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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
7章 大森林のBランク冒険者
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120話 獣人族の新たな族長

「これで私が今から族長って事で文句はないですね?」


 周囲の見物客は引き攣った顔でコクコクと頷いている中、フィナに挑んだ奴はそこら中で倒れて呻いている。3人程は取り調べでガルラが追撃したのもいるが、概ねフィナの攻撃によるものだ。あの後族長を気絶させたフィナは、ヤクモ村にいた奴を引き擦ってきて取り調べを始めた。そいつはフィナの強さが体に刻み込まれていたので、特に問題なく正直に話してくれた。

 結論から言うとフィナの想像通りで、族長になったダリアスは調子に乗って一族の財産を使い込み、そして勇者召喚が近くなった時には、蓄えがほぼ底を尽き勇者を歓迎する事が出来なくなっていた。獣人にとっても勇者は特別な存在なので、歓迎出来ないとなると族長の座が危ないと考えたダリアスは、ヤクモ村を売った金で勇者を歓迎した。

 更に獣人達へのポーズと情報を遮断する為に森を閉ざしたと言うのが大筋の流れらしい。エルフに回復を頼まなかったのは単純にエルフが嫌いというふざけた理由だった。その話が正しいか3人程ガルラの取り調べを受け、正しい事を確認するとガルラの拳で強制的に眠りにつかされた。酷くね?


そして今、


「それでは族長として命令します。まずは先代ガルバルグをここに連れて来て下さい。そして倒れている人達の治療をお願いします」


 フィナの言葉に見物客は慌てて動き出し、指示を出したフィナは俺達の所に疲れた様子で歩いてくる。


「お疲れだな。フィナ」

「ふい~。本当だよ~疲れた~。あんな偉そうに話すの大変だよ~」


・・・戦いで疲れたんじゃないんだ。


「フィナ~!」

「フィナちゃ~ん!」

「イタタタ!痛い!痛いよ!お姉ちゃん達!ごめん!ごめんなさい!」


 フィナの答えに呆れる俺。そしてすぐに寄って来たレイとヒトミがフィナの頬をつねり上げる。


「痛いな~。二つ名言ったのは謝るけど、あそこはああいう風に言った方が、強く格好良く聞こえるんだって!」


 フィナが謝ったのですぐに二人は頬から手を離すと、フィナが少し頬を膨らませて文句を言ってくる。


「あそこで二つ名言う必要は無いでしょ!」

「フィナちゃん強いんだから言い方なんて関係ないでしょ!」


 レイとヒトミから反論されてタジタジのフィナは、作り笑いでまあまあとか言って宥めている。あれが獣人族のトップの姿でいいんだろうか?

 そうしてみんなでフィナとじゃれ合っていると、手足を1本ずつ失った獣人が不安そうな顔をした女の人に支えられながら歩いて近づいてきた。後ろに小さい獣人が同じような表情でついてきているので、多分この人の奥さんと子供達だろう。


「バルグ・・・」

「リーグか。久しぶりだな」

「お、お前、何でこんな姿に・・・」


 手足を失った獣人を見て村長が声を掛けと向こうも村長に気付いたようで挨拶を返してくる。元村長と元族長だから知り合いなのは分かるが、それ以上に親しい感じがするのは気のせいだろうか。


「ああ、族長の座を奪われた時に一緒に奪われた。まあ今では慣れたもんだ」

「なあ、あの噂は本当なのか?」

「お前が聞いたのはどんな噂か知らんが、俺はガルダリアスと1対1で戦って負けた。それが事実だ」


 噂って何の事だろ。気になるけど、完全部外者の俺が聞いても答えてもらえないだろうから遠慮しておくか。


「その前に何人が挑んできた?父から聞いたぞ。連続で族長の座を挑まれて疲れ果てた所で、そいつに負けたと」


ガルラは俺の遠慮なんて気にせず、いまだに気絶している元族長を指差しながら直球でバルグに尋ねる。いや~それが本当ならこの元族長救いようがないな。


「セクターめ。余計な事を・・・」


 今は亡きガルラの父親に呟くように文句を言ってから黙り込むバルグ。この人あんまり多くを話さないタイプだな。


「ホントに、根っからの屑ですね。これなら私も心置きなく決断できます」


 話を聞いてダリアスを冷たい目で見降ろしているフィナの手には、俺達が解放した獣人が嵌めていた隷属の首輪があった。


「あ、あの、そ、それでバルグに、夫に何の用でしょうか?族長がお呼びとしか聞いていないのですが・・・」


 バルグを支えている女の人が恐る恐る質問してくる。やっぱり思った通りこの人はバルグの奥さんみたいだ。


「おお、そうだった。バルグ!こちらが新族長のガルフィナだ」

「・・・え?い、いや、だってこれお前の娘だろ?・・・は?この状況見ればダリアスが倒されたのは分かるが、やったのはガルラじゃないのか?」


 ドヤ顔でフィナを新族長として紹介する村長と、それを聞いても信じられないバルグ。


「弱い奴と戦ってもつまらん。それに私は族長とか面倒な役をやるつもりはない」

「・・・お、お前こんなのでも族長だぞ。それを弱いって・・・」


 ガルラの言葉に呆れかえるバルグだけど、『こんなの』って・・・因縁ある相手だからそんな言い方になるのも仕方ないか。



「初めまして、ガルバルグさん。新族長のガルフィナです。ここに呼んだのは今から私の代理として獣人を再びまとめて欲しいのです。私は今から族長就任の挨拶でハイエルフ様の所に向かわないといけませんし、その後は勇者様と行動を共にするので滅多にここに帰ってきません。別に特別な事はなく以前のように獣人をまとめてくれるだけでいいです。・・・ああ、ダリアスの作った馬鹿なルールは全て廃止にして下さい。」

「あ、あのガルフィナ様、私を頼ってくれるのは嬉しいのですが、この体だと何かあった時に獣人をまとめ上げる事は出来ません。ですので、代理の話は別の者にお願いします」

「ああ、それなら」


 フィナの申し出を即座に断るバルグの言うその理由もよく理解できるけど、今回ばかりはその理由は通用しない。


「これで問題ないですね。他に何か不安はありますか?」

「お、おお。手が・・・足が・・・」

「あ、あなた・・・」

「「お父さん!」」


 フィナの回復魔法で失った手足を取り戻した事に気付いたバルグ達家族は、抱き合って泣いて喜んでいたが、すぐにバルグが喜ぶのをやめてフィナの前に膝をついて頭を下げると、奥さんや子供もすぐにそれに倣う。


「ガルフィナ様。失った手足を取り戻してくれた事、大変感謝しております。この御恩族長代理としてガルフィナ様の手を煩わせる事無く、しっかりと獣人をまとめ上げる事でお返しとさせて頂きます」

「アハハハハ。別にそこまで畏まらなくていいですよ~。ほら立って立って」


 先程と違いかなり砕けたいつもの調子でバルグ達を立ち上がらせるフィナ。


「えっと。取り合えずガルバルグさんにやって欲しいのは、獣人を以前のようにまとめてもらうのと、後継者の育成かな。獣人の中で族長や村長の素質がありそうな人を見つけて育てて欲しいです。頭が良い人がいたらファル兄に投げておけばいいので、そちらに回して下さい」


ファルの許可も無くそんな勝手に決めていいのか?


・・・・許嫁のガルラもうんうん頷いているからいいみたいだ。




「了解いたしました。この命に代えましても果たして見せます」

「お、重いよ~。もっと軽く考えてくれていいですから、命とか賭けなくていいですからね」


 フィナの言葉に敢えて何も言わないバルグは、その言葉をスルーして言葉を続ける。


「・・・ガルフィナ様、ダリアスと人族の件についてはどうしましょう?」

「そうだな~。ダリアスは事情を説明してから人族に渡して、私達の村を襲った連中を見つけるようにさせましょう。あと、今回の件はダリアスも噛んでいた事ですし、取引場所はもう少し奥まで戻してください。それで人族の手で始末をつけた事を確認したら、以前の場所まで戻すと伝えておけば真面目にやってくれるかな」

「ダリアスはそれが終われば森に帰ってくる事になりますが?」


 バルグの言う通り、ダリアスの奴は全て終われば帰ってくるのだが、フィナの奴どう対処するのかと思ったが、


「ダリアス!お前は今言った通り私達の村を襲った連中を見つけなさい!そして今後50年森に帰ってくる事は許しません!命令です!」


 フィナがそう言うとダリアスの首輪が淡く光る。俺の奴隷であるフィナが奴隷って出来るのか不安だったけど特に問題はないようだ。そしてその命令を聞いたダリアスが慌てて起き上がった。・・・こいつ今まで気絶した振りしていたな。


「ふざけんな!この体で森から出されたら死ねって言ってるも同然じゃねえか!」

「・・・はあ~。これはサービスです。・・・甘いな~私」


 そう言ってため息を吐くフィナが手を向けると次の瞬間ダリアスの体が光り、右腕は切り落とされたままだったけど、失った左手は元に戻っていた。


「甘すぎるな、ホントに」


 フィナの声が聞こえたのか、ガルラも同じ事を言う。後で聞いたら、フィナの村の中で体の一部が欠損した人が50人以上いて、それが約2年森の外で暮らしていた訳だから、当然ダリアスも同じ目に遭うのが普通だそうだ。本当なら50人以上×2年だから最低100年以上は森の外で暮らさないといけない事になるのだけど、フィナはその半分以下で許すと言っているのだ。そりゃあガルラに甘いと言われるな。


「だから!これでも人族の所で暮らすのは無理だ!」


 ここまでサービスされてもまだ納得できないのか抗議してくるダリアス。


「ナグモ村の同族殺しは普通に街で暮らしていたから無理じゃ無いぞ。あと、ここまで甘い処分でまだ文句を言うか?まあ無理だと言うならここで殺してもいいだろう」


 恐ろしい事を言いながらガルラは愛用のこん棒を構えるが、誰も止めに入らない。俺達はこれを止めてもいいのか分からないので動けないだけだ。


「わ、分かった!従う!従うから!」


 ガルラが本気なのを理解したのか慌てて叫んでガルラを止めるダリアス。





「ダリアスの手下達!今私の回復魔法で先代族長の手足が元に戻ったのを見ましたね!これから1年真面目に獣人族の為に働く事。その働きが認められた時には手足は元に戻してあげます」


 ダリアスの件が終わると、ようやく落ち着いて目が覚めてきたダリアスの手下達に向かって、フィナが取引を持ち掛ける。当たり前だが、みんなフィナの言う事に従うみたいだ。


「ああ、そうだ!あとあの太った人は取り合えず痩せさせて下さい。それで・・・・どうしようかな・・・一人前になるぐらいには鍛えればいいかな。今までみたいに甘やかす必要はありません」


 これで吉永の処遇も決まった。まあ、あの体形だと足手まといにしかならないから、しばらくここでダイエットさせるというフィナの言う通りでいいだろ。別に俺達はクラスメイトを集めて回っている訳じゃないしな。




「はあ~。やっと終わった~ごめんなさい。お待たせしました」


 あれから族長代理と村長がフィナの指示に従いダリアスを連れて行った。フィナは二人について行かずに他の人達と今後の打ち合わせをしていたみたいだけど、ようやく終わったみたいで戻ってきた。


「取り合えず今日はここで休んでから明日からハイエルフ様の所に向かって行くって事でいいよね?」


 フィナの提案に特に異論はないのでみんな賛成して家に帰ってその日はそのままゆっくりした。そのフィナは大分お疲れだったみたいで、いつもより早い時間に眠りについた。丁度いいのでガルラに今後の事について色々聞く事にする。


「フィナちゃんってこのまま私達についてきていいのかな?族長って事は王様みたいなものでしょう?」

「別に気にしなくていい。獣人の中で一番強くて賢い奴が族長なんだ、誰も文句は言わんさ。それに族長代理を決めてあるから大きな混乱も起きないだろう」

「賢いってフィナ別に賢さ勝負してなかったわよね?」


 俺も思い浮かんだ疑問を水谷が変わりに聞いてくれた。まあ、フィナの頭の良さならダリアスにも余裕で勝ってただろうけど


「『魔法が使える』それだけで獣人の中では頭がいいと認められる。ダリアスも使えただろ?だから賢さ勝負は互角って事だ」


 ええ~、そんな雑な決め方でいいのか?獣人族で簡単な数学のテストしたらフィナの頭の良さは抜き出ている事が分かるんだろうけど、まあそこまでする必要もないか。


「フィナは族長になったから、これから大森林深部に行ってハイエルフ様に挨拶するんでしょ?私達もついて行って大丈夫なの?怒られない?」

「さあ?今まで人族は誰も足を踏み入れてないからな。そもそもイクモ村まで入って来たのも主達が最初だと思うぞ」

「ええ!そんな大事な事最初に言っておいてくれよ。っていうかここまで来て今更だけど俺達ここにいていいのか?」


 レイの質問の答えに俺は驚いてしまう。そう言えばシクモ村の連中は明らかに敵意むき出しだったけど、イクモ村の獣人は何か困惑してたな。


「族長が大事な家族と言ったんだ。誰も手を出さんし、文句も言わんだろう。まあ初めて人族を見た奴等も多いから興味津々って感じだったがな」


・・・そ、そうか?どっちかって言うと、人族は村から追い出したいけど、族長が家族って言ったから扱いに困るな~って感じだったような。


 それからもしばらくガルラと話をしたが、結局フィナは好きなようにさせればいいと言う結論になり、ハイエルフには俺たちも一緒に会いに行くって事になった。





「それじゃあ、後は宜しくお願いします。ガルバルグさんは族長代理ですから、言う事はしっかり聞いて下さいね。私のやり方に不満があれば・・・そうですね年に一度は帰ってきますから苦情はその時に聞く事にしますと各村に伝えて下さい。急ぎで私に連絡が欲しい場合は族長代理に言って下さい。私の主の勇者様と『念話』を接続しているのですぐに私に伝わります」


 そうなのだ。ダリアスを連れていく前にフィナからお願いされて族長代理と俺は『念話』を接続した。まあ、よっぽどの事でもない限り連絡して来るなと言ってあるので大丈夫だろう。フィナの親父も俺も接続しろと言ってきたが、断ってやった。接続すると、毎日フィナと話をさせろとか言ってきそうだし。


「それでは」


 フィナはそう言って集まった村人に頭を下げてから森の奥に足を進める。俺達もフィナの後に続いて大森林の深部に足を踏み入れた。


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