118話 イクモ村へ
「みんな。私と一緒にイクモ村について来て下さい」
朝起きてフィナの様子を見に行くと、辛そうに体を起こしながら、俺達に頭を下げて言ってきた
「ど、どうしたの?フィナ?取り合えず辛いなら寝ながらでいいから」
そう言って少し慌てた様子でレイがフィナを支えて布団に寝かせる。ついでに回復魔法も使ったみたいでフィナの体が輝いた。
「レイお姉ちゃん、これは魔力切れの後遺症みたいだから大丈夫だよ。・・・それで昨日から考えていたんだけど、村が襲われた事について不審な点が多すぎるの。だから直接族長に聞きに行こうかと思って。それにお兄ちゃん達にも良い事があるの!恐らく私は族長になると思う、族長になるとハイエルフ様へ挨拶に行けるから、お兄ちゃん達も堂々と会いにいけるよ」
フィナが横になりながら、いきなりぶっ飛んだ事を言い出した。何でいきなり族長になる?
「フィナちゃん。いきなり何言ってるんだい?」
「お父さん、村が襲われたのは・・・多分族長が絡んでいると思う。証拠はないけど、これから直接族長に会ってみればはっきりすると思う。それに村長交代したから、その挨拶には行かないと駄目でしょう」
フィナの言葉に村長は何も言わなかった。フィナの言う通り新村長は族長に挨拶に行くのは決まっているようだ。ただフィナの話だと恐らくその時喧嘩を売るんだと思うけど・・・・まあ親父である村長を圧倒したフィナの強さなら大丈夫かな。ヤバそうなら俺達も手伝えば何とかなるだろ。
「おはようございます。皆さん」
そうしていると、突然ノックもなく村長の家の扉が開いて、ファルが元気に挨拶をして入って来た。後ろにはガルラもついて来ている。
「ぎ、ギンさん!ガルラから聞いたけど、何か変わった道具を一杯持っていると聞いたんだけど、見せてくれないか?」
入ってくるなり、興奮した様子のファルが俺に詰め寄ってきた。いきなり鼻息荒く期待を込めた目で見て来られても戸惑ってしまう。
「主殿、すまない。昨日うっかり口を滑らしてしまった。こいつに家の中を見せてやってほしい。」
どう言う事だと思いガルラに視線を向けると、そう言う事らしい。答えたガルラの尻尾にファルの尻尾が絡みつく。今日は昨日と違い拒否しないのか、それとも油断していただけなのか、ガルラはハッとした表情になったのは一瞬で、その後は顔を赤くして俯いてしまった。
「へえ~、あのガルがね~」
レイ達がニヤニヤしながらその光景を見ているもんだから、ガルラは更に顔を赤くする。俺はその光景を見ながらもガルラに言われた通り扉を出す。
「うわあ!すごいこの扉、鍵がこんな所についている。ふむ・・・さっぱり分からん」
ファルの奴、最初の扉からすごい食いつきだ。家の中に入ってもそれは変らず、目につくもの全て興味を示し、それの用途や原理等詳しく聞かれた。まあ、原理とかは詳しくないから分からんと言っておいたが。
「いや~面白い物をいっぱい見せて貰ってありがとうございます。更に教えて頂いた魔道具の改良方法なんて目から鱗でしたよ。ただ、実際にそれに似た物を目に出来たので必ず完成させてみせます」
「疲れた~」
「すまんな。主殿」
結局ファルが満足するのに夕方までかかった。今日はフィナの回復待ちで時間は十分あったから問題はない。疲れたけどいい暇つぶしになった。
「それで?明日からイクモ村に向かうのよね?誰が行くの?」
村長の家で夕食をご馳走になった所で、水谷が明日の予定を聞いてくる。
「フィナちゃんと俺は報告しないとだから行く必要がある。ガルラは行くって言っていたよな。ファルはどうする?」
村長とフィナは交代の挨拶で行く事は確定だ。そしてフィナが族長になるって聞いたガルラは、
「ダリアス達か。あいつ等とは前に決着はつけたからな。もしかしたら少しはマシになっているかもしれんから行くだけ行くか」
と言っていたので、ついていくらしい。ファルはどうするんだろうか。
「僕はここに残ってるよ。ついて行っても足手まといにしかならないからね。それに今日は良い物をいっぱい見せてもらったから、色々試したい事も出来た」
ファルは獣人族の中でも最弱と言っていい強さらしいけど、色々な魔道具を作れるぐらいだから、頭の良さは獣人族の中でも飛びぬけていて有名だそうだ。そうして明日の予定を簡単に決めた後はすぐに解散となった。
「ねえ、ガルちゃんとフィナちゃんどうするつもり?」
もう後は寝るだけとなった時にヒトミが聞いてきた。隣のレイも気になるんだろう真剣な目をしている。俺としては二人ともついてきて欲しいけど、好きなようにさせてあげたいって気持ちも強い。
「あの様子だとついてくるつもりみたいだけど、どうなるか・・・特にフィナは族長になるって言ってるからな。森から出れるのかは疑問だな。最悪フィナだけここに残るかもしれないな」
「だよね。それも考えないとだね。でもフィナちゃんと離れたくないな~」
「まあ、いまここで3人で話していても結局なるようにしかならないか。その時考えましょ」
レイの言う事はもっともだが、ある程度気持ちの準備も必要だと思うんだけど。
翌日
「うん。もう大丈夫。ご心配おかけしました」
家の外で柔軟体操をしているフィナ。昨日も実家でゆっくりしたから体調は大丈夫みたいだ。そしてファルと一緒に実家に帰っていたガルラが、今日は一人でこちらにやってきた。
「待たせたな。私が最後か」
と言う事で全員が揃った所で、ガルラはすぐにレイ達から昨日の事を、また根掘り葉掘り聞かれて顔を真っ赤にしている。
「ちょ、ちょっと、ま、待って、早いわよ」
移動を開始してしばらくすると、息を切らせながら追い付いてきた水谷に止められる。やっぱり訓練の差だろうか。水谷以外俺達は誰も疲れた様子は見せない中、
「ハァ、ハァ、俺は平気だが、この嬢ちゃんの言う事も最もだ。少しゆっくり行こう。そんなに慌てなくても逃げはしない」
これまた息を切らした村長が全然平気じゃなさそうな声で提案してくる。フィナやガルラは息を切らした二人を見て少し呆れ顔だ。
いつものように俺の移動にガルラとフィナは余裕でついてこれるし、レイもなんちゃって『身体強化』で普通について来れる。ヒトミはなんちゃって『身体強化』使うと森が燃えるから、一人家で留守番だ。水谷はまだまだ訓練が足りないから、もう少し鍛える必要がある。そして村長、何故ついてこれない?
「よし、ここからは俺が先頭だ。みんな遅れずについてこいよ」
休憩が終わると何故か村長が先頭を走ると言い出した。まあいいけど・・・そしていつもより遅いペースで移動し、疲れが出てきた所でようやく次のシクモ村についた。
「どうも、初めまして。この度ヤクモ村の新村長に就任しましたガルフィナです。これより先代と共に族長に挨拶に向かう所です。ついでと言っては何ですが、こちらの村長にご挨拶をと思い立ち寄らせてもらいました」
村の入口には当然見張りがいて、俺達を警戒するように構えていたが、フィナ達が近づいて挨拶をすると、若干警戒が緩んだ。
「それにしてもフィナのあの口調どこで覚えたんだ?」
村長になってからフィナが、かなり大人の態度や言葉で話すようになって少し違和感を感じる。
「ああ、あれ、ヒトミの本とギンジや私の持ってる漫画に出てくるキャラの真似だって、『一応村長だからこういう感じで話せば偉そうに、強そうに見えるかなあ?』って言ってたわよ」
村長はそんな事まで気にしないといけないとは大変だなあ。
フィナの言葉に門番二人は顔を見合わせた後、一人が村の奥に走って向かって行った。この村の村長に報告に行ったんだろう。しばらく待つと、大勢の獣人が歩いてこちらに向かってやってきた。どれも見た目は強そうな連中で、連中の雰囲気からあまり歓迎されているとは思えない。
「久しぶりだな。ガルオリーグ。なんか村長の就任の挨拶とか聞いたが?」
「その通りだ、ゼント。俺の娘ガルフィナがこの度ヤクモ村の新しい村長になった」
「・・・・ブハハハ。まさかお前娘に負けたのか?お前の娘まだ成人もしてないだろ?そんな小娘に負けるとは情けない奴だ」
村長と話して大笑いするシクモ村の村長ゼント。少し小馬鹿にした嫌な感じがするな。
「お話の所、失礼します。この度ヤクモ村の新村長になりましたガルフィナです」
2人の会話にフィナが割って入る。そのフィナを見るゼントは何か探るような目をしている。
「おう、知ってると思うが、俺の名はガルゼント。昔お前の親父たちと同じ火竜討伐隊に参加していた。・・・・それで?新村長さんよ・・・後ろの人族の奴等は何だ?」
ゼントの野郎、最後俺達の方を見ると殺気を放ってきやがった。全員さり気なくいつでも戦えるように準備をしているから問題ないな。
「私の大切な家族で、ハイエルフ様の大事なお客様になります」
ゼントの殺気を完全にスルーしてフィナが答えると、ゼントは再び大声で笑い出した。
「ブハハハ。言うに事欠いてハイエルフ様のお客様だと?おいおい、ガルオリーグお前の娘頭大丈夫か?」
「大丈夫だ。多分ファルでも勝てるかどうか怪しいぐらい賢くなってるぞ」
「ハハハ、お前等一体どうしたんだ?ってまあいい、いい加減その人族は目障りだ。さっさと殺せ!出来ないって言うなら俺達が手伝って・・・・」
殺気をまき散らしながら、こちらに歩いて来ようとした連中の目の前にガルラが立ち塞がった。
「やめておけ、お前等では主殿達に殺されるだけだ」
「ああ?てめえ・・・・・が、ガルラ?!お、お前」
「何を驚いている。別に死んでないぞ。主殿達に助けて貰ってから、今まで他に捕まった奴等を助けて回っていただけだ。まあ私の事はどうでもいい。フィナとの挨拶も済んだな?先を急ぐぞ」
そう言って俺達を庇いながらガルラが先を促す。
「て、てめえ。ガルラ!話は終わってねえぞ。ここは4の村だ!8村のお前等は言う事聞いてもらうぞ」
「何を言っている?まだ村には入っていないから従う義務はない」
ガルラの言う通り、俺達はまだ村の中にまで入っていない。良く分からんがその村に立ち寄れば村長の指示に従わないといけないとかって決まりでもあるんだろう。
「4とか8とかって何の数字だ?」
「各村の名前には数字が入っていてな、ヤクモ村は8,ここシクモ村は4,イクモ村は1だ。今の族長になってから数字が若い村の方が偉いって決められてな。それ以来、数字の若い村の連中がきたらこっちは歓待したり、指示に従わないといけなくなった。逆に俺らが他の村に行くとその村の滞在中は向こうの指示に絶対に従わないといけなくなった」
村長が呆れたように首を振って答えてくれたけど、どうやら村長としてはこのルールに納得していないみいだ。よく考えれば自分の村が獣人族の中で、一番酷い扱いになるから当然か。
「フィナ、先に行ってくれ。こいつらが納得していないみたいだから、黙らせてから追いかける」
村長の説明を聞いている横で、ガルラとシクモ村の連中の会話がどんどん険悪なものになってきた。そしてガルラが大きく溜め息を吐いて、こちらに振り向くとフィナに指示をだす。
「ほら、言い争うのも面倒くさいからかかってこい。お前らは武器は何でも使っていいぞ。こっちは素手で相手してやる」
ガルラの指示に従い移動を開始した俺達の後ろで、ガルラがシクモ村の連中を挑発している声が聞こえたと思ったら、怒声や罵声が聞こえてきた。
「つまらん」
30分程進むとムスッとした顔で、ガルラが追い付いてきた。その顔は不完全燃焼だってのはよく分かる。辺りも暗くなってきた事だし、ガルラの機嫌を直す為。今日はここで休む事に決めた。
「マジか・・・あいつフィナちゃんには勝つし・・・ガルラといい勝負してるだと・・・」
夕飯までガルラのストレス解消でフィナと3人で訓練をしていると、村長が驚いていた。