12話 依頼と生活魔法
しばらく森の中を進むと周りに木が生えていない広い場所に出た。先程と違うのは広場の中心にでかい木が立っていて、広場を覆うようにして枝が伸びているので、全体的に薄暗い場所だった。マップで見ているので分かるがそこが魔力草の群生地で薬草と同じようにたくさん生えている。
「うお、またかよ、何でこんな場所が見つかってねえんだよ。いや、こりゃヤベえぞ、ギン今日だけで金貨2枚以上は稼げるぞ、ガハハハハ」
師匠は相変わらず楽しそうだ。
「それじゃあ、採取していくぞ。刈り方はさっきと同じだ根本から刈るとまとまるからそれで1個って数えるからな。取り合えず今日は俺が刈っていくからお前が採取していけ、カバンが一杯になったら声を掛けろよ」
そう言って師匠と二人で役割を決めて採取をしていく。二人で黙々と作業していると、マップに反応があったので、動きを止めて師匠に声を掛ける。
「師匠、何か来ます、左斜めぐらいからです。」
俺が声を掛けると、師匠もすぐに身をかがめて辺りを警戒するが、すぐに師匠が安心したように屈めていた体を起こす。
「ギン、反応は3つであってるか?それならあれだ、スライムだ。丁度いいし、魔石も回収しとこう。こっち来いギン、まずは手本見せてやる。」
反応は3つで合ってる事を教えると、魔力草の採取からスライムの魔石回収をする事になった。スライムはまあ想像通り半透明のゼリー状の見た目で、俺の腰ぐらいの高さだが、動きもかなり遅いのでこれなら俺でも簡単にやつけられそうだ。
「それじゃあ、体ん中にある魔石が見えるか?あの石ころみたいな奴だ、あれをこうやって手を突っ込んで取り出す。これで終わり、簡単だろ?」
師匠は無防備にスライムに近づくと、やり方を教えながら手をスライムに突っ込み中にある石みたいな奴を掴むとそれを引き抜く。見た感じ簡単そうなのでこれなら俺でも出来そうだ。
「ただし打撃とか斬撃は全く効かないからな、逆に武器にスライムの酸が付いて駄目になるから気を付けろよ。」
俺が手を突っ込もうとした所で、師匠から注意される。スライムのこのゼリーみたいなのって酸なんだ。少し躊躇うが覚悟を決めてスライムに手を突っ込む、ひんやりして中々気持ちいい・・・なんて考えてる場合じゃない、魔石を掴むとそのまま腕を抜く。魔石を抜かれたスライムは地面にデロ~って感じで広がった。
これで終わり?結構、いやかなり簡単だな。
「ほら、さっさともう1匹もやれ」
師匠に言われて続いて2匹目も同様にして魔石を抜き取る。やっぱり結構簡単だ。
「お疲れ。終わったら腕を水で洗い流しとけよ。洗い残しがあると腕がヒリヒリしてすぐに分かるから、そしたらもう一回洗え」
そう言いながら師匠は手から水を出してさっきスライムに突っ込んだ方の手を洗っている。
おお、師匠すげえ。魔法だよな?初めて見た・・・いや兵士達が『光』使ってたけど、こんなにじっくり見るの初めてだ。すげえ!・・・・・うん?いて?いててててて、腕がヒリヒリする。
慌ててカバンから革袋を取り出し、中に入った水で腕を洗う。すぐに腕のヒリヒリした感じはなくなったが、師匠が呆れたように俺を見ている。
「だから、早く洗い流せって言ったじゃねえか。ぼーっとしやがって、スライムでも死ぬ事あるんだから気を付けろよ」
「スライムで死ぬってどんだけ弱いんですか?さすがにこれにやられるって想像できないんですけど・・・」
「まあ、滅多に無えけど、街道で酔いつぶれて寝てたらスライムに溶かされたって話は年に数回聞くな。」
ああ、それはありそうだな。けど年に数回もあるのか。
「あとはスライムと一緒に樽に入れて溶かす拷問とか、暗殺ギルドにはスライム部屋ってのがあって、死体をスライムで溶かして証拠を消しちまうって話もあるな」
それを聞いて俺は何て言えばいいのか・・・取り合えずそんな事を考え付いた奴は悪魔だろ。頭おかしいぞ。
その後はまた魔力草の採取を再開して1時間程で粗方採取も終えた。
「しかし、ギン、お前のその『魔法鞄』容量ヤベえな、魔力草も全部入ったじゃねえか。」
「いや、実を言うともう結構ギリギリですよ。今までどれだけ入るか試した事無かったんですけど、大体の入る量がようやく分かりましたよ。ハハハハハ。」
噓です。まだ全然余裕そうです。マジで『影収納』容量制限あんのかな?
「そうか?まあ予想だけどその『魔法鞄』白金貨ぐらいするんじゃねえか?爺さんに感謝しとけよ。それ売ればしばらく遊んで暮らせるぞ。あと、しつこいようだけどそいつの容量がバレたら確実に狙われるから気を付けろよ。」
鞄自体は銀貨3枚の価値しかないから盗られてもあんまり・・・いや3万のカバンだと思うと盗られるとムカつくな。
「それでよ、こっちの魔力草も薬草と同じで大体20日でまた採取できるんだよ。・・・それでな、さっきは手伝ってやるって偉そうな事言っといて先輩として情けねえんだけどよ、俺らのパーティと報酬はパーティ割りで採取させてくれねえか?ギンは今日と稼ぎは変わんねえけど、何とか頼めねえか?」
師匠は本当に申し訳なさそうに俺に聞いてくる。理由はよく分からないけど、別に俺は今日だけでも指導員制度最長で払った金額以上の価値があると思っているし、何より師匠は言葉と見た目はチンピラだがかなり良い人だ、そんな人のお願いなら当然納得できるだけの理由があるだろうし、別に金に困ってるわけじゃないので、すぐに頷こうとしたが、さっきの昼飯の話が気に掛った。
確かタダで恵んでもらうのは駄目なんだよな。俺は別に恵んであげるって思ってないけど、師匠はそう考えるかもしれない。
「別に構わないですよ。但し条件があります。師匠も分かっていると思いますけど、俺の住んでた場所はかなりの田舎なんで、魔物の倒し方や街の子供でも知ってる事とか何も知らないんですよ。だから指導員制度が終わってからも偶にでいいんで俺を指導して下さい。稽古をつけてくれるでも、また一緒に依頼付いてきてくれるでも、ああ、師匠たちの依頼の失敗談なんてのも教えてくれるのもアリですね」
師匠から見ると、かなり師匠有利な提案だと思うが異世界召喚された俺からするとこれでもかなり利がある提案をしてみる。師匠は気付くはずはないが、実際俺には金よりも情報が足りない。その情報を集めてもそれが信用に値するか分からないので、少しでも信用できる所から仕入れたい。
「おお!ホントか!そんなんでいいのかマジで助かる、ありがとうな、ギン!」
師匠は本当に嬉しそうに俺にお礼を言ってくるが、俺は気になる事がある。
「師匠、孤児院に場所教えるとすぐにバレて他の冒険者に根こそぎ持って行かれるって言ってたじゃないですか。そう言う事があるなら師匠も俺からあの場所奪えば良いじゃないですか?俺みたいな世間知らずなら口先で騙す事も出来たでしょう?」
俺がそう言うと師匠は首を振った。
「そういう事する奴等は多いけど、俺、ってかパーティのルールで後輩を騙して巻き上げる事はしないって決まってる・・・いや決めたんだよ。俺らも若造の時に散々カモられたからな」
師匠は俺から視線を外し、下を見ながら答えてくれる。この様子だけでもかなり苦労してきたんだろう。
「それは良いルールですね。俺も後輩ができたらそのルール守りますよ。・・・でも師匠ってDランクですよね?薬草採取とかってポイント増えないけどいいんですか?」
ここで採取すればお金は稼げるけどポイントはつかないので、Dランクから上がる事はないけどいいんだろうか。
「ああ、そうだな、ポイントは増えねえけど確実に安全に金は稼げる。Dランクは討伐系の依頼ばっかりだから仕方ねえけど、俺ら昔は採取系依頼をメインにこなしてるパーティだったんだよ。それを馬鹿にしてくる奴らもいたが、そういう奴らは大抵死んだな。ベテランになってよく分かるよ、新人こそ最初は採取依頼をやっておくべきだってな」
しみじみと話す師匠の言葉を俺は黙って聞いている。
「ギン、依頼には採取系、討伐系、特殊系の大体3つに分けられるな。特殊系は護衛依頼とか指名依頼、俺が今やってる指導員なんかだが、まあこいつは別にいいか。討伐系は討伐依頼と討伐納品の2つに分けられる。討伐依頼ってのは、目的の魔物を倒せば達成で、倒した証は依頼受ける時に職員に聞けば教えて貰える。例えばゴブリンだと大体耳が討伐した証になるから、それをギルドに見せればOKだな。残りの魔石とかは倒した奴の物だから依頼達成報酬と魔物の素材の売却なんかで、稼ぎが一番いい。討伐納品はスライムの魔石10個納品みたいな魔物を倒してその部位を納品する依頼だ。討伐納品はその目的の部位だけ納品すれば、討伐依頼と同じで残りはそいつのものだけど、目的の部位は大抵その魔物の一番価値がある部位だから、討伐依頼より稼ぎは良くない。但し、採取系もだけど目的の品を持ってればそれを納品するだけで依頼達成だから物さえ持ってればギルドから出る事無く依頼達成できる場合もある。俺らは結構魔物の魔石を貯めこんでいて、街から出ずに依頼を達成する事も多いな。まあ魔物の素材でほぼ一番価値のある魔石を貯めこめるようになるまで、大変だったけどな。採取系は今日やった薬草と魔力草の採取みたいな依頼だから分かるな。」
話を聞く限りだと魔物を討伐する方が稼ぎがいいみたいだ。ただし魔物を討伐するって事は当然戦闘になるので危険が多そうだ。
「それで討伐系のデメリットだけど、依頼中にポーションを消費したり、武器や防具を駄目にしたりして失敗した時のリスクが高えんだよ。それで無理して巻き返しそうとして、十分な準備、補給もせずに討伐依頼受けて全滅ってのがよくあるパターンだな」
師匠、さらっと全滅って言ってるけど、それ普通によくある事なんだ。俺も気を付けよう。
「その点、採取系は魔物と戦闘になる事が少ない、出会っても逃げればいいしな。かなり安定してるから新人の頃はそればっかりやってるのがいいんだよ。そうやって依頼中に、遭遇して勝てそうな魔物とだけ戦って経験を積んでいきながら、それから討伐系に行けばいいと俺は考えてる。そうするとどういうもんが金になるか覚えてくるだろ、で討伐に失敗しても道中で採取してればすこしは損失カバーできるって訳よ。その代わり稼ぎはあんまり良くないってのがデメリットだな」
すごいな、師匠みたいなベテラン冒険者から言われると何となく納得できるな。俺も金には困ってないし安定をとって採取系メインでこなしていこう。なんて考えていたら、
「新人依頼は仕方ねえが、Dランクに上がるまでは採取依頼だけやってろ。別に魔物と戦うなって言ってるわけじゃないからな。勝てそうなら戦ってもいいぞ、ただヤバいと思ったらすぐに逃げろよ」
師匠に決められてしまった。まあそうするつもりだったからいいんだけど。
師匠の話を聞いてると街道に出たので、街の方向に歩いて行く。街道に出る時はマップで周囲に人がいない事を確認したので、この場所が見つかる可能性は低いだろう。街道に出た所で、ふと思い出した事があるので、師匠に質問してみる。
「師匠、そういえばさっきのスライムの時、手洗うの魔法使ってましたよね?魔法ってかなり使える人少ないって話ですけど」
「はあ~、お前あれが魔法な訳ないだろ・・・うん?って事はギン、お前『生活魔法』使えねえのか?」
「田舎者なんで使えませんよ。」
「いや、田舎者関係ねえだろ。お前の親何考えてんだ、普通喋れるようになったら『生活魔法』覚えさせるだろ」
日本で『生活魔法』っての使えたら大騒ぎになるな。
「ウチの田舎使ってる人誰もいませんでしたよ」
「お前の田舎どんなとこだよ。『生活魔法』ってのは『魔法』ってついてるけど言葉が話せたら誰でも使えるもんだから本来の魔法とはまったく違うな。あっちは生まれ持った才能だからな。んで『生活魔法』ってのは『火』、『水』、『風』、『砂』、『光』、『闇』、『洗浄』の7個だな」
あっ、その中の一つ俺の天敵ですね。鬼ごっこしてる時、アホみたいに唱えて俺に投げつけてきました。
「やって見せるから、詠唱覚えろよ。詠唱覚えるだけで使えるからな」
そういって師匠は7個全て実演してくれたが、俺は少し疑問に思う事がある。
詠唱って必要なのか?『影魔法』って詠唱無しで出来るし、他のスキルも詠唱してないよな?
そう考えた俺は早速詠唱無しで頭の中だけで生活魔法をイメージする。
火・・・・は手の平に火が出る。火を焚く時の種火によく使うらしい。
水・・・・名前の通り水が出来る、喉乾いた時なんかに使えるからこっちを優先して、手持ちの革袋の水は最後までとっておくのが効率的らしい
風・・・・風が出る。スカートが捲れるほど風力は強くない、火起こしの時使うらしい。
砂・・・手から砂が出る。目潰しぐらいには使えそうだ。
光・・・俺の天敵魔法。洞窟なんかで松明代わりに使うと両手が空くので便利
闇・・・手に黒いもやが出る。相手の目に纏わりつかせて目潰しに使うか人が使う『光』を強制的に消せる。
洗浄・・・きれいになる。草臭かった手がこれを使えば匂いが落ちた。他にも体の汚れが落ちてきれいになったけど、風呂に入った時のサッパリ感はない。
思った通り、無詠唱でも使えるな。
「無詠唱!何でいきなり無詠唱で出来てるんだ?やっぱお前どっかおかしいだろ」
俺が詠唱せずに魔法を使うと師匠が酷い事を言ってくる。無詠唱ってやっぱり目立つんだろうか
「師匠の詠唱を頭の中で唱えてたら出来ました。それより無詠唱ってバレると目立ちますか?」
噓です。詠唱の言葉は全く覚えてません。まあ無詠唱で使えるから覚えなくてもいいか。
「そりゃ目立つぞ。無詠唱は街で使える奴なんてあんまり聞いた事ねえな。都に行けば何人かいるって話だけど、まあ無詠唱だからどうしたって言えばどうもしねえんだけど、それでも珍しいもんは珍しいからな」
そうかあ、目立つかあ、それなら人目がある時には使わないようにして、人がいる時にどうしても使う必要がある時は適当にボソボソ言って使えばいいかな。
「あとは魔力量か。これは全ての『生活魔法』を1回ずつ唱えるってのを1セットと数えて大体3~5セットできれば一般的な魔力量って言われてて、10セットできればかなり多い方って言われてる。砂の国だと『水』でどんだけ水が溜めれるかで調べてるって聞いた事あるな。まあ魔力が多くても結局は才能がないと魔法は使えねえけどな」
魔力が多いだけじゃ魔法は使えないのか。そうすると俺は影魔法使えるから才能があったって事か?ついでに影魔法使えるから魔力量も多いのかな?別に使ってて今まで魔力切れっぽい事になった事ないけど・・・そもそも魔力切れってどうなるんだ?
「師匠、魔力切れるとどうなるんですか?」
「魔力切れは、最初は風邪引いた時みたいに全体的に体がだるくなって、そこから更に『魔法』使うと意識が無くなるらしい。俺も意識が無くなるまではやった事ねえな。普通は交代制の『生活魔法』を依頼中ずっと一人で担当してたら魔力切れ起こしてぶっ倒れたってのを聞いた事があるぐらいか。ギンも宿に帰ったら自分がどんだけ魔力あるか調べとけよ。ある程度自分の限界知ってるだけでも依頼に役立つ事あるからな」
そうか、師匠の言う通りなら魔力切れっぽい感じになった事はないなから、帰って魔力量調べよう。