのレアスキルのような・・・まあ、起きたら詳しく教えて貰おう。
「おばあさま。お連れしました」
しばらくするとシルカが戻ってきてフェイに声を掛ける。その後ろには見覚えのある大男を見て俺達は動きを止めた。向こうも俺達が誰か分かると一瞬だけ動きを止めたが、反応はそれだけで、すぐに興味を失くしたようでフェイに顔を向ける。日本にいた時と同じように他人に興味がないのは相変わらずだ。
「ま、待木君?待木だよね?」
ヒトミの問いにこちらを見てコクリと頷くが反応はそれだけだ。ノブが俺以上に変わった奴がいると言っていたが、こいつがそうだろう。『待木哲雄』俺達のクラスメイトで寡黙で俺以上に他人を寄せ付けない奴だとノブが言っていた。噂では空手の有段者で滅茶苦茶強いらしく、金子達でさえビビッて絡む事もしない奴だと聞いていた。
「反応薄いな。久しぶりに会ったんだ、もう少し反応したらどうだ?」
特に敵意もないみたいなのでクラスメイトなんだし、気安く話しかけてみる。
「・・・土屋か。お前少し性格変わったな?前はそんなに気さくに話してくる奴じゃなかっただろ」
そう返されて言葉に詰まる。待木の言う通り、確かに日本にいた時は絶対に気さくに話す事なんて無かっただろうと思ってしまった。それよりも待木がそこまで俺の事を見ていたのに驚きなんだけど。こいつ日本にいた時俺と仲良くなりたかったのか?
「まあ、俺も色々あってな。それよりも色々と情報共有がしたい」
「ああ、それは有難い。こっちに来てからずっとここにしかいないから何も分かっていないんだ」
待木の言い方に何となくフェイに文句を言いたいが、そのフェイは既に俺に背を向けて歩き出している。そうしてそのまま世界樹の下に建つ家に案内されてリビングに通されたので、みんな思い思いにその辺の椅子に座り説明を始めた。
「・・・・・・・フェイ?」
俺達からの説明が終わるとしばらく考え込んでいた待木が、少し怒気を含んだ声でフェイに話しかける。結局待木は何も分からないまま大森林の深部から出る事なく、ずっと体を鍛えていたとの事で俺達が得られる情報は皆無だった。逆に待木は俺達からかなりの情報がもたらされた。
「い、いや、違うぞ。こ、これはイチ様達からの命令だったんじゃ。『テツ』を2年はここから出さずに世界の情勢を把握しろ。安全が確認されたらアンナを起こしに行けとな」
待木からの非難めいた視線に慌てて言い訳をしてくるフェイ。こいつがここまで狼狽えるって事は待木ってこっちでも強いのかな?いや、それよりも・・・
「ちょっと、待って。その言い方だと待木だけがここに召喚される事が分かっていたみたいじゃない」
俺が言おうとした事を先に水谷が口にする。
「そうじゃ。『テツ』だけはあの召喚装置で儂の所に召喚される事が決まっておった」
「な、何でよ!待木ってそこまで東達と仲良くなかったじゃない!っていうか土屋と同じでボッチだったじゃない!」
「おい!俺はノブと仲良かったぞ。ボッチじゃねえから!」
「ギンジ、ちょっと黙って」
「ギンジ君は津村君と仲良かったけど・・・まあ、一人も多かったかな」
彼女二人が俺に冷たい。少し落ち込むが二人はそんな俺の事より話の続きを気にしている。
「アンナを起こすのに絶対に『テツ』が必要だと言われたんじゃ。逆に『テツ』が死ねばアンナはもう起こさなくていいとまで言われておる。じゃから儂の役目はアンナの元に無事『テツ』を連れていく事じゃ。それが先程儂等がお主らに命乞いをした理由じゃ」
フェイの言葉に一同固まってしまう。フェイの話だと待木は東達の中で一番重要人物のようだ。仲良くもないクラスメイトの為に、ここまでしてくれた東達にそこまで言わせるって待木は何者だ?
「な、何でよ?待木が必要なのよ?私達も言っておくけど安奈の親友よ!私達が行っても目を覚ましてくれるわよ!」
水谷が気を取り直してフェイに叫んでいる。確かにレイ達4人はよく一緒につるんでいるのを見たから、水谷の言う通り親友なんだろう。その親友じゃなくて何故待木じゃないと目を覚まさないのかと言う事を考えると、俺は何となく答えに行き着いてしまった。
「待木、溝口と付き合ってたのか?」
「ああ」
行き着いた答えが正しいか待木に質問すると、短い肯定の返事が返って来た。まあ少し意外だがそう言う事以外にはないだろう。
「「「は、はあああああああ???」」」
俺は待木のその答えに納得いったが、溝口の親友3人は納得いっていないのか大声をあげた。
「ちょ、ちょっと待って。待木。あんた安奈と付き合ってたの?」
「いや、嘘でしょ。二人が絡んでいる所、見た事ないよ」
「そうよ!安奈彼氏いないって言ってたわよ。待木君嘘は良くないな~」
3人は認められないのか口々に驚きの声を上げるが、信じたくなくても今のこの状況で信じざるを得ないと思うんだけどな。
「中2からだ。」
「「「・・・・・・」」」
待木の追撃に3人とも動きが止まる。そして何か言いたそうな顔で俺を見られても困る。
「あいつ~。彼氏欲しいとか言っておきながら噓ばっかりじゃないの」
「安奈ちゃんは起きたらお説教かな」
「安奈の奴、マジで起きたら覚えておきなさいよ」
3人とも親友の裏切りに怒っている中、俺は待木に話かける。
「何で付き合ってる事黙っていたんだ?」
「聞かれた事が無かったからな」
ああ、そういう事か。ボッチのこいつは誰にも話しかけられなかったのか。っていうか見た目も不機嫌そうな顔して背も高いから話しかけにくいもんな。師匠達の悪人顔に慣れた今の俺なら何も思わないけど、あの当時ならビビッて話しかける事に絶対躊躇っていた。
「それで?フェイ、サイ国と砂の国のトップから救援要請が来てるけどどうするんだ?」
未だに溝口の文句を言っている3人は置いておいて、俺は今後の予定を考える為にフェイに預かった手紙を渡しながら質問してみる。
「断る。何か勘違いしておるみたいじゃから、言っておくが、儂は人族が嫌いじゃ。仲間と『テツ』だけは特別だがな。『大頭領』や『教祖』を倒したのはイチ様に頼まれておったから嫌々じゃが手を貸しただけじゃ」
まあ答えは変らないか・・・東達に会う前にどんな目に遭っていたか考えれば当然だとは思うけど・・・渡した手紙は一応目を通してから答えてくれ。・・・あれ?
フェイの返事にふと思った事があるので、仲間の獣人に目を向ける。
「なあ、ガルラとフィナももしかして?」
「ああ、人族は嫌いだぞ。主殿達は別だがな」
「私の村を襲ったんだから好きじゃないな。あっ。お兄ちゃん達は別だよ。クーミお姉ちゃん達も大丈夫かな。でも知らない人が助けてくれって来ても助けようとは思わないな」
知らなかった。・・・でもよく考えれば二人とも人相手の時は全く手加減しなかったな。俺が殺すなって言ってなかったらもしかしたら簡単に殺しまくっていたのかもしれない。
意外な事実を知らされて少し驚いたが、気を取り直して明日からの予定を立てる。
「まあ、断られる事は分かっていたから、別にいいさ。それよりも金子達は俺が殺すから世界が平和になるにはもう少し待っててくれ。あいつらを殺したら多分火の国は各国から責められて滅ぼされるだろう。そしたら多分もう安全なはずだ。それまで待っててくれ、平和になったら連絡でもいるか?」
「儂等はたまに外に出て情報を集めておるので、自分で安全か確認してから動くから連絡はいらん」
??あれっ?なんで外に出てるんだ?エルフって大森林から出てこないって聞いているぞ。
「ふぉふぉふぉ。儂等は精霊魔法の『変化』が使える。それにこれもじゃ。バッジワーグ特製の変化の腕輪じゃ。これがあれば魔力を使わず魔石があれば見た目なんてどうとでもなる。大体500年近くもずっとここにいたらボケてしまうわい。これを使って里の様子や獣人の様子、人族の街で食い物等を買い込んでくるんじゃ」
どこからか取り出した腕輪を見せてくるフェイ。その姿が若いエルフや、獣人、人にコロコロ変わっていくので、正直驚いている。そしてものすごいこの魔道具欲しい。
「な、なあ、その魔道具いくらだ?」
「売りもんじゃないわい。欲しけりゃドワーフの国に行け、王に儂の名前を出せば特別に譲って貰えるように話はしておいてやろう。代わりに各国の王共に儂が影以外で人の為に動く事はないと伝えておけ」
よし、交渉成立だな。これがあれば悪さし放題だけど別にそう言う事をするつもりはない。ガルラとフィナがどうしても目立つ為、街に入る時だけでもつけてもらおうと考えただけだ。
「それじゃあ、用も済んだし明日にはここを出る事にするけど、普通に出て行っても問題ないか?」
「ああ、別に問題はないが、ちゃんと道を通って出て行ってくれ。見張りの奴等が獣人に連れられたお主達がどこに行ったかを気にしておるからな」
まあ、それぐらいなら別に文句はない、むしろサンドディオラの領主シャルロットに挨拶はしておかないとマズいだろう。なんて考えていると、
「なあ、土屋、俺も連れて行ってくれ」
今まで興味なさそうに俺の出したコーヒーを飲んでいた待木が話しかけてきた。俺達は今からクラスメイトと殺し合いに行くって言ったはずなんだけど、ちゃんと話を聞いていたんだろうか。
「だ、ダメじゃ、テツ!お主何を言っておる!お主にはアンナを目覚めさせる重要な役目があると言ったろう」
フェイが慌てて待木を止めにかかるが、待木は手の平をフェイに向けて止める。
「フェイ。頼む。俺も外の様子が知りたい」
待木はフェイの両肩を掴んで顔を近づけて軽く揺すっているだけだが、みるみるフェイの顔が赤くなってくる。いくらエルフと言ってもババアの赤らめ顔は見ててキツイな。いい年して何考えているんだ。
「・・・あう・・・だめ、だめじゃ「フェイ!」・・・はい」
チョロ!何だこのババア、待木の一声にすぐに意見を変えやがった。まあそれはどうでもいいが俺はまだOKしてないんだけどな。
「俺達は先にやる事があるから、溝口を起こすのはその後だ。まあ火の国を黙らせないと教国にもおちおち行ってられないしな」
「何故だ?」
「そりゃあ、火の国と教国が裏で手を結んでるからな。教国に向かってるのがバレて挟み撃ちにされても困るからな。まずは火の国を潰す」
必ず金子達を殺す為にも火の国を先に相手する。幸いフェイ達が教国の兵をボコボコにしたらしいので、教国から攻め込んでくる事はないだろうし、その戦力があれば再び大森林に攻め込むだろう。
「フェイ達が手を貸せばすぐに終わるんじゃないか?」
「嫌じゃ。人族の事には関わらなくていいとイチ様から許しを貰っているから関わるつもりはない。人族同士勝手に争っておればいいんじゃ」
待木の問いに分かってはいたけど、やっぱり即答だよ。フェイってどれだけ人族嫌いなんだ。この様子だと待木が頼んでも駄目だろう。
「それでついてくるのはいいけど、関係ないお前を戦争に巻き込む訳にはいかないから、サイの国までならついてきてもいいぞ。あと、道中自分の身は自分で守れよ」
「分かった」
自分の身は自分で守ってもらわないと、俺達も困る。
「ふん、心配いらん。儂と黒龍殿もついて行ってやる。勘違いするなよ儂等はテツの護衛じゃから戦力に数えるなよ」
フェイ達がついてきてくれるらしいのでこれなら待木の心配は要らないだろう。伝説の2人に護衛されるってすげえな。
「おばあさま!!」
フェイのまさかの言葉にシルカが絶叫するが、フェイはどこ吹く風だ。まさかこいつらが待木の護衛として大森林から出るなんて思ってもなかったんだろう。俺達も誰もこういう展開になるとは予想してなかった。
「シルカ、しばらく儂は外に出るが、まあ、何かあれば『デンワ』使って連絡すればいいさ。教国の連中はこの間コテンパンにしてやったから、しばらくは来ないだろう」
その言葉を聞いてもいまだに何か言いたげなシルカだったが、我慢して頭を下げた。そして俺にはまた気になる単語が・・・
「おい、『デンワ』って何だ?」
「イチ様達から話を聞いてバッジが作ったからお主達なら知っておるじゃろ?大分形は違うがここに魔石を嵌めると、もう一つの『デンワ』を持っている相手と話が出来る魔道具じゃ」
そう言って持って来たのはでけえ受話器に似たものだった。まあ東達から話を聞いて作ったんなら似ていても不思議では無い。しかしさっきから名前があがるバッジワーグってのは天才かよ。どんなものを開発したのか今度フェイから詳しく聞こう。
「そう言えば教国って何で大森林に攻めてきてんだ?」
「向こうもどういう訳か『テツ』を狙っておる。まあ、ハイゼの事じゃ、隠れて遺言でも残していたんじゃろ」
ま~た、気になる事を口にする。
「ああ、ハイゼは命を救われてから『女神』に心酔していたからな。『女神教』を広げるのに丁度いいかと初代教皇を頼んだんじゃが、思いが強すぎたのか少しやり過ぎる事もあったんじゃ。それ以外は良かったと思っておったんじゃが、まさか攻め込んでくるとは思っておらんかった。全くどう言い残していったのか」
俺の視線に気付いたのか説明してくれるが、やっぱり当事者じゃないとよく分かんないな。